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酔っ払いのためのRPG~ビール祭り編~
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【相談卓】飲めや騒げや
最終発言2016/10/29 22:59:26 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/29 22:42:58
オープニング
●ドイツ風ビール祭り
「プロージット!」
夜の公園では色とりどりのテントが並び、珍しい外国のビールやおつまみを販売している。今日は一年に一度のビール祭り。ドイツの本格的なものではなくて、日本風に外国の良いところを真似した地域のビール祭りである。
皮をむいて食べる柔らかな触感の白ウィンナー。
塩の結晶が付いた少し硬いプレンツェル。
ドイツ最古のウィンナーと呼ばれるブルートヴルスト。
脂っこくなった口をさっぱりさせるザワークラフト。
どれもこれもが異国情緒あふれる料理ばかりだが、出店をよくよく見れば近所の居酒屋も出店しており日本人になじみの深い「モツ煮込み」「焼き鳥」なども販売されている。さらには、地元の牧場で作られた「金賞受賞ハム・ウィンナー」などの商品も店の前で焼かれ、隣の店ではカキとエビまでもが網で焼かれてレモンと一緒に販売されている。
そして、なんといっても目玉はドイツビールである。
ビールの種類によってグラスの形まで変えるこだわりを見せるお国のビールは、一種類一種類大きく味が違う。そのため、自分の味覚に合うビールを探すという楽しみがあるのである。
日本のビールに近い飲みやすい味のピルスナー。
元々黒ビールがあったせいなのか独特の風味があるミュンヒナー。
まろやかで甘味があるへレス。
まろやかな味わいながらドライの飲み口の黒ビール、ドゥンケル。
その他にもさまざまなビールが、店の前に並んだ客たちにふるまわれる。
「うわぁ! 今日は祭りだったか。せっかくだから、飲んでいこうぜ」
仕事に追われていたリンカーたちが、公園へとやってきた。ちょうど空いているテーブルに座り、それぞれが好きな料理や飲み物を購入しにいく。ちなみに、ビールを飲む際にはまずはグラスをレンタルしなければならない。
このレンタルしたグラスは何度でも交換可能で客は帰る際に店にレンタルしたグラスを店に返し、お金を返してもらうというシステムである。そんなビールとグラスとの相性を大事にする祭りで、愚神がいた。
「ふふふ、くつろいでやがるな人間ども」
愚神は、ウィンナーを焼いていた。
焼きまくっていた。
バイトの大学生についたせいで、店でこき使われていたのである。
「さぁ、目にものみせてくれる!」
愚神が菜箸を片手に叫ぶと、テントの奥から悲鳴が上がった。
「きゃー、グラスが空を飛んだわ!!」
キラキラ輝く空のグラスが、宙を舞う。
互いに互いをぶつけ合って、ガラスが割れて、きらきら輝きながら落ちて行った。
「ははははっ! ここのグラスを全部割ってくれる!!」
なお、この愚神はものすごく酒の弱い男についていた。そのため、彼はビールの匂いだけで酔っぱらっていたのである。
解説
・ビール祭りに参加して、愚神および従魔を退治してください。
※リンカーはアルコールでは酔っ払いませんが、このシナリオでは楽しい雰囲気に酔っているのでノンアルコールでも酔っぱらいます。なお、未成年にはアプフェルショーレ(リンゴジュースの炭酸割り)をお出しします。
公園――ビール祭りの会場。比較的広く、夜でも光源も保たれているが酔っ払いばかり。避難誘導には期待できない。中央には客用の椅子やテーブルがあり、それを取り囲むようにたくさんの出店が並んでいる。
飲み物――ドイツビール多数。酒各種あり。
つまみ――ドイツのものが多いが、近所の店の屋台もあるので雑多になんでもある。
従魔
グラス……多数出現。出店の奥から絶えず飛んできて、空中でぶつかり合ったりリンカーたちに向かって飛んで来たりする。破片が空から落ちてくるので、かなり危険。なお、グラスはすべての出店から出現する。一定時間が経つと、自動的に全滅する。
エビ……客の皿から多数出現。びったんびたん跳ね回り、ビールにダイブしようとする。客がこのエビを食べると、びったんびったん跳ね回るようになる。愚神を倒すと元に戻るが、邪魔である。
焼きガキ……多数出現。熱い汁を敵に吹きかけ、熱した殻で体当たりしてくる。リンカーを優先的に狙って、体当たりをする。
白ウィンナー……五体出現。巨大化し、一定時間が経つと皮が裂けて大爆発が起きる。大爆発が起きると白ウィンナーの中身がまき散らされてしまう。
愚神
アルバイトの大学生についている愚神。グラスが全滅すると「さあ、洗い物がなくなったぞ」と菜箸を持ってでてくる。酔っぱらっているので、動くとすぐにアルコールが全身に回って倒れてしまう。
リプレイ
「プロージット!」
とある公園で行われたビール祭り。
飲み物や食べ物を購入したリンカーたちは早速ドリンクで、ドイツ風の乾杯を楽しんだ。
「う……故郷のビールはやっぱりないのよね」
プラヤー・ドゥアンラット(aa4424)は、少しがっかりしながら店主におすすめされたビールに口をつけていた。故郷タイの超メジャービールがあるかもと思ってウロウロし、店の人にも聞いてみたが世界は残酷であった。だが、ビールに口をつけたプラヤーの目は次の瞬間に輝く。
「日本のともちょっと味が違う……。なんだろう、黒糖みたいなコクがあるような気がする。今度、飲み比べ廻りでもいこうかな」
のどごしを追及する日本のビールとも時には氷を入れて楽しむ故郷のビールとも違う、個性あふれる味わいにプラヤーの頬は自然に緩んでいった。しかも、大好物のエビもたんまりとある。
「やっぱり、エビ味噌だよねー」
ぱくり、とエビの頭を口にくわえてチューチューと吸えばば濃厚な海鮮の味わい。それをビールで封じ込める、幸福。
「これぞ、大人の特権!」
ビールを楽しむプラヤーの飲み物を虎視眈々と狙う少年がいた。彼女がエビに噛みつく隙を狙って、M・gottfried(aa4446)はグラスを掴もうとした。
『お酒は大人の飲み物なのに。もー、なんでいきなりお酒のもうとしてるんですか』
パシリ、とミハエルの手の甲をたたいたのはStuG III(aa4446hero001)だ。
「故郷に帰ったようなものなんだから、好きにさせてくれてもいいだろう」
ミハエルは、むっとしながらソーセージにかぶりつく。露店でビールを買おうともしたが当然のごとく売ってもらえず、三号突撃砲が買ってきてくれたアプフェルショーレで肉の油を胃に流し込む。だが、大人ぶりたいミハエルの視線は人たちのビールにくぎ付けだ。
『ウィンナーばかりじゃ、お腹が空きますよね。何か買ってきましょうか?』
「ハクセン・ミット・クヌーデル(じゃがいも二個玉つきメイン料理)とシュヴァインハクセー、あとカウフシュニッチェル!」
「その体に、大人用の量のメイン料理が三つも入るわけないでしょ。私も食べますから。小皿に取り分ければ、いろんな種類の料理が食べられるでしょ」
「そんなの言われなくても、最初からわかってる!!」
うるさい奴だ、とむくれるミハエルの言葉に聞き耳を立てる少年少女たちがいた。
「へー、ハクセン・ミット・クヌーデルってメイン料理なのか。知らないソーセージも色々あるな。折角なら全種類食べてみたいけど」
中城 凱(aa0406)は、聞きなれない料理名に興味津々であった。ウィンナーが間違いなく美味いことは知っているが、異国のものとなると想像の範囲外だ。
『良く食うよな、凱。野菜……ザワークラフトも食べろよ。ビールが飲めないのは残念だが、まぁこの外見では仕方ないか』
ため息をつきながら、ストローをくるくる回す礼野 智美(aa0406hero001)。
「何で、お前酒の味云々言っているんだ」
不思議な奴だなー、と凱もリンゴジュース炭酸割をのむ。
「確か薫、食事の時は甘い飲み物は飲むものじゃないって方針だったような」
『序に、あやかは炭酸少し苦手だろ?』
ここは、友人のために一肌脱ぐかと凱は立ち上がる。
「少し探せば自動販売機とか他のノンアルコールも探せばあるだろうし、買ってくるか」
『待て、智美』
真剣な表情をして、智美は凱を呼び止めた。
『これから、凱にしかできない重要な任務を頼みたいのだがいいだろうか?』
「智美もウーロン茶か?」
『竹馬に乗って、酒を買ってきてくれないだろうか?』
「……」
智美の言葉に、凱は色々な意味で言葉を失った。
『竹馬に乗って身長をごまかせば、凱ならば大人に見えるはずだ。大丈夫、俺が保障するぞ』
「よ……酔ってるのか?」
リンゴジュースで智美が酔っぱらうとは思えなかったが、彼女の言動は酔っ払いのそれだ。支離滅裂で、本人だけは自分が正しいと思い込んでいる。
「まさか、場の雰囲気に酔ったのか?」
まさか、離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)にも同じことが?
恐る恐る凱は、振り返る。
「ウィンナー、商品がないなんて残念だなよね。朝食の準備する時にでも便利だし。あの牧場のハムやウィンナー美味しいんだけどなぁ……」
妹達も大好きなのに、と薫は残念そうだ。
牧場のウィンナーは高いだけあって、味はスーパーで売っているものと比べものにならないほどに良い。スープの出汁にしてもいいし、そのまま味わっても十分にメインのおかずになりうる。
『…お持ち帰りできそうなの優先的に買いますか?』
「だね、明日の朝御飯に温め直すだけでも助かるし」
よかった、と凱は思った。薫とあやかはいつも通りに家庭的なトークをしていてくれている。どうやら二人とも先に飲み物は買っていたらしく、手にはウーロン茶とミネラルウォーターがあった。
「牡蠣やエビもあるんだね。牡蠣は殻つきだとフライパン結構駄目にし易いし手間だし小さい子だと食べ難いし、で家で使うのはもっぱらむき身だから食べるの楽しみかも」
テレビみたいに「ちゅるん」と食べてみたいなー、と薫はつぶやく。
『なら、買に行きましょうか』
あやかも財布を持って立ちあがる――財布?
「いやだな、あやか。それはエビだよ」
そう言って、薫が手にしたのは牡蠣の殻である。
「はい、ダウトー」
凱は、確信する。
薫たちは酔っぱらっている。
「カーッ! うめぇ! おねーさん、おかわり!」
正しい酔っ払い藍那 明斗(aa4534)が、空になったグラスを持ち上げていた。選ぶのが面倒になり、端から端に異国の酒を楽しんでいる明斗だが、どの酒も美味くて幸せである。
『誰がお姉さんだ……。飲みすぎだよ、ミントくん……』
これでおしまいね、とクロセル(aa4534hero001)はお代りをもらいに行ってくれた。つがれた黒ビールを眺めながら、明斗はふっと微笑んで見せた。
「日本は水に困らない国だからなじみがないが、国や時代によってはアルコールは水よりも安全な飲み物として扱われていたこともあるんだねェ。つまり、酒を楽しむってことは文化的な行為なワケさ」
『それ、酒飲みの言い訳じゃないの?』
まったく、と言いつつクロセルの頬はほんのりと赤い。酒を飲んでいたわけではないのだが、この場の雰囲気にあてられたてしまったのかもしれない。
「いやいや、特にビールの歴史は深いぜ。古代エジプト人も飲んでいたっていうし、大航海時代の船に積まれていたのもビールだったていう話でなァ」
滔々と語りだす明斗の話を『はい、はい』と聞いてあげる、クロセル。
いいコンビである。
「……なんなんだこの状況……つうか、前もこんなんなかったっけか?」
ツラナミ(aa1426)はビールを味わいながら、米神をもみほぐしていた。あの時は確か居酒屋で――詳しいことを思い出すのはよそう。
『……あった。ツラ、重体で……私、よって……た……気が、する』
38(aa1426hero001)が、もっていたグラスにひびが入る。詳細は思い出せないが、感情だけは思い出しているのかもしれない。
「……あー……よく分からんが面倒だから思い出すなよ。酔ってんならどうせ面倒くせえに決まってる」
『……面倒じゃ、ない……』
ごくり、と38はリンゴの炭酸割りを飲み干す。
「しっかし、ドイツビールはうまいもんだな。38も一口飲んでみるか?」
『未成年……。私は未成年だよ、ツラ』
38の目は、酔っぱらったついでに誰にでも酒を進めるようになってしまったダメな大人(ツラナミ)に向いていた。
このまま他の未成年たちにまで「坊主たち飲んでいるか!?」なんて、迫り言ったらどうしようか。周りに迷惑をかけてしまうし、ツラナミは未成年に酒を飲ませた罪で逮捕されてしまうかもしれない。いや、それどころか犬養 菜摘(aa4561)や藤林 栞(aa4548)をナンパして、セクハラ野郎として訴えられるかもしれない。そうなったら、ツラナミの養い子に合わせる顔がない。
「サヤ……聞きたくないが、何をやってるんだ?」
いきなりシャドーボクシングを始めてしまった38に、ツラナミは冷や汗をかいていた。周囲の一般客たちは38のキレのあるパンチに、拍手喝采である。
『ツラナミが他のお客さんに迷惑をかけないように……ヤる練習』
目が据わってしまった38は、完全に酔っぱらっていた。しゅ、しゅ、と無言でパンチの練習をしている。だが、酔っ払いとはこんなものである。
「おまえの想像のなかで、俺はなにをやったんだ?」
苦笑いしかできないツラナミの隣では、トリーシャ・C・メンドーサ(aa4635)が疑問符を浮かべながら焼きそばを食べていた。
「あー、いろんな食い物があるな。何これ、シュニッチェル? ヤキソバ? どっちも食べなれねえ」
想像した味とは違ったらしくトリーシャは首をひねる。異国の料理を食べるのは楽しいが、味が想像できなければ博打と同じである。
”そうね……でもいくつか知っているものはあるわ。貴族様の食卓に並んでいたものに似ているもの”
懐かしいわ、とBridget・B(aa4635hero001)は頬を緩める。
「ふーん、ならお代りはそれでいいですよな」
トリーシャは立ち上がって、お代りを買いに行こうとする。そのときに彼は見てしまった、屋台の裏側というものを。
「ああん、店主さんよお、この焼きそば、具が全然はいってねーだろ具があ! ポリバケツで材料まぜてるの見たぞ、なんでこれで500円なんだよおかしいだろうがあ!」
チンピラのような勢いで店主に迫るトリーシャだが、店主は親指をぐっと持ち上げるばかりだ。言葉が通じないのかと思ったら「ウチの孫もやってるぜ、そのコスプレ」という答えが返ってきた。どうやら、酔ったコスプレイヤーと思われたらしい。
”まぁ、私たちは本職なのにコスプレだと思われるなんて。ここは、私たちのメイド力を発揮しないといけないようね?”
ブリジットは両手を握るが、その言動がちょっとおかしい。たぶん、彼女も酔っぱらっている。
メイド力ってなんだ、メイド力って。
「な……なんで、休日に。そもそも、なんだよメイド力って」
”私との制約はメイドをすることよ? ほかの人に給仕しなくていいの?”
それを言われると強くは出れない。
トリーシャは、しぶしぶ店の前にあったメニュー表を広げた。
「いらっしゃいませお客様、こちらが本日のメニューになっております、ご注文はお決まりですか?」
「お待ちなさい!」
客なのに接客を始めてしまったトリーシャに、菜摘は仁王立ちになる。
「苦労するわりに売れないジビエを売る山田さんが迷惑してます! お客さんはお客さんらしく、血のソーセージを購入してください!!」
ジビエを狩る者、ジビエを売る者として、店主の山田さんと意気投合した菜摘はトラブルになりそうなトリーシャの行動に口を挟まずにはいられなかった。
「Wildfleisch(野獣の肉)は、ドイツのほうが盛んに食べられてます。鴨肉も食べられるし、Hirschfleisch(鹿肉)、Wildschweinefleisch(猪肉)、Hasenfleisch(兎肉)などが定番ですね。山田さんはそんなジビエを日本でも手軽に楽しめるように、ジビエ焼きそばを提案されました! ……ただ、コストがどうしてもかかってしまいましたが」
具が少ないのは認めた、菜摘。
ジビエは仕入れるルートが限定されたり仕入れられる量や季節が限定されたりするので、商品として売り出すのは結構大変なのだ。むろん、ジビエを狩るほうの菜摘も苦労している。今日も大イノシシを仕留められたのは幸運だったが、血抜きなどの処理が大変だった。そんな苦労をねぎらうように、山田さんは焼いたソーセージを差し出す。
「あっ、これ鹿肉ソーセージ!あたしこれ目がないんですよ!」
「血抜きしっかりしてくれてて助かってるよ!」
ぐっと親指を突き立てる、山田さん。
「む、おいしさの秘密はジビエなの?」
栞は軍手をし、トング片手に生ガキを焼いていた。見た目は、完全にアルバイト中の学生である。
「……ライバルのドイツ料理屋台の秘密をさぐれって言われていたけど、意外な秘密ね。ジビエ、きっと日本料理にはない野性的な味を演出してるに違いないわ」
く、と栞はハンカチを噛む。
オランデーズソースの隠し味のバターやロースト肉のシュヴァイネブラーテンをまかないに出すものに流用させていたという自身で調べた情報がかすむほどの特ダネだ。
「報酬の生ガキ食べ放題のために、もっと情報を集めないとなのね!!」
勤労意欲に燃える栞は「ぬぉぉぉ!」と牡蠣を焼きまくり、いまいち勤労意欲に燃えないトリーシャは内心喜びながら客へと戻った。
”私たちのメイド力を磨くチャンスでしたのに”
「まっとうに怒られたら仕方がないって」
そんなトリーシャに、菜摘はソーセージを差し出す。
「さっきは、ごめんなさい。知り合いの店だったから、菜摘もちょっとヒートアップしてしまいました。よかったら、コレ食べてください」
大好物なんです、と菜摘はトリーシャはソーセージを差し出す。
なんだ可愛いところがあるではないかとトリーシャはソーセージを受け取って、言葉を失った。全体的に赤黒くて……見た目からして美味しそうとはいえない。売っているものなのだからまずくはないのだろうが、間違いなく珍味の部類にはいる料理であろう。
「動物の血入りのソーセージです。動物を余すことなく味わうことができて、おすすめです」
”あら、うれしい。とても、おいしそうよね”
ブリジットにとっては見たことがある料理だったらしく、抵抗なくパクパクと食べている。トリーシャは自分の周りには味方がいないように感じられた。食べたらおいしかったけど、血のソーセージ。
「とりあえず静かに飲みテェ……」
長田・E・勇太(aa4684)は周囲の騒ぎにうんざりしていた。祭りなので仕方はないだろうが、どうにもここは自分たちには賑やかすぎる。しかも、自分が飲めるのは甘ったるい炭酸のジュースだ。
「ちっ……酒じゃねえのカ……」
『煩いとはなんじゃ。酒を飲むでない。戯け!』
碑鏡御前(aa4684hero001)は、勇太を注意しつつも自分はビールを傾けていた。これは大人の特権だから、碑鏡御前は飲んでもよいのである。
「随分と店が多いんだな。こんなところで、愚神がでたら危ないよナ」
広い公園とは、ひしめく屋台が多くてそうは感じない。しかも、今日の客は酔っ払いばかりだ。その酔っ払いの中に自分の仲間たちも含まれているのは、今は考えないことにしよう。
「大丈夫だよ!」
牡蠣の屋台で、ジュージューと牡蠣を焼いていた栞が勇太に話しかける。その表情は溌剌とした年頃の少女らしいものでもあり、リンカーと忍者の責任をおったものでもあった。
「ライバルのドイツ料理店の秘密は、私がなんとかするよ!」
「ミーが……忍者なわけがないだロ」
どうやら栞の目には、あたりを散策する勇太が同業者に見えたらしい。
「普段なら、私の嗅覚が仲間を嗅ぎ分けるはずなのに! 今はどうしてか、牡蠣のいい香りしか嗅ぎ取れないのよね」
「……それだけ近くにいれば、そうだろナ」
たぶん、栞はどんな人間よりも牡蠣の近くにいるであろう。
『牡蠣も美味そうじゃのう。一つ、もらえんかのう?』
「はい、よろこんで!」
碑鏡御前のために、栞は牡蠣をトングでつかみあげる。
そのとき「きゃー、グラスが空を飛んだわ!」という店員の悲鳴が響いた。
客の皿にあったエビも、びったんびったんと跳ねだす。
「ふぎゃ!」
プラヤーは、悲鳴を上げた。食べようとしたエビがいきなり跳ねだして、彼女の顔面を叩いたのである。大好物だから、おいしく食べてあげていたのに。
本当に好きなのに。
「エビさんだからって、許さないんだからね!!」
プラヤーは虫取り網を取り出して、跳ねまくるエビたちを一網打尽にしようともくろむ。取ったエビは、ちゃんと自分の胃袋に収めるつもりだ。
「まいったかー! ははははっ、まるでエビがイナゴのようだ!!
酔っぱらって上機嫌に笑う彼女の近くで、女性客が口を押える。たしかにエビってちょっと虫ぽいかもと思ったら、途端に気持ちが悪くなってしまったのである。たぶん、この女性はもうエビを食べられないだろう。
――さようなら、エビ。
「エビをよこせ。エビだ。とにかくエビを出せ」
がるるる、と故郷のトラを思わせる表情でエビを虎視眈々と狙うプラヤー。彼女から、逃げていくエビたち。そんな珍妙な光景を見た明斗は、席を立つ。
「なんだ乱闘か!? こうしちゃいられねぇ、簡易リングの設置だ!」
『どう見ても異常でしょ……! というか従魔だよ! グラスが降ってきて危ないし、まずは民間人を保護しないと』
クロセルのまっとうな意見は、明斗の耳には入らなかった。
「なになに、邪魔だ迷惑だ? うるへー喧嘩なら場内で受けたらァ! 最初の相手はどこのドイツ人だ! こちらは昨日、アクション映画をみたばかりなんだよ!! その白い面を真っ赤にしてやる」
『意味不明だよ! あと、ミント君が殴ってるのって……』
どうみても、白ウィンナーの従魔である。
「違う。こいつはウォッカを飲みすぎたドイツ人だ!」
『ウォッカは、ロシアだよ!!』
ウォッカを飲んでいたドイツ人男性は、「うっ」と言葉を詰まらせる。最近医者に酒を止められているが、どうしてもウォッカだけは止められないのだ。ドイツ人なのに。だが、止められないものはしかたないじゃないか!! ドイツ人はやけになって、酒を飲み干した。
――こんにちは、健康診断の再検査。
「おい……。どうやらのんびりとはさせてもらえないようだ……」
ミハエルは机の下に避難しながら、食べ残していたご飯をもぐもぐやっていた。成長期には、しっかりとした栄養が不可欠なのである。
『いや、もうちょっと前からグラス飛んでましたってば。ミハエルがあんまり幸せそうな顔してるからわた……』
「さあ! 愚神退治といこうか!」
がちゃん、と食器を地面にたたきつけたミハエルは三号突撃砲とリンクする。
「よく狙い撃て! 世界大戦の時のようにな!」
『ミハエル、あなたまだ生まれてなかったでしょ』
「気持ちの問題をいってるんだ!!」
はははーと笑うミハエルだったが、リンクした今となっては他の人間のその姿は見えない。ガラスから逃げていた映画関係者が、目をこする。今ここに次の作品の主役のイメージにぴったりな子がいたような気がしたが……気のせいだったようである。映画関係者は、そう結論付けた。
――さようなら、銀幕デビュー。
「ソーセージ作るまでにどれだけ手間かかってると思ってるんだ……解体してやる!」
菜摘は、ナイフで白ウィンナーを突き刺した。爆発はしなかったが、パンパンにはいっていた中身が菜摘に降りかかった。
「あつっ……くはないけど、肉汁で全身ビタビタですね」
せっかく猟の仕事から着替えてからきたのに、と菜摘は嘆く。そんな彼女は、飲みに来ていた猟友会の人間に「ありがたやー」と拝まれていた。肉汁で菜摘の服は体に張り付き、男性が見るとトキメキを覚えるような状態になっていたのである。
こんなトキメキ、ばあさんと見合いした時以来じゃ……。
猟友会のご老人たちの寿命が延びた。
――こんにちは、高齢化社会。
”はっ、ほっ、よっ”
グラスの扱いに慣れたブリジットは次々とグラスを捕まえてテーブルに並べていくが、並べる側からグラスは空に再び飛び立ってしまう。
「それ、無駄だよな?」
”ご主人様のものを壊すなど、メイドの端くれにもおけません。一個割れば、割った分だけメイド力が引かれてしまいます”
「引かれるもの……なんだな」
たぶん、酔いがさめたら忘れているだろうメイド力。
なにで、構築されているかは基本的に謎だ。
「メイド力!」
だが、その言葉にときめいた男がいた。キモオタと言われる彼は、給料の半分以上をメイド喫茶につぎ込む業の深い人間であった。だが、メイド力という言葉は彼でも聞いたことがない新しい言葉であった。その意味を突き止めるためにも、明日もメイド喫茶に行かなければ。オタクは、そう決心する。
――さようなら、今月の給料。
牡蠣が、ぶしゅーと熱い汁を栞に吹きかけてくる。持っていたのが軍手とトングだったので、栞は頭からそれをかぶってしまう。
『大丈夫じゃろうか?』
勇太とリンクして、グラスを攻撃していた碑鏡御前は栞を心配する。
「大丈夫だと思ウ」
勇太の云う通りであった。
「私の報酬が! 本気を出さざるを得ません! 忍法! やあーーっ!」
栞が牡蠣に切りかかったが、かきーんと持っていた武器で牡蠣の殻を弾いてしまう。牡蠣は一般人の頭にのっかり、ジュウと五十代男性の貴重な頭髪を焦がした。二十代の時から薄くなり、今まで何万もかけて延命処置をしてきた頭髪だった。そのおかげか、今さっきまでは握りこぶし程度の面積を残せていたのだが。
――さようなら、ヘアケア代。
「……何か最近この手の事件に遭遇している気がする。燻製作りのレジャーとか、依頼帰りの居酒屋とか……」
凱は、達観した目で騒動を見つめていた。ちなみに智美は、未だにちょっとおかしい。あのジュースは実は酒だったのではないかと凱は思い始めていた。
「……怪我人出そうだから、退避して、怪我人いないか確認しようか」
薫の様子は、比較的いつも通りだった。いや、少し前もいつもどおりではあった。牡蠣の殻を財布と言い張っていただけで。
「あのウィンナーが怖いかも……アツアツの中身まき散らされたりしたら被害甚大だし、個数少な目だからまずあれ狙おう。それから危険度が高そうなグラスかな」
凱と薫は、息をひそめて作戦会議を行う。
「一般人に怪我人出たら、対応出来るの僕達だけだからなぁ。酔ってる人多そうだから、地面に飛び散ったガラスも危険だよねぇ……。バトルメディック、今回のメンバーではあやかさんしかいなかったし」
考えるよりも動いた方がいいのかもしれないね、頼もしい薫の言葉。
だが、凱の目は点になる。
「それ……なんだ?」
凱の質問に、智美やあやかは首をかしげる。
『武器以外に見えるのか?』
『武器ですよね』
薫が、最後に力強くうなずく。
「武器です」
「牡蠣の殻だ!」
ぎゃあぎゃあとさわぐ、若者二人組の声を聴いた中年女性が微笑む。自分の息子にもあんなにやんちゃな時期があった。なのに、今はどうして引きこもってしまったのか。……もう我慢の限界だ。帰ったら、焼き牡蠣の殻をぶつけてやる。
――さようなら、息子のニートの日々。
『グラスが本当に邪魔だなぁ。いっそ先に全部壊せばいいんじゃない?』
飛んでくるグラスに飽き飽きしたらしいクロセルの言葉に、明斗は苦笑いする。
「クロセちゃん酔ってる? たぶん弁償になるからやめてくれ
『君に言われちゃうか……冗談だよ』
さっきまでの明斗は、本当にひどかった。
一般人にまでプロレス技をしかけようとしたり、カキに「おでんの役目を取ってるんじゃねーよ」と喧嘩を売りに行ったりしていた。本当にひどかった。一般人に動画とられていたが、あの様子では明斗は気が付いていないだろう。
――こんにちは、いらない方のネット上の人気。
「あー、うるさいと酒も美味くないもんだな」
ツラナミは、机の下に隠れてビールを飲んでいた。特に理由はない。酒があるから、酒を飲んでいるだけである。だが、38はそんな彼を死んだ魚の目で見ていた。
『……』
「いいか、ここはビール祭りなんだよ。ビールを飲まなくてどうするんだ、飲ませろ」
『……』
「……」
無言に耐えきれなくなったツラナミは、共鳴する。38が無言なことも、これで気にならない。周囲が静かになったと思ったら、グラスの雨はいつの間にか止んでいた。
「さあ、洗い物がなくなったぞ」
そんななかで現れたのは、愚神であった。なにをやっていたのか突っ込みたくなるようないでたちだ。どうして、菜箸を持っている。
「あはははは、油断したところを一思いに――きゅう」
愚神は、倒れた。
だれも、なにもやってないにのに倒れた。
たぶん、酒の臭気にやられたのだろう。
「こんにゃろ」
楽しい飲み会を台無しにされた腹いせにツラナミは、愚神に蹴りをいれる。あとは、若い衆に任せることにしよう。
「私が何よりも大好きなエビを愚弄した愚神め……。エビみたいに茹でてあげるべきだよね」
プラヤーの物騒な言葉に、何故か周囲が同意する。
「今日のイノシシみたいに解体して、ウィンナーにするべきですよね」
菜摘が、ふふふと笑ってナイフを構える。
薫はレジ袋を持って、わくわくしていた。明日の朝食にする気なのなのかもしれない。
”お手伝いします“
ブリジットも何故かやる気満々だ。
「牡蠣の恨みは、海よりも深いのだー!」
栞も、トング片手に吼える。
「ど……どうなってるんダ?」
『おそらく、酒で我を失っておるのじゃ』
勇太に碑鏡御前は、うんうんと頷く。
『心配無用じゃ。明日になれば、皆も正気に戻る』
「いや――明日じゃ遅いだロ」
このまま放っておけば「さようなら――愚神と学生の人生」になってしまう。
だからといって、酔っぱらったリンカーたちが話を聞くかどうかもわからない。力技に訴えるのが一番手っ取り早いであろう。
『だいたいツラはいつもいつも無茶するし……無理するし……』
脳内では38は、管をまいていた。
ツラナミに味方いなかった。
「はぁ、無茶するしかなさそうだな」
そういえば、明日は用事があったとツラナミは思い出す。
――さようなら、明日の約束。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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