本部

ハムスターをあなどるな!

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/10/29 16:08

掲示板

オープニング

 ハムスターをご存じだろうか?
 げっ歯類に属するネズミであり、ペットショップで犬猫に比べれば手ごろに購入できる小動物である。犬猫と比べて世話の手間もかからず、子供向きあるいはアパートなどに住む単身者向きのペットのイメージを持つ人間も少なからずいるだろう。
 正義も、ちょっと前までハムスターにそんな印象を抱いていた。

●小動物をなめてませんか?
「なんなんや……あれは?」
 息を切らしながら、正義は商品棚の物陰に隠れていた。場所はハロウィン用の仮装グッツがたっぷりと売られている玩具屋さん。幸いなことに今日は定休日なので、お店の人も客もいない。いや、正義にとっては不幸だったかもしれない。
 正義の視線の先には、ヒグマほどの大きさのゴールデンハムスター。一生懸命に毛づくろいしている姿はかわいらしい。もっとも、体調がヒグマ並みということをのぞけばだが。
「そや、携帯。……もっとるわけないか」
 ポケットに手をいれようとして、そもそもポケットがないことに気が付いた。正義が着ている服は、人形の洋服だ。しかも、足の丈のサイズが合わなくて裾を折っている。
「うわ、こっちに気がつきおった……うわぁぁぁぁ!! ハムスターって、めっちゃ足は速い!!」
 なぜ、正義が人形の洋服を着ているのか。
 なぜ、ゴールデンハムスターと鬼ごっこをしているのか。
 理由は、五時間ほど前までさかのぼる。

●こうしてハムスターは生まれた
『人形の洋服が着れてよかったですぅ』
 小鳥たちは、玩具屋さんで人形の洋服を物色していた。
「ほんと……洋服があるって、幸せのことなんやな」
 正義は、疲れたような顔で遠くを見つめていた。
 朝から愚神と戦っていた正義たちであったが、そのなかで愚神の攻撃を受けて体が縮んでしまったのである。そのため、今の正義の身長は二十センチだ。
 なお、身長は縮んだが服は縮まなかった。
 このままでは、掌サイズの変態が生成されてしまう!
 焦ったHOPE職員は玩具屋さんに駆け込み、縮んだリンカーの保護と洋服さがしを成功させたのである。
 そして、運命の瞬間がやってきた。
「あーん、ミミがいなくなっちゃった!!」
 玩具屋さんの店主の娘――ミクが飼育していたハムスターがいなくなったと職員たちに泣きついた。リンカーと英雄たちの服を提供してもらった手前、店主の娘のことを無碍にはできず職員たちは別室までいき逃げたハムスターを捜索しにいった。
「ふふふふっ、リンカーたちめ。わらわが死んだと思っておるな」
 玩具屋さんの店頭でリンカーたちと同じくお人形サイズになってしまった、愚神が一人。近所の小学生のような恰好をした愚神は、実は今朝方に正義たちと戦った愚神であった。彼は自分と敵の体が縮んでしまうという技を駆使し、リンカーたちの体を縮ませて、ついでに自分は死んだように偽装したのである。本来ならば自分だけ早めに効果が切れるはずなのだが、どうしてなのか未だに体が小さいままだ。ちなみに、このままでは攻撃手段は特にない。
「むむむ、もしやライヴス不足か。不足したなら、奪うが正しい! ちょうど、食料もあることだし。従魔ども、ボクのためにライヴスをたんまり奪ってこい!!」
 愚神の命令によって動き出したのは、ハムスターのヌイグルミであった。

●雑食性という恐怖
 ハムスターは非常に走るのが、好きな動物である。
 俊足でもある。
 一説によると、あの小さな体で人間の歩行より少し早いぐらいの速度で走るらしい。
 また、雑食である。特にゴールデンハムスターは、元々乾燥地帯に住んでいたとせいもあって野菜から昆虫、自分よりも小さな小動物まで食するのである。
 そう、自分よりも小さな動物まで食べるのである。
 頑丈な前歯を柔らかな腹に突き立てて、内臓からわしわし食べるのである。
「いやぁぁぁ!! 」
 正義は、ハムスターに狙われていた。
 走って逃げようにも小さくなった体ではスピードなどでるわけもなく、肉球のついた前足で捕まえられてしまう。小さな奥地から覗くのは、えげつないほどに立派な前歯。
「まってっ! ちょっ、髪はあかん。髪はむしったら、あかん!!」
 ハムスターは正義の体を踏みつけながら、髪をむしり始めた。とがった前歯を器用に使って、むっしむっしと。どうやら、ハムスターのミミはお腹は空いていないらしい。ただ巣づくりの材料が欲しくて、正義の髪をむしっているようだ。
「ボクの……ボクの長い友達がぁ!!」
『正義の髪は、元々短いですよ?』
 正義と同じように小さくなってしまった小鳥は、ケラケラと笑い転げていた。
 なにせ、相手は普通のハムスター。
 所詮は、髪をむしることぐらいしかできないはずだ。
「そうやって、油断していろ! さぁ、世にも恐ろしい従魔ハムスターよ。リンカーたちの狩り、臓物とライヴィスをすすり取るのだー」
 愚神は、四匹の従魔ハムスターを解き放つ。
 身体能力は、ゴールデンハムスター。
 噛む力もゴールデンハムスターな彼らは、一目散にそれぞれが好む狭い隙間へと逃げて行った。ちなみにハムスターは、縄張り意識が非常に強く団体行動はとれない動物である。

解説

・英雄と共に人形サイズになって、ハムスターと戦ってください。

・玩具屋さん……ハロウィングッツに埋め尽くされるお店。小さい店内だが、身長二十センチには大きく感じる。東側には男の子用の玩具の車系の玩具が多く、西側には女の子用のお人形の玩具が並ぶ。店の真ん中には男女兼用の知的玩具が並んでいる。昼のために視界は良好。定休日のため、一般人はいない。

・ハムスター(ミミ)……ゴールデンハムスター。店主の娘のペット。リンカーたちの髪や服を巣材だと思って、むしってくるハンター。現在は正義の髪の毛をむしっているが、量が少ないのですぐに飽きると思われる。手当り次第に、むしりまくる。

ハムスター(従魔)……愚神がヌイグルミから作った、従魔。本物のゴールデンハムスターサイズで、基本的な能力もハムスター級。ものすごいスピードで獲物を追いかけるハンター。目はあまりよくないが、鼻がとても良い。そのため、隠れていてもしばらくすると居場所を察知してしまう。頭があまり良くなく、仲間同士で協力して狩りをするということはない。ただひたすら、追いかけるのみ。捕まると、野生の本能からごはんにされてしまう。なお、お尻にヌイグルミとしての名前が書かれたタグがついている。
以下は、名前と行動。
サッチ……最初から出現。見つけた獲物を手当り次第に追いかける。一番スタミナがある。狙われると逃げきるのが困難。
モモタ、シジミ……どれかのおもちゃの影に潜んでおり、近づいてきた獲物に食らいつく。瞬発力はあるがスタミナがない。
田中さん……一定時間経過後に出現。疲労感が見える獲物に優先的に狙いをつけて襲ってくる。

・愚神……リンカーと共に人形サイズになっており、攻撃性能もかなり低下している。ほとんど無害。従魔ハムスターを使って、元のサイズまで戻ろうとする。従魔ハムスター田中さんの上に乗って、共に登場する。この愚神を撃破すると、元のサイズに戻る。

リプレイ

●恐るべき小動物
『う~ん、こっちの服は可愛いけど色がな……ボクの好みじゃないな』
 伊邪那美(aa0127hero001)は山と積まれた人形用の洋服から、自分好みの一着を探していた。女の子がメインの玩具だけあって、女の子用の洋服は非常に種類が豊富であった。
「人形のお洋服着れるのはちょっと嬉しい、ですね」
 大人が着るようなドレスを手に取って、体に当ててみる紫 征四郎(aa0076)は満面の笑みを浮かべていた。体が縮んでしまったときはどうしようと思ったが、こんなふうに自分で自分の着せ替えができるのならば楽しい。
『その服に、その髪型は似合わないぞ。メイクできないのは残念だが、髪を結んでやろう。こっちへ来い』
 ユエリャン・李(aa0076hero002)の言葉に、征四郎はいそいそと彼の前に座る。
『スカートの生地の薄さがちょっと不安ですわね。あら、こっちのは素敵』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)も他の少女たちと同じように、自分の洋服を探すのに一生懸命だ。
「動きやすそうな服は、うーん。なかなか、ないですよね」
 プロの猟師である犬養 菜摘(aa4561)は、人形の衣服に若干不安げだ。そもそも着せ替え人形の洋服など、動きやすさを目指しては作ってはいない。だが、男性のものではさすがに丈があまる。
『ウホ、ウホウホウホ』
 ホモ・ハビリス(aa4561hero001)は、男性用水着を身に着けてご機嫌だ。
『着物はないの?』
「子供の人形の洋服よ。着物なんて、着付けが面倒なものはないわよ」
 着物を探す音野寄 朔(aa4485hero001)に、ロングスカートをぽいっと投げる霰屋 知春(aa4485)。あらあら、と困る朔に声をかける少女が一人。
「その色、朔さんの髪によく合うと思うです」
 可愛いです、と想詞 結(aa1461)は控えめに微笑む。一方、ルフェ(aa1461hero001)は『おー』と小さくなった自分に歓喜していた。マジシャンに憧れた男の子は、自分の身に起こったことに興味津々だ。
『あら、私に似合うのを選んでくれたのね。せっかく知春が選んでくれたんだし、これ着ちゃおうかしら』
「……服を選んでいる時間が、もったいなかっただけよ」
 つん、と返してしまう知春であった。
 そんな光景を眺めながら赤城 龍哉(aa0090)は、つぶやく。
「デパートのセールみたいになってるよな」
 人形の洋服を着れる、という女性陣の喜びに龍哉は若干逃げ腰になっていた。服は動きやすいのが一番と思っている龍哉だし、今回にいたっては男性用の衣類は女性用のものと違ってかなり少ない。
「お人形の服着たせーちゃんとイザナミちゃん可愛いなぁ」
『可愛いです』
「リンドウが言うと何だか危ない気がするなぁ……」
 木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)は、女子の着替えに肯定的だ。
 だが、龍哉は思う。
 リュカの恰好に誰か突っ込め、奴はシレっとした顔でミニスカ(セラー服)を着ている。実用性のまったくない薄い布地から覗く、白い太ももの恐怖。せめて、スパッツを着用していることを龍哉は願った。いや、スパッツが人形の衣類にないことは確認済みなのだが。
「はぁ……今日はついてないのです。慣れない相棒だし。裸みられるし……でも、こうしてお人形さんの服着れるのはちょっと嬉しいかもです。ふふっ」
 くるり、と卸 蘿蔔(aa0405)は回ってみる。普段だったら絶対にやらない行動だし、絶対に着ない洋服だが――小さくなってしまったのだからしかたない。うふふ、と蘿蔔は微笑む。
『いや誰もお前のことなんてみてねーだろ。それに服なんてプロジェクターのスイッチ押してもらって幻影まとえば済んだ話なのに』
「……な、なんでそれ早く言ってくれなかったんですか?」
『言ったぞ。人の話を聞けよまったく……でも人形の服いっぺん着てみたかったんだろ?よかったじゃねーか』
 ウォルナット(aa0405hero002)の言葉は、もっともだ。
 蘿蔔は、返す言葉もなかった。
『うん、やっぱりこっちかな。せっかくの機会だから、冒険して普段は着ない色にしてみようっと』
「状況を分かっているのか? 大きさが合えば何でも良いだろう」
 伊邪那美のファッションショーに若干疲れてきた御神 恭也(aa0127)は、ため息をついた。
『はぁ~、これだから恭也は……あっ、こっちを覗いたら死刑だから』
「俺にロリコンの気は無い」
 一連の話を聞いていたウォルナットは、蘿蔔の肩をぽんと叩いた。
『喜べ。おまえの裸に需要はないようだぞ!』
 ウォルナットのあんまりな一言に蘿蔔は、暗い顔をして狼谷・優牙(aa0131)とプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)を抱きしめた。服選びよりも小さくなった現状に喜んでいたプレシアと優牙は目を白黒させる。優牙など、顔を真っ赤にさせて「あわわわ!」となっているのでかわいそうなほどだ。
「だから、俺にロリコンの気はない」
 恭也の声と共に聞こえてきたのは、悲鳴であった。
「ボクの……ボクの長い友達が!」
 正義が、下手をすると彼よりも大きなハムスターに押さえつけられている。そして、むっしむっしと髪をむしられていたのである。
「ハムスターも小さいと可愛いんだけど……大きいのは、ちょっと怖いかも」
 優牙の言葉は、全員の意見であった。
 掌サイズのときは思いっきり可愛がることができるが、自分とそうかわらない大きさになってしまえばもはや獣である。
「あはは、何か映画見たいで楽しいのだー♪  おっきなハムスター♪」
 可愛い、大きい、モフモフだー、とプレシアは上機嫌であった。
『たぶん、優牙より大きいのだー』
「うん、今はそうだろうね……プレシア何処見ていってるの!?」
「もうやだ。恥ずかしい」と優牙は顔をそむける。
「取り敢えずあのマッチョが犠牲……もとい囮になってる隙に近くの物陰に逃げるわよ」
『あら、もう一匹でてきたわよ。モフモフで、可愛いわね』
 朔の言葉を聞いて振り向いてみると、ものすごい勢いでハムスターが走ってくる。
「これじゃハムスターだって怪獣よ! 馬鹿なの!? もう…それよりさっさと共鳴よ。私の綺麗な髪までむしられたら堪らないわ!」
 直接モフモフしたいー、という朔の意見は却下された。
「ハムスターといえどあれだけの巨大さなら熊と大差ありません。あれも雑食ですし……」
 現役猟師菜摘の言葉に、優牙はぞっとする。
 熊と一緒といわれると、いっきに恐怖がリアルに伝わってくる。
「おもちゃ屋の間取りは小さくなる前に大方わかっていますが……細かいオモチャの位置まで覚えてませんね。罠をはるには遮蔽物の形や大きさは重要なのに……」
『ウホウホホ』
「なるほど、そっちですね」
『すごいね。会話ができるだよ』
 プレシアの目はキラキラしていた。なにせ優牙たちの耳には、ウホウホとして聞こえないのだ。頭では問題ないと理解していても、違和感がどうしても付きまとう。
『すごいすごい! 小さくなってるよ! これができれば、きっとマジック大会とかで優勝できるよ!』
「それどころじゃないです! このままだと美味しくご飯になってしまうです! ハムスターはかわいいとは思いますが、ハムスターに食べられたいとは思ったことはないです。食べられるのも、目の前の人みたいにムシムシされるのも嫌です。場所はおもちゃ屋さんなのに、とんだホラー展開です!」
 目をきらきらさせるルフェを引っ張って、結は物陰に隠れようとする。だが、安全な場所などあるのだろうか。もしも、結が隠れようとした場所に違うハムスターがいれば「今日のゴハンは私よ」という事態になりかねない。
『あのさぁ、お姉ちゃん。俺、面白いこと思いついたんだけど。あの毛を毟っている奴は少なくとも毛が好きだろうから、馬の人参みたいな感じで毛を吊るせばある程度はそっちに気が行くかも』
「……本当ですかね。とりあえず、試すだけ試してみましょうです」
 そのためにも、なにかモフモフしたものを探さないといけない。
 モフモフしたもの……モフモフしたもの。
 結の視線が、リュカの頭部で止まった。
「お兄さんのこの髪はとっても大事なの! ハムちゃんだってあげられないよ!」
『年齢的にですか』
 ぼそり、と凛道がつぶやいた。三十手前の微妙なお年頃のリュカは、両手でがっちりと髪の毛をガードしている。
「否定はしないけど、そうじゃない!」
『さすがに、俺たちだって人の髪の毛は使わないよね』
「えっ……あ、そうですよね。うん、そうです!」
 たとえ一瞬でも、良い囮になりそうと思ったことを結は隠し通そうと決心した。
「しかし良田さんも、よくよくこの手の依頼に縁があるな」
 そういえば昔は爆乳になっていたような気もする、と龍哉はつぶやく。
『そういう星の下に産まれた方なのでしょうね』
 うんうん、とヴァルトラウテは頷く。
 彼は今後も幾度も困難に陥るでしょう、と占い師のような予言をヴァルトラウテはつぶやいていた。
「どんな星だ、それは。まぁ、今はそれよりもハムスターか」
 龍哉は、自分が逃げる姿をシミレーションする。だが、どうやってもハムスターに追いつかれてムシムシされてしまう。
「……ハムスターの方が上手か」
『ですわねー』
 どうしようか、と龍哉が迷う
『はぁはぁ……あの丸いフォルムにもふもふの毛、そして何より鋭い前歯! ミミちゃんと言うのか、愛らしいな! 実に愛らしいぞ!!』
 すべての人間を裏切る行為に走る者がいた。
 かの人の名は、ユエリャン。両手を広げて、猛獣となったハムスターに向かって突進していく。
「やめるのですユエリャン! いいから鼻血を拭いて大人しく共鳴をするのですよ……!」
『全身で味わう毛が、サイコーであるぞ!』
 ハムスターもユエリャンの長い髪の毛をムシムシできて、とても幸せそうであった。
「ハムスターは、ユエリャンさんの髪の毛に夢中だね。今だよ、結お姉ちゃん」
『うん……髪の毛の犠牲を無駄にはしたくないです』
 結は、ユエリャの髪の毛に夢中なハムスターと頭部によじ登り頭に人形のドレスを括り付けた。名付けて、ニンジンにつられて走る馬作戦である。
「上手くいったでしょうか……って、え? きゃー、ルフェ君! 助けてくださいです!!」
 ハムスターは、結を頭に乗っけたまますごいスピードは走り出した。おそらく、頭の上でゆらゆら揺れる洋服を捕まえようとしているのだろう。
『すごいよ、結お姉ちゃん! その気になれば、火の輪くぐりとかもできるかもしれないよ』
「それをするのは、ライオンです!!」
 止めてくださいです! と結の悲鳴は木霊した。
『じゃあ、輪くぐりだけで我慢するよ』
「それも無理ですぅぅぅ! ハムスターはジャンプはしないのですぅぅぅ!!」
 結を乗せたまま、ハムスターはすごい勢いで走っていく。
『手伝った方がいいんじゃない? それに少しもふもふしたいし……なんなら変わるわよ』
 朔は、ハムスターの頭にのる結を羨ましそうに見ていた。
「な、何で私が手伝わなきゃなんないのよっ。駄目駄目! 乗っても落とされたらどうするのよ?」
『残念ね……』
 至極まっとうなことを知春は言ったつもりだが、朔が顔を曇らせると知春は「う……」と言葉に詰まってしまう。
「乗るんだったったら、動かない別の縫いぐるみよ。ほら、おもちゃの家とかに登って周りにないどうかを見てみましょう」
 知春は、懐かしい人形用の家を見つけてそれに入ってみる。二階建ての人形用のお家は、知春が小さいことに持っていたものと基本の作りは変わらない。
『素敵な家ね。住んでみたいわ』
 朔は、周囲をきょろきょろと見ていた。可愛いベットやテーブルは当然ながら生活環がなく、おしゃれなコテージのようだ。
「そうね。このシリーズのを小さい時は私も集めて……何でもないっ!」
 あらあら、という朔の表情を知春は外を眺めることで振り払う。
「てか、ハムスターって何匹も居るわけ?」
 知春は上から見たのは、隠れて獲物を待つハムスターの姿であった。
「菜摘、近くに別のハムスターがいるわよ!」
 知春の指摘に、菜摘はとっさに武器を弓からナイフに持ち替えた。あの大きさの割に、菜摘は潜んでいるはずのハムスターの気配を感じなかった。息遣いも足音も聞こえない敵に、菜摘は緊張から汗をかく。
「ハムスターの肉球が、足音を消しているんですね。武器が牙だけとはいえ……これは意外と難敵ですね」
「ハムスターって、おっきくなるとすごいんだね。プレシアは怖くないの?」
 優牙は、自分と共鳴したプレシアに尋ねてみる。
『ぜんぜん、かけっことかくれんぼみたいで楽しいよ!』
 とても、元気な声が返ってきた。
 どうやら、プレシアは今の状況を遊園地や映画のアトラクションだと思っているらしい。安全が保障されていれば優牙もそう思えるかもしれないが、残念ながら相手は腹を減らした害獣ハムスターだ。油断していれば、ムシムシされてしまう。
「出てきました! 優牙君は逃げて。この獲物は、菜摘たちがなんとかします」
『ウホウホウホ!』
 菜摘は、意識を英雄に預ける。
 ナイフで、熊並みのハムスターと戦うのならば野生の勘を持っていた方がいい。そう考えてのバトンタッチだった。ハムスターがホモ・ハビリスに襲い掛かり、彼はナイフだけでそれに応戦する。
『ウホ! ウホウホウホ!』
「野生の底力を見せてよね!」
 ホモ・ハビリスとハムスターの戦いを遠くから見ていた知春は、思った。
 ――なんだろう、あの戦いは。
 ハムスターとナイフをもった人間が「ウホウホ」言いながら、戦っている。真剣なのはわかるのだが、遠目からみればかなり面白い光景だ。
『お尻のタグが付いているのは縫いぐるみで、従魔みたいね。なら、本物のハムスターは』
 知春は、そういえば本物のハムスターはどうなっただろうと視線を移す。
「無茶はしたくないって言ったです! 無茶はしなくないって!!」
 結は、涙目になっていた。
 未だに、走るハムスターの頭部にしがみついているせいである。
『ミなんとか。早々に見つかってよかったな。あとは……大人しくなってもらわないと』
 走るハムスターを追いながら、ウォルナットはどうしたものかと考える。とりあえず、ハムスターの止まってもらわないと、結が今にも振り落とされてしまいそうだ。
「ミミちゃんですよ。そうだ、レジにあるものを使いましょう。ペーパークッションとかなら、柔らかいですよね」
 ほら、巣作りに最適ですと蘿蔔は両手いっぱいにペーパークッションをつかんでいた。
『あっ、くるぞ』
「えっ、ミミちゃんちょっとまってー!!」
 ハムスターは、すごい勢いで蘿蔔に突進してきた。
「いやぁぁ、落とされちゃうですぅ!!」
『結お姉ちゃん。前、前!
「ふぎゅう!」
 ハムスターに激突することを避けた蘿蔔の上に落ちてきたのは、結であった。目をくるくると回した彼女は「もうだめですぅ」と呟いている。
『ほら……これを使うといい。いっぱいあるぞ』
 ウォルナットだけが、ハムスターとの心の交流を深めようとしていた。
「……あなた、今私の事見捨てましたよね? それどころか囮にしましたよね?」
『ほんと、ミミに怪我がなくてよかったよな』
 ううう、と恨めしそうに蘿蔔はウォルナットをにらんだ。
『ん? なんだか、あちらから銃声がしたような』
「そんなことより、結さんに手をかしてあげてください!」

●小動物とミニスカート
「溝鼠じゃないだけマシだろうな……少なくとも疫病になる率は低そうだ」
『可愛いんだけど、ボク達を見る目が怖いよ』
 恭也と伊邪那美は、スナイパーライフル片手に車に立てこもっていた。頑丈なおもちゃであるから、少なくともハムスター従魔の歯で装甲が切断されるようなことはなさそうだ。それにしても、敵がハムスターとは思ったよりやっかいだ。
 素早く動く上に、物陰に隠れられてしまうと気配を探すのも難しい。今もハムスターは身を隠していたが、どこから飛び出てくるかがわからない。
「流石に此処なら、食い破るのに時間が掛かるな」
『ねえ、これを動かして皆の手助けをしようよ』
 にんまりと笑う伊邪那美に、恭也はため息をついた。
「……大きな勘違いをしている様だが、こいつは乗り込んでも操作は出来んぞ」
『えー、ハンドルあるのに!』
 それは、飾りだろう。
 少なくとも恭也が見た限りでは、この玩具はそんなに複雑な作りをしていない。
「あそこにいるのは、恭ちゃんたちだよね。おーい!」
 リュカの声が聞こえ、恭也は顔を上げる。仲間と合流することは、恭也たちにとってはありがたい。なにせ、従魔ハムスターは籠城戦に追いつ詰められるほどに手ごわいのだ。
『うわー、あれいいな。かっこいいよ!!』
 伊邪那美は、目を輝かせながらリュカを見ていた。リュカは、ラジコンの戦車の上に立っていた。伊邪那美たちとは違い、あのおもちゃは中には乗り込めないタイプなのだろう。だが、恭也は目をそらした。
 ラジコンは問題なかった――ラジコンは。
『マスター。本当に、この服しかなかったのでしょうか?』
 リュカと共鳴した凛道の目は、死んでいた。
「えー。動きやすいし、我ながらナイスなチョイスだと思うよ」
『……本当に、そう思っているんですか』
 ミニスカのセラー服を着ることになったら、大抵の男はそういう顔になるだろう。しかも、動くラジコンの風を受けて、短いスカートの裾がたなびいている。着るなとまでは言わないから、あのスカートの丈をあと三十センチぐらい伸ばしてもらえないだろうか。
 恭也は、心の底からそう思った。
『こっちにももふもふがいっぱいであるな!』
 リュカと一緒に戦車に乗っていたユエリャンは、はうきうきしていた。人形の洋服を着たり、征四郎の髪をいじれたり、ハムスターをもふれたり――本日はユエリャンにとっての吉日であった。隣で、凛道に『ユエさんはもう少し年齢相応の衣裳を選んでは』とか言われても気にならないぐらいに、ユエリャンは上機嫌であった。
「あれだけやられて懲りてないんですね……。でもあれらは恐らく――」
 従魔です、と征四郎はつぶやく。
「縫い目があるって事はつまり……糸を引き千切ってバラせば中身をぶちまけるてもいいってことだな。出てくるのは、多分綿だが」
 ラジコンに同乗していた龍哉は、人が悪そうな顔で笑った。
『きみ、それはさすがに残酷すぎるぞ。せっかくのモフモフなのに』
『従魔とわかっているとはいえ、あれだけ愛くるしい動物の腹を裂くだなんて……かなりの勇気が必要ですわ』
 ユエリャンとヴァルトラウテは、縫いぐるみ引き裂き案に否定的であった。
『ハムスターが飛び出してきたところでロストモーメントを使用しますから、龍哉さんは援護をお願いしますね』
 凛道はやる気を出していたが、龍哉は首を振った。
「いいや、おまえはもっと強い敵……愚神とかが出てきたときに備えて待機してろ」
 龍哉は言えなかった。
 凛道が激しく動けば、スカートの中身がぽろりしそうで怖かったとは。
「こっちが囮になる。援護を頼むぞ」
 恭也が車のなかから飛びでると、近くにあったおもちゃを蹴とばした。飛び出てきたハムスターの背に恭也は飛び乗ろうとする。
「そら、俺のほうが美味そうだろう」
『ハムちゃーん。龍哉は赤身のお肉だから、さっぱりして美味しいですわ』
 龍哉が、ハムスターの前に躍り出る。
 ヴァルトラウテの言葉に、食われてたまるものかと龍哉は内心舌を出す。だが、ハムスターは無機質な目で龍哉ばかりを見ている。それだけで、龍哉たちの勝ちは確定していた。
 なぜならば、龍哉はとても美味しそうな囮のお肉だからである。
「往生際ってものを知るこったな。あばよ!」
 おかげで、恭也は気が付かれることなく背に乗ることができた。
「伊邪那美、未来のタヌキ型のロボットの気持ちが分かった。……家でハムスターを飼うのは禁止だ」
『いや、可愛いとは思うけど鼠って聞いたら飼おうって気持ちは萎えちゃうんだけど。あと、あのロボットは猫型だから』
 伊邪那美の呟きと共に、恭也はハムスターに剣を突き立てた。
『終わったようだな。ならば、次は桃猫ちゃんの尻尾ももふもふしたいであるぞ』
「コトリは逃げるのです……!」
 ユエリャンは、ハンターの目をしていたという。

●愚神よ、ハムスターと共に散れ
「うわぁ、誰か助けて!」
 優牙は逃げ惑っていた。
 愚神が乗ったハムスターと鉢合わせしてしまい、それからずっと追い回されている。武器はメルカバに持ち替えてはいるが、ハムスターが止まって狙いを定めさる暇をくれない。
「優牙君、大丈夫ですか? 早くこっちへ」
 菜摘は少し離れた位置から、愚神を弓で狙っていた。
「菜摘さん、助かりましたぁ」
 優牙がほっとしたのも束の間、自分の体が浮かび上がるのを感じた。愚神の乗せたハムスターは、優牙を咥えて持ち上げる。
「えっ?」
「さて、このガキからライヴスを吸い取ってくれる!」
 その時、ハムスターの頭を打ちぬく者がいた。
『あいつ生きてやがった!!』
「いけない……今度こそ消さねば」
 蘿蔔とウォルナットであった。
「早く私たちを元に戻すです!」
『ついでに、こうする方法を教えて!』
 結とルフェも、後方から攻撃を放つ。
「肉壁になれそうな前衛が少ないわね……ああ、もう。早く来なさい、馬鹿!!」
 知春の叫びに、朔が微笑んだ。
『大丈夫よ。間に合ってくれたみたい』
 愚神の前に現れたのは、戦車であった。
 正確には、戦車に乗るリンカーたちだ。
『ハムスターは大変かわいらしかったが、やはり従魔はいただけんな。足止めは、吾輩が』
 ユエリャンがイグミスを取出し、その炎が従魔ハムスターを燃やしていった。愚神は、暴れる従魔から落ちてしまった。
『人形ごっこは、御終いにしましょうか』
 ミニスカートの恨み、とでも言いたげに凛道のレプリケイショットが発動する。その反動か風がなびき――短いスカートの裾がちらりと舞い上がった。
 なぜか、硬直する周囲の男性陣。
 位置的に何も見えてはいなかった優牙が、銃を構える。
「よくもっ。小さくして恥ずかしくて、怖い目に!! 許さないです!」
 優牙の弾丸が、愚神の眉間を貫く。
 ぐらり、と優牙は眩暈を感じた。自分の体が急速に大きく――いいや、元の大きさに戻っているのだ。きっとプレシアも安心しているに違いない。そう思っていた優牙の耳に聞こえてきたのは、プレシアの元気な声。
『僕、わかった。小さいのは、時間が経つと大きく育つんだよね。早く凛道君みたいになれるといいねー』
 なぜ、そこで凛道の名が出てきたのだろうか。
 そして、なぜプレシアは優牙の腰あたりに話しかけるのだろうか。
 答えは、たぶん凛道の周囲にいた人々しか知らない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    ウォルナットaa0405hero002
    英雄|15才|?|シャド
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • エージェント
    霰屋 知春aa4485
    人間|18才|女性|回避
  • 天儀の英雄
    音野寄 朔aa4485hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • エージェント
    犬養 菜摘aa4561
    人間|22才|女性|命中
  • エージェント
    ホモ・ハビリスaa4561hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る