本部

自業賛歌

玲瓏

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/10/17 21:09

掲示板

オープニング


 ――気色悪い。あんなの、いじめられて当然よ。
 私の、最愛の親友がそういった時ほど心が痛んだ事はなかった。その矢は私に向けて飛ばされたのではなく、明確な悪意を持って彼に飛ばされていた。
 名前も知らない彼。その人は顔にコンプレックスを抱えていた。皆がその事でからかうせいで、いつしか学校に来る事すら無くなっていた。その間学校で配られたプリントを届けに向かっていたのは私だった。
 図書委員でもあった私は気に入った本等も貸してあげていて、その内に仲良くなっていった。
 ……確かに、最初はちょっと気味が悪いなと思う事もあった事は告白する。でもこうして仲良くなると、普通の人と同じというよりも、普通の人以上に面白味があって、話していて楽しかった。一週間たつと、彼は親友の仲間入りになった。
「明日、待ってるね。テストなんだ」
「ありがとう。でもクラスの皆とは、話せないよ」
 それでもいいと言って、翌日を迎えた。
 彼は顔を、頭全体を包帯で囲ってその上に帽子を被る。そういった格好で登校していた。
「なんだよあいつ、気持ち悪い」
「こっちに来ないでよ。呪われたくないし」
 学校の制服をしっかりと着こなして、帽子を被っている所だけは一般生徒だった。私もこの姿に呆気にとられていた。悪意を持つ感情は湧かなかったが、一種の恐怖を感じていた。なんだか、昨日までの彼とは違う気がした。
 その予感は大きく当たるんだった。
 不登校が終わり毎日学校に来るようになった彼は、先生達からも腫物扱いだった。生徒達からは、私が見ていられない程の仕打ちを受けていた。私は毎日彼の家に向かっているが、家に帰ると包帯を外して、いつもの笑顔に戻って「大丈夫だよ」と言う。
 私に安心感が宿る事はなかった。
 事件が発生し始めてから、不安な心は募り始める。物騒な事件が起き始めた。
 自分のクラスから死人が出た。不良だった。不良なだけではない、彼を苛めていた内の一人だ。彼の死が伝えられたのは朝会だった。私は彼を見たが、包帯で隠れた顔の下にどんな表情があったのか分からなかった。
 それからは一週間に一人ずつだった。必ず誰かが死んでいて、必ず死者は彼を苛めていた。誰もが気付き始めていた。事件の発端が誰なのか。
 嫌な計画が立てられている、そんな噂を聞いた。彼を殺す事で呪いを止めるというのだ。非常に感情的で、救いがない。私は口を大きくしてやめてと言いたかったが、その声は外に出なかった。
 計画が実行に移された事を私は気付かなかったが、どうやら彼は五階のベランダから地面に突き落とされたらしい。次の授業は体育で私は女子更衣室で体操着に着替えていたが、脱ぎかけの制服を元に戻して保健室へ向かった。
「大丈夫?!」
「川合(かわい)さん……。大丈夫。まだ生きてるみたいだから」
 相変わらずの包帯顔だった。保健の先生は奇跡的だと言った。高いところから突き落とされて普通なら死んでいるが、目立った外傷はない。
「川合さん、お願いがあるんだ」
「どうしたの?」
「明日は学校に来ないでほしい。来ちゃだめだよ、絶対に」
「えっ……と?」
 包帯の向こう側に、いつもの笑みが見えた。
 言い様もない変な感覚を心にしまって、私は夜も眠れなかった。胸騒ぎ、この言葉を最初に作ったのは誰だろう。小説でよく見かける文で、私は文字通り胸が騒いだ。何か、起こるのだ。だから彼は学校に来てはいけないといった。
 でもそれはできないよ。私には親友がもう一人いる。その親友とは幼馴染で、とても仲が良い。彼の事を気色わるいと表現してしまったが、それは親友の悪い癖なのだ。本当は良いところがたくさんある。今から親友に、明日は学校にいかないでと連絡する?
 いつもの悪い癖で、私は頭がおかしいと言われるのが目に見えた。
 そして翌日を迎えた。全然眠れなかった。その割には体調は悪くない。学校を休む理由はどこにも見当たらない。体温計も正常値。
 私は……学校に行く事にした。


 日にちは早いが、坂山は体調を万全にしてオペレーターの椅子に戻っていた。回転する椅子を左右に揺らして懐かしむ。だがこの席に座るという事は、いつ仕事がきてもおかしくないという事。懐かしむ時間はあっという間に過ぎていった。
「坂山、大変だ」
 四足歩行の犬型ロボット、スチャースが机の上に乗った。
「現場はM中学校だ。生徒達が突然狂人になり、パニックに陥っている。まだ死人は出ていないようだが、あの様子だといつ出てもおかしくはない。彼らは武器を持っていないというのが幸いだが、もし武器を手にしたら容赦なく人を殺すだろう」
「大変な事はよくわかったわ。マインドコントロールかしら? 愚神の類?」
「愚神や従魔といった反応は観測できなかった。強いエネルギーを感じ取る事はできたが。坂山、大事件な事にかわりはない。急いでエージェントを招集しなければならない」
「わかったわ。学校絡みの事件となると、放っておけないのよね。にしても、犯人はどこのどいつかしら。思春期真っ盛りの子供を操るなんて最低」
「同感だ」
 坂山はリンカーを招集した後、M中学校に電話をかけてみるも誰も受話器を取らなかった。

解説

●目的
 暴徒化の原因調査と、その排除。現場の鎮圧。

●カレ
 事件の原因。彼は岩谷(いわたに)という一般的な男子生徒で家族もいたが、イエドという英雄と出会い能力を持った。その際の誓約は「怒りを忘れない事」
 岩谷が包帯をした姿こそ共鳴時の姿で、その時に受けたマイナスエネルギーを貯め込んで人々を操れるようになった。
 カレ自身に戦闘能力はないが、マイナスエネルギーを使ってリンカーを寄せ付けないといった受け身の姿勢で攻撃を防ぐ。それで時間を稼いで生徒達が自滅するのを待つ戦法。

●暴徒化
 暴徒化したのはかつて岩谷をからかっていた生徒達のみ。からかわず無視していた生徒や無関係な生徒は暴徒化をしていないが、暴れる生徒に暴行を負わせられ校舎内の全員が被害者となっている。窓は閉められていて、脱出する事ができない。
 暴徒化した生徒は自身の中に潜む抑圧された悪意を全面に解き放った連中で、非人道的な事を行うようになる。力も上昇していて、リンカーを吹き飛ばす腕力を持っている。この状態を解除するにはスキルを使って眠らせるか、意識を奪うか、殺害するかになる。この状態を作り出した長、カレを殺害すると全員の状態が解除される。
 ちなみに、彼らの判定は「一般人」となる。

●学校の状態
 リンカーが学校に到着した際は騒乱状態になっている。学校内は廃墟のように汚れていて、壁が破壊されている。脱ぎ捨てられた服、血を流して倒れている生徒等で足場も悪い。所々床も壊れており、登れない階段も複数ある。そして六階ある学校の全階層に五十人ずつ暴徒化した生徒が暴れている。
 一時避難場所として三階の視聴覚室に生徒や職員は避難している。
 その中にいる川合という女子生徒に岩谷の事について聞けば、今現在彼がいる場所を推測して教えてくれる。

●成功のヒント
 カレが貯める事ができるのはマイナスエネルギーだけではない。

リプレイ

 三年二組 川合 史

 私はこの事件を、ただの事件と片づけたくないから、作文の題材を例の事件としました。
 真実を知る人は少ない。だからこそ。
 誰が悪いとか、そういう問題ではないと思うんです。リンカーのおじさんはこう言ってました。「人を呪わば穴二つ」私も、それ以外に真っ当な表現は見つかりませんでした。
 あの日私はいつも通り学校に登校しました。その時に岩谷君は席に座っていませんでした。
 朝のHLを終えた後、事件が起きたのはすぐでした。私のクラスの男子生徒、女子生徒もいたと思います。その半数以上の生徒が突然、白目を剥いて苦しそうにもがき始めました。苦しみ始めたかと思えば、次に男子生徒が女子生徒を倒して、カッターナイフで服を破き始めたのです。
「何が起きたんだ」
 私の所にも生徒が近づいてきました。まるでライオンのような、肉食動物のような眼をしていました。腰を曲げて、両手を前に突き出して私を襲おうとした。
 私は一目散に視聴覚室に逃げました。
 廊下に出ると、周りのクラスも似たような事が起こっている事が分かりました。酷い有様でした。
 視聴覚室には泣いている子や怯えている子、血が出ている子がいました。最初は私も怖くて涙が出ました。だって、視聴覚室に私の友達は誰もいなかったんです。岩谷君も。
 なんとなく分かりました。ああ、これは岩谷君の仕業なんだって。
 外から悲鳴が聞こえてくる中で私達はただ助けを待つ事しかできなかったんです。外に出れば、命はないって皆分かっていました。そのはずなのに……。
「待ちなさい!」
 体育の先生の声でした。
「うわあ!」
 それは軽井君の声でした。軽井君は我慢できなかったんです。この恐怖から一刻も早く逃げ出したくて、外に出てしまったんです。扉から二体の、暴走した生徒が入ってきました。静かだった視聴覚室がに騒ぎが生まれました。
 後ろの方にいた私。そんな事をする暇はなかったのに、ふと外を見たんです。窓の外に、一匹の鷹がいました。都会でも出るんだなと、そんな事を考える余裕はないはずなのに思ったんです。
 肉食獣達は刃物を持っていました。多分、技術室から持ってきたものです。体育の先生が一人を必死に押さえつけようとしていました。でも大柄なその先生を簡単に退けてしまったんです、肉食獣は。そして先生の足に刃物を刺しました。
 あふれ出る血を見て、私も大声を出しました。涙は渇いていましたが、もう出す物もなかった。意識を失う生徒もいました。
 その時にリンカーが、視聴覚室に来てくれたんです。一番最初に入ってきてくれたのは色白で、端正な顔立ちの男の人でした。その人は奥にいる暴走した生徒の刃物を手から叩き落として、体育の柔道で見た技を決めてすぐに一人の意識を奪いました。
 でももう一人います。その一人が男の人に近づいて、危ない! と一人の生徒が言いました。ですが、後ろから入ってきた白いマントを羽織った男の人が生徒の手を掴みました。
 足を蹴って、首筋に手刀を入れたんだと思います。こちらも瞬く間に意識はなくなりました。
 後から聞いたのですが、色白の男性が日暮仙寿(aa4519)さん、マントの男性が咲魔 聡一(aa4475)という名前でした。
 咲魔さんは部屋の中央に立ってこう言いました。日暮さんは体育の先生の容態を確認していました。
「私たちは一刻も早く彼らの暴走の原因を取り除かなくてはなりません。何か変わった事はありませんでしたか」
 皆が口を揃えてあーだ、こーだと言います。何が起きたのか分からないとか、助けてだとか。これじゃあ折角助けにきてくれても、何も分かってもらえないと思いました。だから私は言おうと思ったのですが……。ここにきて、私の性格が災いしました。私はとても人見知りで、人前で発表する事が苦手なのです。
 私が言わなくちゃならないと思っているのですが、どうしても緊張してしまって。ですが。
「お前、何か知ってるんじゃないのか」
 日暮さんは私の眼をしっかり見ていいました。
「仙寿様怖い! もっと笑顔で聞こうよ!」
 彼の隣には、可愛い年上の女性がいました。それでいて天真爛漫で、私には辿りつけない人だと、すぐに分かりました。彼女は不知火あけび(aa4519hero001)という名前をしていました。
「この状況でか」
「あ、あの」
「落ち着いて。大丈夫」
 口ごもった私に、咲魔さんは息を整える時間をくれました。
「岩谷君が、原因かもしれないんです」
「その子に何かあったのか」
「はい。皆から虐められていて、なんだか段々とおかしくなり始めて……。私、彼と親友なんですけど、昨日の夜、明日は学校に来るなって言ってました。だから岩谷君が何か知っているのかもしれないんです」
「君は岩谷君と親しいみたいだね。彼も君の言葉なら信用してくれるかもしれない。安全は私たちが確保するから、付いてきてもらえないか」
 すぐに頷きました。椅子から立ち上がる時、勢いが強すぎて膝をぶつけました。
「岩谷がどこにいるかわかるか?」
「多分、五階の教室だと思います」
 根拠はありません。それなのに自信だけはありました。
「川合さん、お願いがあるんです。一緒についてきてください……! 必ず守ります! 協力してもらえませんか。彼を助けたいと一番思っているのは貴女です。……こういう時人を救えるのは、人なんです。その役目は貴方が相応しい。貴女の言葉なら彼に届くと思います」
 同行する事に、私は決めました。
 怖かったです。先頭の咲魔さんは扉を開きますが、その先にいくのが一般人の私には恐ろしかった。その先から聞こえる悲鳴と騒音が、足を竦ませました。

 廊下を歩いていると、大きな声が聞こえました。悲鳴ではありませんでした。
「オラオラァ! クソガキども! こっち来んかい!」
 野太い声でした。その声に反応した暴徒達は、一斉に声の方へ向かいました。校庭でした。
「狒頭君の声はよく響くね」
 私達は校庭を見に行きました。中央にいたのは人間ではなく大きなお猿さんでした。狒頭 岩磨(aa4312)さんだと思いますが、本当にそうだったのかはよく分かっていません……。
 暴徒達から三百六十度囲まれていた狒頭さんは生徒達から殴る、蹴るをされていましたが、一切攻撃を加えませんでした。
「なんや、中々やるやんか。若さってこういうことやねんな! やけどそんなんじゃ、俺ァ倒されんよ!」
 私は目を疑いました。十人の生徒達に押し寄せられながら、狒頭さんは体をグルリと一回転させて全員を退けたのです。その後に狒頭さんの周囲に奇妙なガスが発生しました。
 日暮さんと咲魔さんは援護の必要はないと判断したんでしょう、岩谷君のいる所に向かうために引き返そうとしましたが、教室には十人以上の生徒がいました。走り回っていました。机と椅子を手あたり次第に放りなげて。
 二対五というのは、リンカーではない私から見ても絶望的だなとすぐに分かりました。
「川合君、一度下に避難してもらおう」
「え?」
 下に降りるという事は、教室に入る必要があります。
「でも教室には」
「狒頭君! この子を下から受け止めてくれないか」
「合点承知の助ッ!」
 ここは三階です!
「ちょ、ちょっと待ってください。私、そんな」
「一度下に避難してもらうだけだ。暴徒共はどこから持ってきたのかチェーンソーという凶悪な武器を持っているんだ」
 日暮さんも私が飛び降りる事には賛成のようでした。本当にチェーンソーは怖い。でも飛び降りるのも怖い。だったのですが――下で待ってくれているお猿さん、狒頭さんの顔を見ているうちに、なんだか身を任せられるような気がしました。
 後ろから暴徒達がかけてきます。私は意を決して飛び降りました。狒頭さんの胸に向かって。
 風が必死に私の体を受け止めようとしました。
「嬢ちゃん、名前は?」
「川合、です」
「よう頑張ったな。話は聞いてるで、岩谷のボンのとこ行くんやったな。ほんなら日暮のボン達と合流せな。援護は任しとき」
「お願いします……」
 飛び降りる時泣きそうでした。こうして生きていて、温もりに抱かれる感覚のせいか狒頭をとても頼れて愛おしく感じたのを覚えています。お猿さんなのに。

 学校の中にはまだたくさんの逃げ回っている人がいました。狒頭さんと二人で三階に戻るべく二階を進んでいると、女性の暴徒に追いかけられる男子生徒がいました。彼は私と同じで気弱な子だったと思います。ここは教室と教室を結ぶ廊下でした。
 狒頭さんが助けにいこうとしたのですが、女子生徒と男子生徒の間を遮断するように、一人の男の方が割って入りました。その人は制服を着ていましたが、私の学校のではありません。見た事もない服装でした。
「手に持ってんのがラブレターだったら、男は逃げなかったと思うがな」
 その人は暴徒の、武器を持っていた手を捻って地面に落としました。落ちたのはボールペンです。
「暴走してますが一般人です。対処法を間違えずにお願いしますよ。特に現代、親からの糾弾は免れませんから」
「安心しろよ」
「まあ、最後の手段でやるとなれば躊躇する理由はありませんがね。そんな真似をした事無い訳じゃありませんし」
 リンカーさんは剣を取り出しました。男の人は切っ先ではなく峰の方で暴徒の首筋を打つと、急速に暴徒の勢いが衰えました。
「魅せるねェ逢見のボンよ」
 剣を持ったリンカーさんの名前は逢見仙也(aa4472)と言いました。そのお隣には、クリストハルト クロフォード(aa4472hero002)さん。クリストハルトさんは名前が長いのですが、覚えやすかったので今もすぐに頭に出てきました。
「狒頭さんも、さっきの声オレの耳まで届いてましたよ。中々の美声モンでした」
「そいつはどうも!」
「ところで、その生徒様は?」
 私の事を指していました。
「おっと、誤解してもらっちゃ困るで。確かに俺は酒と女と煙草とギャンブルだけどな、今回は違うで。ま、可愛らしいって事に関しちゃ同意するわな!」
 私の代わりに、狒頭さんがざっくりと説明してくれました。
「じゃ、急いで三階に戻ろうか」
「私達も川合殿の援護をお手伝いします」
「助かるわ! ところで、大体どれくらいの鎮圧が進んでんのか教えてもらってもええかね?」
「赤城さんと一緒に二階の整理整頓を終えて、赤城さんだけ先に四階にいるって所ですかね。一階はどうですか」
「心配無用! 俺が大体片づけたんや、一階は数が少ないみたいでなあ」
 四階に向かう途中日暮さん、咲魔さんと合流しました。その時日暮さんの体から血が出ている事に気づきました。
「大丈夫、ですか?」
 恐る恐る聞きました。
「案ずる事じゃない。皮膚が数ミリ削れただけで、それ以上じゃない」
「俺のお付き添いや! こんな可愛い子に怪我させられへんで」
「それじゃ、後はリィェン君と赤城君と合流しよう」
 四階に登って、リィェン・ユー(aa0208)さんがいました。一目見て、カッコイイなと思った事は、ここだけの話です。着流しを纏って、武闘家みたいでした。
 廊下にはたくさんの血の跡がありました。
「四階が一番ひどい有様だ。怪我人が多数いて、そのうちの半数以上が歩く事すらできない状態だった」
「怪我人たちは今どこに?」
「音楽室に避難させている。保健の先生がついて手当を行ってくれているから自分は暴徒の鎮圧に精を出している」
「ざっと何人くらいいんだろうな、これは」
 廊下には倒された暴徒の複数人が眠っていました。二十人以上、いたような気がします。
「発生源は五階だろうな」
 リィェンさんが言ってくれて、私の自信は更に高まりました。やっぱり五階に岩谷君はいるって思いました。
 リンカーさんの話では、六階から先の被害は全くないそうでした。人っこ一人誰もいないというのです。
「手加減をする必要があるのは厄介だが、これはこれでいい訓練だ」
 赤城 龍哉(aa0090)さんがいたのは四階のホールでした。なんのために出来たのか分かりませんが、ちょっと殺風景な広い空間があるんです。音楽室と三年生の教室をつなげています。
 日暮さんは挨拶を済ませるや否や、私の真正面に立ちました。私は慣れない場面にまたもや緊張してしまいましたが、日暮さんのオーラも普通とは違って……そのせいもありました。
「通信にあった川合だな。俺は赤城だ、よろしく頼むぜ」
「よろしくお願いします……」
「おう、赤城の兄ちゃん。四階の世話はもう終わっとるんか?」
「もうちょいかかるぜ。五階に行く前に、まずはこの壁を乗り越えねえとな」
 赤城さんの言う通りでした。私が前を向くと、ぞろぞろと暴徒が押し寄せてきたのです。そちらの方向には階段がありました。五階から降りてきた暴徒かもしれません。
「さて……次におとなしくされたいやつはどいつだ?」
「川合、オレの後ろにいろ」
 すぐに逢見さんの背中に隠れました。逢見さんは背がとても高く、暴徒達から私を隠してくれたんです。彼は捕獲用ネットを使って、迫って来る生徒達を捕らえました。背中についていくのは大変でしたが。

 色々な物を乗り越えて、ついに岩谷君と対面する時が来ました。教室の、ドアの前です。
「お前はまだここにいるんだ、分かったな?」
 私は一人っ子ですが、お兄さんが出来たような気持ちでした。赤城さんにそう、言われて。
「分かりました」
 日暮さんと一緒に、廊下で待つ事になりました。
 中で何が起こっているのかは分かりません。聞こえてきたのはリンカーさんの声と、岩谷君の声でした。
「お前が岩谷のボンやな!こんな事しくさって、ケツ引っ叩くだけや済まさへんぞコラァ!」
 赤城さんが宥めているようです。狒頭さんを。
「なんだ。こんなとこに居たのか」
「よく僕の居場所が分かったね」
 紛れもなく、岩谷君の声でした。
「事情は色々聞いてるぜ。お前、今やってる事は仕返しなんだってな」
「うん。でもいいんだ。どう思われても僕はもう気にしないから」
「立派とは言えねえが、やられたらやり返すってのは俺も縁がない訳じゃねえ。だからお前に対して、隔意はねえよ」
 少しの間、静まりました。
「それでお前はこれからどうするつもりだ。まだ続けるのか?」
 赤城さんは岩谷君の問いに何も言い返しませんでした。
「ここで終わる事なんてできないんだ。最後までやらなくちゃ」
「なら、俺たちはお前をどうやってでも止めなきゃならん訳だが」
 固唾を喉に流しました。ただ指を咥えて待つような状態に、私は限界を感じていました。扉を開けようとした。ですが、日暮さんは優しく私の肩を抑えてくれました。
「大丈夫。お前の友人は必ず元に戻るよ」
 涙を誘うような声音でした。
「御機嫌よう。私は咲魔 聡一。よろしく」
 私は耳を澄ましました。
「僕を倒しにきたんだろうその剣で。話をしていていいの?」
「まあそう構えないで、私はちょっとお喋りをしに来ただけなんだ」
「話?」
 岩谷君の声が吊り上がりました。
「……私はね、顔に酷い火傷があるんだ」
 息を呑む音がはっきりとわかりました。
「それは……」
「ひどかっただろう? ……こういう顔になってからは気味悪がられることも多くてね――私だって君の立場なら、同じことをしただろうさ。でも、この辺にしておいたほうが良いと思うよ。彼らも流石に自分の罪を思い知ったろう。なにも殺して楽にする事はないだろう」
「でもここで終わったら――」
 岩谷君は本当に、優しい生徒だったんです。だから彼は人が襲われるところを見なかったし、リンカーさん達の優しい声が私と同じように、胸に響いたのだと思います。
「彼女、君を心配していたよ。話くらいはしてあげて」
 日暮さんが扉を開けました。私の背中を静かに押してくれました。
 教室の中にあった机は全部整っていました。岩谷君は自分の席に座ったままでした。
「川合さん――今日は来てはいけないといったのに」
「ごめんね」
 なぜかは分かりませんが、私は謝ってしまいました。
「でも来なかったら、こうはならなかったよ」
「……本当に僕の事を心配してくれたんだね」
「親友だから」
 なんて気障な、と自分に言いました。でも本当の事なんです。
「まったく、お前も分からず屋だよな」
 逢見さんが助け船を出してくれました。黙ってしまった岩谷君に、私は何を言えばいいのか分からなかったので。
「こんだけ人が大勢いれば誰かしら味方はいる。それがちゃんと川合って分かってて、心配かけさせるような真似してやるなよ。それで、今こうして駆けつけてくれたんだ。何か言う事があるんじゃないのか」
 私は気付かなかったのですが、教室の中にはたくさんのリンカーが訪れていました。最初は六人だったのですが、十二人程になっていたんです。
 銀の鎧を着た女性……ヴァルトラウテ(aa0090hero001)さんが言いました。
「大切な言葉ですわ。あなたも、人生で一度くらいは言った事があるはず」
「ごめんなさい……?」
「違う違う。その逆だな」
 正解の分かったクイズ。岩谷君は席から立ち上がって、私に近づきました。少し身構えてしまいました。また、能力はあると思うから。不知火さんが、私の手を握ってくれました。
「ありがとう」
 ヴァルトラウテさんは大切な言葉と言いました。
 岩谷君は、本当に崩れ落ちるように床に座って、顔を両手で隠しました。きっと、泣いていたんだと思います。

 私達は揃って廊下に出ました。
「ええか。怒るなとは言わん、怒って当然や。ほんで怒ったら殴ったらええんや。それでしまいや」
「もう少し早く知りたかったな。手遅れになっちゃったよ」
「やり直す気があるなら相談に乗るぜ」
「やり直せる、のかな」
「こんなクズでも警官やっとるんだ、お前には無限の未来がある。いくらでもやり直せるのだ」
 何 不謂(aa4312hero001)さんという方が、狒頭さんを指して言いました。警察官だったんだと、このとき初めて知りました。
「否定はせんけどな、今クズは余計じゃ!」
「フフ、そうなんだ。まだやり直せるかもしれないんだね」
「あなたを信じる人のために、それも一つの選択ですわ」
 その後、私は学校中を回りましたが、リィェンさんと零(aa0208hero002)さんが生徒を集めてこう言っていました。生徒というのは、かつて岩谷君を苛めていた生徒達です。
「さて、今回の原因の一端は君ら自身だ。たしかに、彼によって君らは暴徒とかして、他の被害者を産んだ。だが、彼の力は君らを操ったわけではない。君らが自覚していない君らの悪意を解き放った結果だ」
「……はい」
 岩谷君を一番いじめていた不良の一人が返事をしました。リィェンさんは厳しい眼をしていたので、きっと気迫されて何も言い返せなかったんだと思います。
 内心、してやったりという気持ちでした。
「つまり君らは被害者であると同時に加害者であり、事件の原因だ。そのことをよく考え反省しないと次は君らが他の誰かに呪われることになるぞ。なんせ君らは、呪いを受けた人間として受け取られてもしょうがない状況にいるのだからね」
「今回の事はまさに【人を呪わば穴二つ】といったところだな」
「でも、あいつも嫌だったら嫌だって言えばいいのに。俺達はちょっとからかってただけなんですよ」
 ムッとしました。違うよ! と言いたかったのですが、零さんが代弁してくれました。
「言葉は、自身の気持ちを表すには非の打ちどころがない程に優秀な物だろう。では声無き人は感情を何も言い表せんと言う訳でもあるまい」
「きみはただ自分が楽しくてやっていたんじゃないのか。相手の顔も態度も何もみずにな」
 もう不良は、何も言い返せていませんでした。
 体育の先生の安否が心配で二階にいくと、百花堂 蘭丸(aa4475hero001)さんがいました。百花堂さんは学校のアフターケアを大いにしてくれていました。彼だけでなく、他のリンカーさん全員が丁寧にしてくれていました。
 視聴覚室の中に日暮さんと百花堂さんがいて、百花堂さんが私に気づいてくれました。
「日暮さんがいってました。先ほどはありがとう、と」
 日暮さんは避難していた生徒達に色々と説明してくれていたので、百花堂さんが代わりに言ってくれたみたいです。
「いえ、いえいえそんな……」
「川合さんがいなかったら、きっと戦う事になっていたでしょう。彼の心の支えとなったのは貴女でした」
「私はただ、お話をしただけで」
「謙遜する事はありませんよ。川合さんは立派な事をしたんです。誇ってください。僕は、川合さんにしかできない事だったと思いますから」
 私にしかできない事、か。
 そうだったのかな、と疑問に思いもしましたが、百花堂さんは真剣な眼差しで言ってくれました。私は自分に自信がついたようなそんな気がしました。

 こうして、事件は終わりました。最後は、この事件の事をまとめて終わらなければならないのですが、あまりにも私が言いたい事が多すぎます。この作文で使う原稿用紙には限りがあるので、沢山の事は書けません。
 なので一言で言い表します。
 私は事件を通して知りました。これはきっと、岩谷君も思った事だと思います。それは――


 川合は原稿用紙をもって狒頭を訪ねた。作文を見せて、何も問題ないかを確認してもらうためだ。
「さすが、読書を重ねただけあるな。問題はあんまりない。強いていうならな、思いました思いました、という言い回しが多いな。思っただけなのか? 貴公は」
「まあ、大した問題でもないやろ! 川合の嬢ちゃん、よう書いたな。立派なモンやないか」
「ありがとうございます。何日もかけました」
「ええ事や。この作文、コンクールに出すんやったな」
「はい。皆に伝えたくて。本当は書いている最中、私の気持ちも落ち着いて出すのをやめようかなとも思ったのですが、狒頭さんに褒められて出したくなっちゃって」
「それがええ。もしコンクールに落選しても良い経験やから」
 事実と違う点がない確認を終えた川合は、お礼をして二人から遠ざかって行った。その後ろ姿を見た不謂は言った。
「最初に見た時よりもやはり、背中が伸びたな」
 私は事件を通して知りました。
 それは。

 ――リンカーさんって優しいんだなって。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • エージェント
    aa0208hero002
    英雄|50才|男性|カオ
  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312
    獣人|32才|男性|防御
  • 猛獣ハンター
    何 不謂aa4312hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    クリストハルト クロフォードaa4472hero002
    英雄|21才|男性|シャド
  • 撃退士
    咲魔 聡一aa4475
    人間|31才|男性|回避
  • エージェント
    百花堂 蘭丸aa4475hero001
    英雄|13才|男性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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