本部
掲示板
-
相談卓
最終発言2016/09/30 08:05:20 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/29 23:07:15
オープニング
●このゲーム買った人がいるんですか?
暗い城には、蝋燭のおぼろげな明かりしかなかった。だが、その明りに照らされて不気味に腐敗した手が動きだす。今にも崩れ落ちそうな手は、それでも人生最後の恋を賛美する。
「ソンビ姫! ここに隠れていてください」
姫と呼ばれたゾンビは、腐っていた。目玉があった部分は空洞で、口にもぽっかりと暗黒の穴があいている。唯一、姫だと分かる証拠は、乾いた髪にちょこんと乗ったティアラと豪奢なピンク色のドレスぐらいだろうか。
「ソンビ王子。それじゃあ、あなたが……」
王子と呼ばれた、ゾンビも腐っていた。
一体どこの時代のものだとツッコまれたら困りそうな青い軍服に、骨だけになった腕よりは幾分か太い剣を持っている。一応、この城の主という設定なので、それっぽい服をデザインされたのだろう。城は荘厳な雰囲気を称えながら、ところどころが壊れかけていた。何十年も、何百年も、手入れもされずに放っておかれたのであろう。古びた城は、それだけでぞっとするような雰囲気があった。
「ご安心を。ボクは絶対に帰ってきます。僕には頼もしい家臣たちがいる。さぁ、いくぞ。侵入者たちを姫に近づけるな」
家臣たちと呼ばれたゾンビたちは、世にも恐ろしいうめき声をあげる。その声は、城の隅々にまで響き渡った。世にも恐ろしいゾンビたちの姿に、腐った顔でにやりと笑う。王子はそんな家臣たちを連れだって姫から離れるが、姫は不安げに王子の背中を見つめていた。
「嫌な予感がするわ……。ああ、どうして人間はいつも私達を襲ってくるのかしら」
●誰だよ考えた奴
「なんですか……ふざけたゲームは」
HOPE職員は、頭を悩ませていた。
数年前に発売されたゲームのストーリーにである。主人公たちはゾンビ王子の家臣になって、迫りくる敵(銃で武装した人間)から姫を守るというものである。
酷い……酷過ぎる。
よくもこんなゲームを作ったものである。
しかも、操作するゾンビのキャラクターは脆弱で、歩くだけでダメージを受けた。銃弾を数発受けるだけでも腕や足が取れていく。
「実は、全く売れませんでした」
ゲーム会社の人間は「てへ」と笑うが、笑いごとではなかった。
リンカーたちと一般人の精神は、このゲームを模した妙なドロップゾーンに閉じ込めてしまったのだ……。そのドロップゾーンのなかではリンカーたちは王子の配下のゾンビに、一般人はゾンビ姫になっていると思い込んでいるらしい。ちなみに、ゾンビ王子は普通のゲームのNPC扱いで幻のようであった。
「人々は、愚神のゾーンルール下でゾンビになりきっているわけですね。感覚で言えば、催眠術で夢を見ている感じでしょうか。ゾーンエリアのボスはおそらく、ラスボスであるキャラクターになりきっているはずです。そのキャラクターを倒せば、愚神も倒せるはずです」
「そのラスボスキャラとは……」
「主人公です」
ゲーム会社社員の言葉に、HOPE職員は言葉を失った。
「この主人公風のキャラクター人間のリーダーをしていますから、それがボスなんです」
社員が説明のために起動させたゲームの画面には、軍人風の男が表示されていた。
●ドロップゾーン内部
全身が、鈍く痛い。
身体は腐っているはずなのに、なぜか痛みだけは感じる。自分たちは、HOPEの支部で古いゲームをプレイしようとしていたはずなのに……なぜこんなにも痛みを感じるのだろうか。まるで、四肢が腐り落ちそうな痛みだ。
「姫を守れ!」
王子が、号令を出す。
そうだ、戦わなくては。
「あうぁぁぁ」
わめき声を上げながら、懐を探る。武器は幸いなことに、持っている。
さぁ、この武器を使って姫を守らなければ。
解説
ミッションタイプ【敵撃破】および【一般人救出】
※参加者は例外なく、ゾンビになります。
・城……薄暗く、二人並んで歩けないほど狭い廊下が続く。
・姫の間……一番奥にあるスタート地点。この部屋にいる姫が殺されてしまうとゲームオーバー。
・鏡の間……沢山の鏡がある部屋。遊園地のミラーハウスのような部屋であり、敵の正確な位置を把握するのが難しい。
・食卓の間……腐った食事が並ぶ部屋。一番広く、豪奢な家具が置かれている。身を隠せる場所はなく、敵と一騎打ちになってしまう。
・図書館……様々な本が置いてある広い部屋。規則正しく本棚が並んでいる。本棚は少し触れるだけで倒れ、下敷きになる可能性がある。
・主人の間……代々の主人の写真が飾られている。この部屋のみ窓がないために真っ暗で何も見えない。暗視スコープを持った敵が陣地を敷いており、侵入してくる敵を家具のバリケードの向こう側から狙い撃ってくる。
・隠しステージ……主人の間に続いているドアを開けると行けることができる。シンプルな部屋。入るとボスキャラクター(愚神)との対決が始まる。
・傭兵……それぞれの部屋に三人ずつ出現し、部屋の傭兵は動かない。廊下には五人の傭兵がおり、姫の間へと行こうとする。ライフルと拳銃、ナイフを持っていえう。動きは素早いが、防御力が低い。
・ドロップゾーンのボス……性能はゲームキャラクターのもの。武器は銃器のみ。防御力が高い。ランチャーを装備しており、一定時間を超えると撃ってくる。次の砲弾を発射するには時間がかかる。
・ゾンビ王子……オープニングとエンディングにはいるのに、ゲームプレイ中はいなくなる。ゾンビ姫を愛している。
・ゾンビ姫……部屋から動かない。正体は一般人であり、彼女を守りきることもクリアの条件の一つ。
・プレイヤー(PL)……ゾンビ。動きもスローになる。歩くごとに軽度のダメージを負い、弾丸を三発受けるごとに腕や足が取れていく。
リプレイ
●なんて恐ろしいクソゲー
気がつけば、古城の内部にいた。静かでわずかに埃くさい内部には、頼りない明かりがところどころにともっていた。
「今の私たちは、ゾンビなんだな?」
ヴァイオレット ケンドリック(aa0584)は手を握ったり開いたりして、自らの腐敗の具合を試す。あまり激しく動きだすと、ぽろりと取れてしまいそうだ。どうしてこうなったのかはわからないが、ゾンビになる直前に似たようなゲームをやっていたような気がしないでもない。
「やだ! いたい、死ぬ!!」
子供のようにだだをこねながら木霊・C・リュカ(aa0068)は、全力でゾンビ姫に抱き着いていた。彼女があまりにも動かないから、縫いぐるみの代わりにでもしているのかもしれない。
『大丈夫だ、もう死んでる』
オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の的を得た言葉に、リュカが「わーん」とさらに泣き出した。痛いし醜いしサイテー、と内心の思いを思いっきり吐露したリュカに、ヴァイオレットがぽんと肩をたたく。厚化粧を施したヴァイオレットの顔は、残念ながらとてもおっかない。赤い口紅が血のように見えるからだろう。
「腕が取れたら縫ってやる。ここには麻酔もなにもないがな」
『それは、拷問じゃろう!』
ノエル メイフィールド(aa0584hero001)は、けたけた笑い転げていた。本人はこれで痛みをごまかしているつもりなのだが、傍から見れば気が狂ったようにしか思えない。
「ううん、なんだか難儀な体なのです……」
紫 征四郎(aa0076)は不敗する体に、眉をひそめる。一方でユエリャン・李(aa0076hero002)は、何を思ったのか胸をはる。
『安心せよ。数いるゾンビの中でも、我輩ほど美しいゾンビはおるまい』
「なんで、そんな前向きなんですか……!』
体が腐っているのである。
美しさなど求めている暇はないであろう。
『美は、磨き続けなければならないものだ。おチビちゃんは、もう少し大人にならないとわからないか』
ユエリャンは、手鏡で自分の美貌を確認する。
死んだように白い肌に血の気を失った唇。
『我輩……化粧直しがしたいぞ』
残念ながら、まったく美しくない。
「腐ってるなぁ……。僕が腐ってる事が良く分からない位に、腐ってるなぁ……」
深くため息をついた九字原 昂(aa0919)の言葉に、藍澤 健二(aa1352)がうなずいた。
「よくもこんなピーなゲームを! 作った奴、何考えてるんだ!?」
奇しくもそれは、HOPEの職員たちも思ったことであった。
『ねぇ……君は本当に、こんなお仕事をしたかったの?』
ティーナ フォーゲル(aa1352hero001)は、目は光を失っていた。
健二の本当にやりたいことを見つける覚悟はしていたが、ゾンビになる覚悟なんてしていない。
「……あー……のーみそ腐って来たのかなぁ。何かどーでも良くなってきた……」
『待って! 大事なことなのよ!!』
もしこれが本当に健二のやりたいことだとしたら、自分はどんな顔をして彼を送り出せばいいのだろうか。
「ともかく、姫を守り。ボスを倒せばいいんだよな」
麻生 遊夜(aa0452)は、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)に確かめている。ちなみに護衛対象であるはずの姫はリュカの腕力のせいで、腕が取れかけている。そろそろ離してやらないと、姫のパーツを守ることになりかねない。
『……ん、守る……大丈夫』
ユフォアリーヤは、とりあえずリュカの腕の中からゾンビ姫を助けだす。
「……姫、こちらへ」
遊夜は姫を紳士的にエスコートし、銃弾に当たらぬように誘導する。少なくともこれで、味方の銃弾に当たってゲームオーバーということにはならないだろう。
「人間どもを……殺ってやりゃあいいんだろ?」
シーナ(aa3212)は、A.R.E.S-SG550を構えた。今回は施設内を探索し敵と戦う任務であるが、肝心の体が本調子ではない。
『さっさと仕事を済ませてしまいましょう……』
アンジェラも腐った体は嫌らしく、眉をへの字にしていた。
「足音が聞こえてくる……。隠れてください!」
昂は、部屋の中にいる全員に声をかける。ゾンビ姫も正面からは見えない位置に隠し、全員が息をひそめて聞こえてくる足音に耳を傾けた。
わずかな足音は、大人のもの。部屋に入ってきたのも、武器を持った傭兵であった。二人が部屋の中に入った瞬間に、リュカはトリオを発動させる。一気に敵を倒してしまう算段だったのである。
『手がとれる前には終わればいいな……』
「嫌なことを言わないでよね」
念のために袋をもってはいくが、このなかに自分の手足をいれることになるかと思うと
リュカはぞっとする。
「まだ、廊下にいます! ユエリャン!!」
『いわれなくともだ!』
共鳴した征四郎とユエリャンは、銃で廊下にいた傭兵たちの足元を狙う。
傭兵にとどめを刺すために、健二が銃を乱射する。非常に楽しそうな笑顔で
「ぞんびー♪ ゾンビー♪ ぞんびーゾンビーぞんびー♪ わーたーしーはーゾンビー♪
ぞんびー♪ ゾンビー♪ ぞんびーゾンビーぞんびー♪ わーれーらーはーゾンビー♪
にーほんのゾンビー♪ せーかいのゾンビー♪ ちーきゅうーのゾーンービ♪
ぞんびー♪ ゾンビー♪」
と聞いたこともない歌を歌っている。
たぶん、自作であろう。
『色々とアブナイから、その辺にしておきなさいっ』
ティーナが、健二を注意するが彼は「BGMは必要だろう」とどこ吹く風である。
「この武器は使えないな。う~ん、碌な装備を使ってないんだな」
ヴァイオレットは倒れた傭兵の武器を一つずつ見聞するも、今自分たちが持っている武器ほど優秀なものはなかった。
『ふははははっ。ゾンビが死体をあさるとは面白い冗談じゃのう』
「痛いのはわかるから、ちょっとは黙ってろな」
『だめじゃ! この体は脆すぎて、笑ってないとおかしくなりそうじゃ』
傍から見るともう十分に、ノエルの言動は怪しかった。
『戦闘さえなければ、ワシだって手を外してパーンチとかやりたいのじゃ!』
「その衝撃で腕がつぶれたら……悲劇だな」
ごくり、とヴァイオレットは唾をのみこんだ。
もしも、そんなことで負けたら末代までの恥である……いや、もうゾンビなのだから末代もへったくれもないのだが。
「遊んでないで、部屋からでるぞ」
遊夜はあきれながら、笑い転げるノエルに声をかけた。
姫の間から見る限りは、近くに傭兵の姿はない。
「できれば、向かってくる敵を向か撃ちたいところですね。僕たちの今の体では、激しい追いかけっこはできそうにありませんし」
昂のいうとおり、リンカーたちの身体能力はかなり落ちている。まだ白黒だった時代にとられた映画のゾンビぐらいの身体能力だろう。
「動き……辛い……な。私……いつも……こんな……トロかったか」
『そう言えば……ずいぶん脆い……ですね。私も……こんなに脆くはなかった気がします……し……この脆さはプライドを……傷つけられた……気が……します』
シーナとアンジェラは警戒しながら、廊下を歩む。
「次の部屋につきましたね」
昂の目の前には、ドアがあった。
そのドアの向こうには、一面鏡張りの部屋があった。遊園地のミラーハウスのような光景に、前にいた昂は一瞬たじろいだ。
「敵がいるんでしょうけど、何人かまでは……」
『敵が鏡に映りこんでいるから、本物を見極めるのは難しそうね。【射手の矜持】が役に立てばいいんだけど……』
だが、本物がわからないのに命中精度だけをあげても意味がない。ティーナは、唇をかんだ。前に出た遊夜が、銃を構える。
「我らの邪魔になる物は壊す」
『……ん、姫を守る為』
「たしかに、鏡さえ壊しちゃえば敵の把握は難しくないね」
そこにリュカまでが便乗し、弾丸を部屋中にばらまいた。昂もそのあとに続く。
「こっちです!」
征四郎は、刀を構えて傭兵を廊下まで誘導しようとする。鏡がなくなった部屋には、三人の傭兵がいた。だが、素早さが格段に落ちた体では広いところで戦うことは難しい。
「くっ……」
征四郎の腕に弾丸がかする。
「負けないです!」
刀を振り上げて、それが傭兵の頭に突き刺さる。その燦燦たる光景たるや、よくもこの世界観のもとになったゲームが発売停止にならなかったなと感心するほどであった。
「征四郎、腕は取れてはいないだろうな?」
シーナが見る限り、征四郎の腕はまだくっついている。だが、いつもよりも負った傷は深いように思える。リュカなど、大急ぎでビニール袋を出してくる始末である。
『一撃でこのゲームとは……ムリゲーでクソゲーというやつだな。最近のゲームにない歯応えがある』
うむうむ、とうなずくユエリャンの目はちょっとばかり輝いている。
「言ってる場合じゃないのです。征四郎はゲーム好きですけど、難しいのもゾンビも苦手なのです……」
パズルゲームとかレーシングゲームとかやりたいです、と征四郎は涙ながらにつぶやいた。
「紫さんの傷を見る限り、ダメージを受けるのは危険だな。リーヤ、いつも以上に警戒するぞ」
『ん……麻酔なしで縫われたくはない』
隣を見れば、ヴァイオレットが「カモーン」と手をこまねいている。そして、気のせいか彼女の腹部が膨張してきているような気がする。その証拠に、黒いメイド服はぽっこりと膨らんでいた。
「ん? さっきからお腹が? 変だな」
『大方、内臓が腐ってガスが腹部に充満しておるのじゃろ。しばらくすれば、ガスが噴出しておさまるはずじゃ』
それってオナラでは?
と周囲は思ったが、口には出さなかった。
「どうりで、さっきからゲップが止まらないはずだな」
「次は、食卓の間だろう? こちらの腹部も心配だな」
シーナは、まだ膨らんでいない腹部を撫でる。
「食卓の間……ハラ、ヘッタ」
健二が食卓という言葉に反応するが、果たして彼が本当に食したいのは人間の食事なのだろうか。怖いので、聞きたくはないが。
「開けたら、接近戦が得意な人は飛び出してください。残りは、それの援護射撃で」
昂はドアを開け放った。
そのまま敵に勢いよく接近し、転がりながら傭兵の武器を押さえつける。そして、そのまま傭兵の首筋に食らいついた。
「うー……あー……」
ヴァイオレットもそれに続くように、兵士に食らいつく。
「やっぱり、ゾンビはっ。ゾンビは苦手なのです!」
征四郎は仲間の恐慌に涙目になりながら、シャンデリアを狙い撃つ。落ちてきたシャンデリアの轟音と埃の煙にせき込みながら、残った傭兵の姿を確認する。残念ながら、シャンデリア攻撃はよけられてしまったようである。
「ねえねえ。これって最後に噛みつきかかって、フィニッシュかな?」
リュカは痛みなど忘れたように楽しそうにゾンビ化している仲間たちに目をやるが、オリヴィエとしてはリュカが「お兄さんも~」と言って噛みつかないかハラハラしていた。
『ゾンビを殺すなら、頭か心臓を狙うべきか……』
「それって敵の話だよね?」
なんだか薄ら寒いものを感じるリュカであった。
『……障害物がない』
「なら、足を狙う」
遊夜は、銃を構えた。こちらは耐久性能が劣化しているのだ。あんなのに直接狙われてたら、絶対に腕の二三本が取れてしまう。
「くっ!」
敵の流れ弾が、シーナに当たる。
「体、大丈夫ですか!」
昂は心配そうに声をかけるが、ヴァイオレットのほうが重体だった。彼女は傭兵の首にかみつくなかで攻撃を受けたらしい。
ころん、と彼女の腕は取れていた。
「きゃー、腕が! 腕が取れてます」
『落ち着くのだ。たぶん、くっつく。たぶん』
ユエリャンが、ぐっと拳を握った。ちなみに、腕はリュカが回収する予定である。
「ぐあぁ……僕も足をやられました」
昂の足も、地面に落ちていた。
「メシ……白いごはんとほかほかの脳みそ」
健二は、理性を失っていた。
遊夜は昂に肩を貸しつつ、不安に思った。
「大丈夫だろうか、この状況……」
『ん……きもちわるい』
映画だったら、間違いなくR18Gの扱いになっていたことだろう。
「次は図書館だよ。みんなの四肢が無事なうちにいこうか」
これ以上もげたら袋に収まらなくなるよー、とリュカは言った。
次の目的地は、図書室である。
『取れた手足は縫えないのでしょうか?』
アンジェラは、比較的理性があるように見えた遊夜に尋ねてみた。他の面々は心までゾンビになっていたり、おびえていたりで、冷静な話はあまり役に立ちそうにない。
「痛み止めも消毒液もないんだ。現実的に無理だよな」
縛りつけてまで四肢を縫合するわけにもいかない。
「次は図書室だね」
この状況に徐々に慣れつつあるリュカが、次の部屋のドアを開ける。
そこには、おびただしい本があった。
遊夜は警戒しながら部屋に入ろうとするが、本棚の影で傭兵の姿を見つける。
「腕が取れるのは、私だけでいいよな」
シーナが部屋に踏み込み、傭兵が近づくのを待った。そして、がぶりと首筋をかみつく。傭兵がぎゃあぎゃあと悲鳴を上げながら転がった。その惨劇に、健二も参戦する。昂も足が取れていなかったら、参加していたであろう。なにせ、遊夜に支えられながら「肉……食べたい」と呟いているのである。
『よけろ……』
オリヴィエがつぶやき、銃弾を撃ち込む。本棚がその衝撃で、ドミノのように倒れていった。
「これ……下敷きになったら、お兄さんたちの体はどうなったんだろうね」
リュカは、呆然とつぶやく。敵の攻撃に当たるだけで手足がもげる体である。本棚の下敷きになった後のことなど――オリヴィエは考えたくはない。
幸いしてシーナはストームエッジを使用し、傭兵と本棚を同時に破壊してくれて事なきを得たが。
「最後は主人の間ですね」
征四郎が、ドアを開ける。
暗がりに反応し、リュカはフラッシュバンを使用する。
「敵は確認でした! 俺が次を離す隙に攻撃を」
遊夜もフラッシュバンを使用し、部屋が再び明るくなる。
その明かりを頼りに、征四郎はフリーガーファウストG3を構える。女郎蜘蛛を使用し、敵の動きを完全に止めた。
「これで終わったんだな?」
ヴァイオレットは倒された傭兵の数を確認しながらも、いまだにゾンビのままの体を不審がる。
『実は、このダンジョンにはボスがおったのじゃ。ワシこそ、そのボスの呪術師。さぁ、ワシを戦うのじゃ。……なぜ、じゃ! 全員、ガンムシするでない!!』
さびしいのじゃ! とノエルが騒ぐ。
「これって、隠し扉じゃないですか?」
昂が指差した先には、扉があった。
「隠しステージ…?? いや、そんな事よりここまで来るので、オデノカラダハドボドボダ! 既に死んでいるのに【生への祈念】も何もあったモンじゃないだろうが、ボスを倒せば姫様、助かる。なら、最後の力を振り絞り、全力であたろう。全員、怪我は大丈夫か?」
リュカは「ちゃんとここにあるよー」とビニール袋を見せる。
いや、怪我した手足はちゃんと持っているかという意味ではなかったのだが。
「お遊びは、そこまでだ。開けるぞ」
遊夜が、最後の扉に手をかける。
何もない部屋だ。
ただ中央に、いかにもシューティングゲームの主人公然とした男がいる。
足を失った昂は、女郎蜘蛛で男の動きを阻害する。ボス戦になってまで、遊夜の肩をかりているわけにはいかない。
『ランチャーにあたったら、バラバラになります。リュカの袋にも入りきらないですね』
「……グロイことを想像させるな」
シーナは眉をひそめつつも、動きを止められたボスに接近する。もう一度ストームエッジを使用するが、さっきまでの傭兵と違いボスは多少頑丈であるようだ。
「シーナちゃん、離れて! ランチャーがくるよ!」
リュカの声に、シーナははっとする。
ヴァイオレットはとっさにパワードーピングを使用し、シーナをかばった。防御力は高まったとはいえ、元々が低迷していた防御力である。いつもよりも、ダメージを負ったように感じる。気のせいかもしれないが。
「まとめてやってください!! 私は大丈夫なので!」
『この体であれば、多少の犠牲はやむ負えんよ』
征四郎が、ボスを後ろから羽交い絞めにする。
チャンスであった。
「みんな、チャンスだよー」
かみつけ、とリュカは号令をかけた。
ぽかんとしたのは、征四郎である。
「ちょっと、ちょっとまってください。グロイのは……グロイのはー!!」
足を失った昂以外が、ボスに群がって肉をかみちぎる。
ぎゃー、と悲鳴を上げて征四郎は気絶した。
仲間たちが人間に群がって肉をむさぼるなど、悪夢以外のなにものでもなかったのである。
●ゲームクリア
目を覚ましたリンカーたちは、自分たちの手足があることにひどく安堵した。一般人であったゾンビ姫も無事に保護できたようであるし、結果的には万々歳である。
『何か、すごく悪い夢見ていた気分ね……』
ティーナは胸をなでおろした。
自分がゾンビになるなど、悪夢以外のなにものでもない。
「んー、そう?」
『……まだノーミソ、腐ったままなの?』
気のせいかティーナの目が、冷たいような気がする。
たぶん、気のせいなのだろうが。
「ふぅ……ゾンビの世界も大変ですね」
足が取れたときはもうだめだと思いましたよ、と昂は苦笑いした。
「手足が腐ってないということに、少し違和感を感じてしまうな。いかん、いかん」
うっかりゾンビの体になれてしまっていたらしい遊夜は、首を振っていた。これはあくまで特殊なケースである。一刻も早く、生身の体の感覚を取り戻さなくては。
「なぁ、このゲームをもらって今夜はゲーム大会をしないか? きっとリアルな感覚でゲームを楽しめると思うんだ」
ヴァイオレットの言葉に「絶対にダメです!」と征四郎は泣きながらしがみついた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|