本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】PLよ、剣を持て!

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/25 19:24

掲示板

オープニング

●普通じゃない仕事
 普通の依頼のはずだった。
 『普通』と言っても、今、世間を騒がしている「テーブルトークRPGのルールブック」を媒介にしたドロップゾーンへの「VR-TTRPGシステム」を利用した潜入依頼なので、この時点で普通の依頼とは呼べないかもしれない。
「────だから、H.O.P.E.の依頼は嫌だったんだ」
 灰墨信義(az0055)は顔を歪ませた。
「しょうがないじゃない。霊石(ライヴスストーン)はワタシたちだって興味あるわ」
 ライラ・セイデリア(az0055hero001)はモニターとファイルを交互に見る。
 パラダイム・クロウ社研究員を名乗るリンカー、灰墨とライラは正確にはH.O.P.E.所属の純粋な『エージェント』ではない。だが、彼らの会社の方針でH.O.P.E.の依頼には何かと手を貸している。
 パラダイム・クロウ社や灰墨らは特にオーパーツや魔術、知識に関する現象に興味を持つ。
 今回は「VR-TTRPGシステム」の利用で潜入できるという特異なドロップゾーンとそこで大量に手に入る霊石(ライヴスストーン)についての調査を兼ねて、協力者という形でH.O.P.E.のエージェントたちに同行したのだが。
「くそ、転送した途端拘束とは、あの転送システムもとんだポンコツだな」
「ゾーンルールでそういうふうに歪められているのよ」
 彼らが転送されたのは透明なキューブの檻の中だった。一つの頂点が地面に刺さった、一見、不安定な形をした檻。しかし、中からはピクリとも動かない。
「ダイスを模しているつもりなんだろうな」
 不満げに信義は言った。
「そういえば、テーブルトークRPGってダイスを使うゲームよね」
 透明な壁から外を見ると遠くに同じようなキューブが見えた。
「一緒に来たエージェントたちもあそこにいるのか」
「そうね……。そろそろゲームを始めない?」
 ライラが一冊のファイルを信義に見せ、信義はため息をついた。
「俺は嫌だ。そういうのはあいつらがやればいいだろう」
「だって、この子、昔の信義に似ているし」
「誰に────こころか。だから、嫌だなんだ」


●PLを動かして下さい
 P.N.『ドルイド』は男の声で目を覚ました。
『聞こえるかい? 私は灰墨。リンカーだ。ルールはわかっているな? よろしく頼む』
 起き上がって剣を取ると、『ドルイド』は辺りを見回す。
「ええ、わかりますけど、あなたが僕の『キャラクター』なんですか? 他人が僕をうまく『操作』できるとは思えないのですが」
『それはそうかもしれないな。だが、ここでそれを考えても仕方ないだろう。私も努力するから協力して欲しい』
「協力? そこから命令するだけでしょ? 動くのは僕だし……」
『……こちらのスキルは使用可能だ。目の前の空間に表示されている『ルール』を復唱したら、ゲームスタートだそうだ』
 『ドルイド』の目の前に黄色い光で文字が綴られている。
「こういうのってどうなんですかね、ありきたりだ。とりあえず、動きますけど」
『…………』


●ルール
・キューブにエージェント(リンカー)が封じ込められている ※以下、このリンカーをPC(キャラクター)と呼ぶ
・キューブには本ルールの書かれた紙と『キャラクターシート』が閉じたファイルがある
・『キャラクターシート』に書かれたPL(プレイヤー)名を呼ぶとドロップゾーン内のPLが目を覚ます
・PLは目を覚ました時点でルールを理解してる
・PLは一般人並みの能力値だが、PCのスキルを使うことが出来る(攻撃力はPCに依存、PCの回数消費)
・PLが使える装備は目覚めた時に持っている剣と革鎧のみである
・剣を何度か振えば敵を倒せるが、そのぶん時間がかかる
・革鎧はダメージを軽減し、滅多なことではPLは死ぬことはないだろう
・PCはPLを誘導・適切にスキルを使用させて敵と戦わせながらフィールドを冒険させる
・フィールドにはスライム、角ウサギ、ゾンビが出る
・最終的に、自分と通信しているPCの入ったキューブにたどり着くことが目的である
・PLが通信PCのキューブに触れた瞬間、PLはドロップゾーンから脱出でき、PCはキューブから解放される

・ただし、このフィールドには一匹のドラゴンがいる
・このドラゴンはPLには倒せない
・ドラゴンはリンカーがこの世界に来てから三時間後、もしくはPCが一人でも解放されたら放たれる
・PCがドラゴンを倒せばPCもドロップゾーンから脱出できる
・独りでもPLが死ねば、この世界は閉じられる
・何が起こるかわからない────ゲームオーバーだ


 以上が、キューブ内のファイルに閉じた紙に書かれた『ルール』であった。
 ちなみに、ファイルにはご丁寧にリンカーの写真と名前、使用可能スキルを書いた『キャラクターシート』が挟まれていた。
「────誰だよ、こんなゲーム作ったのは」
 苛々しながら、信義が毒づいた。
 四つあるキューブのうちふたつの面には、他のリンカーとの通信画面、通信PCを映したモニターとなっていた。通信画面は指で触れると通信・通話ができる。
「スライムが後ろから来る、違う、走って逃げてくれ。いや、立ち向かうんじゃない」
「もう近いから、仕方ないわ。ブルームフレアを使って」
「回数に限りがあるんだぞ……」
 信義は額を押さえた。
「自分で戦った方がマシだ────」

解説

ジャンル:【卓戯】《エリア探索》依頼

目的:PLに指示をして自分のキューブまで無事に誘導してください
RP多めでお願い致します。RPや探索方法によっては何か見つかります。
ゲームオーバーになると重傷やペナルティがありますのでご注意を。

PC目的:PL救出と自分の脱出、ドロップゾーンの調査

PL:「テーブルトークRPGのルールブック」を媒介にドロップゾーンに攫われた一般人

ステージ:林、砂漠、海岸、洞窟が集まった510,000平方メートル程の土地。
色々な物があるので広く感じる。一定時間で位置が変わる。

敵※大体のステータスはシナリオ『【卓戯】ドラゴンの牙を攻略せよ』と同じ
スライム:早く倒さないと仲間を呼んで団子状になって潰しにかかる
角ウサギ:どこまでも追ってきて角で突っついてくる
ゾンビ:抱き着いて熱烈に舐めまわして来る
ドラゴン:『ドラゴンの牙』より弱い。逃げないとPLは死ぬ。PCは通常攻撃でも倒せる。

●PL情報
>通信PLを作成してください
1.性別を決めてください
2.年齢を12歳以上で決めてください
3.H.N.、外見、性格を決めてください
4.ステータスを以下から5pt以内に収まるように決めて下さい
 ※相反する内容のステータスは同時にセットできず、セットした場合おかしなことになります
TRPGゲーマー(+3)、TRPG初心者(-3)
ゲーマー(+2)
運動神経抜群(+3)、運動音痴(-3)
容姿端麗(+2)、友好的(+2)、博識(+2)、厨二病(+2)、従順(+2)
短気(+1)、のんびり(+1)、怖がり(+1)、勇敢(+1)、傲慢(+1)、屁理屈(+1)
陽気(+1)、陰気(+1)
反抗的(-2)、厨二病・重傷(-5)

※厨二病・重傷は非常に反抗的な性格も内包しており(反抗的を同時選択不可)を選択すると大変危険です
 ご利用される方は他の参加者のPLからのサポートを依頼することをお勧めします

リプレイ

●春翔とララロロ
『聞こえるか? ララロロ』
 一ノ瀬 春翔(aa3715)の声に”PL”の一人、『ララロロ』は目を覚ました。
「”PC”か」
『ああ。えーっと……取り敢えず全部理解してると思うから説明は省くぜ』
 春翔の言葉にララロロは頷く。
『んで、早速だがこっちの方針の説明だ。
 1.自分達は索敵班であり、周辺地形の把握と空からの全体地形の把握に努めること
 2.他PLとの協力は不可欠であり、なるべく早く合流すること
 3.敵との戦闘はなるべく避けること
 以上だ』
 春翔の説明にララロロはエージェントたちが自分たちの安全に心を砕いていることを感じた。
『さてと……じゃあまずは、空だな』
「空? どうするんだ」
『どうすっかって? そうだな……アバウトでいいから鷹をイメージしてみろ。ソイツはあんたの言う事を聞いて、しかも感覚を共有できる《スキル》って奴だ。打上げて周りを見てみろ』
「スキル?」
 それは、ゲームでよく聞く言葉。テーブルトークRPGのルールブックを読んでいたほどである。もちろん、ララロロはゲームが好きであったし、ゲームのキャラクターのように《スキル》が使えることに心が騒いだ。
「打ち上げ……こ、こうか……わっ!」
 ぶわり、顔にぶつかるほどの間近でたくましい翼が羽ばたいた。
『それが、《鷹の目》だ』
 突然目の前に現れた鳥が旋回しながら上空へと昇っていく────呆然と見送るララロロ。その脳裏に鷹が見ているであろう景色が流れ込んでくる。
「すごいな……」
『欲しいのは……それぞれ林、砂漠、海岸、洞窟のステージの位置関係、キューブの位置だ。あとは、遠くからでも分かりやすいランドマーク的な物。キューブに近ければより良いな。で、他のPLの位置────ララロロ?』
「……あ、ああ。わかった、探してみる」
 感動するララロロに気付かず、春翔はてきぱきと指示を出す。その指示を聞きながら、ララロロは大空を舞う鷹の視線を楽しんだ。
「海だ。海があって、北に林が────あれがキューブか」
 鷹の視界を共有したララロロは海岸の岩場に囲まれるようにキラキラと輝く物体を見つけた。
『岩場……俺たちのキューブの可能性もあるな』

 ララロロの言葉に春翔はキューブの外を見る。周囲はごつごつとした岩に囲まれている。英雄のアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)はノートパソコンで何やら作業をしていたが、春翔の視線に気づくとにっこりと笑ってピースサインを出した。
「……よし、アリス」
「あいあいさー! パソコンの方も準備オッケーだよ!」
 アリスは春翔がPLと通信していた壁面とは別の壁面へと声をかける。それは仲間のエージェントたちに繋がっているはずだった。
「みんなー? 聞こえるー? 今からこっちで分かった情報伝えるからね!」
 アリスの声を聞きながら、春翔はララロロへ次のスキルの使用を指示する。
「じゃあ他のPLの位置まで行こう……ああ、なんかめっちゃ隠れたいって思っておけ。これも《スキル》だ。気休めだが普通に行くよりかはマシだろう」
 スキル《潜伏》を使用したララロロは鷹の目が見つけた岩場のキューブの近くへと向かう。



●紗希とダーク
「岩場のキューブか、もしかしたら、俺たちのところか?」
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)がキューブの外を眺める。キューブの外に岩が見えるのは春翔と自分たち、鹿島 和馬(aa3414)ペアのキューブだ。
 御童 紗希(aa0339)は軽く首を傾げて見せながら、先程繋がった灰墨信義のキューブへの通信を続けた。
「灰墨さん、聞こえますか? H.O.P.E.エージェントの御童といいます」
『ああ、灰墨だ』
 回答はすぐに返ってきた。一緒にこの世界へダイブしたものの、灰墨は他のエージェントたちとはスタンスが違うため、今回の作戦等をエージェント達に任せていた。紗希は他のエージェント達と練った作戦を灰墨に伝えた後、丁寧に頼む。
「キューブに触れるのは全員同時ではないと危険なので、灰墨さんにも協力していただかないと成功しません。ご協力願えませんでしょうか?」
『勿論、と言いたいところだが、それは』
 はあ、と大きなため息が聞こえた。
『私は協力するつもりだが、悪いが”PL”次第だ』
 少し疲れたその声に紗希とカイは灰墨の事情と心労を察し、共感した。

 彼の頬を風が優しく撫でる。
「この革鎧はよ、敵から自分を守るために着けてるんじゃねえんだ」
 紗希とカイのPLである『ダーク・ブリンガー』は呟いた。
 スタッズのが並んだフードの下、ホワイトアッシュのインナーカラー、ダークチェリーレッドの髪が深緑の中風に吹かれて揺れる。
『おい、ダーク!』
 ダークへ、PCであるカイが声をかけるが、今、彼にその声は届いてなかった。
 無数の髑髏が葡萄のように連なったシルバーリングの嵌った骨ばった指。僅かに震えながら初めて身に着けた革鎧を撫でる。
「この鎧は、俺の圧倒的な闇の力、我が心の呪いを押さえつけるための────鎖、みたいなもんなんだ」
『……あ゛ぁ?』
『ちょ……なによ! このイタイ台詞! なんでこんな人選んだのよ!』
『いや、そんなこと俺に言っても……』
 PCである男女の声が聞こえた気がしたが、今はそんなことはどうでもいい。
「俺は力を手に入れ────そう……楽園を見つけるために幾千年の時を経てここに来た!」
『ダーク、とにかくキューブ探しに行くぞ! おい!!』
「────ん、あぁ……”俺の”キャラクターか。大丈夫だ、俺が必ず助けてやる。諦めない、それが悪魔の奸計だとしても」
 ようやく、カイの声に応えたダーク。
『いや、待て。とにかく、仲間のPLがそこから南の海辺へ向かったからお前もそっちへ行ってくれ』
 カラーコンタクトを嵌めた瞳で青空を仰ぐと、ダークは彼の心の奥底で長年温めていた歌を口遊みながら海のある南へ向かって走り出した。

 キューブの中で紗希が悲鳴を上げた。
「ちょっとカイ! 何とかしてよ! こんな人、他の人に会わせたくない!」
「しょーがねーだろ! 黙ってろっつても『俺を黙らせることができるのは禁断の果実だけだぜ』とか言ってんだもん。コイツそーとー痛ぇよ……」
 カイは今は沈黙しているキューブ内の通信機を見て思わず呟いた。
「灰墨、あんたの気持ちはわかるぜ……」



●遊夜とS・A
「今回も宜しく頼む、我が友人……どうした、機嫌悪そうだな?」
 麻生 遊夜(aa0452)の通信に信義は不機嫌さを隠すのをやめた。
『ふん、H.O.P.E.絡みの依頼は相変わらずろくでもないものばかりだな? 俺は霊石を見に来たんだ。思春期気取りのお子様とゲームをしに来たんでは無いんでね』
 もはや取り繕いもしないほど苛々とした信義の様子に遊夜は苦笑いを浮かべる。
「まあ、大変なのはお互い様だ。今回は共に頑張ろうじゃないか」
『────今回は、な』
 信義の残した棘のある言葉をスルーして、遊夜はユフォアリーヤ(aa0452hero001)を見る。PLとの誘導担当は遊夜、彼女はキューブ周囲の探査やマップ管理・情報整理を担当する。
 スマートフォンやノートパソコンの準備を終えたユフォアリーヤはOKとばかりにスマートフォンのカメラ画像を拡大にして遊夜へと見せた。
「……聞こえているか? 宜しく頼む、誘導は任せてくれ」
 PLへと語り掛ける遊夜の隣にぴたりとくっついたユフォアリーヤが、むー、と不満げに唸る。

 ────何時かは巻き込まれるんだろうとは思っていたが……。
 遊夜のPLである『S・A』は思った。
 彼は世界蝕が起こる以前に生まれ、それから世界が変わっていくのを日常の中でずっと見て来た。
「甥っ子らが待ってる。遊ぶ約束をしてるんだ……協力させて貰おう」
『ありがたい』
 そう答えた遊夜は、落ち着いた声の感じからS・Aとそう変わらない年らしい。
 テーブルトークRPGは初心者の彼だったが、初めてのセッションはとんだものになりそうだった。
 しかし、遊夜の指示はかなり的確だった。
 まず、最初の目印を探す。それを基準点に東西南北を設定し、周囲を探索していく。その合間に、他のエージェントたちから得た情報を整理し、わかりやすくS・Aに伝えてくる。
『タイムリミットは三時間だ。出来る限り同時解放を狙おう』
「そうだな────、ん、あの林の先に何か光るものがある」
『キューブか……そっちは、御童さんたちのPLが向かっている方向とは逆だ』
 少し考えるような遊夜に、S・Aの口からは思わず言葉が飛び出していた。
「そう遠くないし、大丈夫だ。俺もゲーム世代だしな。それに、これでも運動は得意なんだぞ?」



●若葉とアキ
「俺達は動けないのか」
 キューブの壁を叩いてみる皆月 若葉(aa0778)。
「……動くのは一般人、十分注意しろ」
 ラドシアス(aa0778hero001)の警告に皆月は頷いた。
 ふたりの写真と名前、使用可能スキルを書いたキャラクターシートの上部にはPL名が書いてある。
「アキ」
 皆月が読み上げると、キューブの壁のひとつ、PLを映したモニター上で、ひとりの女性が小さく呻いて目を覚ました。
「こんにちは、アキさん。俺たちがあなたのPCの皆月若葉と英雄のラドシアスです。宜しくお願いします」
 立ち上がったのはパンツスーツをきりりと着こなした女性だ。彼女は真面目そうで、そして若葉より十ほど年上に見えた。向こうからはこちらは見えないはずだが、彼女はにこりと笑みを浮かべた。
『お互いに面倒な目に合っちゃったね。アキです、よろしく』
 ────いい人そうだ。
 ほっとした皆月がラドシアスを見ると、彼も同じことを感じたらしく頷いた。
 『アキ』は小さな洞窟の中に居たようだった。そこから這い出ると皆月の質問に答える形で周辺の状況を伝えた。それをラドシアスがノートパソコンに入力する。
「1人は危ないから合流してキューブを目指しましょう」
『了解、向こうね? ……ふふ、ゲームに入れるなんて感激です!』
「それ分かるかも」
 自身もゲームが好きな皆月が同意する。
『だよね♪ 折角だし色々見たいわ!』
 アキはテーブルトークRPGの初心者らしく、こんな自由度の高いゲームは初めてだと言う。
「テーブルトークRPGがこんな感じかはわからないけど、今は俺たちがサポートします」



●和馬とまさお
 一方、キューブ同志の通信機能でラドシアスと会話しながら、その背後で交わされるアキと皆月の楽しげな会話を聞いていた鹿島 和馬(aa3414)はどんよりとした顔で相棒の俺氏(aa3414hero001)を見た。
 現在、和馬のPCモニターでは、198cm、128kg、バンダナを巻いたオーク似の巨漢がアニメ『まじかおてぃっく★ぶれいにゃ』について熱弁をふるっていた。
『このTシャツに目をつけるとはwww 普段着ですぞwww』
 彼が和馬のPLである『もりお』である。彼の着ている魔法少女をプリントしたTシャツについてうっかり触れてしまったがために、和馬と俺氏はさっきからずっともりおの『まじかおてぃっく★ぶれいにゃ』トークを聞いていた。
 曰く、『まじかおてぃっく★ぶれいにゃ』は異世界から来た女の子が魔法の力で凶器を複製して悪者をハリネズミに(中略)H.O.P.E.芸能課の職員たちが英雄のイメージアップのために制作した番組らしい。
「なあ、それは今、語るべきことなのか?」
『そこまで極めて、初めて待望の初回特典付きブルーレイボックスを手にする権利がwww』
「おい、話、聞けよっ!」
「俺氏達のネット友達に良くいるよね、こういう人」
「……相手すんの慣れてる自分が微妙に嫌だぜ」
『そんな訳で、着心地が良いから着ているだけですぞwww 拙者はオタクではござらんのでwww コポォ』
「時間無いから、そろそろ出発しようぜ。テーブルトークRPGやったことあるんだろ?」
 和馬がそう言うと、もりおは自信満々に口を開く。
『ゲームもテーブルトークRPGも嗜み程度にはやりますぞwww 拙者これではまるでオタクみたいwww』
 ────和馬は知っている。ここを突っ込むと長くてメンドクサイやり取りに突入する。
「どうやら今回のメンバーで唯一の経験者だ。頼りにしてる。下手に動き回っても危なそうだしな。スキルで偵察しとこうぜ」
「上空から仲間を探せば良いよ。あと、地形も見ておこうね」
 俺氏の助言に従って、もりおに《鷹の目》の使用を指示する。
『なんと! これは鷹でござるwww 鳶ではないでござるよwww』
 ────和馬はこの手のタイプの人間に慣れている。だが、やっぱりちょっと面倒くさかった。

「ほほぅ、ずいぶん近くにキューブがあるようでござるなwww 距離にして一メートル」
『近っ!?』
「高さwwwにしてwww五メートルほど上空にwww」
『ほどじゃねえよ』
 もりおは目の前の崖を見上げて言った。キラキラ輝いているキューブが見える。
「あと、白い大根の着ぐるみのようなものが見えるでござるなwwwまさか着ぐるみwww」
『それは、鹿だね』
『それ、俺らじゃねぇか!』
「ブフォwww まさかのwww まさかのwww」
 ダイスの悪戯か、もりおは和馬の真下に居た。
『すぐ来い! いや、他の皆が解放されてからか』
 俄然、張り切る和馬だったが、それにもりおが声を上げた。
「正直運動は苦手ですぞwww 膝に矢を受けていなければwww デュフフ」
 何しろ五メートルの崖である。リンカーでもない一般人が登るのはきつい。
『あー、そうだよな。でも、回り道とか探せばあるんだろう?』
「拙者、勾配二度の坂は登れないでござるよwww」
『何度なら登れるんだ』
「オウフwww拙者のステータスですかwww」
 最年長のPLは言った。
「坂道は避けよと家訓で決まっているでござるwww」



●晴明とカタナ
「アンタのキャラクターって言うのか、土御門だ」
「天狼なのだ」
『あー、そうなんだ。へー』
「モンスターとかも出るみてェだから、その時は逃げろよ」
『ふーん、わかった。それにしても、出現ってどうなるんだ? 初期DQみたいに突然現れる型か現在みたいにアイコン的なものがあるのか――』
 土御門 晴明(aa3499)の忠告に彼らのPLである『カタナ』は何やらぶつぶつと呟き始めた。
「……大丈夫か、こいつ」
「ダメじゃないことを願うよ」
 晴明に軽く答える天狼(aa3499hero001)。
 ふたりは、晴明がノートパソコンを使い情報の整理を担当し、天狼がPLに指示を出していた。
「ソラ、カタナに方向指示を出せ、若干ズレてる。つーか、違う」
「うむ、わかった」
 カタナは瓶底眼鏡をかけた地味な見た目の青年だった。運動も得意ではないらしい。
 それが、何の因果か砂漠の真ん中に放り出されていた。
「砂漠は体力を使う。こいつにはあまり向かないだろう」

 晴明の居るフィールドへと向かうカタナへ、天狼の焦った声が響く。数体のゾンビがカタナを囲んでいた。
『カタナ、逃げるのだ!!』
「うっさいなー、分かってる。逃げてんじゃん……っ!?」
 しかし、その足はもつれて地面へと転がった。
 ひたひたとゾンビが近づく。
「ちょっ、ちょっと待って!」
『はぁ、カタナ、敵に武器を向けて立て』
 晴明の声と共に、カタナの剣に力が宿ったような気がした。
 ────《烈風波》。ライヴスの衝撃波が敵を粉微塵に吹き飛ばした。
「……はぁあっ、はあ────最初っから使わせろよ。ま、どうせ、僕なんてどうでもいいんだろうけど」
 思わず零したカタナだったが、すぐにその口を閉じるときまりが悪そうに立ち上がった。



●合流
 海辺のキューブは紗希とカイの閉じ込められたキューブだった。
 ララロロとダークはその前で顔を合わせた。
 キラキラとしたヴィジュアル系のダークの姿を見て一瞬唖然としたララロロだったが、対して、ダークは悠然と微笑んで頷く。
「共に世界を闇に閉ざした敵を倒そう」
「えっ」
 運良く、なのか。その時、スライムたちが襲い掛かって来た。
「任せろ! いでよ! 切り裂き卿!」
 アニメのようなポーズで剣を構えるダーク。
「はぁー! 鮮血の歯車!」
『怒涛乱舞にンなカッコ悪い名前付けんなぁ!』
『いやぁぁ!』
 カイと紗希の絶叫がキューブの中に響いた。


 《潜伏》をしたもりおは地形観察を続けながら、少しずつ坂を上っていた。
『スマホに表計算ソフトあんだろ? あれで簡単に地図でも作っとけよ』
 ノートパソコンを持っていない和馬は俺氏に指示をする。細かい地図は遊夜や皆月が造っているらしい。
『もりお氏が何かありそうと思うなら、それも記録しておいてね。ゲーマーの勘ってやつかな』
 俺氏の言葉にフヒーフヒーという荒い息遣いが答える。
「だったら、坂の途中の、石像が怪しいでござ……るw……ww」
 立ち止まったもりおが洞窟の並ぶ岩場に忽然と現れた石像のうち一つに組み付いた。
「おい?」
 ガッコン、と音がして何かが飛び出した。
「フヒー、アイテムゲットでござるよwww」
 もりおが得意げに掲げたのは一本のショートソードだった。もりおがそれを拾い上げた瞬間、世界が歪み────。
「う、うわああ」
 坂から転げ落ちたもりおの目の前に上空から何かが落ちて来た。
 ドスっ!
 岩場から林へと変化した世界。そこで目の前に落下して来た和馬のキューブに、汗だくのもりおはオープンフィンガーグローブを嵌めた手でサムズアップした。
「ゲーム、クリアでござるwww」


「……ん、見てるだけは、つまらない」
「ここまで歯がゆいとはな……」
 しょんもりとしたユフォアリーヤの隣でPLを映した画面に張り付く遊夜。
 PLがPCのスキルを使えるとは言え、彼らはジャックポットであり、現在、使用可能な近接戦闘用のスキルは無かった。

『《トリオ》や《フラッシュバン》は一回しか使えないから気を付けてくれ。すまんが、頼む。S・Aさん』
 遊夜はS・Aを心配していたが、だが、S・Aは知恵と持ち前の運動神経を生かして先へと進んでいく。スライムなら先手必勝、角ウサギは引き付けてからぎりぎりで避けて角を樹木などにめり込ませる────そういった戦略で敵を撃退していた。もちろん、危険な際にはジャックポットのスキルも使用した。
「レベルは上がらないのか」
 そんなことでがっかりする彼に、遊夜もつい笑ってしまう。
 慎重に探索範囲を広げていたため、そう離れていないはずなのに、すでに地形も二度ほど変わっている。
「大丈夫だよ、麻生さん」
 目の前にキラキラと輝くふたつのキューブ。そして、その前ではパンツスーツ姿の女性が立って手を振っていた。
「レア物げとーです!」
 晴明のキューブの側面を軽く叩いて嬉しそうに言うアキ。彼女は洞窟の続く岩場で春翔のキューブを、そして、ここで灰墨と晴明のキューブを発見していた。
 その時だった。ぐにゃりと世界が歪み、さっきまで砂漠だったそこはごつごつとして洞窟へと変わってしまった。途端、険しい表情へと変わるアキ。
「同じ場所、何度も通るの嫌じゃない?」
 だが、ラドシアスが口を開いた。
「二十分ごと、時計回りだ」
 ラドシアスは世界が変化する度に時間を計り、変化を随時記録記録していたのだ。彼によれば世界は四つのフィールドに別れ、二十分ごとに時計周りに風景が変化しているのだという。
「へえ、じゃあ、次は一週して林に戻るわけか。ということは今、一時間経ったということかな」
 丁度その時、海上から林へと変わった海辺でララロロが皆月のキューブを、砂漠から海辺へと変わった砂浜でダークが遊夜のキューブを見つけたと連絡が入った。
「これで、全部か────」
 報告を聞いてPCもPLも一息つく。
「PCと合流したPLはもうその場所を動くな」
 晴明が厳しい口調で言う。ドラゴン登場までもう一時間を切っていた。


「……ふう、お疲れさん。助かったぜ、ララロロ」
「外でもまた会えたらいいね!」
 冷たいキューブ越しに顔を合わせた春翔とララロロが言葉を交わす。

「今度一緒に一狩り行こうよ。私、結構強いのよ?」
「機会があればぜひ!」
 アキと皆月はハンティングアクションゲームの約束をした。

「ようやく会えたな……後は頼む」
「ああ、任せとけ!」
 遊夜とS・Aは互いにキューブの壁越しに拳を合わせた。

 ────そして、合図。

 キューブに触れたPCたちの姿は消え、同時に空を震わすドラゴンの咆哮。
「あれか」
 春翔は洞窟の一つから這いずり出して来たドラゴンを確認すると、スマートフォンで仲間たちに連絡した。
 近場に居た遊夜、紗希、そして、遅れて晴明が着く。共鳴した紗希がドラゴンへと向かうと、遊夜と晴明は銃で援護をした。
「弱い」
 キューブから脱出するまでの方がどれだけ大変だったか。
 一方、皆月、和馬、春翔はPLたちから引き継いでエリア探索を続け、ファンタジーゲーム風のフィールドを駆け回る。



●クリア
 すべてが終わって、疲れ切ったエージェントたちは思わず草むらに身を投げ出した。
「……疲れた」
 晴明が思わず零した。
「ボクも」と天狼。
「はぁー、なんかどっと疲れたぜ。自分でやった方が色々楽だわ」
 そして、和馬も一緒にぼやく。
「でも、助けられて良かったね」
 俺氏の一言に、エージェントたちは一瞬黙った。
「……だな」
 和馬は相棒ににっと笑って見せた。
「……あれ、一般人だったんだよな」
「らしいね。もしかしたら、会うこともあるのかな?」
「かもなァ」
 晴明と天狼は顔を見合わせた。
「灰墨さん、見つけて来たぜ」
 カイが一人の青年を引き摺って唯一残ったキューブの前に現れた。『ドルイド』だ。厨二病をこじらせた彼は一人、ドラゴンを求めて旅立っていたのだ……。
「頼む」
 キューブの中の信義は沈痛な表情でそう言った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
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