本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】メガコーポぶらり旅

若草幸路

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/24 11:20

掲示板

オープニング

●ブリーフィングルーム
「やはり一般人救助が優先なので、こういった任務は後回しになりがちなのですが」
 オペレーターはそう前置きを述べると、一冊の本を取り出した。テーブルトークRPGのルールブックとおぼしきそれは、角が鈍器になりそうなほど分厚い。
「サイバーパンクで戦闘が本格的、らしいですよ。私はその方面には詳しくないのですが、まあSFモノの…… AからB級映画のようなビジュアルを想像していただければ。そして今回は、愚神のゾーンと化したこの世界を探索していただきます」
 本から取り出したその地図が、妖しくうねった気がした。設定や町並みが詳細に描かれたそれは、しかし全体像を把握するには情報が不完全だ。柔軟な運用のために、わざと空白を作っているようにも見えた。先遣隊の記した資料を読みながら、エージェントたちはこのゾーンの世界観を把握し、準備を整える。

「では、ご武運を。地図はできるかぎりでいいんです、無事に戻ってきて下さい」

●ブリーフィング? ルーム
「やはり暴徒鎮圧が優先なので、こういった依頼は後回しになりがちなのですが」
 無機質な音声がそう前置きを述べると、テーブルの中央に映し出されていた立体映像が変化する。エージェント達の世界に居るアイアンパンクたちにも似た、しかしずっと禍々しいオーラを放つサイバネティクスを体に埋め込んだ者たち、異様な視線が嫌な印象を残す煌びやかな服の者たち。そして、立体映像の縮尺からみてもその巨大さが伺えるロボット。それらがくるくると、エージェント、いや、《プレイヤーキャラクター》の視線に晒されながら回転していた。
「本格的ないざこざではありませんが、この街によからぬ連中が――まあ貴方がたもよからぬサイバネの流れ者ですが――うろついています。依頼はそれらの排除。生死は問いません」
 そして音声は無感情に報酬と免責事項を長々と述べてゆく。それを耳にしている者達は、それぞれぬかりなく装備と共鳴を検分していた。結果、多少見た目が変わってはいるが、何かを剥奪されたりはしていないようだとわかり、誰ともなく安堵のため息が出る。あとは、どれだけ調査を首尾良く進められるかだ。

「では、ご武運を。今回のノルマは――」

解説

●お知らせ
ミッションタイプ:【エリア探索/敵撃破】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●任務
 サイバーパンクなテーブルトークRPGのゾーンで、サイバネ流れ者として街の警邏(という名の戦闘シナリオ)を隠れ蓑に、街をマッピングすること。
 一定数の従魔(『能力者の人数×8面ダイス(最低保障:1人につき3)』でランダムに決定)を倒すまでにできるかぎり広範囲を探索・記録してください。倒した従魔が規定数に達すると、自動的に探索が終了します。

●出現従魔(上から順によく出てくる)
 ・サイバネチーマー(ミーレス級。物理・魔法ともに近接攻撃のみ、特筆すべき習性無し)
 ・ヤカラエスパー(ミーレス級。魔法での中~近距離攻撃の他、仲間を呼ぶ習性がある)
 ・ソノスジノロボ(デクリオ級。物理攻撃のみ。動きは鈍重だが頑丈。道を塞いでいることが多い)
 ・ゾーン警備ロボ(デクリオ級。遠距離魔法攻撃メイン。遭遇確率は低く、倒すと敵撃破の成功度にボーナス。ただし倒れる際に他の従魔を大量に呼ぶ)

●街について
 ・ルールブックに付属の公式マップ「メガコーポ」。A3用紙に世界や施設の設定がびっちり書かれているが、大きさなどはふわっとしている。そのため、ゾーンになった際にそのあたりがどうなったかが不明。
 ・PCはマップの中央、OPの部屋のある《就業斡旋センター》から出発します。先遣隊の調べた部分は自動で避けるため、重複は気にしなくて構いません。

●ゾーンルール
 ・常に共鳴状態。(途中で共鳴をやめるとゲーム放棄とみなされ、はじき出されるという報告があります)
 ・アイアンパンクでない者も、メカが体にくっつく見た目になります。アイアンパンクはよりパンクでサイバーな感じに盛られます。
 ・言動が勝手にパンクやロックになったりする場合があります。

リプレイ

●お宿代わりにセンターを
「今回のノルマは――39体」
 電子音声にそう告げられたのち、サイバネ流れ者に扮したエージェントたちは《就業斡旋センター》から、任務――警邏を隠れ蓑にしたマッピング――を遂行するべく、動き出した。
「ドロップゾーン内ですから、回線が生きておりますかどうか」
 司令塔という名目でセンター内に残るファリン(aa3137)が、地上へ分散していった仲間へ連絡を繋げようと試みる。ほどなくして全員と回線が繋がったことに、彼女は知らず安堵のため息を漏らした。
『使えるのは……持ち込みのライヴス通信機と、手持ちのスマホを許可されたのみか』
 共鳴しているヤン・シーズィ(aa3137hero001)は、[権限がありません]と無情な警告画面を出している操作パネルを、ファリンの視覚でもって睨みつける。監視カメラもマッピングシステムも、今のエージェント達には使用を許されていない。
『センターだというのに地図すら出せないとは……』
「仕方ありませんわ。本来なら私たちもここを出て戦闘をしなければいけないはずが、回復拠点として部屋の使用を許可されている身分。ゲームマスター……いえ、ゾーンのルールが下した温情に感謝しなければ」
 そのゾーンの流儀に従って、見た目が機械化したファリンの兎耳と尻尾がキュイン、と揺れる。そして、メタリックな装甲に彩られた指が優雅に動いた。
「それに、マッピングには問題ありません」
 幻想蝶から取り出された紙が、ふぁさっ、とテーブルの上に広げられる。元の設定、そして先遣隊の情報を元にした地図だ。次に色とりどりのクレヨンを取り出しながら、ファリンは誰にともなく、口角を上げてみせる。
「洗練されたアナログの力を、証明してあげましょう」

●巡れメガコーポ
 駆ける、駆ける。サイバネを纏った流れ者たちが、その任務もそこそこに、世界を明らかにせんと駆ける。

「クロウ、霊子迷彩を」
『OK、ミチル』
 [霊子迷彩モード:起動]と視界に文字情報が写り、セーラー服の少女が《潜伏》を用いて闇に溶けた。サイバネセーラーシノビ・国塚 深散(aa4139)と、その相棒の戦闘補助AI・クロウこと九郎(aa4139hero001)。
「五感共有ドローン」
 深散のメタリックな腕部装甲、否、義肢からガシュン、と何枚かの板が飛び出した。それが組み合わさると、鳥に擬せられた飛行物体が出現し、甲高い電子音が続けざまに鳴る。九郎が髪飾りの鈴から発する音を用いてAI風の口ぶりで語ると共に、二人は鳥型ドローンにライヴスを循環させていく。
『OK、起動の意志を確認。シンクロ率、30%――50%――』
「――シンクロ率100%。偵察を開始します」
 鳥形ドローンこと《鷹の目》が高く飛ぶ。そこから得られた情報――敵の数とたむろする暗がり、障害物の多寡、そして数を減らしておきたいゾーン警備ロボの所在――をファリンや仲間たちへと伝え、そして深散自らもエリアを精査すべく、闇から闇へ走り抜ける。途中何体かのサイバネチーマーに出くわしたが、闇に溶け込んだ深散たちに気づくことはなく、交戦は避けることが出来た。だが、自分の担当するブロックの探査が終わろうかと言う頃、霊子迷彩、いや《潜伏》の切れた瞬間に、運悪く立ちふさがる者達がいた。不健康そうな肌、綺羅を纏う姿――ヤカラエスパーたちだ。4対1という状況を有利と判断したのか、妙な形の印を組み、火球を飛ばしてきた。
『パイロキネシス、というわけだね。けど、僕らに付いてこられるかな?』
 九郎の言葉を合図に、深散が地を蹴った。その脚は"韋駄天"――性能引き上げに高出力という安易な方法を選ぶのではなく、人工筋肉の構造を見直した、繊細な調整と爆発的な加速力を得た義足。《ジェミニストライク》での分身に攪乱されたヤカラエスパーには、まさしく分身の術と映っただろう。驚愕の表情を見せた彼らを、深散は――
「恨みはないが任務のため、お命頂戴つかまつる!」
 ――忍刀として極限まで静音化が施された改造EMスカバードでもって、首をはね飛ばした。
「一の太刀」
『二の太刀』
「三の太刀」
『四連斬、そして残心!』
 イィヤッ! という気迫の声だけが、人気の無い路地に響く。ヤカラエスパーの四つの頭部が、声を出すことも叶わぬまま口を開いて転がっていた。それを確認した深散は刀をひとつ素振りし、ちん、と納刀する。
「……報告です。従魔4体を撃破」
『はい、規定数まであと35体ですわ。《鷹の目》の情報、ありがとうございます』
「ゾーン警備ロボは今のところ1体発見、その近辺はソノスジノロボが多いようです」
『ええ。ですので、そちらには連携して向かっていただいております』


 連携チームには3人が充てられ、それぞれが隣り合ったブロックを探索している。移動の障害となるソノスジノロボを撃破すべく、それぞれがファリンの指定したポイントへと急行していた。
「初めてのTTRPGが依頼になっちゃうなんてね」
 その一人、楠葉 悠登(aa1592)が機械に変じた右腕と、きゅるきゅると動作する左眼を感じながら苦笑すると、共鳴しているナイン(aa1592hero001)が心中で首を傾げた。
『ダイスは振らないのか』
「うん。でもサイバーパンク世界の住人を演じるのは楽しいかも。『街の警邏か。俺たちみたいなサイバネ流れ者にはお似合いだな』――どう?」
『うん、いい感じだ悠登。……これで命がかかっていなければ、もっと楽しめたのにな。』
「そうなんだよね……気は抜かないようにしないと。じゃ、がんばろ!」
 そこかしこに電子的なコードが加えられたロングコートを翻し、駆ける。集合地点まで、あと100m。

「今となっては珍しいジャンルになってしまいましたけど、昔はそれなりに流行ったんですよね」
 仲間の合流を待つ晴海 嘉久也(aa0780)が、感慨深げに狭く暗い空を振り仰いで詠嘆する。エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は、その300kgをゆうに越える赤黒いロボット――外骨格型戦闘用サイボーグ――の見た目と普段通りの共鳴感覚とのズレを調整しながら、昔? と問う。
「ええ、それはそれは昔です。さて、この世界は……今話題のおはぎと羊羹がある、ですかね」
『えっ、昔なのに今話題……SFにおはぎ……? ともあれ、用心深くいきましょう』
 この世界を堪能しているらしい嘉久也に、エスティアは戸惑いながらも魂の裡で柔らかい表情を作る。もっとも、これから赴くは電磁の修羅界。それも昔ながらの合成肉と違法薬物のメガコーポではあるのだが。やがて二人の魂は沈黙し、その感覚は戦いのために研ぎ澄まされていった。

「ラシル、どう?」
 月鏡 由利菜(aa0873)が合流のために跳ねるように走りながら、少し困った様子で問う。
『戦闘は問題ない。……だが、どうしてもネルトゥスの錬成が……この姿で戦うしかなさそうだ』
 共鳴中のリーヴスラシル(aa0873hero001)は心底困惑した様子で答える。彼女いわく『上手く行かなかった』そのサイバネはメカ少女めいた、肌もあらわなボディアーマー。両の太股は硬質なパーツの輪で飾られており、その上にあるコルセットじみた腰部装甲は華奢なウエストを更に硬質に引き締めて、その豊満なバストを強調している。サイバーパンクでもあり、ちょっと宇宙で海賊ギルドと一戦交えそうな雰囲気でもあるセクシーさだ。《リンクコントロール》でリンクレートを上げると共に何度も修正を試みているのだが、これ以上露出度が下がらない。このままこの世界を切り抜けるしかなさそうだった。
「……は、恥ずかしいですけれど、仕方ありませんね……」
 駆ける姿にヒュウ! と道端から口笛が飛ぶが、由利菜は恥じらいながらも無視して走り抜ける。すまない、とラシルの声が脳裏に響いた。
『疲れているんだろうか……』
「無理もありません。緊急依頼が立て込んで、バイトのシフトも思うように組めませんし……」
『悩ましいな……だが依頼が多い分、私達の成長も早くなる』
 生活も大事だが、エージェントとしての成長も最優先事項である。言葉の裏にある『最善を尽くそう』というラシルの思いに応えるように、由利菜は自分を待つ二人の元へ駆けて行く。

 合流してからの戦いは熾烈をきわめた。
 ソノスジノロボはその鈍重な巨体から周囲のビルを打ち壊すほどの強烈な打撃を繰り出し、その騒ぎに吸い寄せられたサイバネチーマーとヤカラエスパーが野次馬の如く加わる。更に近隣ブロックからの加勢とみられるもう1体のソノスジノロボの登場と、戦場は混迷の様相を呈していた。悠登が予め2人に付与していたリジェネ―ションも、そろそろ効果が切れそうになっている。3人の心にちり、と焦りが浮かんだ。
「ロボとエスパーを優先して倒し、残りの雑魚は撒けるなら撒きましょう! 撃破数の増加は抑えないと!」
 16式60mm携行型速射砲でソノスジノロボたちの胴体を撃ち抜きながら、嘉久也が叫ぶ。
「了解! ……従魔、殺すべし!」
『プリエール、悪ノリの増幅は要らん!』
 由利菜が距離を取って極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』、固有名《プリエール》で追い打ちのビームを放つ。本型ではなく腕に仕込まれたレイ・ガンと化したそれを制御するリーヴスラシルのツッコミは、しかし2体のソノスジノロボが倒れる轟音にかき消えた。
「わらわらわらわら……こ、のっ!」
 ロールプレイをする余裕もなく、悠登がフラメアでヤカラエスパーたちを刺し貫く。一人、二人。嘉久也の射撃も手伝い、そこからの殲滅は早かった。敵の増援が途切れたのを見逃さず、長居は無用と3人はさらに遠く、未探査の外周部分へと全力で駆け抜ける。
「追ってはこないみたいですね……」
 後ろを振り返りながら、悠登がケアレイで嘉久也の傷を癒やす。装甲の傷がふさがっていく光景を見つめながら、嘉久也はファリンとの通信回線を開いた。
「こちら晴海、チームでの交戦を終了。撃破数は、」
 すっと視線をはるか後方に去った戦場へと滑らせる嘉久也に、エスティアが静かに嘉久也に証言する。
『ソノスジノロボが2体、サイバネチーマーが4体、ヤカラエスパーが6体です』
「……合計で12。乱戦で仲間を呼ばれたのが響きました」
 ファリンはその通信機越しの報告で、嘉久也と、共鳴しているエスティアもが、歯噛みしているのを感じた。なるべくなんとでもなる、という雰囲気を保って、返答を返す。
『規定数まで残り23体、まだ余裕はありますわ。みなさまは、ブロックの探査を終えた後にゾーン警備ロボの発見された地点へ向かって下さい』


 その騒ぎのおかげだろうか? 他の地点で動く者たちは、より気配を隠しやすくなっていた。今のところ本格的な交戦には至らず、探索を順調に進めている。
『ふわー、これが未来世界というものなんですか?』
「そう、未来のひとつの形だね。詳しくないけど、二つで充分ですとか怒られるらしいよ」
 記録を取りながら、リディア・シュテーデル(aa0150hero002)がゾーンの異彩を放つ光景に驚いているのを、志賀谷 京子(aa0150)が脳裏で相槌を打つ。普段の気品溢れる姿は所々が機械的なパーツで飾られ、普段は羽根があしらわれた弓も機械的なエネルギー・ボウに姿を変えている。
『なにが2つなんです?』
「さあ……財閥と、ヤクザ?」
 ここにオペレーターがいたら、きっと正確なことを教えてくれただろう。だが今はそれは後回しだ。こちらを見ている影がある――サイバネチーマーたちだ。そっと建物の影に隠れて撒こうとしたが、距離が近すぎる。ほどなくして気配を気取られ、こちらに駆け寄ってくる相手から逃げる格好になった。
『追いかけっこが始まっちゃった!』
「ホントは面倒だし倒したいけど……」
 ここはやり過ごさなければいけない。もう自分たちが大規模な交戦を許される余裕はないと、先ほど連絡があった。移動力の差は歴然としているが、走る間にもヤカラエスパーを含め、道々から飛び出してきた敵影が増えている。数の暴力を切り抜けるにはあれしかない、と京子は足に力を込めた。
「行くわよ、用意はいい?」
『はい!』
 スピードが上がる。感覚をも共鳴させる勢いで、走って、走って、勢いをつけて、衝突する直前、壁を用いて、垂直に、
『大ジャンプ、です!』
 ひゅ、と眼前からかき消えた少女に、サイバネチーマーは狼狽えた。暫くはあたりを探し、そして悔しげに散ってゆく。――京子はすでに、比較的低い雑居ビルたちの屋上を跳んでいた。4mの垂直ジャンプからの、建物を利用したパルクール的移動で、道を記録してゆく。
「アデュー! 縁があったらまた後で相手してあげるね!」
 あくまで聞こえないことを確認してのち《リンクコントロール》で先に備えながら、そんな怪盗のような台詞をのたまう。より多くの情報を盗み出すために、京子のシルエットがメガコーポの空に躍った。

『なんだろう……便利そうな物が沢山あるけど、生きにくい感じがする』
「それがこういう世界のテーマだからな」
 銀髪と赤眼、そしてそれに合わせて誂えたかのような白銀と藤色のサイバネ装甲が輝く。それらの輝きすら霞む繁華街を往きながら、御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は一定の速度で歩みを進めていた。
『なんか、ごちゃごちゃした街だね。自然も少なくって、ボクは好きになれないな』
「確かにな。区画整理がされた地区は楽だが……」
 恭也はすっと繁華街の脇道を横目で探る。区画整理の行き届かないその小道たちは、障害物や違法建築の壁に端々が遮られ、迷路に等しい状態となっていた。繁華街を抜けると寂れた住宅地区。そしてさらに進むとやがて、[これより先コーポ外:汚染区域注意]と記されたフェンスが現れた。それを見つめながら恭也は回線をファリンに繋ぎ、報告を始める。
「――外周までの距離はそうないようだ。ああ、残りはさらに細かい部分を探る」
 報告を終えると、戻りは小径を行きつ戻りつしての精査だ。不意の障害物によって音が出てくる場面が増えるのを予期して、よりゆっくりと、慎重に進んでいく。途中で出くわしたサイバネチーマー3体を、騒がれる前に即座に仕留められたのは幸運だった。指先から肘までの長さを利用して詳細な高さの記録を取る恭也の脳裏に、疑問を帯びた声が響く。
『大通りは記録してるんだし、ここでまで計らなくてもいいんじゃない?』
「かも知れんが、念のためだ。小径になればなるほど、三次元情報の方が役に立つ可能性がある」
 現地情報の有無で、戦況に天と地ほどの差が出る。そのことを身をもって知っている者の言葉だ。伊邪那美はふうん? と、わかっているのかいないのか微妙な返事を返す。その声色を咎めるでもなく、恭也はふと呟いた。
「……この機械がなければ、もっと捗るんだが」
 恭也は普段よりもより鎧武者然としているような装甲と、その隙間にある機械パーツを確かめながら憮然とした表情をする。
『うん? 特に動きを阻害してはいないよ?』
「確かにただの飾りだが、普段無い物があると妙に気に掛かって集中しきれん」
 なるほど、やっぱり生きにくい。過ぎたるは及ばざるがごとし! と伊邪那美は恭也の脳裏で腕を組み、うんうんと頷く。早く終わらせたいね、と声をかけると、そうだな、と言葉少なに肯定が返ってきた。

『共鳴してっと見えねぇんだよなぁ……鏡ねぇかな鏡。お前の姿想像するだけで最高に面白ぇわ』
「…………」
 伽羅(aa4496hero001)の煽りに無視を決め込む黒鳶 颯佐(aa4496)。その姿は特に奇怪ではなく、長身に伽羅色の瞳、そして伽羅の香りを纏う黒髪の青年だ。服の隙間から覗く四肢の金属パーツ、そしてその大きな立て襟のジャケットは、禁欲的かつ破滅的な雰囲気を纏っていた。
 サイバネ流れ者としては長生きできないだろう、と言われてしまうであろうその出で立ちで、颯佐は静かに手持ちのスマートフォンを起動させる。地図ソフトは軒並み死んでいるものの、方位磁針アプリはかろうじてその機能を保っていた。ファリンから送られてきた地図を記憶にたたき込み、手元にはマッピングした部分のみを記すにとどめる。その歩みは、やはり計測距離を狂わせぬように一定に保たれていた。
『戦闘は極力回避だぜ、回避。分かってんのか颯佐ぁ』
「分かってる」
 ぬかりなく気配を探り、サイバネチーマーの群れを避け続ける。距離を過たず路地を記録し、送信し、黙々と歩み続けた先には、外周とおぼしき開けた場所にたどりついた。壁のそそり立つその場所へ続く道を、ガードマンよろしくソノスジノロボが塞いでいる。
「……!」
 颯佐の喉がかすかに鳴った。こちらに背を向けているソノスジノロボの視線の先に、見慣れない二脚ロボットがいた。俊敏そうなその足を踏み鳴らしながら、敷地を巡回している。その仕草は、壁に傷みがないか念入りに点検しているようでもあった。
『先遣隊が書き記したゾーン警備ロボの情報と一致、他の奴らの情報とも合ってるな。……地図は?』
「本部、進捗状況を頼む」
 通信で問うた先には、ファリンが携帯の画像と報告を照らし合わせ、紙に何事かを書き込み続けているようだった。ほどなくして、ペンを置く音と共に明るい声が返ってくる。
『先遣隊と合わせまして、シナリオ制約による到達不能箇所以外、全体にして95%以上のマッピングが完了していますわ!』
「突入可能か?」
『いえ、警備ロボは倒すと大量の従魔を呼びます。ひとまず待機を』
「……了解した」
 接近する仲間たちの位置報告を通信機越しに聞きながら、じりじりと時を過ごす。颯佐の尋常ではない気配に、伽羅が静かに声をかけた。
『万一特攻しそうなら、引っ込めるからな』
「するわけないだろ」
『本当かよ? そこんとこがイマイチ信用できねぇんだよなぁ、お前……』
「……五月蠅い」
 颯佐はそこで会話を打ち切る。ずけずけと不信を口にする伽羅には苛立つが、さりとてそれを否定できるわけでもない。それに、もう皆が揃う時間だ。振り返ると、悠登と由利菜が少し遠くに控えているのが見えた。直後、『GO!』とファリンからの短い号令が入った。不意を突いた三人の連撃でソノスジノロボの巨体が倒れ伏したのを聞きとがめ、ギュイン! とゾーン警備ロボのカメラアイがこちらへ向いた。悠登が武器を構え直して、決然とした口調で火蓋を切る。

「さて、こそこそ動くのはこれで終わりだ。ここからは全力でいこう」

●抜けろメガコーポ
 ビルの灯りありてなお昏い宵闇の地、無人の工業地帯に閃光が立て続けに走る。ゾーン警備ロボが合流した6人のエージェントたちに雷撃を浴びせかけ、そして攻撃を躱していた。
『駆けずり回るのにも飽いた……屑鉄にしてやる!』
「……さ、さっきよりも殺意に満ちていませんか、ラシル?」
 実際リーヴスラシルは絶対殺す、いわゆる絶殺の境地であった。不本意にも由利菜をこのような扇情的な格好でいさせていることによる苛立ちが募っているのだ。無形の影刃を打ち直した美剣《シュヴェルトライテ》でもって《ライヴスリッパー》を撃ち込むが、動作不全を起こすには至らない。由利菜の顔がく、と歪む。
「脚だ、脚を狙え!」
 恭也が《一気呵成》を撃ち込むと、ゾーン警備ロボの鉄塊から生えた脚がバランスを崩す。その隙へ降り注ぐのは、攻撃の雨だ。身の丈を越すほどに巨大、かつ細密な機械造りのロングボウと化した悠登の雷上動が雅な大正琴の音を鳴らしながらエネルギー弾を撃ち込み、その切れ間を埋めるように接近した嘉久也のシュナイデンが、逆関節型の脚のコードを、モーターを、そしてベアリングを斬り潰す。閃光が止んだあとに響くのは金属やガラスの拉げる音どもだ。そして、徹底的に破壊されたゾーン警備ロボはその脚をヴィーン、と動かそうと試みるも、空しくモーター音を響かせるだけだった。やがて、明るくライトを輝かせていた胴体部の電源も落ちる。
「倒すと警報を鳴らすそうですが……」
『ええ、戦闘態勢を維持して――』
 その会話を遮るように、通信機越しのファリンの耳にも轟音がとどろいた。
「! これが従魔を呼ぶという……」
『……このけたたましさ、警報というよりは雄叫びのようだ』
 ヤンが苦言を呈したとおりに、その警報音は低く高く、ねじくれた地とビルに狭められた天を震わす。サイレンというよりは獣の絶叫じみたそれに引き寄せられ、既に見知った姿の従魔たちがぞろぞろと路地の影から現れた。
「サイバネチーマーが5体、ヤカラエスパーが8体、ソノスジノロボが1体……数で数を呼ぼうって算段か」
 恭也の苦々しげに吐き捨てられた言葉通り、敵はすでにこちらを誰何する段階にはなかった。ヤカラエスパーがそれぞれが仲間を呼ぶべく念を練り上げ始め、他の6体が手近に居る者へ襲いかかる。
「させるかッ!」
 《カオティックソウル》を発動させながら、いち早く奥へ跳んだのは颯佐だ。真っ只中に飛び込んでの《ウェポンズレイン》で、エスパーたちを貫き、そして焼き尽くす。だが、生き残った1体の反撃に態勢を崩され――折悪しく、そこへソノスジノロボの攻撃が降ってきた。手傷を負ったメタリック装甲の拳が、容赦なく颯佐の腹にめり込む。
「あぐ……っ!?」
『特攻したじゃねえかやっぱり!』
 目を見開いて打撃の苦痛を受ける颯佐から肉体の主導権を奪い、伽羅が防御態勢を取る。再び痛手を負わせようと両腕を振り上げた巨体は、しかしてその瞬間に頭を貫いた、赤いビームアローを撃ち放った少女に矛先を変える。
「ほらほら、こっちだよ!」
『今度はわたしたちが鬼ですよ!』
 京子はリディアと共に軽口を叩き、注意を引いて由利菜とともにソノスジノロボを撃破する。その隙に伽羅は戦線中央から下がり、颯佐の体でチョコレートを乱暴にかじった。道々で喧伝されていた合成品でもないのに、妙な雑味を感じる。口の中がおびただしく血で染まっているせいだ。若干霞んだ視界の先に残っている敵は、サイバネチーマーが2体と倒し損ねたヤカラエスパー1体、そして呼び出された新手のエスパー5体。
「これ以上、仲間を呼ばれてたまるか!」
 恭也が踏み込み、《怒涛乱舞》で新手たちを殴り飛ばした。綺羅がちぎれ、どす黒い血が宙を舞う。残りの3体が技の終わり際の隙を突こうと飛びかかるが、
「――諸行、無常っ!」
「37、38、39! これでラストですわ!」
 押っ取り刀で駆けつけた少女がふたりして、その首たちを斬り飛ばし、心の臓を弓で貫いた。途端、空に響く、いや、脳裏に"あの"声が鳴り響く。
「39体の討伐を確認。お疲れ様でした、今後とも良い就業を」
 電子音声が告げると、ふっと視界が切り替わり――VRの部屋に戻ってきた。それぞれが共鳴を解除し、大きく伸びをする者もいる。
「お疲れ様。……二重に就職するのは、これっきりですけれどね」
 そう言いながら、ファリンもぐっと背を伸ばす。共鳴を解いて隣に確かな存在としてあるヤンも、大きく息をついた。
「集まる情報では合成食品ばかりで、茶請けのひとつも無かったものな」
「ええ。ですが、アイアンパンクの気持ちを体感できたのは、奥ゆかしく粋でしたわ」
 そう言ってヤンに微笑みかけるファリンの耳は、ふわふわと柔らかい。そして手には、色とりどりのペンで書き込みが入った地図が握られていた。

●本当のぶらり旅のためにも
「配置も距離も、ほぼ完璧な地図! それにゾーン警備ロボを含めた39体の従魔を撃破……大戦果ですよ!」
 そう言って、オペレーターは常になく興奮した面持ちでエージェントたちをねぎらった。何度も礼を言う彼をようやく押しとどめて、ブリーフィングルームを辞去した面々の顔は様々だ。その中でも、ナインの表情は、乏しいながらもひときわ浮き立って見えた。
「悠登、るーるぶっくとやらが欲しい」
「そう言うと思ってたよ。でもプレイヤーが僕1人か~、ちゃんと遊べるかな?」
「問題ない」
 無駄にキリッとした表情で断言するナイン。
「もー、根拠ないでしょ! ……あ、そうだ、友達に声かけてみよう。放課後とかどう?」
「わかった」
 一拍置いて、決意と楽しみに満ちた声が響く。
「GMとして最高のシナリオを用意しなければな」
「えっ、そっち!?」
 思わず見上げたナインの顔は穏やかで、しかし真剣だった。底意地の悪い愚神に操られた世界ではなく、皆が楽しめる世界で、ぶらりと遊びたい。そんな思いが伝わってくるようでもある。その気持ちを汲んで、悠登はしっかりとナインに視線を合わせ、力強く頷いてみせたのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • エージェント
    伽羅aa4496hero001
    英雄|28才|男性|カオ
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