本部
二時間ドラマ探偵物語
掲示板
-
相談卓
最終発言2016/09/16 19:40:36 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/17 11:08:36
オープニング
●崖は登場しません
「犯人は、あなただ!」
探偵役の男が、犯人らしい仲居を指さす。
「あなたしかウェルカムドリンクに毒を入れられない。よって、あなたが犯人だ!」
それだけで? と言いたくなるような証拠と証言で「私が犯人です」と泣きだす、仲居。
次の瞬間にテレビに映し出されたのは――
『ホテルNEO。目玉は、誰でも主人公。ホテルの従業員が全力で、あなたの活躍をバックアップします』
という宣伝文句だった。
●名探偵サービス
ネットで調べてみると、ホテルNEOの目玉企画は客が『二時間ドラマの主役』に成りきれるサービスであった。客がホテルにチェックインする午後三時に従業員が死んだ芝居をするところから、このサービスが開始される。興味がでてきたので、詳しい説明を読んでみるとご丁寧に宿で起きる殺人の詳しい案内がでていた。
・第一の殺人
チェックイン後(午後三時)に、ロビーにておこる。被害者は、若い仲居A。客を案内しようとしたところで倒れる。死因は、不明。勤務中にも関わらず、ピルケースが持ち物より見つかっている。
・第二の殺人
午後五時に、開店前のバーで起こる。被害者は、支配人。若女将に発見される。割れたビンで胸を刺されて死亡している設定。
・第三の殺人
午後八時に、エステコーナーで起こる。個室の部屋で、従業員が男性客の死体を発見。この部屋は、昨日の夜十二時から本日の午後五時まで鍵がかかっていて、その間は誰も入れない。
最終イベント
・チェックアウト時(午前十時)に、探偵が犯人を指名する。
どうやら、上記の流れのイベントへと参加して事件のヒントを集めていくようだ。もっとも、ヒントはものすごく簡単なもので、宿側としては温泉ついでに推理ごっこを楽しんでください程度の考えらしい。だが、ここの宿には二時間ドラマファンでもいるのか、ご丁寧に探偵なりきりセットなるものまで貸出をおこなっているらしい。その貸出のセット内容が、バスツアーガイド衣装、刑事風衣装、カメラマン風衣装、昭和風探偵衣装などといったソレっぽい衣装ばかりだ。
「へー、希望すれば容疑者側に回れるのか」
さすがにコレは宿に事前申し込みをしなければならないらしいが、事前申し込みさえすれば友人の推理をミスリードできるとのことだった。これは上級者向きの楽しみ方のようで、ミスリードさせる友人が設定した犯人を推理するのがオススメの楽しみかたらしい。
他のサイトで宿泊者のコメントを見てみると、どうやら謎なんてあってないようなものでチェックアウト時に従業員を犯人と指名すれば必ずCMのようなエンディングになるらしい。なるほど謎解きというよりは、あくまで二時間ドラマの従役に成りきれるサービスのようだ。謎は月ごとに変更しているようであり、CMの内容と今月の内容は当然ながら違う。だが、今月の最優秀推理演技の客には、来月のCM出演権が授与されるらしい。
「……」
まぁ、それなりにヒマだし。
面白そうだし。
ちょっと魔がさして、ネットで宿泊の予約をしてしまったのであった。
解説
・第一の殺人
チェックイン後(午後三時)に、ロビーにておこる。被害者は、若い仲居A。客を案内しようとしたところで倒れる。死因は、不明。勤務中にも関わらず、ピルケースが持ち物より見つかっている。
・第二の殺人
午後五時に、開店前のバーで起こる。被害者は、支配人。若女将に発見される。割れたビンで胸を刺されて死亡。
・第三の殺人
午後八時に、エステコーナーで起こる。個室の部屋で、従業員が男性客の死体を発見。この部屋は、昨日の夜十二時から本日の午後五時まで鍵がかかっていて、その間は誰も入れない。
最終イベント
・チェックアウト時(午前十時)に、探偵が犯人を指名する。
容疑者従業員とその行動
若女将……(第一イベ)被害者に最初にかけよる。(第二イベ)泣きだす。会話の誘導よっては、支配人に隠し子がいたことが判明。(第三イベ)気絶。
ホテルの嘱託医……(第一イベ)被害者に駆け寄る。会話によっては、薬が心臓の薬であることが判明。(第二イベ)一番最後に訪れ、被害者の死亡を確認。会話によっては、被害者が婿養子であることが判明(第三イベ)気絶した若女将の介抱。
若い仲居B……(第一イベ)名前を呼んで駆けよる。錯乱しており、会話不能(第二イベ)他の客や従業員と共にいる。会話によっては、第一被害者と友人であったと判明(第三イベ)他の従業員と共に現れる。会話によっては、被害者の職業が記者であったことが判明。
若い男性客……(第一イベ)錯乱しており、会話不能(第二イベ)他の客と一緒に登場、会話によっては第一被害者のストーカーであったことが判明。(第三イベ)他の客と一緒に現れる。会話によっては、第一被害者が支配人の娘であったことが判明。
ホテル内部(右に行くほど、ホテルの奥にある)
一階……ロビー、大浴場(エステコーナー)、宴会、バー
二階……宿泊者の部屋
三階……宿泊者の部屋
四階……露天風呂
リプレイ
●午前三時~最初の殺人事件~
絨毯が敷かれた、広々としたロビー。いかにも温泉付きのホテルという趣で、玄関口では仲居や女将が到着した客たちに頭を下げてホテルを案内していた。
「あ~、楽しみだなぁ。一体どんな事件が待ってるのかなぁ」
『朝霞、不謹慎だぞ』
大宮 朝霞(aa0476)は、わくわくしながらロビーを見渡した。このホテルの一番の目玉は、探偵になりきれるイベントだ。ネットで見たときから、朝霞はそのイベントを楽しみにしていた。一方で、本物の事件ではないが『殺しを待ち遠しがるなんて……』とニクノイーサ(aa0476hero001)は若干あきれ顔である。
「……しまった、此処って温泉旅館、だよ……な。……タトゥーの所為で温泉自体は楽しめない……か」
レイ(aa0632)は、旅館の案内を見て若干がっかりする。
「でも、推理モノは……嫌いじゃない。温泉以外で楽しませて貰うか」
温泉には入れないが、暇つぶしには事欠かないイベントが発生するようだ。せっかくなので、自分はそちらに身を入れてみようか。
「イベントですか……。精一杯がんばります」
『殺人事件を解決するイベント……? おかしなものを考えるものだな』
おどおどしながらも白神 日和(aa4444)は、英雄のアーサー ペンドラゴン(aa4444hero001)の顔をみた。このイベントを彼が気に入るかどうかが気がかりなのだろう。
「きゃあ、Aさん。Aさん、しっかり!!」
和気あいあいとした雰囲気が、悲鳴によって崩れた。
お客様を迎えていた仲居が、突然倒れたのである。
早速はじまったか、と思いながらレイは医者と一緒に仲居Aを看病する演技をする。
「いきなり倒れたが、大丈夫なんだろうな?」
「……死んでいる。この子は、心臓病の薬を持ち歩いていたようだ」
医者は、転がってしまったピルケースを指さす。
『おっ。始まったようだな。思ってたより、騒がしいな』
叫び声を聞いたドール(aa4210hero002)は、特に興味を示すことなくチェックインの手続きをすませる。彼は積極的にイベントに参加する気はなく、温泉でまったりするつもりだった。ところが、隣にいたフィアナ(aa4210)は顔を青くさせていた。
「……! ねぇ。ドールっ人が……! ……なんでそんな冷静なのっ。事は殺人なのよ、笑い事じゃないのよ、ドールっ。警察を急いで呼ばないと」
大混乱のフィアナは、ドールの腕を引っ張って仲居が倒れた場所を指差す。どうやら、彼女は本気で人が倒れたと思っているらしい。旅館のパンフレットにもイベントのことは載っていたのに、あまりのショックで彼女の頭から飛んでいってしまったようだ。
にやり、とドールは笑った。
「警察は呼べないんだ。理由は。あー……拠所無い事情だ。それはもうどうしようもない理由がある。だから、俺らがなんとかしなきゃいけないんだ。良いな?」
ドールは笑いをこらえながらも、真剣な顔でフィアナに説明した。彼女は、ドールの真剣な表情に何か重大な秘密を感じ取ったらしく無言でうなずいた。
……あとで仲間たちには「フィアナに真実を教えるな」と箝口令をしいておこう。絶対に、面白いことになる。
「あれはなんですか? 人だかりができてますぅ」
メテオバイザー(aa4046hero001)は首をかしげると桜小路 國光(aa4046)は、よくぞ聞いて入れましたとばかりに説明を始めた。
「このホテルは面白いサービスだよ。みんなと楽しんでおいで」
『みんなでドラマみたいに犯人探し? 楽しそうなのです』
國光の目が、きらーんと光った。
準備完了。
國光の短いバケーションミッションが開始される。
「じゃ、いってらっしゃい」
國光は、夏休みに子供をプールに送り出す母親のようにメテオバイザーの背を押した。少しばかり乱暴な手ではあったが、國光にも言い分がある。この夏は忙しすぎたのだ。HOPEと大学の研究室を行ったり来たりで、夏休みらしいことができなかった。
「せめて、温泉でゆっくりしたいんだよね。ここの温泉の効能は、肩こり、虚弱体質改善、切り傷、擦り傷にも効くのか」
「せっかく旅館にきたんだから、のんびりしていかないとねー」
木霊・C・リュカ(aa0068)も温泉にうきうきしていた。
保護者代表としてイベントの内容にはざっと目を通しておくが、このイベントはチェックアウト時に犯人を指名する形をとっているらしい。
「お兄さん、皆の前で言っちゃうより先に自首を勧める展開の方が好きなんだよねー。ちょっと、ざんねんかな」
はぐれリュカは人情派であった。
「二時間ドラマか……。私って、殺人現場をたまたま見て次の被害者になりそうなタイプだよね……」
御門 鈴音(aa0175)は、ふぅとため息をつく。
大体十時あたりに殺されそうかな、と輝夜(aa0175hero001)に同意を求める。
「ところで鈴音。宿という事は美味い懐石料理は? 温泉は?」
輝夜の目は、らんらんと輝いていたが鈴音の話を全く聞いていなかった。
「ごはんも温泉もちゃんとでるよ。イベントの説明は、聞いてた?」
「無論。わらわが、悪人をお縄にかけてやるのじゃ」
イベントの趣旨を三十パーセントぐらいしか理解していないような気もしたが、鈴音は輝夜が楽しそうならばと思うことにした。
「大丈夫ですか! しっかりしてください! ケアレイします?」
朝霞は、倒れた仲居を揺さぶった。倒れているだけの仲居の顔が、どんどんと青くなっていく。
『……朝霞、あんまり揺さぶってやるな。苦しそうだぞ』
ニクノイーサが止めなければ、仲居は演技をあきらめていたかもしれない。だが、ぎりぎりのところで仲居は演技を続けることができた。
「……死んでるのね」
ようやく設定を受け入れてくれた朝霞に、ニクノイーサはほっとしていた。
『……そうみたいだな』
「『女子大生は見た! 湯煙温泉殺人事件簿』のスタートねっ!」
『これはピルケースか?』
オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が、落ちていた証拠を紫 征四郎(aa0076)に手渡した。朝霞とニクノイーサもそれを覗き込む。
『ふむ。これは、なにかの薬か?』
「なるほど。持病があった設定なのね」
征四郎はハンカチを使って、指紋が付かないようにピルケースを受け取った。さっそくクラシカルなイギリス探偵風の衣装をレンタルした征四郎は、二時間探偵の主役になりきる気力にあふれている。
「すぱっと謎を解決するのですよ!」
『任せておきたまえ。必ずしも解決してみせようぞ』
李 月亮(aa0076hero002)も、ド派手な着物を着用していた。
「若女将とお客さんがあやしいのです……」
『では、吾輩は客への聞き込みをしよう。君は、若女将のほうを頼むぞ』
●第二の殺人
國光は、売店に行こうとしていた。のんびりと旅館を楽しむためにも、まずは最初にお土産を買ってしまおうと思ったのだ。その道の途中で、人だかりを見つけた。どうやら、バーで第二の殺人が起きたらいい。
「あっ、サクラコ!」
メテオバイザーが、メモ帳をもって捜査に参加していた。どうやら、犯人が全く分からないらしく困り顔である。どうやら、今回はバーで支配人が殺されたらしい。割れた瓶で胸を突かれており、それが死因という設定のようだ。
『サクラコも一緒に参加してくださいぃ』
犯人が全く分からない、とメテオバイザーは國光はしがみつこうとした。
「あ、あそこあたり怪しくない? ほら、あのバーの鏡。きっと支配人は殺されたとき、あの鏡で後ろから襲ってきた犯人の顔を見たはず」
『あっ、なるほ……支配人は前からさされていますぅ』
適当なことを言ってメテオバイザーの気をそらした國光は、さっと別の場所にまで逃げて行った。
――すまん、メテオ。戦士と大学院生には休みが必要なのだ。
「支配人さん……最近誰かと揉め事でもあったのかしら……女将さんに聞いても平気かな?」
フィアナは、バスガイドの衣装をまとってきょろきょろしていた。ホテルにバスガイドの衣装はなんともミスマッチであったが、レンタルできる衣装の一つであったし、なによりフィアナはそれに違和感をもっていなかった。ドールに浴衣の代わりだといわれたせいなのだが、ウソを教えた当の本人は笑いをかみ殺している。
「これは、連続殺人事件よ! 間違いないわ!」
朝霞は、ぐっと拳を握りしめる。
『今度は凶器が残されているんだな。ビンで一刺しか』
「この事件、必ず私が解決してみせる! ウラワンダーの名にかけて!!」
ニクノイーサは、冷静な態度で
『そうか、がんばれ』
と朝霞に返した。
「ニックもやるのよ! 私達二人でウラワンダーなんだから!」
「謎解き、頑張りましょう。負けないのですよ!」
小さな名探偵征四郎の挑戦に、朝霞は「負けないわよ」と答えた。勝負事になってしまえば、ニクノイーサも手を貸さなければ目覚めが悪い。
『仕方ないな。こういうときは、まぁ、アリバイを調べるのがセオリーか?』
「私はロビーで卓球してたよ。ニックと」
『朝霞じゃない。ほら、周りにいる連中にアリバイをきいてみろ。ほかの人間は、さっそくやっているぞ』
ニクノイーサが指差した方向には、レイがいた。
彼は人の話を聞きながら、現場検証をしているようである。
「このバーのカギは、支配人が開けたようだな。支配人より後から犯人が来たのならば、だれでも容疑者となりうるか。そして瓶は……このバーのなかならどこにでもある」
どうやら、まだこの時点では犯人を特定できる材料は提供されないらしい。だが、どこにヒントが隠されているかはわからない。
征四郎は、泣いている若女将をそっと連れ出した。涙を流す彼女にハンカチを貸しながら、征四郎は若女将に尋ねる。
「あいしていたのですね……?」
若女将は、涙ながらに首を振る。
「あの人には、隠し子がいたのです。まさか……こんな悲劇が続いてしまうなんて」
およよよよ、と若女将は泣き崩れる。
『隠し子か……関係、泥沼だな』
オリヴィエは思わずつぶやく。
その隣にいたリュカは、「昼ドラだからねぇ」としみじみしていた。現実にはちょっとあり得ないようなドロドロな関係は、二時間ドラマのお約束みたいなものである。
「あの……皆さん。もしかしたら、瓶から指紋がとれないでしょうか?」
鈴音は、輝夜に相談してみる。
『指紋を取る道具がないのう』
ドラマでは鑑識が簡単に指紋を取っていたが、今ここにいるのは素人探偵たちである。道具もなければ知識もない。
「砂糖の入ってないココアパウダーでも取れるって聞いたことがあるような……。やっぱり、難しいのかな?」
『そして、ついているのかのう。指紋』
なにせ、所詮はイベントだ。
苦労して指紋を取ったはいいが、死んだふりをした被害者のものしかついていなかったという可能性も大いにありうる。
●第三の殺人
「推理物に温泉シーンは必需品だよねー」
リュカは、のほほんと温泉を楽しんでいた。広々とした湯船で思いっきり手足を伸ばすと、温泉にやってきた幸せを感じる。
『女湯のシーンだったらな』
男風呂しか映っていないシーンなど、お色気シーンとは呼べない。
「静かに温泉……。足を伸ばして入れるお風呂って、最高。こう言う大浴場と分かれてる場所は、男女で入れ替えがあるから露天は景色が見える夕方や朝方がいいけど。夜も趣あって楽しいよね。どっちでも楽しみ」
「あー、朝風呂もいいね。明日は、早起きしよう」
裸の付き合いで、すっかりリュカと國光は意気投合していた。
隠すものがないフリーダムな付き合いから、オリヴィエは視線を逸らした。視線の先には、髪をまとめ上げて体を洗う月亮の姿。ほっそりとした体格の彼は、メイクを落としてもなお優美だ。
『……こうしてみると、やっぱり男なんだ、な』
オリヴィエは、まじまじと月亮の姿を見る。
『やだー、色男のえっち!!!』
「オリヴィエ、写真撮っておいて……」
月亮は、無言でリュカに向かってシャワーを発射した。
『うわ、こっちにかかったぜ。このやろ』
ドールが、手で水鉄砲をつくって狙いを定めた。
だが、それはニクノイーサにあたった。
『風呂ではしゃぐのはやめろ!』
ばしゃ、とニクノイーサはお湯を救い上げて相手にぶつける。ちなみに方向は、あまり見ていなかった。そのお湯は、アーサーの頭からかかった。お湯に濡れないように髪を結わえていたに、台無しである。
『私まで巻き添えにするな!』
不本意ながら、なぜか男風呂でお色気シーンによくある「きゃきゃ、うふふ」がおこなわれたのであった。
「一体、なにが起こっているんだ?」
タトゥーのために温泉に入れず、念のため脱衣所で証拠さがしを行っていたレイは首をかしげた。大浴場から、「水は反則!」「こっちにかけるな!」「誰だ、石鹸投げたの」という程度の低い会話が聞こえてくる。まさか、成人したメンバーがほとんどなのに修学旅行のような状態になっているのではないだろうか。いや、まさか。そこまで、子供ではないだろう。
『まさか、石鹸があんな動きをするとは……流石は我が愛し子。なにをやっても最高に美しいぞ』
月亮が髪をふきながら、大浴場から出てくる。
大浴場のなかで、なにがおこなわれていたのだろうか。レイは怖かったので、尋ねることをやめた。
「う~ん、いいお風呂だったね」
まだ火照る体をアイスで冷やしながら、鈴音は大浴場に一番近いソファーに座っていた。もう少しでエステコーナーで、殺人が起こる予定なのである。
征四郎は、二つに割るタイプのアイスを器用に半分にした。そして、片方を輝夜に手渡す。
「どうぞ。コーヒー味です」
『気が利く童じゃのう。ふぅ、景色の良い風呂じゃったし。料理が美味かったし、わらわは満足じゃ』
「でも、お隣がうるさかったような……誰かのぼせたの?」
フィアナも風呂上がりのアイスを食べながら、首をかしげる。
『隣は男風呂なんですよね。一口いかがですか?』
「いただくます。しゃく……修学旅行生でも来てたのでしょうか?」
メテオバイザーと朝霞は、それぞれ棒アイスを一口ずつ交換していた。
「でも、学生の姿なんてないですよね」
日和も、バニラアイスをパクリと食べる。
相変わらず男風呂からは騒がしい声が漏れていたが、だれも修学旅行生なんて目立つ団体客は見ていない。ふしぎだなー、と女性たちはアイスをかじった。
「あっ、アイスずるい! ユエちゃん、俺たちも買ってこよーね」
風呂から上がったリュカが目ざとく女性人のアイスを見つけ
「誰か来て! 人が死んでいるわ!!」
本日、最後の殺人が起きた。
エステコーナーで死んでいたのは、宿泊者用の浴衣を着た男。そして、このエステコーナーの部屋は昨日の夜十二時から本日の午後五時まで施錠されており、誰も入れなかったらしい。
「密室殺人なんですね。密室といえば、糸とか使って内側からカギをかけたりしますけど……」
『それができるほど、単純なカギではなさそうじゃのう』
鈴音と輝夜は鍵穴をのぞきこむが、推理ドラマにありがちな「最近できた傷跡」のようなものは見つからなかった。
「やっぱり、密室!? 密室殺人!?」
きゃー、と朝霞は大興奮だった。おそらくは、今までの死因のなかで一番推理ドラマっぽい死に方だからだろう。
『ありがちだな』
「う~ん、死因はなんだろう?」
『目立った外傷はあるか? なければ毒殺かもしれんな』
ニクノイーサの言葉に、レイが「なるほど」とつぶやく。
「ここのカギを手に入れることができて、なおかつ毒物を入手できる人間が犯人だな。かなり、絞られたな。それに、着衣に乱れもない。この被害者は、ここで殺されたに違いないようだ」
「鍵締まってたって、その鍵は従業員さんが持っていないの? 一緒に来てそうなお客さんいないかな……。それにしても今日だけでこんな……。支配人さんまで殺されちゃうなんて……」
フィアナは困ったように、おろおろしていた。これが本物の事件であると思い込んでいる彼女は、ほかの人間と違い踏み切った捜査ができないでいるようだった。ちなみに、隣にいるドールは声を殺して大爆笑中である。
『うーん。従業員なら、全員がカギぐらいは持ってたと思いますけど……。考えれば、考えるほど皆さんが怪しく見えてきます』
メテオバイザーは、頭を抱える。
鈴音は、うんうんと頷く。
「たしかに推理ものってたしかに面白いけど……犯人が誰かとか当てられる人すごいと思うの……。犯人が大体わかってる「メイドさんは見た!」みたいなシリーズの番組のほうが好きかな……輝夜は?」
輝夜は無言で、着物のたもとをはだけさせようとした。それはさすがにホテルの人に怒られると鈴音や他の女性たちが輝夜を止めようとする。
「なにをするんじゃ! わらわは、将軍なのじゃ!! やいやい、黙って聞いておればガタガタ抜かしおって! この桜吹雪が目に入らぬかぁ~!」
将軍輝夜が取り押さえられているなかで、オリヴィエは容疑者たちから話を聞いていた。
『この被害者は第一被害者のストーカーで、さらに第一被害者は支配人の娘か……』
どろどろし過ぎである。
「これで今日のイベントは終わり……ヒントはすべて出されたんだな」
口元に手を当てて、レイは深く考え込んでいた。
●お布団でシンキングタイム
『で、誰が犯人なのか、わかったのか?』
布団の上に座ったニクノイーサは、朝霞に尋ねる。おそらく、旅館のイベントを一番全力で楽しんでいたのは朝霞であろう。ならば、彼女にならばわかるはずだ。ニクノイーサは、堅く信じていた。
「……さっぱりわからない!」
一秒前まで、堅く信じていたものを返してほしい。
「第一の殺人は、可能性が結構絞られてるよね」
リュカは、アイスを食べながらつぶやく。風呂上りにすっかりアイスを食べるタイミングを逃してしまったせいで、男性陣は今頃になってアイスを食していた。
『……白昼堂々、客の前、で』
オリヴィエもガリガリとソーダ味のアイスをかじる。
「まぁ、単純に考えれば最初に駆け寄った若女将さんが怪しい気もするね。ピルケースを持たせれたとしたら、その人だけだしなー」
「でも、毒はどこから仕入れられたものでしょうか?」
征四郎は、売店で売っていた饅頭をもぐもぐ食べながら尋ねる。女性陣も男性陣が食べるのにつられて、売店で買ったお菓子に手を伸ばしていた。
「征四郎の推理では、犯人は嘱託医です。第一の殺人は心臓発作だったのではないかと思うのですよ。発見時のお薬は征四郎の行きつけの駄菓子屋でも、よく似たものを見たことがあります。心臓発作に見せかけるために、持病のお薬を巧妙にラムネ菓子にすり替えたのです!」
えっへん、と征四郎は胸を張る。
『おチビちゃんの推理はともかく。これまでの聴取を纏めると、支配人と若女将の隠し子とは最初の被害者の中居ちゃんだったのではないかね。ああ痴情の縺れ! 人間とは恐ろしい生き物だよ』
月亮もパイン味のガリガリするアイスを食べながら、自分の推理を披露する。
『嘱託医に若女将……どちらとも不可能な事件と可能な事件が存在するぞ』
チョコがコーティングされたバニラアイスを食べながらアーサーも意見する。
『サクラコは、誰だと思いますか?』
メテオバイザーは、自分でとったメモを見ながら頭を抱えていた。國光は吸うタイプのアイスを咥えながら、適当に最初に死んだ仲居Aの名前を指差した。ちなみに國光の隣には、本。温泉に料理にアイスに、読書……ある意味で彼以上に今回の温泉旅行を堪能している人間もいないだろう。
「ちゅうちゅう……その人でいいんじゃない?」
『むぅぅぅぅ! 参加してくださいなのですぅ!』
騒ぐメテオバイザーに向かって、にやりと笑ったのはドールである。ちなみに彼は、大福アイスを食していた。
『面倒くせぇなぁ、全員半殺しにすりゃ真犯人が口割るんじゃね?』
あんまりな意見にフィアナは「ドール! 人が死んでいるのよ」とドールを叱った。
『はいはい冗談だって』
盛り上がる客室のなかで、食べ終わってしまったアイスの棒を咥えたレイがつぶやく。
「犯人は――だろうか?」
その言葉を聞いた一同は「そうに違いない」とその意見に賛成した。
●解決~いたずらで警察を呼ぶのはやめましょう~
ホテルのロビーで、チェックアウトを済ませるとそこにはイベントに参加していた職員が顔をそろえていた。皆、容疑者として参加していたのに、今はまるでマネキンのように整列している。
こほん、とレイは咳払いをした。
「この容疑者のなかに、一人だけ各容疑者と深い関係だった人間がいる。若女将だ。第一の被害者である仲居Aは支配人の隠し子であり、そのことを若女将だけが知っていた。動機は残念ながら推測することしかできないが、痴情のもつれか何かだろう。エステコーナーのカギも若女将ならば当然もっていたはずだ」
レイは、一度言葉を切る。
ここまでの推理は、昨晩リュカも行っていた。だが、そこで征四郎が指摘した通り「毒をどこで手に入れたのか?」という疑問が出てくる。
「この事件には、犯人がもう一人いる。――嘱託医だ。仲居Aの薬をラムネにすり替えた嘱託医は、記者の客を殺すために若女将に毒を渡した。これが、事件の真相だろう」
がくり、と若女将と嘱託医が膝を折る。
二人の嗚咽と共に、どこからともなく警察のサイレンの音が聞こえてきた。
「うわぁ、サイレンまで。すごくリアルに聞こえる……」
『鈴音……この音はこちらに近づいてくる気がするのじゃが』
「そんなわけがないよ……ね?」
朝霞がすべて言い終える前に、警察がホテルの中に入ってくる。警察手帳を手にした彼らは、イベントスタッフではなさそうである。
「こちらで、連続殺人が発生したという信じられない通報を受けたのですが……」
警察は、真剣な顔をしていた。
「ドール、やっぱり通報しないとだめよ。市民の義務なのよ」
フィアナの真剣な顔に、周囲は唖然とする。彼女だけ、このイベントを本物の事件だとずっと勘違いしていたのだ。
『くっ……まさか、通報するなんて』
もう耐えきれない、とばかりにドールは大爆笑した。
フィアナは目を白黒させて、ようやく事件がすべてイベントであったことに気が付く。
「ドールっどういう事なの!」
『はぁ? 騙されンのが悪ぃんだよバーカ!』
ホテル従業員とHOPEのリンカー一行は警察に平謝りし、ミステリーツアーは幕を閉じた。なお、警察に平謝りする映像もCMに起用されてしまい一部のリンカーたちが大いに焦ったらしいが――それは別の話である。
ちなみに「このホテルのサービスは警察に通報されるほどにリアル!」とほんのちょっぴり評判になった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|