本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】ここは はじまりのむら です 。

ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/15 19:51

掲示板

オープニング

● * ようこそ 。

「ここは はじまりのむら です」

 それは古今東西あらゆるゲームで目にすることができる、親切なNPCの伝統的な台詞ではなかろうか。
 大概は村の入り口に立っており、プレイヤーキャラクターが最初に話しかけるだろう、いわゆる村人A。

 問題は――

「「「ここは はじまりのむら です」」」

 ――それが物凄い大量にいて、君達へ押し寄せてきたということだ。


●つまりどういうことなんだ
 時間はしばし遡る。

「グロリア社製、VR-TTRPGシステムです」

 H.O.P.E.東京海上支部、ブリーフィングルーム。
 エージェントの前に提示されたのは、そんな名称のコンソール型機材だった。
「『この世界』と『異世界』の狭間という奇異な場所にドロップゾーンが造られ、テーブルトークRPGのルールブックを媒体に一般人の精神体が拉致されている件についてはご存知でしょうか」
 詳細は張り出された情報を各自確認して欲しいと、オペレーター綾羽 瑠歌は一同に告げた。
「今からこちらの機材で、皆様に件のドロップゾーンへアクセスして頂きます。それでは、依頼本件について詳細に説明致しますね」
 そう微笑んで、瑠歌はよく通る声で解説を始めた。
「皆様の主な任務内容は、ドロップゾーンに引き込まれてしまった一般人の救助です。
 現場は……西洋ファンタジー系ゲームでよく見られる、『はじまりの村』を模したようなフィールドですね」
 フィールドの映像がホログラムとして浮かび上がる。まさに、「ゲームで見た」ような光景だ。
「さて、こういった村には親切なNPCが存在しますよね。……その親切なNPCこそが、撃破対象であり救助対象です」

 どういうことなのかというと。

「ドロップゾーンに引き込まれた一般人については、ゾーンルーラーの支配下にあり『NPC化』させられています。そのため、皆様を敵と認識することでしょう。言語的解決は不可能なものと予測されます。
 彼らを救う為には、この『セッション』をクリアするしか――彼らを倒すしかないのです。
 一般人については、精神体であるため死亡は致しません。なので戦闘の際に手加減などの必要はございません」
 支配中の一般人には戦闘中の記憶は残らないので、思い切り攻撃することによる一般人に与えるトラウマ問題に関しても想定せずとも大丈夫、とのことだ。
「更にもう一件――こちらに関してはサブ的な任務内容ですが。このフィールド内部には霊石(ライヴスストーン)が隠されているようです。そちらの採集も、余裕があればお願いします」
 というのも、とオペレーターは話を続けた。
「このゾーン内の霊石は、調査の結果、非常に良質かつ高純度である上、特殊なライヴス波長を発するものでして。これらを持ち帰っていただければ、我々の技術やAGW開発に大いに役立つことでしょう」
 ただし。瑠歌が補足する。これらの採集を後回しにすると、敵NPCによって破壊されて採集不能になる可能性がある、と。

 つまりエージェント達は敵NPCと交戦しつつ、フィールド内を探索し、『おたから』を発見しなければならないわけだ。

「それでは説明は以上となります。少し忙しい任務となりますが……皆様、どうか御武運を」
 と、オペレーターは丁寧にお辞儀を一つした。


●1d100を呪え
 一般人救助。その為にはゾーンルーラーの支配下にある『敵NPCとなってしまった一般人』を撃破しなければならない。
 とは聞いていたものの。

「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」
「ここは はじまりのむら です」――以下省略。

 こんなにいるとは聞いていない!

『ええと、ええと、あの、その、さっき中空をサイコロが転がりましたよね』
 通信機越しに慌てた声の瑠歌が話しかけてくる。
『で、その、100って出ましたよね』
 そう言えばそうだ。
『……そういうことです』

 どういうことだー!

『すいません! 私ファンブラーですいません!!』

解説

ミッションタイプ:【一般人救助/霊石採掘】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●目標
メイン:村人Aの殲滅
(彼ら全員を倒すことで『セッション』成功となり、救助が可能)
サブ:霊石入手
(霊石入手0でもシナリオは失敗にはならない)

●登場
村人A×1d100の結果100と出たので100体
「ここは はじまりのむら です」を繰り返すモブ。
 愚神に洗脳され、このゾーンの『NPC』と化してしまった一般人。
 実際に100人の一般人がいるのではなく、10人ほどの精神体をクローン的に増殖させている。
 能力的には一般人なみ。凄くとても非常にザコ。近接殴打ぐらいしか攻撃方法はない。
 ゾーンルーラー支配下にあるため、その攻撃はライヴスを伴うものである(共鳴している対象へもダメージ付与可能)
・村人プレス
 複数の村人が群がることでPCの行動を阻害する。命中すれば【拘束】付与。
 村人プレスを行う村人Aが多いほど命中は跳ね上がる。
・村人合体
 1d10体の村人が合体して巨人となる。回避以外のステータス全体的に上昇。
 出目が1だと何も起こらない。

たからばこ
 村の各所に設置されている。中には霊石。
 ターンが経過すると村人Aに破壊されてしまう可能性あり。
(以下PL情報)
 五つある。
・三つ:村のフィールドに普通にある。ちょっとうろつけばすぐ発見できる。
・一つ:村のフィールド外ギリギリにある隠し階段の先、小部屋にある。
・一つ:村の中の家にある壷を割ると出てくる。
(PL情報以上)

●場所
 THE一般的RPGのはじまりのむら。あまり広くはない。
 村人Aしかいない。

●状況
 村の入り口にて、数多の村人Aが押し寄せてきたところからリプレイスタート。

リプレイ

●ここは はじまりのむら です 。

「なるほど。ここがはじまりのむらね」

 取り囲む三六〇度。繰り返される歓迎(?)の言葉。
 それらを見渡し大宮 朝霞(aa0476)は納得顔で頷いた。が、「いやいや」とすぐさま割り込んだのは彼女の英雄ニクノイーサ(aa0476hero001)である。
「朝霞、のんきに現状分析している場合じゃないぞ。村人Aとやらがわんさか押し寄せてきている」
 彼の言う通りだ。言葉の最中にも村人Aの包囲網が狭まりつつある。猶予はない。しかし朝霞に焦りはなく、快活に髪を翻し振り返ると。
「ニック! 変身よ!」
「やっぱりか。言い争っているヒマはなさそうだな」
 掛け声についてニクノイーサが突っ込むことの放棄を覚えて表情を変えずに頷くようになってきたあたり、慣れというものはなんとやら。
「へん!」
「しん!」
 交差するカッコイイ宙返りの後、二人のライヴスが共鳴する――

「「ミラクル☆トランスフォーム!!」」

 ビシィッ。聖霊紫帝闘士ウラワンダー、参上。ニクノイーサの動きが朝霞に負けずキレッキレなのはこの共鳴モーションを一年繰り返した成果なのだろうか。
 大量の敵に対しウラワンダーが立ち向かう様は正にヒーローライク。問題は少々……いやかなり……敵が多いということ。
「ねぇ……いくらなんでも多すぎると、思うの」
 ニウェウス・アーラ(aa1428)は視覚から得た情報に率直な感想を零した。彼女の英雄ストゥルトゥス(aa1428hero001)はそんな相棒の肩をポンポン叩きつつ、ウインクと共にサムズアップを。
「大丈夫だよマスター! 無双ゲーでは、このぐらいのことは日常茶飯事」
「そういう問題じゃないような?」
「イけるイけるもっと熱くなれよ! ってことでぇ、変・身!」
「共鳴だよ!?」
 ウラワンダーに影響されたのだろうか。一つ確かなことは、二人はかのヒーローのようにアクロバティックには共鳴しなかったこと。光となったストゥルトゥスがニウェウスに融合する。
「……わらわらと蟻の様ですね……物量で押してこようとは浅はかな」
「中身は一般人だとしてもー今は村人Aなわけっしょ? だったらぶっ倒しても問題ないない。むしろ助けるための救助活動だってーの」
 一方でシュビレイ・ノイナー(aa0196hero001)の溜息に咲山 沙和(aa0196)がそちらへ目線をやる。「とりま共鳴」と白い少女に、黒い青年は「分かっています」と鼻を鳴らした。
「人々を救う為、人々を倒す! 矛盾っぽいけど、それもまた正義だからボクは一切気にせず正義を行使するっ! ボクの前に立ち塞がるものはすべて悪だよ!」
 奇しくもユーガ・アストレア(aa4363)の意見は沙和のものと方向性は同じだった。遠慮なくぶっ飛ばせばOK。パパーンとヒーローチックな正義ポーズを決めてみせる彼女の傍らにはモノクロのヴィクトリアンメイド服に身を包んだカルカ(aa4363hero001)、ユーガの英雄が慎ましく控えている。
「有象無象の区別なく、一切合切を斬り捨ててくださいませ」
 カルカは主人の『思想』に寄り添う刃。恭しく礼をした彼女はユーガとライヴスを共鳴させた。正義狂いと無辜の刃は、何一つ自重することなく生きている。
「テーブルトークRPGってえのは、よく分からんが。村人たちにとって俺たちは、さしずめ平和な村に訪れた盗賊団ってところか?」
 リアリティとはあまりに異なる光景に顎をさすり、バルタサール・デル・レイ(aa4199)は片眉を上げた。
「そんな認識だろうね。きみにとっては、昔取った杵柄みたいなものだよね?」
 その言葉に答えたのは彼の英雄、紫苑(aa4199hero001)。一角鬼は袖で口元を隠しつつ上品に笑んで、横目に相棒を見やる。
「おたからを奪って大量殺戮……。良心の呵責も無いだろうし、簡単にできるお仕事です、ってやつだね」
「チッ、いちいち煩い男だな。だがまあ、残念ながらお前の言っている通りだ。さっさと片付けて、おたから頂戴してずらかろうぜ」
 英雄の言葉を舌打ちと溜息で片付けて。さあ、仕事だ。ゲームがモデルであろうとも、今この瞬間は遊びなんかじゃあない。

 まもなくゲームと銘打たれた戦いが幕を開ける。

 実戦、初任務、文殊四郎 幻朔(aa4487)の心にはわずかな緊張。深呼吸を一つ、傍らの半獣少年、黒狼(aa4487hero001)の小さな手をキュッと握った。
「さぁ、クロ。頑張るわよ~」
 自分の緊張を悟らせまいと。微笑んだ幻朔に、黒狼は幼い耳をピンと立て。
「……クロ……がんびゃる」
 一つしっかと頷いた。

 ライヴスの奔流、共鳴――かくして六対百だなんて荒唐無稽な戦いが始まる。



●ゲームイズリアル

「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上! あなた達、止まりなさい!」

 迫り来る百人に共鳴した朝霞――ウラワンダーが言い放つ。が。その声は全く届いてはいないようで……彼女のライヴスと共にあるニクノイーサがやれやれと溜息を吐いた。
『……話が通じる相手じゃないと、オペレーターも言っていたろう』
「むうう」
『相手は一般人だが、思いっきり攻撃して構わない、とも言っていたろう』
「そういえば、『おたから』をゲットして、とも言ってたね」

 つまり、戦いながらおたから探しをしなければならないということ。
 ではあるが。相手はこの数、さてどうしたものか――。

「先手必勝! 正義執行ッ!」

 その最中、なんの迷いも躊躇もなく敵の渦中へ飛び込んだのは真紅の装甲に全身を包んだユーガだった。
「数を頼りに襲い来る様はいじめっこだと断定! すなわち悪! よって絶対正義の力を受けるがよい!」
 高らかに言い放ち、その手に掲げるは勝利の神槍グングニル。観察も説得も必要ない、攻勢あるのみ。正義に退路や出し惜しみはないのだ。
「まずは数を減らす! いくよ!」
 言下、ユーガが自身の周囲に展開したのは幾つもの赤い刃。狼の双眸が周囲の『悪』を鋭く見据える。瞬間。荒れ狂う刃の嵐がユーガの周囲を切り開く。その刃一つ一つにカルカの意志が宿っている。刃としての無垢なまでに冷たい意志が。
(ご主人様に仕えることは、至上の喜びですわ)
 悪を打ち倒す度、魂の奥でカルカは瞳を細める。彼女は刃。悪を断罪するギロチン。

「それじゃ、さくっと行っちゃいましょ。待たせるのも悪いわ」
 次々と村人Aを撃破していくユーガとカルカ――同じカオティックブレイドを見、共鳴したことで黒い髪となった幻朔は赤と黒の双剣を構えた。
『げんしゃく……ねむい……』
 一方で彼女のライヴスと共にある黒狼は眠たそうだ。自分の状況や任務のことをあまり――いやほとんど理解していないようで。
「大丈夫、ここからは私が頑張るから。……だから、クロ。ちょっとだけ力を貸してくれる?」
『クロ……ねむい……ん……がんびゃる』
 つたない言葉、しかし幻朔の言葉には頷きを。
「んじゃ、多めのあそこに突撃かしら?」
 自分に出来ることを最大限に。軽い口調とは対照的、仕事は堅実に。さて、効率よく仕事の成果を出す方法とは? 楽しむことだ。

「OHANASHIしましょ! 物理だけど」

 できるだけ村人Aが多い場所へと踏み込んだ。ゲームはしないので『ネタ』は良く分からないけれど、とりあえずこの群がってくる有象無象を一切合財ぶん殴ればいいことは理解している。
 そして周囲に顕現するのは刃達。艶っぽく唇を舐め上げた。繰り出す技はストームエッジ。出し惜しみはしない。切り開いて行く、文字通り。

 二つの刃の暴風が荒れ狂うその一方、別の場所で巨大な火柱が巻き起こった。
『たーまやー。うん、面白いぐらいかっ飛ばせるね』
 スーツと魔法少女衣装を足して二で割ったようないでたち、共鳴状態のニウェウスが放ったブルームフレアだ。言葉は、ニウェウスの中で呟いたストゥルトゥスのものであるが。
「数が多くて、強かったら……それこそ絶望的、だったね」
 事前情報で能力としては一般人並みと言われていた通り、村人Aはとりあえず攻撃を繰り出しておけば倒せるぐらいの弱さだ。
『まぁそのぶん数がえげつないんだけどね! それも範囲攻撃の格好の餌食、カモを背負ってきたネギってやつさ』
「ネギを背負ったカモ、じゃないかな……?」
『細かいことは気にしない! 食べたらどうせ胃の中で一緒くたになるんだしね! さ、次弾装填、二発目いくよマスター』
「はぁ……分かってるよ、ストゥル」
 釈然としないまま――だって適宜にツッコミしないと暴走するんだもの――ニウェウスは銀杖ケリュケイオンをひと振るい。再度、村人Aのド真ん中で灼熱の大輪が咲き誇る。

 怒涛の範囲攻撃にどんどん押し上げられる前線。
 が、まだまだ村人Aは際限なく襲いかかって来る。

「……ちょっと、数が多すぎない?」
 仲間と連携して死角を潰しつつ、ウラワンダーは押さえ込もうとしてきた村人の群れをマントを翻し華麗に回避。「ふむ」と頷いたのは朝霞の内にあるニクノイーサだ。
『そうだな。こういうときは、範囲攻撃スキルが効果的だろう』
「……たとえば?」
『俺達には、ないな』
「だめじゃん!」
 ホワイトとピンクの可愛らしい杖、レインメイカーを振るいつつ。ハートのエフェクトがキラキラ舞う。
「あなたとコンビニ、バトルメディック! 語呂も全然だめ! ああー!!」
『まぁまぁヤケになるなよ。一般人らしいから、セーフティガスなら効果あるかもしれんな』
「それよ!」
 大きく飛び退き姿勢を整え。

「ウラワンダー☆スリーピングビューティー!」

 振るうステッキ。ハートの光と眠りの霧。
 そう、ゾーンルールによってリンカーへ攻撃を与えることができるとはいえ、村人Aは従魔や愚神などではない。少なくともここのエリアのルールでは『そう』なっていた。
 ばたりばたり、眠りに落ちていく村人A。

 と、視界が開けたその彼方にだ。

「あっ、たからばこ!」
 物凄く普通に、形容する言葉が思いつかないぐらいポンと、たからばこがあるではないか。
「十時の方向と、それから一時の方向にもあるっぽい。隠されてません系っつーの? フツーに向かったら絶対見つかるっしょ」
 言葉を続けたのは沙和だ。声が上から聞こえたのは、彼女が民家の屋根の上に陣取っているからである。
「上から見たら一発で分かったわーこれ楽勝じゃね?」
 フフンと得意気な沙和。一方で彼女に力を貸しているシュビレイはそのライヴスの内で溜息を吐いた。
 あのうすら馬鹿娘、とシュビレイはにべもない。とはいえ身体の主導権は沙和にある。任せたくないが任せるほかになく――いや、だとしても。妙なことをして面倒な事態になるとそれこそ面倒だ。
『沙和、』
 脳内で語りかける。あまりはしゃぐなと注意しようと思って、……。
(面倒ですね。放置しても?)
 とっとと倒して報酬貰って帰りたい。そんな思想に帰結した。
『……村人ごときに何苦戦しているんです? 貴女にはお似合いですがね沙和』
「分かってるよーだシュビ君。スペシャル沙和っちがんばるっつーの」
 蝙蝠の幻影を周囲に舞わせ、沙和はスナイパーライフルのスコープを覗き込んだ。見極めの眼、的確にヘッドショットを決めていく。
 その足元、民家の物陰では、半身を隠したバルタサールがサブマシンガンをぶっ放し、近付いてくる村人Aを薙ぎ払っていく。
「雑魚のようだが、塵も積もればなんとやら……だな」
 ジャガーのような金瞳を細める。元は十人の人間を複製したと情報があったので、文字通り『十人十色』な性質があるのかと観察していたが。そう、相手は『一般人』。攻撃に優れている、回避に優れている、そんな特色がないほどに『一般人』だった。
(ま、手間がかからなかっただけ僥倖か)
 そんな村人A――一般人達には戦いの記憶は残らないとのことなので。なんの躊躇いもなく、引き金を引く。タイプライターに似た乾いた銃声。サクサク片付けていく。銃弾の嵐。
『楽しい?』
 そのライヴスの内で紫苑が含み笑った。
「そう見えるか?」
 バルタサールは鼻を鳴らす。皮肉めいたからかいだと考えずとも分かった。紫苑の問い自体には答えなかったが、答えるとしたら「NO」だった。非人道的で心が痛むかと訊ねられればそれもまた「NO」。
 例えるならば……淡々と書類をシュレッダーにかけたり、黙々と鉛筆を削るのは楽しいか? 心が痛むか? という話だ。これは作業。作業としてこなしているだけ。
「一番近い位置の宝箱に向かう。援護を頼む」
 一通り周囲を開けさせた所で仲間にそう伝え、バルタサールは民家の屋根の上に飛び乗った。そのまま屋根伝いに、たからばこを目指す。
「村人もこんだけ集まれば凄いわよね~……」
『げんしゃく……ひと……おおい……』
 バルタサールへ意識を向けた村人Aに狙いを定め、幻朔は踊るように双剣で一閃。防御が必要ないぐらい相手がザコなのが幸いだ。
「そういえば、この村人って男性かしら? 女性かしら?」
『クロ……おとこ……』
「そうね、クロちゃんは男の子ね」
 あどけない物言いにクスリと微笑む。さぁ、心が解れたところで気合を入れなおして頑張ろう。

 幻朔を始めとした仲間達の援護によってバルタサールは容易にたからばこへと辿り着いた。取り囲もうとしてきた村人A三人に纏めて早撃ちをくれてやり、脚でたからばこを蹴り開ける。
『あーあ、そんな扱いをして大丈夫なの?』
「霊石がそう簡単に壊れるかよ」
 かくして無駄に豪華なエフェクトと謎の効果音と共にたからばこから霊石が浮かび上がった。バルタサールは特にリアクションをせずにそれを掴み取り、懐に仕舞う。
『銀行強盗みたいだね』
「あーそうかいそりゃどうも」
 残念ながら紫苑と冗句合戦をしている暇はないのだ。仲間達へ振り返る。

「一つ目、確保完了――」
「こっちもっ! 確保に向かってるよっ!」

 別方向ではユーガが、矢の如くフィールドを駆けながら別のたからばこへ向かっていた。その行く手を村人A達が阻む。上等。それらに向けるのは多連装ロケット砲フリーガーファウストG3。

「爆発は浪漫! 火力は正義!」

 ド派手な爆発音。巻き起こる爆炎。
「敵の戦闘員をたくさん倒すのは正義の味方の王道だからね!」
 爆発を背景に、ユーガは正にヒーローのようにたからばこの下へと降り立った。
「霊石、確保完了! ジャスティス!」
「こっちも! ゲットしたよ!」
 同刻、ウラワンダーもまた霊石の確保に成功していた。これで一先ず発見した霊石は全て確保できたが……。
「隠されてるたからばことかあるのかな? あるのなら皆に任せた!」
 フィールドを駆けつつ村人Aを撹乱するユーゴの言葉。朝霞は「どうなんだろう」と考える。
『小さな村だからな。探す場所は限られるだろう』
「RPGだと、家の中の家具とかを調べて回るのがセオリーかな」
 と、朝霞とニクノイーサのやり取りに。

「あー、それマジっぽい?」

 答えたのは沙和。
「なんかさー、こっちに向かってない村人Aがいるっつーか。マジ怪しくね?」
 屋根の上、スコープから見える風景。異変。程近い民家を攻撃している村人A。
「あれについていけば隠されてる霊石ゲットできるんじゃね?」
『……沙和にしては冴えてますね。沙和にしては』
「トレジャーハンター沙和とはあたしのこと! とかかっこよくない?」
 皮肉のこもったシュビレイの言葉にもなんのその、群がる村人A達へフラッシュバンを投擲しつつ。

 同刻だった。

「……霊石を狙っている村人も、いる? 変な所へ行こうとしているのがいる、ね」
 村人Aの側面へと回りこみ、ライヴスによる不浄の風を繰り出していたニウェウスもまた別の異変に気付いていた。自分に向かってくるでもなく、村の外のフィールドをうろついている村人A……。
『SLGなんかでは、プレイヤーが欲しがる隠しアイテムを先に取るなり壊すなりする敵がいるのは常識だよ、マスター』
「ストゥル、これはゲームじゃ……あ、ゲームだっけ」
『そういう事。皆に注意を促した方がいいと思うなー』
「うん、そうする」
『あと、そうそう。あーいう敵の行き先には、隠しアイテムがあるものさ。ついて行って、ぶっ倒して、お宝をゲットだぜ!』
「わかった、ストゥル」
 魂の内で語りかけるストゥルトゥスに頷いて、ニウェウスは仲間達へと呼びかける。沙和と似たような異変を見つけたこと。それを追跡すること。
 かくしてニウェウスは駆けた。フィールドの外へ――そこで見つけたのは。
「隠し階段……?」
『わお、いかにもだね! 行ってみよう』
 ストゥルトゥスに促され、ニウェウスは階段を下り、古びたドアを開け放つ。

 そこは狭い部屋。隠し部屋。そして、そこには、村人Aがわらわらと。

「いらっしゃいませぇぇえええ!!」
 叫んだのはニウェウス、ではない、急に『表に出てきた』ストゥルトゥスだった。撃ち放たれる、銀色の魔法弾。
「そんな台詞を言う為だけに表出しないで!?」
『それより今ので銀の魔弾がきれたよ! かくなるうえは!』
 ケリュケイオンをぐっと握り締める。それを振り上げ、

「ヒャッハー! いざ受けやがれ、マジカル☆大・撲・殺!!」

 振り下ろす!(物理)(魔法攻撃だけど)(だって射程1だもん)
「恥ずかしいからやめて?」
 叫ぶニウェウス。そんな彼女の思いとは裏腹に、なぜか表に出てきてケリュケイオン無双を始めるストゥルトゥス。
 すったもんだあったが魔法攻撃のおかげで霊石は確保できたのであった。サンキューケリュケイオン!

 一方で地上。
 エージェント達はリアクションの差異はあれど驚愕していた。というのも。村人同士が合体して、ものすごく巨大になっている。想像の三倍ぐらいでかい。

「合体するとは聞いていたけど……ここまで大きくなるとは……想像してなかったわね~」
 苦笑する幻朔。黒狼は『でっかい……?』と不思議そうにしている。
「合体とか……どういう原理かしら?」
 ゲームだからと言ってしまえばそれまでだけれど。幻朔は剣を握りなおし、駆ける。すぐ目の前に件の民家だ。ドアは開いている。
 と。その真後ろで巨大村人Aが彼女を踏み潰さんと足を振り上げていて――
「おっと、」
 やばい。だが。直後に響いた銃声。バルタサールの威嚇射撃が巨大村人Aの狙いを乱れさせたのだ。彼方で「行け」とアイコンタクトをするバルタサール。幻朔は礼を込めて彼に頷きを返す。
「ありがとう! よし――」
 無事に民家へ突入。その目を狼のように細める。目の前にはたからばこを壊そうとしている村人A。
「悪いわね。それ、頂いていくわ」
 ふふ。妖しげな含み笑いと、一閃と。

 その外では、巨大村人Aとエージェントの戦闘が繰り広げられていた。
「寧ろ当て易いつーの? 目ぇ閉じてもあたるっつーの?」
「巨大な分、ノロマだな」
 沙和とバルタサールが立て続けに撃ち込む鋭い一射に、巨大村人Aの体勢がぐらりと揺らいだ。
『的が大きくなったに過ぎん。朝霞、ぶちかませ』
「了解!」
 白いマントを翻し。可憐なスカートをふわりと靡かせ。ウラワンダーは巨大村人Aへと駆ける。
「トドメだっ、絶対正義執行!」
 それと同時、ユーガがグングニルを力一杯振り被って投擲する。一直線――巨大村人Aの腹のど真ん中に突き刺さる槍。
「合体攻撃は正義! いっけぇええええーーー!!」
「よし……行くわよッ!」
 一気呵成。突きたてられたグングニルを足場に、ウラワンダーが空中へと飛び上がる!

「燃えるハートは正義の証! ウラワンダー☆アターック!」

 その脳天へ叩き下ろす、ハートの一撃。



●セッションクリア!
 かくして村人Aは全てが消え、村に静寂が戻った。
 オペレーターから『セッション』をクリアした旨が伝えられる。

「お疲れ様……」
 霊石を手に、凄く疲れた顔でニウェウスが戻ってきた。ストゥルトゥスの暴走、あの台詞を仲間が居るド真ん前で口走らなかっただけ僥倖なんだろうか。
「お疲れ様です! これで確保できた霊石は五つですか……」
「んー、一通り見て回ったけど他には霊石はないっぽい?」
 ニウェウスを労う言葉をかけた朝霞に、民家の屋根から下りてきた沙和が答える。
「つまらん仕事だったな」
 一段落。バルタサールは息を吐くようにそう言った。

『げんしゃく……クロ……ねる……』
 共鳴を解いた黒狼は眠そうに目をこすっていた。
「いっぱい頑張ってくれたものね。お疲れ様、おやすみなさいクロちゃん」
 そんな相棒の頭を優しく撫で、幻朔は幻想蝶を差し出した。英雄はそこへするりと入る。うちの英雄が一番可愛い。今、幻朔の心に溢れている感情はそれ一色だったが、彼女は努めていつも通りの表情なのであった。

「よしっ! このむらは救ったから、次は正義の勇者として魔王を倒しに行こう!」
 一方で。ユーガはグングニルを掲げ、勇ましく踵を返していた。
『世界に蔓延るモンスターを斬り倒しながらの冒険。素晴らしいですわ』
 どこまでもお供します、とカルカが静かに頷く。

 かくして。
 はじまりのむらから、ユーガとカルカはどこかへと旅立つのであった――。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 黒白月陽
    咲山 沙和aa0196
    人間|19才|女性|攻撃
  • 黒白月陽
    シュビレイ・ノイナーaa0196hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • 開拓者
    文殊四郎 幻朔aa4487
    人間|26才|女性|攻撃
  • エージェント
    黒狼aa4487hero001
    英雄|6才|男性|カオ
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