本部

ボス猿にご用心

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/07 20:02

掲示板

オープニング

●とある動物園にて
 休日ということもあり、園内の入場客の入りは上々である。彼方此方を家族連れの客が歩き、子供達のきゃーきゃーという声が聞こえてくる。

 ここは猿山だ。
 猿山といえば、かなりオープンな場所である。
 観光地で人を襲うような猿とは違い、動物園の猿というのはなかなかに大人しいものだ。餌を貰えて餓えの心配がないからか、ボスを中心にしてのんびりとした雰囲気があった。
 しかし、今日は違った。
 段差と塀、柵があって此方にやってくることのない猿がまるで組体操か何かのように隊列を組み、柵を乗り越えてきたのである。
 客は目を見張った。しかし、まだ余裕はあった。……この時点では。
 客の騒ぎ声を聞いて職員がやって来た頃にはもう遅かった。
 次々と猿が柵を超えて猿山から出て、そしてあろうことか、園内を縦横無尽に走り回っているのだ。
 きゃーと彼方此方で悲鳴が上がる。
 テレビなんかで見かけることがあるかと思うが、猿というのは無遠慮に髪を引っ張ったり引っ掻いたり、時として容赦なく襲い掛かる。そんな光景が今起こっているのである。
 襲われた子供なんかは堪ったものではない。トラウマものだ。泣き叫ぶ声がやけに大きく響き渡る。
 当然、園内はパニックになった。客は避難誘導をされ、職員は猿を捕まえようと躍起になった。
 猿は知能の高い生き物である。その上、とても器用だ。
 何処で入手したのか、また、何処で使っているのを見たのか前足を使って器用に動物達が入っている檻を開けて行ったのである。それにより、ゾウやキリンといった比較的大人しめなものを始めとし、虎や熊なんていった危険な動物達が次々と檻から出て行ったのである。
 その惨状を見て、園長は何てことだと頭を抱えた。
 一際大きく猿の声が響く。
 その猿は他の猿よりも大きいこの猿山のボスであった。ボスの目は赤く爛々と輝いていた。

解説

●目的
→ボス猿を倒すこと

●補足
→デクリオ級の従魔であるボス猿によって、他の猿達は操られています。
 行動と見た目は普通の猿と変わりません。しかし、統率がとれ、また、ボスに操られることによって全体の意思を統一している為に思考を共有している状態です。
→ボス猿は元々野生でしたが保護され、この動物園にやって来た経緯を持っています。
 その時点で従魔ではあったのですが、ハンターに撃たれ、怪我をしていたのを保護されたこともあって力を蓄えていました。
 しかし、多くの猿を従えることによってデクリオ級になり、今回こうして事を起こすのに繋がりました。
→見た目は他の猿より一回り大きく、赤い目をしているのでよくよく見ると見つけられますが、頭が良いので陰で指示を出しています。
 この従魔を倒せば他の猿達の洗脳も解け、普通の猿に戻ります。
→余裕があれば、他の動物達を檻に戻すのも手伝ってあげてください。
 流石にこのままでは、従魔ではなく動物達によって被害が出る危険性もあります。

リプレイ

●動物園に集合
 休日の動物園ともあれば、本来は来園するお客さんで賑わっているものである。しかし、それがどうであろうか。まるでここだけ台風でも来たかのように、木は薙ぎ倒され、建物は傷つけられ、しまいには動物達が気ままに闊歩している。
 普段目にしている犬猫といった小さなものに比べ、ゾウやキリンが柵越しではなく悠々とあるいている姿の迫力があること、あること。そして、熊やライオンなんていった肉食獣と遭遇でもしたら恐怖に駆られること間違いなしである。

 この惨状を眺めながら、イリス・レイバルド(aa0124)は「ボクは動物が好きだ」と語る。
「だからこんな大迷惑従魔はギルティ! なんだけど…。従魔が猿の姿をしているだけなのか、それともお猿に取り憑いているのか、それが問題なんだよ、お姉ちゃん」
 そう力説するイリスに、アイリス(aa0124hero001)はその可愛らしい見た目に反してクールなまま『それは自分の目で見極めなくてはならないのだよ』と言った。

「ほう、なかなかの有様だな」と霧島 侠(aa0782)は目を瞬かせた。それに飛影(aa0782hero001)は『これはまた……。早く騒ぎを収めないと、脱走する動物も出てきそうだ……』と呟いた。
 従魔の討伐を最優先するか、動物の保護を最優先するか……と分かれて行動することが決まると、「先行する。必要な情報があれば通信を頼む」と侠は園内へと足を踏み入れた。

「本来、動物は野生の掟に従うものですが…ここは動物園。園内外の人々に牙を向けさせるわけにはいきません」と、日々舞い込む様々な依頼をこなしている月鏡 由利菜(aa0873)は、今日もやる気満々にそう言った。
 そんな由利菜に同意するようにリーヴスラシル(aa0873hero001)は頷き、『猿は集団での統制が取れた動物と聞くが…従魔に頭を任せることはできんな』と目を眇めた。

 荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、まずは下準備である。
 連絡先の交換をすることは元より、警察や動物園関係者に動物が園から逃げて外に出てしまったことも想定し、外壁や柵の低い位置へバリケードや網をかけて外に出られない工夫をお願いする。極稀に動物園から逃げ出した動物を捕獲することがあるように、その措置をお願いしたのである。
 まずやるべきことをやり、次に拓海とメリッサは飼育員の元へ向かうのであった。

 動物園を目にし、レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は「うわ…動物園、酷い有様ね…」と呟いた。
 そして狒村 緋十郎(aa3678)の方を向き、『緋十郎、猿の獣人なら、猿の扱いも得意でしょう? 不屈の猿王の実力、猿たちに思い知らせてやりなさい』と厳かに言うと、「ああ。放ってはおけんな。一刻も早く、先ずは従魔を探し出そう…!」と頷き、何時もとは違い、緋十郎が主体となる第二形態の姿に共鳴した。

 依頼を受け、『なんと…! 猿の従魔が悪さを! 岩磨! 岩磨! 猿の立場が危うい。行くぞ!』とやる気満々の何 不謂(aa4312hero001)であるが、今日は終日休日くらいの気持ちでいた狒頭 岩磨(aa4312)は「だーから、なんで、俺がそーゆーメンドくさいことやらなアカンねん。今日は休みや休み」と如何にも面倒くさそうに言う。
 それに『お前も猿の端くれだろうが!』と発破をかけると、「端くれてなんじゃい! 由緒正しい大妖怪様やぞ!」『女好きの人食い猿のどこが由緒正しいのだ!』「なんじゃいボケザル従魔いてこましたらええんやろうが! やったろやないかい!」と言い合いはヒートアップし意気軒昂と動物園へやって来たのであった。

「今回の依頼は動物園だね」と言う大門寺 杏奈(aa4314)に新城 龍子(aa4314hero001)は頷く。
『普通だったら楽しいんだろうけれど、こうなっちまったら危なくて仕方がないね』
 動物が好きな杏奈はやる気があるようで、「頑張る」と口にしている。
『まぁ、何にせよ、はた迷惑な猿の従魔はとっちめて、怪我人が出ない内に動物達も檻の中に戻さなくっちゃね』

●園内へ
 イリスはライヴスラスターの加速力を利用し、縦に横に縦横無尽に駆け回る。こんな時にうってつけの装備である。
 普通の人間からしたら肉食獣と遭遇でもした日には腰を抜かすが、「共鳴中のリンカーに普通の動物とか何の脅威でもないしね」とイリスの言うように従魔や能力者と比べてしまえば、肉食獣なんて可愛い物である。寧ろ、愛玩動物くらいのポジションであろう。尤も、彼らからしても比べる対象を間違えているとでも主張したいかもしれないが。
『まぁ、それは事実ではあるが。それでも油断はしない事だよ』
「うん、分かってるよお姉ちゃん…ここは、戦場だ」
 大型動物など手強そうな相手の好物を幻想蝶の中に仕舞いこんであるし、準備は万端である。
「平和的! 平和的にいこうね、お姉ちゃん」
『まぁ、問題が起こってからでは人も動物も不幸にしかならないからね。迅速かつ丁寧を心がけるとしようか』

 侠は、そこら辺を闊歩する動物達に目もくれずに走り回る。
 ボスがいて、それが猿を操っているのなら「統制がとれているほど、布陣は読みやすい」という一言に尽きる。
 そして更にボスを守るため、群れの動きはボスを中心としたものとなることに間違いはない。それはつまり、「おおよそ向こうの方角だ。手掛かりとしては十分だろう」ということである。
 共鳴したまま疾走し、基本的に動物は無視していたが、ときたま見かける猿についてなら話は別だ。
 斥候なのか遊撃部隊なのか、群れではなく、猿が一匹でうろちょろしている姿が目につく。その場合は接近して間合いを詰めると、猿の方が侠のことを敵だと認識し、引っ掻こうとするのを避けると、そのまま勢いをつけカウンター気味にメイスの石突で強打して昏倒させた。
 動かないのを確認すると、通信で「すまないが、回収を頼む」と保護担当のメンバーに連絡を入れた。

「拓海さん、大門寺さん、イリスちゃん…状況はどうでしょうか?」と由利菜は他のメンバーの様子を確認し、それを終えると通信を切った。
 動物園の用務員から現在の被害状況、そして檻の鍵を借り、更にHOPEからは麻酔銃と捕縛用ネットも借りて準備万端の状況である。
 リンクコントロール及び各種レートが上がるようにすると、「どんな従魔も、ライヴスへの欲求には忠実でしょう」と不敵に笑む。
 その笑みを見ながら、リーヴスラシルは『ユリナは、御両親と動物園へ行ったことはあるのか?』と尋ねると、今度は少し困ったような笑みを浮かべて懐古するかのように「ええ…幼稚園の頃に行ったのを今でも覚えています。当時は動物との触れ合いが苦手でしたけど…」と口にした。
 そしてその空気を吹き飛ばすかのように、「さぁ、従魔の討伐だけではなく、動物の保護もしますよ」と事前に用意していたフルーツの盛り合わせ置き、動物をおびき寄せようとするのであった。

 拓海は飼育員から逃げ出した動物達の話を聞いた。
 逃げ出した数や種類に関しては、鍵の束を猿が持ち出したことから正確な数と種類は判明していないこと。そして今も檻がどんどん開けられている可能性があるということを聞いた。
 顔を青くさせるのを通り越し、蒼白になった飼育員に拓海は「全頭捕まえますから安心してください」と、言葉通り安心させる笑みを浮かべた。そして、飼育員から動物の好物や好みそうなもの、現在猿が持ち出した鍵束で開けることができない鍵やチェーンロックがあるのか確認し、それも借り受けた。また、捕獲した動物を搬送する時の為にトラックを借りたいという旨を伝えれば、事務の方で使用している軽トラックを借りられることとなった。
 園内の地図を確認し、見晴らしの良い場所や動物が隠れられそうな場所の見当をつけると、拓海とメリッサはその場所へと向かうのであった。

 緋十郎は、まずは猿達の好物を用意して誘き寄せる作戦である。更に、集中してライヴスを高めることでライヴスを餌としている従魔も誘き寄せられないかと試みてみる。
 そして、猿達をボスが操っているということから緋十郎は意識を共有しているという風に推測する。そこから、威嚇をすることで猿の群れを通じて直接ボスを威嚇できるのではないか……という寸法だ。
 果物を設置し、木陰や建物の陰や木の上など重点的に捜す。従魔であり、司令塔の役目も果たしているボス猿が馬鹿ではないということは解る。それならば、そう簡単に姿を現すとは思えないからだ。
 事実、やって来たのは数匹の猿であった。しかし、注意深く辺りを警戒している。
 そんな猿の前に緋十郎は出ると、「お前達の群れのボスの座、“不屈の猿王”たるこの俺に譲り渡して貰おうか。よもや逃げたり隠れたりはするまいな…? 恐れて逃げるのであれば、不戦勝で俺が新たなボスだ…!」と通じているか通じているかどうかは不明であるが、操られている筈の猿達が怯える勢いで威嚇した。

 岩磨は他の面々同様誘き寄せる作戦であるが、少しばかりアグレッシブとでも言うのか、思い切り挑発する方向である。
 大声で騒ぎたてたり吠えたりすれば他の肉食動物達も集まってくるものであるが、ドラミングをすることで、動物園で飼いならされたことによって野生のものよりは気弱になった動物達は遠巻きに見てくるだけである。
 それもそうであろう。只事ではないような、気迫の籠った姿である。岩磨が大柄であるのは元より、共鳴することによってその姿は皮膚が岩のように固くなり、大型な猿人のような風貌になっているのだ。この異様さで異様な迫力を纏う姿に、動物たちは岩磨のことを意識しつつも近寄れないような状況に陥っているのである。
 そんな岩磨はというと、「ウキキーッ! おうボケ猿どこじゃ! かかってこんかい!」とか「おーおー、こんな雑魚猿の頂点に立ったくらいで、ええ気になっとんちゃうぞ!」とか、大声で挑発する台詞をやけくそのように叫ぶのであった。

 飼育員にボス猿が普通に猿をしていた時の話を聞き、何か特徴的な行動などをしていたかどうかを確認した後、他のメンバーにまずは優先すべき猛獣類の捕獲状況はどうなっているのか連絡をとった。
 杏奈自身も熊と遭遇したが、普通の熊なら攻撃を仕掛けてくるような距離まで近づいても、熊は杏奈のことをじっと見ているだけであった。小熊だからというのではなく、日々人目に晒され人から餌を得ることで警戒心というものが薄れているのかもしれない。
 杏奈の武器はリーチの短い手斧ではあるものの、こちらから攻撃されると思っていない熊の側頭部に斧の側面を叩きつけると簡単に昏倒させることができた。
 それを見て、やれやれとばかりに龍子が溜息を吐く。
『やっと戦えると思ったら...本命のお猿さんはお隠れしちまってるねぇ』
「動物達の回収、大事だよ」
『わかってる。いくら猛獣と言っても飼い慣らされてるんじゃ敵意も感じられないしね」
「ん。次行こう」
『そうだね。時間が惜しい』

●捕獲
 発見した大型動物をイリスは好みのものを使って興味を引き、そのまま檻に連れ帰ろうとする。しかしたまに反応が悪かった場合は歌で気を引く。
「お姉ちゃん、こういう時は音楽で気を引くんだよ」『まるで御伽噺の笛吹きのような働きを期待されているね。では、一曲歌わせてもらうとしようか』と、いう風に。
 危険な動物が対象だった場合は、ときたま相手が牙を剥く場合もある。基本は友好的な方向性であるイリスだが、そういう場合はアイリスと交代し、彼女が動物を檻まで引きずって行く。
『力ずくではあるが私なりに迅速かつ平和的手段だよ。人間の施設の中で人間を傷つけた動物の末路を考えれば十分平和的といえるだろうさ』

 由利菜は事前に仕掛けていた果物の罠に、動物がやってくると、用意していた麻酔銃で動物を眠らせた。
『ナイスショット、とでも言うところか?』と声をかけるリーヴスラシルに微笑み、念の為捕縛用のネットで逃げられないようにしてから、動物を檻の中に戻すのであった。

 拓海とメリッサは手際良く動物を捕獲していく。
 猛獣や大型動物といった、ちょっと手が付けられないような、暴れたり逃げ出したりしたら大変なものを優先的に捕獲する。
 熊と遭遇した場合はテディベアのように後ろから抱く……但し、熊が動けないように万力のように強い力ではあったが。虎の場合は猫を抱くかのように首の後ろ支え、もう片方の手を腰の下に手添え抱きこんだ。ゾウやキリンといった大きなものは、釣竿におもちゃをぶら下げて興味を引き、隣に並んで「部屋へ帰ろうな」と声掛け共に歩くのであった。

 杏奈は虎の子供を抱えた。まだ生後数か月のそれは可愛らしく、しかし犬猫に比べると随分と大きい。
 杏奈が虎を抱えると、親虎は杏奈が子供を連れ去る悪い奴に見えるのだろう。唸り声を上げて威嚇をしてくる。
 その虎を一瞥すると、抱えたまま走って注意を引き、虎の檻まで走るのであった。そんな杏奈に、龍子は楽しそうに『ほら、追いつかれるぞ。頑張れ、頑張れ』と囃し立てるように声を上げるのであった。

●遭遇
 緋十郎は猿の群れを発見した。その中に、一回り大きな猿の姿を認めた。その猿の瞳はとても赤い。光の加減……というのではなく、本当に赤かった。
 すぐさま他の仲間に連絡を入れると、傍に居た侠と岩磨が数分と経たずやってきた。他のメンバーも向かっているようである。
 間もなくして全員が集まった。
 猿の動きがあったらすぐに動こうと警戒はしていたものの、相手方からはそれらしき動きはなかった。

 侠と岩磨も作戦を成功させる為、挑発し、猿をボス猿中心に一カ所に集める。
 全員で追い立てるようにして四方八方から囲むと、ボス猿は大きな声を上げた。その声に従い、今まで隠れていた猿達が建物や木から姿を現す。
 そして待っていましたとばかりに、侠と岩磨はセーフティガスを使用する。
 猿の鳴き声が響き渡る。
 広範囲をカバーする為、同じ方向からではなく挟み込むような形で使用する。一応但し書きにあるように瀕死の能力者ではないから効きはしないが、メンバーは邪魔にならないようにガスから離れた。
 その間、何があってもすぐに対応できるように警戒は怠らない。しかしガスが晴れるまでの間に、杏奈が飼育員から聞いたボスのことをメンバーに話した。

 少し時間が経ち、殆どの猿が眠っているのが見て取れる。残っているのはやはり、従魔であるボス猿と、数匹のだけだ。しかし、普通の猿はいくら従魔に操られているとはいえ、ふらふらと重心が揺らいで傾いでいる。

 メンバーの中心の位置で、杏奈は救国の聖旗「ジャンヌ」を右手で振り味方に守りの加護を与える。
 金色の光を帯び、銀色の右腕との相乗効果で輝きを増す。
「もう誰も…傷つけさせない!」

 緋十郎は牽制と先制攻撃を兼ね、魔剣《闇夜の血華》(改造したカラミティエンド)を召喚する。
 今回の共鳴は完全に緋十郎が握っている為、野獣のような咆哮をあげながらボス猿に突っ込む。
 血色の大刃が怪しく煌めく。
 そして電光石火を発動し、その勢いのまま突っ込んで相手の出鼻を挫く。
 文字通り目にも止まらぬ速さに、ボス猿の脇腹が裂かれる。しかし、ボス猿はすかさずその間に猿を立たせることで一度距離を取る。
 こちらが操られている猿に強烈な攻撃をしない、という判断をしてだろう。全く、猿の従魔だというのに悪知恵は回るようである。

 イリスはふらふらとしながらも攻撃しようとする猿を盾で受けると、デコピン(ライヴス)リッパー(超手加減)にてライヴスの乱れを共有して従魔猿に影響しないか試してみる。
 案の定と言うべきか、重心の安定していなかった猿は追い打ちを受けるかのようにして倒れ込んだ。しかし、超手加減しているだけあって目を回しているのと、先程の睡眠効果だけのようである。
「やったね、お姉ちゃん」と、次の猿へとイリスは狙いを定めるのであった。

 杏奈は差し向けられる猿をすかさず仲間との間に入り、「この程度、何も感じない」とカバーに走る。しかし、そんな杏奈自身を狙い、距離を詰めてきたボス猿に、一気呵成で迎撃を図る。
『アタシの杏奈には…手ぇ出させないよっ!!』と、容赦なく攻撃を放つ。
 ボス猿は攻撃を受ける瞬間、一歩後ろに跳んで身体を傾けることによって攻撃は喰らったものの、ダメージをいっぱいに受けるのではなく受け流した。それに『チッ!』と龍子は荒々しく舌打ちをする。

 再び距離を取ったボス猿であるが、だからこそ岩磨はボス猿の注意を引くように、相変わらずの挑発姿勢を崩さない。そんな岩磨に猿が襲い掛かるが、あっさりとそれを防ぐ。
「おう、痛ないぞ! この程度かアホ猿! 岩猿様に勝てる思うなよ!」と叫ぶ。
 その鼻で笑うかのような口角を上げた嘲笑に、ボス猿は激昂したかのように大きな唸り声を上げた。
 その上、岩磨は適宜、他のメンバーにその注意が向かないように「どこ向いとんねん相手は俺や!」「ええ加減にせえよ、こっち向かんかいボケナス!」と、攻撃しながらも罵るのであった。
 言葉が理解できているのか、それとも雰囲気で察しているのか、岩磨のそんな姿にボス猿は苛立ったかのように、猿達を蹴飛ばし起こそうとする。しかし、侠は「いい顔をする、猿にしてはな」と、接近する。
 岩磨の後ろに居た侠はその陰から出て、ブラッドオペレートを発動する。
 完全に岩磨の巨体に隠れていた侠に、ボス猿は判断が遅れた。
 意識が混濁した猿の隙間を縫うように攻撃が飛び、そして足を斬り裂く。
 ライヴスの羽が舞い散る。そして、絶叫。
 攻撃を受けたということを理解したボス猿は唸り声を上げた。そのボス猿を庇うようにして他の猿達が前に立ちふさがる。
 しかし、問題はない。侠の攻撃は敵を倒すのではなく、その機動力を削ぐ所にあった。これでもう、ボス猿は身軽な動きをすることが難しいだろう。

 それでも尚逃げようとするボス猿を、拓海は釣り竿「黒潮」釣竿で捕縛する。
 身体に巻き付け、その動きを阻害する。
 従魔も必死に抵抗するものだから、竿がしなる。しかし、拓海はその競り合いに勝つと、従魔の身体を高く放り上げた。
 そこですかさず武器を天弓「アクハト」に持ち替え、狙撃する。

 落ちてきたところで、待っていましたとばかりに待ち受けていた由利菜が、無形の影刃<<レプリカ>>と【SW(剣)】ミラージュソードで外見を装った剣での二刀流で迫る。
 一撃入れ、そして更に従魔の意識が一瞬飛んでいる瞬間に左右の剣を入れ替えて殺陣や剣舞のように流れるように攻撃を繰り出す。これはラシルの技量と観察力があるからできる技である。普通の人だったら入れ替えながら戦うといった、曲芸にも近い芸当ができるわけがない。
 そしてライヴスリッパ-で頤を穿ち、脳を揺すって動きを鈍らせた。
『まどろみに落ち、己が不明を悔いよ!』と、一斉攻撃の合図を出す。

 イリスの剣が斬り裂き、侠のブラッドオペレートが抉り、由利菜の剣の衝撃波が足を斬り、拓海の魔剣「カラミティエンド」から放たれた烈風波が攻撃の合間を埋め、岩磨が朱里双釵で素早く削り、龍子の一気呵成が体勢を崩す。
 そして……
 緋十郎は背中に巨大な漆黒の翼――改造した希望の御旗を拡げ、自分と仲間の攻撃力を上昇させた。そこから更に吸血茨でさらに攻撃力を高めると攻撃867の《疾風怒濤》で体力を削る。
 おまけとばかりに、一気呵成で転倒させた処に従魔の喉笛を斬り裂いた。
 鮮血が飛び散る。
 容赦のない攻撃が従魔へ止めを刺した。
 雄叫びが響き渡った。緋十郎の勝利の雄叫びであった。

●檻へ
 眠っている猿は一先ず置いておき、まだ辛うじて意識のある猿に緋十郎は近づいた。
 そしてじっと見れば、猿は視線を彷徨わせた。洗脳は解け、誰が強いのかを理解しているのである。
 緋十郎が猿山に戻るように促せば、意識のある猿達はふらふらと猿山へと向かった。眠っている猿は拓海がトラックで運ぶ手筈である。
 そして今猿山に居る猿達を見回し、緋十郎は近づいた。
「また遊びに来る。それまで…ボスの座はお前に預ける…!」と言うと、猿は解ったのか解っていないのか首を傾げた。

 拓海とメリッサはトラックで猿を運びながら、車の中で「怪我してたのを助け一生懸命世話したら従魔でした…じゃあ飼育員さん辛いだろうな」と話をしていた。
 溜息を吐く拓海に、メリッサは『…そうよね。でも…相手が助けを願ってたかは疑問ね』と肩を竦める。
「それは言わない!」
『こう言うのは受け手次第よ、そのまま通じるとは限らないもの』
 その、偽善を指摘するかのような的を射た言葉に、拓海は少し考え、「ん…従魔にでも通じてて欲しいもんだな…」と呟いた。

 侠と飛影は共鳴を解くと、鳥達の保護へと向かった。動物園ということもあって人に慣れていることもあり、本来の姿は鳥に近いというだけあって、あっさりと飛影はその輪に入っていく。そして意思の疎通をすると鳥たちはいとも容易く檻の中に入って行った。あまりにも簡単に入って行ったことと馴染みっぷりで、帰路の途中で侠が「あ…。忘れてきた。ま、いっか」と飛影を鳥の檻の中に置いてきてしまったのは余談である。

 岩磨と不謂は相変わらずの調子で、「あーまだこんなに残っとんかいな。なー俺がここまでやらんでもええんちゃうんか」『阿呆。少しは真面目に働いて、お前自身のいめぇじあっぷを心掛けろ』と言い合いながらも、動物達を檻へと戻すのに奔走する。
 不謂ではないが、岩磨のこの怠そうな言葉さえなければもっと格好がつくであろうというのは言うまでもないだろう。

 初めから檻の中に動物を戻していたイリスとアイリス、由利菜とリーヴスラシル、杏奈と龍子は手順が解っているとばかりに手慣れた様子で動物達を檻へと戻していった。好物やおもちゃで気を惹く作戦もばっちり成功である。

 そんなこんなで、戦闘よりも大変な奔走具合で動物達を檻へと戻して行った。
 動物園の職員たちからは、「何から何まで有難うございます」と非常に感謝されるのであった。
 動物園を出てすぐ、包囲の目を掻い潜ったのか、子供に声をかけられた。それを拓海はにこりと笑み、子供の頭を撫でながら「動物さん達はね、悪の秘密結社に操られてたんだよ。皆でやっつけたからもう大丈夫だよ」と安心させるように言うと、子供は「本当?」と尋ねてくる。それに、一同が頷くと、子供はぱぁっと表情を輝かせた。
 子供は「凄い、凄い」と連呼してはしゃいでいる。
 無邪気な様である。
 それを見て、一同は其々笑みを浮かべるのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    飛影aa0782hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312
    獣人|32才|男性|防御
  • 猛獣ハンター
    何 不謂aa4312hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 猛獣ハンター
    新城 龍子aa4314hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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