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宝石達へ

玲瓏

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/06 19:35

掲示板

オープニング


 近頃はドミネーターであったり自殺案件であったり愚神の出現であったりと物騒な事が続きすぎて夏休みという言葉とは程遠い日常をノボルは送っていた。坂山は入院中だし、唯一の話し相手はスチャースのみ。
 何か楽しい依頼はこないものなのかと憂う事もある。英雄といえど、機械といえど嫌な事件ばかり起きるのは物悲しい。依頼が来る度に、誰かが不幸になっているという事なのだから。
 そんな日々のせいか、とある依頼が来たときにノボルは喜々として受け入れた。それはもうとても喜んで。
「このテーマパークの中に建設されるプールの管理人から依頼がきたんだ。最近建設されてまだ一般公開はされてないんだけれど、その前に危険かどうかを判断したいからってエージェントの力を必要としたんだ。従魔とかは全く出ないんだけどさ」
 なぜエージェントにその仕事が回ってきたのか。それはかつて、このテーマパークが愚神に襲われた時にエージェントが助けに来てくれたという事があったからだ。管理人は仕事で忙しいエージェント達の事を考えて、あくまでも仕事という形で依頼をしてきたのだ。
「場所はイギリスのN・Sアイランドパークっていう所だよ。っていう事でエージェント諸君、プールが危険じゃないかどうか、存分に調査してきてほしい!」
「ノボル、私もついていこうか」
「スチャースも? でもプールって機械からしてみれば天敵の場所じゃないかな。壊れたら坂山に怒られるよ」
「私自身が入る訳じゃない。監視員という物がプールにはいるだろう。少し濡れたからといって故障する程私は弱くない。湿気等も気にする事はない。何より、エージェント諸君が楽しんでいる姿を私も一度、目に焼き付けておきたい」
「そうかぁ……。ならいいよ。スチャースも行っておいでー。僕はここで、何があってもいいように待ってるから」
 楽しい思い出となるように、それだけを考えてノボルはエージェント達に手を振った。


 アイランドパークというように、ここは無人島をテーマとした遊び場だ。遊園地と同じようにレストランやジェットコースター等も設置されている。プールは出入り口から一番近い所にあり、なんと二階建てだ。
 男子と女子それぞれのロッカールームを超えるとすぐにプールになる。
 無人島要素はいたる所に散りばめられていた。中央の大人用の普通のプールにはなんと、大きな海賊船があるのだ。そこに乗るには梯子を登る必要が出てくる。更に形だけではなく、海賊船の中にも部屋があり、そこは休憩室となっているのだ。
 中から外を見渡す事ができたり、中に食事用スペースがある等中々凝っている。更に監視員は船首で望遠鏡をのぞき込みながら監視するというので、こだわりが溢れ出ている。
 大きく注目を集めるのはその海賊船だが、中央の左右にあるプールも個性的だった。左側にあるプールには小さな筏風ボートがある。柔らかいプラスチックでできていて、カヤックのように自分で漕ぐ事ができるのだ。ちなみに通称流れるプールとなっており、漕がなくても自動的に進む事はできる。
 しかしプールには途中で分岐ルートがあるのだ。カヤック用と通常用のルートに別れ、通常の所は流れるスピードが速くなるゾーンがあるだけだが、カヤック用はまるで川下りのように急な斜面がある。そこを下る時はスリルが満点だろう。
 右側のプールにはイルカがいる。
 ……冗談ではない。実はこのプールはアイランド内にある水族館と繋がっている。右側のプールはドーナツ型となっていて、中央にはイルカが泳げる水槽があるのだ。イルカと一緒に泳ぐ事は一般市民にはできないが、エージェントならどうだろう。
 浴槽は透明で、水中に潜ればイルカが泳いでいる所が見られる。とはいえイルカが眠っていたり餌の時間だったりした場合は見れないが、エージェントがいる時間は従業員達はそういった時間を作らないようにしている。
 円筒状の水槽に守られているため、イルカのいる浴槽にプールの水が入る事はない。
 外側は流れないプールで、遊び用、泳ぐ用としても多彩だ。
 右側から二階にあがる螺旋階段がある。二階もまたプールだが、一階に劣らない雰囲気を見せている。
 何をモチーフにしたのかと言えば、おそらく洞窟だろう。一階とは打って変わって、少し薄暗い。更に壁と地面も岩石で出来ていて洞窟という雰囲気を存分に出している。
 プールは二個あり、子供用のプールが一つ。小さい子供が泳ぐためのプールで、玩具が色々用意されている。
 洞窟の入り口という設定で、子供用プールから大人用のプールに移動するには少し狭い通路を通らなければならない。直立状態では通る事ができない通路で、ここまで洞窟を再現しているのだ。
 大人用のプールは洞窟の奥という設定で、子供用とは異なり薄暗さが増していた。更に天井から大きな光る眼が覗いている、壁の中から得体のしれない怪物が出てくる等、少しホラー色も含まれている。
 大人用もいたってシンプル。二階は洞窟といった雰囲気に存分に浸るために設置された場所なのだろう。薄暗いのは少し危険だが、足元には光源があるなどの対策はされている。
 また、怪物なりきりセットといったよくわからない物も置かれている。地底人や恐竜のスーツを着て楽しむ用のグッズだ。見た目の完成度は高く、追われると怖い。
 もしも喉が渇いたりお腹が空いた場合はロッカーに戻って財布を取り出し、受付で金貨を買うのだ。その金貨を持って海賊船に乗り込み、その中にあるファーストフード売店かレストランで飲食を補う事が出来る。
 経費で落ちるかは不明だが説得が物を言うかもしれない。
 
 管理人はエージェント達が到着するのをアイランド入り口で待っていた。
「ようこそ! さあさあお待ちしてました。こちらへどうぞ!」
 高齢の管理人だった。彼はエージェントを連れて、プールのある施設まで案内した。

解説

●目的
 プールに危険がないかの調査。
 遊ぶ。

●プールについて
 まだ公開されていないので、調査の際にはエージェント達の貸し切りになります。遊具の持ち込みは許可されていて、忘れた場合でもパーク内の売店で色々売っているので、購入できます。色々と売っています。

リプレイ


 ナシの実がなる向こう側、室内プールにはもう何人ものエージェントが危険調査のために入っていた。更衣室でそれぞれが水着に着替えている最中だった。
 管理人は、調査監督といった役目で訪れていたスチャースとルー(aa4210hero001)に最終確認として面を向けていた。スチャースは犬だから少し中腰になる必要があったが。
「もしよかったらで良いんですが、スチャースさん。あんまり厳しく皆さんを見ないでくれると助かります。そりゃ怪我のしないよう見張る必要はありますが、何分楽しんで頂こうという気持ちで精一杯なんです」
「その気持ちを邪魔しないよう、不躾な程目を光らせる必要はないという訳か」
 スチャースは実際に目をライトで点滅させた。
「お願いしますね。監督さん」
「もとより私は深く注意をするつもりはない」
「そうでしたか! ああそれは良かった。ではよろしくお願いしましょう」
 二人の話が終わったと、ルーは口を挟んだ。
「今日はありがとう。僕らのために管理人さんが立ててくれた企画だったとは、最初は思わなかったよ」
「これは恩返しのような物でもあるんです。なので気の向くまま、やりたい事ができればなと、心から思っています」
 とっておきの笑顔を管理人はルーに向けていた。人が喜ぶ事が好きな人の表情、彼は管理人にそんな感想を抱いた。
 すると男子更衣室の方から大きな声が聞こえた。
「はわわ!? ぷ、プレシア、着替えるのはあっちだよー!?」
「あや? 僕はどっちでもいいのにー」
「よ、よくないからあっちで着替えようねっ?!」
 三人は顔を向かい合わせた。
「無論、しっかりと」
「あはは、よろしくお願いします」
 スチャースは騒がしい更衣室を抜けて、エージェントより先に監視役の位置へと登っていった。
 彼の後を追いかけようとしたルーだったが、理喰(aa4448hero001)がプールの施設を後にしようと奥から出てくるのが見えて足を止めた。
「理喰さん、だったかな。調子でも悪いのかい」
「食べ物、食べ物~」
 そういって彼女は遠くへ行ってしまった。ルーは腰に手を当てながらも、更衣室から出てきたフィアナ(aa4210)が彼を呼んでいた。
「兄さんっ、早く早く」
「はいはい。まったく、水着のままこっちに出てきちゃだめだろう」
 急かされるままルーは男子更衣室へと入り、水着へと着替えた。


 室内プールとはいえ、大きな窓は開かれていて外の空気が循環していて風当りが心地良い。日差しも照って水面が輝いている。
 ローライズな水着を纏った御手洗 光(aa0114)は更衣室を超えるや否や光を浴び、大きく背伸びをした。隣でレイア・メサイア(aa0114hero001)も真似をした。
「ふふふ、今日は楽しませてもらいますわ。折角の役得、無為に過ごすのは勿体ないっ」
「待ちにまったプール日和なのですぅ~! とっても楽しそうなのですよぉ~っ」
「あら、希望さんも着替え終わったみたいですわね」
 男子更衣室から出てきた天之川・希望(aa2199)は早速、アニマ(aa2199hero001)を探した。きょろきょろ周りに視線を泳がすも、見当たらない。
「希望さ~ん」
「あ、光さん――って、あわわすごい水着……!」
 御手洗の積極的に美を表している水着に、天之川は若干赤面した。ちょっとした衝撃で解けてしまいそうだ。
「え、えーっと。アニマを探しているんです。どこにいったか分かりますか?」
「アニマさんなら先ほど、水着の着用で苦労してましたわ。今は紫さんが手伝って……」
 女子更衣室から紫 征四郎(aa0076)と一緒にアニマが姿を見せた。
「プール、プールっ、みんなとプール~」
「遅いよぉ。アニマぁ。水着、征四郎ちゃんにつけてもらってたの?」
「はい~。そうなんですよ~。難しくてー……」
「全く……。征四郎ちゃんはわざわざありがとうございました」
「いえいえ、大丈夫なのです。それにしても大きなプールですね! これなら一日中遊んでいられそうなのですよ」
 少し先から紫を呼ぶガルー・A・A(aa0076hero001)の声が聞こえて、彼女は四人に礼をするとそそくさとその方へと向かった。ガルーは流れるプールの方面で窓や床を見渡していた。
「ガルーは何をしているのですか?」
「調査だ、一応な。迫間は二階の調査を先にするっていうもんだから、俺様も手伝うって訳だ」
「迫間も偉いのです。やる事をやってから遊ぶのですね」
「ってよりかは二階の洞窟エリアに早く行ってみてぇって感じがしたけどな。いつもよりも目をキラキラさせてたぜ」
 すると木霊・C・リュカ(aa0068)が彼女を呼んだ。彼は念入りに調査するガルーのほとんど真横で、浮き輪に身を預けて流れを堪能していた。浮き輪に乗りながら紫に手を振っていた。
「あ、リュカ!」
 紫はすぐにプールの中に入り、リュカの元へと寄った。
「外が暑かったので、プールの中が心地よいのです」
「最適な温度だよねっ。それにこうして浮き輪にはまってただ流れる……何だか運ばれてるって感じがして楽しいよね! 全然疲れないし」
「あれ、でもリュカ。もう少しで流れのはやくなる所なのです。そう書いてあるのですよ」
「えっ! せーちゃんそれ本当に?」
 紫の忠告は少し遅く、絶叫系が苦手だと誰もが認める彼は流れの早くなる地点に突入した。最初は驚いたリュカだったが、とはいえ所詮プールのランク。浮き輪がくるりと回転して水に流されるだけで終わった。リュカには丁度よいスリルの地点だった。
「リュカ、余裕そうなのです!」
「苦手克服のチャンス到来かなっ?」
「そうかもしれないのです!」
 にんまりと笑う紫。今日という一日の始まりは絶好調だった。そしてふと前を向いた紫には陳列棚が見えた。貸し出し用の物だろう。
 その棚にはカヤック用のボートが陳列されていた。


 迫間 央(aa1445)は二階の洞窟エリアで危険調査のために隅々までしっかりと目を走らせていた。その隣にはマイヤ サーア(aa1445hero001)の姿があった。彼女が外に出てくるというのは珍しい事だった。
「洞窟風のプールの中に海賊船って……完全に"G○ONIES"じゃないか……くそっ、俺の世代狙い撃ち過ぎるぞこんなのっ」
「……央が子供の頃の探検映画……だったかしら?
「頭ぶつけないように気を付けてな……子供が走って怪我したりはちょい心配かもな」
「完全に洞窟よね」
 さてさて大人向けプールは子供向けと違って薄暗かった。窓はなく、豆電球からの明かりを頼りにするだけだ。換気扇の音が洞窟らしさを仕上げている。
「ムードあるわね……あまり泳いで楽しむ感じでもないけれど静かに寛ぐにはいいかしら」
 マイヤはプールサイドに腰かけた。ひんやりとした床の感触と、足を撫でるような優しい水の流れ。
「世間の騒乱を忘れさせてくれるな。一昔前は世界問題やら気にする必要はなかったというのに」
 水面には様々な記憶が映り込んだ。薄暗いからだろう。黒いスケッチブックには何色が似合うだろう?
「あ、スチャース……」
 マイヤがスチャースの事を知らせた。彼は二階に来ていたのだ。
「邪魔しただろうか」
「いえいえ、そんな事は。スチャースさんはこのプールの事、どう思いましたか」
「人に対する危険の事を考えながら、いかにこだわりを上手く再現しようか、その意図を感じ取る事のできる施設だと思った」
 ここまで手の込んだプールは中々ない。金があったからできたプールではなく、金と、管理人やプロダクションの人々の自信、子供心が寄せ集められた完成したのだろう。迫間も子供の頃の夢に浸っていた。大人も子供も楽しめる、夢のようなプールだ。
 不自然な影を見たマイヤは「あ」と声を出した。スチャースも迫間もすぐに目をマイヤの見ている方向に移す。そこには二足歩行の、人間ではない何かの姿があった。
「あれは二階の洞窟広場に置かれている怪物の着ぐるみだ。いつの間にかエージェントが着替えていたようだな」
「着ぐるみ? そんなのがあったのね」
「うむ。とはいえ私も驚いた。もし本物の従魔だったら、ひどく落胆していた」
「ロボットが落胆、ですか。……ところで、中身は一体どなたなんでしょうね」
 着ぐるみの怪物はぎこちない動き。情けない目をしているし、たらこ唇であり恐怖ではなく笑みを与える顔と体つきをしていたが、それは明るい時に限る。暗い場所だと豹変してしまうものだ。
「プ、プレシア~? どこかな~……?」
 狼谷・優牙(aa0131)は恐る恐る大人用プールに足を踏み入れた。狼谷は迫間達の姿を見つけ一安心すると、声を掛けながら近づいた。
「あ、あのうすみません。僕狼谷っていうんですが、あ、それは知ってますよね……。ああいえ、えっと……プレシアをここで見ませんでしたか?」
「いえ、ここには来ていないかと思います」
 困った顔をした後に、狼谷は背後から肩を叩かれた。狼谷は、いやいや誰もがそこに立っているのはプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)だと思うだろう。
 予想は大きく裏切られる事になる。
「か、怪物ー?!」
 ひどく透き通る大きな声を出して狼谷は真っ先に尻もちをついた。
「あははははっ、♪ 優牙、すごく驚いてるのだ。怪物は僕なのだー♪」
「ぷ、プレシア……ぅぅ、だ、騙されたー……」
 ムード……とマイヤが呟いた。
「ここはコンセプトを絞ったほうが良さそうに思うな」
 豆電球の明かりが眩しく感じられた。色々とチェックポイントがこの洞窟には多い。


 三人は同じ姿勢でイルカを見ていた。しゃがんで、膝に手を置いてイルカを観察するのだ。イルカは今円筒状に伸びた浴槽の上の方でグルグルと回っている。
「あれ、食べられるんでしょうか」
 アインハルト・フリューゲル(aa4448)は言った。
「何を言っているのだ、食べられる訳がないだろう」
 アナスタシア(aa4014hero001)の叱責をいただくも、アインハルトの眼差しは変わらなかった。良い色をしていて、艶もいい。元気に泳ぐ姿。良い味になるにはもってこいだ。
「可愛い……これこそ最もたる癒しという物だ。心の洗濯とでも言おうか」
「美味しそう……。どんな味がするんだろう」
「ふむ、どうやら私はお前を今日は見張らなければならないようだな。大丈夫だイルカ、お前の事は必ず守ってやる」
 流れるプールの方面からリュカがオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)を呼びに訪れた。
「せーちゃんがなんだか乗り物を見つけて、乗ってみようっていうんだ。一緒にどうかな?」
 しゃがんだ状態から立ち上がったオリヴィエはアナスタシアの方を見た。
「任せたぞ」
「うむ、勿論だ」
 リュカがオリヴィエを連れて向こう側にいくのを見届けてから、アナスタシアも続いて立ち上がった。
「どれ、私も折角だ。楽しむとするか」
 食べられないように見張りつつ、アナスタシアはプールの中へとゆっくり浸った。するとイルカも彼女の動きに合わせて下に降りてきてくれた。
 目の中に花を咲かせたような顔をしながら彼女は、小振りにイルカに手を振った。そうしてから彼女は気持ちよさそうに、優雅に泳ぎ始めた。
 イルカも楽しげについてきてくれている。
 だが予想外の事が起きた。イルカはアナスタシアの動きよりも速く泳いでいるのだ。その事を不自然に想い立ち上がると、予想外の出来事の理由がすぐに分かった。
 気付けばアインハルトも泳ぎに混ざっていたのだった。その速度がアナスタシアを追い抜いていたせいでイルカは彼に夢中になったという訳だ。
「よせ、食われるぞッ」
 再び本気になって泳ぎ始めたアナスタシアだったが、決定的な欠点のせいで追いつく事ができなかった。それは胸の大きさだ。不利になる要素が強い。この事を知った黄泉 呪理(aa4014)は何て言うだろうか?
 しかし構わない。彼女はいわばイルカの守護者。
 しかし無理だ。先に疲れてしまったのはアナスタシアの方だった。であれば最終手段だ。彼女は立ち止まり、後ろに振り返った。両手を横に大きく広げ立ちふさがる。
 泳ぐ事に集中しているアインハルトはその事に気づかない。もうじき迫る。
 時は満ち足りた。
「こいっ」
 またしても予想外の事が起きた。泳ぎに集中していたかと思えば、アインハルトはしっかりと守護神の姿を捉えていた。彼は水中に潜ると、大きく開いた彼女の足を潜り抜けようとしたのだ。
「まだだッ」
 策士。アナスタシアは足を閉じてアインハルトを挟んだ。イルカさえその光景を珍しく見つめた。


 流れるプールには二隻の船が上下に重なっていた。前方、紫とリュカペア。後方には御手洗と天之川ペアに黄泉がくっついている。
「あれやね、こう、ゆっくりと流れるままに流されるのに癒やしというのを感じるんや」
「そうですねぇ~。黄泉ちゃん、疲れてませんか~? ずっと漕ぎっぱなしです~」
「大丈夫や! うちはそこらの女共と違って丈夫なんやで!」
「ご褒美~」
 アニマは黄泉の後ろに回ってその大きな二つの果実を彼女の背中に当てた。うんざりしたような顔をして黄泉は手を動かし続けた。どうしてこう、周りにはバストの大きい人物しかいないのだろうか。
 少しやけになった黄泉は漕ぐ速度を強めた。
「ああ、ぶつかりますぶつかりますっ!」
 紫達のボードはすぐ目の前だった。希望は焦って黄泉に言うが少し遅く両者は激突した。といっても強い揺れが起きたくらいで、大した事故にはならなかった。
「う、うわあごめんなさいっ!」
「気にしなくて平気なのですよー!」
「ふふ、スリル満点ですわっ。次は転覆とか、もっとスリルがあって面白いと思いますわね」
「面白そうなのですぅ。レイアちゃん、てんぷくしたいのですぅ~」
「ボ、ボクはちょっと遠慮したいかなあ~?」
「希望さん、怖がりですのね?」
「そんな事はないよ! た、多分……」
 今の揺れで驚いていたのは天之川だけではない。リュカも同様に驚いたと同様に、段々と嫌な予感の正体が分かってくるのであった。
「びっくりしたのです! でもお楽しみはこれからなのですよ」
 ガルーは紫の思惑を真っ先に分かり、予めの言葉をかけておいた。
「問題ない。サーフボードがここにあるからな」
「いつの間に俺様はサーフボードになったんだか……」
 紫の思惑は徐々に視界によって見えてくる。音も変わってくるのだ。川下りをする時、波が激しく押し寄せる地点があるだろう。まさにその音だ。
「希望たいちょ、前方にすごい物が見えます~」
「ん? どれどれ……」
「本当や、コースが二つに別れとる。前のチームはそっちに行くみたいやで。うちらはどないしよか?」
「勿論、前に続きますわっ。希望隊長、ルート変更の指示をっ」
「ふむふむ。それでは黄泉隊員、左へ!」
「取舵いっぱーいや!」
 対する紫組ボートの様子はというと。
「ま、待ってせーちゃん、何だかとても嫌な予感がするんだよ……!!」
「大丈夫なのですよ、リュカ。征四郎がついているのです!」
 オリヴィエはガルーの水着を早速握っていた。
「リュカ、もうすぐなのです!」
「わーやだやだちょ、ま、あああああっ!」
 船は縦横に大きく揺れた。
 乗員全員に降りかかるのはポセイドンの逆流。水が船に叩きつけられ、乗る者を脅かす。隊員達の悲鳴が雷に轟く。荒れ果てた嵐の大海――
「結構スリルあるな! これええで! 合格やー!」
 大きな水飛沫。アニマは体を張ってその水飛沫からレイアを守った。彼女の事を抱きしめたのだ。
「希望たいちょ、レイアちゃん、激流です~♪」
 しかしその守りが不得手を招いた。
「アニマ隊員、そんな筏の上で動かないでくださにゃあー!?」
 自然の前に最早エージェントの力は通用しない。希望は御手洗に向かって転げ落ちた。頭が彼女の柔らかなクッションに当たる。
「希望さんっ、はしゃぎすぎですわっ」
 まだ終わりではない。ポセイドンはまだ鎮まらない……。
「わわ! ガルー、すごいのが来るのです!」
 二つの筏の前には木――プラスチック製――が障害として邪魔していた。筏と一緒に流されているのだ。筏は無慈悲にも木々に激突してバランスを崩されていく。
「わ、わぁぁせーちゃん、なんだか最高に胸騒ぎがっ!」
 流木の地点を抜けたらラスト。悪夢が残っている。より一層波が高くなった所でラストだ。筏は何の抵抗もできずそこまで流されていく、そして――。


 流れるプールから聞こえてくる悲鳴を後目に、迫間はマイヤと海賊船の梯子を登っていた。登り切ると、その完成度の高さにまたぞろため息を漏らした。
「そのままのスケールで持ち込んだようなサイズの海賊船だ……本当にあの映画みたいだな」
「甲板からせり出した足場から海賊ごっこで飛び込むのね」
「……一般開放されたら安全対策に結構難儀しそうなところだな」
「かといって、折角のこのロケーションを柵や網で区切るのも無粋よね。管理人も大変……」
 洞窟エリアから一階に降りて来ていたのはフィアナだったが、彼女は大きなコウモリの着ぐるみ姿だった。
「兄さん、こっちこっち!」
 だが明らかに声がフィアナであり、誰も彼女を怖がる事はなかったが。
「気を付けるんだよ。歩きにくいと思うからゆっくりな」
「うんっ。ほら、イルカさんが……」
 フィアナはイルカがいるプールへと向かっていた。アナスタシアは未だにアインハルトを見張っている。
 イルカは近づくフィアナに気づき顔を向けたが、すぐに目を逸らした。二度見をして、再び目を逸らした。
「き、嫌われちゃったのかな?」
「ううん。鏡を見れば、なんとなくイルカの気持ちが分かるんじゃないかな」
「あ、そっか」
 彼女は着ぐるみを脱いで、再びイルカに手を振った。今度はイルカも笑顔で迎えてくれた。
「良かった……。イルカさん、泳いでくれるかな」
「歩み寄ってごらん」
 フィアナは言われるままにプールの中に入った。イルカに近づき、浴槽に手を置く。するとイルカは口でフィアナの手の平を浴槽越しにつついた。
「そういえば、こんなに近くで見るの、初めてね」
「滅多にないからね。水族館でも珍しいんじゃないかな」
 慎重に、ゆっくりとフィアナは泳ぎ始めた。イルカがついてこれるように。ルーは微笑ましそうに彼女が泳ぐ姿を見守っていた。
 イルカはしっかりと彼女についてきている。おそらく先ほどの二人の勝負でイルカも泳ぐのが疲れたのだろうから、この速度がちょうど良かった。
 半分まで泳いだところで息継ぎと同時に、フィアナは足を地面につけた。目の先で、先ほど筏にのって悲鳴を上げていた紫達がプールからあがっている。
「あーっ、楽しかったですね、リュカ……リュ、リュカ、だいじょうぶですか……っ?」
 リュカはプールの端にひっそりと浮いていた。それは死の恐怖から逃れた安心感と船酔いだ。
「うん。平気。まるで天国にいるみたいだよ」
 筏を宣言通り転覆させた御手洗チームも最後の荒波を乗り越えて上がっていた。
「大変ですわっ、希望隊長の意識が……! 人工呼吸をしなければなりませんわ」
「ま、まってありますよっ! 意識あります!」
「わ~大変ですね~。光さん、お願いします~」
「勿論ですわっ。希望隊長、しっかり……!」
「光さん水着もちょっと解けてますし意識もあります、ありま――」
 光景を眺めていたフィアナはくすりと、口元に手を当てて笑った。
「みんな楽しそうね、きらきらしてるの。……良かった」
 純粋に彼女は言った。皆は本当に楽しそうで、それがフィアナは何よりも嬉しかった。


「たくさん食うでー!」
 海賊船には昼食を取るために様々なメンバーが集まっていた。黄泉の上にはオムライス、ハンバーグといった洋食がずらりと並んでいた。対照的にアナスタシアの机には和食の御膳だ。
「よく食うな」
「美味しいんや! それに……負けへんで……!」
 後からやってきたのはプレシアだった。洞窟探検が終わって、一息つきにきた、のではなく海賊船の探検にきたのだ。
「さ、さっきたくさん探検したよね?」
「まだまだ足りないのだー! おっ、良い匂いがするのだ!」
「はい、いらっしゃいボク! 美味しいの色々あるよ!」
「どんなメニューがあるのだ?」
「ハンバーグ、スパゲッティ、ステーキに色々あるよー。金貨は持ってきてくれたかな?」
「は、はい。僕が持ってます」
「オッケー! ボク達は何を選ぶかな?」
「僕は……このホットケーキでいい、かな」
「じゃあ僕はハンバーグでいいのだ」
「出来上がるまで探検にいってきな! そうだなあ、十五分したら戻ってくるといいよ。冷めちゃうからな?」
 船の中は階層式になっていた。今いるのが二階で、内部にある梯子を下れば一階に降りる事ができる。二階は休憩室と小さなレストランしかないためにプレシアは駆け足で梯子を下った。
 梯子の下はまだ未完成なのだろう、空き部屋だったが、部屋の中央には宝箱が置いてあった。
「宝箱!」
「わ、本当だ」
「やっぱり何回も探検したら発見が多いのだ。中身はなにかなー?」
 プレシアは蓋を持ってあけようとしたが開かない。鍵がかかっているのだ。プレシアの全長サイズもある宝箱で強引に開ける事は難しい。
「これはなんなのだ?」
 ふと壁にスイッチを見つけたプレシアは一秒もかからずにそのボタンを押した。狼谷の制止以前の速さだ。
 真っ暗になった。
「こ、これは?!」
「おー?」
 すぐに暗闇からは解放されたが……むしろそのままの方が狼谷にとっては良かったかもしれない。二人を取り囲むように、地面に骸骨が散らばっていたのだ。
「ふぇええ!」
「おー! すごいのだー!」
 結局宝箱は開かず、とんだ災難に見舞われただけで二人はレストランに戻った。適当な席を選んで座り窓から外を眺めると、エージェント達の姿は見受けられなかった。今は洞窟エリアにいっているのだろう。

 ――う、うわあ怪物なのです! リュカ、リュカー!
 ――安心しろよ、こいつがリュカだ。笑い声が漏れてるからバレバレだぞ。
 ――がお〜! レプテリアンですよ〜!
 ――ひゃぁぁ!?
 ――レイアちゃんも、がお~。
 ――わぁーいっ♪ 怪獣さんなのですぅ♪ がおー♪

 容易く想像がつく光景だ。
「はい、ハンバーグとホットケーキだ! 暖かいうちに食べてくれよ」
 鉄板の上で煙を出しながら沸騰して泡立つソースのハンバーグ。ほうれん草のソテーとポテトも同席していた。プレシアは涎を我慢して口に頬張った。
 ハンバーグの存在感も大きいが、ホットケーキも負けてはない。綺麗な銀皿の上に二枚のホットケーキが乗り、キャラメルソースとクリームがかかっている。非常に柔らかい。
「いただきますっ――す、すごく美味しい……」
「うまうまなのだ!」
 ひとしきり疲れた後に食べたお陰もあるのか、今日のランチはとても美味しい。レストランの席に座るエージェントは皆、良い顔を浮かべていた。


 途中、管理人がプールに見学しに訪れた。
「やあスチャースさん。皆楽しんでくれているかな」
 甲板にのっていたスチャースは大きく跳ねて、管理人の所へと降りた。
「うむ。皆満足そうだ。ランチタイムのエージェントもいれば、上で怪物ごっこをしているエージェントもいる。皆笑顔だ」
「それはよかった」
 管理人の姿に気づいたのか、迫間とマイヤは海賊船から降りて管理人と面を合わせた。イルカと遊んでいたフィアナもまた、迫間の後ろに続いた。
「今日はありがとうございました。良い一日になりました」
「いやいや、楽しんでくれてありがとう。何か意見はありますかな?」
 迫間が答えた。
「こだわりを感じて、とても良くできた施設です。えっと質問を返すようで悪いのですが、この施設を思いついた人は映画を元にした、とかありますか」
「おおよく分かってくれましたね。そうなんです、色々な映画をモチーフに、こうしたら楽しい。ああしたら楽しい……そんな事ばかり考えて作りました」
「納得です」
 そう言った後に迫間は改善点となるような事を述べた。洞窟エリアでの危険性とムードの統一性、また海賊船での危険事項だ。
「良かった。あなた達を呼んで大正解です」
 管理人は仕事に戻るといって更衣室から出て行こうとして、スチャースはその後ろをついていった。
「おや、休憩ですか」
「訊きたい事があった。どうして、このような素晴らしい施設を作ろうと思ったのだろうか」
「おかしな質問だ。はは、いえいえ人が喜ぶ姿がどうしても見たかった。私の想像が形となって、皆が喜んでくれる。それがどれだけ幸福な事か」
「私はロボットだからよくわからないのだが、どうしてあなたは人を喜ばせるのだろう」
 ロボットじゃなければ、不躾な質問だった。だが管理人は少なくなった自分の髪を撫でながら、照れくさそうに答えた。
「人が喜ぶと、私も嬉しいんです。エージェントさん達の顔、とても楽しそうだった。こういったらなんかその、良い人ぶってるとか思いませんかね」
「そんな事はない。人を殺すヴィランと、人を喜ばせる管理人。良い人ぶってもあなたの方が、私は好きだ」
「ははは、これはこれは。この歳になって好きと言われるのも珍しい。では、仕事に」
 スチャースは更衣室からプールへと出た。ちょうど洞窟を探検していたエージェントがイルカのプールに移った所だった。彼らの顔からは全く疲れが窺えない。
「スチャース、写真を撮ってほしいのです! イルカさん達とです!」
 紫がそういった。
「ああ、それ良い提案ですわっ。わたくしたちもお願いしたいのですが」
「うむ。だが私の場合私の中に内蔵されている写真撮影機能を使って撮影するから、プリントするには少々時間がかかる」
 終わったのは午前の部だ、これから午後の部に入る。そして午後がまた長くなるのだ。エージェントの休暇はまだ終わらないだろう。
「ほら笑うといい。撮影しよう」
 撮影目前にスチャースの眼が光った。それは写真が撮影された事の合図だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • エロ魔神
    御手洗 光aa0114
    機械|20才|女性|防御
  • 無邪気なモデル見習い
    レイア・メサイアaa0114hero001
    英雄|12才|女性|バト
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • あざと可愛いタマ取り
    天之川・希望aa2199
    人間|17才|?|命中
  • ましゅまろおっぱい
    アニマaa2199hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • アパタイト
    黄泉 呪理aa4014
    人間|14才|女性|防御
  • クリスタルクォーツ
    アナスタシアaa4014hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • ムーンストーン
    アインハルト・フリューゲルaa4448
    機械|20才|?|攻撃
  • エージェント
    理喰aa4448hero001
    英雄|13才|?|カオ
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