本部

【神月】連動シナリオ

【神月】アル=イラル砂漠包囲戦

岩岡志摩

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/09/05 14:12

掲示板

オープニング

●連携する従魔
 『門』で次元崩壊が発生し、アル=イスカンダリーヤ遺跡群にクレーターを作った頃、周囲にいた従魔達は散り散りになって周辺区域への逃走を始めていた。
 だがそれをH.O.P.E.やこの戦いに駆けつけてくれた各国の連合軍が見逃すことはしない。
 遺跡周辺でこれだけの戦力が集っている状況では、逃げる従魔達など脅威ではないが、一定数の従魔達が周辺にある街に逃げ込まれでもしたら、その地にいる人々にとって脅威になりうることを彼らはよく知っていた。
「あれだけ好き勝手に暴れていたお前らを見逃す程、俺達やこの世界は甘くないぞ!」
 この地で戦い、見事勝利を収めたH.O.P.E.の援軍に駆け付けていた、中東諸国軍を率いる指揮官の1人が、逃げる従魔達に向けそう吼えると、従魔達が目指すであろう場所へ向け、従魔達に勝る部分――鋼鉄の心臓で稼働する、軍用車両や飛行機を駆使した機動力と、地元という地の利を活かし、砂塵の吹き荒れる砂漠の中を驀進する。
 砂漠では遠くのものが近くに見えるほど、距離感がつかみにくく、遭難の原因になる事もあるが、中東諸国軍はこの周辺地域の地理に明るいシャーム共和国軍の先導を受け、道に迷うことなく先回りを果たす。
 そして従魔達の逃走ルート上に防衛ラインを形成した中東諸国軍は、彼方からやってくるであろう従魔達を、人的被害を避ける為、無人の索敵機器を前面に出して位置や数、動きの捕捉にかかる。
 そして姿を現した従魔達の姿を計器越しに確認した兵士は、ある事に気が付いた。
「あいつら、逃げてる割には統率のとれた動きをしているぞ」
 兵士の言葉通り、砂漠の彼方から骨の軋む音、馬蹄の響きと共に骨の馬に乗る骸骨姿の従魔達が、骨の騎兵隊と化してこちらに向かっていた。
 さらにその周囲には透明な狼のような従魔が漂っており、骨の騎兵隊の後ろには蠍の姿をした従魔達が砂の上を軽快に走って整然と後に続く光景が、周囲に展開した無人索敵機器を介し他の兵士達にも確認できた。
「次元崩壊の混乱に乗じて、あの従魔達を密かにまとめた奴がいるな、これは」
 観測していた兵士の呟きに応えるかのように、彼方より殺到する骸骨達は、騎乗する骨の馬の上で装備する自動小銃を肩付けし、従魔達を待ち構えていた中東諸国軍に向け、一斉に引き金を引いた。
 骸骨達の上半身が発射焔で包まれ、乾いた機銃音が響き渡ると共に、銃弾の嵐が周囲にばら撒かれると、中東諸国軍が展開していた無人偵察機が次々と撃ち落とされ、敵銃弾の一部は突出しすぎた戦車にまで到達し、厚い装甲に守られているはずの車体を貫通した。
「詮索は後回しだ。各隊は至急迎撃準備。及びH.O.P.E.に救援を要請しろ。彼らには遺跡での戦いに続いての連戦を強いる事になるから、報酬を増やす手続きも忘れるな」
 状況を把握した指揮官は指揮下の各隊に従魔達への迎撃を命じると共に、H.O.P.E.への救援要請を命じた。

●殲滅戦
 集められた情報と資料をまとめあげた担当官は、今回の役割を『あなたたち』に伝える。
「今回皆様にお願いしたいのは現在アル=イラル砂漠区域で逃走中の敵残存戦力の殲滅です」
 スクリーンには、次元崩壊が起こったアル=イスカンダリーヤ遺跡群周囲の地図が映し出され、その東側にあるアル=イラル砂漠の区域に青い点が記された。
 そしてその青い点に向け、地図の右上の方向から敵の動きを示す無数の赤色の矢印が伸びていき、その手前に緑色の線が壁のように引かれ立ち塞がり、別の色の矢印が、赤色の矢印を様々な方角から突き刺す構図を作り出している。
「この青い点はオアシスを利用した近隣の街です。その前方に、中東諸国軍が先回りして緑色の線の部分に防衛ラインを設置して待ち構えており、従魔達はこの赤い矢印の通りに逃走中との事です」
 そして現地で防衛ラインを形成している中東諸国軍によると、敵従魔達は骸骨姿、骨の馬姿、蠍姿、ガス状の狼のような姿の4種で構成され、骨の馬に騎乗する骸骨姿の従魔が自動小銃による遠距離攻撃を行って突撃を始め、こちらからの攻撃はガス状の狼姿の従魔達が盾となって防いでおり、今までの交戦経験から鑑みて、互いの距離が狭まった時、その狼姿の従魔が後続する蠍型の従魔と共に攻撃に加わる戦法をとり、防衛ラインの突破を図るだろうとのことだった。
「今回は場所が場所ですので、中東諸国軍より現地までの移動手段として、空陸両方の支援を受ける事ができます」
 陸路で向かう場合は貸与されたサンドバギーに乗って、現地まで移動し、空路で向かう場合は輸送機に乗って現地上空まで向かい、到達後中東諸国軍輸送機より現地へ直接降下する形になる。
 サンドバギーは2人乗りで、敵の攻撃を直接受けやすい難点はあるが、砂漠の砂地上でも機敏に動くことができるのが特長だ。
 輸送機に乗っての空中降下は、中東諸国軍よりライヴスを動力源とする使い捨てライヴス・ジェットパック(略称『LJP』)が支給される。
 ライヴス・ジェットパックは腰や脚部に装着する事で能力者のライヴスによって限定的な飛行能力が得られ、落下地点の調整や、着地時の減速に使用する事ができるが、着地後空へ飛んだり、降下中敵の対空射撃があった場合、回避に使用できるほどの出力はない。
「今回依頼者である中東諸国軍より、遺跡での戦いに続いての連戦になる形で皆様に緊急の出撃をお願いするという事から、多めの報酬が提示されています。どうか軍と連携して従魔達を殲滅し、周辺地域にいる人々の安全を護って下さるようお願いします」 
 なお今回H.O.P.E.側からの有志として、唯一ギニア支部から出張してきたポルタ クエント(az0060)が加わり、『あなたたち』を支援する。
 
●戦い方
 現在以下の状況で、中東諸国軍が戦場を構築中。
 『あなたたち』は以下の4つから、それぞれ行動することができる。
 選択肢A:中東諸国軍のもとへ駆けつけ、正面から従魔群と交戦する。
 選択肢B:従魔群の背後から猛追し、追撃する。
 選択肢C:従魔群の真横を突く形で軍や他の仲間達と共に従魔群を挟撃する。
 選択肢D:従魔群の頭上を飛ぶ輸送機より降下し、空から敵を攻撃する。

 以下平面図

    C
 砂砂砂↓砂軍砂砂砂
 B→砂●⇒軍A□砂
 砂砂砂↑砂軍砂砂砂
    C

 以下立体図

   輸送機→
    D
    ↓
 B→ ●⇒軍A□砂
 砂砂砂砂砂砂砂□砂

 軍:中東諸国軍が展開中の防衛ライン
 □:オアシスを抱えた街。万が一に備え、軍の手で住民達の避難は完了済で現在は無人。
 ●:骸骨・骨の馬・蠍・ガス状の狼のような姿の従魔4種の混成群。
 砂:砂漠地帯。砂地。

解説

●目標
 敵残党群の殲滅
 
 登場
 敵残党群
 全てミーレス級従魔。スケルトン×20、ボーンホース×20、マウトゥ・アクラブ×20、ヴォルケルフ×10。
 スケルトン:全長1.8mの骸骨姿の従魔。通称『骨』。下記ボーンホース騎乗時の通称は『骨騎』。射程24sqの自動小銃で攻撃する。リンカーには低威力だが、軍用車両や一般人には脅威。打たれ弱い。
 ボーンホース:全長3mの骨の馬の姿をした従魔。通称『骨馬』。打たれ弱いが機動力は高い。
 マウトゥ・アクラブ:全長2mの蠍型従魔。通称『蠍』。見かけによらず打たれ弱いが尾の毒針は『減退』効果あり。
 ヴォルケルフ:全長1~3mのガス状の従魔。通称『幽狼』。攻撃時以外はガス状で浮遊し物理攻撃への耐性が上昇する。敵群は『骨騎』の射撃で牽制を続け、距離を詰めたら後続の『蠍』と共にヴォルケルフも攻撃に回り、突破を図る模様。群れ全体の速度は時速40km程度。

 中東諸国軍
 シャーム共和国軍を中心に編成された、地元出身者が多い軍隊。今回敵逃走ルート先にある街の前に防衛ラインを展開中。
 移動手段として陸路で向かう場合はサンドバギー(略称『車』。2人乗り。砂上時速は最高60km)が貸与され、空路で向かう場合は軍用輸送機で現地上空まで空輸してくれる。

 ポルタ クエント
 今回唯一の有志。使用スキルはケアレイ、クリアレイ。『あなたたち』の指示に従う。

 状況
 アル=イラル砂漠上にあるオアシスを抱えた街周辺。時刻は昼間。時折風が吹く。
 アル=イスカンダリーヤ遺跡群より逃走した従魔の群れの1つが、街に向け時速40kmで逃走中。その街を護る形でシャーム共和国軍を中心とした中東諸国軍が防衛ラインを展開中だが『あなたたち』が現地に到着時、中東諸国軍の一部と従魔達との間で交戦が始まる模様。
 OPにあった選択肢A、B、C、Dのどれを選んでも、敵群との接触は1ラウンド以内で完了する。

リプレイ

●降下開始
 シャーム共和国のアル=イラル砂漠で中東諸国軍と従魔達が交戦状態に突入した頃、その上空をエンジンの響きで震わせながら、シャーム共和国軍の輸送機が到達する。
『交戦区域上空に到達しました』
 輸送機内の貨物室に操縦席からの連絡が響くと、向かい合って座っていたH.O.P.E.エージェント達が立ち上がる。
 次いで貨物室内に点在する赤ランプが点灯し、警告音と共に輸送機の後部扉が開かれていくと、H.O.P.E.エージェント達の視界に砂漠特有の澄み切った蒼空と、その下に広がるアル=イラル砂漠の地表が飛び込んでくる。
「ライヴス・ジェットパックの稼働時間は長くて30秒。心眼を使うにはちょうどいい時間ですね」
 月鏡 由利菜(aa0873)は中東諸国軍より支給され、装着したライヴス・ジェットパックと味方を守る術を最大限活かすため、輸送機の操縦士に降下を始める高度の調整を依頼していた。
 共鳴した状態ならば、能力者は飛行機の飛ぶ高さからパラシュートなしで地面に降下しても無傷で着地できるが、降下中は身動きが制限されるため、能力者のライヴスによって限定的な飛行能力を得るライヴス・ジェットパック(以下LJPと略)が今回中東諸国軍よりH.O.P.E.エージェント達に支給されている。
「ユリナ。地上にいる味方と連絡がとれた。今降下すれば理想的なタイミングで敵の群れを上から襲う事ができるぞ」
 リーヴスラシル(aa0873hero001)からの連絡は直ちに貨物室内にいる他のエージェント達にも伝えられ、リーヴスラシルと由利菜は共鳴する。
「空からの奇襲……。神無月戦を思い出すね」
(まぁ、何かと空中戦には縁があるね)
 アイリス(aa0124hero001)と共鳴したイリス・レイバルド(aa0124)は、内にいるアイリスとそのようなやりとりをかわしながらも、アル=イスカンダリーヤ遺跡群でトリブヌス級愚神神無月と戦った時の経験をもとに、空中降下が初めての仲間達に、降下時は思い切り床を蹴って飛ぶよう助言していた。
「各方面へ伝達。これより戦域上空からの降下を開始する。俺達が着地する時に範囲攻撃が降り注ぐので、敵の群れの中への突撃はその後から頼む」
 ライヴス通信機「雫」を介し、月影 飛翔(aa0224)は地上を進むH.O.P.E.エージェント達へそのように連絡すると、ルビナス フローリア(aa0224hero001)と共鳴し、装着したLJPを確認する。
「一回これを使って降下作戦に参加してみたかったんだよな」
 遺跡での激戦では諸事情により空からの降下は果たせなかったが、今回は可能だ。
(無茶はされないように)
 内にいるルビナスからの助言に飛翔は頷くと、ライオットシールドを顕現して降下の瞬間を待ち構える。
 最初は降下中の味方を守る盾の役割を担う由利菜とイリスが音を立てて床を蹴り、空中にダイブすると、由利菜が心眼を発動し、イリスがすぐ横に並び、カルカ(aa4363hero001)と共鳴したユーガ・アストレア(aa4363)が『正義の味方は、高い所から登場する!』との掛け声と共に少し遅れて輸送機を蹴り立って宙を飛び、由利菜やイリスと共に降下する。
「さて、いっちょう空の旅としゃれこみますか!」
「ん……。遮蔽物なし。さあユーヤ、行こう」
 麻生 遊夜(aa0452)に頭を撫でられ、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は嬉しそうに目を細め、尻尾を激しくふりながら遊夜と共鳴すると、LJPを装備した遊夜もまた機体を蹴って空中に飛び出し、飛ぶように降下する。
「皆の未来のため、禍根を残すわけにはいかないでござる」
「そうだな。ここで残党を片付けて、今度こそ終わりにするんだぜ!」
 白虎丸(aa0123hero001)の決意と共に共鳴した虎噛 千颯(aa0123)は白虎丸にそう応じて空中へと跳躍し、最後に飛翔が輸送機より降下する姿を確認した由利菜が、急速に迫る地上を見据えながら、心眼を発動する。
 やがて砂丘の蒼空にLJPから噴出するライヴス稼働光の花を咲かせ、H.O.P.E.エージェント達は速度と方角を調整しながら戦場を目指して降下していった。

●追撃→従魔群
 既に地上ではシャーム共和国軍を中心とした中東諸国軍が、殺到する従魔達に向け、必死の抗戦を続けていた。
 包囲を避ける為、無限軌道を軋らせ横一列に折り敷いた戦車砲が轟然と咆哮し、大気を灼熱させて飛翔した徹甲弾が先頭の骨の人馬達を乱打するが、一瞬は押しとどめるものの、従魔達の進撃は止まらない。
 それた徹甲弾が砂地を穿ち、奔騰した砂塵に塗れた骸骨達から自動小銃の銃声が跳ね上がり、発射焔が閃いて無数の銃弾が豪雨を思わせる音を上げて飛来し、戦車群の装甲を次々と撃ち貫き、中東諸国軍の兵士達にも負傷者が続出する。
 そんな中、砲撃音と銃声、着弾音の殴り合いをかき分け、軽快なエンジン音の群れが周囲に轟き、複数のサンドバギーが砂塵を巻き上げ、あらゆる方角から姿を見せ始める。
 その意味を悟った中東諸国軍から歓呼の声が響き渡る中、従魔群を追撃する形で救援にかけつけたガルー・A・A(aa0076hero001)の駆るサンドバギーが突出する。
「しっかり掴まってろよ、ぶち込むぜ!」
「もーガルー! 安全運転!」
 ガルーの手荒い運転に同乗する紫 征四郎(aa0076)は抗議の声を上げる中、木霊・C・リュカ(aa0068)と共鳴して同乗するオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、既に射手の矜持で感覚を研ぎ澄ませ、ライヴス通信機「雫」を介し、周囲の味方に向けて連絡を終えるとサンドバギーから立ち上がり、ライトブラスターを構えて敵群に狙いを定めつつ、ガルーに『飛ばし過ぎて車を転倒させるなよ』と注意する。
(よっしゃ! かっとばせー、ガルーちゃん!)
 オリヴィエの内より響くリュカの言葉が聴こえたかのように、ガルーの駆るサンドバギーはさらに速度を上げ、敵群を射程内に収めたオリヴィエのライトブラスターよりフラッシュバンの閃光弾が放たれた。
 オリヴィエの閃光弾は従魔群の中央に到達すると、周囲に強烈な閃光を放ち、巻き込まれた従魔達の意識を短期間ながら削り取り、その進撃速度を緩める事に成功した。
 それを見逃す征四郎やガルーではなく、ガルーは速度を落とした敵の群れの中へサンドバギーを突進させ、衝突前に征四郎がガルーと共鳴してサンドバギーからオリヴィエと共に飛び出すと、デザートコンバットブーツの性能を活かして砂地を疾駆し、敵群の中を器用に縫いながら『鳥兜』の銘を打ったインサニアを抜き放つ。
 剣刃に施されたトリカブトの花の彫刻が陽光に煌めくと、征四郎のインサニアは未だ動きの鈍い骨馬――ボーンホースの1体を両断し、切断された断面から骨馬は塵を噴き上げて消え、騎乗していた骸骨ことスケルトンが落下して砂地に叩きつけられるが、征四郎はそれには目もくれず、オリヴィエと共に次のボーンホースに向かう。
 その間にも由利菜の要請を受け、中東諸国軍のもとへ向かう予定だったポルタ クエント(az0060)のサンドバギーに途中まで乗せてもらい、敵群への到達時間を短縮した餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)が到着し、共鳴後フラメアを顕現し、忍足袋の性能を活かし足音を消し残されたスケルトンに忍びよると、望月のフラメアがスケルトンの体を突き崩し、スケルトンに自動小銃を撃たせる機会を与えず塵に変える。
「スケルトンは背骨を折るといいと聞いた事があります」
 そう言いながらも、望月は近くにいる他の従魔達にも攻撃の矛先を向ける中、サンドバギーに乗らずに駆けつけてきた後続の仲間達が次々と合流を果たしていく。
 まずアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)と共鳴した一ノ瀬 春翔(aa3715)は望月達と合流するなり、フリーガーファウストG3を敵群に向けると、豪快な笑みと共に引き金を引いた。。
 発射焔を煌めかせ、ロケット弾の形状をした春翔のライヴスは空中へ駆けあがった後、敵群の中に炸裂し、弾着音を伴う砂柱が噴き上がる。
「てめぇらには散々世話になったんだ。ここでいまさら逃げられて『はい、さようなら』って訳にはいかねえよなア?」
 春翔が砲撃を加えた従魔達に向けて豪快な笑みと共にそう吼えると、奔騰する大量の砂と共に空中に吹き飛ばされた蠍型の従魔――マウトゥ・アクラブは粉砕され塵と化し、地面に落ちる前に消えていく姿に、春翔の内にいるアリスは歓喜の声を上げる。
(あはっ! これぜーんぶ壊しちゃっていいんだよね! 張り切っちゃうなぁ)
 春翔が放った砲撃の余韻が消える前に到着した俺氏(aa3414hero001)と共鳴した鹿島 和馬(aa3414)ハウンドドッグを顕現し、射程内にいるボーンホースに狙いを定めて発砲すると、発射焔や銃声が抑えられた銃弾状のライヴスは宙を駆け抜け、そのままボーンホースの頭部を食いちぎり、射抜かれたボーンホースは塵をあげてのけぞり、上に乗るスケルトンを振り落とす。
(この先にある街の人達の避難は完了してるんだよね?)
「中東諸国軍の話ではな。今目の前にある防衛ラインを突破されても人的被害が出ねえのは良いことだが」
 内にいる俺氏からの問いにそう応じる和馬だが、その表情はさえない。
 和馬の考えでは、敵群に対する各方面からの範囲攻撃のタイミングを合わせるため、仲間達へ声をかけたつもりだったが、その為にはどのように仲間達に動いてもらうか具体的な手段や提案、相手の合意が伴わない以上、当初の思い通りに事が運ばないのは仕方がないとも判断できる分別はあった。
(街の家やインフラとか物的被害が出ても気分が悪いよね)
 内にいる俺氏が和馬の思考を現実に引き戻す助け舟を出すと、和馬もハウンドドッグの照準を次の敵に切り替えて俺氏に応じた。
「街の連中の生活や思い出。全部まとめて守ってやろうぜ」
 改めて敵殲滅の決意を固めた和馬の後方より、ヘンリカ・アネリーゼ(aa4355hero001)との共鳴を終えた天宮 愁治(aa4355)が到着し、春翔にならって自身もフリーガ―ファウストG3を春翔が攻撃した同じ方角に向け引き金を引く。
 愁治より解き放たれたロケット弾状のライヴスが敵群の中へ炸裂すると、凄まじい爆風がボーンホースの真下から噴き上がり、馬上のスケルトンもろとも骨の人馬をまとめて破砕し塵に変えた。
(ご覧下さい、ご主人様。従魔達がゴミのように消えていきます)
「お前はこういう状況でもたびたびネタを挟むね」
 内にいるヘンリカからの声に愁治はそう応じながらも、今のところは味方を巻き込む心配はないと判断し、なお砲撃を続ける。
 こうして敵従魔群の後方から征四郎、リュカ、望月、春翔、和馬、愁治達が猛撃を加えた事で、従魔達の進撃速度が緩くなり、その貴重な時間を活かした別方向から駆けつけたH.O.P.E.エージェント達の救援が、苦戦してきた中東諸国軍のもとへ到着する。

●正面×従魔群
 中東諸国軍が形成した防衛ラインに最も近い位置をエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)と共鳴した唐沢 九繰(aa1379)の操るサンドバギーが驀進する。
 ただし時々砂丘の起伏にハンドルをとられてしまうのか、時折九繰の操るサンドバギーの走行は蛇行する。
(九繰。まさかとは思いますが、運転経験がないとは言いませんよね?)
 内よりエミナが九繰の運転技術を危惧する声が届くが、九繰はあっさりとこう言った。
「えへへ。H.O.P.E.での研修以外は、ゲームでちょっとだけ運転しただけです。一般車両のいない砂漠だし、なんとかなりますよね、エミナちゃん?」
(……仕方がありません。今は緊急時ですからね)
 エミナがどうにか自分を納得させている間に、九繰の駆るサンドバギーはなおも速度を上げ、防衛ラインを形成する中東諸国軍のもとへ到着すると、九繰はサンドバギーから降りるなりアステリオスを顕現し、中東諸国軍の戦車群より前に出る。
 既に前方には、後方からの攻撃を免れた骨の人馬が馬蹄を響かせ、自動小銃の機銃音とともに発射焔を煌めかせ、銃弾の嵐が九繰に向けて襲いかかるが、九繰はアステリオスの斧頭を盾代わりに掲げ、飛来する銃弾を防ぎつつ、【SW(斧)】アックスチャージャーの性能を活かし。アステリオスにライヴスを集積させ、狙う敵が間合に届くのを待ち構える。
 その間にもヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴した赤城 龍哉(aa0090)と、イン・シェン(aa0208hero001)と共鳴したリィェン・ユー(aa0208)は中東諸国軍の防衛ラインに到達すると、防衛ラインの両翼前方に飛び出す形で動く。
「従魔の混成部隊か。連中の統制がとれているのは面倒だな」
 面倒といいながらも、龍哉の表情は戦意に満ちていた。
 【烈華】の銘を持ち、切先両刃造の刀身、炎の如き深紅の睡蓮が華開く意匠の鍔、龍爪に掴まれた結晶体を柄頭に持つ改良が図られた屠剣「神斬」を龍哉は顕現し、殺到する敵銃弾の驟雨を浴びながらも突撃態勢に入る。
(こちらも人々と力を合わせ、策をもって立ち向かうのですから、臆することなどありませんわ)
 内より響くヴァルトラウテの助言に『最初から心配はしてねえよ』と苦笑と共に応じた龍哉には、敵群を統率する役目を帯びる従魔について、心当たりがあった。
 そして龍哉と距離をおき、防衛ラインで敵群がせき止められるのを待ち構えていたリィェンは、次第に近づく従魔達の群れと飛来する銃弾の嵐を前にして、感嘆の声を上げていた。
「おう、おう。これはまた随分とたくさん従魔どもが集まっているじゃないか」
(そうじゃな。しかしこれは実に腕の振るいがいがあるのう)
 内にいるインもリィェンと同じ見解を持ってたが、一方で『ある期待』もしていた。
 それはリィェンも同じだったのだろう。
 【極】の異名を冠し、刀身に龍紋を施し攻撃性能を高めた屠剣「神斬」をリィエンは顕現し、龍哉と相互連携できる配置につき、殺到する銃弾の嵐から中東諸国軍を守る。
「まったくだ。アル=イスカンダリーヤ遺跡群での戦いで溜まった鬱憤は」
「「ここで思いっきりはらす(のじゃ)!」」
 息ピッタリなリィェンとインだった。
 その間にも、シアン(aa3661hero001)と共鳴した氷月(aa3661)が途中から同乗させてもらっていた、ポルタの駆るサンドバギーから中東諸国軍のもとへ降りたつ。
(氷月。この距離なら16式での狙撃が有効ですわ)
「わかったわ、シアン。まずは狙撃、ね」
 内にいるシアンからの助言に、氷月は正面より自動小銃を撃ち放つ骨の騎兵隊に向け、顕現した16式60mm携行型速射砲を咆哮させる。
 軽く腹に響く砲撃音と共に60ミリ砲弾が間近に迫った骨の人馬に叩き込まれると、射線上にいたスケルトンの体は粉砕され塵と化し、銃撃の一つが沈黙する。
 残されたボーンホースも、既に中東諸国軍の防衛ラインに到達したドロシー ジャスティス(aa0553hero001)と共鳴した鋼野 明斗(aa0553)が構えるアーバレスト「ハストゥル」より、弓鳴りを残して放たれた矢状のライブスに射抜かれ、塵を上げて倒れ伏す。
「負けたら別のところへ逃げればいいものを。面倒くさいですね」
(もう一度カツを入れられたいですか?)
「この状況では仕方がありません。やりますよ」
(それがよろしいかと思います)
 内にいるドロシーとそんなやりとりを交わし、面倒くさがりながらも明斗はしっかり防衛ラインを維持する役目を果たし、氷月は周囲を見渡した後、仲間達とライヴス通信機やスマートフォンのメール機能を介し、仲間同士の情報のやりとりを支援する。
 こうして九繰、龍哉、リィェンが前衛を担い、後衛に明斗、氷月が配置につき敵群を迎撃する中、中東諸国軍の中を榊 守(aa0045hero001)と共鳴した泉 杏樹(aa0045)の駆るサンドバギーが負傷者のもとへと疾駆する。
(全力でサポートいたしますので、お嬢様は前だけをご覧になり、なすべき事だけをなさって下さい)
 戦いでの痛みは己が引き受ける覚悟と共に、内より届いた守の助言に頷き、同乗する黒金 蛍丸(aa2951)にも教えを乞う。
「皆さんを、癒すの。蛍丸さん、教えてください。皆さんを、癒す方法を」
 既に詩乃(aa2951hero001)との共鳴を終えた蛍丸は杏樹と手分けして中東諸国軍や仲間達の戦況や負傷に関する情報を集めていたが、中東諸国軍に負傷者が多い事を知ると、負傷者が搬送された場所を杏樹に教え、共に向かう。
「杏樹さんはご自分のできる事をなさって下さい」
 負傷した兵士達が集められた場所に到着すると、蛍丸は杏樹にそう助言すると共に前に出て、迫る従魔群との間合を確認した後、祖父から譲り受け言伝では7枚の甲冑を貫くとされる雷上動をつがえ、満月さながらに弓弦を引き絞る。
(蛍丸様、今です)
「ここから先には行かせません。覚悟!」
 内にいる詩乃の支えを受けた蛍丸はそう従魔達に叫ぶと、高く澄んだ弦の音を伴った紫電の矢状のライヴスを放ち、馬蹄と自動小銃の機銃音を響かせる骨の人馬の1体を射抜いてボーンホースを塵に変え、それまで馬上で射撃を続けていたスケルトンを落馬させる。
 蛍丸の援護を受けた杏樹は負傷者達のもとへ辿り着くと、その負傷具合を確認するなり、ケアレインによる範囲治療に方針を切り替えた。
「榊さん、皆さんを、癒すため、力を貸して、下さい」
(もちろんでございます、お嬢様)
 【藤波】の名を冠し、黒漆塗りに螺鈿細工、紫糸で飾られ和歌が添えられた夜桜鉄扇が杏樹の手に顕現し、守の加護を受けた杏樹が舞うと、治癒の力を帯びたライヴスを周囲一帯に降り注ぎ、重傷だった兵士達を次々と癒していく。
 そして治療が終わると休む間もなく杏樹は前方で敵の攻撃を防いでいた蛍丸と共に次の場所へとサンドバギーを走らせる。
 一連の攻防で中東諸国軍が敷いた防衛ラインへの従魔達の進撃が、その前後から力づくで止められつつある事を見抜いた氷月は、直ちに従魔達の側面から貫く位置から駆けつける仲間達に戦況を伝えた。
「従魔達の正面と背中は抑えたわ。後は脇腹を貫いて頭を叩くだけよ」

●両翼包囲
 氷月よりもたらされた情報は、マイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴した迫間 央(aa1445)のもとにも届けられた。
「承知した、氷月。これから俺達は従魔達を真横から押し包み、引きちぎりにかかる」
 既に放った鷹の目の操作をマイヤに託し、情報を集積していた央は整理分析して、内容を自分と同じく側面包囲にかかる仲間達のもとへと伝達後、サンドバギーのギアを入れて従魔達の側面へと突進する。
(氷月さんの情報通りよ。従魔達は前と後ろに大きく引き伸ばされてるわ)
 鷹の目で把握できた情報分析を、央と共に担っていたマイヤからも、今がその時だと後押しする。
「迫間さん、よろしく頼む」
 シド(aa0651hero001)と共鳴した北条 ゆら(aa0651)は央のサンドバギーに同乗してそのように告げて頭を下げると、従魔群への初撃に備える。
(『隙間づくり』は敵を混乱させた後だな)
「そうだな。そろそろ輸送機から降下した味方がやってくる頃のようだが、まずは敵を混乱させてからだ」
 シドの冷静な指摘にゆらは頷くと、央のサンドバギーが従魔群に衝突する寸前まで間合を詰めたところで、ブルームフレアを解き放つ。
 砂上に轟然と火柱が上がり、巻き込まれたマウトゥ・アクラブと、たまたま周囲を浮遊していたガス状の従魔ことヴォルケルフがゆらのブルームフレアの業火に絡め取られ、その身を焼かれて塵と化す。
 それを見届けた央とゆらはそれぞれサンドバギーから飛び出し、央は潜伏によるライヴスで身を包んで気配を薄くし、ゆらは魔導銃50AEを顕現して次の敵のもとへ向かう。
「今回は若葉もいるから大丈夫だろうが……」
 ゆらが眼前の従魔群の反対側に視線を一瞬向ける。
 ゆらがつかの間視線を巡らせた方向からは、38(aa1426hero001)と共鳴したツラナミ(aa1426)が、鷹の目で把握できた従魔達の隙間に向けサンドバギーを走らせていた。
「従魔がこんなにぞろぞろ揃って鬱陶しい。さっさと済ませて帰りたいもんだ」
(それなら手早く従魔達を殲滅しようね)
 内からの38の声にツラナミは適当に相槌を打ちながらも、ラドシアス(aa0778hero001)と共鳴した皆月 若葉(aa0778)を拾いあげて同乗させるなど、可能な範囲で仲間と連携した行動を心がけていた。
 その若葉はツラナミに乗せてくれた事へのお礼を述べた後、眼前に迫る従魔群の数を確認する。
(随分残っているな。中東諸国軍の方にも既に仲間が到着してる頃だと聞いたが……)
「まず、あの従魔達の勢いを削ぐことからはじめるよ。今度は俺達が中東諸国軍を助ける番だ」
 内から響くラドシアスの声に頷き、若葉はフリーガーファウストG3を顕現すると、射線上に味方がいない事を確認した上で、できる限り射程内かつ先頭に近い敵目がけ、トリオによる神速の早撃ちで、ロケット弾状のライヴスを3発発射する。
 若葉より放たれた3条のロケット弾は従魔群の中へそれぞれ吸い込まれた後、3つの弾着の爆発が巻き起こり、吹き飛ばされた骨の人馬とマウトゥ・アクラブが空中で四散し塵になって消えていくが、後続の従魔達は同胞の塵と噴き上がった砂塵の幕を突き破り、なおも前に進んでいく。
「ここからは徒歩だ。こいつを運転したければ好きに使え」
 若葉の砲撃結果を確認したツラナミが、サンドバギーを止めると若葉にそう言い残してサンドバギーから降りるなり潜伏を使い、忍足袋で足音を消し、自身の全身を感知されにくくするライヴスで包んで姿を消す。
(ツラナミ。見たところ、ボーンホースよりもマウトゥ・アクラブの方が多く残っているみたいだよ)
「上出来だ、サヤ」
 38からの助言を受け、ツラナミは身を潜めながらもマウトゥ・アクラブの群れへと全力で疾駆する。
(若葉。フリーガーファウストG3では敵を削れはするが勢いは削れないようだ)
「そのようだね。武器を変えて討伐を続けるよ」
 ラドシアスの助言に従い、若葉はサンドバギーから飛び出すと武器を九陽神弓に切り替えて、包囲網を形成するにあたり、手薄と思われる場所へと急ぐ。
 その間にウィンクルム(aa1575hero001)と共鳴した榛名 縁(aa1575)はサンドバギーを駆り、ブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)と共鳴した百目木 亮(aa1195)と連携しつつ、それぞれ敵の真横から挟撃する形で従魔群に迫っていた。
「今は統率された動きをしているかもしれないけれど、従魔達をまとめる存在がいないなら」
 サンドバギーを運転する縁が言わんとしている事を察したウィンクルムが、内よりその続きを口にする。
(従魔達の勢いを削いで、連携を断つことができれば)
「統率を乱し、各個撃破や包囲に繋げる事も可能、だね。行くよ!」
 ウィンクルムから続く言葉を繋いだ縁は、サンドバギーを徐々に従魔群に並走する形で走らせ、やがて1体の骨騎の横へと強引に車体を滑らせる。
 ボーンホースを駆るスケルトンが接近した縁に小銃を向けるよりも早く、縁は顕現したフラメアを一閃し、ホースボーンの脚を薙ぎ払う。
 縁より放たれたフラメアはボーンホースの片側2本の脚と脇腹を斬り崩し、致命傷を負ったボーンホースは塵を上げて転倒し、騎乗するスケルトンは前に放り出されて砂地に叩きつけられる。
 そのスケルトンが後続の従魔達の障害になって従魔達の勢いを削ぐ事を期待した縁だったが、後方より駆けてきたボーンホースは器用に跳躍し、マウトゥ・アクラブは砂の上を滑るように移動してすり抜け、ヴォルケルフは浮遊したまま前方のスケルトンをやり過ごし、縁やエージェント達の多くが企図した『ホースボーンを転倒させる事で後続の従魔達を巻き込み他の従魔達の転倒を誘い、勢いを削ぐ』事は眼前の従魔達には適用が難しいと縁は判断し、ライヴス通信機「雫」を使い、同じような試みをは図ろうとしていた仲間達に結果を報告する。
 その一方、縁と組む亮はサンドバギーを駆る仲間が近くにいれば同乗して従魔達のもとへ急行する予定だったが、該当しそうな仲間やサンドバギーは近くになかったので、自分の脚で戦場に向かい、今到着した。
「街も軍も護りぬかねえとだな、爺さん」
 今のところ、中東諸国軍を除いては即時治療が必要な負傷者はいないとの連絡は亮も受けており、味方の前衛役を務めた方がいいと判断しフラメアを顕現する。
(そうさのう、亮。油断するでないぞ?)
 内からの黎焔の声に頷くと、亮は手近な従魔に肉薄するなりフラメアを突き放ち、刺し貫かれたマウトゥ・アクラブは塵と化し消えていく中、遠ざかる従魔達の上に一瞬影が通り過ぎ、何かが複数の骨騎達を絡め取ると、それまでひたすら前進していた骨騎達は急停止して頭上へ向け自動小銃の筒先を揃え、対空射撃を開始した。
 その意味を悟った亮がライヴス通信機「雫」を介し縁に情報を伝えると、直ちにその内容は縁より央へ届き、央は潜伏により身を潜めつつ、地上にいる全ての方面の仲間達へ全方向からの包囲に移るよう連絡する。
「これから従魔達の頭上より仲間達の鉄槌が振り下ろされる。従魔達を包囲するのはその後だ」
 
●舞い降りる鉄槌
 空中より地上へ放たれたのは、地表到着まであと10秒を切ったところでアイリスの合図を受けたイリスより、地上にいる骨騎達に向け放たれた守るべき誓いのライヴスだった。
 イリスの放ったライヴスに絡め取られた骨騎達は頭上にいるイリスに向け、一斉に自動小銃を咆哮させるが、すぐ横を降下する由利菜の心眼によってイリスに殺到する銃弾の嵐はことごとく打ち払われ、宙に四散する。
(貴様たちの銃弾は止まって見えるな!)
 リーヴスラシルは事もなげに眼下の骨騎達に向けそう言い放ったが、由利菜、イリスとアイリスが力を合わせ降下する仲間達の盾となった事は大きい。
(よくやったイリス。このまま着地しよう)
「うん、お姉ちゃんと一緒なら、この後も大丈夫だよ!」
 アイリスからの賛辞と助言にイリスはそう応え、ライオットシールドを構えたまま由利菜と共に降下姿勢をとる中、白虎丸が千颯に向け、ユフォリアリーヤが遊夜に向け、敵群が射程範囲に収まった合図を送る。
(砲撃するなら今でござる)
「砲撃どっかーんってな!」
 由利菜、イリスが骨騎達の対空射撃を封じる中、白虎丸の合図に応じた千颯は顕現したフリーガ―ファウストG3の引き金を引く。
 千颯より放たれたロケット弾状のライヴスは骨騎達の群れの中に炸裂し、爆風に薙ぎ倒された骨騎達は骨の人馬もろとも塵と化し消えていく光景を見届けた後、千颯も降下姿勢に入る。
 遊夜は当初空中からのハウンドドッグと火竜による2段階の狙撃を行う予定だったが、敵を射程圏内に入れてから地上に着地するまでの時間内で2種類の銃器を駆使するのは難しいと判断し、狙撃用武器として火竜を選び、眼下にいる骨の人馬に向ける。
「恵みの雨だ。受け取りな」
(……ん。ちょっと、痛いかも、ね)
 内にいるユフォリヤリーヤの軽い笑いと共に、火竜から放たれた散弾が遊夜の言葉通り死の雨と化して、眼下にいた骨騎に叩きつけられていた。
 遊夜の散弾に総身を削り取られたスケルトンが塵を上げて落馬する中、遊夜はLJPを操作し中東諸国軍の中で治療活動にあたっていた杏樹のもとへと着地地点を調整して着地する。
「よっと。予定通りだな。これからフォローに入る。よろしく頼むぜ」
(……ん。後ろは任せて)
 舞い降りた遊夜に向け、杏樹はぺこりと頭を下げる。
「麻生さん、ユフォリヤリーヤさん、よろしく、お願いします」
 騎乗するスケルトンが遊夜に討たれたボーンホースには、頭上から既にバンカーメイスを構えていた飛翔が急降下し迫っていた。
「ちょうどいいところに敵がいた」
(着地の際は周辺からの攻撃にご用心下さい)
 内にいるルビナスの助言に従い周囲に即時攻撃をしかけてくる敵がいない事を確認した飛翔は、着地の瞬間バンカーメイスをボーンホースに叩きつけ、その身を粉砕して塵に変えた。
 そしてユーガの攻撃は、ある意味空中からの攻撃がふさわしいと言えばふさわしかった。
「悪は串刺しになって滅びるがいい!」
 既に降下中、カオティックソウルで攻撃力を上げていたユーガは、ウェポンズレインで自分の頭上に不思議な赤味を帯びたゴルディアシス状の両刃剣を多数召喚し、眼下にいる従魔群に文字通り剣の雨を降らせ、蠍型、骸骨型、骨馬型といった区別なく、従魔達を無差別に刺し貫いて塵に変えた。
(有象無象の区別なく、全てを斬り捨てて下さいませ。敵であろうと味方であろうと、私達の剣は標的を選びません)
「ジャスティスアタックは正義の力だから、正義の味方には当たらない!」
 ユーガはカルカからの声にそう応じ、従魔達が消えた場所に着地するが、実際にはしっかり味方を巻き込まない位置を確認した上でウェポンズレインを放っていたので、自身の攻撃には細心の注意を払っていた。
 その間に由利菜とイリスが未だ守るべき誓いのライヴスで引き寄せられた従魔達のもとへ着地するのと、由利菜の心眼が効力を失うのとほぼ同時だった。
 心眼の影響が消えた事でまともに動けるようになった由利菜は、デザートコンバットブーツの性能を活かして従魔達の中へ滑り込み、一閃を発動する。
「従魔一閃、斬り払え!」
 由利菜とリーヴスラシルの絆の力を集中させ、銀の翼状の鍔と、蒼黒の刀身を持つ美しい剣に鍛え直され『シュヴェルトライテ』の名を冠する無形の影刃<<レプリカ>> が鋭く振り払われ、前後左右にいた4体の骨騎達に向け5回の剣閃が迸り、4体のボーンホースと1体のスケルトンが斬り払われて塵と化し、3体のスケルトンが落馬する。
 こうして頭上から舞い降りた由利菜、イリス、千颯、遊夜、飛翔、ユーガ達によって射撃能力と機動力を有した骨の騎兵達が急速に数を減らし、従魔達の群れ全体の速度が落ちるのと同時に、6人の攻撃と着地に呼応したH.O.P.E.エージェント達が従魔達の前後左右から包囲網を狭め、群がりよるように襲いかかった。

●包囲戦・前
 全方向から包囲され、内側で隊列を切り裂かれた従魔達の勢いはほぼ完全に削ぎ落とされ、戦いは間合いを開けた射撃戦闘から間合を縮め、刀剣槍斧拳鎚その他が絡み合う近接戦闘の比率が高くなっていく。
「それじゃあ、突撃して食い止めますよ!」
 中東諸国軍の防衛ライン前で【SW(斧)】アックスチャージャーを使い攻撃力の『装填』を終えていた九繰は、浮遊するヴォルケルフに狙いを定めて疾駆し、九繰のアステリオスが唸りを上げた。
 九繰から黒色の暴風が巻き起こり、その暴風が雷光のようなライヴスを帯びて空間に輝線を描いて真横に旋回した時、上下に分断されたヴォルケルフはガス状の身を塵に変え消えていく。
(九繰。この従魔は実体がない状態では物理攻撃に対する耐性があるという話でしたが、私達の攻撃力がそれを上回ればこの通りです)
「そうみたいですね。次、行きます!」
 内からのエミナの助言に頷いてそう応じると、九繰はデザートコンバットブーツの性能を活かして敵の群れの隙間をすりぬけ、次のヴォルケルフのもとへ疾駆する。
 後背・側面・上空からの仲間の合流で敵軍への圧力が高まった頃合を見計らっていた龍哉は、リィエンにライヴス通信機「雫」で『今がその頃合だ』と連絡して従魔群へ突き進む。
(指揮をとる、というよりまとめているのは1個体ではありませんわ)
「ああ、まとめ役は遠吠えで連絡をとり連携能力に優れたヴォルケルフ『全体』だな」
 ヴァルトラウテの助言にそう応じると、龍哉は武器を【烈華】からクリスタロスに切り替える。
(頃合よし。さあ、敵の真っただ中へ斬りこむのじゃ!)
「わりぃが遺跡群での戦いで溜まった鬱憤、はらさせてもらうぜ!」
 内よりインが檄を飛ばす中、リィェンもヴォルケルフ目がけて吶喊し、その動きに合わせ龍哉もヴォルケルフの群れに対し片方が陰、片方が陽となす機動を交互に見せた後、龍哉のクリスタロスとリィェンの【極】の名を冠する屠剣「神斬」がそれぞれの怒涛乱舞で複数条の剣閃と化して、ヴォルケルフ達に殺到する。
 未だ実体化していなかったヴォルケルフ達だが、龍哉とリィェンの攻撃力以上の耐性などある筈もなく、その身を斬られ、貫かれて塵と共に消えていく。
 九繰、龍哉、リィェンの猛攻を潜り抜け、中東諸国軍の防衛ラインに接近できた従魔達にも、既に自身にパワードーピングをかけ、武器を魔剣「カラミティエンド」に替えた明斗、防衛ライン上で側面から攻勢をかける央と連動した動きをみせる氷月、サンドバギーを駆って機動力を確保し続けてきた杏樹と蛍丸、空から合流を果たした遊夜、地上からは縁の駆るサンドバギーに乗って合流した由利菜が迎え撃った。
 由利菜を送り届けた縁が再び側面で戦う仲間達のもとへサンドバギーを走らせる中、明斗が正面で銃撃を続ける骨騎に突撃し、骸骨から飛来する銃弾を浴び、その身に弾着の火花を咲かせながらも止まらず、明斗と骨騎が交錯する一瞬、明斗の魔剣「カラミティエンド」はボーンホースの胴体を横薙ぎに両断した。
 塵を吹いて倒れるボーンホースに騎乗していたスケルトンも、突如背後から現れた銃弾状のライヴスに頭を貫かれ、塵をあげてボーンホースの後を追うように消えていく。
「俺達の目から逃れられると思うなよー?」
(……ん。ボク達の弾はどこまでも届くの)
 それはハウンドドッグを構えた遊夜からのテレポートショットだった。落馬後もスケルトンが銃撃を続けた場合、自分達はともかく中東諸国軍に被害が及ぶと判断し、遊夜は内より響くユフォアリーヤの忍び笑いを秘め、次のスケルトンへとハウンドドッグの筒先を向けては銃声を抑えた狙撃を続ける。
 遊夜の援護射撃を受ける形で杏樹と蛍丸はサンドバギーの機動力を活かして防衛ラインを駆けまわり、負傷した兵士達の集まる場所に駆けつけては杏樹が舞う姿と共に重傷者を優先してケアレイによる癒しの光を降り注ぎ、兵士達の命を繋ぎ止める。
(お嬢様。今のところお味方に目立った負傷を負った方はいらっしゃいません。中東諸国軍の方々の治療に回られるのが妥当かと)
 守からの的確な助言に頷き、杏樹は中東諸国軍の治療を続ける。
「皆さんを癒す。それが、杏樹の、目標。杏樹が、皆さんを、お守りするの」
 杏樹が治療活動に勤しむ中、その前方から時折マウトゥ・アクラブが出現するが、杏樹を守る配置についていた蛍丸が、槍身に桶に美しい梵字と三鈷剣が描かれ、柄に『不撓不屈』の銘が金の意匠として施された蜻蛉切を雷光の速度で繰り出し、刺し貫かれたマウトゥ・アクラブは塵と化し消えていく。
(この周辺では、蠍型の従魔――マウトゥ・アクラブの方が機敏に動けるようですね)
「数の上でも、今見渡す限りではマウトゥ・アクラブの方が多いようですね」
 内からの詩乃の助言に頷くと、蛍丸は前方からやってくる従魔達を引き続き迎撃する。
 この頃になると中東諸国軍の兵士達への治療には杏樹だけでなく、空中から降下して地上に到達後、ポルタの駆るサンドバギーに乗って駆けつけた千颯も加わっていた。
(大丈夫でござる。もう安心でござるよ!)
「ここは俺ちゃんにまかせて!」
 白虎丸と共に断たせぬ術で治療術の効果を上げた千颯のケアレインによって、治癒の力を帯びたライヴスが負傷した兵士達に降り注ぎ、見る間に重傷を負った兵士達の傷を癒していく。
 千颯は兵士達が危険を脱したと判断すると、引き続き治療が必要な兵士達のもとへとポルタのサンドバギーに乗って駆けまわる。
「運転は任せたんだぜ! そのかわり車は護る! あと従魔達も打ち払うんだぜ!」
 千颯の言葉通り、ポルタとサンドバギーがこうして健在なのは、同乗する千颯がフラメアを振るってサンドバギーに殺到する従魔達を撃退していたことも大きい。
 千颯が杏樹達と手分けして治療活動に駆け回る中、氷月は央より要請されていた支援射撃から接近してきた従魔達への迎撃に方針を一時切り替え、赤い刀身を帯び『エクスキューショナー』の名を冠した屠剣「神斬」を抜き放ち、刀身に纏ったライヴスが斬風と化して、接近してきたマウトゥ・アクラブに放たれる。
 氷月の斬風を浴び、縦に両断されたマウトゥ・アクラブが塵を振りまいて消えていく中、氷月は央に状況を連絡する。
「もうじきここにある防衛ラインから、従魔達を一掃できるわよ」
 氷月が央に連絡を入れる中、由利菜は射程距離内にヴォルケルフの姿を捉えると、真紅の表紙と『プリエール』の名を冠した極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を顕現し、リーヴスラシルの加護を制御を受けながら発動にとりかかっていた。
(ユリナ、プリエールの発する衝動に飲みこまれるなよ!)
「くっ……。味方は射線から外すように……今です!」
 リーヴスラシルの制御のもと、由利菜の極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』は赤色の破壊光線のようなライヴス、由利菜達の呼称では『デストリュクシオン・ルージュ』が発射され、ヴォルケルフに襲いかかる。
 まともに撃ちぬかれたヴォルケルフが実体化する間もなく塵と共に消えたところで、近くにいたマウトゥ・アクラブが方向転換して、別の方角へ駆け抜けるが、その先には潜伏で身を潜め続けながら、防衛ラインの援護に駆けつけてきた春翔が【SW(斧)】アックスチャージャーでライヴスのチャージを終え、『ラッキーストライカー』の銘を得た海神の斧を構えて立ちはだかる。
(逃げ得はよくないよね。ハルト、これも壊しちゃおう)
「遺跡群で世話になった礼だ。遠慮せずに受け取りなア!」
 アリスの声を受けた春翔がマウトゥ・アクラブに海神の斧を振り下ろすと、海神の斧はマウトゥ・アクラブの身を貫通し、砂地に地響きを上げる。
 塵を噴き上げ消えていくマウトゥ・アクラブには目もくれず、春翔は次の従魔のもとへ疾駆する。
 従魔群の前方にある中東諸国軍の防衛ラインがエージェント達によって突破を阻止される中、従魔群の両側面と背後からもH.O.P.E.エージェント達は従魔達の数を削り、さらに包囲の輪を縮めていく。
 
●包囲戦・後
 この頃には既にH.O.P.E.エージェント達は従魔達を包囲後、それぞれが従魔達に突破されそうな場所や、逆に突入できる場所へと駆けまわり、攻防を続けていた。
「攻撃こそ正義!」
 上空からの着地後にロストモーメントを発動し、防御を捨てフリーガ―ファウストG3状の武器を多数展開したユーガは反撃態勢を維持しつつ、射程内にいるマウトゥ・アクラブに向けて砲撃を続けていたが、内にいるカルカより警告が届く。
(ご主人様、周囲の砂地より蠍どもが潜みつつ迫っております)
 カルカの警告に従い、本能でユーガは跳躍すると、すぐ真下を忽然と姿を見せたマウトゥ・アクラブが放った毒針付きの尾が通過する。
 回避できたと思ったユーガだが、迫っていたマウトゥ・アクラブは1体だけではなく、着地したところで別のマウトゥ・アクラブが既に迫っており、その尾をユーガに振るうと、かわしきれずロストモーメントで防御力が落ちていたユーガを負傷させる。
 だが同時にそれはユーガの反撃を招き、至近距離からのフリーガ―ファウストG3状の武器の群れから放たれた、無数のロケット弾状のライヴスにまともに浴びたマウトゥ・アクラブは吹き飛ばされ、粉々に切り裂かれて塵と化す。
 自分を攻撃した敵は倒せたものの、毒を受けたユーガに向け、なお複数のマウトゥ・アクラブが砂の中から姿を見せて殺到するが、その動きがにわかに遅くなり、何かに粘りつかれたかのようにじりじりとしか動かなくなっていく。
「潜んでいた甲斐があったな」
 不意にツラナミの声がその場に響くと共に、蜘蛛の巣のようなライヴスが無数に張り巡らされてマウトゥ・アクラブをとらえる光景と、潜伏で身を潜めつつ女郎蜘蛛を展開し、従魔達を締め上げるツラナミの姿が現れた。
 その間にサンドエフェクトを被り、周囲の砂地に潜みつつも、従魔達に接近していた愁治が姿を現すなり、ツラナミの捕らえたマウトゥ・アクラブを巻き込む位置につくと、ウェポンズレインで自分の頭上に飛迅剣「リンドブルム」状の武器を多数召喚して、剣の雨を投下する。
 ツラナミの女郎蜘蛛に捕縛されたマウトゥ・アクラブ達は動けず、無数の武器に串刺しにされたマウトゥ・アクラブ達は塵を上げて消えていく。
「やっぱりこうして動けないところをチクチク叩くのが性に合っているよね、僕は」
 内よりヘンリカから『そこは胸を張って言える話ではないと思いますが、チキン(臆病)様。いえご主人』と切れ味を含んだツッコミが入ったが、構わず愁治は再びサンドエフェクトを被って姿を潜めつつ次の場所へ向かう。
(ツラナミ、回復役の人を呼んで)
「あー……負傷者1、毒あり、だ。後は頼む」
 その間に38から催促される形でツラナミが央に連絡を入れ、央を介して負傷者情報を受け、縁と戦闘の最中縁と合流する形になった亮が同乗するサンドバギーがユーガのもとにやってくる。
 縁のサンドバギーに同乗していた亮は、残存するマウトゥ・アクラブ達に向け、フリーガ―ファウストG3を構えると引き金を引き、ロケット弾状のライヴスを発射した。
 弾着が爆発音を轟かせ、砂柱が跳ね上がる。亮の砲撃で吹き飛ばされたマウトゥ・アクラブ達が空中で砕け、塵となって消えた。
 ユーガの周囲に敵がいなくなった事を確認した亮と縁がユーガのもとへ到着すると、治療にとりかかる。
「回復はいるぞ」
「毒消しに入るね」
 亮の言葉と縁の言葉と共に、亮からはケアレイによる治癒効果のあるライヴスがユーガに飛び、縁からはクリアレイによる清浄なライヴスの光がユーガに放たれ、負傷と毒を治療する。
「ありがとう、縁君、亮君」
 負傷と毒から解放されたユーガは縁と亮に頭を下げた後、改めて残る従魔達への攻撃を再開し、縁と亮も次の場所へとサンドバギーを走らせる。
 この時縁の行っていた治療活動もまた、包囲戦で発生した負傷者をいち早く治療し、戦線に復帰させるという面で大きく貢献していた。
 その中でも空中より降下したイリスの発した守るべき誓いの効果は依然従魔達へ影響を残しており、ちょうど従魔達の両側面から内側に向けてゆら、若葉達が、後方からは望月や和馬達が従魔達を圧迫して削り取っている地上に着地したイリスに向けて四方から従魔達や集まってくる。
 当初イリスはライオットシールドで攻撃を防いだ後、《共鳴》時に発生する黄金のオーラを斬撃として飛ばすように改造され、比翼連理を象った黒と金色の宝剣にして『無影の光刃』の名を冠する無形の影刃<<レプリカ>> での迎撃を考えていたが、内にいるアイリスが集まってくる従魔達の中に骨騎達や骨馬を失った骸骨達がいるのを見抜くと、イリスに方針の転換を助言する。
(イリス。反撃ではなく心眼で仲間達を護るんだ。守るべき誓いが未だ有効な間ならば、その方が敵殲滅の効率が上がる)
「仲間達の攻撃の基点になるって事だよね」
 アイリスの言わんとする事を理解したイリスは頷くと、心眼を発動する。
 そこへ骨騎やスケルトン達が上半身を発射焔で包み、遠雷に似た響きを上げて銃弾の嵐をイリスに殺到させるが、イリスの心眼はその全てを打ち払い、従魔達の射撃を無力化していた。
(央。レイバルドさんが敵の銃撃を無力化しながら残るスケルトンとボーンホース全てを引き寄せているわ)
 他の仲間達との情報をマイヤと手分けして分析する中で、残存するボーンホースとスケルトン全てがイリスに銃撃を加えている事を、マイヤから伝えられた央はその情報を仲間達に伝えると、自身も潜伏を続けながら骨の人馬のもとへ向かう。
「行きますよ、皆の明日を守るために!」
 情報を受けた征四郎はそう叫ぶとインサニアを翻して眼前のマウトゥ・アクラブを斬り倒し、同じくライトブラスターより放ったライヴスの奔流で別のマウトゥ・アクラブを屠ったオリヴィエと共にデザートコンバットブーツの性能を活かして残存する骨の人馬達のもとへ疾駆する。
(これはエピローグも近いのかな?)
「まだ、始まったばかりかもしれない」
 内からのリュカの呟きにオリヴィエがそう応える。
 実はこの時のオリヴィエの言葉は、この戦いの本質を言い当てていたのだが、それは後で述べさせて頂く。
 イリスへの銃撃を続けていた骨騎やスケルトン達だったが、そこへ飛翔がデザートコンバットブーツの性能を駆使して敵の群れの中にある隙間をすり抜けて、一陣の風となって到達する。
(先程のマウトゥ・アクラブを撃破してからまだ30秒以内です。いけます)
 ルビナスより勝利の高揚の効果が消えていない事を教えられた飛翔は『ならこのまま一気に粉砕する』と言うなり、骨の人馬達のただ中へ飛び込み、怒涛乱舞を放つ。
 飛翔の繰り出すバンカーメイスが奔流と化して骨の人馬達に襲いかかり、2体のボーンホースと2体のスケルトンの身を粉砕し、4体の従魔を塵に変えた。
 ボーンホースを失いつつも、イリスのもとへ殺到したスケルトン達には、到着した若葉の九陽神弓が牙を剥いた。
(若葉。俺達は討ち漏らしを仕留める事にしよう)
「そうだね。俺達は俺達のできることをしよう」
 内よりラドシアスから届いた助言に従い、若葉はそう応じて九陽神弓の弓弦を引き絞り、テレポートショットを発動する。
 弓弦の鳴る音が響いた場所とは別の方角から、突如現れた若葉の矢状のライヴスが飛来して頭を射抜き、頭部を砕かれたスケルトンは塵を上げて消えていく。
 残る従魔達にも終わりが近づいてきた。
 まず潜伏と忍足袋で気配と足音を消した央が残存するボーンホースに肉薄すると、【SW(刀)】EMスカバードによって電磁力によって抜刀速度を加速させた央の孤月が鞘走り、空間に月光のような淡い光の軌跡を残してボーンホースの脚を斬り払った。
 切断された脚より塵を吹いて倒れるボーンホースの上からスケルトンが落下するが、その体が砂地に叩きつけられる前に宙で何かに絡みつかれ、周囲で自動小銃を咆哮させていた他のスケルトンや残る骨の人馬達も、突如現れた蜘蛛の巣のように張り巡らされた無数のライヴスに絡め取られて行動を束縛される。
(これで全部捕まえられたようだね)
「多くの敵を巻き込むことは狙ってたからな」
 内にいる俺氏にそう応じながら、この場に駆けつけ女郎蜘蛛を発動させた和馬は、後をこれからやってくる仲間達に繋げる。
 和馬の言葉通り、ゆらがまず到達し、次いで征四郎とオリヴィエ、最後に望月がこの場に集い、残る従魔達を手分けして撃破にかかる。
「征四郎、ガルー。俺がトリオで残りのボーンホースを倒すから『これから来る連中』を頼む」
(ボーンホースは既に動けない状態のようだけど、射手の矜持は打ち止めだね)
 既に射手の矜持は使い果たし、効力も消えた状態内よりリュカがそう呟く中、オリヴィエは征四郎に『ある敵』への迎撃を頼んだ後、温存していた最後の術を解放する。
 オリヴィエの構えたライトブラスターより、トリオによる目にも留まらぬ早撃ちの乱射によって3条の高エネルギーのレーザーが放たれ、ボーンホース達を焼き穿ち、その身を塵に変える。
「この作戦もそろそろ締めくくりだね。しっかり片をつけよう」
(そして帰ったら美味しいアイスを食べるのよ)
 内より響く百薬の願望をさりげなく聞き流して、望月はスケルトン達から背を向けて、すぐ背後まで迫っていたヴォルケルフ2体に向き直ると、トリアイナを顕現して迎え撃つ。
 オリヴィエの言った『これから来る連中』とは、このヴォルケルフ達の事で、残りはここにいる2体だけだ。
 ヴォルケルフの1体は実体化して望月に襲いかかるが、望月は軽く身を捩ってヴォルケルフの攻撃を躱すと、ライヴスを水のようにまとわせたトリアイナを突き放ち、無防備な胴を貫かれたヴォルケルフは塵と化して消えていく。
 最後のヴォルケルフには、雷上動へと武器を替えた征四郎が雷上動の弓弦を引き絞る。
(わざわざ邪魔しに来たんだ。だったらそっちから倒すのが筋だよな?)
「ヴォルケルフが私の行動を邪魔する場合はそのつもりでした」
 内より響くガルーの声に征四郎はそう応じると、高く澄んだ弦を弾く音を残して紫電の矢状になったライヴスを放つ。
 征四郎より放たれた紫電の矢は空間に放物線を描いた後、最後のヴォルケルフを貫き、その身を塵に変えて消す中、残るスケルトン達にはゆらの攻撃が放たれる。
(大丈夫だ。放てば全部仕留められる範囲に従魔達はいる)
 内より響くシドの声に頷くと、ゆらは幻影蝶を発動して骸骨達の周囲をライヴスの蝶が舞い、スケルトン達のライヴスを奪いにかかる。
 元から脆弱だったスケルトン達に幻影蝶を防ぐ力などなく、ライヴスの蝶たちによって急速にその身を朽ちさせたスケルトン達は塵となって全滅する。 こうしてヴォルケルフ、ボーンホース、スケルトンは一掃され、やがてマウトゥ・アクラブも壊滅したとの報告が、潜伏しつつも情報を引き続き整理分析していた央より各方面のH.O.P.E.エージェント達に届いた時。
 アル=イラル砂漠包囲戦は従魔全滅、死傷者ゼロ、オアシスと街の防衛成功という形で幕を閉じた。

●殲滅終了
 こうしてアル=イスカンダリーヤ遺跡群より逃走を図った従魔達の一群は、アル=イラル砂漠でH.O.P.E.エージェント達によって包囲され、全て撃破された。
 その事に最も感謝していたのは、中東諸国軍の中でも地元であるシャーム共和国軍出身の兵士達だった。
「君達が来てくれなければ、我々は従魔達の手で殺され、街も壊滅していただろう。君達の奮闘は絶対に忘れない!」
 重傷の身から救われた兵士達も、今は動けるようになり、H.O.P.E.エージェント達一人一人の手をとっては感謝の言葉を並べていった。
 なお一連の戦闘で負傷が残ったり使用された道具類は全て中東諸国軍によって補充されたり、治療を受けたため全員無傷の状態で帰還する事ができた。
 H.O.P.E.エージェント達は中東諸国軍の用意してくれた装甲兵員輸送車に乗せられ、空港のある街へと帰還する。
「砂漠での戦いもこれで終わりなのかなー」
「それはまだ分からないが、ともかく、オアシスや街が守る事ができたのはよかった」
 車両の中でゆらとシドがそんな言葉を交わしながら、帰還後の目標をゆらが口にする。
「とにかくお風呂だー!」
 それは同じ車両にいた飛翔も同じだったのだろう。
「俺も、帰ったら真っ先にシャワーを希望するよ」
 悪路で揺れる車両の中で、飛翔はそう呟く。
 皆様。砂漠での激戦、本当にお疲れ様でした。

●事の真意
 通話機の先より自身がまとめ上げ、アル=イラル砂漠方面に逃走させた従魔達がH.O.P.E.エージェント達の手で壊滅したとの連絡を受けても、その愚神――ニア・エートゥスは特に動じなかった。
「あの従魔達は十分『私の行動を隠す』役に立ってくれました。貴方も配置に戻って下さい」
 通話機の相手にそう告げて通話を切ると、ニアはアル=イスカンダリーヤ遺跡群で発生した次元崩壊の混乱に乗じて自身が回収した『コートを羽織った老人』と共に、世界のどこかにある、ありふれた雑踏の中へと消えていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド

  • 氷月aa3661
    機械|18才|女性|攻撃
  • 巡り合う者
    シアンaa3661hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • エージェント
    天宮 愁治aa4355
    獣人|25才|男性|命中
  • エージェント
    ヘンリカ・アネリーゼaa4355hero001
    英雄|29才|女性|カオ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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