本部

俺たちは肉を焼く。誰にも邪魔はさせない。

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
3人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/03 19:07

掲示板

オープニング

●突発的な事件続発によりロクに食事も摂れずに10時間以上ぶっ続けで働いていたエージェントたちがようやくありつけたBBQの肉を強奪せんとする従魔が大挙して押し寄せてきやがった。キレた。

 その日、エージェントたちは続発した特殊事件に追われて東奔西走していた。
 東で従魔を倒せば、西でヴィランが暴れているとの情報が入り。
 西でヴィランを捕らえれば、北で再び従魔が現れたとの情報が入る。
 その度に彼らは動員されて、休む間も食事をする間もないほどに忙しかった。当然ながら解決できるのはリンカーだけであり替えは利かない。こういう時はさすがにH.O.P.E.の人手不足を呪わずにはいられなかった。

 夜、最後の事件を解決した時、エージェントたちはキャンプ場にいた。そこに現れた従魔を駆除するのが彼らの仕事だったのだ。
 ハードな1日の終焉とともに、天は彼らにご褒美を与えた。
 正確には天というか、H.O.P.E.が。

「お疲れ様でした。えーと、今日はこれでもう仕事はありませんが……どうします? そこキャンプ場ですよね? 打ち上げのBBQとかしますか? 大変な1日だったので、それぐらいは役得ってことで。何なら食材送りますよ? 労いの意を込めて!」


 よっしゃああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!


 喜びに打ち震えるエージェントたち。
 酷暑の中で連続出動させられてクソみたいな1日だったと思っていたが、最後の最後でがらっと好転してくれた。空はすっかり暗くなっていたが、BBQという音声で彼らの心は完全に晴れ渡る。
 冷静に考えれば、費やした労力に比べるとささやかな褒美に過ぎないのだが、この時のエージェントたちはそんなことなどどうでもよくなるほど疲れていたのだ。

 しばらく待っていると、遠くから輸送機の飛行音が聞こえた。接近したそれは、エージェントたちの数メートル横に大きな荷物を投下した後に去っていく。パイロットのおっさんがドヤ顔でサムズアップしていたが、普通に危険すぎである。死ぬわ。
 ともあれ、BBQの機材と食材はH.O.P.E.の手によって揃えられた。空中から地面に激突しても内部の物品には傷ひとつない。これもライヴス技術の賜物なのだろうか。グッジョブ。


 さぁ、宴の始まりだ!!


 ってな感じでスーパーハイテンションでBBQを準備し始めたエージェントたちだったが、彼らの傍には有象無象の影が迫っていた。

 次第にその気配は濃くなっていき、火を受ける網を眺めて浮かれていたエージェントたちもようやく何者かの存在に気がついた。

 近くの茂みから、流れゆく小川の水中から、遠方の山から。
 従魔。従魔。従魔。
 おびただしい従魔の群れだ。形は猿のような、魚人のような、トンビのような。とにかく数が多い。
 奴らは狙っていた。ギラついた目が自分たちから何を奪おうとしているのか、エージェントたちにはすぐにわかった。頭でなく肌で奴らの意思を感じた。

 肉だ。あいつら……肉を狙ってやがる。

 もっともそれは盛大な勘違いで、疲労と高揚感で若干クレイジーになってしまっていた彼らが勝手に思いこんでしまっているだけだった。従魔は普通にエージェントたちのライヴス狙いです。肉じゃないです。
 にじり寄る従魔たち。
 対して、エージェントたちも武器を取る。

 盗人猛々しいとは、まさにこのこと!!

 悪辣なる簒奪者(※誤解)を打ち払い、己の食べる肉(と野菜)を守るため。


 若干おかしくなっているエージェントたちは今、肉体の限界を超える!!

解説

※戦闘っぽい解説ですが、コメディです。

■概要
 何故か続発した事件に振り回されたエージェントたちは、最後にキャンプ場に行き着いていた。
 夜まで何も食べられなかった彼らはオペレーターに「BBQする?」と聞かれて狂喜してイエス。
 H.O.P.E.のお膳立てで、夜のキャンプ場でBBQを楽しむことになる。
 しかしそこに現れる従魔たち!
 こいつら、BBQの肉を狙ってやがる!
 疲労と空腹でクレイジーになっていたエージェントたちは問答無用でそう認識。(実際は肉狙いではない)
 肉は、渡さない。
 そう決意して武器を取るエージェントたちの目は、まさに虎の目になっていたのです。

■敵
・魚人っぽいデクリオ級従魔×10
 動きはのろいが、攻防ともに力強い。
 口から水球を吐き出して攻撃、肉にツバをつけるかのごとくマーキングを狙う。(エージェント視点)
 また、水球の着弾点によってはBBQの火が消えてしまう。何ということだ。

・猿っぽいミーレス級従魔×∞
 動きは素早いが、攻撃が軽い。
 スピードで撹乱して肉をかすめ取ろうとする。(エージェント視点)

・トンビっぽいミーレス級従魔×∞
 飛行タイプの従魔。銃や弓、投擲武器でなければ届かない。
 地上の隙を見計らい、肉を持ち去ろうとする。(エージェント視点)

■場所
 夜のキャンプ場。石だらけの川原に、小川を挟んで森が広がる。涼しい。
 まさにザ・キャンプ。

■状況
・四方を敵に取り囲まれた状態。
・PCたちは凄まじい空腹と疲労でスーパーハイになっており、肉体の限界を超えている状態。
 半ば狂戦士化しており、超人的な強さを発揮できる。
・お肉を食べるとスキル使用回数が何故か全回復する。たぶん内奥から色々あふれ出す感じだろう。
・ただし1人は肉を見ていないと、肉を焼けません。
・戦闘が終わる頃には朝になってます。朝チュンです。

リプレイ

●敵、許すまじ

「うぉい! 今日で何回目の遭遇だ! はっ! まさかこいつら肉を狙って!」
 歓喜から一転、宴を邪魔する者どもが現れると、神鷹 鹿時(aa0178)は目の色を変えた。
「良いぜ……そこまで邪魔する気なら皆殺しだ!! ヒャッハー!!」
 プッツンした鹿時、双銃ドイスプレザを両手に構え殺る気満々。
「奴ら……俺達の肉を狙って……なんて卑しい奴らなんだ……!  肉は渡さない!! 絶対にだ!!!」
 卑しき従魔たちが迫る気配に、多々良 灯(aa0054)は激昂、幻想蝶内でダウン中の英雄を無理やり起こして共鳴を遂げる。
「食い物の恨みは恐ろしいぜ。纏めてボッコボコにしてやる……」
 灯の隣には、同じくとってもげきおこな水澤 渚(aa0288)の姿がある。瞳が赤く輝いているのは共鳴したからで、決して怒りでおかしくなってるとかではない。
「……このタイミングで、従魔、ですか?」
 穏やかな声を出し、秋津 隼人(aa0034)は従魔の大群を振り返る。彼の手には、空の紙皿が一枚。
 静かに紙皿を置く。
「…………ブチ○しましょう、1匹残らず、肉片も、血の一滴も残さず、徹底的に」
 従魔絶対殺すマン始動。
 そして殺すマンの背後には、2メートル級の黒い悪魔がじっと立っていた。
 いや、よく見たらシエロ レミプリク(aa0575)だった。
 パッと見、スタイリッシュなフード付きコートを羽織っているようだが、実際は何かオーラっぽい黒いモヤが絶えず体から発生し、それがコートの形を成している。おまけに顔にはカラスの頭骨を模した仮面を被り、眼窩の闇からは赤い光が妖しく覗いていた。
 そして一番おかしいのは、シエロがまったく騒いでいないことだ。異常な空腹が彼女を狂わせ、超ハイテンションな性格から一転、クール&ダーティーな雰囲気に変えてしまっていた。カオスリーパーシエロちゃんの誕生である。
「ジャマをするというならば……!」
(「……シエロ?」)
 ジャキン、と音が鳴り仮面のクチバシがシエロの口を隠す。ナト アマタ(aa0575hero001)の声はもう届いていないかもしれない。
 更にもう2人、男女がふてぶてしく。
「姐さん、こいつはひと暴れせんとアカン案件やないですか?」
 ヤンキー座りのカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が姉御に問うと。
「……そやな。ウチらの肉奪いに来るとはええ度胸しとるわ……死をもって償って貰わんとな」
 御童 紗希(aa0339)が親指で首をかっ切るジェスチャー。堂に入った語り口はまさにヤの付くアレ。さすがジェノサイド御童、花の現役JKにしてこの貫禄である。
 プッツンしとるエージェントたちが始動せんとする一方、肉焼きの面子はわりかし冷静。
「……ん、従魔とか、めんどくさい」
 佐藤 咲雪(aa0040)はエネルギー補給も必要とか言って肉を焼く係に就いたわけだが、実際は戦いながら肉を喰うことが面倒くさかっただけだ。
「空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。しかし調理人たる者、満足いかない一品を提供するワケにはいかないし、美食家たる者、納得いかない品を食するワケにもいかない。限界に達しつつあるこの状況下だからこそ、真価が問われるのだ!」
 咲雪と同様、肉を焼くつもりでいる鶏冠井 玉子(aa0798)は、耐えがたい空腹を抱える今でも、食の美学にゆるぎなし。
 腹を空かせた末に口にするのは、最高の品でなければならないのだ。

●狂人乱舞

 カイは拳を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「所で獲物はヤハり……」
「サカナ一発狙いや……食べて頭が……! DHA、目がよく見える! タウリン、歯や骨を丈夫に! カルシウム、血管の掃除! EPA……」
「流石姐さん……体のことも考えてのエネミーチョイス」
 健康志向の紗希姐さんが優先して狙うのは、魚人従魔。カイはにやりと笑って頷いた。
「相棒! ひと狩り行くで!」
「YOっシャアァァァ!」
 水辺に駆け出す2人。
「「フュー……ジョン!」」
 走りながら共鳴し、猿の群れを飛び越え、屠剣『神斬』を手元に顕現させて豪快に斬りこむ。
「オラァ! 死に晒せぇ~!」
 着地、ヘヴィアタック、魚人の脳天から叩き斬る。
「ッハハハハ!! 刺身になってもうたな……まぁええ。後で喰うたる」
 高笑いする紗希に、魚人の水球が飛ぶ。
 思いきり顔面を捉えるも、紗希は眉一つ動かさず、神斬でその魚人の首を飛ばす。
「魚のクセに肉狙いに来るとは見上げた根性じゃねーか! しかし肉だけは渡さん! 【魚人の丸焼き】メニュー追加じゃぁー!」
 吼えるJK。渾身の怒涛乱舞が魚人たちを紙くずのように蹴散らしていく。離れて暮らす親が見たら泣くレベルに、頭の中が魚人喰うことでいっぱい。
 紗希が魚人相手に暴れる他方では、隼人がトンビの群れにフリーガーファウストG3をぶっ放して盛大に爆散させ、近場の猿を手当たり次第に魔槍・心血でぶっ殺しまくっている。
「肉、マモル。敵、コロス」
 いつも丁寧な喋り口の隼人が、もはや狂った獣のよう。慎重で冷静と評されることの多い彼が見る影もありません。これが肉の魔力ってやつか。
 怪物、というか人でない何かに変容しているのはシエロも同様だった。
「死相が見えるぞ、獣共」
 コート(モヤ)を風にはためかせ、カオスリーパーが戦場を舞う。地を蹴りトンビどもめがけて跳躍し、トリオ発動。火竜の散弾を容赦なくぶちこむと、死骸が3つ大地に落ちる。
「貴様らに……死が来たる」
 抑揚のない声が敵群に死を告げる。これ以上ないほどに『おまえ誰?』状態だが、かつてないほどに頼もしいお姿だ。射撃能力をフルに活かし、遠方の敵を寄せつけない。
 BBQ拠点から見て川の方面は、紗希、隼人、シエロが暴れて死体の山を築き上げていく。
「四方八方からぞろぞろと……! BBQを囲んで防衛するぞ!」
「あぁ! 肉を奪わせたりしねぇ……喰うのは俺たちだ!」
 拠点を挟んで隼人らと逆側。灯が前衛に立ち敵をせき止め、渚は灯の後方から援護し、肉を守る。2人は息の合った戦いで盗人の接近を許さない。
 1匹の猿が素早い足運びで、灯に迫ってくる。左右に体を振り、灯に狙いを絞らせないつもりだ。
 だが、今の灯に小手先の陽動など通じない。
「来たな我が最愛のお饅頭ちゃん(愛犬)の敵!  ここであったが百年目ぇぇ!! いくら撹乱しようが貴様の狙いはわかっている! 渚!」
「受け取れ、灯!」
 渚が咲雪たちが焼きまくっている肉を一掴み、灯に投げ渡す。焼肉のタレもついてるから手がベッタベタです。
 それを灯は見もせずにキャッチ。幼馴染ゆえの連携か、はたまた肉への嗅覚か。
 肉を上空に放る。すると猿が肉を喰わんと(するかのように)跳躍した。
「貴様が飛び込んでくるのはここ!」
 ライヴスブロー1発。猿の四肢がちぎれ飛ぶ。
 そして肉を無駄にしない。落ちてきた肉は童子切ですくい、口にパス。
「五臓六腑に染み渡る……ッ!!」
 肉一切れで涙を流す灯。疲弊した体に活力が戻るのを感じていた。
「うめぇー! うぉおおおお力が漲ってきたあああ!!!」
 灯の後ろでは、渚もがっつり肉をいただいて異常なほどにバイタル活性化。銀の魔弾による地対空射撃で、数多のトンビたちを撃墜させている。
 這い寄る猿たちにはゴーストウィンドを放ち、追撃のブルームフレアで骨も残さずに焼き払う。その狙いは精確で、彼が魔法を撃つたびに従魔は断末魔を上げて消滅した。
 颯爽と敵を倒す彼の姿は美しかったが、口からは常に咀嚼中の肉が顔を覗かせている。バリむしゃ喰いながら戦っているので口周りが脂でやはりベタベタです。
 灯と渚が守る火元では、咲雪が別の戦いを頑張っている最中。
「……おなか、すいた」
「はいはい、お肉だけじゃなくて野菜も食べましょうね」
 咲雪は普段から表情がちっとも動かないダウナー系だが、今は珍しく眉がへにょり。そんな彼女のために、アリス(aa0040hero001)は手早く肉や野菜を調理。どんな攻撃が来ようが、飛び交おうが、ただただ一心不乱に肉を焼く。2人の周りだけなんか平和です。
 アリスが仲間たちの分も大量に金網に肉を並べているが、そのうち手が回らずに焦げ始める肉も出てくる。肉や野菜の上に避難させてなるべく守るが、そこに乗せきれない肉はしょうがない。
「……ん、焦げる、前に、処理」
 咲雪の口がもぎゅもぎゅ。焦げてダメにすることだけは避けなければという大義名分を盾に、咲雪は肉を喰いまくる。これが咲雪の戦いだ。戦闘スルーで遠慮なく肉を喰っていられるのも、焼く係の特権なのだそう。
「これとこれ、いい感じに焼けてるわよ」
「……ん」
 咲雪が持つ紙皿に、アリスが次々にカボチャやピーマン、たまねぎなどの野菜類を投入。焼かれて香ばしく、かつ甘みを引き出された野菜は咲雪も嫌いではなく、言われるままにもぐもぐ。仲間内の需要はなさそうだし、野菜はいくら喰おうと文句言われないだろうたぶん。アリスの采配に従い、咲雪は肉野菜野菜のペースで食べ続ける。
 ……普通のBBQじゃねーか!
 ちなみにもう1人の焼く係、玉子はと言うと。
「塊肉に塩胡椒、それだけでも十二分に美味い一品は作り出せるが、それだけではこの飽食の時代には些か寂し過ぎる」
 と言い出して、戦場を彩る食材(=従魔)たちの回収に打って出ていた。なんでも「自分たちもおいしいよ!」と言う食材たちの声が聞こえたのだそうだ。
 上質な食材となりそうな従魔を見繕い、玉子はブラッディランスとスナイパーライフルで次々と仕留める。美食家とは何てワイルドな人種なのだ。
 猿やトンビたちが攻めあぐねていると、魚人がとうとう肉に向けて動いた。
 ぷくっと頬が膨れると、拳大の水の塊を事もあろうに、肉を焼く炎に向けて吐き出す。
「あぶないッ!!」
 灯が機敏に反応、シルバーシールドで遮って鎮火を防いだ。一応守ってもらった形の咲雪とアリスは、しかし目もくれずに肉を喰い、焼いている。肝が据わりすぎ。
「ギャーッ、つばまで飛ばしてくる奴とかいるし、きったねぇな!!」
「唾をつけてキープしようとは不届きな! しつけなおしてやる!!」
 外道行為でお肉を狙った魚人に灯と渚は怒り心頭、ライヴスショットとブルームフレアをお見舞いして敵を肉から遠ざけた。
 そして灯たちから少し離れた敵群の中央では、これまた狂ったような笑顔で双銃を乱射する鹿時の姿があります。
「ぶっつけ本番だが今の俺に不可能はなーい!! 練習の成果も華麗に放出するぜ!! ありがたいと思え!!」
 四方から迫る猿の攻撃を避けながら、鹿時は上方のトンビ、地べたの猿に流れるような銃撃を浴びせていく。
 接近されれば、襲いくる猿の爪を銃身でいなしつつ銃剣で突き刺し、蹴り飛ばして距離を取る。双銃を用いた近接戦闘の訓練が役に立っているようだ。
「ガンカタはただ銃を撃つだけじゃないんだぜ!! それを今教えてやる!! ヒャッハー!!」
 最高にハイになる鹿時。ゆえに背後に迫る猿が1匹いることに気づいていなかった。
 爪牙が迫る。
 しかし炸裂音とともに従魔は吹き飛んだ。その音で鹿時は振り向き、敵に襲われかけたことを知る。
「……見ていられないな」
「助かっ……誰だお前!? ……あ、シエロか!」
 本人か疑わしくなるほどスタイリッシュなシエロさんが鹿時と背中合わせに立つ。
 周囲には何十という従魔。包囲されている。
 が、これしきの数、造作もないと2人は思った。
「俺はこっちを」
「……背中は任せる」
 両手の銃を構える。互いの死角を、背中を預けて、回転しつつ乱射。
「ダブルガンカタもロマンだぜ! ほらほら!! 近づけるもんなら近づいてみろ!!」
「死ね、死ね! 死ねぇ!!」
 猿やトンビを少しも近づけさせず、二人一対となって戦場を悠然と踊る。
 ただひとつ、肉を渡さないという思いだけで、人はここまで強くなれるのだ!

●超人狂宴

 戦場には何百という従魔の屍が転がっている。
 しかし、エージェントたちが対面する敵の数は減らない。次から次にBBQを狙いに現れてくるのだ。
 そのせいでなかなか肉が喰えず、ついに隼人が限界を迎える。
「オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 どこかの汎用人型決戦兵器のような咆哮を放ち、隼人が心血を振り暴れ始める。槍を槍とも扱えず、まるで鉄パイプで戦っているかのように、猿を撲殺し続ける隼人。
 ああなる前に肉を摂取しなければならない。焦燥感に駆られ、紗希は共鳴を解いた。
「姐さん! 俺腹減りました!」
「よっしゃ! 肉喰らいに行くで!」
 紗希とカイは2人で肉に猛ダッシュ。どうやら2人分喰うために共鳴を解いたようです。
「……ん、お疲れ」
 咲雪が肉を差し出すと、2人はそれを犬のように喰らって胃袋に収めた。これが日本の女子高生の姿か。
「ふぅ、やっぱ肉は最高やな。全身からエネルギーがあふれ出しとるわ」
「流石姐さん……とても10代には見えへんっすわ。40代のオッサ――んぶるぁぁ!?」
 必殺の地獄突きがカイを襲った。
「英雄の肉って美味いんやろか……ナァ?」
「お許し下さい姫」
 渾身の土下座でカイは九死に一生を得る。
 が、非共鳴の隙を突き、ひっそりと近づいていた魚人が急襲をかけてきた。
「なっ……!?」
 驚く紗希とカイに魚人の魔手が伸びるが、それが届く前に、飛んできた打刀が魚人の頭に命中。衝撃で魚人は前のめりに倒れる。
「……肉、マモル……!」
 隼人が投げた打刀が2人を救った。理性はなさそうだし、肉に近づいた魚人への本能的に殺意がそうさせたのだろう。
 倒れた敵にとどめを刺すべく紗希は再共鳴したが、その間にやってきた玉子が魚人の頭に槍を突き刺して絶命させた。
「ふむ、丸焼きにするんやな?」
「いや丸焼きではない。これはソースの材料にする。香味野菜やワインで煮出したブイヨンに魚部分を合わせようと思う」
「ほう、ようわからんけど美味そうや!」
 保存用に猿の脳の調達も終えた玉子は、魚人をその場でさばいて満足そうに調理に入り、紗希は自分を襲おうとしたクソにも等しい魚人従魔を駆逐せんと突貫する。
「うがー!! もう我慢できねぇ!! 早く肉やかせろー!!」
 隼人ほどではないが限界に近づいた鹿時が、肉を求めて従魔の群れをかき分けて拠点に戻ってきた。
「……ん、好きなの、食べればいい」
 咲雪が簡易テーブルの上に並ぶ肉を指差して勧める。マラソンの給水所よろしく、仲間がエネルギー補給しやすいように肉を置いているのだ、アリスが。咲雪はそれを見ているだけ!
 味付けは塩胡椒に焼肉タレ、そして咲雪的ベストである山葵添え。どれを喰うか鹿時は悩んだが、目新しいので山葵を選んだ。
 口に入れると、これがまた意外に肉に合う。
「うんめぇー!! よっしゃー!! 充電完了!! 肉狙いの従魔ども!! 覚悟しやがれヒャッハー!!」
 回復するや否やトリオを撃ちこみ、鹿時は戦線に復帰する。美味にテンションも上がり、従魔退治に弾みがつくというもの。
 意気揚々と戦う鹿時とすれ違い、その肉の香りを嗅いで隼人はようやく正気に戻る。
「ハッ! ……ちょっと一息ついて、肉、食べましょう」
 隼人は肉を喰うために拠点へ戻る。道を塞ぐ猿や魚人がいたら、とりあえずRPGぶっぱで。
「……目障りな」
 敵に包囲され肉を喰いに行けないシエロは跳躍して、ショットガンの弾をトンビに撃ちこみ、落ちてきたところへ大口開けて喰らいついた。
 途端、口内に仕込んだ牡丹灯篭のライヴスで敵を炙り、焼きあがった鳥のもも肉を噛みちぎる。
「……次」
 咀嚼しつつ赤い眼光をトンビに向けるシエロ。
 本能的に美味しく食されてしまう危機を感じて、トンビたちはシエロからめいっぱいに距離を取る。
 食料が逃げ去り、シエロは……バグったメカのようにキョロキョロと首を動かした。とにかく喰える物が欲しかった。
「……肉……肉……肉!」
「……ん、新しい肉が、焼けた」
 求める者に与えよ。咲雪はきょどっているシエロに焼きたての肉を放った。
「……肉!」
 気配を感じ取り、シエロは即座に反応して肉を口でキャッチした。その姿はさながら芸を仕込まれたイルカ。
「……ん、面白い」
「肉、肉、肉!」
 絶対に肉を落とさずキャッチするシエロが面白くて、咲雪は肉を投げまくった。そしてそのすべてをシエロは余さずたいらげる。
 人を人ならざるモノに変える。それも肉の魔力なのだろう。

●眩しい

 肉の周りから従魔が消え去った時、すでに空には眩い朝日が昇っていた。
「フェックス……俺今眠いんだ……何だか死ぬぐらい疲れたんだ……」
「はー、食った。すげえ食った。うっ……朝日が眩しいぜ……」
「燃え尽きた……ぜ……今日の誓約実行は朝チュンでクリアとかよくわからんがよかった……」
 鹿時に渚、灯は精魂尽き果てて岩の上に倒れて死体のように動かない。疲れもそうだが、肉喰いすぎたって面もあったりする。
「……」
「……頑張ったの」
 ナトがシエロの口に肉を運ぶと、機械的に口が開き、肉を呑む。彼女は戦闘を終えてなお、火竜を構えて立ち尽くしていた。今はナトの『お肉あーん』に反応するだけの物体と化している。
「来た時よりも美しく」
「それがH.O.P.E.です」
 そんなシエロの足回りにある猿の死骸を掃除する紗希とカイ。肉も魚人の丸焼きもたらふく喰った彼らは完全に神仏の顔となり、H.O.P.E.の面子を保つため現場をしっかりと清掃中なのだ。
「動いた後の肉……良いものですね、美味いです」
 自分で肉を焼いて喰っている隼人は、爽やかな満面の笑顔を浮かべる。打刀をどっかにぶん投げてなくすほどの獣じみた気迫はどこへやらだ。
「……ん、美味い」
「散々焼いたし、私もお肉を……」
 隼人が焼くのに便乗し、咲雪はまだ喰い続け、アリスはようやく落ち着いた食事にありついた。焼き職人として戦を支えたアリスの功績は結構大きいです。
 そして、玉子は朝を迎えてやっと、肉を口にしようとしていた。
 パッと焼いて肉を喰う機会などは山ほどあった。しかしとりあえずで肉を食すなど、彼女にはできなかった。最高の一品を作り出すまでは決して肉を口にしないという覚悟がそれを許さなかったのだ。
 だが今、玉子の目の前には、彼女が苦心して生み出した最高の一皿がある。
 立派なステーキ肉、魚人のソースを添えて――。
「美味い。美味いな」
 ゆっくりと肉を噛み、玉子は納得したように頷いた。

 肉を喰らう狂宴は、かくして幕を閉じたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御



  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃



  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中



  • 荒ぶるもふもふ
    水澤 渚aa0288
    人間|17才|男性|生命



  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃



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