本部
ヴィランの誘掖、キファの悪戯
掲示板
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深読み卓
最終発言2016/08/10 18:12:36 -
【質問卓】
最終発言2016/08/09 13:53:23 -
まとめ卓
最終発言2016/08/09 11:54:28 -
ゲームスタート(相談卓)
最終発言2016/08/10 17:56:25 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/06 10:50:32
オープニング
●キファのゲーム
ゾーンルーラーは去った。
和服の少女、あれがゾーンルーラーだったのだろう。鳥居の上で悠然と眼下のエージェントたちを監察していた少女は、しかし、彼らに襲いかかる前に誰かに呼ばれて消えた。定着していないドロップゾーンは一日以内に消えるだろう。
一瞬、愚神と目が合ってしまった五人のエージェントたちはその緊張が解けぬまま、それでも、念のためとドロップゾーンの中をあちこちと探索していた
『どうしたの、キファ』
共鳴中の英雄、ラリスが不気味そうに尋ねる。
『もうすぐ、援軍のエージェントたちが来るよ』
しかし、頬を紅潮させたキファはラリスそれどころではない。
「そんなの、どうでもいいって! それより、あの愚神の刀をみたかい? あのうつくしさを!」
相棒の言葉にラリスは眉をひそめた。この後の展開が予想がついたからだ。
「引退はやめだ! 僕はあれが欲しい!」
『はあ? 愚神の刀だよ? さすがに無理────』
「ラリスも見ただろ? どさくさにまぎれて一本くらい奪えないかな。まあ、奪えないにしても、やめだよ、やめ! 趣味をやめるのはやめ!」
気に入った武器を見つけて、それを持つエージェントを惨殺し、その手首ごと武器を蒐集する。それがキファの趣味だったが、アスカラポスの隠れ家のひとつをH.O.P.E.のエージェントに暴かれてから、その活動は非常に制限されていた。幸い、キファ自身が直接襲ったミュシャ・ラインハルト以外には顔は見られていないが、キファの『趣味』は他のメンバーと比べても特徴的過ぎた。その結果、キファが『趣味』絡みの事件を起こすたびにアスカラポス自体が何かと追いかけられる羽目になり、遂には同じアスカラポスのリーダーすら「迷惑だからその『趣味』を一時やめて隠れろ」と苦言を呈した。
それで、流石のキファも一時ならと死亡を装い、『趣味』を休むつもりになっていたのだが……。
『だったら、今からどうするんだ! 無駄になるよ』
無駄、とはキファが集めたエージェントのことである。架空の高額依頼をちらつかせてキファは自分と背格好の似たエージェントを四人集めたのだ。四人が四人とも武器に拘りがあるメンバーなのは、キファが目をつけていたリストから選んだせいもあるし、彼らの一人がキファだと思わせるためもある。当初の計画では、彼はここで四人を殺し、その中から自分の身代わりを選んで、しばらく大人しくしているつもりだったのだが────。
「まさか、ドロップゾーンができるなんてね」
『こんな面倒になるなんてな』
「────ああ……面白いゲームを思いついた」
キファは楽しそうにわらいながらスマートフォンを取り出すと、バッテリーを入れて起動させた。
……一通り、H.O.P.E.との通話が終わると、彼はそのスマートフォンを地に落とし、踏みつぶした。
「たのしいね。せっかくだから彼らの武器も一本くらい持ち帰りたい。さあ、『仲間』の所へ戻ろう」
『……こンの、馬鹿キファ』
ラリスのぼやきは無視された。
●愚神の残痕
「シクスト!」
誰かが仲間を呼んだ。
飛沫が薄暗い空間に飛んだ。それは赤い彼の血────。
「やばいぞ、見つかった!」
焦った声を上げたのは誰だったか。
ドロップゾーンへと潜入した五人のリンカーたちは重傷を負った仲間を囲うように立ち、武器を構えた。周りには二メートルほどある鎧武者のような従魔十体。先程まであちこちをのろのろと巡回するように動いていたそれは、急にスイッチが入ったかのように動き出し、エージェントたちを襲いだしたのだ。
「もう……駄目だ。あいつら、路地に入る!」
シクストを囲んだ四人の脳裏に、路地の奥でゆらゆらと風に揺れるススキのように立つ人々の姿が浮かんだ。狐面を着けてゆるく着物を羽織った、ドロップゾーンのルールに支配された無辜の人々。意思を奪われゆるゆるとライヴスを奪われている民間人。
「諦めるな!」
誰かが叫んだ。彼は武器を構えたままそちらを見て叫んだ。
「救援が来た!」
彼らが入って来たゾーンの外へと通じる道から、こちらに向かう味方のエージェントたちの姿が見えた。
それは、まさに彼らにとっての希望。
────そして、くだらないゲームのはじまり。
●少し前、二本目の電話
ドロップゾーン内に一般人の救出に向かったエージェントたちからの援軍の要請に、H.O.P.E.職員たちは慌てて事務所内を駆けまわる。
「まさかそれだけの一般人が居たとは……」
「一般人、五十人か……」
小さな規模で唐突に出来たドロップゾーン。偶然傍に居たエージェントたちからの報告で五十人もの一般人が意識を奪われて拘束されていると知った。今はもうゾーンルーラーたる愚神は居ないが、動きはのろいが鎧武者型の従魔が十体ほどいるとの報告がある。
その時、事務所の電話が鳴った。あちこちで忙しくエージェントを都合している職員たちの中で、電話番をしていた一人がそれを取る。
「……えっ!?」
顔を強張らせた彼女の悲鳴に似た声に、騒がしかった事務員たちは彼女と電話に注視した。彼女の手が通話をスピーカーモードに切り替える。
『……だから、僕はアスカラポスのキファ。このあいだからきみたちがうるさく追っかけて来たヴィランだよ』
ふざけたような声は少しくぐもっている。慌てたように誰かがPCを操作して、それが手配中のキファが持っているであろうスマートフォンのひとつだと確認、場所も特定した。
『……おや、いまはみんなで聞いているのかな? 急にしずかになったね。なら、もう一度言うよ』
その声は酷く滑稽なゲームを提案した。
────ゾーンの中には、つらつらと鳥居が続く五本の道と、ゾーンへ入る一本の道がある。
鳥居のある五本の道は袋小路であり、奥には意思を奪われた民間人が十名ずつ立っている。手を引く、背負うなどしなければ移動させることはできない。
十体の従魔があちこちを警戒して歩いている。
ここには『五人のエージェント』が居て、うち一人にキファが変装して紛れている。
H.O.P.E.からの増援部隊が民間人の救出・従魔との戦闘中に、『五人のエージェント』から目を離すとキファが『五人のエージェント』の誰かを殺す。
このゲームとキファの存在を『五人のエージェント』に話した場合、ゲームは無効として、可能な限り隙を見て『五人のエージェント』を殺す。
しかし、H.O.P.E.からの増援部隊が『五人のエージェント』をしっかり監視し続けたら、キファも『五人のエージェント』の一人として協力して行動し戦う。
これは、従魔を殲滅し、民間人の救出が終わるまで続く。
「……それに、何の意味があるの?」
『意味? ないよ。あるとしたら、散々追っかけてくれたきみたちへの嫌がらせ、かな? 逃げるのはやめたいんだ』
解説
●目的:ゾーン内リンカー5名の生存と民間人の救出
●ステージ:ドロップゾーン
・入り口一本含めた六差路(袋小路)、真ん中に中央広場
・入り口除く各袋小路に民間人10人
●ルール:
・ゾーン内リンカー達は一緒に従魔と戦ってくれる
・エージェントの目が届かない状況(戦闘含む)で、キファ含めたゾーン内リンカーが3人以下になるとゾーン内リンカーはキファに襲われる(キファは姿を消す)
・シクストは中央広場から動かせない
・ゾーンから脱出するとキファは姿をくらます(追えない)
●一般人
・老若男女、50人程度
・自力移動不可
●従魔
鎧武者:デクリオ級×6体、ミーレス級6体。デクリオ級×1・ミーレス級×1が一組で行動。
一組は中央広場に、残りは一組ずつ違う袋小路に向かっている。状況によっては中央広場に戻って来る。
攻撃力が高いが移動は遅く、シナリオ開始時に急いで追えば一般人を攻撃する前に間に合う。
のんびりしていると民間人は攻撃を受ける
リンカー>一般人の順番で襲撃。
●ゾーン内リンカー
男性リンカー。外見はキファに似ておりパートナーは女性。ゾーン内では共鳴。
自信満々で人の話を聞かず、何かとシクストを心配して勝手に広場に戻りたがる。
・シクスト:バトルメディック、救罪の槍所持 ※重体。スキルでの回復は不可能。
・アーベル:ドレッドノート、空虚の爪所持
・ニキータ:ドレッドノート、スキュラの斧所持
・ベルナルド:ブレイブナイト、漆黒の剣所持
・グリゴリス:ジャックポット、オファニエルの弓所持
●キファ&ラリス
快楽殺人を好むヴィランズ『アスカラポス』のメンバー。
武器蒐集に固執し、持ち主をその武器で殺し手首ごと武器を奪うのが趣味。
手首から先が機械化されたアイアンパンクだが、手は本物そっくりで見分けることはできない。
キファは鮮やかなオレンジ色の髪の2m近い長身の男、英雄ラリスは女性で金髪だとわかっているが、今回はふたりとも変装している。
リプレイ
●ゲーム
夜が忍び寄り、空気が藍に染まる。
余所者を警戒した人々が薄い闇の向こう側にもうすぐ誰そ彼と尋ね始め、余所者が素知らぬ顔でそれに答える────そんな時間帯。
ドロップゾーンの中に作られた薄闇が張られた世界で、キファは楽しそうに嗤った。
「オオカミまじりのヒツジをどうやってうごかすのか、たのしみだね────」
「……? どうした、今、何か言ったか?」
「──独り言だ。気合い入れたんだ」
振り返った羊へ仲間を装った狼が声を変えて答える。
ドロップゾーンへ向かうバスの中、エージェントたちはこの悪趣味なゲームについて対策を練っていた。
「……ふーん、皆クソ悪いヴィランだな。そのキファとかいうやつ」
経緯を聞いたカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が口を開く。すると、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)も同意するように呟いた。
「悪趣味の一言に尽きますか」
「世の中にはいろんな人がいるね」
志賀谷 京子(aa0150)の言葉には普段のお嬢様然としたものではなく、本来のクールさが覗いていた。
「わたしには認め難い相手です」
パートナーの京子の言葉に思わずアリッサがムキになる。そんな彼女の真面目さや潔癖さを好ましいと思いながら、京子が答える。
「わたしも好きにはなれない相手かな。でもそんな奴よりは、巻き込まれた人たちを無事に助けてあげたいな。人が傷つくのを見るのは嫌いだもの」
京子だって悪趣味なヴィランに共感するところなど全くない。自分が嫌で、そうしたいと思う────それは彼女が動くには充分な理由だ。
「わざと怪我してみせる、なんてことまでしそうだよね。周囲で守る人々を見て、ほくそ笑んでそうなタイプ」
「京子、予断は禁物ですよ」
「そうだね、だから五人を分け隔てなく疑っておこう」
アリッサのアドバイスを受けて、京子は頷く。
「依頼は救出────それだけだ」
八朔 カゲリ(aa0098)が友人である京子の視線を受けて口を開く。
是生滅法を心に留めるカゲリは万象を『そうしたもの』と肯定している。
だからこそ、彼にとってこれは単なる救出依頼でしかなく、正体のわからない、ルールさえ守れば大人しいヴィランなどを探す気などほとんどない。
だが、だからと言って依頼仲間たちの作戦を否定する気はなく、特に友である京子への信頼にも応えるつもりではあった。
そんなカゲリを、いや、その場のエージェントたちすべてを、カゲリの英雄である着物姿の可憐な少女────ナラカ(aa0098hero001)は輝く瞳で見つめる。覚者と呼ぶパートナーとお気に入りの京子、そして、他のこの場に居るエージェントたちが、逆境をどのように乗り越えるのかをこの神鳥は期待を持って見守っているのだ。
「一発ぶん殴ってやりたいところだけど、そんな余裕も無さそうだな」
腕を組んだカイが再び呟く。彼は沸点の低い性格ではあるが、同時に慎重さを持っている。今回の依頼では救出が最優先であることをきちんと理解している。
「カイ、あんまり無茶しないでよ? なんか嫌な予感する……」
そんなパートナーの性格をよく知ってはいるものの、能力者の御童 紗希(aa0339)は心配そうに彼を見た。
「これ、良かったら使って下さい」
ノートパソコンを広げるキース=ロロッカ(aa3593)へ紗希がスマートフォンを差し出すと、続いてバルトロメイ(aa1695hero001)、ツラナミ(aa1426)、赤嶺 謡(aa4187)がそれぞれ同じようにスマートフォンを取り出した。
キースの前には自身の分を含め、五台のスマートフォンが並べられた。英雄の匂坂 紙姫(aa3593hero001)がそれらをノートパソコンに繋ぎ、キースは打ち合わせ通りにそれらに追跡機能のあるアプリケーションをインストールする。
「キース君、これでいいかな?」
茶色の髪を揺らして、いつも通りの声のトーンで尋ねる紙姫。その存在がなんとなく場を明るくした。
「ありがとう、紙姫」
ノートパソコンを操作しながら、キースは仲間たちに作戦内容の確認を行う。
「五叉路にいる各従魔については、中央広場の従魔を倒した後に、それぞれを中央へ誘導して下さい。1体ずつ敵をおびき出し、待ち伏せる味方と連携して倒します。勿論余裕があれば岐路で倒すのもありですが、無理はしないよう。
重体者もいるので、ゾーン全体の警戒はまずボクとセレティアで入ります。何かあれば通信機かスマホどちらも使えないなら花火で合図をします」
キースの言葉に、メンバーの中でも最も幼く見えるメルヘンな美少女────セレティア(aa1695)は彼女の相棒である筋肉質の大男バルトロメイを見上げる。彼は彼女の視線を受けて力強く頷いた。
「まずは従魔を優先的に倒し、安全を確保したうえで一般人の救出をしましょう」
そして、キースは全員の顔を見回して続けた。
「この作戦は非強制です。異論があれば再検討しますが、どうしょうか?」
「もちろん、サクラコもメテオも賛成なのです」
レースとフリルがふんだんに使われた衣装を着たメテオバイザー(aa4046hero001)の言葉に、パートナーの桜小路 國光(aa4046)は静かに頷いた。他の仲間たちも同様だ。
バスはドロップゾーンへと近づく。
●それぞれの戦い
「救援が来た!」
広場のリンカーたちの叫びを受けて、共鳴を済ませたエージェントたちは気を引き締めた。
シクストを囲んだ四人と彼らと戦う鈍重な従魔たちの横をすり抜け、京子が路地へ向かって真っ直ぐに全力で走る。それにユーガ・アストレア(aa4363)とツラナミ(aa1426)が続き、追って残りのエージェントたちが広場へ辿り着く。
彼らがそれぞれ打ち合わせた路地へと飛び込むと、広場には共鳴したセレティアとキース、國光が残った。
広場のエージェント達を襲っていた従魔が突然の乱入者たちを追うべく向きを変える、それよりも早く。
「行かせるか!」
飛び込んだセレティアの大剣が鎧武者へ振り下ろされる。重く狂暴な黒き鉄塊の一撃が武者の鎧を砕いた。ぐらりと揺れたその身体をキースの魔砲銃が撃ち抜く。
その隙に、國光がシクストたちの元へ駆け寄った。
モノクルを掛け黒のローブを纏った國光の姿に、彼らがバトルメディックのスキルを期待したのを感じ取った國光は、少し申し訳なさそうに救急医療キットを取り出す。
「これくらいしか今はできなくてすみません。あと少しの間だけ我慢してください」
「いや、ありがとう……助かった……」
弓を持った男、グリゴリスが國光をシクストの傍へと招き入れる。
國光が包帯を取り出したのを見届けると、アーベル、ニキータ、ベルナルドも広場で暴れる従魔の元へと駆けた。
「こっちは任せろ!」
ドレッドノートであるアーベルとブレイブナイトのベルナルドがミーレス級の鎧武者を一気に撃破する。
すぐに、アーベルと同じドレッドノートのニキータはスキュラの斧を掲げて、ジャックポットのグリゴリスがオファニエルの弓を引いてセレティアたちへと加勢する。最初のセレティアの一撃で大きくダメージを受けていたデクリオ級の鎧武者もほどなく倒れた。
即座にセレティアは、倒れた従魔の手首だけを斬り飛ばす。一瞬、地面に転がった手甲の付いた手だったが、すぐに本体もろとも黒い灰のようになって消えてしまった。
振り返ったセレティアはへ、様子を観察していた國光が首を横に振る。
────手首に拘るキファを思わせる反応は何もなかったらしい。
真っ直ぐに駆けた京子が右から五番目の路地へ飛び込むと、そこにはデクリオ級とミーレス級の従魔がのそのそと歩いているところであった。
ただでさえ、一般の人間よりも遙かに優れた運動能力を持つリンカーが、共鳴状態で全力で駆けたのだ。鎧武者たちはまだ路地の奥に辿り着いてさえいなかった。それを確認した京子は矢を番え敵を狙う。
《トリオ》。
熟練のジャックポットが九陽神弓より放つ矢が二体の従魔へと降り注ぎ、鎧武者の鎧を貫通し砕く。反撃しようと引き返す従魔たちが京子の元へ辿り着くより早く、彼女は次の一撃を放つ。それによってミーレス級従魔は霧散した。
「カゲリさん、ナラカさん、よろしくね! 前衛は任せるよ」
「────ああ」
振り返らず狙いを定めたまま、京子が言う。その横を追いついたカゲリが白銀の髪をなびかせて走り抜ける。
のろのろと刀を振りかざす、その攻撃に先んじてカゲリの奈落の焔刃が敵のあぎとを貫く。
「敵を誘き寄せて広場で叩く作戦だったが────」
「中央へ誘引する順番は最後、なら、わたしたちは誘引するまでもなく倒しきる!」
ふたりの攻撃によってもう一体の従魔が黒い塵と化すと、ふたりは目線を交わし、念のため奥の人々を確認する。
「大丈夫、安心してね! ちょっと時間はかかるけど、必ず全員助けるから」
洋装のうえにだらしなく着物を羽織ってゆらゆらと立ち尽くす、自我を奪われた人々に京子は告げて、ふたりは広場へと引き返した。
「人々を苦しめる悪を倒すっ! それが正義の味方のやるべきことっ!」
全身を真っ赤に輝く装甲で覆ったユーガが叫ぶと、自身をギロチンの刃と称する英雄のカルカ(aa4363hero001)も応える。
『有象無象の区別なく、一切合切を切り捨ててくださいませ』
ドロップゾーンを全力で駆けたユーガが右から三番目の路地に駆け込むと、やはりすぐに従魔たちに追いついた。
ユーガは破壊の刃を召還する。
「正義登場! 悪は音速で滅ぶべしっ!」
カオティックブレイドのスキル、ストームエッジで召還された刃が輝きの嵐となって従魔達を襲う。鎧武者たちは奥へと向かっていたその身体を反転させて目標をエージェントへと定める。だが、鎧武者の刀がユーガに届く前に、ユーガは後退しつつ、ウェポンディプロイを使い武器を変えて銃弾を放った。
「ちッ、行くぞオ!」
少し遅れて到着した紗希がデクリオ級従魔にトップギアを叩き込む。ライヴスを纏った大剣が鎧武者の兜を粉砕した。吸血茨が使用者の血液を奪い、紗希の一撃に力を与える。
「……見覚えのあるゾーンに見覚えのある敵……ついでに馬鹿げたゲーム付き。なにこれ。呪われてんの?」
潜伏スキルを使用し全力で走ったツラナミは路地に滑り込み、そこで視界に飛び込んで来た鎧武者の後ろ姿に思わずぼやいた。
『呪いじゃ、ない……仕事』
38(aa1426hero001)が淡々と答える。だが、彼女だってそれに見覚えがあるはずだ。
「ああ、はいはい……ちゃっちゃと済ませるぞ。めんどくせぇ」
ツラナミにもサヤにとっても、仕事は仕事だ。
消音器を外したブルパップ式アサルトライフルを構えたツラナミは、潜伏を解く。派手な音を立てて発射された弾丸が従魔たちの鎧を抉り、彼らの注意をこちらへと向かわせる。
弾丸を撃ちこみながら広場へと誘導するツラナミに鈍重な従魔たちはしっかりとついて来る────。
『────ツラ、前……!』
突然、駆け出し距離を詰めた敵の一撃がツラナミを襲ったが、高レベルのシャドウルーカーである彼はそれを難なく躱す。
続けざまにもう一体。だが。
ジェミニストライクによって現れた、もう一人の男の影が三日月宗近を振う。ツラナミと影、ふたりの持つ美しい二本の刀身が従魔を切り裂き、動揺したかのような化生のその隙を突いて、ツラナミは再び距離を稼いだ。その横をもう一体が刀を振り上げスピードを上げて距離を詰める。
「────あぁ……くっそダル」
敵の刃を潜り、意外に繊細な動きで己の名刀を閃かせると、シャドウルーカーはまた距離を取る。
中央広場まであと少し。
右から四番目の路地を駆けた九字原 昂(aa0919)の前にゆらりゆらりと亡霊のように立つ人影と、それに向かって凶器を構える従魔たちの姿が見えた。
僅かに眉根を寄せた昂は従魔たちに女郎蜘蛛を放った。彼の作り出したライヴスのワイヤーが従魔たちを絡めとり、その自由を奪った。
「悪く思わないでね、これも僕の仕事だから」
刃を走らせるシャドウルーカーの一撃が従魔の身体を削り取る。鎧武者は剛力でライヴスのワイヤーを引きちぎり、意思なくぼんやりと揺らぐ人々から、目の前に現れたエージェントへと虚ろな顔を向けた。
「────ちょっと遠いしょうか」
昂は袋小路から広場への距離を軽く目測してひとりごちた。
修練を積んだシャドウルーカーである自分は鈍い従魔たちの攻撃には簡単に負けない自信はあるが────。
従魔の刃が人々の命を刈り取る、その寸前。
「間に合ったようだな……喰らえッ」
右から二番目の路地を走って来た白銀の鷹頭の戦士が敵の中へと飛び込む。ドレッドノートの赤嶺 謡(aa4187)が怒涛乱舞で二体の従魔を攻撃すると、従魔たちはその体勢を僅かに崩した。
『先手必勝っ、逃げるが勝ちだねっ。さあ、冒険の始まりだっ』
「むしろ死に出の始まりってところだな。無駄話してると捕まるぞ」
ジャスリン(aa4187hero001)が愉しげに声を上げる。冗談じゃない、と着地した謡はそのまま片手で地面を押して身体を反転させ広場へ向かって駆けだす。
「走るぞ、ジャス。足を止めたらそれだけオレ達の勝利が遠のく」
『分かってるよ、ヨウ。適当に飛び込んで行けば良いんだよね? それで、誰を殴ろっか?』
「ジャス……分かってないだろ……」
ドレッドノートとしてまだ成長期の彼は従魔たちに重い一撃を与えてはいない。
だが、彼の目的は従魔どもを広間におびき寄せること。
駆け出した謡の背中を、捕らえるような一撃が浅く裂いた。
●広場での攻防
従魔二体を倒した中央広場では、仲間に合図を送った國光たちがグリゴリスたちとこれからの作戦について話していた。
「ありがとう、感謝はするよ……でも、路地にもドロップゾーンに囚われた人々が居るんだ」
グリゴリスが言うと、ニキータは顔を歪めた。
「しかし、シクストを一人、ここへ置いてはいけない」
「俺たちほどでは無いにしろ、この方たちにお願いすればいいんじゃないかな」
「重体の仲間を、こんなよく知らないエージェントの元へ一人置いて行くなんて」
ベルナルドの提案にアーベルが苦い顔をした。
「…………大丈夫です。シクストさんは絶対に助かります。皆さんの仲間じゃないですか」
様子を見守っていた國光が救急医療キットの中から消毒薬を取り出してリンカーたちの顔を見回した。
「他に怪我をしている方はいますか? 必要なら遠慮せず使ってください」
────サクラコ……。
────わかってるよ、メテオ。
共鳴した英雄の心配そうな声を制して、國光は倒れたシクストの傷口にガーゼを当てた。
國光たちはこのシクストさえ『キファ』である可能性も考えて警戒していた。けれども、例え疑惑があっても彼を失血死させるわけにはいかない。
キースが引続き四人に作戦を説明する。
「これから、さっきの仲間たちがこの広場へ敵をおびき出して来ます。あなたたちにも共に戦って頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「もちろん! 願ったりです」
ベルナルドが己の胸に手を当てて、にっこりと笑みを浮かべ、他の三人も一瞬、シクストの方を心配そうに見てから、キースへと頷いた。それを確かめてから、キースは手早く五台のスマートフォンを取り出すと、ひとりひとりにそれを配った。
「なんだ、これは?」とグリゴリス。
「万一、身に危険が迫ったらスマホの電話、電話が使えない場合はアラームで危険を知らせるようにして下さい」
キースの説明に四人は首を傾げた。
「俺たちは広場で迎え撃つんだろう? 自分たちのスマホを持っているし、連絡ならそれで……」
「いや、俺たちはこの人たちの電話番号なんて知らないし、何より時間が無い。シクストを一人にするとヤバいし、不本意だがここは借りよう」
不服そうなアーベルを抑えて、ニキータがスマートフォンを受け取ると、他のリンカーたちも不承不承、端末を受け取った。
「しょうがない、今は他の従魔たちを倒すことを考えないとね」
ベルナルドの言葉に一同は頷く。
「────違うか」
シクストの傷口を見ていたセレティアが立ち上がる。キース、國光がセレティアを見ると、彼女は────外見は成長したセレティアのようではあるが、実際は共鳴したバルトロメイが主体なのだが────厳しい瞳で僅かに首を振って見せた。
バルトロメイはシクストも疑っていて、彼が自分で傷を付けた可能性を確かめるために、傷口が彼の武器である救罪の槍のものでないか確かめたのである。しかし、それは刀のものであって、十中八九、今さっき倒した鎧武者のものであると思われた。
────まあ、あの武器での傷口ならわかるだろう。
セレティアはシクストを始めとしたグリゴリスたちのそれぞれ個性的な形をした武器を見て思った。
「おっと……」
セレティアの手から大剣が落ち、石畳の上で大きな音を立てた。アーベルが眉をひそめる。
「おい、お嬢さん────?」
「すまない、汗で手が滑った」
────引っかかるか?
慌てて、地面に落ちた武器を拾うセレティア。それは食の悪魔の名を冠する『Belzébuth(ベルゼビュート)』の銘を持つ大剣────武器に執心するヴィランを釣るにはぴったりの餌だと思えた。
しかし、彼女の大剣に目の色を変えたのは一人ではなかった。
「いいな、それは────だが、俺の剣も負けていないぞ」
「はは、俺の爪には敵わないが、ちょっと見せてくれないか」
「いいね……触ってみてもいいかな」
「斧が一番だと思うけど、大剣も中々────」
毒気を抜かれた顔できょとんとするセレティア。
────なんだよ、コイツら全員、武器マニアかよ。
「……すみませんが、シクストさんの手当てを手伝って頂けませんか?」
囲まれたセレティアに國光が助け舟を出す。
「オレが出血を抑えます。他の部分の手当をお願いできますか?」
慌てて、國光の方に寄って来たリンカーたちを國光は厳しい目で視界に入れつつ、手当てを指示する。
その時。
「────来ます!」
キースが固い声で警告した。
●狼を残した羊の群れで
連絡を受けたツラナミが従魔を引きつれて広場へと飛び込んで来た。
敵を広場へと導くと、足を止め、今度は従魔へと向かうツラナミ。そこへ、広場に残った仲間たちの援護が始まる。
大剣を掲げたセレティアに影響されたかのように、アーベルたちも自分たちの自慢の武器を引っ提げて従魔へと勇ましく向かって行った。
一体ずつ────無理ならば時間をずらして、そういう計画ではあったが、従魔たちは中々手ごわかった。
数秒遅れて、紗希とユーガが一体の従魔を引きつれて路地から現れた。
「だいぶ削ったはずです!」
紗希が大剣で敵の攻撃を弾きながら、仲間たちへと叫ぶ。
「こっちは済んだ。前衛を担おう」
同時にカゲリと京子が駆けだして来た。
弱った敵へ向かって、傍に居たニキータが見えない程の速さでスキュラの斧を容赦なく叩き込む。攻撃を受けた鎧武者がゆらりと倒れ込んだ。
「よし!」
「すまないっ、これで精一杯だった。持ちこたえられるかっ?」
路地から更に転がり出るように謡と二体の従魔が現れた。それらを、グリゴリス、キース、國光がそれぞれ狙い撃つ。
「おい、あんたは剣の方が本職じゃないのか!? シクストは俺が見るから前へ出ろ」
グリゴリスが國光の狙撃を見て声を荒げる。
「────シクストさん達をお願いします」
矢を番えるグリゴリス……そして、頷くキースを確認すると、國光は雷切の柄をぐっと握りしめて前へと出た。
五叉路の前では激しい戦いが行われていた。新人ながら、ユーガは先輩エージェントたちと連携を取ってうまく距離を取りながら、スキルを使い、武器をくるくると変えて立ち回った。
十四人のエージェントたちの戦いによって従魔たちは次々と撃破されていく。
「素早く決めるぞ!」
更に、ミーレス級従魔とデクリオ級従魔がそれぞれ一体ずつ、止めを刺されて塵と化した。
そこへ携帯が鳴る。
剣を振うセレティアが空を見上げると、昂が事前にスキルによって放っていた鷹が大きく鳴いた。
キースがスマートフォンを操作して合図を返す。
二体の従魔を連れて広場に現れた昂は、敵が広場に入ると身を反転させ、デクリオ級従魔に弧月を抜き────猫騙のフェイントで敵の攻撃を崩す。即座に片方のミーレス級従魔はアーベルの爪によって引き裂かれた。
「次だ!」
そして、昂の連れて来たもう一体の従魔の身体を紗希の大剣がぶち抜き────従魔の影が無くなったのを確認したその時。
「おい! まだいるぞ!!」
誰かが叫んだ。
────倒れたとばかり思っていた一体。ドレッドノートのスキル、電光石火によって狼狽と翻弄を与えらえた鎧武者が回復して立ち上がったのだ。
──── 一瞬、その場のエージェントたちはその従魔の姿に目を奪われた。
咄嗟に昂が紡いだ女郎蜘蛛のライヴスの糸が鎧武者を拘束する。
「危ない!」
用心して中距離を保持していた國光だけが、それに気づき駆けこむことが出来た。
ハイカバーリングを行った國光を疾風怒濤が襲った。
庇われたベルナルドが驚愕に目を見開く。
「────ちえ、なんだ。気づいちゃったんだ。惜しかったなあ」
ニキータが國光の肩にかかった斧の刃の先を、こすりつけるようにゆっくりと引き下ろす。國光の顔が痛みで歪められた。
「ほら、従魔(セルウス)と戦わないと」
何か言おうとした『仲間』たちへ笑いかけるニキータ。それは、さっきと同じ姿のはずなのに、全く違って見えた。
────キファ。
傍にいた謡たちが鎧武者へ向かい、すれ違うようにセレティアが大剣を持ってキファへと走る。
ユーガの冷艶鋸による突きと、謡のストレートブロウを受けて、すでに大分ダメージを受けていた最後の鎧武者は弾け飛んだ。
そして────、セレティアとキファは。
大剣と斧が何度も火花を散らし、斧が少女の身体を剣がキファの身体を赤く染めた。
「────くっ、ふ。やあ、美しい大剣の乙女。きみはずいぶん、僕を気にしてくれたみたいで光栄だよ」
痛みに顔を歪めたキファは斧を振り回す。そして、距離を取ったセレティアに向かって軽く口に添えた掌を向けるとふっと口づけを贈った。
「ふざけるな!」
紗希が電光石火を仕掛ける。だが、それを耐えたキファはわらった。その肩を京子の一矢が撃ち抜く。
「────ぐっ、さすがに分がわるいか……」
よたついたキファが何かを取り出すと、広場のあちこちから火花が散る。
「……はやく、路地にも行ったほうがいいんじゃないのかな?」
小さな端末を握りつぶしたキファはそう言い残して、炎と路地を交互に見て焦りを浮かべるエージェントたちに背を向けて消えた。
「腹が立つけど、これは────僕の負けにしておくよ」
そんな言葉を残して。
火花が一段と激しくなった。
●ゲームクリア
皮肉なことに、路地の中には発火装置は仕掛けられていなかった。
一部のエージェントたちは共鳴を解き、グリゴリスたちと手分けして路地に囚われた人々をドロップゾーンの外へと運んでいた。
昂が全員の誘導をし、國光がリンクバリアを張って一般人の移動を助けた。
共鳴を解いたバルトロメイは逞しい肩に一般人を一人背負い、もう一人の手を引く。その後ろをセレティアも女性の手を引きながら歩く。
広場でノートパソコンの画面を厳しい顔で見つめるキースに、バルトロメイは尋ねた。
「スマートフォンは」
「────さっきから、点いたり消えたりを繰り返して、さっき、完全に消えました。でも、壊してはいないような気がします」
「まるで、ちゃんと持っているって伝えているみたいですね」
昂が呟く。
「頭いいサイコ野郎は危ない橋は決して渡らない。けど、サイコパスが尻尾出すときって大概自分の身の安全より、欲求が勝った時なんだよな。自身の安全……快楽行動……両方……?」
カイが呟くと、バルトロメイが凄い顔でカイを睨み、セレティアは驚いたようにパートナーを見上げた。
共鳴したまま民間人を運んでいたツラナミにサヤが問いかける。
『共鳴解いて……ふたりで運んだ方が早い』
「……共鳴? 解いたらステ下がるだろ。担げないだろ。怠いわ」
広場を通りかかる際に先程まで点滅を繰り返していたキースのノートパソコンの画面が目に入る。
「……このゾーンを作った奴の刀は奴の能力で生み出したもんで、奪取は不可能。検証済みだ」
その場にいないヴィランへ向けてか、ツラナミは呟いた。
おそらく、あいつだろうから。
武器好きのヴィランと刀に拘る愚神。くだらない組み合わせだ。
「これで、最後か……」
『サボるの……?』
「腰がな? 痛いんだよ。年だから」
『────ツラ』
その時、その場に一条の光が差した。
「────あ!」
紙姫が空を見上げて声を上げる。
「闇が晴れたのです!」
「思ったより早いですわね」
メテオとカルカの声に反応したように、歪んだ暗い空が、一気にばらばらと剥がれ落ちて消えていく。
────夏の眩しい太陽が暑い日差しを落とす。そこに現れたのは、鳥居の並ぶ五叉路に歪んだ空間ではなく、生活感あふれる市街地だ。
「あとは彼を運ぶために救急車でも用意した方がいいよね?」
ジャスリンがシクストの方を見る。國光のお陰で、多少、落ち着いたが、やはり重体には変わりない。
「シクストを病院へ運ぶなら同乗させてもらおう。オレも怪我人だ、いいだろう?」
謡の言葉に、全員がキファが再襲撃を思い浮かべた。
「ゲームは負けた、と言っておったな。ならば、その心配はないだろう」
シクストの様子を見ていたナラカが呟く。
「来るなら、次のゲームだろうな」
その発言に、バルトロメイが声を荒げた。
「俺は参加しないからな!」
困ったようなセレティアと完全に苛立っているいかつい大男の様子に、なにかを察したカイと紗希が意味ありげに顔を見合わせた。
呆けたように空を見上げるアーベルたちにユーガが声をかけた。
「ありがとうっ。あなた達のおかげで悪の手から人々を救えた」
キファは捕り逃したが、ユーガの心は清々しかった。
────素直に感謝を。一人悪党がいたらしいが、それはそれ。彼らが人々を助けようと戦っていたことを無碍にするのは正しいことじゃない。
ユーガの言葉に彼らは一瞬戸惑い、そして頷いた。
「ならば、その俺たちを救ったのは君たちだ。礼を言う」
三人は、ユーガと、その後ろのエージェントたちの手を掴み、それぞれ強く礼を述べた。
ベルナルドが、自分を庇って傷を負った國光の傍に片膝をついた。
「すまない、────その、ありがとう……」
ライヴスを取られた気だるさに戸惑いながらも、正気を取り戻した人々が、居並ぶエージェントたちに何かを察して感謝の言葉を述べた。
そこで、エージェント達は気付いた。たった十三人のエージェントが五十人もの自我を奪われた人々を、誰一人として欠けずにドロップゾーンから救い出したことを。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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