本部

特殊AGW運用試験 ~夏ver.~

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~12人
英雄
6人 / 0~12人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/08/09 20:20

掲示板

オープニング

●進捗状況
「では、報告を聞こう」
 書類や書籍がいくつもの山を成している部屋で、サングラスの厳つい男性がデスクにひじを突いて口元を隠したまま、口を開いた。彼の視線の先には、くたびれた白衣を着た男女が1組、資料らしき紙束を手に持ち直立している。
「はい、主任。今まで進めてきた『特殊状況下を想定した特化型AGW』の開発ですが、先日ようやくプロトタイプの完成にこぎ着けました。こちらがその資料です」
 男女が差し出す資料を受け取り、主任と呼ばれたサングラスの男性は細かい文字群へ視線を落とす。その際、机の上にあった小山がいくつか床へ崩れ落ちたが、誰も気にしていない。
「……実戦投入に望ましい目標数値と比べると、実測値がずいぶん低いな」
「理論上は、記載された実測値よりも高いデータを引き出せるはずです。しかし、実戦経験が乏しい上、連日に渡る起動実験で消耗した職員ではライヴスの供給量が足りず、思った以上の数字が出ませんでした」
「また、現在考え得る性能を組み込んだプロトタイプですが、開発段階の問題は棚上げされたままです。『S型』各種は総面積が、『E型』各種は動作可動域の解消が障害となり、理論値であっても満足な防御性能が引き出せるとはいえません」
 室内にいる3人の声音は、あまり明るくない。
 彼らはAGW開発の技術者で、現在着手しているAGWの性能実験が行われた。主任に渡ったのはその時のデータであり、理想とする結果が得られなかったようだ。
「まだ試作段階である以上、やむを得ない。それらの問題は今後の課題とする。が、それよりもデータ不足の方が気になるな。試験回数がこの程度では、まともな評価すら難しい」
 資料を読み終えると、主任は行われた運用試験の回数に眉をひそめた。
 記載された試行回数は2桁に届かず、データサンプルとしては質も量もお粗末なものだったのだ。
「しかし、運用上の安全性は確認できました」
「少なくとも、装備者のライヴス供給による自壊の危険性は低いです」
 せめてもの明るい情報として、男女2人は交互に安全性を主張する。
「……ならば、外からの協力を依頼しよう」
 主任は資料を近くにあった紙の山に乗せ、立ち上がった。
「準備に移るぞ」
『はいっ!』
 威勢のいい返事を残し、主任たちは雑多な書類だらけの部屋を後にした。
 同時に、さっきまで読まれていた資料が、扉が閉まると同時に山ごと崩れ落ちた。

●モニター募集!
 東京海上支部の廊下で、男女2人の職員がなにやら作業をしていた。
「……で、グロリア社の『特開部』が、新型AGWのデータ集めに必要なモニターを募集した、ってわけか」
「ついでに、AGWとしての性能や見た目の印象、実用化された場合の有用性などについて、実際に使用する立場から評価をしてほしい、って言ってたわよ?」
「言ってることはいちいち真っ当なのに、やってることが意味不明だから不安しかないな。今回は何を持ってきたんだ?」
「『水着』と『浴衣』だって」
「AGWだろ!? いつどこで使うんだよ!?」
「彼ら曰く、『海水浴場や縁日など、夏特有の特殊状況下で行われる任務を想定した、AGWの効果的運用』を目指しているそうよ」
「あの人らが考えるべき本来の『特殊状況』って、強力なゾーンルーラーがドロップゾーン内に発生させる『ゾーンルール』のことだったよな? どこをどうこじらせたらそうなったんだ?」
「さあ? 何でも、日常場面における敵からの突発的な襲撃への即時対応や、人混みに紛れたヴィランの追跡や奇襲、戦闘中の吊り橋効果で気になるあの人へアピールなど、様々な場面での活躍が期待されているらしいわ」
「最後の絶対いらないだろ!? 戦闘中に味方を誘惑するなよ、気が散ってしょうがないわ!」
「でも、あの人たちのメインはそっちっぽいけど? 色々な測定器と一緒に照明器具とか持ち込んでたし、レンタルした会議室に即興のランウェイみたいなの作ってたし」
「ファッションショーか!? すでに趣旨をはき違えてんじゃねぇか!」
「彼らから言わせると、『衣類型の装備である以上、デザインも重要な要素の一つ』だってさ。ちなみに、『S型』が『swimwear』の『S』で水着を、『E型』が『えんにち』の『E』で浴衣を指しているそうよ」
「水着が英語の『S』なら、浴衣は『yukata』だから『Y』だろ! 何で片方だけ回りくどい名前にしたんだよ!?」
「本人たちに聞いてくれない? ほら、まだいっぱいあるんだから、さっさと次に行きましょう」
 突っ込みで疲労気味な男性職員と、冷静な女性職員が去った後。
 壁には依頼者である『特開部』が自作した、『モニター募集』の張り紙が残されていた。

解説

●登場
 グロリア社の『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』の主任及び職員。全員開発プロジェクトに携わっている技術者で優秀だが、基本的に研究・開発に没頭しており時勢に疎く、頭のネジが外れている。

●場所・状況
 H.O.P.E.東京海上支部の大会議室。集合時間はAM10:00。内装は事前に職員が審査席とランウェイを設営済。道沿いにスポットライト、モデルの正面から当たる角度で照明器具を設置し、見栄えのする工夫が光る。

 各装備の開発リーダーが司会進行。主任が参加者たちへの解説。その他職員の数名が書記、残りがデータ解析を担当。

 事前に資料等は配付されない。モデル以外の能力者・英雄は審査席にてAGWを品評。

●水着型(PL情報)
 男性用…白トランクス型(a)・黒ブーメラン型(b)・☆淡黄タンキニ型(c)

 女性用…白ワンピース型(d)・黒ビキニ型(e)・☆紺色スクール水着型(f)

 性能…防護膜(弱)・水泳補助・UVカット

●浴衣型(PL情報)
 男性用…白地+黒帯+下駄(g)・濃紺地+淡黄帯+雪駄(h)・☆薄桃地+深紅帯+ビーチサンダル(i)

 女性用…藍色地の白花柄+白帯+下駄(j)・白地の淡紫花柄+赤紫帯+足袋+草履(k)・☆薄桃浴衣ドレス+濃桃帯+黒ミュール(l)

 性能…素材伸縮・着崩れ修正・虫除け効果

●その他(PL情報)
 ☆…ネジが外れた装備。追加性能あり(評価対象外)。

 サイズ…小児~成人まで完備。

 モデル…性別は共鳴時を基準。装備の選択希望可(第3希望まで。記入例:1.a 2.h 3.cなど)。

 評価項目…性能(個人的評価)・好感度(装備したいか否かを含む)・有用性(あらゆる意味で)を1~5で評価(記入例:a…性2・好4・有3など)。

リプレイ

●集合!
「好きな浴衣着ていいの!?」
「あくまでAGWのモニターのお仕事ですよっ?」
 こちらは東京海上支部で張り紙を発見した灰田 倫(aa0877)とノエル・スノー(aa0877hero001)。
「さて、新型AGWの技術を実地で確認して盗むとするかの」
「……いつも通りだね。テスター依頼だけど、相変わらずグロリアの警備はザルだよねー」
 意気込むカグヤ・アトラクア(aa0535)の隣で、クー・ナンナ(aa0535hero001)は眠そうな表情で続く。
 カグヤの目的は試作AGWのデータを持ち帰ること。既に義眼の右目に隠しカメラ、義肢たる右腕に記録装置や各種センサーを内蔵済。新しい技術に心躍らせ、カグヤは会議室へ向かった。
「女の子の水着! これに甘~いスイーツがあればもう愚神すらメロメロだね! あ、そこのババアは大人しく庭の草むしりでもやってれb」
 ズガンッ!
「さて、水着ですか。いいでしょう。私のだいなまいと・ぼでーで世の男共を快楽の極地に誘いましょう、フッフッフ」
 欲望に忠実という意味では、天宮 愁治(aa4355)とヘンリカ・アネリーゼ(aa4355hero001)も同じだ。脱落した1人を残し、ヘンリカはドヤ顔で会議室を目指す。

 他にも狼谷・優牙(aa0131)とプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)、荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)、狒村 緋十郎(aa3678)とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が集まった。
「本日は我々に協力していただき、感謝する」
「始める前に一つ、提案がある」
 主任の言葉に割り込んだのはカグヤだ。
「参加人数を見るに、共鳴時だけではなく、非共鳴時の着用データ取りも行ってはどうじゃ? 共鳴によって体格の変化もあり、事前に着用していた場合の検証も必要だと思うのじゃが?」
「うむ。元々、主観的意見を個別に聞く予定ではあった。願ってもない提案だ」
 他の参加者たちからの同意も取り、いよいよファッションショーじみてきた。とはいえ、会議室を改造するほど気合いを入れていた研究員たちからすれば、元々その気だったのだろうが。

●水着紹介
 開始前。
「水着の性能って何だろうな? 黒いやつは、戦闘中謎の暈しが入りそうだ……」
 試着ルームへ入った拓海は、すぐ目にしたそれを真剣に悩み、早速研究員たちへの不安を覚えた。そして拓海の着替え中、遅れた緋十郎は黒いやつを握らされていた。

「さーて、品評しちゃうよー!」
「では、AGWの紹介です。最初は、S-m1型です」
「S-m1って何?」
「型式番号だ。Sが水着型、mが男性用を指す。他はEが浴衣型、fが女性用を意味し、数字は製造ナンバーだ」
 愁治が疑問符を浮かべると、主任は即座に解説を挟む。AGWの説明役らしい。
 最初に出てきたのは拓海。真っ白なトランクス型の水着だ。ランウェイをゆっくり歩いて先端の舞台で軽くポーズ。
「S-m1型はこれといってコンセプトはない。AGWとしては防護膜・水泳補助・UVカットを組み込んでいる」
 水着には特徴がなく、ただ真っ白なトランクス。現段階では無個性という他ない。拓海も淡々とモデルを務めた。
「続いて、S-m2型の方」
 次に移った瞬間、会場が色めき立つ。出てきたのは緋十郎。下にはぴっちりと張り付く黒い水着が。
「S-m2型はこのサイズにギミックを組み込むのは苦労した」
 それはブーメラン型水着だった!
「ふっ!」
 緋十郎は舞台へ到達すると、レミアへ肉体美をアピール。しばらくして、緋十郎は満足げに去っていった。
「次は我らがS-m3型!」
 入れ替わった司会がテンション高く入場を告げ、現れたのは2人だ。
「うぅー、男性用水着って聞いたのに、話が違いますよー」
「裸じゃないだけマシじゃない?」
 姿を現したのは優牙とクー。気怠そうに歩くクーの背中に隠れ、優牙がオドオドと続く形だ。2人の水着はクリーム色のタンキニ。際どいタンクトップと腰のパレオは、胸と大事な部分をガード。舞台までくると、クーは特にポーズもせず後ろを向く。
「わっ! クーさん、待ってください!」
 慌てて優牙も反転し、どよめきが会場を支配した。なんと、2人のお尻に水着がぴっちり食い込んでいた。パレオは前しか隠してくれず、お尻は丸見えだった。
「S-m3型は特にパレオに力を入れており、ライヴスを注ぎ込む間、前股間部を完全に隠す。着用者の羞恥心を大幅に減らすことが可能だ」
「減ってませんっ!」
 裏に消える間際、優牙は顔を真っ赤にして主任へ叫んだ。ちなみに、優牙は無理矢理引っ張られ、クーは並んでいたAGWを見ていたところを捕まった。とんだ災難である。
「……ところで、あの駄メイドはどこいった?」
 男性水着の紹介後、愁治は英雄の姿が見えないことに気づく。
「男を狂わすのに最も効果的なのはこの衣装だと文献で読みました。それに加えてメイド。着るのは私。もはや七つの竜の玉が揃ったに等しい状況でございますね」
 そのヘンリカは試着室にいた。目の前には1着のAGW。彼女に迷いはない。

「次は女性型です。まずはS-f1型の方」
「メリッサちゃん、わたしたちですよ」
「わかりました、ノエルさん」
「最初はワンピースか! ノエルさんとメリッサさんが着ると抜群だな!」
「メリッサー!」
 愁治は水着と着用者を即座に吟味し、緋十郎は野太い声援を送る。彼女たちの水着はワンピース。戦士として引き締まった肉体との相性はよく、女性らしいスタイルで観客を魅了する。
「S-f1型は布面積が比較的多く、調整もS型の中では行いやすい。性能は男性用水着と同じだ」
「わたし、水着は見るだけでよかったんですけどね」
「まあまあメリッサちゃん、これもお仕事ですから」
 場の盛り上がりとは裏腹に完全に仕事モードでモデルを務め、舞台裏へ戻っていった。
「続きまして、S-f2型の方、どうぞ」
「わたしたちね」
「どれ、行くとするか」
 次に出てきたのはレミアとカグヤだ。瞬間、拓海と愁治から歓声がわき上がる。
「カグヤさんだーっ。良いなあの太股」
「ビキニキター!!」
 そう、彼女たちが着用しているのは黒一色のビキニ。レミアは白い肌に水着の黒が映え、カグヤはモデル並のスタイルを見せつけるように、ランウェイを堂々と進む。
「S-f2型は水着といえばビキニ、という意見が多数上がったため採用した」
「っ……、あぁ、全くレミアは何を着ても似合うな! やはり地上に降臨した天使か女神か……」
 解説の横で緋十郎は視線をレミアに固定し、興奮を隠さない。すると、突如レミアが審査席の方へと近づいてきた。
「? レミ、ア゛ッ!?」
 瞬間、レミアのかかとが緋十郎の足を思いっきり踏み抜いた。
「緋十郎。さっきメリッサに下品な声を上げていたわよね? さっきも、カグヤの方を見て一瞬見蕩れていたようじゃない? 気づいていないとでも思ったの? ねぇ?」
「す、すまない……」
 かかとぐりぐりと謝罪は数分続き、カグヤは肩を竦めていた。
「ラストはS-f3型、カモン!」
「おーっ!」
「参ります」
 鼻息の荒いコールで現れたのは、プレシアとヘンリカ。瞬間、空気が一瞬固まる。
 2人が着用していたのは紺色のスクール水着。胸元のゼッケンには名前が書かれ、それぞれ『ぷれしあ』・『へんりか』とひらがな表記だ。また、ヘンリカのみ頭にヘッドドレスが残り、これが意図的なのは明白である。
 見た目が相応なプレシアが隣にいることもあり、狙いすぎのヘンリカは残念臭が際立った。
「S-f3型は日本の伝統だな。特徴は胸部ゼッケン。ライヴスを流すと、装備者の名前が自動で浮かぶ。……ふむ、今回は裏で調整し、筆跡も装備者をトレースしたそうだ」
「いつも着てるし、しっくりくるのだ。これなら闘うのもいいかな」
「プレシアちゃん、サイコー! 隣のババアは自分の歳考えr」
 装備を見下ろすプレシアに、愁治が元気よく声を上げドパンッ!
「失礼しました、皆様。私、ヘンリカ・アネリーゼ。18歳です。じ・ゅ・う・は・っ・さ・いです。くれぐれも、さん付けの後に年齢を呼ばないで下さいね?」
 ヘンリカの素晴らしい笑顔に、みんな黙って頷いた。

●水着試験
 紹介後、エージェントたちは共鳴して水着を着直した。
「浴衣ただで貰えるんならこれくらいは仕方ないですよねー」
『もらえませんからねー?』
 ワンピース型を担当するのは倫とノエル。ちょっと仕事を忘れてそう。
『隣の子、可愛い子だね。誰かが好みそうな年齢だ』
「優牙ちゃん? けど、狒村さんの反応は普通だったわよ?」
『狒村といえば、腹直筋の形が良かった。大胸筋・前鋸筋・大腿二頭筋・大臀筋も鍛えられていた』
「……拓海、モデル評価じゃなくAGWの性能検査よ」
『あ、噂によると、審査席にいる天宮さんはスイーツ作り一流だそうだ』
「えっ!?」
 拓海と共鳴したメリッサも倫と同型の水着だ。モデル(?)審査に忙しそうだが、最後はお菓子作りに目醒めているメリッサの視線が愁治に固定される。
「ぅ…………」
 黒ビキニを着させられた優牙は、すでに全身が真っ赤。無論、彼の意志は関係ないプレシアチョイスだ。
『あはは、全部良さそうなのだ♪ 水着は動きやすくて戦いやすそうなのだ♪ もっと布少ないとやりやすいかな?』
 共鳴状態のプレシアは水着AGWを好き勝手評価しており、優牙は半泣きになる。
 同じくビキニのレミアは無言。中の緋十郎はずっとレミアにメロメロなままだ。
「ふむ、本当にわらわの筆跡を再現しておるな」
 カグヤは解説に興味を引かれたスクール水着を纏い、感心している。
 ちなみに愁治は突然の銃撃による怪我で参加を辞退。メンバーは5人だ。
「さて、水着型は2つの性能試験を行ってもらう。水泳補助のみ、今回は断念した」
 用意されたのは、水着披露時に用いられていた照明だった。それらを、横並びになった彼女たちの前へ配置する。
「全員、AGWを起動してくれ。では、開始」
『あつっ!?』
 瞬間、参加者たちの声がハモる。
「これもAGWだ。太陽光の成分を再現しており、UVカットの効果を検証している。防護膜も並行して計測しているため、しばらく待っていて欲しい」
「熱の遮断くらい事前に組み込んどけよ!」
 実験中の様子で愁治が声を上げるも、共鳴した能力者たちはデータ計測の十数分間、強烈な光と熱を浴びせられ続けた。ちなみに、UVカットは99.99%、熱カットは12%だったそうです。

「僕が用意したものなんだけど、よかったら食べて!」
 試験後、愁治は持参したカキ氷とアイスクリームを取り出した。ただし、男の分はない。
「おぉ!? 優牙、これすごいのだ!」
「ちょ、プレシア、落としちゃうよ!?」
 興奮したプレシアは優牙にもお裾分け。これはセーフ。
「本当に美味しい! これ、どうやって作ったんですか!?」
「興味ある? 今度個人レッスンしてあげよっk」
 ドスッ!
「ウチの変態が失礼しました、メリッサ様」
「え? あ、はい……」
 地獄突きで愁治の喉を貫き、深々とヘンリカがお辞儀。話が出来ない状態となり、メリッサは引き下がる。
「天宮さんはずっと参加しないんですか?」
 ふと、ノエルは愁治にこんな声をかけた。愁治は声が出ずに笑顔で応え、考え込む仕草をした。

●浴衣紹介
 開始前、試着室にはすでに浴衣を着た緋十郎が、試着ボックスの外でレミアの着替えをそわそわしながら待っていた。
「ねぇ緋十郎。この浴衣……って衣装。着方が良く分からないわ。手伝って頂戴」
 すると、レミアはカーテンから顔だけ出して緋十郎へ特大のブローを放った。
「なん、だと……?! あ、ああ、承知したぞ、ま、任せてくれ……ッ!」
 レミアの下僕、悦んで同じボックスへIN。
「な……ッ?! ちょ、ちょっと緋十郎、何鼻血吹いてるのよ、浴衣にかかったらどうするつもりよ!」
 主人からの叱責が飛ぶも、荒い息づかいは加速する。
「この浴衣とドレスの和洋折衷の愛らしさ……!」
 結局レミアの着付けは成功したが、すでに緋十郎の興奮は天井知らずになっていた。

「これより、浴衣AGWの紹介です。まずはE-m1型から」
 1人目は前回と同じ拓海。色合いも何だか最初と似ていた。
「E-m1型は色合いこそ目立たんが、人を選ばない。性能は素材伸縮・着崩れ修正・虫除け効果が付与されている」
 灰色が混じった白の生地と真っ黒な帯、軽い音を下駄で鳴らして歩く姿は、確かに縁日の場面で意識されにくそうだ。誰が着ても浴衣がなじみ、汎用性が高いことも意味する。
「続いて、E-m2型です」
 拓海の次に出てきたのは意外にも愁治。ノエルの言葉で参加を決めたらしい。
「E-m2型は夏らしいデザインを採用することで、より場の空気にとけ込むことを狙いとしている」
 濃紺の中に薄く細い青のラインが縦に引かれ、色合いから涼しさが感じられる。帯は薄い黄色で、足下は素足に雪駄を履き、やや着崩した愁治には独特な色気があった。
「E-m3型! 出てこいやぁ!」
 見覚えのあるテンションの後、現れたのは優牙だ。
「これも、何か違う気がするんですけどぉ……」
 男性用の浴衣だが、生地の色が薄いピンク、帯が同系色の深紅、足元は鮮やかな色合いのビーチサンダルだ。ミスマッチなようでいて、モデルのおかげか違和感はない。
「E-m3型は個性がある。ライヴスを流すと生地全体がわずかに光るのだ。夜の縁日を考慮すれば、人混みでも味方へ信号を送れるだろう」
 見ると優牙が動く度に浴衣がラメのように光っていた。一時的に照明が暗くなるとより際立ち、七色の小さな光が目に入ってくる。うん、何か違う。

 男性浴衣の披露が終わり、次は女性が準備に入った。
「可愛いい~!」
「う……っ、確かに可愛いですよね」
「ペディキュア! 塗ろう! 可愛いやつ! あと、ネイルチップと、髪飾りも用意して来たやつあるから使いましょう!」
 浴衣を前に倫のテンションは最高潮。ノエルも思わず同意をこぼし、2人は化粧台へ直行。自前で持ってきたメイク道具を取り出した。

「次はE-f1型です」
「行こう、メリッサさん!」
「はい、倫さん」
 最初は倫とメリッサ。彼女たちの浴衣は藍色をベースに、白い花びら模様があしらわれたデザインだ。帯の白は浴衣の藍色をより引き立て、足下の下駄が雰囲気作りに一役買っている。
 中でも倫は気合いの入り方が違う。茶髪を両サイドから編み込み、左サイドに髪飾りを添えた、浴衣に合う髪型にセット。ナチュラルメイクに色鮮やかなペディキュア・付け爪も加え、まるで雑誌モデルのようだ。
「E-f1型はやや古風なデザインだからこそ、縁日に紛れやすい。性能は男性用浴衣と同じだ」
「ちょっとこれ、すごくないです? 報酬に貰えたりするんですかねー?」
「どうでしょう?」
 性能は解説で知り、倫はやや興奮気味にメリッサへ話しかける。が、メリッサはまだ試験段階での報酬は無理だろうと考えていた。
「灰田さんは絵になるね。何着ても似合いそうだ」
 審査席では拓海が相好を崩す。2人は仲睦まじくバトンを渡す。
「続きまして、E-f2型です」
「お呼びじゃ。行くぞ、ノエル」
「はい!」
 颯爽と現れたのはカグヤとノエル。白を背景に淡い紫色の花がいくつも咲いた、落ち着いたデザインの浴衣だ。帯は赤紫で足下には白い足袋と草履が覗き、全体的に上品な印象を見る者に与えた。
「E-f2型は場の雰囲気にとけ込みやすい落ち着いたデザインだ」
 カグヤは違和感なく着こなし、とても大人びた雰囲気を醸し出している。ノエルは豊かな赤髪を緩い編み込みでボリュームを出しつつアップにし、ベルの髪飾りで纏めた。また、倫と同様薄くメイクが施すも、カグヤと並ぶと少女らしさが強い。
「え、えと、さ、最後はE-f3型、ですぅ」
 登場したのはレミア1人。袖先にフリル、スカートの中にドロワーズが仕込まれた、フリッフリの浴衣である。薄いピンクの生地に、帯は濃いピンクで統一感があり、足下にある黒のミュールがワンポイント。
 可愛らしさ重視の浴衣だが、レミアは見事に着こなしていた。生地を映えさせる真っ赤な水玉模様と、ほんのり赤い頬が妖艶さと色香を感じさせる。
「僕もいるのだー!」
「ちょっ!? 離しなさい!」
 次に飛び出してきたプレシアによって、その空気は霧散した。背後からレミアへ抱きつき、周囲などお構いなしに騒ぐ様子は、まるで歳の近い姉妹に見えた。
「E-f3型は『可愛らしさ』の追求だそうだ。ライヴスを注入すればスカートが鉄壁の防御を得、着用者の尊厳を死守するらしい」
 なるほど、プレシアを引き剥がそうと暴れるレミアだが、二人の聖域は全く見えない。中のドロワーズが完璧に視界を遮っていた。
「……む? あの浴衣、デザインが異なっておらんか?」
 微笑ましい光景に和む場の中、カグヤは浴衣の違和感に気づく。プレシアの浴衣には赤い水玉模様がないのだ。主任や研究員たちも気づいていたが、特に指摘されなかった。

●浴衣試験
 次の浴衣試験だが、今回は男性も混ざっている。
 拓海は白黒浴衣で参加し、緋十郎を心配そうに見やった。彼の隣には、実は浴衣紹介で姿がなかった緋十郎。
 共鳴状態で主体が緋十郎なのは、彼の非常に強い感情の昂ぶりが原因。濃紺の浴衣には赤い斑点が大量にあり、鼻先もちょっと赤い。変態紳士が極まった結果だ。
「次は何をする?」
 途中で寝ていたクーと共鳴し、藍色の浴衣を着たカグヤは主任へ視線を向けた。
「君たちには素手で組み手をして欲しい」
「武器は使わないんですね」
 紫色の浴衣を着た倫は納得し、礼装剣・蒼華を幻想蝶に戻した。
「こ、これなら何とか」
『着物はいいけど動きにくいー。丈をもっと短くしたらいいかも! 動くのに邪魔にならないくらいに♪』
 優牙はプレシアの浴衣ドレスを纏った。早く運用試験を開始しないと、英雄によって優牙の尊厳が失われそうだが。
「数は半端だが、適当に動いてみてくれ」
 組み手が始める。自然と男女に分かれ、それぞれ浴衣の性能を確かめながら動く。
「この方が戦い易いですね」
 開始早々、違和感から片肌を脱いだ拓海は腕を振り、仕切り直して緋十郎へと向かう。
「僧帽筋から僧帽筋の流れ、……ガシッとしてる。さすがだ」
 拓海は緋十郎の肉体を間近で観察しつつ、繰り出す拳打を捌き、データ解析は続いていった。

「では、残りの虫除け効果も検証したい」
 しばらくして主任は次の試験に移ろうとした。エージェントたちは立っているだけでいいとされ、横一列に並び直す。
 そして、研究員が持ってきたのは虫かご。その中には、大量の蚊が。
「おいまさかっ!」
「では、試験開始」
 察した愁治が止めようとするも、遅かった。全ての蚊が飛び散り、ブーン! と不快な音が立てて室内の人間に襲いかかった!
 ただし、浴衣装備のエージェントたちには一定距離から近づこうとせず、狙われるのは愁治や研究員たちばかりだった。
「よし、データ計測終了。全員、ご苦労だった」
 数分後にデータ収集は終わるが、未だ蚊の勢いは収まらない。そこで動いたのがヘンリカだった。ものすごいスピードで蚊を捕らえ、次々と駆逐していく。こっちの掃除は得意らしい。

●試験後
 最後に、全員に評価用紙が配られた。
「うう、評価と言われても女性物ですししずらいですよー。どれも僕にとっては恥ずかしかったのです」
「僕は面白かったのだ!」
 優牙は真剣に向き合うが、冷や汗が流れっぱなし。隣のプレシアは適当に記入し、後は出すだけになっている。
 一方、倫とノエルは評価を記入後、浴衣AGWを報酬として交渉するが、やはり未完成品は無理だった。
「あれ、足が……? はっ! 下駄や草履もAGWということは、ダメージが……?」
「わたしはそこまで痛くはなかったですけど」
 その後、足に軽い痛みを覚えた倫は、浴衣AGWの欠点に気づく。ノエルは足袋を履いた上での草履だったため、痛みはほぼなかったようだ。
「でも楽しかったですねー。今度、浴衣でお祭り行きましょうね!」
「そうですね!」
 とはいえ、純粋に浴衣を楽しんだ2人に不満はなさそうだった。
「太股だ筋肉だと萌えてたけど、胸サイズは拘りないの?」
「……うーん、強いて言うなら手の平サイズ、こうすっぽり納まる……」
 メリッサと拓海の話題は胸に移り、拓海は手で形を作って表現した。
「……それ前彼女?」
「つぁ! 良いんだよ! 好きな子に付随して来るだけでサイズとかは!」
「そうね、拓海だとAGWは見た目以上に性能重視って事ね」
「くぅ……、見た目は大事だがそれ以上に相性……いや、実用性だっ」
 持論を言い切った拓海を、メリッサは微笑み楽しそうに眺めていた。
「さて、評価じゃが、全くダメじゃ!」
「何!?」
 その中、カグヤはすぐに主任へ現実を突きつけた。
「性能など、共鳴状態というだけでこの程度の効果はある。勉強し直せ!」
「うっ!」
「好感度じゃったか? 生憎、わらわは水着といってもウエットスーツ派じゃし、浴衣もどれも趣味ではない!」
「ぐぬっ!」
「有用性は論外じゃ。そもそもAGWというのが使いにくい原因じゃ。共鳴状態で形態変化する者が多く、特殊状況で使用出来る可能性が低い。非共鳴時の形態変化のない時の変装として使う方がずっとよい!」
「ぐはあっ!!」
 容赦ないダメ出しの乱打を浴び、主任はその場に崩れ落ちた。
「とはいえ、基本的に戦闘にしか使えないAGWの方向性としては面白い。今回は残念な発想じゃったが、例えば要人警護用のバトラー・メイド服型や、医療部隊用に白衣・ナース服など、別の方向性で挑むのはどうじゃろうか?」
「はっ! その話、詳しく聞こう!」
 が、すぐさま降りてきたフォローに即復活。こうしてカグヤは見事彼らの懐に入り込み、隙をついてデータを盗み出すことに成功した。持ち帰ったデータに有用な技術はなかったが。

 そしてカグヤの評価を裏付けるように、後に『特開部』の水着・浴衣AGWの開発は完全に凍結された。報告書を上層部に提出したところ、「真面目に仕事しろ!!」としこたま怒られたからだった。仕方ないわな。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535

重体一覧

参加者

  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 果てなき欲望
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