本部

【神月】連動シナリオ

【神月】終末の毒がその地を走る

星くもゆき

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/28 20:56

掲示板

オープニング

●放たれる毒

 アル=イスカンダリーヤ遺跡群が戦火に見舞われている頃、セラエノも己が欲を果たすために独自に動きはじめた。
 遺跡群に密かに設えられたセラエノの拠点では、ジブリールに連れられた3人のセラエノメンバーがリヴィアのもとを訪れていた。やや落ち着きの足りないうら若き少女に、学問の徒とは思えぬほどの巨躯を持つ壮齢の男、そして深い顔の皺から年季を感じさせる中年の男。リヴィアは3人を静かな微笑みで迎えた。
「お話はすべてうかがいましたわ。なぁんて心躍るんでしょう。世界がぶっ壊れるサマをこの目で観測できるだなんて!!」
 ブロンドの少女――マリーズは内側からあふれる歓喜を隠そうともせず、その場を弾む足取りで歩き回る。
「それで、俺たちに何をしろと言うんです? 短剣を抜いて次元崩壊を引き起こすという方針は確認しましたが、具体的には?」
 くぐもった低音がリヴィアに問う。巨躯の壮年――デメトリオは隣ではしゃぐマリーズを無視して、話を進める。
 計画の概要はすでにジブリールから説明を受けていた。現在の異世界の門は極めて不安定な状態にあり、楔となっているであろう短剣を引き抜けば次元崩壊を引き起こす可能性がある。それを観測できれば20年前の世界蝕とは比較にならないデータが収集できるだろう。
 すべて仮定の話ではあるが、この場で試さない理由などあるはずもない。
 リヴィアはアル=イスカンダリーヤ遺跡群の地図を広げて3人に見せながら、説明を始めた。
「今、私たちがいるのは中央南西……この辺りね。あなたたちにはそれぞれ散って、短剣を引き抜いてきてもらいたいの」
「H.O.P.E.と愚神がやりあうこの広い戦場で単独行動というわけですか……肝が冷えそうですな」
 地図上に指を走らせたリヴィアに対して、中年の男――コステロは胸に手の平を当てておどける。
「辞退しても構わないわよ?」
「とんでもない。この機を逃したら、次はいつチャンスが巡ってくるかわかりませんからな」
「私には断る理由なんてありませんわ!」
「同じく」
 仰々しく礼をして受諾の意思を示したコステロに続いて、マリーズとデメトリオもそれが当然と言うようにためらいなく承服。流石にジブリールが選んできただけはあるということだろう。
「次元崩壊を引き起こすにしても、恐らく短剣を1本抜く程度ではあれの均衡を崩すことはできないわ。より多く、そして効率良く。近い祭壇よりもそれぞれ遠い祭壇で引き抜いたほうが包括的に門を崩すことができるはず。だから――」
「四方に散って、短剣を抜く」
 リヴィアの言いかけた答えを、デメトリオが代わって言った。マリーズとコステロも言われずともわかっていたのだろう、2人とも同時に頷いた。
「そう、4本も抜ければ充分でしょう。もっと人数があれば4つに戦力を割くこともできるけれど、現状では難しいし、大きく動けばせっかく相争ってくれている連中に感づかれる可能性がある。それゆえの少人数よ、わかってくれているわよね?」
 問われた言葉に、マリーズたちは再び頷く。次元崩壊が起こされれば周囲一帯の者たちの命は無事では済まないはずであり、H.O.P.E.はもとより、知られてしまえば愚神からさえも妨害されてしまうかもしれない。ならば両者の戦闘に乗じて潜行、漁夫の利を得るのが賢明だ。
「しかし私の記憶が確かなら……H.O.P.E.とはマスター・ナイご自身が停戦の約定を結んだはずではなかったですかな? 彼奴らも巻きこむ形になるのでは?」
「そうね、不幸な事故になるわ。でもこちらが、H.O.P.E.はそこにいろと言ったわけでもないのよ。私たちは実験を行うだけ……それが停戦に背くことになる?」
 悪びれもせず、ほくそ笑むわけでもないリヴィアの返答。コステロは肩をすくめて笑い、それ以上は訊かなかった。
「どの短剣を抜けばいいかはわかっていますの?」
 両者のやりとりを暇そうに聞いていたマリーズがリヴィアに問う。
「推測の域は出ないけれど、一応はね。計算にだいぶ時間をかけてしまったから、残された猶予は少ない。すぐに向かってもらうことになるわ」
 皆既月食の時が過ぎつつあり、門の力は弱まっていた。徐々に閉じられ、力は弱まって安定しはじめているのだ。完全に閉じられずとも、出力が一定の閾値を割れば次元崩壊は起こせない。セラエノが割り出したタイムリミットは、残り1時間弱。しくじっても仕切りなおしの余裕はなく、これが最初で最後のチャンスだった。
 宿願たる真理の解明へ、リヴィアは3人の精鋭に行く先を命じる。
「マリーズはティファレトを」
「お引き受け致しますわ」
「デメトリオはゲブラーを」
「お任せを」
「コステロはケセドを」
「引き抜くだけなら楽な仕事ですな」
「私はダアトを回収する。手抜かりのないようにお願いするわね」
 目指すは終末の到来。次元崩壊の夢を抱き、混迷の戦場に毒が落ちる。

●奴らを逃すな

 遺跡群の中央南西。オペレーターから緊急の要請を受けたエージェントたちはそこに参集していた。見たところ戦いの勢いはここにはあまり及んでいないようだ。
「考えたくもないですが……プリセンサーが遺跡群一帯が崩壊する未来を観測しました。崩壊というよりかは、何というか……丸ごと異空間に飲みこまれると言ったほうが正しいのかもしれません。皆さんにはそれを何としても食い止めて頂きたいのです!」
 経緯を説明するオペレーターの声からは焦燥感が滲んでいる。愚神の対応に追われる中での大災害の予知なのだから、落ち着いていられるわけもなかった。
 駆け足で任務の概要が伝えられる。止めるべきはセラエノ、彼らは祭壇の短剣を引き抜いて異世界の門を不安定にさせ、世界蝕のような次元崩壊を引き起こそうとしている。セラエノが狙う短剣は4本で、2本以上が引き抜かれれば危険な状況になる可能性が高いらしい。
「セラエノはその一帯から4方向に分かれて動き出します。遺跡の北部、中央、南部と北西です。セラエノの誰がどこに向かうかも判明しているのでデータをお送りしておきます。なおリヴィア・ナイが動くのも確認されていますが、こちらは相手にするのは避けたほうが良いかもしれません……」
 任務の性質上、H.O.P.E.側は戦力をいくつかに割かなければならず、その状態でリヴィアを相手取るのは得策でないだろう。そこは切り捨てて残る3人を止めることに尽力したほうが、次元崩壊阻止の可能性が高いことは確かだ。
「その一帯の外は大規模な戦闘が起きているため、セラエノに潜まれたら見つけ出すことは困難です。彼らを止めるには、そこを抜ける前に捕まえなければなりません。最後の防衛戦として……次元崩壊の未来を防いで下さい!」

解説

※プレイングに『敵のうち誰に当たるか』を記しておいて下さい。

■クリア目標
次元崩壊の被害を防ぐ

■敵情報

・マリーズ(生命適性・バトルメディック)
遺跡中央に向かう。槍や盾を装備。
高タフネスの少女。エージェントと遭遇しても持ち前の生命力を生かして、中央に抜けるまで突っ切ろうとする。

・デメトリオ(攻撃適性・ブレイブナイト)
遺跡南部に向かう。剣や弓を装備。
高い攻撃力を誇る戦士。前に立つ者は蹴散らして進むつもりだが、臨機応変に対応する冷静さもある。

・コステロ(回避適性・シャドウルーカー)
遺跡北部に向かう。銃や投擲武器を装備。
エージェントを出し抜いて、北部に抜けることを狙う。移動力が高いので注意。

精鋭はいずれも高レベル帯の能力者。
全員、隙あらばエージェントを置き去りにしてしまおうと考えている。


・リヴィア(????・ソフィスビショップ)
遺跡北西部に向かう。
戦闘非推奨。説得できれば精鋭3名もまとめて止められるが、極めて難しい。

■フィールド
遺跡群内のとあるエリア内。
市街跡。建造物の名残の壁がいくつもあり、身を隠す場所は多い。

■状況
・PCは予め、いずれかの敵を待ち受ける形で配置できる。
・敵をエリア外に取り逃がせば、その敵はそのまま目的の短剣を引き抜いてしまう。
・抜かれたのが1本までなら次元崩壊は起きない。

■その他
特に何かプレイングをかけなければ、セラエノ精鋭たちは『生命力がゼロ=無力化』として扱います。

リプレイ

●遊興

 ダアトの祭壇へとなだらかに上っていく道。
 カグヤ・アトラクア(aa0535)は1度来たことのあるその場所で、リヴィアが来るのを待っていた。“友人”と戯れるために。クー・ナンナ(aa0535hero001)は何も言わずに共鳴済み。
「門の複製ではなく破壊を選ぶとは、真理の探求者とは面白いのぅ」
 セラエノの企みに感心し、愉快そうに笑っていると、そのうち見覚えのある影が道の向こうから歩いてくるのを発見した。
 リヴィアだ。カグヤが彼女の顔を認めると同時に、リヴィアもカグヤに気づいた。
 カグヤの足元にはシャベルとロケット砲が無造作に転がされていた。そして飛行して通過することへの牽制として重機械弓インドラを手にしている。実際には何も施してはいない。
リヴィアがゆっくりと歩いて近づいてくるのを見て、カグヤは盾に持ち替える。
「おや奇遇じゃな。この先は防衛の為、手製の地雷と落とし穴があるから通行止めじゃぞ」
「そのようね。通らせてもらうけれど」
「急ぐこともないじゃろ。手紙も預かっておる、“愚か者”からのな。ゆっくりしていくがよい」
 互いに手の届く距離まで接近すると、カグヤは構築の魔女(aa0281hero001)からの手紙をリヴィアに渡した。
「マメなのね、彼女」
 封を開けながらリヴィアが言うと、カグヤは無言で肩をすくめた。
 構築の魔女の手紙には、リヴィアを咎める言葉はなかった。求める願いのために迷いなく手を染めているかと確認を置いた上で、尋ねる。
『セラエノ……リヴィアさんはナイ博士を殺すこともいとわないのでしょうか?』
 現状と20年前の世界蝕を引き合いに出し、後者も人為的だったのではないかということを提示していた。
「……想像力がたくましいわ」
 一言だけ漏らすと、リヴィアはカグヤに手紙を返した。
「返信はせぬのか」
「文通はしないことにしているの」
 わざわざ付き合うつもりはない。リヴィアの簡潔な返事がそう告げていた。
「ふむ、では本題じゃ」
 カグヤは顔に出来る限りの健全な笑みを浮かべた。
「そなたは友人であるわらわに門の観測データを届けに来てくれたのじゃろ? 停戦状態で助けてくれるとはありがたいのぅ」
 リヴィアが呆れるように頬を緩めた。暗に「大人しく帰れ」と言っているのはわかっている。
「そなたよりわらわが優れている点を一つ気付いたのじゃ。そなたは知ることで終わりじゃが、わらわは知識を人が扱える技術にまで昇華させ、未来を築く。門の収束データを取らねば、門の複製が叶わぬではないか」
 腕を組み、不遜に。カグヤは到底説得とは思えない言葉を並べる。そもそも最初からすんなり相手が聞き入れてくれるとは思っていなかった。だから己の意思を告げることを優先した。
「つまりはデータ寄越せ。わらわを手伝え。自力で門作れ」
 ド直球の言葉に、リヴィアは小さく声を出して笑った。欲望に忠実なカグヤの姿が、リヴィアには好ましいのだ。
 だがすぐに表情をフラットにすると、何も言わずに魔導書を取り出した。戯言はここまで、と宣言するように。
「戦いではなくこれは遊びじゃぞ」
 盾を構えなおし、カグヤはあくまで停戦継続を主張。
 全力で臨む時間稼ぎ――カグヤ曰く“遊興”が始まった。


 数分後、そこには一敗地にまみれたカグヤの姿があった。
 カグヤは持ちうる限りの力を尽くしてリヴィアに“嫌がらせ”を仕掛けたが、進撃するリヴィアを止めることはできなかった。カグヤはこと遅滞戦においては並外れた実力者だったし、実際に大抵の能力者では彼女を越えることなど不可能だろう。
 だが、相手が悪かった。防備に徹するカグヤを相手に、リヴィアは魔力の乱打とでも言うような苛烈な火力でもってねじ伏せた。
「あなたの人柄に免じて、命までは取らないわ」
 そう言い残して、白衣の魔女は祭壇へと消えた。
 カグヤは倒れたまま黒い空を見ていた。

 その顔には、こみ上げる愉悦が浮かんでいた。


●袋のネズミ

 北部に向かっているコステロを迎え撃つ志賀谷 京子(aa0150)は地形の下見を済ませて、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と戯れに会話をしている。
「真理の探求はわたしだって興味があるよ。そりゃあ楽しいんだろうね」
「だからといって認められはしないでしょう」
「自分で世界を崩壊させるのは無しかな。まあ、価値観の違いは何ともしがたいな」
「ええ。無理に押し通すというのなら、わたしたちはそれを止めなければなりませんね」
 京子はセラエノの理念にある程度の共感を抱いてはいたが、同時に彼らとの線引きもしていた。観測のために誰も彼も丸ごと巻き込んで次元崩壊を引き起こすと言うのなら、潰すしかなかった。彼女は自由を尊重するし、特に正義を語るつもりもないが、今回はさすがに見過ごせない事態だった。
「待ち伏せられる、というのはこちらの優位ですね」
 京子に背後から声をかけたのは、構築の魔女だ。すでにパートナーの辺是 落児(aa0281)との共鳴は済ませている。
 彼女らは奇襲の準備を滞りなく済ませていた。服装も光など反射しないよう調整、周辺の地形の把握。待つ側の優位を最大限利用するつもりだった。
「待ち伏せがあろうとも彼らは目的地は替えられませんからね」
「罠でも突っこむしかないっていうのは辛いね」
 京子が悪戯っぽく笑うと、構築の魔女も頷いた。
「その代わりと言いますか、相手はわざわざこちらを攻撃する必要はないですから全力で逃げられないように注意しなければいけませんね」
 目的が違えば戦術も変わる。彼女らは相手を止めるために倒しにかからねばならないが、セラエノは相手を倒す必要はないのだ。
「意表をつかれたり置き去りにされないように留意をしなければ」
「足の速さでだって、そう負ける気はしないけど……」
 先行を許さぬよう京子は入念に備えているが、それでも上手く事が運ぶとは限らない。アリッサは念のために京子に一声かけておく。
「油断せず、わたしたちの持てる手管を尽くして立ち向かいましょう」
「うん、そうだね。魔女さんもよろしくね!」
「ええ、とにかく短剣を護りましょう」
 その時、遠方に動く影を見つけた。こんな場所を通る者などセラエノ以外考えられない。京子はアリッサと共鳴して壁の上に跳び、構築の魔女も身を隠して『愚者』の名を冠する二挺拳銃を構えた。
 まずは長距離から初撃を喰らわせる。うろたえたところを一気に沈められればベストだ。
 影が近づく。身のこなしから、あれがコステロだという確信を得ると、2人は最初の一射を放った。
 機先を制した構築の魔女の銃弾がコステロを捉えると、続けざまに京子のテレポートショットが命中した。狙い済ました一撃は敵に強烈な印象を植えつける。
「……ッ! H.O.P.E.ですか……」
 連続被弾。迂闊に進めないと判断したコステロは直角に進路変更、立ち並ぶ壁の裏へ隠れようとした。しかし地形は把握済み、2人はコステロの進む先に射撃して威嚇する。
「こんなときにどこへ急いでいるのかな?」
 獲物を追い立てる狩人のように、京子は次々に弓を引く。彼女の攻撃にコステロの意識は奪われ、おかげで構築の魔女の射撃への対応が疎かになる。精密射撃に長じた彼女らはコステロにとって天敵と言って良かった。
 迷い込んだ老ネズミが射手2人に追い立てられて、その場は一瞬にして無情な狩場へと姿を変えていた。
「おやおや、何のつもりでしょうか? 確か我々とH.O.P.E.は停戦を結んだばかりと記憶しているのですが……」
 劣勢を意識したコステロは、物腰柔らかく告げて2人を揺さぶってくる。停戦を破るのか、と暗に脅しをかけてきたのだ。だがそんなものが通用するはずもない。
「もちろん把握しています。ですがすべてを認めるわけにもいきませんので」
「門が崩れたらわたしらも巻き込まれるわけでしょ? だからまぁ、これは自衛よ」
 両者とも取り合わず。コステロは2人に聞こえぬよう舌打ちをすると、一足で構築の魔女に接近し、ライヴスの針を射出して脚を縫い止めようとした。しかし当たらない。
「命を取るとは言わないけれど、痛い目にはあってもらわなきゃね」
 不敵な台詞を発して、京子が矢を放つ。コステロは辛うじて避けてみせたが、構築の魔女の計算された銃撃がその先に待っていた。肩口を見事に撃ち抜かれた男には、もはや何事か策を巡らすほどの余裕も残されていなかった。
「これはっ……参りますねぇ……!」
 コステロが望みを託す最後の仕掛け。蜘蛛の巣のようなライヴスの網を構築の魔女に投げかけてその足を止めると、防衛線を抜けようと、力強く地を踏んで飛び出した。
 抜いた。2人の壁を抜いて、視界に何もない荒れ野が広がった。後はこのまま駆けるだけで祭壇までたどり着ける。
 そう思った。横合いから眼前に立ちはだかった京子の姿を認めるまでは。
「抜かすわけにはいかないんだよね」
 目を剥くコステロに容赦なく、京子は振りかぶったレーヴァテインで叩き斬った。
 短い苦悶の声が上がると、痛快な一振りを喰らった男はそのまま意識を失って崩れた。
 接敵して1分も経たない早期決着。正面きって戦うには遅れを取るシャドウルーカーゆえだろう。一瞬で抜き去るか、一息に潰されるか。最初からそういう戦いだったのだ。
 待ち受けていた相手が卓抜した狩人たちだった。それがコステロの不運だった。

●猛進

「あちらの方々は望み、私達はそれを拒む……」
「……ただ、それだけの話……ただし……」
「お互い全力……ね」
 遺跡中央部へ向かうマリーズを待ちながら、霙(aa3139)と墨色(aa3139hero001)はぽつぽつと言葉を交わしている。
 アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は特に感慨も抱かず待機。セラエノが勝手をやってH.O.P.E.が被害を受けようとも、それは対応できなかったH.O.P.E.が悪いのだ。今はH.O.P.E.から依頼されて、それを止めに来ているだけ。その程度の認識だった。
「……来た」
 アリスが囁くように発した。何やら楽しそうに走る少女が1人。
 すぐに共鳴を済ませ、臨戦態勢。
「まず先手を……」
 マリーズとの距離はまだだいぶ開いている。霙はライヴスの鷹を生成、その鷹をマリーズの顔面めがけて投げこむように飛ばした。
「?? あらあら、これは何なのかしら!」
 目を奪われたマリーズは、しかし顔に迫った鷹に怯みもせず、槍を振り上げて何事もなく宙に散らせた。
「まぁーったく、H.O.P.E.も働き者ですこと!」
「効きませんか……」
 敵は止まりそうもない。霙は全力で地を駆け、マリーズとの距離を詰めていく。
 霙の背中を見送って、アリスは雷上動を引き絞った。紫電の矢を目線の高さに備え、向かってくる敵をじっと狙う。彼女の役割は後方支援、更には最後の砦。抜かれてはおしまいだ。ゆえに近づかせないことを心がけ、弾幕で押し留めるつもりでいる。
「……猪じゃないんだから」
 進路も変えず、文字通り猪突猛進といった感じのマリーズへ矢を射る。鷹とは違いダメージ必至の攻撃だとは敵も把握したが、それでも彼女は足を止めない。脚を狙ったアリスの弓撃は命中せず、彼方へ紫光の線を伸ばして消えた。
 面倒な仕事になる。アリスはそう感じた。
「根比べといこうか」
 とにかく、当てる。当て続ける。アリスは射撃の手を緩めない。
「行かせません……」
「それは困りますわ!」
 向かい合い、霙が接敵。すぐさま双龍のヌンチャクを振るい、毒々しいライヴスをマリーズに叩きこんだ。
「無駄でしてよ?」
 体の不調を気に留めず、マリーズが槍を薙いだ。霙は素早く体を反らしたが、穂先はわずかに首筋を切る。
 首に軽く触れながら霙がマリーズを向くと、彼女は毒が回った状態から回復しているようだった。クリアレイを使った気配はなく、どうやら自然回復する術を備えているらしい。
「あら……バトルメディックの方ですのね……厄介な……」
 ため息をつき、霙はさも自分が不利であると示唆する。相手が油断してくれれば儲けものだが、2人の能力者を相手にしているマリーズが気を抜くことはなかった。
 遠方からアリスが断続的に放つ矢の雨に耐え、霙が振り回すヌンチャクの衝撃に耐え、マリーズは笑いながら着実に足を進めている。
「それにしても、容赦なく攻撃して下さるわね! 停戦の約定を破るなんて身勝手極まりないですわ!」
 槍を振るって霙を退かせつつ、マリーズは嫌らしい笑みを浮かべて叫んだ。
「……? 不審なヴィランがいたから、先制攻撃したまで」
 霙はわざとらしく首をかしげた。
「それに、貴女がセラエノの方かの真偽はわかりません。セラエノの方々の見分けの付け方は明示されておりませんもの。……本物のセラエノの方々でしたらこちらの求めに応じて立ち止りお話を聞いてくださいますはずですから。えぇ貴女がおっしゃる通り停戦中ですので。でも貴女は立ち止まってくださらないんでしょう?」
 言葉を継いで霙はマリーズを煽る。相手の言に惑わされなどしない、むしろ逆用して敵の性格を推し量ってやろうと考えた。
 マリーズはけたけた笑って、返答とばかりに槍を突いてきた。霙はさらりと回避。
「だって綺麗な花火が待っているとして、それを見に行かない理由がありまして?」
「あら、思っていたより欲望に一途な方ですのね」
 どうやら激して盲目になることはないようだ。もしくは、次元崩壊を見るのが何にも増して楽しみなのかもしれない。
「やっぱり面倒、縛りつけるしかない」
 機をうかがっていたアリスが、リーサルダークをマリーズに繰り出す。とっさに横に転がってかわされてしまったが、一瞬の隙を作ることには成功した。
 回りこんだ霙が体ごとマリーズにぶち当たり、仰向けに倒した。すかさずマリーズの胸めがけて紹興酒「仲謀」をぶちまけ、ウレタン噴射機を思うさま射出。固めこんでの拘束を図った。
「甘いのでなくて?」
 マリーズは力いっぱいに暴れると、ウレタンの拘束を振り払う。更に槍の柄で霙を叩き飛ばすと、そのまま戦場からの離脱に走る。アリスがその隙を見計らって撃った雷上動は、足元への威嚇どころか実際に足を貫いたが、マリーズは止まらない。
「通さない」
 雷神ノ書へ換装。アリスはより取り回しの利く武器で応戦、雷光を放った。
 だが、盾を構えたマリーズは雷撃を浴びようとも前進。勢いのままに盾でアリスを殴打する。
 二撃目の雷でも敵を止めることが叶わず、マリーズは力任せに最後の砦を突破した。
「そこで、止まる」
 最後に投げかけた支配者の言葉も効果がなく、アリスは小さく息を吐いた。
 視線の先の敵は遠く。直に戦火と夜陰に紛れてしまう彼女を止める術はなかった。

●兵を止める言葉

「……残念なことだが、もはや敵だな」
「今日に限っては……赦すわけにはいきません」
 南部に向かうデメトリオを迎撃すべく待ち受ける海神 藍(aa2518)と禮(aa2518hero001)の胸中は穏やかでなかった。セラエノの暴挙に対する小さな落胆と、大きな憤りが彼の頭に渦巻いている。
「日常は壊させない。喪失はもう十分だ」
 遺跡には藍と禮が慕う多くの仲間がいる。心優しき彼らをみすみす天災に等しきものの巻き添えにするわけにはいかなかった。
 世界を壊すなら、彼らは敵だ。
 ブレスレットに手を重ね、共鳴する。現れる女性が握っているのは青と黒の三叉槍。海の神の得物をモチーフにした2人を象徴する武器『黒鱗』だ。
 一方では、ニクノイーサ(aa0476hero001)が確認するような口ぶりで大宮 朝霞(aa0476)に話しかけている。
「セラエノってのは、H.O.P.E.と停戦したときいていたが、こいつは立派な敵対行為じゃないのか?」
「そうね。私もそう思うかな」
「この機会に、リヴィアってのを始末してしまう方がいいと俺は思うがな」
「……それを判断するのは、H.O.P.E.の偉い人達よ。私達はセラエノの企てを阻止する。ただ、それだけよ!」
 現場で動く者としての憂いは消えないが、それについて考えるべきは今ではない。彼女らに現在課せられた使命は、短剣を引き抜く者を止めることで、そこに集中すべきだから。
「遺跡が異世界に飲み込まれたりしたら、H.O.P.E.のみんなが大変な事になるわ。絶対に阻止しなきゃ!」
「ならば、やるか? 朝霞」
「もちろん。行くわよ、ニック! 変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
 共鳴もとい変身! 美しきポーズに、白とピンクで彩られたヒーロー然とした衣装。本日も『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』参上である。
 そこに、零月 蕾菜(aa0058)が割りこむように発言。
「人影が来ます。あれがデメトリオ、でしょうね」
 蕾菜が示す先を朝霞と藍も見つめる。わずかに砂煙を上げて駆けてくる巨体。あれを抜かせてはならない、と3人は気を引き締めた。
「まずは撃ちこんでみましょうか」
 そう言うと蕾菜は魔導銃50AEを構え、徐々に近づく巨体に狙いを定めた。朝霞と藍はその間に、懐に入れるまでの距離への接近に移る。
 射程内に踏みこんできたところで、蕾菜が撃った。ライヴスの弾丸が高速で銃口を飛び出し、着弾。
 しかしその位置はデメトリオの体でなく、彼の周辺の地面だ。小さく穿たれた穴を見てデメトリオも襲撃を察知したが、攻撃が外れたことを考慮して構わず進んできた。
 さらに2発撃ったが、いずれも初弾同様に地面を抉るのみだった。
(「まぁ蕾菜の狙撃じゃよくて威嚇くらいにしかなりませんね」)
 内奥から聞こえる十三月 風架(aa0058hero001)の厳しい言葉。蕾菜は早々と銃撃に見切りをつけ、クリスタルファンに持ち替えてデメトリオに向けて駆けた。
 デメトリオは射撃が止んだ隙に全速突破を図ろうと前傾する。しかしその前に、朝霞が純白のマントを翻らせて躍り出てきた。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上! ここから先には行かせません!」
 個性全開のアレンジ済みのレインメイカー、その先端のハートを差し向けてビシッと口上。杖が全長2メートルであることを除けば正統派魔法少女系ヒロイン。
「ていっ!」
 長杖を振るい魔力を放つ。ピンクのハートマークを四散させながら迫ってきた攻撃を、デメトリオは身をかがめて避けて逆に攻めかかる。
「……奇妙な奴だ!」
 横に払うように繰り出された剣を、朝霞は杖でブロック。敵が振り抜く力に弾かれる格好になって、立ち並ぶ壁にぶつかったが損傷は軽い。
「まずは数を減らす」
 デメトリオが低い声で呟いた。長剣を構えて腕を引くと、まっすぐ朝霞を貫こうと突き出す。
 刺突に耐えるべく彼女は身構えたが、切っ先は届かなかった。
 物陰に潜んでいた藍がデメトリオの突進に合わせて身を出し、横から敵の足めがけて青い穂先で薙ぎ払った。デメトリオはとっさに跳躍してかわしたが、おかげで追撃を潰された。
「こんばんは。どちらへお急ぎかな?」
 三叉槍を大きく回転させ、藍が威嚇するように尋ねた。デメトリオは黙したまま視線を藍の得物に向けている。
「良い槍だろう? 黒鱗と言う。気に入っているんだ」
「3人目か。プリセンサーとは厄介な物だ……」
 わずかに息をつくデメトリオ。状況を悲観する言葉とも取れたが、彼の表情に焦りは見えなかった。
「ところで今この遺跡にはHOPEのエージェントが集まっているのはご存じだろう? 大人なら話の一つくらい通すべきでは……おっと、好奇心に負けた子供だったか?」
 落ち着き払った様子のデメトリオを、藍が軽く挑発する。これで精神的に乱れてくれれば楽なのだが、相手は声音を一切変えずに応じた。
「生憎とこちらも忙しくてね、“連絡を忘れていた”」
 悪びれる様子もなくデメトリオは微笑んだ。
 そして、斬りこんでいた。対面して話していた藍に。
 藍は斬りこまれたら後退してブルームフレアで迎え撃つつもりでいた。だが距離が詰まりすぎていた。槍を使っていたのは、己の手の内を隠しておいて敵の虚を突くためだったが、裏目に出た。
 強烈な一撃に見舞われた。ごっそりと命を削られたような感覚の中、藍は力いっぱいに地面を蹴って後方に跳んでいた。
 目の前に迫る追撃。横合いから朝霞が割りこもうとしていたが間に合わない。
 剣が振り下ろされる。
 だが宙に舞ったのは血飛沫ではなく、扇と剣の衝突による火花だった。斬撃はすんでのところで蕾菜によって防がれていた。そのまま蕾菜は扇の表面を滑らせるようにして剣をいなすと、体勢を崩したデメトリオの腕を掴んで組み伏せようとする。
 デメトリオは身をよじって強引に腕を引き離すと、蕾菜と距離を取る。
「残念ながら理由があろうと今は部外者を通すわけにはいきません」
 透明に輝く扇を開き、蕾菜は丁寧に通行止めを宣言。朝霞からケアレイを受けた藍は後方に退き、朝霞は背後からデメトリオに迫って前後から挟むように位置を取る。
(「朝霞。戦闘経験は奴の方が上だろう。味方とうまく連携して戦うんだ」)
「了解、ニック。1人では無理でも、仲間と力を合わせれば、私でも戦えるわ!」
 朝霞と蕾菜は交互に攻撃を繰り返した。互いの攻撃が生んだ好機を活かし、互いの攻撃が生んだ隙をカバーしあう。カバーができなくとも、2人はデメトリオの攻撃でも易々とは倒れないほど強靭だった。剣を振るい続けるデメトリオの顔にも次第に焦燥感が滲む。
 対面する2枚の盾の向こうからは、藍の銀の魔弾が飛来する。そして脚を狙っているのもデメトリオは感じ取っていた。藍だけでなく朝霞や蕾菜も執拗に腕や脚を狙っている。手足が潰れれば勝負は決まりだ。
「やはり数を減らすのが第一だな」
 遠方から繰り返される藍のプレッシャーから脱するために、デメトリオが動いた。
 蕾菜、朝霞と殺陣のような立ち回りを演じながらも弓に換装。放たれた矢は、一直線に藍の心臓に走る。
「まずいな……ッ!!」
 回避を試みたが、その一矢を避けることは叶わなかった。先の斬撃で深手を負った体が耐えうる衝撃ではなく、彼らはライヴスの淡光を発しながら2人に戻ってしまう。
「ッ、海神さん!」
 呼びかけると同時に朝霞のハートが舞う。デメトリオを彼らに近づけてはならないと、取り付くように攻撃を仕掛けた。射撃後の隙を攻められたデメトリオはレインメイカーの魔力をもろに喰らう。
「……やってくれるな……!」
 痛みと負傷に顔を歪めるデメトリオ。残存体力、彼我の戦力差を考慮し、力ずくの突破に打って出る。祭壇の方向に控えていた藍はもういない。抜け出れば彼の勝ちだ。
「退けッ!」
 咆哮とともに放たれる一閃。豪快な一振りが蕾菜と朝霞を斬りつけ、わずかな突破の隙を生み出す。
 機は逃すまいと地を蹴り、デメトリオは南進を始めようとする。
 怯んでいる蕾菜の横を通りがかった時、彼は透徹した声が頭に染み入ってくるのを感じた。そして、その目からは意思が消え去っていた。
「今すぐに、共鳴を解除して下さい」
 蕾菜の支配者の言葉が、デメトリオを操る。戦いが続く中で彼女の魔力は抗えぬほど強まっていた。
「……わかった」
 ライヴスが一瞬の輝きを弾かせ、デメトリオは英雄と分かたれた。
「朝霞さん! 今です!」
 蕾菜が発した。洗脳の効果は一瞬に過ぎず、間を少しでも置けば再共鳴されて元の木阿弥だ。蕾菜と朝霞、両者が飛びかかるのとデメトリオの意識が戻るのはほぼ同時だった。
 敵が共鳴するより早く、朝霞と蕾菜が、デメトリオと英雄を押さえつけた。両者が伸ばす手を掴み、朝霞はH.O.P.E.から物資申請していた手錠をかけた。共鳴していないならこの程度の道具でも拘束は可能だ。
「もういいでしょう。降参してください」
「……わかった。致し方ないな」
 聞き分けよく、デメトリオは投降した。勝敗が決したことは充分に理解できていた。
(「この状況でここに向かわされたということはこれがセラエノの先鋭、ですか……」)
 その手を大いに煩わせてくれた男を見下ろす蕾菜の中で、風架がぽつりと呟いた。



 ほどなくして、遺跡群では不穏なライヴスの奔流が観測され始める。
 すぐに関連する情報が、オペレーターからエージェントたちに届いた。
「短剣が2本抜かれたことから、門は次元崩壊の予兆を見せ始めています……。ですが、抜かれたのが2本で済んだことで、予知した崩壊に比べると規模は小さく、発生までの猶予も生じたようです。H.O.P.E.を代表して、皆さんに感謝を」
 そう告げて、オペレーターは強い口調で続けた。
「この時間があれば大丈夫です……皆さんが作ってくれた時間は、遺跡の皆を救う時間になるはずです!」

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

  • 果てなき欲望・
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • マーメイドナイト・
    海神 藍aa2518

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • Foreseeing
    aa3139
    獣人|20才|女性|防御
  • Gate Keeper
    墨色aa3139hero001
    英雄|11才|?|シャド
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