本部

【神月】連動シナリオ

【神月?】吸い込まれた瓢箪の中で

時鳥

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/20 20:39

掲示板

オープニング

●発端
 ある日、某町でゴミ捨て場に捨てられた古い掃除機に従魔が憑依した。全てのものを吸い込むという意志だけを持った従魔が誕生し、暴れるように長いホースをくねらせてヘッドブラシを振り回す。
 ――が、しかし。同じくゴミ捨て場にあった古ぼけた瓢箪の先端を従魔が踏むと、ひゅんっ、という音ともに掃除機は瓢箪の中に吸い込まれてしまったのだ。
 従魔の被害はどこにも起こらず、その瓢箪――オーパーツが解決したかに見えた。
 だが、その様子を一部始終目撃していた男性が一人。恐る恐るゴミ捨て場に転がる瓢箪を拾い上げる。
 僅かだが瓢箪の口は空気を吸い続けており、中から小さな掃除機の動いている音がしていた。
 男性は慌てて自分とは反対側へと瓢箪の口を向ける。すると、ゴミ捨て場にあったチラシがパタパタと音を立てて飛び瓢箪の中へ吸い込まれたのだ。
 驚いた男は瓢箪を取り落とす。落ちた瓢箪の口にろころとコルクのようなものが吸い寄せられ瓢箪の入り口にピタっ、と綺麗にハマった。これがオーパーツの蓋のようだ。吸い込むような風も不気味な音もぴたり、と止まる。
 何事もなかったかのようにゴミ捨て場に転がる瓢箪。暫くその場で突っ立っていた男性だったがやっと事態を呑み込むと瓢箪をそっと拾い上げた。
 そして彼の口端が歪に歪む。まるで何かを思いついたかのように。

●最終処分場で起こる奇跡
 ライヴス・ネットというSNSにて、某日、こんな書き込みが上がっていた。
「この世界の不要なゴミを俺が全て消してやる。
これで人間が自由に出来る土地が増えるぞ。
見てろよ。明日××の最終処分場で奇跡を起こしてやる!」
 そして、次の日。その指定された最終処分場に詰まれていたゴミが一晩で綺麗に――消えた。
 大きな騒ぎとなり、インターネットではインフィニット・シングラリティ、通称インシィが行う声明の動画も上がる。
「我々は無限の特異点に突入した」
 その一言が幾度も繰り返される、ただそれだけだが、××最終処分場の出来事と関連付ける者は少なくなかった。
 数日後、また、ライヴス・ネットに書き込みが上がる。殆どこの間と同じような内容で指定されている場所だけが変わっている。
 そしてまたゴミが消える。
 この現象を不思議に思った数人が声を掛け合い、次に指定されている現場にこっそり向かってみることにした。
 ゴミを消してくれる、そんな都合のいい存在が実在するならばいいが……果たして真相はどうなのだろうか。

 予告の書き込みを頼りに日が暮れた頃、集まったメンバーは最終処分場で様子を伺う。広い、とは言っても一面ゴミの山だ。誰か人がその上を歩いてくれば何となく存在を認知するくらいは出来るだろう。
 そこへ一人の男性が何かを大切そうに抱えて現れる。彼はゴミの隙間に持ってきたものを埋めるような仕草をしてすぐ離れていった。手には糸のようなものが握られており、それが先程何かを埋めた箇所へと繋がっている。ある程度距離を置いてから男性はその糸を引っ張った。
 するとズゴゴゴゴッという音ともに周りのゴミが一斉に動き始めた。みるみる渦のように何かに吸い込まれていくゴミの山。そして――糸を回収し終え、さらに距離を取ろうと走りだした男性がゴミに躓き転倒した。彼の手からぽーんっとコルクのようなものが飛び出してどこかへ消える。すると彼の体が宙に浮いた。声を上げる前にスルッ、と男性の体は渦の中央に呑み込まれてしまう。
 メンバーたちも渦の中央への強い引力を感じていた。このままであればメンバー達もすぐ吸い込まれることは必至。
 犯人の男性は吸い込まれてしまった。放って逃げてはどこまでこの吸引力が広がるのか分からない。
 今この場に好奇心で集まったメンバーで何とかするしかない――!

●瓢箪の中
 中に吸い込まれた男は頭を横に振り辺りを見回す。
 ドーム状の天井が発光し昼間のように明るい。が、ゴミで半分以上の空間が埋まっていた。
 不燃ごみと粗大ごみが大半で、傘や陶器、タンスに壊れたソファ、スキー板や子供用トランポリンなんかも見受けられる。足場がぐらぐらととても不安定だ。
 これが、今まで彼が集めたゴミの山。決してゴミを消してくれる不思議なアイテムではなかった。
 ふと、大きな何かが男性の視界を遮った。ゴミの中から現れた、と思ったが、そうではなく、ゴミを体中につけた掃除機。
 前にゴミ捨て場で見た掃除機の何倍も巨体になったそれは、三本に増えたホースを持ち上げ、ゴゴゴゴッと雄叫びを上げた。

解説

●目的
 瓢箪の吸引を止める

●瓢箪について
 元々は何かを異空間に保存管理する為に作られたオーパーツ。
 掃除機型の従魔を吸い込んでしまったが為に蓋をとると無差別に何でも吸い込む効果が付与されてしまった。
 瓢箪の許容量は既に限界に近い為、新たにゴミが天井から降ってくることはない。
 空間奥の壁に緊急用のスイッチが設置されているものの、ゴミに埋もれて現在は見えない。

●緊急用スイッチ
 入り口からドーム状の天井をスイッチに目掛け赤い線が伸びている。赤い線を辿っていくと、四角いボタンのようなものが三つ横並び。
 一つ目、右側には縦線が二本。二つ目、真ん中には縦線が一本。三つめ、左側には五本の線が彫られている。
 それぞれ押した者を排出するボタン、生き物だけを排出するボタン、全てを排出するボタンという機能がついているが、どれがどのボタンの機能であるのかは不明。

●従魔について
 掃除機型の従魔が吸い込んだもので力を蓄え、デクリオ級へと進化した。
 外見は3メートル程の大きな掃除機からホースが三本生えており、本能のままに吸い込もうとしてくる。主にライヴスの強さに誘導される。
 掃除機のボディには吸い込んできたゴミがびっちりと固まるようについており防御力が強化されている。
 ホースを振り回したり、大きなボディで突進してくる。また中に吸い込んだものを逆に吐き出しゴミをぶつけてくることも。

●PCたちの立場とインシィの資格
 PCたちはインシィ利用者の多いSNSツールで事件を知って集まりました。現場へと足を運び男性が吸い込まれる一部始終を目撃します。
 インシィは実態のある組織ではないため、誰でも勝手にメンバーを名乗ることができます。
 インシィのメンバーを名乗っても構いませんし、無関係と断言しても構いません。

リプレイ


 瓢箪に全てが吸い込まれている最中、好奇心で集まっていたのは8組のエージェント達だった。お互いの存在にはまだ気が付いていない。ゴミが渦巻く中心点に意識が向かう。
「不思議な瓢箪ですね、あれもオーパーツでしょうか」
 紫 征四郎(aa0076)が真剣な顔でまだ吸い込み続けている瓢箪を見つめて呟いた。
「すげえな、征四郎の部屋のもいっそ吸い込んでくれりゃいいのに」
「ひ、人の部屋が汚いみたいに言わないでください!! 名誉毀損ですよ!!」
 征四郎の英雄、ガルー・A・A(aa0076hero001)は彼女の横でしれっと酷いことを言う。思わず大きな声を出す征四郎。
「ゴミが全て収まってしまったなら、人だって入れるはずです。中に入って戦いましょう」
 気を取り直して征四郎が胸元につけている幻想蝶ブローチを外して握り、ガルーへと向ける。ブローチにガルーが拳を合わせると2人の姿は溶けあい共鳴した。
 征四郎が共鳴しているのとほぼ同時、倭奏(aa3754hero001)と白瑛(aa3754)もまたこの奇怪な光景を目撃していた。
「うわっ、なんだあれ! ゴミも人も中に!」
「……臭いも凄いし近寄りたくないな」
「よし行こうシロ! 吸い込まれちゃった人も助けないと!」
 考えながら動かない白瑛に対し倭奏が立ち上がる。
「いや、ちゃんと様子を見てからにすれば」
「うし共鳴! レッツゴー!」
 白瑛が提案を口にするも共鳴をし早く瓢箪の中へ向かうよう促す倭奏。彼は飛んでいったコルクが気になるものの人命が最優先と判断したのだ。
「面白いもの……? ジャス、人が消えていったがあれは芸なのか?」
「ええーっと、事故みたいだね……。でも楽しそうだからボク達も行こうよ」
 一方、ジャスリン(aa4187hero001)に「面白いものが見れそう」と連れ出されこの場所へ足を運んでいた赤嶺 謡(aa4187)が不思議そうな顔をする。少し考えジャスリンは謡の問いに答え促すように彼の背中を軽く叩いた。彼らは軽口を叩き合い二人で瓢箪へ向かおうとする。
「まさか京子の野次馬が大当たりを引くとは……」
「ね、来てよかったでしょ?」
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と志賀谷 京子(aa0150)も二人で奇怪な光景を眺めながら言葉を交わしていた。眉間に皺を寄せるアリッサに対し楽し気な京子。
「よかったでしょ? なんて言ってる場合ですか!」
「やることはやるもの。いくよ!」
 そしてすぐにも共鳴を開始、自分たちから瓢箪の中へと飛び込んでいく。返事はいらない。西へ向かう伝奇小説の瓢箪ではなくこれはオーパーツとして実際に存在しているものだから。
 もちろん他のリンカー達もほぼ同時に事を起こしている。
 一気にリンカー達が瓢箪の傍へと飛び出して行った。近づけば彼等の体はすぐに瓢箪へと引っ張られる。吸い込まれる前にお互いの姿を目撃しただろうか。
 しかし、僅かにテンポが遅れて飛び出して行ったエージェントが2組。
「行ってみないとわからないな」
「何ともかんとも。じゃあ飛び込んでみようか!」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と木霊・C・リュカ(aa0068)はそんな会話をしつつ他に仲間がいれば通信機で連絡をとれるように、と考えていた最中だった。だが他の皆の行動が一足早く、吸い込む吸引力と飛び出す勢いのおかげで声が駆けれなかった。すぐに思考を切り替え共鳴をし、男の手から飛び出したコルクを見つけられないか、と視線を巡らせる。しかしオリヴィエが一瞥した範囲にコルクは見当たらなかった。すぐに諦め他に続いて瓢箪の中へ飛び込むオリヴィエ。
 最後に残っていたのは不知火 轍(aa1641)と雪道 イザード(aa1641hero001)だ。
「…好奇心、出すんじゃ、無かった、な」
「慣れない事はするものじゃないですね」
「…済ませて、寝る」
「はいはい」
 と、騒動の一部始終を見ながらやり取りしていた彼らだったが、自分たち以外に例の書き込みに誘われて集まった者はいないか、と周辺を確認していた為、全員が飛び込む姿を目撃することになった。飛び込んでいった中に知り合いの姿が認められたため警戒ついでにサボり……ではなく警護をしようと決め込む轍。ただ自ら飛び込まなくても吸引力は凄まじく吸い込まれるのは時間の問題だろう。ハタハタと衣服が音を立ててはためく。
 吸い込まれる前に、と、共鳴をし苦無にメビウスの操糸を通そうとしたが吸引力の影響か中々うまく操れない。すぐに考えを切り替えハングドマンを中々動かない大きな木のタンスに投げて突き刺す。
 悪あがきにしかならないだろうか、それでも轍は例のコルク。多分蓋であろう、と目星をつけたそれを探す。夜の深い闇の中で小さいコルクを見つけるのは至難の業だ。体が徐々に瓢箪へと引きずられていく。吸い込まれるような感覚の後、轍の姿は瓢箪へと呑み込まれた。ただ彼は辛うじて捉えていた。唯一まるで風の一つもないように身動きしない小さな茶色のコルクがあった方向を。


 瓢箪の中、ゴミだらけの不安定な足場。そして入り口直下、中央に鎮座する巨大なホース三本の掃除機。しかも様々なゴミが胴体にびっちりと張り付いている。掃除機特有の騒音が空間を満たしていた。
「……あぁ、なんかちょっとでも期待したのが……て気に成るな」
 その掃除機を見上げて呟いたのは東海林聖(aa0203)。
「……吸い込まれたらごみの世界に従魔が居るし……ドロップゾーン……? か……ッし、取りあえず共鳴しとくか、ルゥ」
「……そうだね、ヒジリー……」
 英雄のLe..(aa0203hero001)と共にすぐに共鳴を行うとその余波に気が付いたのか掃除機のホースの一つが鎌首をもたげ彼らの方へと向く。
(なにガッカリしてるんだ? ルゥ)
(……食べ物に変換してなくて……残念……)
(そりゃ、夢見過ぎだろ!?)
 共鳴しながらも互いに軽く会話を交わす二人。SNSの書き込みを見た時にルゥは(……好奇心……。ゴミが消える……食べ物に変えてるのかな……)と思ったため、中に吸い込まれるついのついまで楽しみにしていたのだ。ただ、そんことがあるわけはなく、入った瞬間ルゥはがっかりしたのである。
 そしてこちらはその掃除機に気が付かずホッとしている様子を見せている白瑛。
「良かった普通の場所っぽい。恐竜とかいたらどうしようかと」
(どんな想像力だよ。それにしても……悪趣味なアトラクションみたいだ)
 白瑛の呟きに倭奏が内からツッコミと自身の感想を零す。そしてやっと白瑛も大きな掃除機に気が付いた。
「……恐竜じゃなかったけどなんかいるよ?」
 まぁ、ちょっとシルエットだけなら恐竜に近いものかもしれない。
(なんか強そうな掃除機だな! お兄さんは危ないからすぐに回収!)
 その倭奏の指示に白瑛が辺りを見回し例の男性を見つけるとそこまで全力で駆け出す。男は巨大な掃除機を見上げてあわあわと震えているばかり。
「わたしたちもまたインシィのメンバー! ただちょっとキミはオイタが過ぎたね。隅っこに隠れてるといいよ」
 白瑛が男に駆け寄る途中、京子が一つ、声を掛けた。その声に聖が振り向く。京子とは同小隊である聖だったが彼女がインシィとは初耳で驚いたようだ。その聖に目掛け従魔のホースが唸る。横から振るわれるホースに吹殴り飛ばされる聖。
「っし、取り敢えずアレを倒すか…!!」
(……まぁそうだね)
 多少のダメージは負ったもののすぐに起き上がり、やる気満々に聖は構えた。
 他のホースも狂ったように荒れている。一本のホースに安定した足場をきちんと見繕いながら近づき全長85cm程の太刀、孤月を振るうのは九字原 昂(aa0919)だ。孤月に特殊なライブスを纏わせ毒のような効果を狙う。ホースの腹を切りつけるも一打目ではバットステータスの効果は得られなかったようだ。だが、そのライヴスを纏わせた孤月にホースの頭が向き吸い込もうとしてくる。注意を引き誘導する、という目的は達成されたようだった。
「なるほど、掃除機型……」
 最後の一本と対するのは征四郎。敵数と外見から能力を予想し吸い込む、吐き出す、どちらもありそうだと検討を付けると武器を盾に持ち替える。征四郎が耐えられる重量を超えているが為に体に負荷がかかり生命力が徐々に減っていくが仕方がない。瓢箪内部はできる限り傷つけないよう注意は怠らないようにし、征四郎は盾で襲い来るホースの頭部を殴る。
 一方、周囲状況の確認をしていたオリヴィエは入り口から繋がる赤い線に誰よりも早く気が付いた。その線がどういう意味なのか、今はまだ分からない。線を辿って行くと赤い線はゴミの山の下まで続いているようだった。
「あんた、連れて行くならあっちの方にしてくれ」
 男性を保護し掃除機から離れようとしている白瑛にオリヴィエは声をかけ従魔と赤線から遠い方を指で指し示す。
「あの赤い線の先、何かある。掃除機でゴミをどけられないか?」
 と、近くにいる京子、白瑛に提案をするオリヴィエ。ゴミに埋もれた赤い線の場所を従魔のホースを誘導し吸い込んだり散らしたりできないか、という作戦だ。そしてその作戦を今この場に知り合いがいれば通信機で伝えてほしい旨を告げる。掃除機の巨体とゴミの山で視界も悪く全員の姿は捉えられない上に掃除機の騒音で声も届きにくいが、通信機を使えばある程度連携がとれるだろう。
「それなら、敵の弱点は本体内部だから上部の本来掃除機のゴミパックが入っている部分を狙って、って一緒に伝えてくれない?」
 京子が弱点看破で得られた情報をオリヴィエ達に話す。オリヴィエは頷くと先程飛び込んで行くときに見かけた知り合いである征四郎に通信機で連絡を入れた。
 赤い線に気が付き、その先に何があるのか探ろう、と考えたのはオリヴィエだけではなかった。謡もそのことに気が付き、掃除機がその場所を吸い込めないか検討する。だがそこへ征四郎から通信が入った。例の二点が謡にも伝えられる。そして謡は目の前に見つけたトランポリンに目が行く。子供用とはいえしっかりとした作りだ。共鳴中の跳躍力と合わせれば本体上部まで届くかもしれない。
 すぐに駆け出しトランポリンに片足を乗せ思いっきり蹴る。共鳴時の彼の見た目から本当に鳥が上空へ飛び立ったかのように見える。
「わぁお! こんなゴミの山初めて見たよ!」
「なんで楽しそうなんだ、ジャス……。だが、使えるな」
 同じ口から紡がれる二人の台詞。謡とジャスリンの共鳴は二人が混じり合い境界が曖昧な為だ。
 上空に飛び出し本体の上へと大ジャンプした謡。そのまま落下の速度も加えて全長80cm程度の日本刀、童子切を構えオーガドライブを叩き込む。武器にライヴスが集まると同時にホースの一本が謡の方へと向いた。
「喰らえっ、手加減抜きの大盤振る舞いだ!」
 ライヴスの動きに反応したのだろうか。しかし落下速度も相まって従魔が反応する前に童子切が従魔の背に張り付いた冷蔵庫に突き刺さる。ライヴスの力を受けてか冷蔵庫が二つに割れ従魔の体から離れた。
 弱点看破を終えた京子は次の一手に入るべく全長131cmの多連装ロケット砲、フリーガーファウストG3を肩に担いで構える。
「さて、ここにロケット砲があります」
(……狙うんですね?)
「もちろん。中からどかーんっていけば、大ダメージ狙えそうじゃない? 一本ぐらい先に倒しても大丈夫だろうし」
(どうなっても、知りませんよ――!)
 楽しそうに京子はアリッサとやり取りをしながら手早く狙撃準備を終えた。ホースの吸い込み口を狙い、一気にライヴスのロケット弾を放つ。ライヴスの塊の波動にホースは自らそちらを向き大きく吸い込む。ホースの中で大きな音が炸裂する。煙を上げながらふらふらとホースの一本が揺れている。大きなダメージを与えたようだ。だが、京子もまた僅かにダメージを負う。重量が彼女の身を凌駕していた。身に余る武器は己をも傷つける。
 唯一、すぐに通信機で連絡を受けることが出来なかった昴だが、謡の跳躍により自身に向いていたホースの向きが変わったのを見逃さなかった。ハングドマンを投げ鋼線をホースに絡める。首をコントロールするようにハングドマンを操る。ホースが引かれて倒れかかるも絡まる銅線を振り払おうと大きく暴れだした。それでも外れない銅線に従魔は苛立ったのか本体のタイヤがぎゅるっと音を立て、昴に突進してこようとする。
 しかしそこへ潜伏で死角を得ていた轍がシャープエッジを投擲し従魔本体の足元崩れそうな木の棚を貫く。アンバランスな足場は一つ崩すと盛大に崩れタイヤを呑み込み本体の動きが一時的に止まった。
 白瑛は体力温存、赤い線の近くまで移動し状況を伺っている。
「あまり長くここで戦うのは危険なのです……! 出来るだけ早く片付けなくては!」
 征四郎が盾で掃除機のホースが吐き出してくるゴミの塊を防ぎながら足場の悪さを軽減するためフットガードを仲間全員にかかるように位置を変えてから放つ。全員の足にライヴスが纏わりついた。これで足場の悪さは気にしなくても大丈夫だ。
 その征四郎が向き合うホースにオリヴィエと聖は向かっていた。オリヴィエが囮になる、ならば聖はそのサポートとしてダズルソード03を構え突撃やゴミの吐き出しからクロスカウンターを使い反撃して守ろう、という作戦だ。
 オリヴィエがライトブラスターを構える。彼もまた重量が多少負担になっていた。動くたびにじりじりとダメージが積み重なっていく。吸い込み口に向かい引き金を引いた。ジュッ、という音と共にプラスチックが焼けるような臭いがする。そのままオリヴィエは赤い線に向かい誘導するように走った。
 掃除機上部に着陸した謡は本体の揺れに気をつけながらチャンスを伺う。轍の攻撃で一度動きを止めた本体に対し、一気呵成を叩き込む。
「はい、油断大敵だよ。ふふん、ボク達にかかれば楽勝だね」
「油断するなよ、ジャス」
 二度の攻撃にゴミの装甲が幾つか剥がれた時、ジャスリンが楽しそうに鼻を鳴らした。
 京子が九陽神弓に武器を持ち替え矢を放つ。テレポートショットで死角から急に矢は降り注ぎ上部の装甲を剥ぎ取った。蓋が露わになる。
 ハングドマンをホースに絡めていた昴だったが、そこへ轍がメビウスの操糸を重ねるようにホースへと絡める。そして親指で赤い線を指示し、視線をオリヴィエと聖に向けた。そこで昴も言いたいことをなんとなく察知する。ホースの方向を絡まっている銅線と糸が無理やり変えた。身動きの殆ど取れないホースは大きく吸引を発動する。ゴミの山がみるみる吸い込み口に消えていった。
 そこにオリヴィエと聖が誘導したホースも同じように吸引を始める。従魔としては挟み撃ちをしたつもりか、リンカー達の思惑通りに赤い線の周りのゴミを吸い取ってくれる。だが、近くにいるオリヴィエと聖はその吸引力の強さに抵抗するので既に精一杯で動けない。
「あははっ、本当に良く吸い込むよね。ちょっと欲しいかも」
「ジャス、キミの酒まで吸い込まれるぞ、きっと」
「大丈夫さ、ボクが飲み干す方が早いからね!」
 従魔がゴミを吸い取る様を上から見ていた謡とジャスリンがその吸引っぷりを見て楽し気に感想を零していた。
 そこに今度は征四郎が例のトランポリンを使い高く高く跳躍する。京子の攻撃で露わになっていた蓋目掛けて盾を振り下ろした。蓋にヒビが入り中身が露わになる。中には従魔のコアかゴミ袋のようなものが心臓のように波打っていた。


 掃除機が多くを吸い込むと赤い線の先に三つのボタンが姿を現した。征四郎の攻撃でコアが空気に触れた従魔は大きく暴れバランスを崩し転倒する。赤い線の近くにいた白瑛がボタンを見つけるとすぐにその前と駆けこんだ。
「とりあえず俺はボタン押したい。すごく押したい」
(あんた子供かよ……)
 主導権は白瑛のはずだが倭奏が押したい気持ちが口にまで出てしまう。それを聞いたオリヴィエと聖が顔を合わせて頷き合い。
「あんたにボタンは任せる」
「よろしくな。オレたちはあっちに集中する」
 そう言って白瑛に任せ起き上がろうとしている従魔に向かっていく。そしてスイッチの存在を通信機と掛け声で全員に共有するオリヴィエと聖。
(こんな怪しいボタン、押すしかないだろ! 強い人多いし従魔はきっとどうにかなるさ! 今はこの状況をどうにかしないとな!)
 ボタンを任された白瑛、というか倭奏はわくわくを抑えきれない感じで内心白瑛に語り掛けていた。
(……どれか迷う)
(押すなら早く)
 ボタンを前にして考え込む倭奏。白瑛がそんな倭奏を急かす。
「スイッチ、単純に考えると線の多い奴は多く排出って意味じゃないのかなって」
「ボタンの先が多いほど排出されるものも多くなるのでは?」
 ボタンの情報を聞いた轍と昴が殆ど同じようなことを言う。それを倭奏に伝えようと通信を入れた時だった。
「ん~~! こうだ!」
 と、倭奏が全部のボタンを危険も省みずポチッと押した。するとゴゴゴゴッと掃除機の騒音さえ掻き消す音がして壁が動き出した。徐々に空間が狭まって行く。これが、三つ同時押しの効果。
 じわじわとゴミの山を押し上げて壁が中心部へと迫ってくる。この変化にはもちろん全員が気が付いた。どうにかして脱出経路を探しにかからないとまずい事態だ。
 京子がテレポーテーションでコアを矢で射貫く。とにかく先に従魔を倒してしまおう、と考えたからだ。騒音を立てながらホースを振り回しゴミを無差別に吐き散らす従魔。急所を射られ装甲が剥がれて壊れたように暴れている。そこに昴が猫騙を仕掛ける。怯んだ従魔の動きが一瞬止まった瞬間、轍がハングドマンで縫止を駆使し掃除機のライヴスを乱した。それを期に残り一気に畳みかけていく。
 聖がダズルソード03を振るい息もつかせぬ連続攻撃を食らわせると掃除機の本体にヒビが入った。一部がパリンッ、と割れる。続いてオリヴィエがブルズアイを使用しコアへと弾丸を放った。ゴミ袋がバッと弾け、s大きな雄叫びにも似た掃除機の騒音を立てて従魔の体中が割れて壊れていく。パラパラと外壁がゴミの山の上に重なっていき、吸い込んでいたゴミ達が解放されていく。
 これで従魔を倒すことが出来たが壁はまだ全員に差し迫ってきていた。更に従魔から解放されたゴミ達が沸き上がるように増えてきている。人が居られる空間が無くなってきているのだ。
「ど、どうしよう!」
 壁が動き出してからもう一度ボタンを同時押ししてみたものの止まる気配はなく焦る倭奏。ダメもとで二本線のボタンだけを押してみた。 
 するとその場にいた全員が一瞬ちょっとした浮遊感を覚える――と同時に星空の下へ投げ出されていた。
 ころん、っと瓢箪が転がっている。そしてエージェント達の他に唖然としている今回の犯人が一人、静かな夜だった。


 最初、この騒動に首を突っ込む前、聖は「愉快犯っぽいのか、知らねェが……怪しいヤツだしな。正体は確認しとくか」と考えてやってきたが、目の前の落ち込んでいる男を見てため息を逃がした。話を聞くうちに愉快犯ではなく変に正義を振りかざした輩だと分かったからだ。
「まぁでも、オレ等に協力的な愚神や、こういう技術が確立できりゃ……世の中のごみ問題とかは解決するのかもな。着眼点はスゲーと思うし……いっそ、そう言う研究者になったらどうだ?」
 と、落ち込んだままの男に思ったことを言い放つ。ほんの少し男性は気持ちが軽くなったのか顔を上げる。幻想蝶を持っているならゴミの山を回収したらどうだ、と言おうと思っていたが今回はどうやら一般人だったようだ。従魔が中に入っていたからこそ、こんな男でもオーパーツを使えたのだろう。
「まぁ、なんでも片付ける……なんて都合のいい物は存在しないだろうしね。どこかで反動が出るのも当たり前かな」
 話を聞きいた感想を続いて昴が口にした。本質を理解せず、都合の良いように解釈し扱えば恐ろしいことが起きるのは当然だ。
 そして男性を囲み色々と質問攻めにし始めたのが倭奏とリュカだ。親しみを持ってもらおうと「インシィでーす!」と元気に告げた後、倭奏は何処でコレを手に入れたのかを聞く。リュカはわくわくとた表情で
「ねぇねぇ、貴方もインシィの仲間なの? 無限の特異点って何? どこでこのオーパーツを?」
 と、一気に問いかけていた。男は聞かれるままにオーパーツを手に入れた経緯を話す。
「ふふん、どんな悪事もインシィにはお見通しだよ」
 と関係者っぽく振る舞って話に加わっているのはジャスリン。謡はそもそもインシィもよく分かっていないので妙に盛り上がってる人達を少し離れたところで呆れた様子で眺めていた。
 轍は先に聖に救急医療キットを渡して男の手当てを話しついでに任せ、最初に見つけていたコルクを再度探すように辺りを見回す。目星はついていた為、そんなに労せず見つけることが出来た。念の為、瓢箪に蓋をしておく。
 そしてノートパソコンを取り出すとSNSを確認し始めた。この騒動が例えば動画などで流れてしまってはたまったものではない。エージェントがインシィとして活動しているということが流布するのも望ましくないだろう。もしそれら危惧していたことが起こっていれば出来うる限り対処するつもりではあったが、「報告、よろ」や「wktk」などの定番の書き込みがあるだけで特に大きな変化はない。気になるのは「それでは後始末してくるのですよ」という一つの書き込み。だがそれは征四郎が来る前に書き込んだものだった。
 征四郎はスマホを開きスレッドに「後始末完了したのですよ」とコメントした。それが反映されて轍が顔を上げ辺りを見回し、なんとなく察したようだった。誰かまでは分からないが、この中の誰かなのだろう、と。後日、轍はログ解析と保存だけは行いH.O.P.E.へレポート提出。この騒動がH.O.P.Eの知るところとなり、瓢箪はH.O.P.Eに回収されることとなる。
 ほんのりと空が白んできた。もうすぐ夜が明ける。轍はぼんやりと「……早く、寝たい」と思った。
 こうして珍騒動は無事終幕を迎えることが出来たのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 清廉先生
    白瑛aa3754
    獣人|15才|男性|回避
  • 裏技★同時押し
    倭奏aa3754hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • Gate Keeper
    赤嶺 謡aa4187
    獣人|24才|?|命中
  • Gate Keeper
    ジャスリンaa4187hero001
    英雄|23才|?|ドレ
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