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広告塔の少女~スペシャルドレスを君に~
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相談卓
最終発言2016/05/27 01:59:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/24 23:26:28
オープニング
● ハッピーウエディングプランニング
最近遙華を訪ねて不思議な人物たちがグロリア社にやってくるようになった。例えばこのアリエ・トールソーもそう。
「あの……。うちはAGWを作る会社なんだけど」
「ええ、知ってますよ」
しれっとアリエは答え紅茶を一口、遙華は頭にハテナマークを浮かべ首をひねった。
「だったらなぜ、ウエディングドレスの発注を? まさか式は戦場で行うってわけではないんでしょ?」
「ええ、挙式は普通にハワイで、教会で行います」
その発言を受け遙華はさらに頭をひねる。
「だったら……」
「私、これを機にリンカーをやめるんです……」
「は、はぁ」
「もともとアルマレグナスを倒すまではと思っていましたが、先日倒されてしまいましたし」
「ああ、あなたは一度戦ったことがあるんだっけ、霊石採掘の邪魔だったから倒してもらったわ」
「ええ、その節はありがとうございます。仲間の仇をうってくれて」
「それはいいのよ……で、固執する相手がいなくなったから、切もいいしここで結婚を……そして引退。それはわかるわ、あなた体が弱いものね。大切な人とこれからの人生過ごしたいと思うのは普通のことだと思う。けどなぜうちに?」
「ウエディングドレスをつくっていただきたいのです」
「それなら普通にプランナーにお願いした方がいいわよ、私たちの会社服は作れるけど……ウエディングドレスとなると話は別だし」
「実はですね、南アメリカの某所に光る糸を吐く従魔がいるらしいではないですか。その糸を使って輝きを帯びたウエディングドレスを二着作っていただきたいのです」
その発言を受けて遙華はあからさまに嫌そうな顔をした。
「あんな複雑な物を二着、どっちにせよ専門外ね。他をあたって頂戴」
そう遙華は紅茶を飲みほし、書類片手に椅子から立ち上がろうとする。
「これ、番組企画になりませんかね」
遙華の動きが止まった。
「従魔討伐、ドレスの作成、そしてリンカーのウエディング。十分番組になるのではないでしょうか」
遙華は椅子に座りなおす。
「でもそこまでしてこりたいのはどうして? 素敵な旦那様との式を派手にしたいという理由だけだったら怒るわよ」
「私の半身に、ドレスを着せてあげたい」
「というと?」
「あの子は私ではない幸せをみつけてほしい、それがなんだかわからないけど、私とあの子の道は別たれてしまったから。そして道が別たれたとしても、私たちは常に背中を預け合った戦乙女であること、それを残したいんです」
「だから……二着なのね。わかったわ……」
遙華はスケジュール帖を開く。
「具体的な内容を詰めましょう」
● H.O.P.E.掲示板に張り出された広告。
*急募 ウエディングドレス作成に協力してくれる人募集
一緒に楽しくドレスを二着作りませんか?
作業工程は以下の通り
1 南アメリカ某所にて従魔狩り。
内容は体長一メートル程度の蜘蛛型従魔の討伐。およびその従魔の吐き出す光る糸の採取。
2 ドレスの作成。主な工程はプロが行ってくれるのでそのお手伝いですが、裁縫経験がある人は歓迎です。
3 結婚式警護
結婚式を妨害する輩がいる可能性があるので、それに対する対策です
注意、一連の内容は番組として放映される予定です
● 暗闇に輝く赤い瞳
『字名 明日葉』は打ち捨てられた倉庫の中で自身の長剣を研ぎ、一振り振って、構えた。
ぴたりと構えたままぶれないその剣、その切っ先が向かう先には男の写真。
そうそれはアリエの旦那の写真。
「私から、よくもお姉さまを!」
そのまま明日葉は霊力の流れにまかせて写真を一突き、直後あばら家が倒壊した。
瓦礫を押しのけ、らんらんと輝く太陽を見つめた。ここは荒野。件の蜘蛛型従魔が生息する地域だ。
「させない、お姉さまをたぶらかして。絶対に許さない」
明日葉は思っていた。アリエが自分を置いてどこかに、誰かのもとに行くはずがない。
だって、アリエは自分と背中を預け合った戦乙女で、太陽と月で。それはつかず離れず地球を照らす守り手のはずだ。
だからこれは何かの間違えだ、明日葉は騙されているのだ。
いや、もしかしたら愚神に洗脳されているのかもしれない。
なんということだ、そうであれば一大事。H.O.P.E.は何をしている、殺すしかない。
あの愚神を殺すしかない。
「おねええええええさまあああああああ!」
乾いた。命尽き果てる地に、明日葉の叫びがこだまする。
● 荒野にて遙華
「はい、注目!」
遙華は広大に広がる荒野の真ん中で手を挙げた。
「この広い荒野のどこかに」
そこは直線に30km程度進んでも端が見えないほど広大な荒野。さすがアメリカ、スケールが大きい。
「ここで従魔を探してもらうわ。大丈夫、グロリア社の開発した邪魔者ソナーがあるから」
そう言うと遙華はあなたの邪魔者ソナーを覗き込んで使い方の解説を始めた。
「青い点が従魔、そして赤い点が明日葉よ」
君たちの目が点になる、いま明らかに人命が読み上げられたと思ったが、一体どういうことだろう。
「ああ、明日葉の動向を逐一追っていてね。ここに来ることもわかってたからいろいろ仕込んでみたの」
つまりこうだった。明日葉が挙式を妨害してくることは予想の上、その上で泳がせてほしいというのがアリエの依頼に含まれている。
「フラストレーションって暴れて解消するのが一番なのよね。だからちょっと厳しいかもしれないけど彼女に付き合ってあげて」
* アイテムについて
1 『邪魔者ソナー』
広大な荒野で敵を探索するために使うソナー。
赤が明日葉、青が従魔、黄が仲間たち、黒が今回君たちを運んできたバスである。
2 『永久の眠りにいざなう糸巻機(ドルミールオブザデス)』
一辺一メートル程度のやや大きい箱。
全員に特殊な鉄の棒を支給するので、その棒に糸を絡めてこの箱にセットすると糸が巻き取られる。糸を巻き取っている間は従魔と綱引きみたいになることに注意。
解説
目標 ウエディングの成功。
*従魔について
体長一メートル程度の蜘蛛。イマーゴ級の中でも特に弱い代わりにたくさんいる。30体くらい。
敵が遠くにいると糸で引き寄せようとして来る。
近距離の敵にはカギヅメで攻撃する。
『字名 明日葉』 について
燃えるような赤い髪はウエーブし腰まで届く、日本人。ドレッドノート。
獲物は今回は長剣。
明日葉は二度のタイミングでことごとく邪魔をしてきます。
1 まず従魔狩りのタイミング。こちらは最初は従魔を積極的に倒しますが、リンカーからの挑発などを受けるとリンカーに怒り狂って殴りかかってきます。
どうやら明日葉が雇ったバックアップメンバーがいるらしく、ここで彼女を捉えることは不可能です。
2 結婚式当日。
愚神に戦いを挑みに行くようなフル装備で真っ向から突破しようとしてきます。
多対一でも構わず突っ込んできます、なので戦闘難易度は高くないでしょう、むしろ彼女を捉えて、落ちつける方が大変かもしれません。
彼女の頭を冷やしてやってください。
『アリエ・トールソー』
銀糸の髪を持つロシア系の女性。
今回めでたく結婚する、しかし明日葉を置いて夫の元に行ってしまうことが明日葉を傷つける行為だと理解しているので、明日葉にもドレスをプレゼントすることに。
自分が添い遂げる人はあなたではないけど、だからと言って私とあなたの絆は消えることはない。 そう伝えたい。
*番組構成について
1 従魔狩り(尺大め)
2 ドレスづくり(希望する者のみ参加)
2 結婚式警護
リプレイ
プロローグ
そのバスは砂漠をひた走っていた。運転手は『防人 正護(aa2336)』
「……最近、俺の仕事おかしくないか?」
その言葉を遙華は利かないふりをした。
ちなみにその隣には『イリス・レイバルド(aa0124)』が座っている。
フード被り、顔隠し幻想蝶を抱えてぶつぶつと一人会話を繰り広げる姿は、イリスのことをあまり知らない人間から見れば、まごうことなき不審人物である。
実際は最愛の姉とただ会話をしているだけなのだが、なんだか変な凄味があるので一人で置いておくとみんなに怖がられるのである。
「遙華さん……」
「はひ? 何かしら」
「あの時は深く考えなかったけど、愚神や従魔の素材を活用する事は……」
あ、これはまずい。そう遙華は思ったが対抗する術がない。
「奴らに《価値》を与えるってことじゃあないのかな?」
目が座っている、怖い、いつもの輝きがない。
「それはそうとアルマレグナスってボクらがボコったんだよね……これも因縁になるのかな?」
「そ、そうね。アリエと明日葉はアルマレグナス討伐作戦の唯一の生存者。あなた達は討伐者、因果関係バリバリね」
「そんな事件に巻き込まれてたのかあいつら」
そしてそのクライアントの名前に反応した『骸 麟(aa1166)』が言う。
「ん? 要するにウェディングドレス作って、最終的にこの明日葉とアリエって奴に着させれば良いって訳か。ややこしい」
その言葉に『一ノ瀬 春翔(aa3715)』は頷く。
「ほんとうにな、全く面倒くせぇヤツらだぜ……お互い全部解ってるだろうにな」
春翔は考えていた、この任務のためにまとめられた報告書や二人の評判上では、半身の心情を理解していない訳がないと。
「ま、その半身が突然サヨナラなんてのは頭で理解しててもな……」
その気持ちは理解できる。
だからこそ武器を持つ手に力がこもる。
まぁため込んだ鬱憤を晴らせば冷静にもなるだろう。
そんな希望的観測を抱いて荒野をトラックはひた走る。
第一章 いーとーまきまき
『黒金 蛍丸(aa2951)』はその手にもったソナーを眺めながら感嘆の言葉を漏らした。
「すごいですね、グロリア社はこんな物まで作れるんですか」
「さすがは遥華さんですね」
その言葉に『斉加 理夢琉(aa0783)』は頷いた。
「グロリア社、というより。これはロクトが作ったのだけどね」
遙華が答える。
「のう遙華よ。あそこに蜘蛛が群生しているところがのう。このあたりにドルミールオブザデスを設置し、おびき出してみてはどうじゃ」
『カグヤ・アトラクア(aa0535)』がテンション高めに言った。
「そうね、そうしましょう、正護頼める?」
「ああ、三分くれ。カメラの設置も少し時間がかかる」
「ソナーに、赤い反応はないわね」
『水瀬 雨月(aa0801)』はそうあたりを見渡す。
「あ。蜘蛛がこっちに来るわ」
では早速とばかりに『蒼咲柚葉(aa1961)』や『レイ(aa0632)』が突貫していく。
その中で手ごろな大きさを見つけた理夢琉はかけより、警戒して縮こまる蜘蛛に話しかけた。
「少し糸を分けてちょうだい?」
きちちち?と首をかしげる蜘蛛、その時だった。
雲はそのお尻から糸を吐き出して、理夢琉の腕をからめとってしまう。
「うわ、ととと」
その時間に入ったのは、鉄の棒を握った蛍丸。棒を器用に使い糸を絡め捕り、最後にちょきんとはさみで切ると、いっちょあがり。
「おお」
理夢琉と遙華は並んで拍手を送った。
「あ、この糸銀色してる、綺麗」
その隣ではイリスが羽をパタパタさせながら、糸攻撃を回避していた。
いつも盾と剣スタイルとはちがい、盾に鉄の棒という、ちょっと面白い恰好のイリスが、鉄の棒に糸を巻きつけていた。
蜘蛛はそれを引くがびくともしない。
「……むぅ、『中継するんだから愛想振りまけ』って言っても、手なんてふれないよ? 両手ふさがってるし」
イリスがぼやいた。
「笑えばいいんじゃないかしら」
遙華が言った。
「遙華さんから笑ってよ」
「笑ってるじゃない」
「え? ああ、そう思うならそうじゃないかな」
「つめたい!」
「遙華は人気者ね」
そう微笑みながら雨月は、イリスの背後から忍び寄る蜘蛛を杖を振って爆破した。
その向こうでは比較的穏やかではない大人たちが蜘蛛を刈り取っている。
レイは蜘蛛に糸を吐き出させると、足を銃で吹き飛ばし糸巻機にセッティング、そのまま胴体を剣で貫いて引っ張られないようにしたり。
「生かさず殺さずで苦しいだろうけど……悪いな。必要なんだ」
カグヤに至っては。
「蜘蛛♪ 蜘蛛♪」
鼻歌交じりに蜘蛛従魔を捕獲。
糸巻機にセット後、蜘蛛を踏みつけリジェネレーションをかける。
これによって体力不足で糸が切れることがなくなり、一回の採取でたくさんの糸が取れるという寸法だ。
ずるずるずるずると引きずり出されていく糸、それを見ながらカグヤは不敵に笑った、そして。
「くふふ、でかいと解剖のし甲斐があっていいのぅ。後で資料とするからきちんとカメラで取るのじゃぞ。まずこの頭胸部に脳が……」
こだまする悲鳴。糸が出なくなった蜘蛛を解体し始めるカグヤ。
カメラがスーッと引いていく、だがそれも計算通り、カメラの注意が別に向いている間にあれを実行する。
「そこまでにしてもらおうか」
その時だった、ソナーに赤い点。春翔はため息交じりに言った。
「さて……おいでなすったか」
その声に顔を上げてみると、小高い丘の上に明日葉が立っていた。
「なぜ邪魔をするのですか」
明日葉はその言葉を受け笑って見せる。
「理由は簡単、ドレスを作らせないためだ!」
「おいおい、いくら無鉄砲でも大事なパートナーの幸せが何かくらい分かってんだろ?」
「わかっているわ、結婚なんてしない方がお姉さまにとって幸せだと、私は知ってる」
春翔はたまらず首を振った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、話がよくわからん!」
「こいつは結婚に反対で、キレかかってると……なんか本当ややこしいな」
麟が一人心地につぶやき、それで問答終了と判断したのか、明日葉は刃を構え手近な従魔へと突貫。
その刃をイリスは受け止めて見せた。
従魔を守っているという状況がひどいストレスなのだろう、小さな舌打ちが聞こえた気がした。
「幸せになるためのドレスが作れなくなるじゃないですか!
理夢琉が怒る。
「ボクは明日葉さんの気持ちわかりますよ。うん、わかる、わかるし、むしろ明日葉さんと一緒に従魔倒したい」
「な?」
驚く明日葉、その背後から忍び寄るリーサルダーク、それを無事に抜け、肩で息をしながら雨月を見た。
「意外とすばしっこいのね」
雨月がくすりと笑って見せた。
「雨月、あんまり本気でやっちゃだめよ、相手は人間よ」
「大丈夫よ、遙華」
そして雨月は明日葉に向き直る。
「何だか荒れているわね。誰かに振られたのかしら?」
「ふ、振られたわけではないわ!」
もう一度剣を叩きつける明日葉、それを防ぐだけのイリス。
「きっと、私には言えない深い深い事情があるのよ、きっとそうに違いない」
全員の顔が、えーっという表情に変わった。
「なんで、私には何も言ってくれないの。いつも前線に立っているのは私なのに、ピンチの時には前にいて。その背中を見つめるしかない。私は対等になれないの? だから何も言ってくれないの? お姉さま」
イリスはその言葉に胸を痛ませた。
「えーと、明日葉か?」
麟が頭をがしがしかきながら言った。
「話聞いたがお前女々しいぜ? 女ならきっぱり諦めろよ! 男なんか……あれ? アリエってそもそも女だよな……うーん、お前なんなんだ? ちょっと説明してくれ」
かぁっと顔が赤くなる明日葉。
「この! あんたからぶったおす」
その手の長剣を振りかぶって、渾身の力で叩きつける。それを麟は回避した。
地が割れ。砂埃が舞う。
「なんで詳しく事情を聞いたくらいでキレるんだよ?? 小魚食え! 小魚!」
「カルシウムは足りてるわよ!」
麟は長剣を屈んでよけ、白虎の爪牙で足回りを牽制攻撃。
遙華と柚葉はそんな光景を尻目に黙々と糸を集めていく。
「血の気が多いといやね」
「本当にそうですね」
「落ち着けってば! 骸止水針!」
やがて打ち出されたのは縫止の針、それが突き刺さり明日葉は拘束されていしまう。
「か、体が動かない」
「いやー、やっぱり何も考えずに身体動かすのが一番だよ。ちょっとスッキリしたか?」
「くそ、私をどうするつもりだ、いっそ殺せ!」
その動けなくなった明日葉へと忍び寄る、正護。
その手に握られているロープは50センチ間隔で印が刻み込まれている。
「な、何をするの来ないで!」
それを正護は黙々と体に巻きつけていき、そして話、別の部分に撒きつけるという行為を繰り返す。そう、この行為は。
「サイズを謀っているだけだ、安心しろ」
一通り作業が終わった頃合いで麟は拘束を解除した。
ぺたんとその場に座り込む明日葉。
「85、60、87か」
「ばらさないでよ!」
「全く、武器振るってくる相手にドレス着させるなんて……」
「ドレス?」
首をかしげる明日葉。
「怪我をしているじゃないですか」
見れば確かに腕に切り傷があった、それを蛍丸は手に取ってケアレイを当てる。
「なんで、私なんか助けるのよ」
「あなたが傷つけば、アリエさんが悲しむ」
「イリスさんもほら」
柚葉が駆けてきて、イリスを回復した。
「な、なんなの! なんなのよもう!」
そう蛍丸の回復が終わったころ、勢いよく腰を上げ、剣を拾うことも忘れてもうダッシュして行った。
その背中を眺める面々。とりあえず妨害されることはなくなったはずなので、糸集めに従事できる、そう誰も明日葉を追わなかった。
第二章 どなどなどーな
「え、ソイツ持ち帰んの? ……止めねぇけど、俺ァ知らねーぞ」
そこは帰りのバスの中、全員が乗り込み出発を待っていると春翔はそれに気が付き理夢琉に言った。
「ねぇ、理夢琉」
「はひっ! なんでしょうか!」
「隣のそれ、蜘蛛よね?」
当然のごとくばれる蜘蛛の存在。
「下ろさないとダメよ」
「まぁまぁ、遙華よ。これはな一種のチャンスじゃぞ」
カグヤがフッと笑い遙華に言い放った。
「そろそろ従魔の養殖事業を始めてもいい頃合じゃし、糸の安定供給の為にサンプルで一体ぐらい構わんじゃろ」
その言葉に露骨に嫌そうな顔をするイリス。
「グロリア社は、従魔を養殖したりしません。リスク管理と、世間体の問題でね。絶対しません」
「これからそうすればよいのじゃ」
「そうです、そうです。蜘蛛に詳しいカグヤさんに生態研究してもらっては?」
「うーん、まぁ、カグヤごとその分やをうちの会社に組み込めるなら、ありかなって気はしてきたわね」
「そしてほら、これをきっかけにウエディング業界に進出、なんて」
「残念だけど、だめね」
ロクトが見るに見かねて助け船を出してきた。
「ごめんね、どうしてもだめって、上で決められてるの」
そう言われてしまえば理夢琉は大人しく蜘蛛を撃破するしかなかった。
第三章 ドレスを作りましょう
「あ、ライダーだ」
そうアトリエに入るなりつぶやいたのはアリエ、ドレスの制作協力のためにやってきたのだ。そしてそのライダーとはもちろん正護のことである。
彼はいつだれが襲撃してきても対応できるように共鳴状態で作業を進めていた。
「アリエか、カグヤが待ってるあっちだ」
そうミシンから目を離さず最低限のことだけ伝えた正護はまた布を縫い合わせる仕事に戻った。
「おお。よく来られた、アリエ」
カグヤは椅子を引いてアリエを座らせる。
「ドレスのテーマは太陽と月がいいじゃろ。糸は雌雄で色が異なるようでのう、金と銀の糸がある」
その糸で織った布を柚葉と理夢琉が差し出した。
淡く金と銀の光を帯びている。
「イニシャルなんかも入れて見たらどうかな、って思います」
「とても良いと思います。あとはまかせてもいい?」
「はい!」
「精一杯お手伝いさせて頂きます!」
普段から手芸が趣味の理夢琉は、すっかりプロの人と仲良くなり、あれやこれや教えてもらっていた。
そこに柚葉も混ざりドレスを仕上げていった。
「ちょっといいかアリエ」
制作風景を見守っていたアリエにレイが声をかけた。
「少し相談がある。明日葉のことだ」
そう言うとアリエの瞳が一瞬かげるもコクリと頷き、あちらでお話ししましょうと別の部屋を指さした。
第四章 新たなる門出
結婚式当日カグヤはアリエの試着を手伝っていた。
輝く黄金の糸で縫われた、太陽をモチーフにしたドレス、それが今回の任務でリンカーたちが作成したものだった。
「結婚おめでとう。アレは終わらせた。未来に向けて幸せになるんじゃぞ」
「カグヤさん、あなたの癒しの光、その温かさを忘れたことはありません。そして愚神討伐も、本当にありがとう。感謝してもしきれないわ。あなたのおかげで今私はここにいる」
その教会の周囲にはリンカーたちが待機していた。目の前に明日葉が、完全武装状態で現れる。
「気の済むまで付き合ってやるよ……ほら、来な」
春翔がにやりと笑う。
「なめるな!」
明日葉と春翔の刃が交差し火花が散った。
「明日葉さんのことが好きなんですね!」
蛍丸は言う。
「な! お姉さまは、お姉さまというだけだ!」
「僕にも好きなのか、どうかの答えを出さなければいけない相手がいます!」
つば是りあう蛍丸と明日葉。
「でも、答えを出したとしても、どちらにも傷ついてほしくない! そのためなら僕はどんなことでもします。それはアリエさんも同じです」
「違う、お姉さまは私を捨てて!」
「結婚式を共に祝ってほしいと思ってますよ」
「だったら!」
涙で視界が一瞬潤んだ瞬間。
明日葉の頭に水がふる、そして柚葉の平手打ち。
きょとんとする明日葉にレイがタオルをなげた。
「ごめんなさい、でも少しだけお話させてください」
「明日葉はアリエの幸せをどう思っている?」
柚葉の言葉をレイが継ぐ。
「あなたはアリエさん……自分のパートナーを信じることが出来ないんですか?」
「違う、私は、信じてる」
「アリエさんが結婚して幸せになって……そうなれば明日葉さんは捨てられる……アリエさんはそんな人なんですか?」
「違う、お姉さまはそんなことはしない!」
「違うならどうして素直に祝福してあげれないんですか! こんなことをしてアリエさんは喜ぶんですか!」
「あああああああ!」
剣を振り上げる、イリスは真っ向からその盾を受けて見せる。
「ボクはその気持ちわかります! 同じだから、明日葉さんがお姉さんと慕うような人が、ボクにもいるから」
イリスは力の限り叫んだ、想像しただけで胸が張り裂けそうなこの痛みに、今まさに直面している明日葉に思いを届けるために。
「だからその人が遠くに行っちゃうって、なったら、どうすればいいか分からないと思う。どうすればいいか分からないんだよね」
明日葉は頷いた。
「だったら、その気持ちをぶつけなよ。寂しいんだったら、遠慮せずに、文句を言ってもいいんだよ! アリエさんに!」
明日葉は息をのんだ。剣を取り落した彼女をイリスが抱きしめる
「別の幸せなんて! 幸せそのものだった人に言われたって! 戸惑うしかないじゃないか!」
涙を流してその痛みに耐える二人。
「アリエさんは……明日葉さんの幸せを願っているのに……明日葉さんはアリエさんの幸せを祝福できないんですか?」
そう言うと、その場にいるリンカー全員が彼女の行く道をあけた。
「アリエの本当の幸せ、どうすれば良いか分かっているだろう?」
そうレイは花束を手渡す。白バラ五本にブルースターが混ざった花束。
「中でアリエさんが待ってますよ、行って上げてください」
「自分の目で、一番の幸せが何か、確かめてきてください」
柚葉と蛍丸に背を押され。明日葉は力強く頷くと扉を開けた。その瞬間。
「骸幻糸鎮!」
「お姉さま、ってきゃあ!」
神父の宴台に隠れて罠を張っていた麟。彼女は明日葉を中釣りにすると笑う。
「大人しくこの服を着て貰おうか?」
「着る、着るから! 下ろしてよ! パンツ見えちゃう!」
二人はドレスに着替え。向かいあい笑いあう。
ドレスは一対になったデザインだった。
明日葉のシンボルである太陽の輝きをアリエが纏い。
アリエの優しい月の輝きを明日葉が身に纏う、そんなデザイン。
「お姉さま、遠くに行かないで、私とずっといて」
「私は、確かに結婚してしまうけど、私の妹はあなただけなのよアリエ」
「白い婚約って知っている?」
「魂で結ばれた、人たちのことをそう呼ぶのよ」
そうアリエは明日葉が持つのと同じ花束を差し出す。
白バラの花言葉は、約束を守る。
バラは五本であなたに出会えてよかったという意味を持つ。
そしてブルースターの花言葉は信じ合う心。
お互いにその花束を渡し合い、そして泣き崩れる明日葉をアリエは抱き留めた。
「生きていてくれてありがとう。元気なようで何よりじゃ。ストレス溜まったら付き合うから言うがよい」
カグヤがそう明日葉を慰め、ケアレイによる祝福の光を演出して見せた。
「結婚、おめでとう」
「ハッピーウエディング!」
理夢琉がそう手を叩くと、会場全体が沸き立った
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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