本部

吾輩はネコじゃない!

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/05/28 00:38

掲示板

オープニング

●我輩は人間だったはずである
 巨人が、椅子に座った。
 心なしか、お尻が椅子に落ちつく際に「どしん」という音が聞こえたような気さえする。そんなわけはない。というか、巨人が喫茶店のような店に昼間から入ってくることからしてありえない。そして、一番ありえないことは。
「家具の大きさからいって、ボクらの身長が縮んでることやな……」
 正義(az0013)は、茫然と呟いた。
 普通だったら見下ろすことになるはずの女性の背丈も、今は見上げるかたちにと変化している。あまりの異常事態に、目の前がくらくらしてきた。しかし、そのくせに体の方はやたらと身軽だ。高い所まで一気にジャンプできたり、足音もなく走れたりする。
 リンカーの運動能力ではもちろん可能なことばかりなのだが、なんというか言葉にできないもどかしい違和感があるのだ。まるで、今まで二足歩行でやっていたことを四足歩行でやっているかのような……。
 ふと、店の窓ガラスに移りこむ自分の姿を見て、正義は絶句した。今の今まで確かに人間だったはずの正義は、トラ猫になっていたのだ。体の一部が猫になったわけではなく、完全完璧に強面の猫である。近所のボス猫にいそうな面構えだった。
『ネコちゃん、こんにちはなのです。ネコちゃんの為に、小鳥がスペシャルなおやつを持ってきたのです! さっ、遠慮しないで一緒に食べるです』
 聞いたことがある声がしたな、と思ったら自分の英雄の小鳥(az0013hero0001)が山盛りのチョコレートとミカンを抱えてやってきたところだった。
「それ。ネコにやったら、あかんやつやー!!」
『あー、ネコちゃん! 逃げちゃだめです!!』
 正義の悲鳴は、誰の耳にもニャーとしか聞こえなかった。

●なぜならば……
「えー、今回被害にあったリンカーの皆さまの状態を説明します」
 病室で医者が神妙な顔をして、説明を始める。
 病室で眠っているリンカーたちは、いつもどおりに愚神討伐に向かい、勝利した。だが、その数時間後にバタンとそろって倒れたのである。医者が倒れたリンカーの体を調べ、HOPEが過去のデータを探したところ、どうやら時間差で効果を現す愚神の攻撃を受けていたらしいということが判明した。
「全員の脳波を計ってみたところ、夢を見ているようです。おそらくは愚神の攻撃の効果が『深い眠りにおちいらせる』ためだからでしょう。他に体に影響はなく、過去に似たような攻撃を受けたリンカーたちも共有する夢を見ただけで数時間後に目覚めているので大丈夫だと思われます」
 医者の言葉に、病室に駆け付けた英雄たちはほっと胸をなでおろした。
『ほっとしたら、お腹が空いたです』
 小鳥は、正義のベットの隣に自分のおやつのチョコレートとミカンをおいた。正義の顔が、苦悶に歪んでいることに気づかずに。

解説

・夢の中で、ネコになってお客さん(英雄)と戯れてください。
※英雄不参加の場合は、モブのお客様と戯れることになります。

・ネコカフェ……ネコになったリンカーが飼われている猫カフェ。人間の食事ができる喫茶スペースとネコと触れあえるスペースがわけられている、やや大きめの店。人間用のメニューは、コーヒーと紅茶と軽食のみ。ネコ用のおやつ(キャットフード)もある。なお、猫じゃらしなどのネコ用の玩具は無料で貸し出しをおこなっている。

・ネコと触れあえるスペース……ネコやぐらやトンネルなど、一通りネコが遊べるスペースが整えられている。一般のお客さんはいないが、他のネコはいる。

・正義と小鳥……とくに何かしない限り、正義は小鳥に追いかけ回されている。ときより、勢い余って他のお客さんや猫に激突することもある。
(PL情報――リンカー側には夢を見ている自覚はなく、味覚などは人間のときのままになっている。一定時間が過ぎれば、自然に夢から目覚めることができる。)

リプレイ

●にゃんこたちの夢
 ほかほかとした陽だまりに照らされながら、猫達は「ふにゃあ」と伸びをする。客たちはその仕草を愛でたり癒されたり、やっぱり愛でたりしていた。
 ――これは、ゆったりとした時間の流れで生きている猫たちの夢である。

「ど……どうしてこうなったの? (にゃー……にゃ)」
 硝子に移る自分を見ながら今宮 真琴(aa0573)は、茫然としていた。なぜならば硝子に映る姿は十五歳のいつもの自分ではなくて、くるっとした眼つきのロシアンブルーであったからだ。そのすらっとした体形にちょっと見惚れたが、「違う、違う」と真琴は首を振る。ふと周りを見れば、自分と同じように硝子を見て茫然としている猫たちが何匹かいる。
「なんで猫になってるんだろう……(にゃ……)」
 十影夕(aa0890)も茫然としながら呟いた。硝子に映る姿は、金色の瞳のマンチカン。可愛らしい姿なのだが、自分の姿だと思うと可愛いとは思えない。いや、今は混乱のほうが大きいのである。なにせ、これからの人生がずっとマンチカンだ。趣味の料理も出来やしないし、たぶん本や映画も見れない。
「……冗談だろ、おい(にゃ、にゃーん)」
 始麻(aa0179)も、硝子を見ながら動揺を隠せないでいた。だが、ソマリという猫になっているせいなのか動揺も困惑も表情から読み取るのは難しい。もこもことした長い毛が、元の自分の髪色と近い色が唯一の救いと言えば救いだ。
 あたりをきょろきょろしていた始麻は、なんだか見覚えのある猫を発見した。猫の顔を確実に区別できるわけではないのだが、なんとなく知り合いに良く似た雰囲気の猫だった。もしやと思って、始麻は声をかける。
「あんたは、志生なんだな? (にゃにゃ)」
 始麻のほうをくるりと振り向いた猫は、病気か怪我か片眼が潰れていた。おそらくは雑種だろう毛並みの猫だが、若い猫にはない堂々とした落ちつきがあった。
「始麻だな(なー)」
 声から、相手が古海 志生(aa0446)だということがわかった。
「あんたも、起きたら猫になっていたんだよな。わけが分からない状態だが、知り合いがいると心強いな(にゃにゃ)」
 始麻はほっとしているようであるが、志生の考えはそれよりも一歩進んでいた。彼らはHOPEより受けた依頼を完遂させ、帰路につく途中で倒れたはずである。そこでこの非現実的な状況とくれば――……夢と考えるのが妥当だろうと。そういうわけで、志生は猫の夢で努力などするつもりはまったくなかったのである。
 志生とは全く別の理由ではあるが、元に戻る努力を放棄した猫がいた。佐藤 咲雪(aa0040)である。最初こそサバトラな自分の姿に鳴きながら首をかしげたものの、いくら寝てても怒られないネコ科の生活は「めんどうくさいからどうでもいい」が座右の銘である、咲雪には魅力的だった。
「……ん、こういうの古典であったな……(なー)」
 男が蝶になる夢を見て、自分が本当に人間なのかと迷う作品であったはずだと咲雪は思い出す。もしかして、自分の本当の姿は猫なのだろうか。だとしたら、思う存分にお昼寝を楽しむことにしよう。
「……ん、お日様も気持ちい……(にゃ)」
 くわっと猫らしく大きな欠伸をして、咲雪は足音も立てずにお昼寝に相応しい場所を探していた。
 そのとき
 ――からん、からん
 とお店のドアベルが鳴った。
 その音に一番びくりとしたのは、狼谷・優牙(aa0131)だ。ノルウェージャン・フォレスト・キャットの子猫になった自分の姿をおっかなびっくり見ていた優牙は、ぷにぷにした肉球で窓をたたく。非常に愛らしい姿であったが、本人の心境としては「はふぅ、何か周囲の景色が変な感じですー。それに大きな猫さんがいっぱい……ふぇ? 猫……さん……えぇぇ!? (にゃー)」である。
『わぁ、猫さんいっぱいなのだー! 窓のところにいた、ふわもこの猫さん発見。もふもふするー!!』
 元気な声が聞こえるなと振り向くと、巨大化したプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)がいた。いつもは大人より遥かに小さな手なのに、今の優牙には物凄く大きく感じられる。プレシアはその大きな手で優牙をがっしりと掴むと、すっと持ち上げた。持ち上げられた優牙はおろおろするばかりで、なにをどうすればよいのか分からない。一応プリシアには助けを求めているのだが「にゃ、にゃー」としか聞こえていない。
『もふもふで気持ちいいのだ! お腹も尻尾も全部もふもふだー!!』
 優牙の毛並みを堪能するプリシアはご機嫌だが、優牙はハラハラドキドキしていた。プリシアの抱き方が悪いせいで、このままではお尻からずり落ちてしまうのだ。
「はわわわ! 猫の抱き方を誰かに教えてもらってぇぇ!! (にゃー)」
 落ちる、と必死にSOSを送っていた優牙に救世主が現れた。
『猫はお尻を支えるようにして抱っこをすると安心するんだ』
 シンシア リリエンソール(aa1704hero001)であった。
 見本をみせるから、といって彼女はプリシアから優牙を受け取ると慣れた様子で安定した抱っこの仕方を見せた。プリシアは「なるほど!」と嬉しそうであったが、優牙は気が気ではなかった。ちょうど胸の位置でシンシアに抱っこされているせいで、ものすごく恥ずかしかったのである。
「あわわわ! (にゃっ)」
 爪立てずに暴れてみるも、シンシアから逃げだすことができない。決して、抱っこされたときの感触が心地よかったわけではないが。
『もふもふー!』
 シンシアから優牙を受け取ったプリシアは嬉しそうに、優牙のお尻をなでなでした。
 ぞわぁぁぁ、とプリシアの毛が逆立つ。
「お尻、お尻は撫でないでくださいよー(にゃーにゃにゃ)」
『尻尾!! 尻尾』
『いやぁー、尻尾もぞわぞわしますぅ!! (ふにゃ!)』
 さんざん撫でられた優牙は肩で息をしながらも、プリシアの腕のなかから逃げだして華麗に着地をした。さすがに身が持たない、と思っていたらプリシアは無邪気な笑顔でカラフルな猫じゃらしを掴んでいた。
『次は、玩具で遊ぶのだ。いっぱい持ってきたからねー。ほーら、こっちこっちだよー」
 プリシアがそう言って、優牙の目の前で猫じゃらしをふりふりとする。
 優牙は、体中がむずむずしてきた。
「お、玩具なんかに釣られたりしない……。ああ、身体が、身体が勝手に動くんですよー!! (ふにゃ!)」
 目の前で動く猫じゃらしを両手で、ぱしんで捕まえようとしてしまう。それに気を良くしたプリシアは『ほうら』と言って、猫じゃらしを放り投げた。もう止まれない、とばかりに優牙は猫じゃらしを追いかける。
「どうして追いかけちゃうんですー!! (にゃー!!)」
 床に落ちた猫じゃらしを捕まえようとしたら、ずずっと滑った。あまりに早く走ったせいで、勢いが突きすぎて止まれなかったのである。お尻を落として摩擦を起こして止まったが、見知らぬ猫にぶつかってしまった。
「すっ、すみません(にゃー)」
「あ、あなたも猫になっているんですねー! (にゃ!)」
 思いがけず帰って来たのは、人間の言葉であった。巻き毛が特徴的なセルカークレックスの子猫は、ナガル・クロッソニア(aa3796)だった。元が猫のワイルドブラッドである彼女は、優牙たちよりもずっと気楽に今の状況を楽しんでいた。
「普段より身軽でうごきやすいなー! あっ、せっかくだからキャットタワーに登ろうかな? いつもならできないことを楽しまなきゃ!! (にゃーん)」
 ナガルは身軽な動きで、ぴょんぴょんとキャットタワーの頂上を占領した。さっきよりも随分と視点が高くなったが、自分の人間だったときの視界よりもまだ少し低い。けれども、ナガルはわくわくしていた。小さな視点は、今までの自分では発見できなかった新しい驚きでいっぱいだ。
「そうだった。優牙さんにちゃんと猫式の挨拶をしなきゃだよね(にゃ)」
 せっかく猫になったんだもの、とナガルはキャットタワーを飛び降りる。
 すると優牙の側には、新しい猫がいた。耳が折りたたまれたスコティッシュフィールドは、好奇心からかおどおどしながらも周囲を見渡していた。
「いつもとちがうのは少しわくわく……なのですね(……ん、にゃ)」
 桜寺りりあ(aa0092)であった。
「優牙さん、りりあさん、猫式の挨拶をためそうよ! お尻の匂いを嗅ぐやつだよ! (にゃ!)」
 ナガルの一言に、優牙とりりあの体は硬直した。りりあにいたっては「おし……おしり」と言いながら真っ赤になってしまっている
「あ、あたしは……キャットタワーに登ってみます(にゃ、にゃ)」
 りりあは挨拶はまた今度と言いながら、キャットタワーにぴょんと飛び乗った。ちなみに優牙は顔を真っ赤にしながら、プリシアの元に戻って玩具で遊ばれている。
「みんな、どうしたのかな? あ、ちーちゃんだ!! (にーにゃ)」
 客として店にやって来た千冬(aa3796hero001)を見つけたナガルは、自分の英雄に向かって走っていった。コーヒーを注文したばかりの千冬は、ふぅと一息ついたところだった。
 そんな彼に気がついて欲しくて、ナガルは「にゃあ、にゃあ」と鳴く。ナガル的には「ちーちゃん、わたしだよ」と言っているのだが、あいにく千冬には聞こえないのである。
 ナガルはごろんと仰向けになって、くねくねと踊り出す。「かまって! かまって!」と全力のアピールだった。千冬は、そうっと子猫に手を伸ばした。ナガルは差し出された手に爪も出さずに猫パンチし、次の瞬間には「ごめんね、ごめんね」とでも言うかのように舐めだした。気まぐれな猫の姿に、千冬の顔には自然に笑みがこぼれていた。
 軽いナガルを抱き上げて、猫と触れあえるコーナーに千冬はおもむいた。そこで、千冬は膝の上にナガルを乗せる。
「……はい、此処でおとなしくしてくださいね。せめて、コーヒーを飲む間は」
 千冬の膝は大きくて、温かい。
 こんな体験は猫にならないとできなかったなぁ、とナガルは幸せな気持ちでうとうとし始めた。
「……いいな(なーん)」
 咲雪は、膝の上で丸くなるナガルを見てそう呟いた。お日様ぽかぽかのお昼も気持ち良かったが、日光の下でのお昼寝もそろそろ飽きてきた。今度はもっと柔らかい場所で、お昼寝をしたい。
「ん……椅子とかクッションには……もう他の猫がいっぱい(なーん)」
 だったら人間の膝の上で良いか、と咲雪は考えた。
「ん……せっかくだから……柔らかい女の人の膝がいいな(なーな)」
 今は咲雪の体が柔らかいから寝床の柔らかさはあまり関係ないかもしれないが、人間だったときの感覚でやはり寝床には柔らかさを求めてしまう。椅子に座っている女性――アリス(aa0040hero001)を見つけた咲雪は、ちょこんとその膝の上に乗る。温かさといい柔らかさといい、お昼寝に最適な膝だった。
「ん……なんだろう。懐かしい……かも? (にゃ?)」
 くわぁ、と大きな欠伸をしてくるりと丸くなる。
『遊ばないの?』
 アリスがふりふりと猫じゃらしを咲雪の目前で揺らしてみても、咲雪はおざなりに猫パンチをするばかり。遊ぶよりも寝ていたい、という気持ちがよく伝わる怠惰っぷりである。
『そういえばあの子も、やる気のない猫みたいな子よね。妹みたいな子』
 アリスがふふふと微笑みながら呟くのを、咲雪はまどろみながら聞いていた。アリスに妹なんていたっけと考えたが、妹にするみたいに自分に小言をいうアリスの姿を思い出すと途端に合点がいった。
「ん……アリスは……いつでもお姉さんみたいだ(なにゃ)」
 どうせだったら、お母さんみたいに何でもやってくれたらいいのに。
 そんなことを思いながら、咲雪は再び眠りの世界へと入っていく。
 そんな咲雪の幸せな時間は『猫がいるというのはここか!!』という大きな声で一度中断された。騒がしいのは、ラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)であった。初の猫カフェに興奮した彼は店員に叱られつつも、自分よりも遥かに小さな猫に向かって手を伸ばす。
『お前は小さいな、潰してしまいそうだ、愛らしい』
 伸ばした手をぺろぺろ舐める猫。
 いきなり手をがじがじと噛んでしまう猫。
 猫パンチして、さっと逃げてしまう猫。
 猫の性格は十人十色だ。その個性あふれる可愛らしい反応に、ラドヴァンの頬も緩む。
『俊敏な奴め、良いぞ、気に入った』
 猫パンチして逃げた猫と手をがじがじする猫を両手に抱えながら、ラドヴァンは豪快に笑った。猫達は猫パンチしたり、手を噛んだりと忙しい。傍目からは、しつこくし過ぎて猫に嫌われる典型例のようになっているが。
 その様子を警戒しながら見ている猫がいた。
 雨堤 悠(aa3239)である。
 コラットという品種になってしまった彼は、部屋の隅っこに座り周囲を警戒していた。どうしてこんな姿になってしまったかもわからないし、動きまわるのは愚策だと思ったからである。尻尾をばしばしと床に叩きつけて不機嫌アピールしてしまうのは、決して本人の思うところではない。感情が尻尾に出てしまうのは、猫だから仕方がない。
『猫ちゃーん、僕とお菓子を食べるですぅ!』
「誰か、助けてや――!! (にゃ!!)」
 しかも近くでは小鳥(az0013hero001)と正義(az0013)が、追いかけっこに興じている。いるだけで騒がしい二人は、あろうことか悠が縄張りを主張していた隅っこにやって来て悠に体当たりをして逃げていった。
「騒がしい奴らだったな(ふにゃ)」
『お前……愛想のない顔をしとるなぁ!』
 気がつくとラドヴァンが、悠をじろじろと見つめていた。どうやらさっきの馬鹿騒ぎで、ラドヴァンに悠がここにいるとバレてしまったらしい。
 シャー! と尻尾を立てて警戒しているのに、ラドヴァンは大爆笑しながら悠を持ち上げる。巨大な手に持ち上げられた悠をまじまじと見つめるラドヴァンだったが、悠はたまったものではない。死ぬ物狂いで手を引っ掻いて脱出を試みる。だが、ラドヴァンは平気そうな顔をして小さくなった自分を抑え込んでしまう。
 自分の英雄は、手の皮も厚かったらしい。知りたくなかった新たな発見だな、と一瞬悠は現実逃避をした。悠を抑え込んだラドヴァンは、自分の足元にいる猫たちをおもむろに指さし始めた。
『お前と、お前と……それからお前だな、気に入った。お前ら俺様のものにならんか? ん?』
「なんで、猫をナンパするんだ!! (みぎゃ!)」
 悠は体をひねって、渾身の猫キックをラドヴァンの胸に叩きこむ。その勢いで手のなかから華麗に脱出した悠は、ラドヴァンから逃げだした。
『俺様から逃げるか! 気にいった』
 振り向くとラドヴァンが追いかけてきた。悠は顔を真っ青にしながらも、ぴょんぴょんと色々な場所に登って巨体をやり過ごそうとする。
「わっ……楽しそうです(にゃ……にゃ)」
 ぴょんぴょんと色々なところへジャンプする悠を、りりあは地上から見上げていた。高い所から高い所へのジャンプは、とても楽しそうだ。人間のときならばやろうとも思わない行為であるが、りりあは勇気を出してキャットタワーの屋上から別のキャットタワーの屋上へと飛び移ろうとする。いざ飛ぼうとすると足がすくむような高さであったが、今のりりあは跳べる、と確信していた。だって、今の彼女は猫なのだ。
「きゃ! (ふぎゃ!)」
 ところが、飛び移ろうとした瞬間にりりあは足を滑らせてしまった。十分な距離を飛べなかったりりあは、そのままラドヴァンの顔面に張り付く。
「あわわわ、ごめんなさい!(なーご)」
『んー、小さくてどんくさい猫だな』
 可愛い可愛いと頭を撫でてくれるラドヴァンにほっとしつつも、猫になっても鈍い自分に少し落胆する。悠のようにぴょんぴょんと跳ねられたら、すごく楽しそうなのに。
『おい、貴様より小さくて弱い生き物なんだ。無茶をするな』
 そう言ってラドヴァンからりりあを受け取ったのは、比蛇 清樹(aa0092hero001)であった。遊び疲れたりりあの頭や喉を優しく撫でて、彼女を寝かしつけようとようとする。
『どうした? 疲れたか? いや、あれでは疲れるだろうが……』
 うとうとしつつも、清樹の指先の匂いを嗅ぐりりあ。その様子に、清樹は注文していた猫用の菓子をりりあの口元へと持っていく。
『それは猫用だろう。大人しくこれでも食べていろ』
 ぽりぽりと清樹の手からおやつを食べながら、りりあは思う。
「たくさん動いてつかれたの。んむ、やっぱり清樹の傍が安心なの……(にゃん)」
 安住の地を見つけたりりあとは正反対に、内心焦っていた猫がいた。始麻である。頼りの志生はなんか達観してるし、他の面子にいたっては猫に順応している。いっそ店を抜けだして外に助けを求めるのもいいかもしれないと考えていると
『猫カフェ、というらしいよ。なんでも愛らしい猫が沢山居るそうだ』
『猫か……』
 物凄く聞き覚えのある声は聞こえてきた。贔屓(aa0179hero001)とその弟分の椒圖(aa0446hero001)である。その二人の姿を見てだけで、始麻はフーっと毛を逆立てる。
「何で此処に居やがる贔屓!!! (ふぎゃー)」
『どこかで見た事あるような子だな。……なぜか物凄く警戒されているけど』
 贔屓は、ひょいと始麻を抱き上げた。始麻は「離せ離せ」とひっかりたり噛みついたり、とにかく思いつく限りの反攻をした。
 椒圖は兄と話がしたくてたまらないのに、肝心の贔屓が楽しそうに猫をかまっているので心中複雑であった。そんな椒圖の側にいつの間にか、片目の雑種がすり寄ってきていた。椒圖が椅子に座れば、当然とでも言いたげに膝の上に飛び乗る。くるり丸まって椒圖の膝を布団にする気でまんまんであった。
『俺は兄貴と話しに来たんだ。あんたはどいて』
 そういって志生を抱き上げて、そっと床に降ろす。贔屓は未だに件の猫と楽しそうにしているが、すぐに自分に話しかけてくれるだろう。そんな期待をしているのに志生は、再びすとんと椒圖の膝に着地する。
『なんで、おまえは俺の膝の上に乗ってくるんだよ……』
 もう一度、膝から志生を下ろす。
 だが、志生はぱっと椒圖の膝に飛び乗る。
 椒圖が若干困っている中で始麻はとうとう後ろ足で贔屓の胸を蹴って、ぽーんと外へと腕から飛び出すことができた。
 「やった!」と思ったら首根っこを捕まえられて、ぷらーんと釣り下げられる。贔屓は、さっき始麻が暴れたせいで傷ついた掌を見せた。
『さ、君のせいで傷ついてしまったんだ。お舐め』
 贔屓は指を差し出してくるが、始麻としてはそんなことはしたくない。体は猫でも、心は人間なのだ。だが……。
「苦しい……(くふっ)」
 大人の猫の場合は首根っこを掴まれると、全体重が首にかかってしまう。軽く皮膚が柔らかな子猫ならばともかく、大人の猫の持ち方としては危険な持ち方の一つなのである。痛みと酸欠で、始麻はくらくらしてきた。
 ――この姿で殺されるぐらいだったら、大人しく舐めてやるか。
 始麻はあきらめた。
 猫に傷を舐めさせた贔屓は楽しそうで、それを横で見ていた椒圖は少しばかり拗ねたように唇を尖らせる。
『兄貴が良いなら別にいいけどさ……』
 そう呟く椒圖の膝の上では、ぐうぐうと志生が寝息をたてはじめていた。
『ネコがいっぱいる! あ、あしがみじかい。かわいいぞ、ユウみたいだ!!』
 その弾けるような元気の良い声に、夕がうわぁと悲鳴を上げたくなった。知り合いのネコたちの様子を見ていたら、いつのまにか自分の英雄がお客さんとしてやってきていたのである。シキ(aa0890hero001)は目を輝かせて夕に近づき、わしゃわしゃといたるところを撫で始めた。頭から尻尾までの問答無用のフルコースに思わず「にゃー」という悲鳴がでる。
「こいつ手加減しろよ……ぬいぐるみじゃなくて、猫飼っとけばよかった……(にゃ)」
 というか、足が短いから俺みたいというのはどういうことなのだ。
 抗議したくとも「にゃー」「にゃー」としか鳴けない、虚しさよ。
【あーもう可愛いのぅ……やわっこいのぅ……持って帰りたい……】
 隣では奈良 ハル(aa0573hero001)が、若干シキよりはソフトに真琴を撫でまわしていた。だが、撫でられるほうの悲鳴は変わりない。
「ハルちゃん! 尻尾、尻尾変な感じするから触っちゃダメ!! (いにゃ、いにゃ)」
【んむ? 気持いいのかの? どれもっとこうもふもふさせぃ】
「ハルちゃん! ボクだってば! (いにゃ、いにゃ)」
 やはり、ネコ側の言葉は英雄たちには伝わっていないようだ。
 これは苦労しそうだ、とごくりと夕は唾を飲み込んだ。
 真琴はなでなで攻撃に嫌気がさしたらしく、すごい勢いでキャットタワーに登っていく。心なしかネコなのに涙目である。
「気づいてくれないし、尻尾ヤダっていったのに! (いにゃーん)」
 もうハルちゃんなんてなんて大っきらい、とでも言いたげにシャーと真琴はハルを威嚇する。
【ねこじゃらしあるぞ~】
 だが、ハルはひらひらと真琴の目の前で猫じゃらしを振るう。体がぴくぴく反応してしまうのをひっしに抑えて、真琴は視線をそらした。こんなことで許してなんかやるもんか!
【お、ひょっとしてお腹すいてるんかのー? チョコ、はダメなんじゃったな……芋があったか】
 果たしてネコは芋を食べるだろうかと考えながらも、ネコにあげられそうなのは芋ぐらいしかない。
「……お芋よりチョコがいい(み……なーご)」
 だが、真琴の言葉は届かないしネコはチョコを食べられない。
【ん、分かった分かった。ちょっと待ってろ今やるからの】
「違うって言ってるのに……(なーご)」
 でも、差し出されればパクリと食べてしまう。はぐはぐ噛み砕いて、ごくりと飲み込んでみれば意外といける。もう一口、もう一口とやっているうちにハルがとろけたような恍惚の表情を浮かべていた。
【お、おおぉ……まためんこいのぅ……】
 ハルが幸せな気分に浸っているなかで、別の猫も幸せで興奮のなかにいた。風深 櫻子(aa1704)である。
「この姿なら、合法的に幼女の胸元に飛び込めるにゃーん(にゃ)」
 と、人間の姿だったら警察を呼ばれそうなことを考えて興奮していたのである。にやにやしながら、桜子はプレシアに狙いを定める。本日、幼女な客は彼女だけである。まずは彼女の側にすり寄って、可愛さをアピール。そして、さりげなく抱っこしてもらう。
 完璧な作戦だ。
 完璧すぎて、眩暈がしてくる。
 決して、興奮で眩暈がするのではない。
『これが天国か!! ふ、ふふふ……あの年増ロリコンから解放されて仔猫がたくさん……』
 微妙に失礼な言葉が聞こえると思ったが、突然に自分の視界が高くなった。もしや、幼女が自分の可愛さにロックアウトされた抱っこを――と思った櫻子は一瞬真顔になった。自分を抱っこしていたのがシンシアだと気がついたからである。
『んー、そんなに嫌がっちゃダメでしゅ。ほーら、ほっぺすりすり』
 赤ちゃん言葉で自分を可愛がるシンシアに、櫻子は寒気を覚えた。どうして幼女のぷにぷに頬っぺたではなく、年増の若干乾燥した頬をすり寄せられなければならないのか。もう幼女のところにお嫁がいけない、と泣きたくなる。ロリコンの壊れやすい純情を返してほしい。
「や、やめるにゃん! お前じゃないにゃん!! ハタチのババアに抱かれて悦ぶ趣味は無いにゃん!! ……ちょ、ま、らめぇ!! (にゃやーん)」
 すりすり、もふもふ。
 その日、櫻子は自分が一気に五歳ぐらい歳をとったように感じた。
 だが、シンシアはそんな櫻子に追い打ちをかけてくる。
『はーい、じゃらしでしゅよー。遊んであげまちゅねー。ほーらほら、どうでしゅかー』
 櫻子の目の前で、猫じゃらしをふりふりし始めたのである。
 幼女(プリシア)のもとにいきたのに、目が猫じゃらしを追ってしまう。櫻子は思わず神様にお願いする「年増のババアじゃなくて幼女を……もう幼猫でもいいです。チェンジしてください」と。だが、神様はロリコンではなかった。
 ぱし、と櫻子は猫じゃらしで遊んでしまう。
『楽しいでしゅねー』
「ようじょー! (ふぎゃー)」
 シンシアのご機嫌な声と、櫻子の悲鳴が綺麗にかさなった。
「……不吉な悲鳴が聞こえたような(みにゃ)」
 夕は、べろべろと毛づくろいをしながら気のせいかなと考える。
 さすがに、少し疲れてしまった。原因は全てシキである。彼ときたら、落ちつくこともしないで『こっちのねこもかわいいね!』『しっぽがながいぞ!』『みみが、ちいさい!』と店中の猫をかまい倒そうとしたのである。被害を食い止めようとしたのに『あまえんぼうさんだね』とシキに言われたときは、ショックを受けた。元人間と思われる猫に迷惑がかからないようにはしていただけなのに。
『ふう…あきたな』
 ようやくか!、と夕とシキに追いかけ回されたモブ猫たちは思った。
『どれ、おちゃとおやつがほしいね』
 シキは猫用のおやつをぽりぽり齧って、『これは、あまり、おいしくないね』と呟く。そして、なにを思ったポケットに入っていたらしい茎わかめを夕に差し出した。
『こっちはおいしいんだよ』
「茎わかめなんか食わねえよ! (ふぎゃ!)」
 と夕は突っ込みたかったが、内心は不安だった。
「えっ、どうだろう……食わない……よな……? (なーご)」
 猫を飼ってないので、そこらへんは今一不安である。
『おやつを食べないなら、おもちゃであそぼう!』
 シキは、夕の目のまで猫じゃらしをふりふりさせる。その魅惑的な動きに、夕のなかの猫の本能が刺激される。しかし、人間の理性が猫であることを拒否していた。だが、本能は猫なのである
「猫じゃないのに……猫じゃないのに……!! (にゃーや、にゃーや)」

 俺達は人間だぁ、と夕が力いっぱい叫んだ。


 夕が目覚めると、そこは病室であった。リンカーだけがベットを使っていて、英雄たちは何故か食料を持ちこみつつもそれぞれリンカーたちの目覚めを待っていた。病室に転がっていた食料はチョコに芋に茎わかめ、どれも夢に出てきたものばかりだ。
「猫を口説こうとするな!!」
 と叫びつつ、悠も目覚めた。
 どうやら、リンカーたちは全員が「猫になる夢」を見ていたらしい。医者の話しでは体には影響がないので、すぐに退院ができるとのことだった。
「皆さん、大事がなくてよかったですぅ」
 いかにも猫っぽい小鳥が、げっそりしている正義と隣で喜ぶ。
 そんな彼女を見てリンカーたちは――もしかして彼女の姿を見て猫を深層心理でイメージしていたのでは? ――と思ったが口に出さないでおいた。
 今なにか言おうとしたら絶対に
「にゃー」
 と鳴いてしまうような気がしたからだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
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