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【SE】愚神が残すは謎とクラゲと海の幸

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/06/01 14:07

掲示板

オープニング

●愚神の作る豊漁
 波が煌めく海面の下で、夥しい数の『白色』が海中を埋め尽くしていた。
 そこへ周囲から合計7体の何かが『白色』に襲いかかる。
 うち6体が蛸に似た形状でそれぞれ身体を変形させ、残る1体、人の姿をした愚神が水中を飛翔するような速度で海中を白で埋め尽くす生物達を襲い、ライヴスを収奪する。
 やがて海中にあれだけいた白い『巨大クラゲ』達は周辺海域より姿を消した。
 そして愚神は周囲に蠢く従魔達と共に、エイを思わせる異形と化した『潜水艦』に戻ると静かに海の闇へと消えていく。
 そして海中の愚神より連絡を受けた『愚神』ラカオスは、地元の漁師達に声をかけた。
「後は皆様にお任せします」
 その声を待ち望んでいた漁師達は、それぞれの漁船に乗り込み、豊漁を求めて港より愚神のいた海域へ出港していく。
 数時間後、漁師達は満面の笑みと大漁旗を掲げて港に戻ってきたが、ラカオスは漁師達よりある懇請を受け、密かに悩んでいた。

●資金に変わる収奪
 部屋のスクリーンに、ある大型クラゲの姿が映し出される。
「これが愚神集団『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達。以下SEと略)の内、エンヌという名の愚神がライヴスを収奪する対象の一つです」
 その収奪場所として、スクリーンに地方のとある漁港と沖合が示された地図が映し出される。
「この港の沖合ではこのクラゲが1月につき約4000桶以上出没して海中を埋め尽くし、漁業に深刻な打撃を与えていました。そこへ愚神エンヌがこの海域に現れクラゲ達のライヴスを収奪し続けた結果、クラゲは激減しこの海域での漁業が元の水準まで回復しました」
 担当官が知り合いのジョセフ・イトウ(az0028)に、この愚神に関する調査を依頼した結果、エンヌは人として漁を行う為に必要な技術、知識を習得し正式な手続きを経た上で合法的に各海域の漁業権も取得している事や、エンヌのライヴス収奪は漁業権が認められている範囲の海域では合法である事、そしてこの構図を構築したのは愚神を名乗る人間、ラカオスだという事が明らかになった。
 だがそのラカオスより愚神エンヌをこの地域より撤退させるとの申し出がH.O.P.E.に寄せられ、その理由としてラカオスが告げたものは、やや意外な内容だった。
「クラゲが常にこの海域で大量発生しているわけではなく、全くいない時もありますので、より恒常的に収奪が可能な海域で活動する事を愚神エンヌが望んでいるそうです」
 この海域を人の手に取り戻したいH.O.P.E.と、この海域から手を引きたいSEの利害が一致したので今回の依頼に至った次第だ。
「そしてラカオスの話では、このクラゲとこの海域の海底が、私達H.O.P.E.にとって資金源になるそうです」
 とある大学の研究チームと複数の会社が、泉津(よもつ)槐(えんじゅ)の名でラカオスより資金提供を受け、このクラゲとこの海域の海底の地質をそれぞれ調べた結果、クラゲからは化粧品や薬品に転用可能な成分が発見され、海底からは白金など希少金属と呼ばれる金属の鉱脈が発見された、との事だ。
 ただ鉱脈のある場所は海底数千メートルのところにあり、凄まじい水圧のため普通の人間はまず行けず、無人調査機が辛うじて行けるのみだ。
 しかしH.O.P.E.所属のリンカーならば、共鳴すれば海中での呼吸は必要なく、海底の高水圧も脅威にならず、海底での採掘もクラゲ捕獲も問題なく行うことが出来る。
 ここでようやく以前とある施設でラカオスの言った『リンカーならば資金源にできる話』に繋がった。
「この場所での漁業権と採掘権など一切の権利をH.O.P.E.に移譲し、研究成果や利益をH.O.P.E.のものにする為に必要な書類を揃えたので、皆様に取りに来てほしいそうです」
 ただそれらの書類はある場所に用意した金庫内に存在し、ラカオスの用意した以下の4つの問題を解かないと入手できないと、ラカオスからH.O.P.E.に届いた封筒内の手紙には記されていた。

●謎々
 スクリーンの映像が海の中に浮かぶ、とある小島周辺の海図、そして何かの構造物の見取り図に切り替わる。
「この島には人の手が加えられており、入口となる扉の奥には東西南北の四方向に配された4つの地下室があるそうです。書類はその地下室のどこかに隠された金庫の中にあるそうですが、その金庫は『鍵となるもの』を差し込みパスワードを入力しないと開かないそうです。そして手紙にある4つの問題がそれを助けるとのことでした」
 その4つの問題は以下の通り。
 1:地下室へ通じる階段前に立ち塞がる扉を開ける為の問題
『以下の7つの言葉を苗とする数字を、扉に付けられたコンソールに左から順に入力すれば扉は開く』
 あずま・いさみ・いちじく・さとる・にのまえ・わかつ・たてよこ。
「手紙にはヒントとして『にのまえを一とする』とありました。何かの読みに繋げれば必要な数字になると思われます」
 2:金庫の鍵を示す問題
『「鍵」は俳句などの文学で秋をうたう言葉を記した絵のカードキーが、その役目を果たす』
「手紙の同封された封筒の中には、4枚のカードキーがありました」
 その4枚のカードキーがスクリーンに映される。
 4枚のカードキーには絵と共に題名がついていて、それぞれ『さんかんしおん』『せんこうはなび』『いそぎんちゃく』『ふじのはつゆき』と記されていた。
「正しいカードキーを金庫の鍵の位置に差し込めば、鍵の働きをして金庫が開くそうですが、同時にこの4枚を季節順に並べれば最初の扉を開く数字が手に入ると手紙にありました」
 3:金庫に辿り着く為の問題
『4つの地下室の内、南の方角の部屋で皆様が行くと皆様は中にいて、皆様が中にいると皆様はその前にいる』
「この文章ですが、部屋にある何かを示していると思われます」
 手紙に同封された写真を調べた限りでは、各地下室はいずれもタンス、寝具、机や鏡台など一通りの家具が揃う普通の部屋とのことだった。
4:金庫を開けるパスワードを知る為の問題
『私は牡丹のように咲き、松葉のように育ち、柳のように枯れ、菊のように散る。私の名をひらがなで記せ』
 これについても担当官はヒントを口にした。
「手紙には『既に答えは皆様にカードキーとして示しています』ともありました」 
 そして担当官は『ご判断はお任せします』と前置きし、ラカオスからの2つの言伝を『あなたたち』に知らせた。
 1つ目は漁師達は愚神エンヌを歓迎しており、クラゲ駆除用のドロップゾーンを作ってほしいと要請しているが、エンヌは本来人間嫌いな性格で『必要以上に人間の役に立つつもりはない』とこれを拒否している。
 2つ目は港で獲れる海産物を合計100kg無料で提供する証明書も一緒に用意したので、近くの港で証明書と引き換えに海の幸を自由にしていいとの事だ。

解説

●目標
 問題を解き、書類を入手せよ

●登場
 愚神エンヌ
 愚神集団『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達。以下SEと略)に属する愚神の1体。主に海で人間の活動に被害を及ぼす生物のライヴスを収奪し、現地人間達より歓迎されているが気乗りしないらしい。
 
 ラカオス
 SEに所属する『愚神』。人間の名として泉津槐の名を使っている。今回の話をH.O.P.E.に持ちかけた張本人だが、依頼斡旋に必要な資金を出したものの、評価はH.O.P.E.に委ねる意志を伝えた後エンヌと共に現場から立ち去っている。皆様が書類入手に失敗した時に限り現れる。

●状況
 海に浮かぶとある小島に作られた地下室が主な探索場所。入口の扉は閉ざされており、扉に付けられたコンソールに8つの数字を入力しないと開かない。
 地下には東西南北に同じ内装と間取りの部屋があり、中にはタンス、寝具、机や鏡台など一通りの家具が揃っている。
 問題にあったパスワードを入力する場所で『鍵』を使うと、キーボードのようなパネルが現れ、ひらがなを入力できる。
 PL情報:カードキーを能力者や英雄が持つと、ライヴスに反応して『さんかんしおん』には『10』『せんこうはなび』には『97』『いそぎんちゃく』には『45』、『ふじのはつゆき』には『18』の数字が現れる。
 希望すれば島に作られた構築物の見取り図を閲覧できる。

●付記
 近くの漁港では書類と共に引換証明書を港の漁業組合に渡せば、近隣の海域で採れた海の幸を手に入れられる。
 漁港内には海の幸をさばくことのできる店が立ち並び、大概の料理やこの地域の地酒は出せるが、希望すれば自分で調理する事も可能。
 なお皆様が入手できる海の幸は日持ちしないので、現地で消費する事。
 入手できる海の幸はアジ、イサキ、サザエ、モロトゲアカエビで合計100kgまで。
 無事書類が確保できた後の手続きはH.O.P.E.が全て行う。

リプレイ

●準備
 弥刀 一二三(aa1048)とキリル ブラックモア(aa1048hero001)は以前から『シュドゥント・エジクタンス』(ある筈のない存在達。以下SEと略)という謎の集団を気にかけていたが、今回はそれ以上にやる事があった。
「以前からSEの事を気にしてたようだが、本題は『それ』か?」
「今回はよろしゅう頼んます! 愚神相手にドロップゾーンを置いてけって、漁師の連中、安易にも程があるで!」
 漁師達がクラゲ駆除の為ドロップゾーンを利用するという発想の安易さと恐ろしさに、一二三はキリルに協力を頼みながら、呆れと怒りのないまぜになった心境で、資料と機材集めに奔走していた。
「帰ったら三ツ星パティシエ店の季節限定スペシャル5段ケーキセット、バニラアイス、生クリームダブル添えだ」
「……お、おおきに」
 キリルからの了承を示す『回答』に、一二三はややひきつった声で感謝する。
 キリルへの頼みごとは一二三の懐には厳しいようだ。
 雁間 恭一(aa1168)と マリオン(aa1168hero001)は、人間を襲おうとしないSEの事は『変わり者集団』と評していたが、恐らく『窓口』であるラカオスという存在から示された各情報の裏付けの為、漁港やクラゲを研究するチームのもとを駆けずり回っていた。
「ああ、俺はH.O.P.E.のエージェントだ。いくつか聞きたい事があるんだが、責任者に会わせてくれねえか?」
 本来であればこういった責任者達に会うためには数日前より面会予約の手続きが必要なのだが、依頼を出した時点でH.O.P.E.とラカオスこと、人間名泉津(よもつ)槐(えんじゅ)が手を回して、責任者達が恭一やマリオン達との面会に応じる時間を用意していたので、調査や取材を行う事はできた。
「しかし、何だってこのラカオスとかいう愚神もどきは謎解きとかさせるんだ? 素直に書類を渡せばいいじゃねえか」
 各場所への移動の間、恭一はそうぼやいてマリオンに顔を向ける。
「余にそのような変わり者の考えなどわからぬ」
 尊大な口調でマリオンは答えるが、こう恭一に意見を出す。
「簡単に書類を渡せば中身を疑われると思い、信ぴょう性を持たせるため『障害』を用意した……そんなところか?」
 この時マリオンはラカオスの意図の1つを見抜いていたが、恭一は島の設備や漁港、研究チームを巻き込んだラカオスの意図を量りかねていた。
「だとしても結構金もかけた大がかりな事をしてるぜ。そんなもの受け取って大丈夫なのか?」
「余は知らぬ。そう言いながらも、貴様が下調べに徹するのは何故だ?」
「いつのまにか愚神達に取り囲まれてるって事態は御免だからな」
 『報酬さえもらえれば文句はない』と口にしていた恭一ではあったが、警戒は怠っていない。
「受け取るものについては、他の者達が確かめに行ってるからな。サンプルをとれば、後は本部の連中の仕事だ」
 マリオンの言葉通り、エージェント達の中には実際に海底に潜って調査を行う者達もいた。
 荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は予めH.O.P.E.を介し現地漁業関係者や関係団体に向け、書類入手前の採掘やクラゲ調査が法律に抵触しないよう根回しを行い、自分達や仲間達の調査が問題なく行えるよう手続きを済ませていた。
 今拓海は現地に先行して漁港より借りたダイバースーツ一式を着込んでメリッサと共鳴し、基本は拓海だが髪にメリッサの特徴を宿した姿に変じて海中に潜り、H.O.P.E.より貸与された映像記録機器を携え、クラゲに関する実態調査を行っていた。
(SEの活動は気になりますが、まだわからない事が多すぎる……)
 愚神は人間に対し良いことはしない。それは拓海もメリッサも承知している。
 だがこの海では人間が駆除対象とするクラゲ達をエンヌという愚神が『喰った』事で、結果として人間に益をもたらしている。
 そこに拓海は『ある期待』を覚えてしまう。
(拓海が考えていること、期待しない方がいいわよ)
 内よりメリッサが注意を促す声を拓海に送るが、フォローも忘れていなかった。 
(私は拓海との今の生活、悪くないと思ってるわ)
 過去をいくら仮定したところで今には追いつけない。今こうして行動していることが大事。
 そうメリッサは拓海へ言外に告げていた。
 そんなやり取りの中、拓海達による手続きで書類入手前でも調査が可能になったカグヤ・アトラクア(aa0535)はクー・ナンナ(aa0535hero001)と共鳴し、高水圧にも耐えられる特製ダイバースーツや金属探知機、サンプル回収容器を装備して海底へと一足早く潜り、同じく三ッ也 槻右(aa1163)と酉島 野乃(aa1163hero001)も共鳴し、先に野乃の色を残した黒の毛並みの狐耳と尻尾を生やし、濡羽色の地に金色の装飾が施された袴の姿に変じてカグヤの調査を支援すべく、貸与されたダイバースーツ装備一式や回収容器に加え、高圧下でも光るライトを装備し海底へと下りていく。
 サンプルを回収する事もそうだが、潜水中危険のある個所を調べたり、潮流の様子や天然ガスの有無を把握することなど、後日H.O.P.E.が本格的に行う調査の為、カグヤのやる事は多い。
 槻右もまた実際の採掘作業を想定して問題になる部分がないか確認する為、潜行を続ける。
(謎解きにだが皆同じ答えになった以上、出る幕はないの)
 内からの野乃の声に、槻右は頷いた。
(謎解きに向かったみんなは優秀。彼らの成果が信用に足る確証を添える事が僕の役割だ)
 何より仲間達の行動に報いることが大切だと槻右は自分の役割と見定めていた。
 その一方で先行するカグヤもまた、内にいるクーと内密のやりとりをしていた。
(こちらではさしずめ人間の法律と、人間と愚神の間での適切な距離を模索しておるのかの)
 その活動、実に興味深い。
(SEの事、お気に入りだよね)
(隣人となれるのであればこれほど素晴らしいことはない)
(そう言いながらも海底に行くんだね)
(本当に発掘出来るか実際に調べておかんと、後で騙される可能性もあるからの)
 余人には言えないがSEを『面白い』と評するカグヤも、全面的にSEを信用しているわけではない。
 これは他のエージェント達も同様の見解を持っていた。
(ある程度は信用してもいいと思う。でも、完全には無理)
 野乃から届く内からの声に対し槻右はそう応え、装備したライトの光源を頼りに、カグヤと共に光の届かぬ海底のゆらぎの中へと沈んでいく。
 
●謎解きと調査
 そして小島では、この海域に現れるクラゲや海底にあるとされる鉱脈の諸権利をH.O.P.E.に委譲する為に必要な書類を手に入れる為に、赤谷 鴇(aa1578)とアイザック ベルシュタイン(aa1578hero001)、真白・クルール(aa3601)とシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)、そして宿輪 永(aa2214)と宿輪 遥(aa2214hero001)は事前相談で導き出した『答え』を手に各問題へと臨んでいた。
「不思議な愚神グループだね? 本当に良い愚神なのかな?」
「まだ分からない事が多すぎるわ。真白、あまり深入りしないように気を付けて」
 真白に『惑わされぬように』と釘を刺すシャルボヌーもまた、シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)について、どういう集団であるのか断定を避けていた。
「扉を開ける為の問題ですが、『苗とする字』というのは苗字のことでしょうね。ヒントの『にのまえ』は『一』を苗字とした場合の読みでしたから」
 書かれていたひらがなを苗字の読みとした場合、それらを全て数字に変換する事ができた。
 あずまは4。いさみは5。いちじくは9。さとるは7。にのまえはヒント通り1。わかつは8。そしてたてよこは10といった具合だ。
 真白の指がコンソールに『45971810』と入力した時点で、微かな電子音と共に扉が開き、扉の奥には地下へ繋がる階段が見えた。
「色々と……気にかかることは、ある……が。まずは、書類……入手、か……」
 億劫そうな口調で永が呟くが、鴇や真白達の『解答』が違っていた場合を考慮して、建物内をつぶさに調べる事も忘れていなかった。
「なんで、こんな形にしたんだろうな?」
 永を手伝う遥はこの仕掛けを講じたラカオスの意図も聞きたかったが、永は以前遥を介して言われたラカオスからの言葉の意味を知りたかった。
 地下には4つの部屋があったが、各部屋にはご丁寧にも『北』『南』『東』『西』と書かれていた。
「間違いないですね。こちらが南の部屋のようです」
 HOPEより貸与された方位磁針を鴇が覗きながら、眼前に『南』と書かれた部屋と、方位磁針の針が南を示す向きが一致したことを仲間達に報告する。
 念の為他の部屋を調べる永と遥を残し、4人は『南』と書かれた部屋の中を調べ、鴇とアイザックが部屋にあった鏡台や周囲を調べていくと、鏡台の一部に何かを差し込む窪みを発見した。
「順番が逆になるけど、これで3番目の問題の答えは合っていたみたいだね」
 アイザックが真白が用意した文房具に書かれていた問題の言葉を見て、軽い口調で誤魔化しながら仲間達が正解を引き当てた事を褒めていた。
 相談の段階で鴇とアイザック、真白やシャルボヌー、永や遥達は同じ解答となる文章を導き出している。
 部屋で皆様が(鏡の前に)行くと皆様(の鏡に映る姿)は(鏡の)中にいて、皆様(の映る姿)が(鏡の)中にいると皆様はその前にいる。
 該当するのはこの鏡台しかなかった。
「そして初雪は冬の季語ですが、4枚のカードキーのうち、富士の初雪は秋の季語です」
 そう言って鴇は『ふじのはつゆき』と題名が書かれたカードキーを窪みに差し込むと、何かを読み取る電子音と共に鏡台の鏡の下から、ひらがなを入力できるコンソールが現れた。
 牡丹。松葉。柳。菊という表現であらわされるもの。
 それがこのコンソールに入力する文字であったが、これについてもこの場にいる全員が同じ答えに達していた。
「先に牡丹のように玉ができ。松葉のように玉が激しく火花を発し、やがて柳のように火花が少なくなり、消える直前菊のように散る。この4枚のうち、それらが当てはまるのは『線香花火』です」
 真白がそう答え合わせをして、鴇がコンソールに『せんこうはなび』と入力すると、何か複雑な稼働音が鏡台より響き、やがて鏡台が横にスライドして、奥から隠し金庫らしき空間が現れ、その中に書類一式を入れたと思しき封筒が保管されていた。
「……こちらが、空振りで……よかった」
 それまで仲間達が謎解きを間違えた時に備え、他の部屋を全て調べていた永が遥と一緒に部屋に入ってくると、細々とした声で不測の事態が起きなかったことを喜んでいた。
 ただちに遥が待機していたH.O.P.E.別働隊に連絡を入れると、H.O.P.E.別働隊は6人を島から漁港へ送り届けた後、必要書類を本部へと運ぶ手続きを始める。
 そしてエージェント達の手元には、海の幸を無料で手に入れられる証明書が残され、エージェント達は手分けして他の場所で活動していた仲間達に書類を入手した事を伝える連絡を入れた。
 そして海底鉱脈についてはカグヤと槻右による採掘と海域調査が行われていた。
 常人ならばまず耐えきれない、周囲から締め付けてくる水の高圧も、共鳴しているカグヤと槻右に影響を与えず、光の届かない海底でもわずかな光源があれば行動に支障は生じない。
 槻右の装備したライトが周囲を照らす中、金属探知機が反応を示した場所を、カグヤの動かすメトニウムシャベルやアイアンマトックが、反応を示した各場所から少しずつ金属を含むサンプルを削り取っては個別に回収容器に入れていく。
(ラカオスも愚神を思い通りに動かすには限界があるか)
(なんでそう思うの?)
 内からのクーの声に、カグヤは意味ありげな笑みを浮かべてこう応える。
(愚神や従魔も海底に来ることはできるが、ライヴスを奪えぬ鉱脈採掘などやらんからの)
 この時カグヤは鉱脈に関する話は『人間』であるラカオスが付け加えたものだと見抜いていた。
 その間に槻右と野乃は、当初海底地下より噴出する熱水に含まれる鉱物が堆積してできる鉱脈を想定していたが、今調べている限りでは、それは見当たらない。
(穏やかであるの)
(熱水が見当たらないことを除けば、問題なさそうだね。海水を回収しておこう) 
 海底鉱山と呼ばれる鉱脈を形成する経緯は2種類ある。
 一つは槻右達の想像した熱水と共に堆積して形成されるものだが、もう一つは『常に』海水に含まれる希少金属が海底に堆積して形成されるもので、今回の鉱脈に関しては後者に属するものだった。
 そして回収作業を終え漁港に帰還したカグヤと槻右から提出された数々のサンプルと調査記録が、H.O.P.E.別働隊を経由して本部へと送られる。
 一方海中の拓海が映像記録機器を向ける先には、夥しい数のクラゲたちが海の中を埋め尽くしていた。
 クラゲが生態系に必要なのでは、と考えていた拓海ではあったが、眼前のクラゲの群れたちをそのまま漁港や漁師達が活動する場所へ通す事が環境に良い事なのかと聞かれたら、即答できない光景だった。
 そして地上では恭一やマリオンがラカオスと接触した人達に対して求めた詳細な説明は、ドロップゾーン設置の要望に対するラカオスの反応や小島に仕掛けを行う理由やラカオスの上位者がいるような、何かしらの政治的な動きの有無などだったが、研究チームや大学、企業に求めた詳細な説明は、上記内容に加え研究による利益をH.O.P.E.に委譲する理由やラカオスからどのように説得され研究に協力したかの詳細な経緯やメリットなど、説明する側が用意できた面会時間をはるかに超え、膨大な時間と労力を要求するものでほとんどが拒否された。
 彼らにも生活があり感情がある事を考慮して、恭一たちが質問内容を絞っていたらいくつかの情報は得られたかもしれない。
 辛うじて判明したのはラカオスの意図が人間達自身の手で問題が解決できるようにする為と関係者達に伝わっている事だ。
 島に関してはサンプルを提供したカグヤやクーたちが調べているので、裏付けはカグヤの調査結果待ちとなる。
 なおラカオスの上位者に関する説明を恭一が求めたところ、漁港や研究室や関係団体、ラカオスに接触した人々全員より頑強かつ奇妙な拒否に遭い、不発に終わる。
 恭一やマリオンは各場所で調査を終えた仲間達と合流し『奇妙な拒否』を含め収集できた情報を伝え、ジョセフ・イトウ(az0028)も交えて情報のすり合わせや議論を行った。
 恭一に話を向けられたジョセフも仲間達も『嘘と断じるのは簡単だが結論を出すには謎が多すぎる』と明言を避ける中、入手した海の幸を使った料理が浜辺で始まる。

●海の幸
 手に入る海の幸はアジ、イサキ、サザエ、そして俗称を縞エビと言うモロトゲアカエビだったが、エージェント達は主にサザエと縞エビを中心として食材を入手し、バーベキューに向けた準備を始める。
 当初漁民達に対し怒りを抱えていた一二三も、大切な事を現地の人達に伝えるのはその後でもいいと思い直し、機材や資料が届くまでの間は海鮮バーベキューを味わって落ち着くことにした。
「浜焼きで十分だろ?」
「海岸で焼くのか?」
 マリオンの疑問をよそに恭一は浜にバーベキューセットを置き、一二三が炭火で火を起こし、上に網を載せて食材を並べる用意する間に、料理のできる人達がサザエを手早く洗って砂をとり、エビも槻右と野乃が丁寧に洗って後は焼くだけにする状態にしたものを網に載せる。
 シャルボヌーは借りたフライパンを熱した後、フライパンにサザエと水を入れて蓋をして蒸し焼きにして素材のうまさを逃がさぬようひと手間加える。
 サザエがフツフツしだしたら酒と醤油と好みでバターを入れ、バターが溶けたところで火から離して粗熱をとり、完成。
「真白、サザエできたわよ」
「わーい、ありがとう、ママ!」
 歓声をあげた真白が口に入れるサザエは、コリコリとした食感と美味を真白の口に広げる。
 拓海やメリッサはイサキの鱗、内臓、エラをとり、丁寧に水洗いの後水分を布でふき取り、裂いたイサキの腹の中に香草やニンニクを詰め込み、別の容器に塩、卵、地酒をよく混ぜたものを作り、魚に塗りたくって包んだものをホイル巻にして浜焼き用グリルに入れて40分程焼きイサキの塩釜焼きを完成させる。
 割った塩の包みと破いたホイルの中から、焼かれて染み出た脂が周囲に美味を思わせる香りを漂わせ、一二三が浜焼きを美味しく作る為のコツとして、身の全体に火が通る一歩手前で火から取り出した、焼きたてのサザエやエビが並び、エージェント達は次々と箸を伸ばし、やがて浜の上は喧騒に包まれる。
「ドロップゾーン作れる愚神が弱い? 何や嘘くさい話やな」
 一二三はそう言いながらも、『嘘くさいよねー』と同調する槻右と一緒に、自分の分の料理を次々と平らげていく。
 目の前の浜焼きは、こんがりと焼けたエビやサザエの皮や殻の香ばしさもさることながら、下ごしらえの際に使った地酒や、イサキの腹に詰められた香草、皿に添えられたワサビや醤油などが恭一やマリオンの口の中で、素材の味だけを絶妙に引き立てる。
「うまいのぅ! たまらぬ海老っぷりじゃの!」
 エビは弾けるような弾力を野乃の口に残して身が裂け、野乃の胃に次々と収まっていき、その舌の標的がサザエへと移行し始める。
「少しは遠慮しろよ……って、それ僕のサザエ!」
 まさに一瞬の間に野乃の箸が槻右の眼前にあったサザエをかすめとる。
「ケチを申すな」
「うう……拓海。そっちのサザエってまだある?」
 ちょうど拓海が口に運んだこの地域特産の地酒はしっかりしたボディで、海の幸の味を口と舌の上で受け止めていたが、槻右に声をかけられると拓海は手近に残っていたサザエを槻右に回し、サザエにありつけた槻右は拓海に頭を下げて、サザエの身を口に運ぶ。
「塩釜焼き、刺身。酒も良いな」
「こんなに美味しいものが採れる海……か。私も一緒に守りたいわね」
 拓海やメリッサがそう言いながら口に運んだイサキの塩釜焼きは、2人の口の中で塩と身の脂が絶妙に絡み合う。
 海の幸を入手する事に貢献した鴇とアイザックも、永や遥と共に食した縞エビやサザエからの滋味がそれぞれの口の中に広がり、噛むごとに口中に美味の華が咲き、喉を暖かさが通過していく流れが続く。
 こうして入手できた海の幸は、エージェント達に美味を残して全て消えた。

●周知
 急遽設置された説明会会場に集められた地元住民達の前に、H.O.P.E.より貸与された映写機から記録映像が映し出される。
 鬱蒼と立ち並ぶ、ねじくれ立ち枯れた木々の群れ。死んだ景色を蝕む空間から湧き出る愚神や従魔達の群れ。
 崩壊した建物群の中に、折り重なって倒れる人々の群れ。
 トリブヌス級愚神達がリンカー達を薙ぎ倒し周囲を紅色に染め、この世界を掴むかの如く顕現したレガトゥス級の『手』の光景が映し出される。
 いずれも生駒山で繰り広げられた、リンカー達が死力を尽くした激戦の記録映像であり、ドロップゾーンが引き起こす未来だ。
 住民達が誰も声を発しない中、拓海は住民達に静かに声をかける。
「貴方たちは運が良かったと思う」
 ドロップゾーンは愚神達の都合で展開され、生物たちのライヴスを奪う。
 一二三がキリルと共鳴し、キリルも一二三の意志を尊重したのか、顔に鋭さを帯び、髪に赤と銀が絶妙にブレンドされた長髪を帯びた姿に変じ、その眼に鋭さを残した笑顔で説明を続ける。
「奴らはライヴスを集める事で強くなる存在や。人を襲わん保証など何もないで」
 人を襲わずドロップゾーンも作らないエンヌやSEの真意を、一二三は量りかねていたがこれは確実に言える。
「便利なところだけ見て危険性に目ぇつむってドロップゾーン置こうなんて考えたら、こんな地獄が待っとるで」
 静かな、だが苛烈さが垣間見える一二三の口調に、漁師達は身を縮めている。
 キリルより『本当にやりたいのは怒りをぶつけることではないだろう?』と助言を受けた一二三は、静かな物言いを心がけている。
「ドロップゾーンはおのれらだけでどうにかできるもんやない。知らなかったじゃ済まんで。無知は罪や。よう覚えとき」
 一二三は。キリルは。拓海は。メリッサは。漁師達にこれ以上間違えてほしくなかった。
 その想いが通じたのだろう。集められた漁師達から次々と、自分達の浅慮を謝罪する声が上がった。
「皆さんの生活が大切なのは存じております。今は無くなる事よりも、どう補う事ができるか一緒に考えましょう」
 説明会を聞いていた鴇もまた、優しく漁師達に手を差し伸べていく。
 きっと望みはあるはずですから。
 やがてカグヤの持つ名刺に書かれた番号をもとに、永や遥、真白やシャルボヌー達はラカオスを呼び出し、説明会会場から離れたとある食堂の一角で様々な問いを向けた。
 永や真白から『謎解きにして今回の件を自分達に託した理由』を問われたラカオスは、『素直に渡せば罠と疑われますので』と答え、マリオンの推測が正しかった事を裏付けた。
「あの小島じゃが、国の補助金で整備されたものをお主が買い取ったらしいのう?」
 たまたま同席していたカグヤが確認の問いをラカオスに向けると、ラカオスは『どこまでご存知です?』とカグヤに返す。
「クラゲの被害対策のための補助金が、この地方で議員達への有力票を持つ企業達にたかられた結果、使った証拠を残すためあの島を開発する費用に化けたあたりまでかの」
 それがカグヤの調べ上げた小島の秘密だった。
「人に関わらずにライヴスを得る方法はあるのに、何故エンヌは人助けを?」
 真白の問いにラカオスはこう応えた。
「そう見えるだけで、エンヌは人助けをしません」
「そう見えるように仕向けてるのがSEの方針なの?」
 シャルボヌーが真白の聞きたいことを助ける為ラカオスへそう尋ねると、ラカオスは『ええ』と答えた。
 その横から億劫そうな声と共に永が聞きたかったことをラカオスに問う。
 悲しみを軸として考えるか。未来を軸として考えるかとは、誰の事を言っているのか。
 永からの問いにラカオスは少し永を見つめていたが、『答えの一つ』と前置きした内容を述べた。
「……フィロ、だと?」
 フィロの名はこれまでH.O.P.E.に寄せられた依頼の内、海外に出没した愚神として報告があったことを永は覚えていた。
 その愚神と自分に言われた言葉に、何の関係がある?
 永との問答の合間を縫い、遥はラカオスにのみ聞こえる音量と間合から『ある事』を尋ね、ラカオスもまた遥にだけ聞こえる声で『答えの一つ』を遥に託した。
 託されたものに遥は少し悩む中、ラカオスが立ち上がり、真白や永達より離れると反転してその場のエージェント達に向け頭を下げる。
「時間が来ましたのでこれにて失礼します」

●解決
 ラカオスが去った後、H.O.P.E.より報告があった。
 収集できたサンプルからは、海水に溶けていた希少金属の成分が検出され、採掘場所や海流など諸条件を考慮した結果、周囲を撹拌する真似をしなければ生態系に影響しないという話だ。
 埋蔵量については今後正確な調査で判明するだろうが、現時点では拓海の調査で詳細が明らかになったクラゲの方が資金源となる可能性が高いとの事だ。
 拓海からH.O.P.E.に要請した再調査など複数の点については考慮されることになり、契約にとらわれない形については鴇から提案があった。
「クラゲを漁師達に獲らせてみてはいかがでしょうか」
 クラゲを獲ることで漁師達も利益を得られるなら、漁師達もやる気を見せドロップゾーンに頼らなくて済む。
 そうした鴇の意見も取り入れた結果、クラゲに関する手続きは今後現地の漁業組合も交えて行われるとの事だ。
 こうして目的を達成したエージェント達は一様に帰路に就く。
「ラカオスの上位者の情報をH.O.P.E.に提供したら、ラカオスは殺されるという話の裏付けは、ジョセフに任せてはどうだ?」
 取材先の責任者達から聞いた話の裏付けに苦慮していた恭一はマリオンの助言を受け、後日ジョセフに追跡調査を依頼する。
「ハル。今日の誓約は?」
「魚の捌き方、でも……教える、か」
「……ん。覚える」
 永の言葉に頷く遥だが、ラカオスから託された言葉はその後で永へ伝えようと心に決める。
「求める答えは俺達が見つけ、決めること、か」
 遥の呟きは遠ざかる潮騒の中に消えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578
    人間|13才|男性|攻撃
  • 馬車泣かせ
    アイザック ベルシュタインaa1578hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 永aa2214
    人間|25才|男性|防御
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 遥aa2214hero001
    英雄|18才|男性|バト
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
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