本部

真贋の距離

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/05/30 14:30

掲示板

オープニング

● 世界に響く歌

 ここは公園、かつて『ルネ』が歌った、彼女の人生最初で最後のステージ。
 ここに『三船 春香』は定期的に来るようにしていた、ここにくれば彼女の歌が聞こえるような気がするから。
 だけど、歌は聞こえない。その涼やかな声も聞こえない。
 その歌は、土に石に、水に人に、浸みこみ、この世界の救いの一つになったのに。
 なのに、この世界からはあの音は全く響いてこなかった。
 春香はあてもなく公園を歩く。
 目をつむり、ただただそこにある現実を感じている。
 彼女が守った、大気や水や、人々の笑い声を、ただ……。ただ。
 失ってしまった痛みと、救うことができなかった苦しみ、これを春香は一生背負っていくそんな覚悟を決めたけれど。
 春香はそんな思いを抱えていったいどこに行けばいいのか。まったくわからなかった。
「ねぇ、ルネ。私はどうすればいいのかな」
 失い続ける自分の運命、それを嘆いて、歩みを止めても罪悪感という魔物に取り殺される。
 それを恐れて歩んでみても、向かう先は虚無で。
「苦しい、くるしいよ。ルネ。わたし、あなたの歌がききたいよ」
 ルネは、微笑んでくれた。
 歌、うまいね。そう春香が言うと。
 心から嬉しそうに、笑って見せてくれた。
 そんな大切な存在はもうこの世に存在しない。
「ルネ……」 
 そんな春香の足元にボールがてんてんと転がってくる、それを同い年くらいの少女が追いかけてきた。
 春香はそれをとって、少女へ差し出す。
「はい、転ばないでね」
 少女は首を振った。
「わたしのじゃないの、あの人の」
 そう少女が指をさした先には一人の青年が立っていた。青い衣に金色の髪。その青年は春香を見つめ、そして言った
「ガルマ・アーヴェンだ。会うのは初めてかな」
「え? たぶん、そうだと思います。」
 そう手を差し出すガルマ。春香はおずおずとその手を取った。
「英雄を探していないかな?」
「え?」
 またも唐突なセリフに春香は疑問符を浮かべる。
「英雄?」
「そう、英雄だ、君は能力者だろう、はぐれている英雄と契約すればまた戦える」
「私、別に戦いたいわけじゃない」
「では、どうしたい?」
「どうって」
「壊してしまいたいと思っているんじゃないのか?」
 春香の顔からさっと血の気が引いた、その手を振り払おうとするも、繋がれた手はがっちりつかまれていて動かない。
「大切な物を奪った世界を、救われた癖にのうのうと笑みを浮かべる人間たちを。そして彼女を殺す原因となった愚神たちを、全て、全て壊したいのだろう?」
「違う!」
 春香は反射的に叫んだ。
「私はそんなこと思ってない」
「思ってるよ」
「え?」
「君はこの子と同じ目をしてる。行き場のない怒りを誰かにぶつけたいだけの目」
 そうガルマはとなりに立つ少女を見た。
「私もかつて、H.O.P.E.に大切な人間を殺された。お前の気持ちは十分にわかるつもりだ」
「違う、私は、私は、みんなのこと壊したいなんて思ってない!」
 春香は首を振り、否定する。
 ここで自分がこの言葉を肯定すれば、それは助けてくれた人たちへの、一緒に笑いあってくれた人たちへの。遙華への。裏切になるから。
 だから春香は首を縦に振らない、けれど。
「私は一度も壊したいと思ったことはないよ。理不尽に家族も友達も奪われても、それでも私は生きてるし、そのことに感謝してる。何よりルネが守った世界だから。だから私は。私は……」
 春香は感じていた、彼らの言葉がやけに胸に響く理由。それはきっと。
「だから私が、私が、壊したいのは」

「自分だ……」

 そうつぶやいた春香、笑うガルマ。そして涙を流す少女。
 次いで、ガルマの後ろから突如、燕尾服に身を包んだ人物が現れた。
 
 そして、ああ、そして。

 歌が聞こえた。高く、鋭く、優しい。歌声。
 これは、これは春香が渇望した、あの歌。彼女のかつての相棒『ルネ』の歌。
「え、なんで? どうして」
 突如春香の視界は暗転、体が傾いでいく。重力に引かれ、どこまでも、堕ちていく。


● 真作と贋作

 突如。
 世界は地獄に塗りつぶされた。空は赤く染まり。公園を覆う緑の芝生にはクリスタル状の楔が幾本も撃ち込まれ、人々は地べたに倒れている。
 すべてはその、歌のせいだ。

「歌うな、あなたが、その歌を歌うな!」

 水晶のように透き通った戦慄、この世界を憂う曲調、歌詞。
 すべてが、全てが春香の覚えている。ルネの……『希望の音』だった。
 だが、その歌は汚された、その歌にのせられて発された思念が、人々の体内から霊力を奪っていく。
 それは全て、春香の目の前にいる愚神のせいだった。
 その愚神は羊の頭を持ち、コウモリの翼をもつ。悪魔のような見た目を持つ愚神。
 その愚神は自ら『レプリカ―レ』と名乗った。


「その歌は、みんなが希望って呼んだものなんだ、なのに。なのに!」


「そんなの、偽物だ、あの子の歌じゃない!」
「何を言ってる、君の脳内にある情報をもとに再構築したんだぞ、ならば本物以外ありえない」
「例えばルネをここに作り出したとしよう、そのルネはお前の脳内の情報から作り出されている、つまり、お前が思うルネがしそうなこと、お前が思うルネの言いそうなことしか言わない、それは結局お前にとっての本物だ」
「違う、それは偽物よ」
「何が違う? 本物と偽物の違いとはなんだ?」
 春香は押し黙る
「それを主へ示して見せろ、ガルマリンカーたちが来るまで、人間どもを殺してまわれ」
「了解した」
春香はその命令に息をのんだ。

 その時信じられない光景が、春香の目の前で繰り広げられた。
 毒々しい輝きを帯びた幻想蝶。それを梓は掲げると、ガルマと少女は闇につつまれた。
 悲しそうな少女の瞳が、春香の視線と重なる。そして。
 噴出するように霊力が周囲に飛び散り。
 そしてそこに立っていたのは。くすんだ青の鎧に包まれた剣士。
 これは、これではまるで、英雄と能力者の共鳴のようではないか。
 そしてガルマは自らの指にはまっていた指輪を外し、握りつぶした。
「こんな物には何の意味もない、単なる慰めだ。私は怒りを収めるつもりはない。私は私の怒りが解消されればそれでいい。」
 

「あなた、愚神じゃ」
「英雄、ガルマ・アーヴェンさ。お前たち悪しき人間を滅ぼす、正義の英雄」
 その時、ガルマがその刃で横たわっている女性を突き刺した。
「やめて!」
「じゃあ! お前が死ぬか? であればお前はこいつらの死を感じられない、それはすなわちお前にとってここにいる人間は死んでいないことと一緒だなぁ!」
「あなた達の目的はなに? あなた達は一体なんなの?」
「…………偽物とはなぜ、この世に生まれてくるのだろうな」

 レプリカ―レは春香の質問には全く答えず、逆にそう、問いを投げかけた。
 春香は悔しそうに涙を流しながら、空を仰ぎ見る。
「助けて、ルネ」
 その声をかき消すように、公園中に甲高い笑い声が響いた。

解説

目標 愚神すべての討伐
 今回は単純に二体の愚神の討伐です。
 戦場は広い公園です、芝生に特に障害物もありません。
 なので依頼内容としては簡単と言えるでしょう。
 ただ、この敵についてはいろいろと疑問点がある方も多いのではないでしょうか。
 訊いて追及して、何がおこっているか、確かめていただいても構いません。



《デクリオ級愚神 『ガルマ・アーヴェン』》
 疑似共鳴をやって見せたが、実際は共鳴というより少女を取り込み力を増幅しただけである。
 少女に意識はなく、ガルマを倒せば解放される
〈特長〉
・愚神を回復することができる。状態異常回復三回 単体大回復三回  三体選択し中回復一回使用可能
・斬撃を広範囲にばらまくことが可能、至近範囲攻撃。
・物理攻撃力、物理防御力に秀でる反面、魔法防御が低め。

<語り>『ガルマ』
「闇に打ち勝てる光など無かったのだよ。少なくとも私達程度では、この闇を照らすことはできない」
「守れないよ、お前たちでは、英雄程度では」
「ただただ、許せない、この怒りを解消したい、H.O.P.Eお前たちは間違っている。.」


デクリオ級愚神『レプリカ―レ』
 このグループのリーダー。理屈っぽくまた、言葉で惑わそうとしてくる。
<特徴>
・飛行能力を有し、両手から爆炎を放つ。また格闘戦にも秀でており、固い装甲を利用しての打撃戦を得意とする。

<語り>
「果たして、ここにいるすべてが贋作だと、あなた達に言い切ることができますか?」
「そして、あなたの隣にいる友が真作だと言い切ることができますか?」
「ほら、いま疑った、その程度だ、あなた達の信じる心なんて」

リプレイ

 一章 終わる世界の撃鉄を上げよ

 「ガルマ。リンカーたちが来るまで、人間どもを殺してまわれ」
「承知した」
 公園は地獄絵図と化していた。
 世界を染め上げる歌以外には、人々のうめき声が聞こえるだけ。
 そんな一般人たちからガルマは無作為に一人の成人女性を選択。
「あ……。あああ」
「なんだ、もう言葉も出ないか。脆弱な生き物だ、人間というものは」
 そう何の感慨もなしに振り上げた刃をガルマは女性に突き立てた。
 春香はその光景を直視できず目をそむけてしまう。 
「いい! いいなぁ、この歌のコーラスに悲鳴は最適だ」
 そうレプリカ―レは謳うように言った。
「さてガルマ、生贄はたくさんいる、一人ぐらい早々に葬っても怒られはしないだろう。心臓を突き刺しなさい」
「承知した」
 そうガルマはうなづくと、またその刃を振り上げて。
「やめて!」
 そう春香はガルマの足元まではっていく、震える腕で体を引き寄せ、また腕を伸ばして、それを繰り返す。
 するとレプリカ―レは心底楽しそうにその姿を見て笑った。
「ははは! 滑稽だ。だがいい、お前はそこで寝ていろ。私は主の命を遂げさせてもらおう」
 そうレプリカ―レは春香に手をかける。首を絞めるように春香の体を持ち上げて、ネックレスになっていた護石を引きちぎった。
「返して、それは、私の! ルネの!」
「任務完了。さて、殺すか」
 そうレプリカ―レは春香を地面に投げ捨て片手をかざす
 共鳴していない状態で霊力による攻撃を受ければひとたまりもない。
 春香にせいぜいできるのは。
 目をつむって誰かの助けを待つことだけ。
「助けて……」
 ルネ。
 春香は涙を呑んでその名を呼んだ、そして自分を責めた。
 遙華は、その友達は、みんな彼女の思いを背負って、何らかの形として残しているのに。
 一番彼女の死に引きずられているはずの自分が、何もできていない。
 そんな無力感を抱いたまま、春香は死の縁へと落ちていく。

 だが、その時だった。
 突如暗闇を焼き払ったのは茜色の、いやもっと鮮烈な『暁』色の閃光。
――……あきらめるのか?
 声が聞こえた、厳しさと刺々しさあふれる声音。しかしその奥に人を思う心がある、その心が滲み出ているそんな声。
 それを春香は聞いたことがあった。
――……彼女を、裏切ることになるぞ……。いいのか?
「よくない、よくないよ。私生きたい、あの子の分まで」
――……その言葉がきけてよかった、俺たちが駆けつけたことは、無駄にはならなそうだな。
 え? そう春香は目をあける、すると目の前に広がっていたのは、一人の青年が愚神を殴り飛ばしている光景。

「春香ちゃん……ッ!!」

 爆炎纏いし拳が、レプリカ―レの横っ面に突き刺さっていた。
「燃衣さん、ネイさん……」
 先ほどの声の主は『ネイ=カースド(aa2271hero001)』そして、春香を抱きかかえ敵から距離をとるのは『煤原 燃衣(aa2271)』。
 かつてルネを助けようと奮闘してくれた戦士だ。
「春香ちゃん! ダメだ……」
 おぼろげな瞳で燃衣を見つめる春香。燃衣は正気を取り戻させようと春香を揺さぶる。
「ボクより早くルネさんの所に逝っちゃ……ダメだッ!」
「……あぁ。春香はルネの形見だ……死なせは……せん……ッ」
「みんな……」
 そしてその春香の隣に足をおろしたのは『五郎丸 孤五郎(aa1397)』
 孤五郎は無事でよかったと一声告げると剣を抜き放ち、敵へと向ける
――大丈夫かい、春香、いま楽にしてあげるから……
 直後凛とした声が世界に響く。そして涼やかな羽の音。ドロップゾーンを金色の光が塗り替える。
 『イリス・レイバルド(aa0124)』がその翼を全力で展開し、祈るように歌を歌っていた。
――久しぶりだね、プールではお世話になった。
「イリスちゃん! アイリスちゃん!」
 正確にはイリスではないく。イリスの中にいる『アイリス(aa0124hero001)』がその声と歌によって、愚神に抵抗する。
 次いで視界の端に翻る純白の衣装。
「間に合ってよかった!」
 そう接近するガルマへ死者の書による魔術攻撃を見舞う『小詩 いのり(aa1420)』。
 すでに彼女は『セバス=チャン(aa1420hero001)』と共鳴済み、戦闘衣装のシスター服で、二人の愚神を真っ向から見据えた。
 そしてそんな彼女を中心にリンカーたちが集る。
 全員が春香を守るように前へ。
「みんな……きてくれたの?」
「うん……。春香大丈夫? 痛かった?」
 そういのりが春香の傷を診た。
「歌ってお姉ちゃん! 本当の希望の音を聴かせてやって!」
――ああ構わないよ……私としてもただの録音で騒音騒ぎを起こしているだけの輩がこの歌を語ってほしくないのでね。
 それは、春風の音。彼女たちが生み出した新しい希望の音。
「滅びの波長が中和されているのか?」
 ガルマが驚きのあまり周囲を見渡す。
 リンクバリアは、狭い範囲であればドロップゾーンの影響を中和できる。それを思いだしガルマは舌打ちした。
「ほう……」
 ガルマは歌の出力を上げる、それに対抗してアイリスも歌の出力を上げる。
 その歌と歌は同じ旋律であるはずなのに、歌詞が違う、そして意味も異なるそれは、お互いを食らいあう蛇のように、主導権を奪い合う。
 妖精の歌姫と悪魔の指揮者は真っ向から火花を散らした。
「…でもレプリカーレ、その歌はボクの心に響かない。脱け殻みたいだ」
『アル(aa1730)』が言う。
「春香さん」
「理夢琉ちゃん……」
 その間に春香の隣に座り『斉加 理夢琉(aa0783)』はその手に魔砲銃を握らせる。
「再契約、したでしょう? 思いを無駄にしないで」
 最後のあの瞬間確かに『生きたい』という誓いで結ばれたのだから、だから春香は生きることをあきらめてはいけない。
「愚神は思いを捻じ曲げて世界と自分を壊させようとしてくる気をしっかり持って!」
――この魔砲銃を憶えているか? ルネが守った世界でその先を生きるのが辛くても自分のために戦うんだ。
 そう理夢琉はこの銃に思いを込めた。
『アリュー(aa0783hero001)』の言葉で春香は思い出す。あの時手渡された思いを、理夢琉がアリューが自分のために一生懸命になってくれたことを。
 だってこの魔砲銃にアリューに理夢琉にどれだけ勇気をもらったか分からない。
 そう春香は涙を一粒、銃へと落した。
「私が、間違ってた、弱気になっていた。立ち直ったはずだったのに愚神にさとされちゃって。私もう迷わない、逃げない。私も戦う、私も……」
 たとえ失われて、もういないとしても、最後の約束を、大切な約束を、破ってしまうことは重大な裏切なのだから。
「その娘から離れろ!」
 ガルマは怒りで拳を振るわせて、その剣を叩きつけるべく振るった。
 その剣を莫大な霊力が纏う。
――あなたのわたしです。
「くそ、なぜその娘だけが助けられる! なぜだ!」
 だが、その剣を春香に震わせるわけにはいかない。
 そうガルマの剣をうけとめたのは『黒鉄・霊(aa1397hero001)』だ。二枚の大剣で挟み込むように抑え、真っ向からその瞳を見据える。
――死が二人を分かつまで、という言葉があるが、死でも分かつ事の出来ないものがある。
 アイリスが春香に手を差し伸べ言った。
――ルネさんの想いをこの世界に繋ぐ一番強い楔はその胸に確かにあるのだから。……頑張りたまえよ。
 春香は頷き、そしてアイリスの歌が続く間にと一般人の救助にかかる。
「美空クランズただ今参上なのであります。長らくお待たせしましたがここから先は誰一人傷つけさせないのであります。びしっ」
 そう『美空(aa4136)』は元気よく言い放つ。
「うん、よろしくね、一緒にみんなを安全な場所まで届けよう」
『ひばり(aa4136hero001)』と共鳴している美空はせっせと戦場を駆けていく。
「美空ちゃんは外傷はないけど動けない人を運んで、重症者はここで手当てをしないとまずいし、軽傷者は簡単な手当てで歩けるようになると思う」
「了解いたしました!」
 いのりの指示に従い負傷している人を見つけてはゾーン外に運んでいく。
「ははははは、弱者救済ですか? 人間とは実に面倒だ」
「「笑うな! 耳障りだ!」」
 ネイと燃衣の声が重なって響く。
「おや、これは失敬」
 湧上る燃衣とネイの殺意、そして憎悪を拳に込める。拳が爆ぜ暁色の輪光がそれを纏った。
「……テメェ……何者だ。春香ちゃんに何をした?」
「別に何も、これから屍になっていただきますから、何をしたかなんて関係ないと思いますけどね! ははははは。おいガルマ!こいつら邪魔だ、殺せ」
 しかし当のガルマは目の前に立ちふさがる少女に視線を奪われて動けない。。
 白髪を風になびかせる儚げな少女、しかしその瞳は焼け付くような怒りで染まっていた。『ゼノビア オルコット(aa0626)』である。
 彼女は懸命に声を出そうと口を開く
 それを『レティシア ブランシェ(aa0626hero001)』は何も言わずに傍観していた。
 言いたいことは山ほどある、だが今は彼女の思いを尊重したい。
「なんだ、お前は……そこをどけ」
 しかしゼノビアはどかない。
「……して」
「なに?」
 声を出すことは彼女にとってとてもつらいことなのに。何かを伝えたくて、ゼノビアはその場に立っていた。
 それは、あの時、ガルマに思いを伝えた時とは別の感情。それと同じくらいに強くても、全く異なる感情故に。 
「お久しぶり、です」
 ゼノビアは目をふせ、肺に空気を送り込む、そして拳を握り、まつ毛を震わせガルマを再度見つめた。
「……ガルマさん」
 そしてゼノビアは自身の言葉で、自分の思いを語り始めた。
「私のこと、覚えて、ます?」
「知らんな、お前のことなど記憶にない、そこをどけ」
 その言葉に拳を握りしめるゼノビア、怒りと失望の波が一気に押し寄せる。
「私は覚えています。指輪……なんで壊しちゃったんですか」
 そんな二人へと歩み寄るのは『御門 鈴音(aa0175)』
 その隣には『輝夜(aa0175hero001)』が寄り添い歩いていた
 輝夜は言う。
「……鈴音頼む。……今回はわらわに体を貸してほしい」
「一体どういうつも……」
 鈴音は輝夜を見た。
 固く引き結ばれた口、その瞳の色は複雑だ。
「…………頼む」
「わかった」
 輝夜を信じよう、そう鈴音は目を閉じてすべてを輝夜にゆだねようと思った。
 バラバラだった手が結ばれ光が二人を包む
 夜を思わせる長い髪、十二単の鬼女。輝夜が主体の共鳴姿がそこにあった。そしてゼノビアの言葉をきく。
「あなたが守りたい、ものって……なに?」
 ガルマは首を振った、もうない、その意思表示。
「HOPEが間違っている、壊す。あなたは、前そう言ってた、です」
 かつて彼はアンリエット、つまり最愛の人を失った悲しみに耐えかねて心に魔を飼ってしまった。
「でも、それが間違いだとあなたは、理解したはず、なのに……」
「お前に何がわかる、この苦しみ、悲しみが、H.O.P.E.に救われず、H.O.P.E.に見捨てられたあの子の嘆きがわかるか?」
「でも、今の貴方の行為は、ただの虐殺、です。一般人には、罪はない、でしょ」
「そうだな、罪はないな、アンリエットと同じように!!」
 突然の怒号、そして涙を流すガルマ。
「そしてお前たちは糾弾する私を嘲笑った、お前が弱いのが悪いと、だから私はお前たちを糾弾する、お前たちが救おうとする者も脆す、そして私は言う。お前が弱いのが悪いとな!」
「私は!」
 『北里芽衣(aa1416)』が言葉を継ぐ。
「誰も泣かない世界を作ると、大切な人達を守り、嘆かないと誓いました」
 芽衣は心の底で繋がる『アリス・ドリームイーター(aa1416hero001)』が自分を心配していることが分かった、芽衣は彼女に大丈夫よと告げ、ガルマに向き直る。
「……だから、私はあなたを殺します」
 そう芽衣は告げ、死者の書を構えた。
「来なさい、愚神ガルマ。あなたの命を、私がこの場で葬ります」
「できるのか、か弱い少女たちよ」
 その様子を見てレプリカ―レは笑う。
「ははは、いいぞ、お前たちの思い見せてみろ、本物と偽物を暴いて見せよ。そして主へ見せてくれ、お前たちの絶望を。それを主へ示して見せろ」
「望むところさ。ルネさんの大切な歌を穢した罪、とくと贖え!」
 いのりの号令とともに全員が武器を展開、戦闘開始の合図となった。


第二章 開幕

 突貫するガルマの長剣を、鈴音と孤五郎が捌き、レプリカ―レへはイリスと燃衣が突っ込んでいく。
 それを見届けいのりと美空は救助活動を続けた
「芽衣お姉さま! 頑張ってください」
 その声に振り返ることなく芽衣はブルームフレアを放つ。
 その煙の中ガルマは舞うように剣をひらめかせ、鈴音に剣を叩きつけた。
 そのまま鈴音をおしのけ、ガルマは芽衣へと刃を届けようとする。
 だがそうはうまくいかない。鈴音が足を払い動きを止めたのだ。
「さて、再度尋ねよう。本物と偽物の違いとはなんだ?」
 苦戦するガルマを見つめながらレプリカ―レは言った。
 響く歌が本物でないと、だれが証明できる、そう言う問いかけ。
「それは人によって、立場によって違うと思うよ」
 いのりが冷たく言い放った。
「一概に答えは出せない、でも君が無理やりおしてるこの歌は。本物なんかじゃないよね」
 いのりはガルマが傷つけた女性を診ていた。肩口の傷はひどく逆流した血液によって毛細血管を圧迫、眼球が血にそまっていた。
「ボクがもっと早くつけていたら……」
「どうか……」
 女性は手を伸ばしいのりに言った。
「どうかあの子を」
「あの子? ガルマに取り込まれた女の子のこと?」
「ええ……どうか、聖女様……」
 そう女性は意識を失った。大丈夫、死んではいない。だがここでは完全に治療することは難しい。
 いのりはその痛々しい傷をみてそう判断した。美空が戻ってくるのが見える。
 彼女にまかせよう。
 そう祈り癒す聖女はガルマに向き直って言い放った。
「ボクにとってキミは本物でも偽物でもどっちでもいい。暴れるなら倒すだけだよ。その子をお母さんのところに返してもらう」
 女性の血にぬれた聖女、白銀の衣はところどころ、ロザリオを同じような真紅に染まっていた。
「うーん、ナンセンスだ、わたしが満足できる答えではないな。よしお前はいらない、殺そう。」
 そう空を飛び一直線にいのりに向かうレプリカ―レ。
 両手に宿した高エネルギーの塊をいのりへ叩きつけようとする。
 しかし、それはイリスに阻まれる。
「やらせないです!」
「ふーむ。……ここには多くの偽物がいるようだ」
 その言葉にアリューが顔をしかめる。返答代わりに理夢琉は銀の魔弾を放った。
 それを顔面に受け歯噛みする愚神。一瞬飛行を中断し対空、だが止まったのがいけなかった。
 いつの間にか跳躍しその背中に張り付いていた燃衣。
 その瞳の色が鈍く光り、そしてそのまま渾身の力で愚神を地面に叩きつける。
 地面に当たり勢い余って跳ね返るレプリカ―レ。その体をイリスがシールドバッシュで弾き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおお!」
 レプリカ―レはバウンドする体を翼を使ってコントロール、素早く体制を立て直し、前方に手を向ける。そして火球を三つ放った。
「果たして、ここにいるすべてが贋作だと、あなた達に言い切ることができますか?」
 レプリカ―レがそう歌うようにいい、爆炎が公園の地形に風穴を開けた。
 その爆風から一般人を守りながらいのりは告げた。
「例えばガルマさんが本物でも、キミが本物のルネさんだったとしても、人に危害を加えるのなら止めなきゃいけない。ボクらがやることは変わらないよ」
「屁理屈だな!」
 だが爆風に遮られイリスたちが接近できない。それと同時にレプリカ―レはその手の中に特大の爆炎を宿し。
「そんなに人の心が簡単に割り切れるわけがないでしょう?」
 それを両腕で叩きつけるように放った。
 それを撃墜しようとアルは瞬時に雷神ノ書に持ち替えイカヅチの矢を放つ。
 それが空中で激突、周囲に爆風をまき散らした。
 その間に燃衣が側背面に回り込み前方をイリスが抑える。
「面白い!」
 レプリカ―レはその羽に伸ばされた腕を回転しながら弾き、爆炎を放ち回避。
 たいして背面をとることになったイリスは、剣から黄金のオーラを飛ばし翼を切り落としにかかる。
 それをレプリカ―レは地面を爆破することによって防ぐ。
 次いで燃衣に接近し、腹部に両手をあて爆破。
 直後、煙を体に纏わせながら切りかかってきたイリスをひじ打ちで止め回転、片手で包み込むように顔に手を当てそして地面に叩きつけた。
 そして爆破。
「そして、あなたの隣にいる友が真作だと言い切ることができますか?」
 次いで襲いかかる燃衣。
「……え? あぁ、コピー戦法は戦術としては厄介ですね。でも今回は入れ替わるタイミングが無い、現実的じゃない。え、そういう話じゃない?」
 その言葉をネイが継ぐ。

――……「どうでもいい」な、下らん
ならば桜は全て贋作か?アレンジ曲は贋作か?
異世界の存在がコピーで無い保証が何処にある?


――其処のなんちゃって絶望野郎が真だとしても、今はただの敵だ
スズやルネの完璧なコピーが現れるとも、志を共にするなら仲間だ
重要なのは「行動」だ……「何をするか」だ

「つまり、作られた仮定や理由は問題にならない。ということか? 甘いな」
 レプリカ―レは問いかける。
 ネイはその言葉に頷き、そして弾丸のように地面を駆けた。
 高速接近。籠手の爆発するという特性を利用し加速、体制制御。
 燃衣は両手の輪光を火焔と変えて。爆炎に加速度を手に入れた拳ででレプリカ―レの腹部を穿つ。
 レプリカ―レが二つ折りになって吹き飛んだ。
 地面に横たわった今がチャンスとばかりにリムルとアルの魔法攻撃が降り注ぐ。
 その間に燃衣はイリスを助け起こす。
 いのりがレプリカ―レの様子を見据えながらそのそばに膝を下ろした。
「いつもごめんね」
「大丈夫です、これくらい」
「うがあああああああああああああ」
 その時突如叫び声が響く。
 あたり一帯を無造作に、力の限り爆破していくレプリカ―レ、照準もなにもあったものではない。
 だがその攻撃に巻き込まれる一般人はいなかった。
 美空は華麗に爆炎を避けながら親指をたてる。
 彼女の奮闘のおかげで一般人の非難は完了していた。
 そしてひとしきり煙も収まったところでレプリカ―レがいのりに向かい言い放つ。
「さて、答えを聞こうか。聖女さん?」
 ほかの者の答えでは不満足だったのだろう、レプリカ―レは名指しでいのりを呼んだ。
 いのりは答える。
「出来るよ。何か疑う余地がある? 疑心暗鬼になれば何でも疑えるけど、そんなことは無意味だよ。コギト・エルゴ・スムってね」
「われ思う故に我あり? それが存在証明であると? 確かにそれは一つの答えでしょう、ただ問題解決にはなっていない」
「どういうこと?」
 いのりは眉をひそめる。
「あなた達は何を言いたいの? 何をもとめてるの?」
「じきわかる、わからせる!」
 そうレプリカ―レは両手をフリーにし迫る燃衣へ迎撃の姿勢を見せる。
「爆破なら、僕もできます」
 鋭い蹴りがレプリカ―レの脳天にさく裂した。それと同時に炸裂音。
 レプリカ―レの脳を揺らす。
「おごごごごご、脳はやめろ」
 たまらずレプリカ―レは空へ、しかし空を飛ばれては厄介だ。
 そうアルが武器を持ち替え接近。蛇腹剣を足にからませ飛ばせないように引いた。
「小賢しい!」
 両手から爆炎、しかしそれを巨大な盾で受け流すイリス。
 その背後にはアルが隠れていた。そして頃合いを見計らってアルは盾の陰から躍り出る、しかしそのアルは三人に分かれていた。
 ジェミニストライクが綺麗に決まる。
 ひるむレプリカ―レ、そしてそこに理夢琉が銀の魔弾を叩き込む。
 地面に脱落するレプリカ―レその体はピクリとも動かない。
「あまりチョロチョロしないで、止まってちょうだい」
『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』と同じ口調でアルは告げ、縫止でレプリカ―レをしばりつけた。
「ぬおおおお、ああああああ!」
「これでしばらく動けないはずよ」
「あああああああ! ぐあああああああ!」
「いえ、だめです。そいつたぶん!」
 イリスが叫んだその瞬間。
「塵となれ!!」
 レプリカ―レはさけび、そして自分ごと周囲を爆破。リンカーたちはその爆炎に巻き込まれ吹き飛ばされた。
 全員が地面に伏せり、起き上がると爆炎の中心にレプリカ―レが立っていた。
「似てる……」
 イリスは盾に受ける熱を感じながら言った。
――ああ、自分を顧みない戦法、相手の優理を自分の身を犠牲にしてでもなしにしてしまう判断力。
「あああ! お前ら疑っただろ、私の言葉で、今まで見ていた現実を!」
「しつこいな!」
 いのりが怒った。
 ネイも口調に覇気を滲ませて告げる。
――どうでもいいと言った筈だ!
 言葉でプロレスしたいなら匿名掲示板にでも引っ込んでろッ
 喋るならテメェらが死者をコピーする理由を言えッ
 その号令と共に燃衣は再び戦闘姿勢を作った。


第三章 託されるという呪い

「本物だろうと偽物だろうと美空には同じに見えるのであります。でしたら美空にとっては本物と同じ。しかして人類に仇なすものであるなら本物だろうと偽物だろうと美空は断固その野望を阻む覚悟であります。さあ、かかってこいなのであります」
 美空はそうガルマに言い放ち、その剣を盾で止めた。
 彼女は後ろに倒れている一般人の盾になるべく注意を引いたのだ。
 そんな美空にガルマは無造作に剣を叩きつける。
「闇に打ち勝てる光など無かったのだよ。」
 そうくすんだ輝きを持つ刃を振るうガルマ。
 それを見て危機を察知する美空、これは防げない。
 そんな状況を見かねて孤五郎は突貫。スラスターをふかせて急接近した。
「少なくとも私達程度では、この闇を照らすことはできない」
 刃を振るわれる前に止め、その広範囲攻撃を妨害する。
「事情は知らん、敵として向かってくるなら撃破あるのみだ」
 ガルマが体制を立て直そうと後ろに飛ぶと孤五郎がスイッチ、孤五郎の陰から輝夜が飛び出し、逃走を許さない、その大剣を叩きつける。
「この太刀筋、どこかで」
 そして輝夜の瞳の中にある、この悲しみとも愛とも知れぬ重たい色を、ガルマはどこかで見たことがあったはずだ。
 だが、何一つ思い出せない
――偽物はなぜ生まれてくるかと尋ねていましたね?
 黒鉄は言う。
「そんなの誰かが作ったからに決まっています、そして作られたからにはそこに意味と理由があります」
「正解! 望まれて生まれてくるのさ、何かのかわりになるべくね!」
 レプリカ―レのうれしそうな声が響く。
「がるまあああ! 私を回復しろ」
 次いでレプリカ―レの叫び。
「承知した」
 それにガルマは二つ返事で答えた。
「やらせない!」
 そう輝夜も孤五郎も大剣を振るうが、ガルマはそれを受け止める素振りも見せない。
 ノーガードのクリティカルヒット。
 それをものともせずにガルマはレプリカ―レの傷を癒していく。
「なんで、なんでそこまでして……」
 芽衣は悲痛さをにじませた声音で問いかける。
「全ては、H.O.P.E.を滅ぼすために」
 そうガルマは体に突き刺さった大剣を掴んだ。
 するとぴったり吸い付いたかのように刃が動かない。
「ガルマさん!」
 ゼノビアが叫んだ。
「アンリエットさんを、殺した、愚神と同じこと、するの?」
 それに対してガルマは悲しそうに微笑んだ。
「それで満足? 誰も泣かない世界を創るって約束……二回も破る、の?! どうして……?」
「知った風な口をきくな」
 ガルマは剣が割れるのではないかと言うくらいにそれを強く握りしめた。
「お前たちは失ったことがないからそんなことが言えるんだ! お前たちはのうのうと日常を謳歌し、これからも守られて生きていく、そんな奴に、そんな奴らに、私の苦悩が!」
「知った風な口をきかないで!」
 ゼノビアの叫びをあげる、その言葉はその場にいる全員に対する侮辱だから。
「あなただけが何かを失ったなんて思わないでください!」
 興奮しきったゼノビアを制し、孤五郎は言う。

「お前たちでは英雄程度では守れない……ね、否定はしないでおくよ
 能力者でもダメ、英雄でもムリ、まさしくその通りだ
 だったらその二つを組み合わせて互いに足りない部分を補い合ってみるかってね
 そのための誓約、そのための共鳴だと、少なくとも私はそう思っていたが?」

「う。うるさい!」
 そうガルマは剣から手を離し地面に突き立てた長刀を握る。
 震える手で真っ直ぐ剣を構えそして輝夜に切りかかった。
 輝夜はそれを無言で受ける。
「私は! 私は!」
 輝夜は以前のガルマの正確無比な剣技を覚えていた、今受けている剣劇がでたらめであることも見抜いていた。
 冷たい瞳が、ガルマを見つめる。
――ついでに言うならあなたの抱える不幸も悲しみも怒りもそんなに珍しい物ではないのです。
 孤五郎がガルマの間に割って入った。
 ライオンハートを肩に担いで、ガルマの剣を受け止め。クリスタロスをガルマの腹部に当てる。
 そしてそのまま、スラスターを全開でふかせて、
 切り抜いた。
「がはっ」
 装甲が砕け、寸断されかけた胴、その断面が泡立って接着されていく。
「少女を解放するんだ、これ以上罪を重ねるな」 
 孤五郎がそう告げる。
「言葉も、思い出も……気休めとしか思えない気持ちは、私もわかります」
 うずくまるガルマに歩み寄る芽衣。
「わかるものかぁ」
 絞り出すようにガルマは言った。
「だったらなぜ、失って耐えられる?
 その痛みになぜ狂わずにいられる、おかしいだろ。
 なぜ大切な人がいない世界で笑っていられる、それが大切な人への裏切りだとなぜ思わない」
「全然平気じゃないです、だって……」

「私の生きる世界は、まだ暗いままだから」

 ガルマが見上げる芽衣の瞳には光がなかった。
 思い出していたのだろう。
 両親が自殺したあの日。そしてあちらへ行きたくて行きたくて。片道切符を求め歩み続けた日々、積み重ねた自分を殺すという殺戮と凶行の数々。
 今でもあの時の気持ちは残っていて、夜中眠りにつくときに耳元でささやかれることがある。
 あっちに行こう、ここにいても意味などないのだから。
 大切なひとのいる場所へ。行こう。
 次の日の朝、芽衣は決まってねっとりとした汗をかいて目を覚ます、まず先にここがどこだかを確認する。
 病室なのか、自室なのか、あの世なのか。
 そんな目にあって、消えないつらいことを胸に抱いて、生きていて。
 意味があるのか、ないのか、それは芽衣にもまだわからない。
 だからこそ芽衣には、ガルマが楽になろうとしているだけに見えた。
 そしてきっとそれは正解なのだろう。

「闇を照らせない、かもしれない。私たちの力じゃ、まだ」
 ゼノビアがガルマの前に膝を下ろした。
 レティシアが止めるのもきかずにだ。
「でも、そんなこと、闇そのものの今の貴方に言われたく、ない!」
 芽衣がその言葉を肯定する。
「こんなに真っ暗な……生きるのも大変な闇の中に、他人を巻き込もうとするのは間違ってます」
「お前たちの言葉など聞けるか! 私は覚えているH.O.P.E.のお前たちの私を嘲笑う顔、お前たちは、『アンリエット』の死体を足蹴にして、弱いから死んだのだと。言ったではないか」
 絞り出した悲痛の声、それに二人は驚いた。
「私達そんなことしてません」
「しただろう、私は覚えている、お前たちのH.O.P.E.の嘲笑が! 目に焼き付いている!」
 ほとばしるガルマの霊力、それが自分とそしてレプリカ―レを癒していく。
――狂ってる。
 黒鉄は言った。ガルマはこの世界に存続するためのエネルギーすら使い自分たちを撃とうとしている、その結果自分が消滅していしまう可能性すらあるのに。
「リンクバーストのようなものか?」
 孤五郎の耳がピクンと揺れた。
「分からず屋だのう」
 その姿を見てやっと輝夜が口を開いた。
 こききっと拳を鳴らすと。
 一度瞼をおろし、ため息をつく。そして輝夜は言った。
「あれをやるぞ、鈴音」
――でも安定しないって……
「背に腹は代えられん」
 頼む……
 そう懇願する輝夜。
 鈴音は長らく忘れていた、輝夜は誰かのために一生懸命になれる鬼の子だ。
 そして、こんなに鈴音に何かを頼み込んできたことはなかった。
 叶えたい、鈴音はそう思った。
 輝夜の願いを叶えたい。

「「リンク」」

 次の瞬間、芽衣とゼノビアを下がらせ輝夜が前へ、その身を纏うのは漆黒の闇ではなく、輝くような月の光。
 新月は終わった、今宵は満月だ。
 紅い真紅の衣が麗しいその姿を飾り、風邪になびく髪は金色。
 金色の瞳に意志の強さを宿し月欠ノ扇をたたんで微笑みかけた。
 これはかつて輝夜が朱麗鬼と呼ばれていたころの姿。これは輝夜が全力を出すという意志表示に他ならない
「……我らはもはや語るまでもなかろう。来い! 共に躍り狂おうぞ!」
「おおおおおおお!」
――……ガルマさんは……あの時確かに泣いてた。輝夜が何を考えてるかわからない……だけど私は。輝夜を信じる!
 まず切りかかったのは孤五郎だ。
 まずライオンハートを叩きつける、それをガルマは体をそらし、剣で滑らせるように回避。そのまま一歩進み懐へ。
 しかしそれは孤五郎の予想の範囲内。
 スラスターをふかせて体当たり、そのまま軽く弾き飛ばしてから右足を軸に回転。遠心力を乗せた魔法剣を見舞う。
 それをガルマは真っ向から受け、吹き飛ばされる。
 ガルマは噴水の中に叩き込まれた。
 上がる水しぶき、その向こうに真紅の陰。
 直後ガルマは後ろを振り向き輝夜の大剣を受ける。
 その重量がガルマの骨身を震わせた。
 そして輝夜の動きは素早い、叩きつけた剣を返しガルマの剣をはじきあげ、体制を崩したところに一歩踏み込んで斬撃を。
 肩口からバッサリ切りつけられ霊力があたりに散る。
 その側面にゼノビアの弾丸が命中。
「ぐあ……」
 肩口を貫通した傷口を抑えながらガルマは自分の傷を癒していく。
 その胴と足を狙う二つの刃。
 ガルマはそれを後方宙返りで回避。
 立ち止まって剣を前に構えると、ブルームフレアがさく裂した。
 その視界を覆っている間に輝夜はその石突で顔面を強打。振り上げた大剣で着るというよりは巻き込んで地面に叩きつけるように大剣を振った。
 地面に倒れるガルマ
 その両肩に輝夜と孤五郎の大剣が突き刺さる。
「私は、誰も泣かない世界を作ると、大切な人達を守り、嘆かないと……アンリエットさんや、英雄であるガルマさんの想いを受け継ぎました」
 芽衣が言う。
「……だから、私はあなたを殺します」
「失った悲しみを知る者として、死者の想いを継ぐ者として、誰かの大切な人を失わせるわけにはいきません」
 かつて涙をぬぐった少女は、誓ったのだ。もう、誰にも涙を流させないと。
 守護の決意を胸に輝夜はその大剣を振り下ろす。

第四章 ニセモノ

 ガルマの回復を受け、少しだけ体力が戻ったレプリカ―レを見て、対レプリカ―レ班は警戒心を強めた。
 イリスはいったん燃衣も下がらせて様子をうかがう。
「この敵、前に戦った奴と似てる」
 直後、レプリカ―レは飛翔しながら二人へと接近した、正確には後衛を狙ったのだが二人に翼を攻撃され阻まれる、そして地上へと脱落した。
 その羽の片方を切り落とす。
 「があああああああ!」
 これで空は飛べない。
 次の瞬間燃衣が足を払い地面にレプリカ―レを叩きつけて、そして拳をつきつけた。
 お互いが満身創痍、上がった息を整えながら次の動きを待つ。
 その間にアルが口を開いた。
「相手が本物か偽物か、かぁ……難しいこと言うねぇキミ。……宗教とかお薬とかそんなもんだよ、人によって効果や判断は違う」
「そうだなぁ」
 レプリカ―レはそうつぶやいた。
「春香さんがすぐ『あれはルネさんじゃない』って言ったなら、そういうことなんじゃない?」
「一側面だけ見ればそうかもなぁ」
「理屈で示せるものじゃなくて。……言っててワケわからなくなってきた、ちょっと待って」
 額を抑えて考え込むアル。その言葉をアリューが継いだ。
――何故そう思う
「何がだ?」
――真贋であることになぜ、そこまで拘りを持って、突き詰めて考えようとする。
 アリューは知っている、自分が本物であるか偽物であるかなど。『本物』は考える必要がない。
――お前も偽物か?
「私は違う!」
 悲鳴のようにレプリカ―レは言った。
「結局さ、主観の問題だよね」
 アルは言葉をみつけた。
「……何かを自分が本物だと判断して人に薦めたいと思っても、その存在をちょろっと知らせた後は本人の判断に任せるしかないよね」
「私も最初からそう言っている、主観の問題、そう脳が認識するから本物。だがなそれでいいのか?」
「なにが? もうめんどくさくなってきちゃった。あんまりシツコイと、逆に信頼されないよ?」
 理夢琉が言葉を継ぐ。
「そうか、偽物であっても本物になればいい、そう言うわけだなお前たちは」
 イリスがレプリカ―レに刃を突きつけ、アイリスが言った。
――感じて、考え、歩いて、生きる。その経験が、歴史が、唯一の個人を形作る……例え姿かたちが同じだろうと別人だよ。
「別人か」
――例えどれだけ精巧につくろうとも歴史は作れない……今その場で作られたものには『今誕生した』という歴史しかない
「今誕生した……、な。例えば、今誕生した者にとって代わられる苦しみとはどれほどのものだろうな」
 何かするつもりだ、そう燃衣は判断し首を締め上げ、レプリカ―レの体を持ち上げるようとする。
 チョークスクラム。喉笛を片手で銜え込み、そして地面に叩きつけようとレプリカ―レの体を持ち上げようとした、しかし。
 スポン。
 そう音がして。レプリカ―レの頭が取れる
「……なッ!」
 驚きで言葉を失う燃衣。
 同時に足元に転がってきたのは、ボール。
 そしてそれに燃衣は信じられないものをみた。
 ボールの表面に十の瞳が浮き上がったのだ、そして突如映える四本の角。
 それは頭だった。
「え?」
 そしてその頭は浮き上がり愚神の首の上に収まると、その愚神は笑った。
「おおおおおおお、記憶が、記憶が戻る、私は、俺は、僕はああ」
 直後愚神は自分をまきこんで周囲を爆破。
 地面に伏せった燃衣は彼の叫びを聞いた。
「威力が足りない、おおおお、あの女に力を奪われたのか! くそ、殺してやる、お前たちを殺した後にあの女を」
「まさか、あれって!」
 そしてその異常事態を真に理解できているのも、そしてその現象の意味が成すところも理解できているのはイリスだけ。
――本気か? いいだろう、燃衣あれだ、あれをやるぞ。
 いったん距離をとったレプリカ―レに燃衣が突貫する。
 それをものともせずに振り上げられたレプリカ―レの腕、それを蛇腹剣で縛るアル。
 そして動きを封じられたレプリカ―レに燃衣がその拳を打ち付けた。
 それは単なる正拳付きではない。その拳の表面は熱を持ち、今にもあふれ出そうなほどエネルギーを蓄えている。

―― 消えうせろ……ッ!<貫通連拳>ッ!

 ネイはその全エネルギーを解放した。
 それはほぼ同時に放たれる三発の拳。
 爆炎を纏い、まるでネイルガンのようにリズミカルに発射された拳は、レプリカ―レの胸を熱し、えぐり、そして技名通り腕を貫通させた。
 決着である。もはや回復しきれない風穴が、レプリカ―レの胸に開き抗う術は残されていなかった。
 対してガルマはというと。彼も満身創痍で地面に突っ伏していた。それを輝夜が見下ろしている。
「落ち着いたかの? ガルマ」
「わたしは、わたしは」
「ガルマさん」
 レティシアが言う。
「あの時、私たちに、護れと言ったのは嘘だったのですか」
「まもれ? 違う、私は言ってない」
「芽衣さんがアンリエットさんのプレゼント手渡したの。覚えていないのですか?」
「あの指輪は、二人を繋ぐ絆だったのに」
 芽衣はガルマの手を取って言った。
「あの指輪を壊したくなる気持ち、わかります、けど壊した時、きっとガルマさんの胸、きっと痛んだんじゃないんですか?」
「なぜ、それを」
「その気持ちもわかります」
「だって、私たちは。あなたと一度」

 その時ガルマは頭を押さえうずくまった。
 脳裏にフラッシュバックする記憶がある。
『この世界では本当に愛し合ってる人たちはおそろいの指輪をつけるんだよ』

「ああ、ああああ」

『これからもいっしょにいようね、ガルマ』

 涙で霞んだ目をこすると、そこにはいた、確かに。この少女たちが。
「なんだ、この記憶は……」

「ガルマあああああ。やめろ、思い出すなぁああああ」
 突如レプリカ―レが叫んだ。等の本人は頭を押さえまるで胎児のように丸まっている。
「私も嫌だ、思い出したくない、あああああ」
「やっぱり……ボク達が倒したあの愚神こそが……」
 イリスは青ざめた顔でその愚神を見つめる。
 その時、いのりは作業の手を止めた。
 今のうちに公園に突き刺さるクリスタルのサンプルを手に入れようとしていたのだ。しかしその水晶から、いま声が聞こえた、甲高い女性の声が。
「わらわ、殿?」

「『本物』は『本物』になったほう、であれば、この私が偽物か……」

 突如公園中に叫び声がこだまする。
 それはレプリカ―レの慟哭だった。

「お前たちは『与えられる者』の発想でしかない『奪われる者』になっても見ろぉおお」

 そんな苦しむ愚神二人それを見てアリューは茫然とつぶやいた。
「俺も、おなじか?」
「え? アリュー」
「自分が偽物で造られた存在というなら。その主は神でこの世界も偽物だとでもいうつもりか」
 アリューを支配したのは疑念。もし自分ではなく本物の自分がいて。その本物の自分の居場所を自分が奪っていた場合、どうすればいいのか。
 そして本物が現れた場合、偽物の自分は『アリュー』はどうしたらいいのか。
「見もせず話したことのないオリジナルなんて知らない。心を通わせ共に歩むことができる貴方は私だけの英雄、誓約を思い出して!」
 そう理夢琉は共鳴を解き、アリューの手を取って言った。
 リンカーたちの混乱をよそに、愚神たちの嘆きは増していく。
「俺を! ボクを迷宮に帰してくれ」
「私は、恩人をこの手で傷つけていたのか? 俺と彼女のことをずっと覚えていてくれたもの達の心まで傷つけたのか」
「ないのか? 迷宮はもうないのか。俺の帰る場所はもう」
「私の弱さのせいで、彼女が救いたいと願っていたもの達を殺すところだった。私が、私が弱いせいで」
 ここには勝者などいなかった、ただ謀れたものの嘆きと、手を下した者がいるだけだ。

「クリスタルの向うから聞こえる」

 いのりはあわててクリスタルから離れた、その向こうに何かが見える、そして笑い声が聞こえる。

――……さっきから、見ているのはわかっているぞ!
 ネイが鋭く水晶へ声を飛ばした。

 次の瞬間だった。
『下品な奴らじゃのう。少しは静かにしておれんのか?』
 公園内にそうはっきりとした声が響き渡る。
 公園に突き刺さるクリスタルから光が発射され、そしてそこに映し出されたのは水晶の体持つ女性。
「ルネか?」
 ルネを知るものならそれを見て思っただろう。ルネを成長させ、性格を悪くしたような女性だと。
『どうじゃ、本物の滅びの歌は』
 茫然と口を開きたがらない他のリンカーに代わりアイリスが答えた。
――あれが、本物だというのか? 中身のない歌なんてCDから流した音源と何の違いがある? それを本物だとは言えない。魂がない。
『ではきくが魂とはなんじゃ? どこにある、どうやって表現する?』
「もう1人のルネさんやアリューが私の前に立ったとして」
 理夢琉が言葉を継ぐ。
「思いを共有或は敵対のプロセスを経て
 新しい友達、英雄、敵として全てが本物という事よ。
 どんなに精巧でどんなに表情が同じでも
 思いが、心が、言葉が、意志が、かよわなければそれは偽物
 どんな姿でも、名前を忘れても
 求めて求められて思いと心と言葉が通じるならばそれは……本物になる」
『それがお前の答えか理夢琉』
 アルが言葉を継いで話し出す。
「ボクあるPVで演技したの。
主人公【僕】と一緒に魔王に挑んで、死んじゃう【君】って役。笑顔が眩しい子
台詞全部アドリブだけど…死ぬ前に主人公に
【笑ってよ。君が笑顔でいる限り、ボクはきみの中で生き続ける】って言ったの
意識せず口からぽろっと出た時に、ああ、死に際ってそうなんだ……って妙に納得したんだよね」
 アルは言った。もう聞こえているか分からない愚神に告げる
「【確かに【君】は死んだ。
でも、【僕】笑顔の中に【君】は……【君の魂】は確かに存在する】
死んでもいなくならない」
 理夢琉はその言葉に同意した。
「愚神を経由したものはその本質を歪められたもの
旋律が滅びの歌だったとしてもルネの思い、それを認めて戦った春香の強さは
希望の歌として本物になる!」
「そうです、お前がどれほど、ルネさんを汚そうと、魂が僕らの中に残るなら。本当のルネさんは、その思いは続いていく」
 燃衣が言葉を継ぐと、アルはルネの歌を、希望の歌を口ずさんで見せた。
「レプリカーレ。どんなに写し上手でも、春香さんの中のルネさんの【魂】までは、キミには……」
 そんなアルの言葉を遮る愚神。
『まぁ、わかった、お前たちがどれだけルネを大切に思っているかはわかった、では我から新たな出題じゃ』


 貴方が『偽物』で『本物』と相対したとき、あなたはその席を返還することができますか?
 貴方が『本物』で『偽物』があなたの席に座っているのを見た時に、あなたはどうしますか?

「そうか、私は、偽物だったのだな」
 その言葉を受けてつぶやくガルマ。
「偽物とはなぜ、生まれてくるのだろうな」
 完全に失意に飲まれかすれた声でつぶやくガルマ。
「本物を手にすることが難しいからじゃないかな」
 それにいのりが答える。
「でも偽物だって本物を超えられる
 そもそも本物か偽物かを決めるのは自分自身だよ
 ボクはボク自身を何かのニセモノだって感じることがあるけど、それは自分を疑っちゃってるから……だと思う。
 いつかボクもこの疑念を消してみせるよ 」
 その手は無意識にロザリオに添えられていた。
『はたして本当にそうかの? できるか分からないと不安を抱えた状態で一体何が成せる? いのり』
 そういのりを鼻で笑って、愚神は満足そうに言葉を続けた。
『ああ、お前たちの顔は覚えた。じきに挨拶に伺うとしよう。よい、歓迎のもてなしはお前たちの命でよい』
 そして光が消え、女性の姿が消えた。もう帰ったのか、そう誰しも思った時また、声が響いた。
『おお。忘れて追った。最後に置き土産じゃ。レプリカ―レよ』
「なんだ、俺はもうお前には」

『自爆しろ』

「え? なに? 俺が?」
 まずい、そうイリスが叫んだ時にはすでに遅く。レプリカ―レの頭が膨らみだし。
「やめろ! やめてくれ、ああああ!」
そして強烈な閃光と共にはじけた。
 灼熱が公園の芝生を焼いていく、それにすべてのリンカーが巻き込まれた。
「芽衣おねぇさま!」
 そう美空が芽衣の前に立つもその爆破の威力は強大で。
 水晶も、そしてガルマも焼き尽くされてしまった。

『ロンドンにいるお仲間たちも時期にお前たちには正式に挨拶を済ませたが、お前たちにはまた後日時間をとることとしよう。それまでは敗北感を抱いて眠るがよい』

エピローグ

 全員が呻き伏せっていると春香が駆けてきた。
「イリスちゃん、燃衣さん!」
 その手には応急手当セットが抱えられている。
「春香ちゃん、大丈夫…?」
 燃衣は軋む体を起こし問いかける。
「燃衣さんの方が大丈夫か心配だよ」
「何を言われたの?」
「私、世界を壊したいんだろうって、言われました。ルネの守った世界だから壊したいわけないのに、おかしいですよね」
 そう春香は笑って見せる。
「春香……ルネなら、どうするか考えてみろ……前だけを見るぞ」
「えっと……」
 孤五郎が補足する。
「問題なのは歌の真贋ではなくその歌が発揮した効果と使われ方だろう?
 あれを認めないというなら、二度とこんな事をさせないというのなら、道は絞られてくるだろう」
「足りない分は私たちがいくらでも補います
だからルネさんの遺志を背負う事はあってもルネさんに縛られてはダメです
そうなったら残された歌は希望ではなく呪いになってしまうから 」
 春香はその言葉に頷き孤五郎の手当てに取り掛かる。
 その隣で芽衣とゼノビアはガルマのいた場所をただただ見つめていた。
 いったいこの行いになんの意味があったのか。それをただただ問い続けることしか彼女たちにはできなかった。
 理夢琉は膝に頭を乗せたまま眠るアリューを見つめる。
(ルネさんとの誓約を全うした春香さんは優しくて強い。アリューがやるべき事を見つけたなら私も……強くなろう)
 そうアリューの頬に手を当てた。
 その一同から離れ電話をかけているいのり
「遙華、今から行っていいかな? 大丈夫、みんなよりはまし。わかった護送車に乗っていけばいいんだね。うん。ありがとう」
 彼女は別たれてしまった片羽を思いロンドンの方を見つめた。


外章 
 
 ここはグロリア社の研究室。
 いのりはここで何とか採取できた水晶の破片の解析を遙華に依頼していた。
「待たせたわね」
 検査結果は一時間ほどで出た。
「悪い知らせと、悪い知らせどっちがききたい?」
「どっちも悪い知らせだよね?」
 いのりは頬をかく。
「遙華のジョークわかりにくい」
 春香がブーイングを飛ばした。
「あら、ごめんなさい、でもパズルの最後の一ピースが埋まったのは、すごくありがたいことだわ。いのり。私が勝手に話を整理して説明していい?」
 いのりはうなづいた。疲れた頭にどれだけ入るかは謎だったが。
「それとロンドンの報告次第ではひっくり返る可能性があるということだけ覚えておいて」

「まず、このクリスタルは、ルネの破片と成分が98%一致。機能は音の拡散、つまり全方位スピーカーね。きわめて高性能だわ。」

「そしてドロップゾーン形成能力は愚神の歌を媒介したもののようね、そして今までの情報すべてを加味して考えられるのは。歌による脳内情報へのアクセス。そして精巧な模倣、模造」

「つまり?」
 いのりは問いかける。
「歌を暴力に使う嫌な奴ってこと……」
「遙華!」
「え? なに?」
 突然声を上げた春香。そしてぎょっと春香をみる遙華。
「私戦いたい」
「唐突ね……。だったら今英雄が独りあぶれているわ。彼女にアプローチしてみたらどう?」
「なんていう英雄?」
「歌をつかさどる英雄『erisu』よ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
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