本部

罪に焼かれて

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
2人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/14 20:09

掲示板

オープニング

「一件目どうする?」
「俺はカナちゃんに会いに行く」
「お前は本当にあのブスが好きだよなあ」

渋谷マークシティ前に停車したタクシーから、二人の男が降り立つ。
彼らは神泉に努めるサラリーマンなのだが、昨日が給料日ということもあって財布が潤っている。潤っていると、紐も緩みがちになるというものである。二人は贅沢にタクシーで渋谷に乗り出し、キャバクラをワンセットで梯子しようという算段でいた。
二人のうちデブの方は降りた足でセンター街へ向かおうとするのだが、のっぽな方が喫煙所の方を見て足を止めた。

「ちょっと待て。一服させてくれないか」
「ああ、いいよ」

そこで二人は連れ立ってハチ公前の喫煙所へ向かった。
いつも満員なのだが、今日は給料日明けなのでいつにも増して夜遊び風の男女でごったがえしていた。
混雑に片眉を吊り上げるのっぽが壁で仕切られた喫煙所の中へ入ると、幸運にも目の前に座っていたカップルが席を立ったところであった。

「ラッキー、座ろうぜ」
「おう」

申し訳程度に設けられたベンチに腰掛けたのっぽが懐から煙草を取り出し、一本咥えて火を付ける。紫煙渦巻く喫煙所内に、新しい煙がはっきりと浮かび上がった。
デブはその間、携帯電話で指名の女の子と連絡を取り合っていたのだが、ふと顔を上げて面白いことに気が付き、明後日の方向を向いてたそがれているのっぽを揺り動かした。

「おい、見ろよ」
「あ?」
「この煙、兎そっくりじゃないか?」
「おお……本当だ」

のっぽの煙草から立ち上るゆらりと揺れる白い煙は、ぼんやりと円を描いた先で細長く二つに分かれ、まるで兎の顔のように見えるのであった。煙は常に形を変え、奥行が出て立体的にすら見える。

「すごいなあ。これは撮っといた方がいい」
「そうだな」

二人は笑いあって携帯のカメラでぱしゃり、ぱしゃりと2、3三枚の写真を撮影していたのだが、その笑顔は間もなく奇妙なものを見る表情へ変わった。様子がおかしいことに気づいたのだ。煙が全く消えていかないのである。

「なんか変だぜ」

目の前の煙の塊を凝視して、デブが気味悪そうに言う。のっぽも怪訝な表情で押し黙り、ゆっくりと煙の兎へ触れようと手を伸ばした。その瞬間だった、その声が聞こえたのは。

「ウサギミエタ?」

二人ははっと我に返り、お互いに顔を見合わせる。のっぽがアイコンタクトでデブに喋ったか?と訴えたが、デブはぶんぶんと首を横に振る。当然である、聞こえた声は女性じみていた。それも古いビデオを早回しで再生したときのような、抑揚の拙い君の悪い声だったのだ。
渋谷の喧騒が彼らには遠く感じられた。
二人は恐る恐る視線を向ける、消え去っていることを祈って、煙の塊の方へ……。

より輪郭をくっきりとさせた兎型の影は、まだそこに浮かんでいた。
消えるどころかスーツのようなものを着た人間じみた身体までもが煙から見て取れ、顔に至っては目鼻立ちすら伺い知れるほどにはっきりと。
そして突如として、煙の兎の鼻のあたりからにゅうっと6本の黒い触覚が飛び出してきて……。

「ウサギミエタ?」

煙兎の口が動く。

「ぎゃああああ!!」
「ひいいいいい!!」

のっぽとデブは、悲鳴を上げて一目散に喫煙所を飛び出した。
それを皮切りに、喫煙所内は同様の体験をした一般人たちが次々に悲鳴を上げはじめ、ハチ公前は一転してパニック状態に陥った。

「ウサギウサギウサギ」
「ウサギミエ、ミエタタタタタタ」

表情のない煙兎の群れは徐々に足元までが造形され、読経のように口々に意味不明な言葉を呟きながら喫煙所の壁をすり抜けて駅前へ放たれていく。頭部を重たげに左右に振り、ゾンビのような頼りない足取りだが、一般人を襲うべく迷いなく徘徊する。駅舎の向こうから、満月がそれらの身体を怪しく照らし出していた。

……その頃、プリセンサーによる発生予知で既に準備を終えていた煙状従魔の討伐チームが状況を開始する。
今回の現場は渋谷ハチ公前交差点。既にHOPEスタッフによって避難誘導が始まっているが、完了まではまだ時間がかかる。
参加するエージェントたちは被害を出さないよう細心の注意を払う必要があるだろう。
あなたにもこの肉を持たないモンスターから、一般人たちを守り抜くことに協力して欲しい。

解説

達成目標
従魔の全滅

敵構成
・ミーレス級従魔『蠢く敵意』(コーションバニー)
『屍煙』(デンスモッグ)という技を使用します。対象に煙の身体を吸引させて内部から生命力を奪います。一般人に命中すると昏倒します。
煙由来の従魔で、共通して人間のような四肢と兎のような頭部を持ちます。
頭部のみがババロア状の実体と命中判定を持ち、それ以外の部位に命中した攻撃でダメージを受けません。
知能は低く動きは鈍重ですが体力が高く、活動停止には頭部を打撃や踏みにじりでしっかり潰す、燃やすなどが有効です。
より人間が多い場所へ移動する習性を持ち、これを利用すれば一か所に集めることができるかもしれません。

状況
場所は渋谷ハチ公前、時刻は午後7時ですが、視界は良好です。
多数の車が放置された道路上で戦闘となり、歩道の片側を従魔側、反対側を避難経路とします。
従魔は20体程度が3回に分けて従魔側ランダム位置にポップし、10ラウンド以内に従魔が全滅しない場合は従魔が避難経路に辿り着き一般人が襲われます。
なお、従魔は戦闘区域にいない一般人には反応しません。
また道路上バス車内に老女が一人、ランボルギーニ車内に女性が一人、路上で転んでいる男性が一人います。彼らは襲われるかもしれませんが、複数PLが同時に救出作業をすると殲滅効率が低下しますので注意してください。

リプレイ

「薄気味悪い従魔だな」
『こ、こんなにかわいくないウサギを見たのは初めてです……』

 従魔を倒した真壁 久朗(aa0032)が感想を口にすると、その身体に一体となった彼の英雄セラフィナ(aa0032hero001)が相づちを打つのが感じられた。頭部を裂かれた従魔は互いにくっつこうとウネウネもがいたので、真壁はそれを踏みにじって潰した。ぶよぶよの皮が破け、中身がべしゃと広がると、感覚を共有した"二人"は僅かに眉間を寄せる。

「おい、大丈夫か?」

 真壁が道路で転んでいるデブの男性に声を掛けると、従魔の白く濁った返り血を浴びて呆然としていたデブは我に返った。

「あっ、あの俺、友達とはぐれて……それで俺、足挫いてて……あれ?」
「……もう立てるだろう?」

 差し伸べられた手を掴んで立ち上がると、不思議なことにデブは挫いた足の痛みを感じなくなっていた。それはライヴスの恵み・治癒能力によるものだが、一般人のデブは何をされたか分からなかっただろう。真壁はデブを避難経路まで連れて行き、彼の友人と思しきのっぽの男性にデブを預けると、次の要救助者の下へ走った。

 ……バスに乗っていたお婆さんは逃げる乗客に押され、転んで腰を痛め座席下で身動きが取れなくなっていた。人々の声が遠くから聞こえる以外無音の車内へ、何者かが入ってきた。お婆さんが目の前で止まった足音に恐るおそる顔を上げると、そこに立っていたのはともすれば少女と見紛うような美少年・鳴神 命(aa0020)であった。

「大丈夫ですか? 歩けるでしょうか?」

 お婆さんは立ち上がったが、腰を庇って歩くのも辛そうだった。お婆さんは若い子に迷惑がられたくなかったのだが、それを察した鳴神は後ろ結びの長い黒髪を胸元へ流すと、お婆さんに背中に乗るよう勧めた。

「では、ボクが抱えますから」
「でも……悪いわ。外は敵もいるのでしょ。私は大丈夫だから……」
「弱きものを守るのは騎士の役目……らしいですよ」

 さあ、と促す騎士然とした鳴神を見て、お婆さんは少女のようだという印象を改め、まぁ……と感嘆を漏らした。
 お婆さんを背中に乗せ、いざバスを出ようという時。それはバスの壁をすり抜けて現れた。敵意を持った煙……従魔である。外では4人のエージェントが殲滅班として敵を引き付けてくれているが、全ての従魔をやり過ごすのは、やはり難しかったということか。

「敵の数が多いのは厄介だね」

 鳴神はお婆さんを支える手を片方離し、そこへライヴスを集中した。収束した光が巨大な鎌を形作る。ここでは扱いづらいが、煙を散らすには十分だ。蠢く敵意が屍煙を吐き出そうとした瞬間、鳴神の一閃によって従魔は引き裂かれ、座席に溶けたアイスのようなシミを作った。バスを脱出し、無事お婆さんを避難経路まで送り届けることに成功した鳴神は、残る要救助者に真壁が対応しているのを知り、殲滅班の加勢に向かった。どうせ1匹ずつでは相手にならないのだから、まとめてかかってきてくれれば手間も省けるのに……鳴神は内心そう思いつつも、獲物を握り直した。刃が月光を照り返し、オーラの威圧感が高まる。

「さて、ここからは本気を出してもいいかな? 目についたのからどんどん行くよ」

 ……一方、加賀谷 亮馬(aa0026)は接近を許した従魔を薙ぎ払っていた。

「なんてこった……全然可愛くねえ」

 兎型と聞いて想像していた従魔像とまるで異なる敵の姿に落胆する加賀谷。その横で紅葉 楓(aa0027)が、うさぎとくまのパペット……タナカさんとサトウさんをパクパクと動かした。

『さて、カエデ! ボク"たち"のチカラでとっととやっつけちゃおう!』
『……うさぎ。うさぎ……なぁ、かわいそうだから止めようぜ……?』
「いや、逆に遠慮なく叩き潰せるってもんだ。本当に可愛くねえ!」
『ガッデム!』

 引き付け役として固まっている加賀谷たちには従魔が群がってきている。
 加賀谷は付近で最も車高の高いラッピング・トレーラーの上へ飛び乗ると、アンチグライヴァー・ライフルを具現化した。機械化された黄金色の瞳が、スコープを覗く。従魔だらけの渋谷の光景は、加賀谷をいくらか高揚した気分にさせた。彼の身体を包む鎧の青色が、いっそう鮮やかさを増す。

「こりゃあ撃ち放題斬り放題ってな!」

 トレーラーの下では、向かってくる従魔に相対した紅葉が無言で幻想蝶にライヴスを注ぎ込んでいた。するとパペットたちがオーラとなって紅葉の周囲を浮遊し、白い肌が発光するように光に包まれたかと思うと、大人びた男性となって姿を現した。目鼻だちは30代の紅葉楓を思わせるが、表情をにぃっと歪めるように笑う様子は、普段の彼とはずいぶん印象が異なる。さらに無口のはずの紅葉が口を開き、彼らしからぬ台詞が飛び出した。

「さァて、お掃除といこうか」

 紅葉は細い腕で大剣を担ぎ上げ、燃えるような橙色の瞳に5メートル先の従魔を捉えた。行く手を阻む自動車は小石のように蹴り飛ばし、従魔の頭部を叩き割る!
 自動車が降ってくる轟音と非現実的な光景に、避難経路を我先にと逃げる一般人たちがひときわの悲鳴をあげた。
 そのうちの一台が、同じく殲滅班に加わっていたダグラス=R=ハワード(aa0757)の方へ飛来した。ダグラスはそれをひょいと避けて、従魔の白い返り血を浴びて煩わしげにする紅葉に、呆れたように声をかけた。

「楓、もう少しお行儀よくできんのか」
「あー、くっそだりぃな。敵さんもなんか気持ちわりぃしよォ。ていうか顔だけうさぎってなんだよ、変態かよ」

 仲間の豹変具合に肩を竦めつつ、ダグラスは自分の方へ向かってくる2体の従魔へ向き直る。素早くその背後に回り込み、手始めに1体の首を刃ですくい上げた。同時に鎌の柄を残る1体の頭部にめり込ませる。2メートル近い体躯と褐色の肌という印象に違わず、鍛え上げられた肉体が放つ攻撃は一撃一撃が凄まじい威力だ。従魔たちは同時に膝をついた。2体の首から下は霧散したが、切り落とされた頭部はまだ動いている。

「紫煙が兎に化けるか。ただの兎なら可愛げもあるがコレでは見苦しいだけだ……つまらん」

 ダグラスは捨て台詞を吐き、兎の頭を容赦なく踏み潰す。
 その前方では、小湊 健吾(aa0211)が加賀谷の狙撃によって倒れた従魔たちにとどめを刺していき、次々従魔を撃破していた。もっと効率よく倒す方法はないかと考え、小湊は思いついた。

「加賀谷ーッ、もうちょい下を狙ってくれ! 首を落とせばもっと時間が稼げる!」
「了解! 頭の付け根だな!」

 加賀谷は持ち前の狙撃センスを発揮し、次々と従魔の頸椎を撃ち抜いていく。首が皮一枚で繋がった従魔は倒しやすく、殲滅効率は上昇した。

「ナイスだ加賀谷! 騒ぎが広がる前に全部潰しちまおうぜ! あと年長者には敬語使えよ!」
「ハイハイ、任せてください!」

 しかし彼らの猛攻によって従魔がほぼ殲滅された頃……ふと雲が途切れ、渋谷駅前を月が照らし出すと、あちこちから再び大量の煙の従魔が沸き出した。

「ちぃっ、のんびりしてられる状況じゃねぇってか! 仕方ねぇ……ラロッ! 準備は良いかっ!」
「ははっ! やはり僕の力が必要となったようだね!」

 小湊が労働嫌いの自身の英雄に呼びかけると、ラロ マスキアラン(aa0211hero001)はそれに応え、赤いセダンの上に降り立つと仰々しく羽根帽子を胸にお辞儀をして見せた。

「そういうのいらねぇから、とっとと来い!」
「いいとも! 契約を忘れない律儀な君にラロの力を分け与えてあげようじゃないか!」

 ラロはふわりと浮き上がり、思念体となって小湊の肉体に宿る。リンクドライブ状態となった小湊の身体にライヴスが漲った

「集まったところを一気に焼き尽くせるか?」
『君は誰に口を聞いているんだい? さあ、偉大なるラロの魔法を堪能する幸せに身を焦がすと良い!』

 小湊たちの前に3体の従魔が現れた。小湊はラロに身を任せ、そして次の瞬間、火炎が巻き起こり従魔たちを火の海が包んだ! 兎たちは炎の中でもがき、半液状の頭部をぐつぐついわせながら地に伏した。地面に残されたのは3つの白い水たまりだけだった。傍若無人な英雄は小湊の胸の内で得意げに言い放つ。

『ふん、こんな煙相手にラロが苦戦するとでも思ってたわけじゃあるまいね!』

 ……その頃、真壁は自動車の中から聞こえる悲鳴の主を救助しに向かっていた。
 紅葉が障害物を蹴り飛ばす様子を派手だな……と横目に見つつ、自らは自動車の上を軽やかに飛び越えていく。
 いかにも悪趣味な金持ちが好みそうなこの車、乗っていたのはドレス姿の女性であった。真壁は外から女性に落ち着くよう言うのだが、パニックになっているらしく叫ぶばかりで聞いている様子がない。ドアを開けようとしたが、鍵をかけているようだ。仕方なく反対側に回り込みサイドガラスを割ってロックを解除し、中に入った。

「キャアアーッ! マジありえないーッ! 社長どこいったんだよーッ!」
「落ち着け! ここは戦闘区域になる、早く逃げるぞ!」

 真壁は女の肩を掴んで揺さぶった。その星をちりばめたような深いグリーンの瞳に見つめられて、少しばかり平静を取り戻した女はコクコクと頷いた。デート中に事件に遭遇し、彼氏に置き去りにされたらしい。幸い彼女に怪我はないが、なんだか少しポーっとしているようだ。殲滅班の囮効果は高く、女性の避難はスムーズに完了した。この戦闘エリアに、取り残された一般人はもういない。
 真壁は殲滅に加わるべく、意識をセラフィナに傾けた。汗で額に張り付く銀髪をかきあげ、精神を集中させる。セラフィナと心を重ね合わせると、どっと溢れ出たライヴスが光の剣となり、真壁の目の前に浮かび上がった。

「無形の化物か……、元の塵に還してやる」
『クロさん、敵の吐く息に気を付けて。負のライヴスを感じます。』
「そうだな」

 真壁の言葉は簡潔なものだったが、精神を同調したセラフィナには、召喚者の自分に対する感謝の気持ちや強い信念が伝わってくる。そのとき、彼らは戦場にありながら安堵し、絆を実感するのだ。
 真壁は光の鞘から大剣を抜き、間近の従魔に対して振りかぶる。剣の腹で叩き潰され、元々頭でっかちの従魔はバランスを崩して転倒した。しかしまだ動いている。真壁は素早く剣を逆手に持ち替え、アスファルトごと従魔の頭部を刺し貫いて固定した。そして勢いよく踏み潰す。従魔は力尽き、煙は塵に帰した。
 さらに背後に敵の気配を感じた真壁は、振り向きざまに剣を横なぎに振り払った。銀髪が彗星の尾のようにラインを描く。剣の面で叩き潰され、従魔の頭は一撃で弾け飛んだ。
 ……遠くからその様子を眺めていた小湊は、真壁とセラフィナの見事な連携に感心してひゅぅ、と低く口笛を吹いた。

『こら、君によそ見している暇などないよ。ラロの活躍をこんなにも間近で見ることが許されるのだから、しっかり目に焼き付けることだね!』

 たった今新たに2体の従魔を水たまりに変えた小湊は、そういうラロの口ぶりにうんざりした。従魔の頭に何が詰まっているのか知りたくもないが、粘土とガソリンを混ぜて捏ねたようなイヤな匂いがする。

「俺は十分堪能したね……いいかげん、焦げ臭くなってきたぜ」
『しかし、従魔どもはまだまだ見飽きないようだな! いいだろう、沸かせてくれようじゃないか!』
「……ン? おい、ちょっと待て。これは……」

 従魔の匂いはともかく、ガソリンの匂いだけはいやに現実味を持っている。どこかでガソリンが漏れているのか?だとしたら、自分たちが大っぴらに火炎を扱うのは危険だ。小湊が匂いの出所を確認しようと車の影から出ると、なんとそこにはダグラスによって数台の車の腹がぶち抜かれガソリンの川が出来上がっていた。
 彼の目の前で、ダグラスが鎌を車体に擦り付けて火花を散らした。小湊は咄嗟に車の陰に引っ込む。次の瞬間、大きな爆発音と共に爆風が渋谷駅前を吹き荒れた。

「うわっ」
「おおっ!」

 付近にいた紅葉はちょうど11体目の従魔を倒したところで、直前に加賀谷のいるトレーラーの上に飛び乗って難を逃れたが、トレーラーは爆風のためにグラグラ揺れた。
 少し距離が離れていた鳴神と真壁は爆発音を聞いて思わず振り返った。彼らは最初ガス漏れが原因の事故かと思ったが、どうもそうではないらしい。幸い避難経路には影響がないようだが、駅前は作戦前より悲鳴が悲痛になっている気がする……。
 真壁と鳴神がそれぞれの持ち場でため息を吐いた頃、ことの張本人であるダグラスは、降りかかる火の粉も意に介さず気分爽快といった様子で炎が燃え盛るのをを眺めていた。

「盛大な花火だ、実に愉快」
「くーッ! やるじゃん!」

 加賀谷は興奮ぎみに拳を振り上げた。が、焦げた自動車の影からコートの埃を払いながらムスッと現れた小湊は、今作戦の最年長者らしくダグラスに説教を始めた。ついでに横槍を入れられた紅葉もダグラスに噛みつく。

「危ねぇ!」
「危ねぇだろダグラス……」
「まあまあ、おかげでこのあたりは殲滅完了したし。あとは交差点の方で命と久朗が戦ってるので全部だからさ!」
「なんだ、まだ残っているのか? 懲りん奴らだ、まぁ低能には何を言っても無駄だろうが」

 加賀谷たちは残党を殲滅するため鳴神と真壁が戦っている交差点へ走り出した。4人の加勢も手伝い、間もなく殲滅は完了した。事件は一人の犠牲も払うことなく幕を下ろしたのだ。
 リンクを解いて黒髪碧眼に戻った真壁は、従魔だったアスファルトのシミを見やった。美しい翠瞳を伏目がちに、セラフィナもその視線を辿る。

「何故人型の兎、だったのだろうな」
「……寂しかったのでしょうか」

 人の多い場所へ引きつけられる……そんな従魔の特性を思い返すエージェントたちをよそに、元の無口に戻った紅葉は2体のパペットをぱくぱく言わせていた。新たなパペット、イルカの製造を思い浮かべながら……。

『今日もたくさん暴れたねー!! いやぁ、楽しかったー!!』
『オレの仲間が……うさぎが……。あぁ……っ』

 ……現場の惨状にはH.O.P.E職員一同顔を青くしたものだが、後日思わぬ助っ人が現れることになる。それは鳴神と真壁が救助したお婆さんとキャバ嬢であった。二人はH.O.P.Eに寄付を申し出たのである。

「これは気持ちです。お宅の騎士さんはとても素敵だったわ。あの子を困らせないでちょうだいね」
「コレ、今日貰った今月の給料なんだけど。あのクルマ壊させちゃったでしょ? だから銀髪のお兄さんに渡してよ」

 職員面々は地獄に仏と涙した。金銭的な被害はほぼ出さずに済みそうだ。関係各所へ頭を下げに行かされていたエージェントたちが現場へ戻ると、路上で足を挫いていたデブが彼らの戻りを待っていた。
 体調を尋ねられ、デブは笑顔を見せる。

「いやあもうなんともないよ、ライヴスってすごいんだね。俺今までH.O.P.Eに興味なかったけど、必要性が身に染みたよ」
「そいつは良かった。なら、甘い物でもおごってくれよ。ま、俺にじゃないんだけどな」
「いいよ!」
「ハハ、冗談だよ……なに?!」

 小湊の冗談めかした言葉に、デブは快く頷いた。喜んだのは小湊だけではない。もともと食事に行こうと思っていた鳴神や、甘味好きの加賀谷も興味を示した。

「実はお礼にご馳走しようと思って待ってたんだ。何でもあるし、遅くまで開いてるよ。甘いものなら、アイスクリームとかクレープとか……」
「聞いたかラロ!」
「聞いたとも! して、ケーキはあるのかね? プリンはどうなんだね?!」
「あ、じゃあ食べ放題に行こうか。どうぞどうぞ、皆さん遠慮しないで!」
「どら焼きはあるのか?!」
「君、どら焼き好きなの……? 珍しいね……。あそこの百貨店のがおいしいらしいよ。今日の僕は財布が潤ってるからね、食べ放題行く前にどら焼き買って行こうか」

 加賀谷は跳ねるように喜んだ。

「ちょうど良かった。この辺はいろいろあるからいつも悩むんだよねぇ…」
「わかるよ~! ところでさ、君ステキだね! 名前なんていうの?」

 デブは鳴神を女の子だと思い込んでいるらしく鼻の下を伸ばしているが、彼はそれを知ってか知らずかニコニコのらりくらりとかわしているようだ。
 何人かは料理の内容を見てから食べるかどうか決めると言うので、とりあえず全員で食べ放題レストランへ移動することになった。連れ立って歩く一行の後ろの方で、真壁はセラフィナの些細にして重大な勘違いを訂正することに苦労していた。

「え? 人型……兎……これが話に聞くバニーというやつですよね?」
「い、いや、違う。断じて違うぞ。」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    鳴神 命aa0020
    人間|15才|男性|攻撃



  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中



  • エージェント
    紅葉 楓aa0027
    人間|18才|男性|命中



  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 影踏み
    小湊 健吾aa0211
    人間|32才|男性|回避

  • ラロ マスキアランaa0211hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃



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