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広告塔の少女~PVは危険がいっぱい~.
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控え室【12日19時出発】
最終発言2016/05/12 03:14:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/08 08:20:32
オープニング
●プロローグ
「遙華、ご来客よ」
ロクトは書類をいっぱいに抱えた遙華を呼び止めた。
「え? 私に何の用かしら」
「広告塔の力を借りたいそうよ」
「ん? じゃあ……」
そう遙華はロクトに書面を押し付けようとする。
「自分の仕事はきちんとね」
「どさくさに紛れて作戦失敗ね」
「あなた、最近変な悪知恵ついてきたわよね……」
「たくましくなっただけよ」
そう遙華はいったん執務室に戻り、そしてロクトに指示されたように応接室に向かった。
● 歌姫【ECCO】
「ほななぁ、西大寺さん。うちなぁ。あたらしいPV撮りたいねん」
「はぁ……」
遙華は女性の嘘くさい関西弁に頷いた。
遙華の目の前に座る女性は『ECCO』
流れるような黒髪が印象的な純日本人の出で立ち、挑発的に細められた瞳には見るものの心にくさびを打ち込む魔力をもつ。
ロングスカートを翻し凛とした姿で歌う姿が神秘的、そう表現される日本を代表するアーティストだった。
「この前な、リンカーに助けてもろうてなぁ。その時のあんちゃんらがなぁ、めっちゃかっこよかってん」
「だから、リンカーをPVに使いたいって?」
遙華は首をかしげる。
「えーっと、それはいいのだけど、なぜうちに? うちはグロリア社よ?」
「遙華さん、広告塔の少女やん」
「いや、私は単なる雑用みたいなもので。それにPVに出るならアイドルリンカーを雇った方が絶対にいいわよ?」
グロリア社はAGWを開発している会社だ、この話を持っていくのであればH.O.P.E.の広報部に行くかアルカディアプロへ行った方がいい。
グロリア社にはコネはあっても、専属で動かせるリンカーはいない。アイドルリンカーももちろんいない
「いやなぁ、斬新なPVがええねん、けどなぁ、今までの会社、今までのやり方じゃ、そんなんできひんやんか。せやからなぁ。頼みたいねんグロリア社に。PV、」
「斬新……それは」
「グロリア社の技術力を頼りにさせてもらえへんかなぁ」
「なるほど、そう言うこと……」
遙華は考える。
最近ロクトの英才教育のおかげでちょっとは尊徳というものを考えられるようになってきたのだ。
「そうね、試作品の霊力機器がいくつかあるからそれを出して。宣伝をうたせてもらって、そしたら……」
遙華は頭の中でそろばんをはじいた。
これはチャンスだろう。ECCOのPVともなれば注目度も高いし、グロリア社がAGW以外のフィールドに進出できる足掛かりにもなるだろう。
それにECCOとの仕事を成功させれば、親密な関係を気付けるかもしれない、ゆくゆくはグロリア社の宣伝も任せることができるようになるのではないか。
これは、受けた方がいい依頼なのではないか……
遙華は後ろを振り返った。ロクトが扉のあたりに立っていて、にこやかに笑ってグーサインを出した。
これは、行ける。遙華は決断する。
「分かったわ、メンバーは私が集めるから大船に乗った気持ちでいてね」
「ありがとぉなぁ。これ、依頼書。目を通してから仕事を受けるかどうか決めてくれてええよ」
依頼書を受け取る遙華。
「詳しいギャラ交渉なんかは、その時に」
そうECCOはロクトに送られその場を後にした。
● 依頼書内容
PVに必要な映像の撮影をお願いします。編集はECCOの映像班で行います。
《少年アニメの主題歌 『hack』》
〈歌詞内容〉
君の思いが僕に力をくれるから、君が護りたかったこの世界をきっと守って見せるよ。
がキャッチフレーズ
君の声が僕を変えて、そして世界は変わる、救われるという曲。
最初は泣き虫で何もできなかった『僕』が『君』の声に背中を押され『僕』が恐怖を振り切って、敵を倒すための刃をとる。
けれど『君』は世界を守るために刃の前に倒れ。『僕』は再び臆病者に戻る。
だけど、君との思い出を思い出した時『君』の心が『僕』の心に入り込み。
『僕』自身が変わり、『僕』はそして英雄になる。
そんな様を描いている。
《役割》
<演奏> ECCOは臨場感を出すために、従魔との戦闘を目の前に歌います。よってECCOの率いるバンドに一般人を採用するわけには行きません、つまりあなた達にECCOの護衛と演奏を同時にまかせたいということです。
・エンジェルスビット
・クリスタルフォーン
・ギター 等別の楽器も募集
* 演奏のメンバーはECCOと一緒に歌います。
演奏には適性があると思いますので絶対必要ではないです。
<戦闘>
こちらには普通に従魔を倒すだけではなく、かっこいいカットやシーンを意識してもらいたい。
それをあえて演出するために、リンカーは英雄側、魔王側に分かれて戦闘の演出をしてください。
また、セリフはそのままの肉声、もしくはテロップで表示される予定なのでセリフ周りも気を使ってみてください。
『僕』 主人公、一名(二名でも可)
『君』 魔王の刃を受けて倒れる 一名
『魔王』 従魔側を引き連れる。この世界を終焉に導くもの。一名
『英雄軍・魔王軍』 任意の人数
《映像構成》
1 僕と君は唯一無二の親友。でも僕は君に対して劣等感を常に感じている。
君はどうしてそんなに強くかっこいいんだ。
突如現れる従魔たち、逃げ惑う僕、そして君は僕に本当の姿を見せる。
僕が知らない君
君は言う「自分の中にある力を信じて、さぁ一緒に戦うんだ」
僕は力を得て戦場に向かう
2 戦場には従魔があふれかえっている、戦う君とその仲間たち。しかし魔王の登場で形勢は逆転。君は死に追いやられてしまう。
3 仲間たちは次々と魔王の手によって撃ち滅ぼされていく、そんな中僕は怖くて動けない。そんな中僕の中に君の言葉がよみがえり、そして僕は魔王を打倒すことを決意する。
4 魔王と僕の戦い、それは熾烈を極め、全ての力を出し切った後に、戦場に立っていたのは僕だった。
*注意
1魔王群は従魔と一緒に戦っている設定ですが、従魔は魔王群を襲うので、距離をとってPV撮影に臨んでください。
もしくは攻撃されないように気を使ってください。
2、ここにあるのはあくまでも一例です、参加者の皆さんがやりやすいように改変するのもあり。
一から作るのもありです。
設定を生やしたりすることも構いません。
● 新アイテム
・エンジェルスビット
マイクとスピーカーが一体になったアイテム。
背中に八枚の薄型スピーカーを格納しており、霊力で空を飛ばすことができる。
訓練次第で自由にこのスピーカーを飛ばすことができ、今までにないライブ演出が可能。
・クリスタルフォーン
バレーボール大のクリスタルの玉。ここから光がはなたれ、その光を遮ることによって音と光での演出が可能。
音色は透き通ったガラス質な音。
霊力で干渉することによって宙に浮かせることができ。
さらに光に色を付けることができる。
訓練次第で、映写機のように映像を投射することも可能である。
解説
目標 PV撮影に協力する
今回はアニメのOPのPVです。
物語仕立てにすることによって、リンカーたちの普段の戦闘への恐怖戸惑い葛藤。を表現していただき。
そこから戦闘、友情、熱血、勝利の演出をしていただきたいと。ECCOはむちゃくちゃなことを言っておりますが、気にしないでください。
こちらの映像構成は脚色されることを前提にスカスカにしてあります。
要点をまとめると。
演奏班はECCOを守りながら演奏する、もしくは歌を歌う。
戦闘班は『僕』『君』『魔王』だけ決めて、熱いセリフを叫びながら戦う。
これだけでOK難しいことはありません。
あとは皆さんの考えたかっこいい演出を加えるだけ、簡単です。
《従魔》 どれも力が弱く、駆け出しリンカーでも十分対処できます
・暗黒騎士
全身が霧に包まれた、頭のない黒い騎士。その剣から漆黒の波動を放つ。
・アシナガグモ
二メートル程度の足を持つ蜘蛛、体格に似あわず素早く一気に距離を詰めてくる。
・ワイバーン
翼の生えた龍、戦闘力高め、空を飛べるが早くなく、また加速減速がうまくできない。炎を吐く。
《遙華》
遙華は楽器はリコーダーくらいしかできません。なので戦闘に回ると思います。
基本的にPCの意見に従って配役を決めますが。
何もなければ遙華は魔王群になります。
魔王の右腕的な存在で英雄軍に襲いかかってくる役をします。
決め台詞は「これが金に心を食われた亡者の刃よ」です。ロクトが考えました。
設定としては魔王に金で雇われているが、あまりにも金額が大きくて目がくらんで引き際を逃してしまった忍者らしいです。
下記PL情報
・歌詞に盛り込んでほしいフレーズなど募集。
これは『演奏』班が優先的に採用されます。演奏班は一緒に歌っている設定なので。
またこのPV撮影に成功すると次の依頼が来る手はずになっています。
リプレイ
● 企画会議室
その日は初の顔合わせ、歌姫ECCOをグロリア社に招いての会合だった。
「ぎょうさんで、お出迎えありがとう」
全員が通された会議室に最後に歌姫が入室する。
彼女はとても美しかった、見た目もそうだが声が。
人を引き付ける魅力に満ちていた。
そしてECCOが挨拶として頭を下げると一人一人に握手を求めて回った。
「ん……私はシグルド。今回はお世話になります」
「リンカーさんとお近づきになれるなんてうれしぃ」
「セレシアと申します、今回は演奏のお手伝いをさせていただくことになりました、よろしくお願いします」
『シグルド・リーヴァ(aa0151)』に続き『セレシア(aa0151hero001)』がそう握手を求める。
「753プロ所属のアルと、マネジャー兼カメラマンの雅です」
次いで『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』が名刺を渡す。その隣の『アル(aa1730)』がちょこんと頭を下げた。
「これはご丁寧に、この子が『君』やんなぁ。小っちゃくて可愛い。よろしゅうな」
「よろしくお願いします」
アルは特に緊張した様子もなく微笑みを返した。
「貴女方とご一緒できるなんて光栄だわ、今後ともよろしくお願いします」
「そして私が沙羅。こっちが沙耶。これで演奏班が全員」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』の隣で『榊原・沙耶(aa1188)』が穏やかに頬笑む。
「ん? 沙耶さんって魔王役の人と違うん?」
「ああ、今回は沙耶という名前の人物が二人いるんですよ」
『藤丘 沙耶(aa2532)』が言った。その隣には『シェリル(aa2532hero001)』が控えていて、ECCOが席に座るとシェリルは彼女のティーカップに紅茶を注いだ。
「こちらダージリンです」
「ありがとう」
「わあ、本当にECCOさんだ……。こんな凄い人と撮影できるなんて夢みたい。」
そううっとりと頬に手を当てる『世良 杏奈(aa3447)』その膝の上にちょこんと乗るのは『ルナ(aa3447hero001)』で、彼女はテンションがやや高めだった。
「せっかくPVに出られるんだから、派手にやっちゃおうね、杏奈!」
「では全員そろったから打ち合わせを始めるわね」
そう遙華がホワイトボードにペンを走らせる、するとさっそく沙羅が手を挙げて言った。
「笑顔の練習したいって言ってたし、この際PVでいい笑顔を撮りましょう!」
思わず吹き出す遙華。
「一時は裏切ったけど、かつての仲間のピンチに体を張って守って瀕死になる。
仲間の腕の中で、いい笑顔を浮かべて息を引き取る……なんてストーリーでどうかしら?」
「それいいね」
そう同調したのは『流 雲(aa1555)』だった、遙華の苦笑いを見て『フローラ メイフィールド(aa1555hero001)』は可愛そうにと笑う。
そんな相談風景を見てひとりだけ取り残されている男がいた。
『海神 藍(aa2518)』である。
「禮、これは……謀ったね!?」
『禮(aa2518hero001)』はにやりと笑った。そしてテーブルの上に並んでいる小道具を見て理解する。
「話は通しておきました! シュバルツローレライ復活です!」
理解が早く観念したのか藍はがっくり肩を落とした。
「もう、逃げられないのか……」
そうこうしている間に会議は進む。
「おおよその流れは決まったわね……」
その時ハタッと何かに気付いたのか遙華の視線が『天城 稜(aa0314)』にむく。
「稜、大丈夫? 先ほどから発言していないけど」
「……。大丈夫です!」
『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』は苦笑した。
● プロローグ
まず、涼やかなエレクトーンの伴奏が響く、セレシアのエレクトーンが夕暮れの校舎に響き渡った。
シグルドはそんなセレシアを見つめ、次いでECCOに向き直る。
「従魔が襲って来るかもしれないんだよね……頑張って守るね……」
そのエレクトーンの音は木造校舎の廊下から階段を上り、古びた教室まで届く。
そこにいるのは女生徒と男子生徒。
稜とアルだ。
稜は柔らかい表情と中性的な見た目のよく言えば可愛い、悪く言えば頼りない男子生徒で。
金糸の髪を持つ少女、アルに勉強を教えている。
それは、いわば青春の一ページ。この時はあまり価値がないことに思えても。でもあとで思い返してみると宝石のように輝いて思い出される日々。
それが静かな音色で彩られ、そして画面の中央に文字が浮かび上がる。
「突然、世界が形を変えてしまったら稜はどうする?」
アルは立ち上がり、窓の外をかえりみる、上げてまとめた髪が揺れて。緑色の石がはめ込まれた髪飾りが光った。
その光景が夕焼けに照らされ、稜にはとても美しく見えた。
「突然どうしたの?」
稜は尋ねた。
「ううん、なんとなく。ただね、この世界が突然姿を変えて滅びそうになった時。どうする?」
「わからないな、けど君がどうするかはわかる気がするよ」
「うん、ボクは、この世界が好きだから。だから……」
直後重たい音を響かせて軋む扉。
稜は驚き飛びずさり、アルはそれを静かに見つめる。
直後のことだった。
突如破壊される扉、それがすごい勢いで稜の元へとぶ。
危ない、そう思い腕を盾に身をひそめ、目をつむり体を守った、しかし待てども一向にその扉は飛来しない。
当然だその扉は、間に入ったアルの前で停止していたから。
正確には何らかの力を使って受け止めたのだろう。加速度がゼロになってその場に扉が落ちた。
「アル。君は……一体」
アルは稜を一瞥、そして唇に指を当てもう片方の手で剣を握った。
廊下の向こうには騎士鎧を身にまとった従魔。
そしてモノローグが入る。それは『僕』の独白。
「どうして、こうなってしまったのだろう……」
アルは敵に接近。
「僕は只、君の隣に立ちたかった……」
舞うように右にターン、その剣をかわし。
「君がいて、隣に居るだけで嬉しかった」
その剣を踏みつけ跳躍。
「でも……それも、もう終わり……今は只、戦う事しか出来ない……」
次いでその剣を振り上げ、振り下ろす。
その迷いなく洗練された動きから、稜は彼女が一朝一夕で剣術を身に着けたわけではないと知った。
「アル、君は……」
風が流れる、その風に髪の毛を乱されないようにアルは抑え、遠くを見た。
遠くの空を。
茜色の空が遠く、雲がポツラポツラと浮かぶ。その中を鳥が羽ばたき連なって飛んでいく。
その先に何があるのだろうか
きっと何もない。その先には戦いだけがある。
鳥はしばらく空を飛ぶと散開。まるで何かを忌避するようにそこから逃げる。
真下には赤茶けた荒野。その中心に。歌姫ECCOが佇んでいた。
そして転調、エレクトーンを奏でるセレシアの指が高速で剣盤上を跳ね。
空気を叩くようなシグルドのドラム音がさく裂する。
魔王群とおそろいのカラーリングの外套を着込み。フードで顔を隠した沙羅がギターをかき鳴らした。
そして雅は周囲にビットを展開する。
そのスピーカーから音が戦場にあふれ出た。
ECCOたちが見据える先には万の軍勢、その赤茶けた丘には幾本も錆びた剣が突き刺さり、その軍勢を見据えるのはたった二人の戦士。
片方は真紅の衣装に身を包んだ魔女アンナ、彼女はその手の魔導書から発せられる魔術により、首のない騎士を、ワイバーンを薙ぎ払っていく。
そして振り返りアンナは挑発的な笑みを浮かべた。
「ついてこられる? 騎士さん」
その視線の先には、淡き光の騎士。雲扮するクラウディが佇んでいる。
彼は大地に突き刺さした剣を抜き、閉じていた眼を開いた。
そして、目の前に繰り出された三本の剣を掻い潜り、腕ごと切りとばし前へ。
「僕は止まらない、その先にいる君と、もう一度会うまでは」
戦いがついに、始まったのだ、この世界の命運を分ける戦いが。
「魔王はどこにいる!」
クラウディめがけ飛来するワイバーン。それを剣から放つ漆黒の衝撃波で叩き斬る。
そんな光景を稜はただただ、茫然と眺めていた。
「アル。これはいったい」
稜は気が付けばここにいた、そして隣に佇むアルは女神のような輝かしい衣装に身を包んでいた。
そしてアルは蛇腹剣を構える。
「これが、世界の真実」
「真実?」
「そう、裏側」
「裏……側?」
「魔王を止めないと、ボク達の世界は闇に飲まれてしまうんだよ」
そう、彼等は英雄軍、この世に開いた暗黒の門を閉じるべく戦い続ける戦士だ。
「そんな、そんな戦いに何で君が」
「戦えるなら、戦わないと、だってこの世界が好きだから、そして君も……」
アルが指さす先には長槍『《白鷺》/《烏羽》』が突き刺さっている。
「これが、僕の……」
「そう、君の力だよ」
その柄を握り占めると震えが起こった。だけど。
「心配しないで、君なら大丈夫」
そう稜の手を握るアル。
「僕がいるから、大丈夫」
すると不思議と震えが収まった。
突貫する稜。つたないながらも、蜘蛛型の魔物を切り割いていく。
「やっと来たみたいね」
アンナが微笑む、危険を感じ回避行動をとる。
視線の先に突き刺さっている苦無。
「これは?」
そして従魔の群の中央に立っていたのは暗黒の鎧を纏う騎士、そして黒い首布はためかせるローブの人物。
クラウディアはその鎧の人物に心当たりがあった。
「シュバルツローレライ!!」
漆黒の衣を身にまとう戦士は兜を投げ捨てその素顔をさらす。
「何時ぞやのヒトの騎士か……果たしてお前に何ができる?」
クラウディの脳裏にかつて暗黒騎士と対峙した時の記憶がよみがえる。
その時は傷一つ追わせることなく敗北していた。
彼の以前の言葉蘇る。
『お前のような弱者、手にかける必要もない。その刃は我々まで届かない』
「どうした、震えているぞ?」
そんなローレライの言葉に我に返るクラウディア。しかし彼を別の衝撃が襲う。
「ハルカ」
アンナはつぶやいた。クラウディアは耳を疑った。
それは、その少女の名前はかつて自分の隣で戦った恋人の名だからだ。
「なぜここにいる!」
クラウディアは叫ぶ。
「確か新しい就職先が決まったって……」
「ハルカ!? そんな、新しい雇い主って魔王だったの!?」
「そうよ。英雄軍とは比べ物にならないくらいの報酬が出るからね」
春香は口元を風よけの布で隠しながらそう言った、ぎらつくその目は金に目がくらんだ者の色をしていた。
「そんなに俺より! 俺達より金が好きなのかっ!!」
その直後、ローレライが刃を振り上げ襲いかかってきた。
「よそ見をしている暇があるのか?」
クラウディはあわてて三歩距離をとる。それを見てローレライはにやりと笑みをこぼす。
そのローレライへ魔弾を放とうとするアンナの前に遙華が立ちふさがった。
「……金で魔王側につくなんて。この裏切者!!」
「何とでも言うがいいわ。それより、貴方達を倒せば魔王様から特別報酬が出るのよ。だから、ここで死んでもらうわ」
「お断りよ。私達は必ず魔王を討ち倒す!ハルカ、貴方もね!」
「やれるものなら、やってみなさい!」
アンナは空中に魔方陣を展開した、その数合計十二。
大魔法クラスのそれを全弾遙華に叩き込んだ。
しかし遙華はその攻撃を総べて回避。音にも迫る勢いで駆け抜け。苦無を片手にアンナへとびかかる。
「それでも俺は! お前が、好きだ!! 信じてるから!!」
叫ぶクラウディア。ハルカの表情が曇った。
そして戦いは激化していく、砂埃を巻き上げて、雷鳴と鉄を打ち合わせる音を響かせて。
運命の車輪は回り始めた。
ECCOの鋭い高音が響く。沙羅のかき鳴らすギターが激しさを増した、沙羅はECCOと背を合わせにやりと邪悪な笑みを作って見せた。
その身にまとうローブを振り乱し、フードの奥にある瞳が一瞬光を帯びたように見えた。
● サビ~激突~
曲は最初のサビを終えまたAメロ。
涼しい顔をしてドラムをたたくシグルド、その後ろではエンジェルビットとクリスタルフォーン両方の操作を一度に行う雅の姿があった。
セリフがわかりやすいようにテロップをつけるのも彼女の仕事だが、遙華の無茶ぶりによりその投射機能によって演出効果も任せられていた。
そんな演奏班を茫然と見つめているのは禮。
(冷静に考えたら、何で従魔を撮影に使えるんでしょう?)
――兄さ……
「魔王様に救われたご恩、今こそ返さなければな」
――あ、なんでもないです。
なんだかんだでノリノリの藍は、歌と自分の武器を振るう音で何も聞こえないのだろう。禮の声に答えず、一歩踏み出した。
二本の剣がかみ合い、火花を散らす。
「この私が、クラウディがこの世界を闇に閉ざさせはしない!」
「魔王様の為。我らが悲願成就の為!」
「貴様を討つ……行くぞ!」
クラウディが叫びローレライが答える。
「貴様らには聞こえまい、声なき者たちの叫びが!」
「聞こえる声を聞こうとしない奴がなにを」
「そうかもしれない。だがお前達もそうだ! 争いこそが世界を滅ぼすとなぜ分からない!」
「世界を滅ぼすのは、貴様らヒトの方だ!」
押し切られることはないが、攻めきれない、そんなこう着状態が続き、ローレライはいったん後ろに下がる。
その背をカバーするようにハルカが立った。
「行けるな、ハルカ。報酬分は働いてもらおうか」
「ええ、もちろんですとも、しっかり働かせていただきます」
死んだような目でハルカは言う。
「そんなハルカ見たくなかった」
アンナは二人めがけブルームフレアを放つ。
しかしその爆炎を二人は従魔で受け流し。ハルカは苦無をアンナに放つ。
「小手調べは済んだ、殺し切ってやる」
そうローレライが言った直後、銀の魔弾を一発地面に撃つ。
その弾丸は岩盤を穿つように下へ、そして爆発、大量の砂と風を発生させ。
それを目くらましとしてクラウディへと弾幕を展開。
しかしそれらは全て囮にすぎず。本命はその左手に凝縮された黒い極光の塊。
それを砂塵の向こうにいるクラウディへ放つ。
「ああああああああ!」
しかしクラウディはもはやあの時の自分ではない、恐怖を叫びで振り切って。走り弾幕をよける、そして。
左手に作り出すのは蒼天を凝縮したような極光の魔弾。それを暗黒の魔弾に放つ。
光と闇は打ち消し合い、食らいあい、単なるエネルギーとしてあたりに散らばる。
その衝撃波は砂塵を吹き飛ばし、戦場に静寂をもたらした。
「もう、あの時の俺とは違う!」
「では、私も礼を尽くそう」
そうローレライはダズルソード03を抜く。
その合間にクラウディはさらに気を高める。その身にまとう光を強めそして、再び剣を交えた。
戦いは激化の一途をたどる。
だがこのままでは英雄軍は従魔の処理を行えない、不利は明白。
二人の顔に焦りが浮かんだ。
空を飛ぶワイバーンの群、そして押し寄せる蜘蛛たち。
それが防衛ラインを突破しようとしたとき。
ふたつの光が戦場に降り注いだ。
そこに立っていたのはアルと稜。
稜はその槍を振り雲をからめ捕るように切り割く。
空を駆けるワイバーンはアルが蛇腹剣によって次々と落としていく。
「僕も行ける、彼女となら」
そうアルと頷きあいながら敵を殲滅していく。
逆転した。そう思えた瞬間である。
かき鳴らされるギターソロ。
突如爆炎。
アルと稜はたまらず吹き飛んだ。
仲間の従魔ごと、その一帯を吹き飛ばす、そんなむちゃくちゃをやってのけたのは特大の紋章浮かぶ漆黒のローブ、それを纏う小柄な少女だった。
その目元覆う仮面越しには感情を読み取ることはできない。
だから稜には少女が淡々と、周囲の敵を味方越しに焼き払っているように見えた。
まさに邪悪の権化。この争いの出発点。そしてこの争いの終着点。この戦の中心、魔王である。
「それ以上はやめろ!」
稜が叫ぶ、その槍を手に前に進もうとする、しかしそれを遮るのはアル。
「お久しぶりですね、お兄様」
その時だった、稜は思い出した、その声の音色を。
「やっぱり、そっちにいたんだね」
アルはすでに気づいていた。魔王を見据えアルはそう告げる。
その時初めて魔王は表情らしいものを見せる、苦笑、自嘲。そんな表情を浮かべ、そして。
仮面をはぎ取りなげすてた。
● 調律
「な!……君は……さ……や?」
それは稜の妹、数年前に生き別れた妹、昔アルとよく三人で遊んでいた。
「そんな!? どうして……!?」
魔王が現れたことによって物語は別の展開をむかえる。
沙羅のギターソロが始まり、その外套を脱ぎ捨てる。表情のない目を大きく見開き奏でるその姿は悪しき異形の者であり。その口からは人類には理解不能な旋律と言語が流れ出している。
さらにドラムが強く入りバトンタッチ、華麗なスティック裁きを披露するシグルド。
BGMが変わり戦場の雰囲気もまた変わった。
「問答は無用です」
沙耶は稜の問いかけに対してそう答えた。
「お兄様達も目的があってここに居るのでしょう? さぁ、始めましょう」
そう言って切りかかる沙耶。二人のは抵抗した。その剣を槍を叩きつけ魔王の動きを止めようとした。
しかし魔王の一撃は重たく、姿はとらえどころのない風のようで、気が付けば稜はその腹部に、剣の柄で一撃見舞われていた。
「寝ていてください次はあなたです」
「沙耶ちゃん! 僕たち戦う必要なんてどこにあるの。なぜこんなことをするの!」
「何故? 面白い質問ですね、敵対しているから、それだけです」
沙耶はその手の童子切でアルの剣技を捌き、その手が届きそうなほど近くへ。
その冷たい目でアルを見下ろす。
「やめろ! 沙耶!」
次いで沙耶は、その手の刀を振り下ろす。
鮮やかな鮮血が空に舞い、鉄臭い香りが稜の鼻腔をくすぐる。
「ああああああ!」
稜はわけもわからず立ち上がった、軋む体を引きずりながら魔王の元へ。
「ずっと、貴女が目障りだった」
そして、その童子切をアルへと突き立てた。
君が倒れた後、魔王は稜に囁く様に語りかける
「お兄様、こちら側に下るつもりはありませんか? そうしたら……そうですね、彼女も助けてさしあげますよ?」
しかしその言葉は稜の耳には入らなかった。這いずってアルの元まで進む稜、それを魔王は静かに見下ろしていた。
「そんな顔しないの。笑顔が一番だよ」
その言葉が虚空に浮かんで脆くも消える。
少女の血にぬれた僕の両手。
お別れが近いことを悟っていた。
転調。そして場面転換。
ECCOを中心に左右に佇む沙羅とシグルド。エレクトーンの音だけが悲しく響いた。
沙羅はフードをとる、その上空に待機しているワイバーンの群を見た。
にやりと笑う。まるで魔王側の勝利を喜ぶように。
そしてECCOは謳う、君との別れの言葉を。
「どうして、こうなってしまったのだろう……」
それは僕の独白。それもまた空に浮かんでは天に上る魂のように彼方に消えていく。
「僕は只、君の隣に立ちたかった……」
「君がいて、笑っているだけで、幸せだった……」
「安心できて……不安なのに……」
「君がいて、隣に居るだけで嬉しかった」
なのに…………
「泣かないで」
そうアルは稜の目元をぬぐう。
「きみが笑顔でいる限り、ボクはきみの中で生き続ける」
そうアルは片手で髪留めを外す、美しい金糸の髪が広がって風になびいた。そしてアルの体から光が舞っている。消えてしまう。
君が消えてしまう。
「……絶対に勝ってよね。守りたいもの、あるんでしょう?」
「僕にはない、君以上に守りたいものなんて」
「嘘ばっかり」
そう言ってアルは笑う。
「いかないでくれ、アル」
「ごめんね」
「……お願いだ」
「ごめんね」
「大好きだったよ」
突如稜の両腕から重さが消えた。
アルは光となり空に昇っていく。
一人残された稜はただ茫然と佇むしかなかった。
「消えてしまいましたね、兄様」
そう沙耶が言う。
「もういいではありませんか、全ての未練を断ち切って、さぁ、こちらに」
「それは本当に……。夢のような。遠い、遠い日々の残照……」
沙耶を見る稜、今や絆と呼べるものは妹との、魔王との思い出だけ。
だけど、その手を取ればこの世界はどうなる?
「僕は……」
――ホラ、笑って
その時声が聞こえた、稜の中に響く、彼女の涼やかな声音。
その声に導かれるままに稜は目を閉じ、開くと。
気が付けばその傍らにECCOがいた。
そして、それを皮切りにワイバーンがECCOめがけて襲いかかる。
「危ない!」
だが、突如眩い閃光がほとばしり。忌まわしき形の鎌が閃き。
シグルドが矢を放ち、沙羅がその大鎌にて全ての敵を薙ぎ払っていた。
――運命は自ら切り開くものだよ
その時君の声が高らかに響き、そして稜の周囲を生め尽くす、ヴィジョン、それは全て君との思い出。
君が笑い、僕が困り。そうやって積み重ねた時間の数々。
それが、そして彼女の言葉が流れ込むように稜の中へ。
そして『僕』は……
「う、あ…………その提案にはの、乗らない!」
目覚めると稜は、沙耶に刃を突きつけられていた。
だが稜は我に返ると同時に、その刃を手で握って止めた。
「いまさら、なぜ?」
「僕は、弱かったさ……アルの言葉が無ければ戦えない程に……でも今なら、彼女の言葉を信じられる。僕はもう迷わない……アルの想いを抱いて……僕は、戦う!」
そう立ち上がり稜は槍を手に取る。
「そうですか……では、もう未練は捨て去ります」
そう悲しそうに沙耶はつぶやき、そして刃を打ち鳴らす。
「僕らは、負けることは出来ない! 打ち倒されてはならない、逃げる事も許されない!」
<君の思いが力となって>
<僕の背を押してくれるから>
<その光が無くても大丈夫>
<君の守りたかった世界、僕が守って見せるよ>
<だって運命は自分の手で切り開くものだから>
「そして、ハッピーエンドを、返して貰いに来た!」
そう稜は音を置き去りに飛び、沙耶へと槍を叩きつけた、その衝撃で魔王の刀は空を飛び地面に突き刺さる。
そして返す刃で魔王を切り付け。そして全身から力の抜けた、魔王を、妹を抱きしめる。
これが悲運の決着だ。
そして別の戦場でも戦いは執着に向かっていた。
その光景を見届けることもできず、二人の騎士は荒野に立つ尽くしていた、お互いの刃がお互いの腹部をえぐり。満身創痍の中口を開くのがやっとだった。
「違う出会い方をしてたら、また違った未来もあったのか、な」
クラウディアがいい、そしてローレライが答える。
「見事だ、光の騎士よ。時代が許さなかったが、お前と共に戦えたなら……」
「ダークレイン様、私は……く」
そうローレライはかつての主君に思いをはせ、その場に倒れ込む。
同時刻、アンナとハルカの戦いも決着を迎えようとしていた。
アンナはズタズタに切り裂かれた真紅のスカートを振り乱し、拒絶の風を纏いつつアンナはハルカに接近する。
「遠くて当たらないなら、近くで!」
「な!」
そして左手を押し当て、ハルカにブルームフレアを叩き込んだ。
「チェックメイトよハルカ。塵になりなさい」
ハルカは吹き飛びその背を瓦礫に強く打ちつけた。
そのボロボロになった姿を見下ろしてアンナは言葉を飲んだ。
「ありがとう」
ハルカはそう微笑みを浮かべた。
「なぜ、そんなことを言うの?」
「最後にあなた達を手にかけずに済んで本当によかったと思うから」
● エピローグ
最愛の兄の腕の中で魔王は言う。
「ふふ、これでいいんです……ありがとうございます、お兄様」
そううれしそうに微笑んだ、それは稜がかつて見た幼き日の妹の表情。
「お兄様、何故、泣かれているのですか……」
世界はこれで救われたというのに。
「さようなら、お兄様。どうかーーー」
そう沙耶も光となって消えていく。
この戦場に従魔はもういなかった。
代わりに大切な人たちももういない。
「沙耶、アル……海が空へ溶け込むあそこに帰ろう?」
● 本当のエピローグ
「お疲れ様でした!」
演技組は泥だらけになったいい笑顔でハイタッチしていく。
「雲~! お疲れ様! あ、皆さんもお疲れ様でした」
フローラは雲にタオルを渡す。
「お腹すいているでしょう? 実は作ってきたんです」
「ぜひ召し上がってください」
そう雲とフローラはテーブルの上にお菓子と飲み物を広げた。
その隣では怪我をした人の治療をシグルドが行っている。
「これから編集何かはうちらの方でやるからな、お疲れ様、すごい迫力やったわ。やっぱ生にはCGかなわれへんやん」
そうご満悦のECCO。そのご彼女のおごりということで打ち上げが企画されたがそれはまた別のお話だ。
「あ、あとサインください!」
ルナが色紙を差し出すと、他のもの達も後に続いた。