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電気石八生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/17 11:18

掲示板

オープニング

●ボクの決意
「――見ての通り、私は仕事中なのですが」
 マホガニー製の重厚にして機能的な執務机の上、山と積まれた書類からようやく顔を上げたアラン・ブロイズ(az0016hero001)が、ネクタイの角度を正しながら言った。
「なに仕事なんかしちゃってるんだよぉ~!」
 ゆるっとキレながらアランのネクタイをぐりぐり引っぱるのは、彼の契約主にしてHOPEのオペレーター兼エージェントの礼元堂深澪(az0016)だ。
「いや、業務時間中ですから」
 ぐりぐりされたネクタイの角度をきちきちなおしていくアラン。
「マジメかぁ~! タマトッタルぁ~ってイキってたアラン君はどこ行っちゃったんだよぅ……」
 がっくり肩を落とした深澪に、アランはふと窓の外を見やり。
「あのころの私は、若かった」
 深澪とアランの出逢いは最悪だった。
 細かい話はまだ考えてないから割愛するが、この世界にやってきたばかりのころの彼は金髪リーゼントと三角形に剃り整えた細眉で、「なんじゃゴラぁあああ!?」、「ヤんならヤんぞボゲぁあああ!!」とか言っていた。
「アラン君、ヤンキーだったよねぇ~」
「尖っていましたね。触るものみな傷つけるほどに……。おはずかしいかぎりです」
「夕暮れの河原で張ったよねぇ~、タイマン」
「タイマン張ったらマブダチです――ではなく、私は深澪様のおかげさまを持ちまして、更正することができました」
 深澪と出会い、労働という新たな生きかたへ導かれたアランは、初めて生きる実感というものを得た。そして生きることと向き合い、その価値を知った彼は仕事に打ち込み、万来不動産の社長という地位を得た。
「これからもみなさまの笑顔を支えるため、粉骨砕身の覚悟で業務に――」
「ちがうちがうち~が~う~っ!」
 深澪が右の張り手でアランの口を、左の張り手でアランの鼻を押さえつける。呼吸を封じられたアランと30秒の攻防戦を演じた末にブレイク。
 両者は呼吸を整え、気を取りなおしてまた向かい合った。
「――いったい、なにがちがうと言うのですか?」
「ボクのこと見て!」
 ふん! 腰に手を当てて、毎晩「まだ希望とか残ってるからぁ~! 夢だって多分あるからぁ~!」と言い聞かせ続けている胸を張る深澪。
「なんと言いますか、その、がんばってください」
「がんばる――って、そ~じゃなくて! ボク、強そう?」
「弱そうです。というか、弱いですよね?」
「アラン君もね!」
 言われたアランは自分の体を見下ろした。
 どちらかと言えば細身の体は、どこもかしこもなめらかだ。――昔のシックスパックはいったいどこへ?
「……まあ、仕事仕事で、現場へ出ていませんからね」
「そこデス!」
 深澪がアランのネクタイを引っぱり寄せながら声を張り上げた。
「ボクはオペレーター兼、エージェントなんだよ! それどころか、自己紹介にはいっつもエージェント兼オペレーターって書いてるんだからぁ!」
「はぁ」
「依頼、受けようかなって思うんだ」
「えっ!?」
 なんて無謀なことを! この世界にゲームのようなレベル設定があるとすれば、深澪など確実に「1」。愚神に叩かれたら死ぬ。従魔にかじられただけでも死ぬ。それがレベル1の現実だぞ!?
「ボクが目ざしてるのは縁の下の力持ちだけど……。この前の香港の戦いで思ったんだ。エージェントのみんなを現場でサポートできるオペレーターになりたいって――」
 危険な任務へ向かうエージェントをオペレータールームからだけでなく、現場でも支えたい。
 深澪の思いを感じ取ったアランはしばし考え込み、うなずいた。
「わかりました。お供させていただきましょう。依頼は私が選んで必要書類を提出しておきますので、深澪様は出発の日までオペレーター業務を」
「りょ~かいっ!」
 アランはやる気スキップで去って行く深澪の背を見やり、ため息をついた。
「まずは初心者向けの依頼を探さなくてはなりませんね。それから私たちの面倒を見てくださるエージェントの方々を募集して……同じ初心者の方にもお声がけしたいところですが」
 ワーカーホリックな元ヤンは、やるべきことを整理して組み立てていく。
「私もできるかぎり鍛えておかないといけませんね。相棒の一途な思いを支えるために」

解説

●依頼
私ども(礼元堂深澪/アラン・ブロイズ)とともに従魔を討伐していただきたく思います。

●状況
・深夜、繁華街の裏路地にミーレス級のネズミ型従魔が多数現われるようになったとの報告がありました。私どもはこの従魔群を討伐しに参ります。

注1:この戦闘では10体の従魔を「1ユニット(=1体)」としてカウントいたします。
注2:数が減った従魔は、合流して1ユニットを形成しようとするようです。

●地形
・裏路地は2ルート(カラオケ屋裏、日サロ裏)に別れており、各ルートに1~8ユニットの従魔が隠れております。
・1本のルートに複数の従魔ユニットが潜んでいた場合、戦闘が起こると同一ルート上にいる従魔ユニットが奇襲をかけてくる模様です。
・2ルートとも、路地裏の幅1スクエア、長さは40スクエアで、左右を分厚いコンクリートのビル壁で挟まれております。
・2ルートとも、進んでいくと最奥の空き地(横10×縦5スクエア)に出ます。
・路地裏には灯がございません。
・私どもは2本の路地の入り口にて、情報の整理と伝達、緊急時の回復を行います。

●ミーレス級ネズミ型従魔×20
・見た目は大振りなドブネズミとなります。
・噛みつき/引っ掻き=近接単体物理攻撃(いずれも毒による「減退」のBSが付与されております)。
・従魔は生命力が半分になると(1ユニット中5体が消滅すると)空き地へ逃走し、そこで待機しているユニットと合流しようといたします。
・みなさまと遭遇いたしませんでした従魔も空き地へ向かいます。

●備考
・不慣れな私どもに、戦いかたについてのアドバイスや、オペレーターに任せたいことなどをご教示いただけましたら幸いです。
・私どもと同じ新人の方も歓迎させていただいております。
・今回は「遭遇戦」ルールが適用されます。
・通信機器のご準備をお願いいたします(お持ちでない方にはお貸しいたします)。

リプレイ

●打ち合わせ
「ご準備よろしいでしょうか?」
 カラオケ屋裏と日焼けサロン裏、2本の路地裏の中間点で、アラン・ブロイズ(az0016hero001)が一同に確認した。
「ハツカネズミくらいしか見たことないけど、ドブネズミってどんななの?」
 疑問符を飛ばす御童 紗希(aa0339)に、契約英雄のカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が答えた。
「俺が見たのは体長20センチくらいあったな。大ぶりとなると、ちょい小柄な猫くらいあるんじゃないか?」
 圧倒的な猫アレルギー持ちのカイが鳥肌を立てる。想像してしまった紗希も「うへぇ」と顔をしかめた。
「ネズミといえば迷宮モノでは定番ですが……問題はその数ですね」
 晴海 嘉久也(aa0780)がつぶやく。
 彼の契約英雄、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)はおっとりと笑顔を傾げ。
「どれほどの数でもしょせんは従魔です。殲滅しましょう」
 お嬢様然とした見かけながら、数多の戦場を渡り歩いてきたエスティアである。その言葉に揺らぎはなかった。
「そうですね。わたしたちでみなさんの道、斬り拓きましょう」
「よろしくね! ボクたちは最初、ここに待機してるから」
 嘉久也たちに元気よく手を挙げてみせたのは礼元堂深澪(az0016)だ。
「で。ボクたちなにしよっか?」
「まず、2本の路地に潜んでる敵を減らして奥の空き地に追い込みたいんどすわ。なんで、情報の整理とか敵の奇襲予想を。頼ってばっかで申し訳あらへんのどすけど、BS回復とかもお願いできますやろか?」
 戦場に不慣れな深澪とアランのため、彼らの役割を整理して「お願い」する弥刀 一二三(aa1048)。
 その傍らで、契約英雄のキリル ブラックモア(aa1048hero001)は自分の幻想蝶を凝視。
「深澪殿も心配だが、こちらもやはり心配だ。本当に幻想蝶の中ならケーき――き、きりたんぽのしっとりふわふわ感は保たれるんだろうか?」
 思わず秋田名物の名を呼ぶキリルを、一二三があわててなだめた。
「幻想蝶の保冷力はどんな食品の鮮度も完璧に保つんやで! それに正義! ほら、正義は悪を見逃したらアカン!」
「む、正義!」
 あっさりはぐらかされたキリルが、拳を握って奮い立つ。
「私も戦闘が得意! ってわけじゃないので参考になるかわからないですけど……」
 一二三たちに代わり、唐沢 九繰(aa1379)が深澪に声をかけた。
「オペレーターとしての技量を生かすのなら、遠距離武器と回復による後方支援がよいかもしれません」
 こちらは九繰の契約英雄でバトルメディックのエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)だ。
「ちなみに私、傷つく前に敵を倒しちゃう前衛スタイルです!」
 メディックとはいえ、そのスタイルはさまざま。深澪は「なるほどぉ~」と息をつき。
「ボク、かわしたりするのも得意だから、走り回ってサポートする感じかなぁ」
「自分がそう決めたなら、それをやるために力を尽くせばいいさ」
 八朔 カゲリ(aa0098)の静かな声音に、契約英雄のナラカ(aa0098hero001)が言葉を重ねる。
「汝の強き意志の輝きを魅せてくれ」
「うん、がんばる!」
「深澪様、情報の取りまとめが優先ですよ」
 今にも突撃しそうな深澪をアランがたしなめた。
「後ろでおぺれーたーをするばかりでなく前線にも出ようとは、実に立派な心がけではないか。貴様も見習ったらどうだ?」
 含み笑いをしつつ、契約主の会津 灯影(aa0273)を流し目で見やったのは楓(aa0273hero001)だ。
「う、うっさい! 適材適所なの!」
 リンクした後は相棒にすべてを任せて応援係にまわる灯影が、赤い顔で言い返した。
「ふふ。貴様は我の内で晩酌の献立でも考えていろ」
「はいはい――って、今日も飲む気か!」
「今日は深澪サンたちの訓練、というわけダナ」
 傍らで体をほぐしていた契約英雄の祖狼(aa3138hero001)の顔を見上げ、ライロゥ=ワン(aa3138)が金眼をまたたかせた。
「だからとて手は抜くなよ? 敵の従魔は本物じゃからな」
 祖狼に「わかってイル」と返したライロゥは目を細め、、口を開けた路地の暗闇を透かし見た。
「暗いのは慣れているが、せめて月明かりはほしいモンダ」
 一ノ瀬 春翔(aa3715)は鋭い視線をアランに向け、口を開いた。
「アンタらなら大丈夫だろうけど、あんまり気張んなよ。ヤバそうならすぐ呼べ」
「アリスたちがばびゅ! っと飛んでくからねー!」
 横から飛び込んできたのは彼の契約英雄、アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)だ。
 春翔のぶっきらぼうな言葉に潜む優しさと、アリスの元女帝ならではの力強さ。アランは思わず顔をほころばせた。
「はい、お願いいたします」

●奇襲戦
「……埃臭いな」
 日焼けサロン裏の路地に突入したライロゥが、鼻に皺を寄せてつぶやいた。
『森とは勝手がちがうな。耳はどうじゃ?』
 祖狼の促しに、狼耳を立てたライロゥだったが。
「それらしい音はするが、ほかと混ざって反響している。位置と距離の特定ができん」
『まるで洞窟じゃな』
「本当に真っ暗ですね……どこかなー」
 ライロゥの後ろから、額に装着したヘッドライトを巡らせる九繰。耳もすませてみるが、ネズミが発するような音は聴こえない。
「私の耳じゃムリかぁ」
『敵の位置が不明である以上、知覚の出力を高めておくことは無駄になりません』
 エミナのコメントに納得した九繰は目と耳をこらし、また進み始めた。
「GPSの連動は問題ありませんね。今のところはカラオケ屋裏に向かったみなさんとも歩調を合わせられています」
 紗希の報告に続き、スマホから深澪の声が飛び出した。
『こちら礼元堂。地図の同期はちゃんとできてるね。奇襲の予測は――どこもかしこもって感じで難しいの。でも、なにかわかったら伝えるよぉ!』
 春翔はこれに「了解だ」と返し。
「リアルタイムで情報処理してくれるのは便利だな――」
 ぢゅう!
 ビル壁の上から、土台と地面との隙間から、どことも知れぬ闇の奥から、沸き出てくるのはネズミ、ネズミ、ネズミ。
「っと、こういうタイミングに限ってだぜ!」
 ヘッドライトでネズミの一群を照らす春翔。
『棲みついておる暗がりよりも深き常闇へ蹴り落としてくれるわ!』
 春翔へ向けられた原始的な殺意に対し、アリスは鋭く尖った殺意を突き返す。
「本当に小柄な猫くらいの大きさなのですね」
『猫は苦手だが、おまえらは好きになれねぇな』
 驚きながらも16式60mm携行型連射砲を構える紗希と、その内で苦い言葉を紡ぐカイ。
「ざっと70匹か。ライロゥ、減らすぜ!」
 春翔が同じ『暁』のメンバーであるライロゥへ言葉を投げ。
「了解した」
 竜爪を装備したライロゥが応える。
「うわぁ、たっくさんいますね。ここはやっぱり先手必勝です!」
 九繰はアステリオスを構えて突貫しようとしたが――
『九繰、建造物や道路への被害にも配慮しましょう』
 エミナに釘を刺され、あわてて大斧をレガースに換えた。
 ビルや道路に傷をつければ、それがまた従魔どもの出入り口にならないとも限らない。環境を守り、敵だけを討つ!

 一方、カラオケ屋裏の路地へ向かったエージェントたち。
「日焼けサロン側の者たちも順調に進んでいるようだ」
 リンクによって身長2メートルの偉丈夫と化した嘉久也が、スマホをPride of foolsをに持ち替えた。ヘッドライトの灯が押し退けた暗がりの先へ、ふたつの銃口を向けて足を踏み出す。
『地の利は敵にあります。どこから飛びだしてくるか、エスティアたちには推測ができません。でも、ひとつだけはっきりしていることがあります。――敵は闇に潜んでいる』
 このエスティアの言葉を嘉久也が継ぐ。
「光の中に引きずり出せば、その脅威を大きく削ぐことができるか」
「ふん。暗闇よりの奇襲など凡策すぎて欠伸が出るわ」
 嘉久也を押し退けて先頭に出ている楓が歩を早めた。
「周囲の警戒は貴様に任せたぞ」
 ぞんざいに言いつけられた灯影は、楓の内でブツブツ文句を垂れる。
「適材適所であろう? 貴様の小心が大いに役立つ場面ではないか。喜び励め」
『それならもっといい感じで乗せギャー』
「ギャー? ぐっ!」
 ふくらはぎにはしる鋭い痛み。楓が反射的にその痛みの元を見ると。
 ラージサイズのネズミが、前歯を深々と突き立てていた。
 それどころか、彼のまわりには50匹のネズミが迫っており。
 一斉に、飛びかかってきた。
 楓は油断していたのだ。いつどこで敵と出くわすか知れない戦場で、自分の行動を決めないまま前進していた。パッシブスキルによってBSを喰らわずにすんだのは幸いだが、それでも1対50の窮地は覆せない。
「楓はん!」
 一二三がライトブラスターを撃ち込むが、ネズミどもには当たらない。闇、ネズミ、楓、三者が絡み合い、場の外からの干渉を阻むのだ。
 一同の最後尾についていたカゲリもラジエルの書を開いたが、結果は一二三と同じ。すべり出した白刃は駆け回るネズミどもに引き回されたあげく、壁に当たって砕け散った。
『覚者(マスター)。あの場は近くありながら遠い、ある意味で異世界のようだ。こちら側におっては関われぬだろうよ』
 ナラカの眼が、乱戦エリアという特殊な戦場を見て取った。
 それを聞いたカゲリは、迷うことなくネズミに取り巻かれた楓へ向かう。
「あの場があちら側だっていうなら、こじ開けて、踏み込む」
 そしてキリルもまた、カゲリと同じ判断を下していた。
『攻撃が届かないなら届く場所へ突っ込め!』
「楓はん、なんとか持ちこたえてや!」
 一二三も駆け出した。
『――嘉久也君、状況は!?』
 2丁拳銃を撃ち込みながら、嘉久也が通信機の向こうの深澪へ叫ぶ。
「敵の奇襲を受けた! 回復の準備を整えたうえで待機せよ! 場の混乱が収まるまでそこを動かぬように!」

●乱戦
 こちらは日サロ裏ルート班。
『進行方向右側のビルの土台に大きなヒビがあるよ! ネズミ注意っ!』
 深澪のナビで目線を飛ばした九繰が、ヒビから飛びだしてきたネズミをレガースの縦蹴り――蹴り上げた脚を、軸足を半回転させる(返す)ことで下への蹴り下ろしに変化させる技――で叩き潰した。
「エミナちゃん、下見しといてよかったね!」
 九繰は昼間、自分が進むルートの確認を行っていた。その際にチェックした危険箇所はもれなく深澪に伝えられていて、こうして役に立っている。
『はい。交戦中に情報支援を受けられるのもありがたいです――春翔、足元に行きましたよ』
 エミナの淡々とした声が、春翔に注意を促した。
「よし!」
 短く応えた春翔がサブマシンガンを下へ向け、3点バーストをくらわせる。
『カラオケ班が奇襲で混乱中! ボクたちは状況見ながらあっちに合流するから!』
『わかったー! でもね、あぶなくなったらすぐ電話だよ!』
 深澪への返事をアリスに任せた春翔はライロゥへ目線を飛ばし。
「31!」
『ならば次は、32じゃな』
 祖狼の声を聞きながら、ライロゥが壁へ駆け上がった。1歩、2歩、3歩――跳躍。九繰の頭上を越えて宙で反転し、彼女へ歯を剥いたネズミ2匹を鋼の爪で引き裂いた。
「ありがとうございます、ライロゥさん!」
 礼を述べる九繰を背にかばい、ライロゥは短く言い放つ。
「下がれ。オレがやる」
『まあ、この娘御はお主より大分強いわけだが』
 苦い顔の祖狼へ、ライロゥは内なる声で言い返した。
『関係ないネ。女は男が守るものダ』
『表で堂々と言えぬあたり、若いのぅ』
 思わず顔を赤らめるライロゥの後ろで、エミナが九繰に問い合わせた。
『なにかあったのでしょうか? ライロゥの顔面の血流量が増加しています』
「え、そうなの? うーん。ライロゥさんはね、いろいろあるんだよきっと!」
 ロボット以外のことはよくわからない理系女子・九繰。その悪意なき口撃が、少年の心をどんどん追い詰めていく。
「はいはい! まー、そんなこともあるってこった」
 ネズミを蹴散らしながら割り込んだ、空気の読める男・春翔がライロゥを救い出し、戦場へと押し出した。
 と。最後尾から視線だけをちらちら飛ばしていた紗希が、内なる声でカイに尋ねた。
『こういう場合って、あたしもみんなに意見とか言ったほうがいいんじゃないかな? いっしょに戦ってるチームメイトだし。コミュニケーション、大事だし』
 コンプレックスと内向的な性格が相まって、他人と関わることに消極的だった彼女。それが今、顔を上げて人づきあいしようとがんばっている。実にいいことなのだが。
『やめとけマリ。ヘタにつつくとライロゥが爆発するぞ』
『え? 爆発、するんだ……なにが?』
『思春期の男心がな――っと、援軍さんのご到着だぜ』
 乱戦エリアに潜り込んできたのは、新たなネズミ20匹。
『こンの野郎ども! 数ばっか多くてウゼーんだよ!』
 先頭を駆ける3匹のネズミを60mm弾で文字通りに粉砕し、紗希は薄青の左眼を不敵に輝かせた。その瞬間、16式の緊急リロードが終了し、さらなる弾雹が残りの7匹をもれなく塵に変える。
「後ろからの奇襲には私が対処します。みなさんはそれぞれのポジションに専念してください」

 そしてカラオケ屋裏ルート班。
 3組のエージェントは20秒を費やし、ネズミの内に埋まる楓の元へたどりついていた。
『楓殿、気をしっかり持て! 傷は浅いぞ!』
「いや、傷もなにもまだ楓はんが見えてへんし、な!」
 キリルにツッコみつつ一二三が、こちらへ襲いかかってきたネズミを跳び越し、壁を蹴った。
「楓はんからどきさらせぇ!」
 跳びながら一二三が放った影刃はネズミを数匹、まとめて薙ぎ払う――が、楓の姿はまだ見えない。
「鼠どもがひとつところへ固まっているうち、できるかぎり討ちとるぞ!」
 嘉久也が仲間に声をかけ、2丁拳銃でネズミ2匹の頭を吹き飛ばす。
『エスティアたちが出ます。みなさんはサポートを』
 巨体というばかりでない、その圧倒的な存在感で従魔を押し込んでいく嘉久也。しかしその腕に、脚に、まとわりついた窮鼠の齧歯が突き立てられた。
「狭さに加え、戦場がこうも乱れては……!」
 銃のグリップでネズミを叩き落とし、嘉久也が乱戦エリアを見渡した。
 エージェントたちの足元を思うままに駆け巡り、翻弄するネズミ型従魔。普通の戦いであればありえない距離感だ。
「目的を絞っていけばいい。今は楓を救う」
 カゲリがあえて突きだした左腕に、次々とネズミが歯を立てる。
 しかしカゲリはそれに構わず、楓に取りついたネズミどもへラジエルの書の白刃を飛ばした。
『うむ。せいぜい責を果たさんとあがこうではないか。情という業に足をすくわれるならば、それもまた一興だ』
 仲間を救うために窮地を招いたカゲリへ、ナラカは静かにうなずいてみせた。
『ぅあっ! でっかい川見えた!』
 ようようとネズミ布団から顔を突きだした楓の内で、灯影が声をあげた。
「無事か!?」
 すかさず嘉久也が腕を伸ばし、ひと息に楓を引き起こす。
「大事ないこともない。ゆえに貴様らにはこう述べておくぞ。まことに感謝する!」
 えらそうでいて意外なフレンドリーさで礼を述べる楓。ただ、本人の言葉どおり、体の至るところに噛み傷が穴を空け、それなり以上のダメージを負っている。
『ケガは痛いし毒で苦しいし……このままだとあの川越えてっちゃうよ?』
「こちらの岸にしがみつけ! あとごふん、は貴様の得意だろう?」
 弱音を吐く灯影を叱りつけた楓だが、なんとも力が、入らない……。
「楓君の前方1スクエアに展開中の敵ユニットに攻撃集中ぅ! 逃げる前に叩いて!」
 6匹にまで減っていたネズミの一群に、嘉久也の鉛弾とカゲリの白刃、一二三の影刃が飛び、さらに。
「傾国の妖狐とうたわれしこの悪逆の化生、惨たらしく華やかに雑魚どもを蹂躙してやろう」
 毒を癒やされた楓のブルームフレアが、残る3匹を一気に焼き尽くした。
「姿が見えないユニットがいるよ。奇襲に注意!」
 ルートの入り口で待機しているはずの深澪が、そこにいた。
『隠れておっても、仲間を潰し尽くせば出てこざるをえんだろう』
「ただ目の前の敵を討てばいいってことだな」
 ナラカとカゲリは深澪になにを問うこともなく、嘉久也の足元を駆け抜けようとしたネズミを神剣で地に縫い止めた。
 深澪が自らの意志で行動し、ここへ立ったのであれば、彼らはそれを肯定するのみだ。
『嘉久也君、エスティアたちは』
「このまま前へ、だな!」
 嘉久也の重厚な体がすべるように動きだし、ライトの白光で闇を、鉛弾で敵を駆逐する。
 その間に、先ほど深澪が口にした潜伏ユニットが行動を開始した。
 狙いはエージェントたちでなく、この場でもっともライヴスの圧力が弱い深澪。
「あ、アラン君っ! 敵がボクたちに接近中なんだけどぉっ!?」
『落ち着いてください! まず深呼吸――ではなくAGWを』
「ちょぉ待てや。おまえらが見るんはオレやろ?」
 しかし、そのネズミどもの目を、守るべき誓いを発動した一二三が奪い取った。
『ブレイブナイトの鉄壁、ネズミごときに破られはせん!』
 盾を振り込んでネズミを叩き散らした一二三は、背中越しに深澪へやさしく笑みかけ。
「情報と回復の支援を頼みます。深澪はんはオレらの頭や。頭がなかったら、オレら手足はよう動かれへん」
 強くうなずいた深澪は、各人のスマホと通信機に繋がるヘッドセットのマイクに声音を飛ばす。
「日サロ班、状況報告お願い! カラオケ班は反撃開始だよ! GPSデータの連動するから――」

●殲滅戦
「深追いはいらねぇ! 奥の空き地に追い込め!」
 春翔の指示が、通信機を通じてカラオケ屋裏ルート班へも伝えられ。
 深澪のナビでタイミングを合わせたエージェントたちが、ついに空き地で再集結した。
「……ここにもたっくさん、ですねぇ」
 九繰の言葉どおり、空き地にはネズミどもがひしめいていた。
『九繰、驚いている場合ではありませんよ』
「っと。みなさん、ライトアイをかけます! それぞれのライトを見て、なるべく集まってください」
 エミナの言葉で我に返った九繰が、温存していたライトアイを一同に。これでライト頼りだった視界が大きく拓けた。
「ドブネズミを一掃します!!」
『おまえら後ろへ下がれ! 弾が当たっても知らねーぞ!?』
 紗希とカイが吠え、腰だめに構えた16式を掃射した。その細腕は60mm弾の連射を支えながら小揺るぎもせず、正確に、そして確実に骸を量産していく。
『このまま前進しながら掃射するぞ!』
「1匹も逃がしません」
 一方。楓が飛ばした幻想蝶が、はらはらと羽をはためかせてネズミどものただ中へ――BSをまき散らした。
「流れるような足さばきと流麗なるしぐさが合わさり、我の優美さも有頂天よな!」
『ついさっきまで地獄に落ちかけてましたけどー』
 灯影のげんなりとしたつぶやきは、絶好調の楓には届かない。
「ここならば存分に振り回せよう!」
『嘉久也君の思い描くままに。エスティアが支えます』
 巨斧シュナイデンを構えた嘉久也が、BSに蝕まれて右往左往するネズミの前へ進み出た。
 その後ろにはアステリオスをかついだ九繰がいる。
「お供します!」
「おお!」
 嘉久也と九繰の背が合わさり。
 2丁の大斧が円を描いて鋼の竜巻を巻き起こした。
 吹き飛ぶネズミどもを追い、嘉久也は斧の軌跡を曲げて横薙ぎに一閃。
「我が怒濤の斬撃、その卑小なる身に刻んで逝け」
 続けて柄の半ばを踏みつけ、縦に一撃。膝で柄を蹴り上げて袈裟斬り。最後は両の腕に渾身の力を込め、唐竹割りを決めた。
 類い希なる武術の才とエスティアの支えによって実現した、嘉久也の凄絶としか言いようのない5連撃である。
「よし、私たちも負けてられませんよ!」
 回転力をいっぱいに乗せた九繰の大斧が、太い風斬り音をあげてネズミどもを叩き潰していく。技は力の中にありと云うが、この一撃はまさにそれだ。誰かが傷つく前に全力で敵を粉砕する「超前衛メディック」の真髄である。
『力強きことよ。さて、お主はどうだ』
 祖狼に応えることなく、ライロゥは跳んだ。ビル壁を蹴って一気に高みへ至った彼の唇が、低く呪句を紡ぎ出す。
「盛レ……幻華……燃エロ」
 ブルームフレアが仲間と仲間の間を埋める不規則な壁を成し、隙間へ潜り込もうとしていたネズミどもを消し炭へと変えた。
『覚者よ、足元が少々騒がしい。舞は得意か?』
 足に取りつこうとするネズミを見やり、ナラカがカゲリに訊いた。
「剣舞なら、嗜む程度にな」
 つま先を立てて軸としたカゲリが神剣を閃かせた。
「――撃破数147!」
 撃破数カウントと大まかな敵の動きのナビ、回復に務めていた深澪。それに苛立ったネズミ1ユニットが、その声を止めるべく襲いかかる。
「深澪はん!」
 影刃を飛ばす一二三だが、届かない。
『深澪様、シールドです!』
「りょ、了解っ!」
 アランの指示で盾を突きだす深澪。先頭のネズミをうまく止めたが、残りのネズミが盾をのりこえ、その腕に――
「そのまま踏んばれ!」
 跳び込んできた春翔の斧がネズミどもの鼻先を遮って弾き、バラバラと宙に跳ねた奴らをライヴスの針で縫い止め、墜とした。
『おーつかれさまー! ばびゅっと飛んできちゃったよー!』
 アリスの声が高く弾け、深澪の腕をガチガチに固めていた緊張を解す。
「ありがと。――ゴメンね。一人前の働き、できなくて」
 ため息をつく深澪に、春翔が言葉をかけた。
「大事なのは武勲上げることじゃねぇ。仲間と連携して、最小限の被害で任務を終わらせることだ」
 すでに掃討戦へ入った仲間たちを見やりながら、さらに言葉を継ぐ。
「それをするにゃ、情報がいる。情報がありゃ俺らは準備できるし、敵にも罠にも覚悟決めて突っ込める。つまりよ、オペレーターは俺らの柱ってこった」
『いっつもお世話になってますー、ってこと!』
 アリスの声に重なって、紗希の声が響き渡る。
「これで終わらせます!」
 紗希のライヴスショットが最後のひと固まりを爆散させ。
 路地裏に静寂が戻った。

●戦いの後
「増援の気配はないようですね」
「こっちも大丈夫です!」
 リンクを解かず、16式の銃口を油断なく巡らせる紗希と、斧を手に闇を探る九繰。
『怪我をされている方はすぐに治療します』
 エミナの言葉に反応したカイが、
『マリ、ケガはないか? すりむいたとか、足の小指ぶつけたとか――』
「しょせんはネズミでしたね。もう少し頭を使った連携を取られていたら危ないところでしたが」
 袖についた埃を払う嘉久也にエスティアが。
「帰ったらお洗濯しないと」
 嘉久也は聞き逃さなかった。この後エスティアが「せんたっきさんで」とつぶやいたのを。彼女の夜は、洗濯機をじっと見つめているうちに明けるだろう。
「僕の場合、戦いで自分の役割を認識することが大事だと教わりましタ」
「あとは暴走しないことじゃな。複数人で動くのがエージェントの基本じゃ。常に周囲を意識し、感情にまかせた行動を抑えよ」
 深澪に語るライロゥと、深澪のみならず彼にも言い含める祖狼。
「頭ではわかっていても、なかなかに難しいのデス」
 シッポを振り振り、ライロゥが言葉を詰まらせた。
「しかしおぺれーたーとやらの同伴は便利よな。これからも励むがよい!」
 唐突に現われた楓が、麗しい笑顔で深澪の肩に手を置いた。
「主に妖狐様のせいでオペレーターの恩恵、受けられなかったんだけどね」
 灯影の深いため息は、当然のことながら楓に無視された。
「たしか現場での支援は始めてやて聞いたんどすが、助かりましたわ。これからもよろしゅう♪」
 妖狐時空を押し退けるように、深澪へ手を差し出す一二三。それをキリルがとびきりのクールボイスで遮った。
「握手はやめておけ。従魔とはいえ鼠。どんな菌があるかわからん。――我らもうがいと手洗いだ! ケーきりたんぽを食すために!!」
 そんなにぎやかな光景を見つめるアランに、春翔が声をかけた。
「よう、おつかれさん」
 くわえ煙草の先から紫煙をくゆらせ、彼はあえてアランを見ずに言葉を継ぐ。
「あんな感じでよかったか?」
「はい。深澪様もいろいろと感じるものがあったようです」
「ま、次も依頼に出たい……なんてなら、またつきあうぜ」
「アリスもね!」
 アランは春翔とアリスに深く頭を下げた。
「――覚者よ、あの娘はまだやる気だぞ」
 ナラカにうなずき、カゲリはその場を後にする。
「思うことはあるけどな、礼元堂が意志を貫くならそれでいい。巻き込まれるなら、そのときはまた俺にできることをするだけだ」
 カゲリの返答にナラカはただ、笑みだけを返した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 焔の弔い
    ライロゥ=ワンaa3138
    獣人|10才|男性|攻撃
  • 希望の調律者
    祖狼aa3138hero001
    英雄|71才|男性|ソフィ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
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