本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】未知なる薬を求めて

渡橋 邸

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/16 20:08

掲示板

オープニング

●Some before……
 香港市内。大きなビルが並ぶエリアで行われている市場の近くにある店の中に男はいた。その店は大通りから少し外れた位置に佇んでいる薬屋だが、同じ通りにある店の中では一番大きい店であった。
 そこを訪れた彼は白衣の上からミリタリージャケットを着ている珍妙な男だ。店主も最初は訝しげに見ていたが、最初に手渡されたメモの通りに調合するだけでいいという仕事のやりやすさと男の金払いの良さから、いつからかその程度のことは気にならなくなっていた。
「店主。いつもの薬を頼む」
「へい旦那。今度はいくら用意すればいいので?」
「そうだな……今回はあまり多くなくていい。近場での仕事だからな」
「承知いたしましたぜ。それでは薬は調合が終わり次第いつもの場所に入れておきますんで」
「ああ、頼む」
 男は店主に、いつものようにアタッシュケースを手渡す。店主はそれを受け取ると男に向かって恭しく頭を下げた。そして男が店を出ていくのを確認すると、アタッシュケースを開く。中にはパックに入れられた黄色い液体と薬代が入っている。店主はそれらを取り出し金は金庫に、パックは作業台に移動させた。
「さて、やるとしますかね」
 そして棚からいくつかの薬草を取り出すと調合を開始した。

●男の異常
 H.O.P.E.本部にある一室にて、1人の男と職員が向かい合っていた。
 男はごつい手錠をはめ、透明なガラス越しに対峙している。
 彼の名前はブラッディ・メディカ。つい先日、香港にて起こった戦いの最中、エージェントらの機転により捕縛されたマガツヒのメンバーである。
「マガツヒの拠点、もしくは比良坂清十郎の居場所を言う気にはなったか?」
「……」
「やれやれ、やはりだんまりか……これは長くなりそうだ」
 職員の質問に沈黙で返すメディカの姿は頑なと言うべきものであり、決して口を割る気がないことが伺えた。
 傍らに用意しておいた水を口に含み、職員の男はどうしたものかとメディカを睨みつけた。彼の比良坂への忠誠ははっきり言って異常の域にまで達している。並の方法では口を割らせることは叶うまい。何か良い手段はないか……。そう思いメディカの顔を見たところで職員は異常に気が付いた。
 先ほどまで座っていたメディカの身体が傾いていく。そのまま床に落ちると悶えるように震え始めた。
「あ……グッ……ガ……アァ……!」
「何!? どうした!」
 職員の問いに彼は答えない。ただのたうち回るのみ。
 そうしてしばらくした頃に彼は動くことを止めた。死んだわけではないが、その姿は酷く弱弱しい。
 職員はすぐさま室内の内線を取り連絡を行った。


●その身を這う悪意
 ベットに横たわり荒い息を吐くメディカの横で医師と職員が話をしていた。
「どうやら毒を摂取していたようです。ライヴスによっていくらか症状を抑えることができていますので、すぐ死ぬことはありませんが……あまり時間は残されていないでしょう」
「毒だと? 自殺か、それとも口封じのための暗殺か……いや、しかし所持品の検査を行ったときは毒物を持っていなかったはずだ。それに警備だって万全の態勢で……」
「どうやら彼は事前に毒薬を服用していたものと考えられます。恐らくは行動を封じられた際に速やかに自決するためでしょう」
 職員の疑問に医師が答えた。そして検査結果とみられる紙を取り出す。
 そこにはいくつかの症状と、そこから推測できる毒薬がかかれていた。その内2つほどは赤のアンダーラインが引かれており、横には薬の名前は書かれていなかった。
「いずれも解毒薬を用いることで症状を抑え、治療することができる物ですが……うちいくつかは私達も見たことがない代物です。恐らくはマガツヒが独自に研究開発していた物でしょう」
「我々の知らない毒か……厄介な」
「近しい物であれば以前、捕獲した従魔の持っていた毒がありますが……しかし細かなところで違いが見られますから血清で対応できるかどうか……」
「マガツヒが開発していたならば、奴らの活動していた付近に解毒剤ないし解毒剤の材料が手に入るはずだ」
「彼らの出没地点の周辺には確かいくつか市場がありましたね。そこを調査してはどうでしょうか」
「そうだな。ただ問題は何を使っていたのかがわからないという点だが……」
 職員はそこまで口にしたところで、はっとした。所持品の検査の時に押収した手帳があったことを思い出したのだ。随分と崩された字で書かれていたため詳細を読み取るのは後日に回していたものであるが、そこに何らかのヒントがあるかもしれない。
 職員の男はそのことを医師に告げると、すぐに所持していた端末で連絡を取り、エージェントらに調査の依頼を出した。

解説

●依頼内容
 ブラッディ・メディカは事前に自決のために毒を摂取していたようです。
 エージェント各員にはその毒を治療するための解毒薬を見つけ出していただきたい。
 状況は一刻を争うゆえに、迅速な行動を求む。

●状況
 ブラッディ・メディカは毒によって意識不明の状態
 毒の症状はライヴス活性化によって少し抑えることが可能だが、通常の方法では治療は困難である
 メディカの使用していた毒はある従魔が持っていた毒と類似している
 メディカの手帳には"市場の裏"、"薬屋"と書かれていた

《以下PL情報》
●ヒント
 舞台となる香港の街中にはいくつか大きな市場がある。その中でも近くに薬屋がある市場は3つである。
 メディカの格好は相当に目立つため、目撃者も少なくないものと思われる。

 冒頭で薬屋の男が受け取っていた黄色の液体は血清である。
 なんらかの薬の調合を行っており、そのレシピは事前に受け取って保管しているようだ。

リプレイ

●未知なる薬を求めて
 香港市内にある市場の中でも最も大きな市場の表通りに面する喫茶で帽子を目深に被りノートパソコンを操作する青年と猫背で少しだらけている銀髪の青年、そしてぼーっと座っている少女がいた。つい数時間前に他のメンバーと分かれて3つあるうちの1つを捜索していたレイ(aa0632)と不知火 轍(aa1641)、椋実(aa3877)である。
「思ったよりも芳しくないな。メディカはこっちへは来ていないのか?」
「……写真を見せても反応が悪いからね。……知らないって感じだった」
 レイの言葉に轍が頷きを返した。先ほどまでは大通りの店やそこから少し外れたところにある裏通りで話を聞いていた。写真を使った聞き込みなどをしていたのだが、その殆どがあまりピンと来ていない様だった。
「ただ、それでも有力な情報は得られたか」
 レイはキーボードを叩く手を止めると、画面を鋭く睨んだ。そこにはいくつかの薬屋で聞いた情報が羅列していた。中身はほとんど関係のない物であったが共通して隣の町に店を構えていた薬屋の生活の質が目に見えて上がっているという話が出ていた。
 椋実が目を細めながら口を開く。
「たばことかお酒とか持ってきてて正解だったね。薬屋の人も気前よく答えてくれたし」
「……だね。ただなんだかあからさまな買収みたいだったけど、情報は得られたしいいかな」
 椋実のあっけからんとした言い方になんとも言えないような顔をした鉄だったが、それで情報を得られたため強くは言わなかった。特に追求する必要がなかったのも大きな理由の一つであるが。
「ともかく情報をまとめたものを全員に送っておくか」
 レイは通信機を取り出して隣町へ向かったメンバーに連絡をとった。



 連絡を受けた少女らは急いで薬屋へと向かっていた。目的の薬屋は幸いにして現在地からそう遠くない位置であった。
「ふう、意外と早くわかったのは助かるな」
 リィェン・ユー(aa0208)が道すがら口にした。彼も含め、今回の依頼を受けたエージェントら全員の見解ではもう少し時間がかかる予定だったのだ。それがいい意味で予想を裏切られ、嬉しい悲鳴を上げている。
「そうだね」
 早歩きで進むリィェンの隣を歩いていたランカ(aa3903)が淡々と頷く。
 その後は無言で道を進む。古びた通りをどれだけ歩いただろうか。彼らの視界にやや古びているが、通りで一番大きな店が映った。建物につけられた看板には中国語で薬屋と書いてある。目の前で立ち止まり、リィェンとランカはもう一度だけ地図で確認した。
「ここが例の薬屋みたいだね」
「……の、ようだな。では入るとしようか」
 ランカの言葉に頷きを返した後、リィェンは薬屋の戸を開いた。見た目の割に扉はスムーズに開いた。
 中に入ると真っ直ぐの所にカウンターテーブルがあり、男が座っていた。清潔そうな白の服を身に纏っている。彼は入店してきた彼らの方に少しだけ視線を向けると、直ぐに視線を戻して帳簿をめくり始めた。
 店主に向けてリィェンが声をかける。腕は背後で組み、手には録音機を持っていた。
「やぁ、店主。いいものはそろっているかな?」
「らっしゃい、お客さん。ヘヘ、うちの品揃えは近隣では一番ですぜ」
「へえ、例えばどんなものを?」
「うちは材料さえあれば基本的にはどんな薬でも取り扱いますんで。例えば軟膏や風邪薬。睡眠促進や疲労回復。あとは解毒剤なんかも取り扱ってますぜ」
「ほう。それはいいことを聞いた」
 リィェンは店主の答えに満足げに頷く。
 今度はその姿を見ていた店主が彼田に対して問いを投げかけた。
「お客さん方はどんなものをお望みで? 材料さえ用意できればなんでも用意しやすが、簡単なものでしたらすぐにでも出せやすよ」
「身動き取れなくなっちゃった人が居て。代わりのおつかいなんだ。白衣の上からアーミージャケットを着てる人なんだけど、知ってる?」
「は……。白衣の上からジャケット……ああ! もしかして旦那の知り合いの方で?」
「後から使う方の薬が足りなくなったんだって。都合できない?」
 ランカの問いに対して店主は訝しげな顔をした。
「薬が足りない……? いや、それはないんじゃないんですかね。旦那は以前来たときはこれで十分すぎるって言ってたんですが」
「それが色々あって足りなくなっちゃったの」
 ランカの言葉に店主は困ったような顔をした。以前納品した分は、適度に服用すれば1か月以上はもつ量だったのだ。それが2週間足らずでなくなってしまっているというのはどうもしっくりこない。
「用意できないのであれば薬の情報をもらえるだけでもいい。ともかく今は彼の使用していた解毒剤が必要なんだ」
「へえ。用意するのは少し難しいんです。旦那の場合は特別な材料を持ち込んでましたので。あれが血清なのはわかるんですが……今残っている分じゃあ1回分も用意できませんで」
「ならばその血清と、できれば調合のレシピなんかをいただけないだろうか。あとは調合に必要な素材の入手場所も教えていただけるとありがたい」
「血清を? いや、あれは調合時の調整用にと特別に預かっているもので……とてもではねえですが譲れは。レシピも薬屋としては百万の富にも匹敵しやすんでとても教えられないですぜ」
 リィェンの言葉に対して店主の男はわかりやすい言い訳で拒絶した。その言葉を聞いたリィェンの目が細められる。
「そうか。……いや、困ったな。これがないとこちらも、そちらも大変なんだが」
「へ?」
「彼はマガツヒの構成員でね。その協力者ともなると無事でいられるか……店主。古龍幇をおとしめたマガツヒに一太刀返す手助けをした薬屋としてこれまで通り、商いをするのとマガツヒに協力した薬屋として古龍幇から追われるのとどちらがいい?」
 リィェンの言葉に店主は露骨に狼狽えた。町の薬屋である彼でも古龍幇とマガツヒの名前は知っていた。そして彼らが何をしたのかも風の噂で耳にしている。店主の冷静な部分がどおりで気前よく金を払っていたわけだと納得していた。
 そのまましばし店内が静まり返る。店主の視線はあちらこちらを右往左往している。それからたっぷり10分の時間をかけて逡巡した彼は素直にレシピと血清を取り出した。
「こ、こちらが血清とレシピですぜ。薬草についてもそこに書いてありやす」
「ああ、助かる」
「お、俺だって死にたくねえんだ。だから古龍幇には……」
「何も言わないと約束しよう」
 リィェンの言葉に店主は露骨にほっとする。そして血清とレシピを受け取るとリィェンは一声かけて先に店から出て行った。
 これで一件落着と店主が思っていた所で、ランカが思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ」
「まだ……何か?」
「これは別件だけど……従魔の毒とその解毒法に詳しい人、知らない?」
「は。従魔の毒と解毒? いや……俺の知り合いにはいねえです。聞いた話じゃあ、西欧の方で専門の研究をしてるって話だが……」
「そう……まあ、それだけでもじゅうぶんかな。ありがとう」
 話を聞き終えたランカもまた店の外に出る。先に出ていたリィェンは店のすぐそばで血清とメモとにらめっこをしていた。
「うーむ、聞いたことのない薬草があるな……どうもここらで買える物のようだが」
「表通りにあるかな?」
「わからん。もしかしたらこの市場にはないかもしれん。……とにかく血清の確保はできたのだし、皆に連絡をしよう」



「……ええ。ええ、わかりました。それでは私たちはこちらの市場を捜索します。そちらは引き続き近場での捜索をお願いします。……ええ、それでは」
 クレア・マクミラン(aa1631)は通信を切ると、傍らに立っていた少女に目を向けた。
「どうやら薬のレシピと材料を手に入れることに成功したようです」
「あ、見つかったの? それじゃあ私たちは香港支部の方に戻るのかな?」
「いえ、まだ足りない材料があるようなのでそれらを調達するのが先ですね」
 真白・クルール(aa3601)の問いにクレアが答える。話を聞きながら取っていたメモにある薬草。どうやら血清の効果を高めるものと、組み合わせることで特殊な反応を起こすもののようだ。
「薬草……そういえば、さっき話を聞いたお店は薬以外にも葉っぱを取り扱ってたわね」
 真白はそういえば、と間を置いて聞き込みの最中に訪れた店で取り扱っていたことを告げる。
 クレアはうなずき返した。
「そうですね。まずはその店まで戻って該当する物がないか聞いてみましょう」
「うん。エステルさんがなんとか時間を伸ばしてくれてるけど、いつまで大丈夫かわからないし。急ごう!」
 人でにぎわっている通りを遡っていく。何度か人にぶつかりそうになりながらも、彼女らは道を急いだ。
 そして歩き始めてから十数分ほどで薬の店まで戻ってくる。露店に近づくと、店主は驚いたように彼女らを見た。
「おや、また来たのかい」
「ええ。どうやら目的の店が見つかったようなので、そのお礼と。あとは探し物がありまして」
「お礼なんていいよ。聞かれたことを答えただけだからね。それと……探し物? いったい何を探しているのかな」
「薬草です。薬を調合するために必要なのですが、恥ずかしながらまったく聞いたこともないような物でしたので」
「ふむ……ちょっと待っててくれ。探してみよう」
「お願いします」
 クレアからメモを受け取った店主は、メモに書かれている特徴を基にして薬草を探し始めた。
 似たような形の葉などをいくつか見て、その成分などを確認すると店主はいくらかつまんでクレアと真白の元へと戻ってきた。
「私の見立てが正しければだけど、この薬草だね。うちでも取り扱っているようなポピュラーなものなんだけど……ああ、うちの国でしか使われてないのかもしれないね。たくさんあるから持って行きな」
「ありがとうございます。お代の方は後ほどH.O.P.E.の方に請求していただければお支払いしますので」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 店主から薬草の入った袋を受け取ると、クレアたちは店の外へと出た。
「さて、支部の方に急ぎましょうか」

●ブラッディ・メディカという男
 香港支部内にある医務室で横たわっているブラッディ・メディカ。彼の傍でエステル バルヴィノヴァ(aa1165)はライヴスをメディカの身体に流し込んでいた。その作業は想像以上につらいらしく、彼女の額には水滴が確認できた。医師が見とがめるように彼女に声をかける。
「無理はしないほうがいい。スキルを使用しているのに、さらにライヴスまで流し込むのはつらいだろう」
「もし死を決意しているなら毒でなくとも幾らでも手段があると思います。ですから体力が回復するまでは意識を回復させない方が良いでしょう」
「それは……確かにそうだが。君たちからも何か言ってくれないか」
 医師はつい先ほど戻ってきた蝶埜 月世(aa1384)と防人 正護(aa2336)に意見を求めた。
「言ってることは間違ってないのだし、諦めたらどうかしら?」
「限界の様だったら止めるが……大丈夫なら止めなくてもいいだろう」
「はあ……」
 彼女らの言葉に、医師は思わず嘆息する。
 そうしている間に続々と外へ行っていたエージェントたちが戻ってきていた。リィェンとクレアは材料を手に支部の薬剤師の元へと向かい薬を調合してもらう。そうしてできた薬は使用した量が量であるからか、あまり多くはなかったがそれでも十分解毒できる量はできていた。
 その薬を医師に手渡す。医師は受け取った薬を注射でメディカに投与した。
「う……ぐ」
 使用してからほんの少し経った頃。メディカが呻き声を上げ、薄らと目を開けた。
 メディカはそのまま周囲を見渡す。
 そして自らの周りに立つエージェントの姿を確認すると、息を漏らした。
「……なるほど。どうやら目をつぶってすぐには逝けなかったようだ……よくもまあ、薬を見つけることができたな」
「あなたのメモが役に立ったわ。あとはそうね……H.O.P.E.の科学力かしら? 毒の成分を見分けて、それが従魔の毒にそっくりだったことはわかってたし」
 メディカの言葉に月世が返す。
「そう……か。だがしかし、遅かったな。ふふ」
「どのような手段にしろ、死を選ぶのは断念して下さい。私はかなりの傷でも何とかしてしまいますから」
 目を覚ましたメディカに対し、エステルが釘を刺す。それを聞いたメディカは嫌らしい笑みを浮かべた。
「生憎だが、その必要すらない。お前たちは必死に解毒薬を探し出したようだが……体感ではもうどうしようもないところまでやられてるな、これは。ふふ、もう少し早ければ助けられたかもしれんのにな、残念なことだ。くくく」
 メディカの言葉に、その場の全員が絶句した。そんなはずはあるまいと思った。
 毒は解毒したはずであるし、体の傷だって先ほどまでエステルが治療していたのだ。限界が来ているとは思えないのである。
 痛いほどの沈黙の中、メディカは苦しげな声を出しながら笑っていた。その時、ずっとその場で話を聞いていた正護が口を開いた。
「ふざけるな……諦めるか。もう遅いだって? まだだ。まだ命があるんだったら俺は諦めない!」
「は……。驚いたな。お前、死にかけの。それも敵に対してそんなことを言うのか」
「手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する……それが嫌だから手を伸ばすんだ。例え敵であろうと、……それが俺だ。それがライダーだ」
 正護の言葉を聞いたメディカは浮かべていた笑みを消し、少しばかり目を閉じると息を吐いた。
「綺麗事だな、正直虫唾が奔るぞ」
「綺麗事? あぁそうさ、そうだよ! でも、だからこそ現実にしたいんだ。本当は綺麗事が一番良い! これでしかやり取りできないなんて、悲しすぎるからな!」
 正護は自らの拳をメディカに突きつける。周囲はその様をただ静かに見ていた。
 メディカと正護の視線が交錯する。先に目を反らしたのはメディカの方だった。
「……ふん、聞いていられん。とんだお人好しだ。とんだ阿呆だ。これほどまでの馬鹿は見たことがない」
「だって、諦めないで欲しいんだ。人は変わる事が出来る。俺みたいな奴でさえ、違った自分になれたんだ。約束する。俺達は……最後の希望だ。だから」
「我々の希望は、救世主は比良坂さんだ」
 正護の言葉を遮って、メディカは口を開いた。その瞳には理知的な光とは別に狂気が垣間見えた。
「それだけは変わらん。……だが、我々マガツヒが憎ければ未来を変えることだ」
 再び静まり返った室内に、メディカの言葉が重く響いた。
 それを見たメディカは鼻で笑うと、付け加えるように言った。
「ああ、だが。あるいはお前たちのような人間ならば容易にやってのけるかもしれんな」
 ゆっくりとメディカの瞼がとじていく。エージェントたちはそれを黙って見ていた。止めようと思えば止められたのにもかかわらず。何故だかそうしてはいけないと感じてしまった。最期の瞬間にメディカは何か言おうとしたが、そこから音が漏れることはついぞなかった。



「……自分で死のうとするほど組織が大事だったのかな? 私にはよくわからないよ」
 静まり返った部屋に真白の声が響いた。
「忠誠心、いや信仰心に近いですね。教化されたテロリストによく見られるパターンです」
「比良坂の考えはとても魅力的です。特にリンカーとなってこの世界が唯一の存在でなくなり、そしてこの世界に属していると確信が持てなくなった者にとっては……」
 真白の言葉にクレアは冷静に返した。続けるようにしてエステルが自らの考えを述べる。
「自らの命を蔑ろにする行為……例え敵だったとしても命捨てるもんじゃないだろ……」
 正護は悔しげに拳を震わせている。救えると思った命が目の前で消えてしまったことは、彼にとってはつらいものであった。残りのメンバーも、それぞれが何とも言えない顔でその場に立ち尽くしている。
 そんな姿を見かねたのか、医師が軽く手を叩いた。
「君たちはよくやってくれた。手がかりが少ない中でも薬を見つけ出したんだ。……仮に彼を救うことができなかったとしても、それは君たちのせいではないよ」
 医師の言葉に少し心は軽くなる。
 だがそれでも筆舌しがたい苦さはどこにも消えはしなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • Sound Holic
    レイaa0632
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336

重体一覧

参加者

  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 巡り合う者
    椋実aa3877
    獣人|11才|女性|命中
  • 植物園の捕食者
    ランカaa3903
    獣人|15才|女性|防御
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