本部

人形屋敷に潜入せよ

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/10 22:07

掲示板

オープニング

●人形屋敷
 郊外に城のように大きな西洋風の屋敷と、素晴らしい庭園で観光スポットとなっている場所がある。
 この屋敷は対戦の最中持ち主が離れ、そのまま寄贈される形で今は誰も住んでいない。今では完全に管理も委託され、入場料を払えば屋敷の中も見学できる仕組みになっている。
 この屋敷は人呼んで人形屋敷。
 持ち主の娘さんが大の人形好きらしく、そこかしこに今ではとんでもない値打ちが付きそうなアンティーク人形が飾られているのである。
 そんな屋敷を警備の者が歩いていた。
 屋敷を維持するのには金銭がかかる。そんなことからすっかりと電気は落とされ、男は懐中電灯片手に廊下を歩いていた。
 かつん、かつんと男が歩く男が響く。
 シーンと静まり返った屋敷の中だ。その音はやたらとよく響いた。その上、この屋敷には彼方此方に人形が飾られているのである。昼間ならまだしも、こんな真夜中にそれを見るのはぞっとするような不気味な気分にさせられて男はそれが苦手であった。
 不意に、懐中電灯で照らした先にある人形と目が合ったような気がした。
 人形は人形だ。馬鹿なそんなことはない、と自身に言い聞かせるようにして見回りを続ける。
 しかし、ことんと何かの音がした。
 ここに居るのは男だけである。男ははっとしたように背後を振り返った。しかし、その先には何もいない。
 ほっと胸を撫で下ろして再び進行方向を向き、眼前ににゅっと現れた人形がにたりと笑った。
 その奥でも、今まで無かった筈の場所に人形が数体浮かんでいてにたりと笑った。そのすぐ傍で鬼火が揺れている。
「ぎゃぁああああぁああああぁああ!」
 男は絶叫し、夜の屋敷に悲鳴が響き渡った。

解説

●目的
→屋敷の異変を解決すること

●補足
→人形は従魔化しています。しかし、力はかなり弱い模様。
 親玉がいるので、それを倒したら人形の従魔は力を失い動かなくなります。
 鬼火も同様です。こちらも親玉が操っています。
→観光名所になっているので、屋敷や人形は傷つけないようにして戦いましょう。
→親玉はゴーストの念が集まった集合体です。それ故、通常のゴーストよりも強力になっています。
 親玉がデクリオ級で呪声を得意としますが、人形の従魔はイマーゴ級レベルなので人形の方はただ不気味に動く程度。
 人形の従魔とは違い、親玉は人形には憑依していません。但し、ゴーストの集まった思念体なので物理攻撃の効果はありません。

リプレイ

●屋敷の前にて
 明るい元で見たのならそれは素晴らしいのだろうが、こう暗い夜に観る屋敷は如何にもといった雰囲気がある。

 屋敷を眺めながら、「――暗闇の中に浮かぶ鬼火、照らしだされた人形。まさにホラーの世界だね」と声を上げた志賀谷 京子(aa0150)にアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は『…随分と楽しそうですね』と呆れたような声を出す。
「アリッサはそういうの好きじゃない?」『せっかくなら本来の照明の下でじっくりと見たいものです』「それも思う。壊さないよう丁寧に解決しなきゃね」

 御門 鈴音(aa0175)は傍から見ても震えが解る程恐怖していた。鈴音はホラーが苦手である。その様を見て、輝夜(aa0175hero001)はさもおかしそうに彼女をからかっている。
「…うぅ…もう嫌…怖い…ねぇ…なんで私ってこういう事件に巻き込まれるのかな…?」
 泣き出す寸前のようにかすれた鈴音の声に、「さぁなぁ~? 少なからず普段わらわに強気なお前が怯えるのを眺めるのは楽しいがの♪」と輝夜はカカッと笑んだ。

「少し早めの肝試しって感じか」と、屋敷を見て月影 飛翔(aa0224)はそう評した。
 飛翔の腰には大型の懐中電灯が括り付けられ、如何にも準備万端といった姿である。
 その横で見取り図を手にしたルビナス フローリア(aa0224hero001)はメイド服を着用しているものだから、姿だけ見ればこんな屋敷に勤めていても違和感はない程であった。
『人形が彼方此方にあるようですから、傷つけないように注意して探索しましょう』

「人形屋敷ですか? しかし、死者の思念が残留して従魔化、愚神化すると言うのは以前にもありましたが…」と言う石井 菊次郎(aa0866)にテミス(aa0866hero001)は『まあ、斯界と異界がお互いに呼び合うと言う点ではリンカーとも変わらぬな』と呆れたように言う。
「出来れば機序を調べたい所ですが…何にせよ、屋敷が無事な様に騒動を治めねば成らないのですからなるべく穏便に…」と口にした所で、『…焼かんのか? 串刺しでも構わぬが』と本来の目的を無視した好戦的なテミスに「…」と菊次郎は言葉を失った。

 月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は、幽霊の苦手な鈴音や北里芽衣(aa1416)の為にこの依頼を受けることに決めたのである。
 目的は完璧にその二人の護衛だ。
「何かありそな雰囲気の屋敷ですね」と言う由利菜にリーヴスラシルは『そうだな。気を引き締めて行こう』と頷いた。

『めーいー。アリスお人形さんで遊びたい! 遊びましょーよ!』と、本来の目的とずれた言葉を言うアリス・ドリームイーター(aa1416hero001)に「ダメだよ、アリス。お家に帰ってからね」と芽衣は注意する。同じ歳ではあるものの、アリスよりも芽衣の方がお姉さんの性格なのだろう。
 そして、今回一緒に回る二組にも芽衣は礼儀正しく「あ、その、月鏡先輩、御門さん、その、よろしくお願いします」と頭を下げた。

●潜入
 京子は警備員に電気を点けられるに話を通した。しかく、あくまでも探索する場所に限って……という風に注釈がついた。
 それは経費上と、シチュエーション的な問題によるものである。昼間に何も無いのに夜に起こるということから考え、暗さも一因にあるのではないかという理由もあるからだ。
 通信機を持ち、常に連絡が取り合える状態で共鳴しながら探索する。
『はいはい、頑張りましょうね』と流すようなアリッサの態度に、京子は「ノリ悪いなあ。せっかくなら楽しもうよ」と頬を膨らませる。
 京子のノリは軽いが仕事は仕事できっちりと、それが真情である。


 幽霊が苦手な為、鈴音はびくびくおどおどしながら屋敷の中を歩く。同行している由利菜と芽衣はまるで怖がっていない為、余計に鈴音の臆病さが際立っていた。
 スマホのライトを点け、カメラで撮影しながら違和感のある場所を探している鈴音に、「鈴音さん、恐れることはありません。あなたは私とラシルが守ります」と由利菜は笑んだ。
 こういう場所でのこういう言葉の心強さは計り知れないものがある。吊り橋効果でも起こりそうなイケメンな台詞に、鈴音は「有難うございます」と小さく返した。
 そのすぐ傍で、共鳴した状態ではあるものの、人形を見て人形で遊びたいという気持ちが再熱したのかアリスが『めーいー。お人形さんで遊びたい!』と再び駄々をこねた。それを芽衣が窘めた。
「それにしても、本当に凄い人形の数ですよね」と鈴音は言い、小声で「ちょっと怖い……」と付け足した。それを聞き、輝夜はここぞとばかりに『おっ、今人形が動いたんじゃないじゃろうか?』とちょっかいとかけ、鈴音は「うぇぇっ!」と身を震わせた。
 二人のやり取りを聞いていたアリスが『えっ、どこ? 動くお人形さん、どこ? アリス動くお人形さんで遊ぶ!』と目を輝かせ、「もう、アリスったら……」といった風に芽衣は溜息を吐き、共鳴した状態であるものの少し収拾がつかなくなってきた。
 そんな面々を見ながら由利菜は「ラシル…強いライヴス反応で、少しでもデクリオ級が寄って来やすい状態を作りましょう」と提案し、ラシルは心得たとばかりに頷き、共鳴した。


 見取り図を確認し、「何かあるとするなら、地下か、一番上の奥の部屋がお約束だよな」と飛翔は思案すると、ルビナスは『人形が関係しているとなると、調理場とか物置のような場所は省いてもいいのではないでしょうか』と提案する。
 流石に元勇者(?)兼従者をやっていただけあって、ルビナスの指摘は的確である。
 飛翔は事前に借りた鍵を弄びながら「屋敷や人形は傷つけないように……か。難しい注文をつけてくれる」と、溜息を吐いた。
『かなり暗いので足元や頭上に注意してくださいね』とルビナスに注意されながら、地下室へと足を向けた。


 菊次郎は、昼間の内にこの屋敷について徹底的に調べていた。
 一族が辿った運命、戦死者や娘、屋敷や人形を手放した経緯を調べ、元屋敷の主の親戚から話を聞くこともできた。
 その後も警備員に常連の入場者など、この屋敷によく立ち入る人を尋ねた。
 その徹底した様についても菊次郎は「謂れ位は調べないと除霊にしても失礼に成りますから」と言い、テミスは『除霊? まあそれにしても相変わらず人より人でなしの方に関心の向く…』と肩を竦めた。
 そして今、屋敷に入ってからは全部屋の踏破と現象の確認へと足を進めるのだった。

●遭遇
 何処からか見られているような、視線を感じて京子は振り返った。そして、何もいないことを確認して前を向くと、眼前に、それもかなりの至近距離で人形と目が合った。
 その背後に幾つもの人形が浮かび、怪しく目を光らせるその周囲には鬼火が漂っている。
 京子は依頼に人形を傷つけない、屋敷を傷つけないということを思い出し、すかさずフラッシュバンを放つ。
 目が眩むような閃光が走ると、人形たちは床に転がっていた。イマーゴ級の弱弱しい従魔はたったこれだけでその存在が薄れたようである。
 しかし、まだ鬼火がいる。
 こちらに攻撃してくるというわけではないが、通せんぼでもするかのように無数に点在しており、これを杖での魔法攻撃で薙ぎ払う。
 あっさりと一掃することに成功するものの、また多数現れた鬼火に向かって杖を構えた。


 由利菜のリンクコントロールが功を制したのか、デオリク級のゴーストではないものの、人形と鬼火が集まってきた。
 暗がりで見る浮いた人形に鈴音はひぃっと声を上げたが、その反対にアリスは新しい玩具でも見つけたかのように目を輝かせた。
 人形や鬼火が襲ってくる気配はない。しかし、油断してやられるわけにはいかない為、鈴音も共鳴して身構える。
 共鳴してしまえば心の持ちようで恐怖心も薄れる為、先程までとは違ってしゃんと背筋を伸ばしてそこに立っていた。
 三人はすぐさま隊列を組む。
 由利菜を前衛にし、霊の意思が感じ取れないかと集中しながら攻撃をしようとする芽衣を守り、鈴音がメインで攻撃する。
 報告にあったように人形からは攻撃の様子が無い為、鬼火へ立ち向かう。
 試しとばかりに鈴音が物理攻撃を仕掛けてみるが、手応えが感じられずすぐさま破魔矢に持ち替えて矢で射る。
 鳴弦のように、弦に矢をつがえてはいないのにライヴスの白い光が集約されていく。
 そこから真っ直ぐに白い矢が放たれ、鬼火が断末魔を上げるかのように一層燃え上がると消滅した。
 そして更に、異様なまでに接近してきた人形を軽く手で払い、『…貴様は器へ魂を宿すに相応しくない。虚無の世界へ還れ』と言うリーヴスラシルの声とともに人形に着いたものを払った。
 追い打ちを仕掛けるように、芽衣も死者の書で鬼火を攻撃する。
 死者とは名ばかりで、美しい白い羽のようなものが辺りを舞う。そして、一直線に鬼火へと襲い掛かった。

 ある程度鬼火を倒したものの、次々に鬼火は現れてきりがない。
 この鬼火の発生源をどうにかしなければならないだろうという結論に至った頃には、霊の様子を探っていた芽衣が「こちらから、気配が……」と大体の当たりをつけていた。由利菜も由利菜も高めていたリンクレートにより、同様の方向から何かを感じ取り、一先ずきりの無い鬼火は置いておいてその先へと進むことに決めた。


 地下を探索していた飛翔は、急激に明るくなった電気とは違ったそれに身構えた。
 鬼火が浮かび、その身が明るく周囲を照らしていたのである。
 その間を埋めるようにして人形も浮かんでいる。火に照らされる人形は正にホラーに出てくるような様であった。その奥で、何かがきらりと光った。しかし、金属か何かだろうと飛翔は周囲の人形や鬼火と向き合う。
 人形は襲ってくる様子が無い為鬼火を攻撃しようにも、こうも人形があったら下手に手出しができない。攻撃の巻き添えになるだろう。
 それを危惧し、飛翔は素手で人形を掴まえるとライヴスを流してイマーゴ級の従魔を払い、持参した袋へと詰めて再び暴れないようにしていく。
 人形を詰める傍ら、鬼火へはソニックベルジを装備して接近するとその刃を振るう。
 グローブから出た霊力によって作られた魔法の刃が鬼火を切り裂き、周囲の物を傷つけないように注意しながらも的確に屠っていった。


 他の面々と同様に、菊次郎も人形並びに鬼火と遭遇した。
 そのまま睨み合うように相手を観察するが、報告にあったようにこちらに手を出す様子がないのを悟るとあっさりと人形と鬼火の間と抜けて歩き始めた。
『どう思う?』と、端的にテミスが尋ねてくるが、「まずは状況を調べては? 害も余り無いようですし」と探索を続けることを優先する。
 菊次郎は昼間に話を伺いに行った親戚の方から借り受けた物を袋に入れて持っているのだが、その袋の中の物がカタッと小さく動いた。

●対面
 鬼火と人形に導かれるようにして、気が付いたら一同は同じ部屋に集まっていた。否、集められたのだろう。誘導されたといても良い。
 ドアの前で鉢合わせたかのように集まり、面々は目を瞬かせた。
「これは、作為を感じますね」
 誰ともなく言葉を零した。
 そうでなければこんな図ったかのようにして、バラバラに行動していた面々が集まるわけがないからである。幾ら定期的に連絡は取り合っていたからとはいっても、これはあまりにもあからさますぎた。偶然だとしたらできすぎている。
 顔を見合わせて頷き合うとドアを開けた。
 広い一室である。
 それなりに年代は感じさせるものの、一目で高級だとわかる天蓋付きの寝台に彼方此方にアンティーク物の人形やらぬいぐるみが置かれた可愛らしい部屋であった。
 部屋の中には矢張り鬼火もいて、人形とともにこの部屋を賑やかなものにしていた。
 くすくすと笑い声が響く。
 誰も動いていないというのに走り回る音が響き渡る。
 部屋の中央に渦巻く何とも形容しがたい存在――これがこの屋敷に住み着いた思念体なのだろう。存在自体がはっきりとはしていないのに、明らかに存在感があるといった矛盾した存在がそこにあった。
 人形が踊る、躍る。
 鬼火も踊る、躍る。
 愉しそうにくるくると思念体の周りをくるくると回り、人形の視線はまるでこちらを観察しているかのように一同に固定されている。
 情報によると、ゴーストの念が集まった集合体ということもあり、「晴らしたい恨みでもあるの? ゴーストの集合体が統一されたまっとうな思念って持てるもの?」と興味本位で京子がそれに尋ねる。他のメンバーも考えていたように説得云々が可能ならそれも一興かと思う反面、生者の都合こそが最優先と合理的なことも考えていて、それをアリッサが『京子はそのあたり冷淡ですよね』と指摘し、「優先順位がはっきりしてるだけだよ」と肩を竦めた。
 それに続くように、芽衣も「幽霊さん。お話、しませんか? せっかく、こうして関われたんですから」と話しかける。
 それを由利菜は「私は芽衣ちゃんの説得が上手くいくよう、彼女を守ります。もし、あの子の予想通り思念体とデクリオ級の幽霊の分離が可能であるのなら…私も思念体の意識を確かめる必要もありますから」と応援し、リーヴスラシルは『…分かった。だがデクリオ級を残したり、他のエージェント達を危険に晒すわけにもいかない。予想が外れたり、分離が不可能な場合は幽霊に手加減はするな』と冷静に判断を下し、由利菜は「…はい」と頷く。
 話しかけられ、揺らいだ思念体を警戒しつつも、鬼火や人形が芽衣に近づかないように飛翔は周囲を警戒して視界に収め、ルピナスと『対処アプローチが1つだけではないのは良い事ですね』「そうだな」と話す。
 鈴音も芽衣を守るため、彼女を見守りつつも何時でも動くことができるように警戒と臨戦態勢は怠らない。
「私は、あなた方とお話をするために来ました。聞いては、いただけませんか?」と、芽衣の優しげな声が妙に静まった室内に響く。
「死んでからも誰かを怨むのは、苦しいですよね。私が……お一人ずつでも、話を聞きますから。闘うのは、やめませんか?」
 そう言うと、苛立つような、何かに怒るかのような、または何かに嘆くかのように思念体が揺らいだ。顔も何もないのに、念が集まってできただけあって余波が駆け抜け、空間を圧迫するかのように圧力をかけてきた。
 そんな中、菊次郎は前に出ると「これをお探しなのではありませんか?」と、手にしていた袋から一つの人形を取り出した。
 古い人形である。
 大切に補修されたのだろう。色あせた所もあるが、それでもここにある人形に引けを取らない西洋人形であった。
 その人形がふわりと浮かび、思念体の元へと動く。それに一同は警戒するが、思念体も人形も動かず時が止まったかのようであった。
「この屋敷のことを調べさせていただきました」と、菊次郎は静かに言葉を紡ぐ。
「このお屋敷では大切にされていた一人娘が居ました。彼女は戦時中にこの屋敷を離れ、疎開することになりました。しかし、不運なことにその疎開先で戦禍に巻き込まれて命を落としました。皮肉なことですよね。戦いに巻き込まれないようにこの屋敷を離れたのに、その先で命を落とし、この屋敷はこうしてここに残っているのですから。
 そして、彼女はその疎開先に一番大切にしていたこの人形を持って行きました。彼女の死体のそのすぐ横にこの人形は転がっていて、それが彼女の形見となりました。その大切にしていた一人娘が亡くなり、そのショックで屋敷の主はこの屋敷を手放したそうです」
 これがこの屋敷が寄贈された理由である。愛娘との思い出が詰まったこの屋敷で暮らし続けるのは辛く、かといって壊すのも憚られた、それが最大の理由であった。
「人形が動くということでぴんときました。貴女は此処に戻って来たのですね。大切な人形を探しに」
 その言葉を聞き、思念体が揺らいだ。弾き出されるかのようにして、少女のゴーストが現れた。
 少女は人形を抱きしめ、にこりと笑うと人形と共に姿を消した。
 ありがとう、と彼女の口はそう動いていた。
 そして少女が消えるのと同時に、辺りにいた人形たちも次々に床に力なく転がった。
 少女のゴーストは消えた。しかし、まだ思念体は残っている。その存在は核になっていた少女が消えたことにより、揺らいでいたが、今度は逆にこちらに敵意を持っていることがはっきりと解った。
「他の方は、何かお話ししたいことはありませんか? 彼女のように、立ち去る気持ちはありませんか?」と芽衣が尋ねる。
 しかし、吠えるような拒絶の意思がそこにはあった。
「核の少女がいなくなったことによって、抑えられていたものが抑えられなくなったってことか」と、飛翔は先程までとは違い攻撃を仕掛けてくる鬼火を防ぐ。
 明らかな敵意を感じ、これ以上の説得は無理なことを理解した芽衣は「……。わかりました……なら、私があなた方を殺します」と断言した。
 その直後、集合体から弾けるようにして次々に怨みを湛えたゴーストたちが襲い掛かる。
 ゴーストたちの念を繋ぎとめていた従魔がそれを離したのである。その隙に、デオクリ級の思念体というよりは最早怨念に近いものは姿を眩ませようとした。

 しかし、それを前言通り、芽衣が容赦なく薙ぎ払う。
 リーサルダークを発動したのだ。
 毒を以て毒を制すというわけではないが、闇の魔力がゴーストを襲う。
『きゃっははは! 芽衣を怒らせちゃうなんて馬鹿な子達ね、アリスちゃんが纏めて食べてあげる』と、アリスの楽し気な声が響き渡る。
 呪力を帯びた闇の魔力が唸り、次々に獲物を求めて蠢き始めた。

 由利菜は守るべき誓いを発動させると、周囲のゴーストを自身へと引き寄せた。
 そしてレートを高めたライヴスヴローによって薙ぎ払う。
 クリスタルエッジから放たれた光は、まるで浄化するかのように周囲のゴーストともども、周囲にいた鬼火も一掃した。

 嘆き悲しみ、唸りながら迫るゴーストを前に鈴音は「…彼らが何を思ってそうしたかはわからないけど…せめてその魂を救えるのならば私はこの弓を引くわ…」と静かに破魔矢を引いた。
 その言葉、そして立ち居振る舞いから巫女としての矜持のような、生き様のようなものが感じられ、輝夜は内心で『巫女の血の為せる業かのぉ…まぁ本人は気づいとらんし、わらわも野暮じゃし教えてはやらぬがの』とひっそりと感じ入った。
 トップギア、疾風怒濤、一気呵成と、流れるようにスキルが発動されて周囲が清められていく。
 それは破魔矢の効果だけではなく、鈴音の血が成せる業でもあった。それを本人は知らないまま、場が確実に清められていく。

 攻撃され、荒れ狂う従魔が芽衣に接近するのを、腕を引いて飛翔は庇うと、ソニックベルジで斬り裂く。
「魔法系は苦手なんだよな」と、いまいち締まらない言葉を口にする飛翔に『苦手は克服していくべきですよ』とルピナスが尤もなことを言う。
「わかってはいるんだけどな。手応えが感じにくいのはちょっとな」と言いながらも、攻撃の手は休めず、断末魔のような悲鳴を上げるゴーストたちを「うるさいな、不毛な恨み言は聞かない主義なんだよ」『いい加減に黙ってくださいね。すぐに消して差し上げますので』と次々に仕留めていく。

 京子は大きく開いた窓の方に逃げてきたゴーストに杖を使い、確実に仕留めていく。
 出口がここにしかない以上、逃げるのならここを目指してくるのだ。それを突いているのである。
 そして、飛翔から一撃を受け、よろめくようにして窓に向かう従魔を敢えて屋敷の外へと追い出した。
 今の所被害は出ていないものの、このまま絶対大丈夫という確証がない以上やはり外での戦闘を……と京子は考えているのだ。
 従魔を外へ追いやると、ここぞとばかりに星天の腕輪を発動する。
 室内とは違い、遠慮なく無数の光弾を従魔へと放つ。
 恰も流星のような速さで、従魔を削っていく。

 従魔に続き、窓から外へと出た菊次郎は、京子の攻撃に追い打ちとばかりにゴーストウィンドで従魔を確実に削り、弱体化させる。
 そして屋外ということもあり、ブルームフレアで容赦なくその身を焼き払う。
 火炙りなんて生易しいものではなく、敵を完璧に屠る為の大火であった。
 燃え盛り、逃げ場もなく耳を劈くような悲鳴を上げる従魔が完全に火葬すると、もう二度と現れることのないようにと黒の猟兵にそれを喰わせた。

 従魔の火葬が済むと、中の鬼火もすっかりと姿を消し、その頃にはゴーストたちも全て殲滅された。
 これで済んだと思いたいが、まだ他にもいないとも限らず、もう一度屋敷の中を見て回ることにした。
 その際、京子とアリッサは『さっき可愛いのがあったんですよ』「意外と目ざとく見てるよね」と、余裕の様子で屋敷内の観光も楽しんでいた。


 そして次の日になり、「ゴーストの発生原因は調べた方がいいよな」『根本を解決しないと同じようなことが繰り返されるかと』と飛翔とルピナスは再び屋敷を訪れ、菊次郎とテミスも同様に再発防止の為に調査へ訪れていた。
「見取り図を見てこの屋敷で引っ掛かることがありまして」と言う菊次郎が指したのは、地下室であった。
 昨日行ったこともあり、飛翔が案内を買って出る。
 四人で地下室に赴き、その先で「あぁ、はやり」と菊次郎は呟いた。それを飛翔が尋ねると、「この地下室、見取り図よりも小さいのですよ」と言った。
 言われてみるとその通りで、見取り図よりも幾分か小さいようである。暗いからこそ、それに気が付かなかったのだ。
 飛翔は何ともなしに、昨日気になった場所に行ってみるが、ただ壁があるだけだった。しかしやはり何か引っかかって壁を叩いてみると、がくんと向こう側に抜けた。
 隠し扉である。
 それを四人で覗き込み、懐中電灯で照らされた先を見て息を呑んだ。

●その後
 その後、テレビにてこの屋敷の地下室で死体が発見されたことが報道された。この屋敷に居た使用人がいなくなった記録がなかったのだが、どうやらここに閉じ込められていたようである。
 これを誰がやったのか、それを語る者などもう誰もいない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
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