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広告塔の少女~ホラーとマリオネット~
掲示板
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質問卓
最終発言2016/05/02 12:24:08 -
相談卓
最終発言2016/05/02 01:36:03 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/01 08:19:11
オープニング
――ここに、一つの人形が見えますか?
バンッ
そう音が鳴り、暗がりの中央にスポットライトが当たる。
その中心には一体の人形が丸椅子に座らせられていた。
その人形は等身大の少女の姿をしていて、まるで今にも目を覚ましそうなくらい、精巧な顔立ちをしていた。
ふっくらとした頬、恋に染まったように華やかなピンクの唇、まつ毛は夜の夜空のようで。
心なしかふるふると震えている気さえする。
その身を包むのは黒を基調とした、いわゆるゴスロリ。白い手袋まではめて、今からお茶会にでも行きそうな容貌だ。
――この人形、生前は『erisu』と呼ばれておりました。
『erisu』はタンポポが好きで。ケーキが好きで、三時が一番好きな時間でした。
ペットのネコと家庭教師の先生が友達で、ずっと笑顔の咲き誇る花壇にて、永遠の少女を演じる予定だった。
――しかし。
突如暗転、人形が消え、またスポットが灯る
その中心にはシルクハットにスーツの男、今でも手品をし出しそうだが、彼は吟遊詩人。軌跡は起こさない。
彼は愚神。その本質は美しいものへの賛美だ。
――少女は気が付いてしまった、自分が囚われているのが楽園ではなく、鳥かごだということに。
少女は知ってしまった、外の世界の広大さに。
少女は恋してしまったのだ。管理者ではなく、外を見せてくれた青年に。
―― しかし箱庭の管理者はそれを許さなかった。
室内の全明りが灯る、その光景に君たちは目を見開いた。
そこには人形がすらりと並んでいた。何百体。何千体。
同じ、全部、全てが
『erisu』と呼ばれた人形と同じ造形だった。
――本当の彼女にあいたいカイ? ならばかくれんぼだ。生前彼女が望んでいた。遊びをしよう。
待っているよ、彼女の屋敷で。
これは全て君たちが見た夢の光景である。
* *
「ちょっと、何よこれ」
遙華と君たちはその部屋で目覚めた。
そこは埃っぽく蝋燭の火という薄明りしかない部屋。
次第に目が慣れてくると輪郭だけがぼやっと見えてくる。
大きなベットに散乱したおもちゃ。
そして割れた鏡に、木製の扉。
ここは洋室だ。しかしサイズがおかしい。家具も扉も普通の家の1.5倍くらいの大きさがある。これではまるで。
「私達が、子供になったみたいね」
「確か私たちは」
そう君たちは、突如発生したドロップゾーン、その対処に駆り出された。
そこは洋館のような形をしたゾーンで中に入るとさっそく大量の人形の群に襲われた。
その中で、君たちを呼ぶ声に導かれてその部屋の扉をあけようとすると、なんと床が落とし穴で落下。現在に至る。
「罠師を装備してくればよかった」
そう遙華は腰を上げ、窓の外を見る。
空は曇天、星はなく暗い。
しかし窓から見下ろす中庭に、ぼんやり光る少女がいた。
白く幽霊のように儚げな少女が、何やら手を振っている。
それを見て遙華は、意味が分からないし、怖いので目をそらした。
「ななななにあれ、気のせいよね、私の見間違えよね?」
そしてその視線の先にテーブルがあり、そのテーブルの上にビデオテープが置いてある。
「これは……」
そのテープを手に取った瞬間。
背後においてあったテレビの電源が急に、ついた。
突如流れる、ざーーーーーーーっという砂嵐の音。
そして画面の明りでわずかに照らされるビデオデッキ。
「いれればいいの?」
遙華はビデオを再生した。
*テープの中身
とぎれとぎれの映像と、妙にはっきりした音声。
そして、マネキンがぎしぎしと不器用に動く映像が収録されていた。
音声は下記の通り。
ああ『erisu』
愛しの『erisu』
私はお前を逃がしはしない。
ここにいる限り、お前は永遠を生き続けるのだよ。
私が、お前を愛してあげる、私がお前に命をあげる。
待っててねerisu、お前のために生贄を。
「ささげる」
その時耳元で声がした。振り返るとそこには、青白い顔をした少女の人形が、のた打ち回っている。
「きゃあああああああああ!」
遙華はあまりの恐怖に、扉を押し開け脱兎のごとく逃げ出してしまった。
館内部。
コの字型の洋館であり。
一階に、食堂、応接室、図書室、医務室、娯楽部屋。礼拝堂があり、食堂と礼拝堂は部屋が広く天井も高く戦闘にむいている。
二階に 客間、音楽室。子供部屋、館主部屋。執務室がある。
基本的に洋館は明りがつかない。また電子的、ライブス的な光はすぐに消える。
ドロップゾーンの効果である。
また館主室から屋根裏部屋に行くことが可能。
また、屋根裏部屋に上るには『ミスター真っ二つ』の腰に括り付けられた鍵が必要
以下PL情報
この館のどこかにこの世界から脱出するための、ドロップゾーンの切れ目のようなものがあります。それは穴の形状をしており、この館内のどこかにあります。
この館の雰囲気から明らかに浮いていますので、脱出目的であればそれを探してみてください。
『erisu』について。
君たちはその存在について情報を持たないが、一つだけいえることとしては二体の愚神は女性PCがいる場合半分の確率でPCを『erisu』と認識し執着してくるだろう。
どれだけかけ離れた見た目をしていてもである。
解説
目標 館の脱出
もしくは、楽園の管理者の討伐。
今回のスタート地点はどちらかです。
選んでね。
1 遙華と一緒にイミテーションから逃げたので一階の食堂からスタート
2イミテーションとにらめっこ中、子供部屋。
この洋館は扉や窓から出ることはできません。PL情報にある、『穴』を探してください。
もしくは楽園の管理者を倒せば瞬時にこのドロップゾーンは消え去ります。
デクリオ級愚神『楽園の管理者』
二メートル程度のマリオネット。リンカーたちの能力と姿をコピーすることができる。ステータスもデクリオ級並に強化されるので厄介。彼の周りには常にミスター真っ二つが二人いる。
erisuを奪おうとするものを容赦しない。
デクリオ愚神『マッドハッタ―』
シルクハットにスーツの男
彼はなぜか楽園の管理者に協力している、直接の戦闘力はないが彼がいる限り従魔は作成され続ける。従魔クリエイト系愚神。
彼は光学迷彩のように、背景に同化する能力があり、どこにいるのかは全く分からない。ただし霊力で姿を隠しているだけなので、対策を練れば見つけられるだろう。
あとは薄暗いから身を隠していられるだけであって、一瞬でも光をあてられると割とバレバレの光学迷彩である。
従魔『イミテーションerisu』
erisuという少女を模した、人形、常ににたっと笑い、目を見開いている。それが四本足だったり、上半身がねじれていたり、膝と肩で歩いていたり、不完全な状態でそこらへんに放置されていたりする。
とにかく数が多い、攻撃と言えるほど強力な何かは持たないが。移動を妨害して来たり、折り重なって壁になったりする。
従魔『ミスター真っ二つ』
四本の腕が生えたでっぷり太ったオジサン、体長二メートルで動きは遅いが、その腕にはさみ、包丁、のこぎり、チェーンソウを持って追いかけてくる。
追いつかれると、高威力の物理攻撃が四回飛んでくる。
リプレイ
● 遭遇
『鈴宮 夕燈(aa1480)』は普段見ている人工物より二回り程度大きい館の中を、興味深げに眺めながら先に進んでいた。
「な、なんか随分本格的なセットやねぇ~」
「これ本物ですよ」
殿を務めていた『イリス・レイバルド(aa0124)』があたりを警戒しながら言う。
「……ぇ? じゃあこれ撮影とかじゃ、ないん?」
「普段なら撮影なんだけどね。今日はなぜか愚神討伐だよ」
『アイリス(aa0124hero001)』が涼しげに羽をパタパタさせながら言った。
「本物……? 愚神?」
突然夕燈の顔が青ざめていく。
「怖っ!? え!? なんコレ!? ホラー!? どっきり!? え、戦闘……戦闘依頼……エージェントらしいお仕事やった!? どういうことなん、あぐやん」
そう自身のマネージャーである『Agra・Gilgit(aa1480hero001)』に訴えた。
「なんかおかしい思うたんよ! すっごい暗いし」
「いや、最初に言ったはずだが……」
「あ、アイドルさんのお仕事で知っとる人多いしきっとそーやろと……思ったらなんかが、頑張るよ! 頑張る……! って言うかあぐやんなんでお仕事何時も唐突なんっ!?」
彼女はまくしたてるように常日頃の不満を相棒にぶつけていく。だがそんなにぎやかしすら廊下の向こうの闇に飲まれていく。
「うう、こわい」
そして先頭をつとめるのは『蔵李・澄香(aa0010)』と『小詩 いのり(aa1420)』である。二人はそこらへんに置いてあった重たいランタンを二人でもっていた。
その手は震えている。
「わ、私、こう言うのダメなんだよ!」
「ボクもだよぉ。とっさに飛びだしたはいいけど。どこにいるのさ。遙華」
そんな一行がコの字型の建物の曲がり角を曲がると、小さな声が聞こえてきた。啜り泣きだ。
「ええええ、だ、だれか泣いてはる!」
ビビる少女たち、しかし行くしかあるまい。そう歩いていくと道の真ん中あたりに両開きの扉が。どうやら食堂のようだが。
「半分だけあいてるよ」
その戸の隙間から啜り泣きと、あとはそれを慰めるような誰かの声が聞こえてきていた。
声の主は『卸 蘿蔔(aa0405)』
蘿蔔はすでに共鳴し魔銃少女レモンとなり、遙華のそばに座っていた。
「あ。シロ。さっきまで一緒にいたのに」
「あれ? ボクたちの後ろで、あの調度品チョコレートみたいでおいしそうですね。とか言ってなかったっけ?」
「…………言ってないですよ。私は遙華が飛びだすのと同時に背中を追いました」
「ん?」
澄香は首をひねる、いつもの蘿蔔と違う気がする。
そんな一行に構わずレモンは遙華の手を取り優しい声音で語りかけた。
「遙華……大丈夫ですか?」
「だから、愚神がらみはいやだったのに……」
「……実は、私も震えが止まらないのです。怖いの……苦手で」
「蘿蔔も?」
「ええ、怖いのは普通ですよ、遙華」
そう遙華の右手をレモンは両手でしっかりと包み込んだ。
「慣れるまで……というか、少しで良いので手繋いでもらってもいいですか?」
――遥華の手だ……うー。私、ちょっと落ち着いてきたかもです。
そんな声がレモンの脳内に響く。
「…それは良かった」
誰にも気が付かれないように魔銃少女レモン、もとい『レオンハルト(aa0405hero001)』は自分の中にいる蘿蔔に言った。
―― はぅ、ありがとうですレオ。変わってもらって
「……いや、ありがとうって、無理やりだったろ」
今日は蘿蔔がギブアップしてしまったため、レオンハルトが代わりに表に出ている、つまりそう言うことだった。
「それはそうとして、遙華。今日は贈り物があります」
そうレモンはポケットから箱を取り出すと、その包を解く。するとそこに入っていたのはカラフルな蝋燭だった。
「カモミールとラベンダー、ベルガモット。とってもリラックスできる匂いなのですよ……本当は遙華にあげようと思ったのですけど。でもちょうどよかった」
レモンがキャンドルに火をつけると遙華はすすりあげながら燭台を手に取った。
「ありがとう、私アロマキャンドル好きよ。落ち着いた。ありがとうね蘿蔔」
「なんや、ええ雰囲気やんなぁ。どうしたらええの? うちら」
そう茫然と二人の交友シーンを見ていた夕燈。思わず廊下の壁に背を預けると。ミシッという音と共に、がさがさ。っと音がした。
「わあああああ!」
飛び上がる夕燈。
「従魔や!」
「え? どこ!」
「従魔どこ!」
パニックに陥る澄香といのり。
「え! そっち。あ、ちがう。こっちや、こっちこっち!」
そう適当なところを指さす夕燈。あまりに指をさすために腕をぶんぶんふるっていると。
いつの間にやら、右手がなくなっていた
「あれ? だれかうちの右手知らん?」
それがまた澄香に当たり悲鳴の連鎖が生まれる。食堂は大賑わいだった。
「あ、いました」
「ははは。にぎやかだね」
全員の無事を確認するとイリスは通信機の電源を入れた。通信先は二階にいるメンバーだ。
「あ、遊夜さんですか。こっちは大丈夫です。見つけました一階にいます、はい、食堂に」
● 変調
時は少し戻り、二階、子供部屋
「蛍丸様、あの……差し出がましいのですが、西大寺様を追わなくていいのですか?」
『詩乃(aa2951hero001)』は窓の外をうかがう『黒金 蛍丸(aa2951)』に問いかけた。
「遙華さんなら皆が追ってます。大丈夫ですよ」
「そうではなく……蛍丸様の男らしいところを見せることができる機会かと思うのですが……」
「……いいです。それより、ここから早く脱出する方法を探しましょう。これ以上怖い思いをしなくていいように」
「はい……」
(そうでした……こういう方だから、私は……)
詩乃は胸の前でギュッと手を握り蛍丸を見つめた。
「遙華さん、この窓から外を見て驚いていましたよね?」
「あの、あのお人形の方は、調べなくていいのですか?」
そのお人形erisuはというと『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』のおもちゃになっていた。彼女は人形の手や足をつついて笑っている。
「あぶなくない?」
『クー・ナンナ(aa0535hero001)』がそう止めようとするが、聞いてはいない。
「ちょっとよいかの」
そんな人形に『カグヤ・アトラクア(aa0535)』は歩み寄り片手で頭を掴む。
開いた手で英雄経巻を展開。
そんなカグヤにイミテーションはじたばたと手を伸ばしそして語りかけてくる
「私に頂戴、私に頂戴、erisu」
それをカグヤまったく無視して、人形をしげしげと眺めると、ふむと唸ってにたりと笑った。
そして。
英雄経巻からまず一発光弾が放たれた。足がはじけ飛んで部屋の隅へと転がる。
「これが『erisu』とやらか? 随分と造詣が甘いのぅ」
そのままカグヤは光弾を連射。腕が足が、胴が吹き飛んでいく。
「ふーむ、この人形は動くが魂が入っておらん。才能がないのぅ。技術の無さを歪な造形で誤魔化すとは三流以下じゃな。数を作り、たった一つの完成品を作ることを放棄した惨めな奴じゃ」
浮かび上がる薄ら笑いをうかべた顔。それは下から照らされるのでなおさら怖かった。
「周囲がどん引きしてるからそれくらいにしときなよー」
クーが止めに入る。そして部屋の隅でガタガタ震える『御門 鈴音(aa0175)』を指さした。
「つまらん」
そうカグヤは言い放ち、頭だけになった人形を投げ捨てた。
「……もうやだ怖い。帰りたい……」
しかし鈴音の視線は人形に吸い寄せられる。
「ってこの人形……なんだろ。こう……何か感じる。逢いたい? う~ん」
それを見て『輝夜(aa0175hero001)』は考えていた。
(フフッ、生まれ持った高い霊力を持っていても恐怖で見ないようにしてるから見えるものも見えなくなるし感じれなくなるのじゃ。まぁ、面白いから言わんがの)
「なにニヤついてるの? 輝夜」
「いや、なんでもないのじゃ。ほれ怖いなら共鳴するぞ」
そう二人は手を重ね、リンク。
二人を光が包み、それが晴れと鈴音は、いわゆる鈴音モードで共鳴していた。
「え! なんで」
――今日はお主がやるんじゃ、甘えるな!
「聞こえたか、ああ、こっちは大丈夫だ、みんな割と元気だな」
そう通信機でイリスと話しているのは『麻生 遊夜(aa0452)』
「食堂か、わかった変わったことがあったら連絡してくれ」
「あら、遙華は見つかったって?」
『水瀬 雨月(aa0801)』が遊夜に問いかける。
「ああ、そして帰りがけに一階を探索してみるとさ」
「あの子、こういうの苦手だったのね」
「面白い人形屋敷じゃな。ギミックの多い凝った作りじゃから、遙華達も楽しげに駆けて行ったのじゃ。皆で探索すればいいのに、気が早いのぅ」
――このおかしな状況では、冷静な人間の方が異常性が際立つよね。
「何にせよまずは間取りや階段の確認はからだな、急ぐとしよう。退路の確保はホラーゲームの鉄則、ってな」
「……ん、追い込まれたら、最後」
全員の意見がまとまりとりあえず部屋から出ようという話になった。
「では僕から離れすぎないで下さい」
蛍丸がライトアイを発動、これで館に満ちる闇は全く怖くない。
「まずは隣の部屋から……」
そう蛍丸が先導する後ろで遊夜が言う。
「……『erisu』ね。『待っているよ、彼女の屋敷で』だったか?」
――…ん、かくれんぼ
「生贄なんざ勘弁だ、さっさと終わらせてやんよ」
――……ん、楽園、箱庭、監獄? 抜け出すなら、管理者が邪魔、だよね?
「しっかし西大寺さんらは大丈夫かねぇ?」
「……ん、怖がりさんばかり、だものね」
「人数はいるから大丈夫か?」
その心配に答えるように下の階からつんざくような悲鳴が聞こえてきた
「アイドルの声量すごいわね」
雨月がぽつりとつぶやいた。
●残照
「最初からこうすればよかったね」
そういのりは『セバス=チャン(aa1420hero001)』と共鳴すると、くるりとまわって見せる。今日は戦闘用シスタースタイル。祈るように手を組むしぐさが神秘的だ。
「魔法少女クラリスミカ! 貴方の、ハートを……くらくらりん?」
澄香も続けて共鳴、いつものようにポーズを決めるが、切れかけの電球のように瞬いて、そして消えてしまった。
――ドロップゾーンの影響をもろに受けてますね。
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』がぽつりとつぶやく。瞬間隣で共鳴していたイリスのオーラも消えた。
「これは……。お姉ちゃんとの絆の証なんです」
小さな肩を震わせてイリスは言う。
「ゆるさない……」
「そう言えばさっきの従魔ってなんだったの?」
そう遙華は夕燈に尋ねる。
「ああ、あれな。あれは勘違いやったみたいやんなぁ 実際にほら、なんもいてへん。ライトアイ! できた! あぐやん、できた……よぉ」
ライトアイ。暗闇でも目がよく見えるようになるスキル。そのスキルの活用の幅は広いがこの時ばかりは夕燈もそれを恨めしく思った。
うまく使えたライトアイ。その使い心地を確かめるように周囲を見渡すことで、それが目に入ってしまったのだ。
天井に、びっしり張り付いている。腕、顔。足。目。そして目目目
夕燈はひっと息をのんだ。その視線を追っていた少女たちは見ることになる。
待っていましたと言わんばかりに人形たちが降り注ぐその光景を。
「きゃああああああああああ!」
その人形の雨の中素早く飛びだしたのはレモン。降り注ぐイミテーションを撃ち砕きながら活路を開く。
「あっち!」
同じくライトアイを使用したいのりが指さす方向へ、全員が駆けだす。
「数が多いですね……はぐれないよう気を付けて」
澄香が追っ手にブルームフレアを放ちまとめて吹きとばす、しかしその煙の向こうにまだまだ人形たちがいるようだ。
「あ、あそこ、あそこに入ろう」
いのりが指さす先には大きな扉。その扉の上には礼拝堂と書かれていた。
「礼拝堂開かない!」
いのりが重厚な扉を押したり引いたりするも開く気配がない。
「どうする? 早く開けないとあの子たちが来るよ」
その左右にも扉があるが。それをあけようとしたイリスを澄香が制する。
「その扉を開くのはやめるんだ。トラップがあるっぽい。しかも。うーんうまく解除できない」
「生贄って言てったしここにも何かあるのかな」
レオンハルトがそう蘿蔔に問いかける。
――さぁ……それにしても本物のerisuって本当にいるんですかね。この屋敷のどこかに……いたりして
「私が見えるの?」
その時まるで蘿蔔の声に答えるように、すぐ隣から声がした、レモンは弾かれたように振り返る。
そこには白い衣を身にまとった、淡く光る少女がいた。
「その扉を、扉を開けて、私をみつけて」
「君は……一体」
その少女は悲しげに微笑むと、崩れるようにその場に倒れた。
(今の……、何だったんでしょう)
そうレモンが近寄ると、その少女はカタカタと音を鳴らせて再度動き出す。
――あら、はぐれたのでしょうか。
さっきまで発行していた少女はいつの間にか人形になっていた。
その人形へ澄香が手を伸ばす。その人形はクラリスミカを見てerisuと言った。
「人形になってる?」
――ちょうどいいです。連れて行きましょう。
「何やってるの澄香?」
いのりが引きつった笑みで、澄香の右手にぶら下がる人形を指さす。
「だってクラリスがつれていけって」
――澄香、いのり
「なに? クラリス」
――様子が妙だったアルマレグナス、ルネ、聖女。共通するのは精神攻撃と言う手口。過去の事件や行方不明者などの情報を漁りましたが何も情報は出ませんでした。けど、一つだけ。erisuという英雄がいたという噂だけが出てきたんです。
「え? それってどういうこと?」
――それについては判断をしている暇がなかったので何とも……。ただ。今回の夢も、黒幕は目の前の愚神でしょうか?
その時、夕燈が叫ぶ。
「ああ! 来た、前からきてるやん! さっきの人形や!」
見ると廊下を曲がり四つん這いの大量のイミテーションがこちらにめがけて走ってきていた。
「た、戦う……! ががんばる……って」
「わわわわ、私も頑張るわ!」
「遙華、そこは射線ですよ」
「待って、何かおかしいよ」
ただ、いのりはイミテーションの足音以外に何か変な音が聞こえることに気が付いていた。
唸るような何か。これはまるで。そう
チェーンソウの音のような。
その瞬間だった。
突如右手の壁から生た四本の刃。それがいったん引っ込み、そして。
壁を破壊してでっぷり太った四本腕の男が姿を現した。
「えええええええええ!」
「後ろは行き止まりです。今のうちに脇を抜けて!」
イリスが叫ぶと、レモンはその男の膝を撃ち、足止め。全員が脇をすり抜けると。人形と男に挟まれる構図になった。
「erisuみつけた、かえろう、あるじのところに」
「進めない!」
「あの男は私が……道の確保はお願いしても良いでしょうか」
レモンは迫りくる男に銃口を向け足を撃ちぬく。
「ああ、どないすればええの!」
その時上の階から銃声が響いてきた。目を凝らしてみれば二階への階段はすぐ向こうにある。
「遊夜さんだ!」
澄香は喜び、ブルームフレアを放つ。一気に通りやすくなった廊下を全員で走り抜けようと足に力を入れた。
しかしぐっと引っ張られる感覚を受けて澄香はとまる。
なぜ。
そう思い後ろを振り返ると。
腕にくっつけてきた人形が二本の足で立ち、澄香のスカートをがっしり掴んで離さなかった。
「え?」
何より驚いたのは人形の表情、今まで無表情の物しか見てこなかったが。この人形は笑っていた。
まずい、そう思ったのも束の間、信じられない力で澄香は引きずられ。扉の中に吸い込まれていった。
「きゃーーー」
澄香はとっさに手近なものにつかまる。そうレモンである。
「な! 澄香俺まで……」
「澄香!」
いのりがあわてて戻り、手を伸ばすも遅く、澄香とレモンは闇の中に消えてしまった。
後に残されたのは、チェーンソウの駆動音。
いのりめがけて、その刃が振り下ろされる。
● エゴ
そのころ二階組は館主室を調べていた。
「昔……古い洋館でハサミ持った殺人鬼から逃げるゲームをやったのよ」
館主部屋の戸棚を調べながら鈴音が言った。
――ほぉ……鈴音はぴこぴこが得意じゃし、くりあしたのかの?
「……私の主人公はまだその館を彷徨ってる……」
――……くりあ出来とらんのか~い!!
「ねぇそんなことより」
雨月が全員の目の前に一枚の紙を広げる。
「執務室に鍵のマークが書いてある、ここに館の鍵が全部あるんじゃないかしら」
「可能性はあるな、次はそこに行ってみるか?」
そう全員がその地図を見ながら今後のルートを考えている中、
鈴音は寒気を感じて振り返る、そこには淡く光を纏う少女がいた。
「……あなた」
鈴音は一瞬言葉を失う、しかし、彼女は不思議と怖くなかった。
「あなたが、erisu?」
鈴音は問いかける。
「ええ、私がerisu、ねぇお願い。私の友達を解放してあげて、囚われているのよ、この屋敷に」
「囚われた? いったい、あなたは……」
「のう、鈴音一体誰と話をしておるのじゃ、人形とかの?」
カグヤの声に我に返る鈴音。そこには全身がべこべこにへこんだ人形が一体立っているだけだった。
「今のはいったい」
「それより。こいつはどこから……」
その時だった。部屋の隅の暗闇、そこから無数の人形たちが突如沸いて出始めた。
「いったん部屋からでた方がよさそうだな」
そういいながら遊夜が周囲にSMGを乱射、暗闇の中から湧き出るイミテーションを砕いていく。
いったん廊下に出る一行、すると下から少女たちの悲鳴が聞こえた。
次いでバタバタと階段を駆け上がる音。
「よかった、遊夜よ!」
遙華が戦闘を端ってやってきた
「おお、大丈夫か? もう安心だぞー」
遙華は珍しくそれを受け入れた。
「大丈夫? 遙華」
そう雨月は両手を広げると。ばふっと飛び込んだ
「怖くない怖くない……」
「べ、別に怖くなんか。あ、それより下に敵が、みんなが戦っていて」
続いて残りのメンバーも上に上がってくる。
同時に、どこから沸いたのか退路を断つように人形たちが湧いて出る
「あれは私が何とかするわね」
雨月が杖を構える。ブルームフレアが、次々と人形たちを焼き尽くしていく。
そんな戦闘の最中いのりが遊夜に問いかける。
「澄香にあわなかった?」
二階組は誰もが見ていないと首を横に振る。
「そんな、澄香、どこ行っちゃったのさ。澄香、澄香……」
「これは、悠長に探索している場合じゃなさそうね」
雨月は言った。
● 呪詛
澄香が目を覚ますと、底は冷たい風が吹き込む黴臭いフロアだった。
ここには無数の本があり、そして二人を眺めるように、マネキンのような何かが座っている。
「起きて、シロ!」
「起きてますよ、けど起きてても動けないのです」
二人は磔にされていた。体を一切動かせない。
「ああ、erisu、これで君が全てそろった、私に抱きしめさせておくれ。」
その時だった。扉の向こうからやけに騒がしい声が聞こえてくる、それに気が付き、愚神は扉を凝視した。
「あ、あかん……うち他に何かできたっけ!あ、あぐやーん!!」
――ライヴスフィールドだよ、普段散々練習してるだろうが
「あぁ!ライヴスフィールド!やってみる!」
「無粋な」
そう管理者が吐き捨てるように言うと。
突如扉爆発と共に破られた。雨月のブルームフレアである。
そして濛々とたちこめる煙の向こうにいたのはいのりだった。
いのりは叫ぶ。
「澄香! ごめん、ボク、君を守ってあげられなかった!」
「だ、大丈夫まだ、何もされてないから」
「まだ!?」
その騒ぎを聞きつけて、暗闇の奥からミスター真っ二つが二人姿を見せた。同時に暗闇から人形が湧いて出る。
「これ以上好きにはさせん」
「好きには? なんだって?」
そう遊夜はトリガを引き絞る、放たれた銃弾は、はるか遠くにいるレモンと澄香の拘束具を弾き飛ばした。
これで地力の脱出が可能となる。
「おお、そこにいたのかerisuよ」
突如、興奮した様子で管理者はカグヤに向かってそういった。しかしそれがカグヤは気に入らなかったのか。
引きつった笑みを浮かべる。
「ロリコンで人形趣味の変態め。そなたは未来永劫愛されることを理解できぬゴミ虫じゃ。『erisu』の代わりにそなたに伝えよう。【生理的に無理だから近付かないで。あと息もしないで】」
――……何かあったの? 八つ当たり?
「ストーカーは死ぬのじゃ!」
――あぁ、うん。何も聞かなかったことにする。
「ああ、きみもerisuだったね、erisuこっちへおいで」
「キモいのじゃ! 人の話を聞け!」
光の弾丸が管理者に飛ぶ、だがそれを華麗によけ管理者は闇に溶けて消えた、次の瞬間そこに姿を見せたのは、レモン。
「コピーですか……」
レモンは自分のコピーと相対する、そして次の瞬間二人は駆けだした。移動しながらの銃撃戦。だが移動されるとどちらが本物か分からなくなってしまう。
「似たような敵と交戦したことありますが……少ない分強いようで」
その光景を見守るリンカーたち、いや正確には見守るしかない、どちらが本物か分からないからだ。
「私に合わせるんだ」
その時、澄香が言った。
「夕飯のカレー、美味しかったね、シロ」
「え?」
「ああ、じいやが作ったカレーだね、お口にあってよかったよ、遙華が来るからって腕によりをかけたんだよ」
いのりもそれに乗っかる。
「え? あ、ううん、そうね。そうだったわ、おいしかった」
遙華は目をきょろきょろさせながらそう言った。
「蘿蔔はどうだった?」
澄香が二人を交互に見つめながら言う。すると
「私知らないです!!」
――うお、出るなら出るって言ってくれ!
「そんな悠長なことしてられません、私も行きたかった、ずるい、のけ者にして!」
「え? しらない? そっちが偽物だ!」
その瞬間だった。傍で待機していたイリスが偽レモンへと一足で接近、そしてその盾で。
その顔面を殴り飛ばした。
「あ、嫌っているわけではないんですよ、愚神だと加減がなくなっちゃって」
イリスが手を振りあたりを見渡しながらいった。
「にしても……」
「こんなに数が多かったら、スキルがいくらあっても足りないわ」
そう雨月は遊夜の後ろの人形たちを吹き飛ばしていく。
「せめて一か所にまとめられれば……ああそうか。小詩さんちょっと合わせてくれるか」
そう遊夜がいのりに向き直る。そしていのりに耳打ちすると、いのりはあははと乾いた笑いを浮かべた。
「ちょっと待って、役作りするから……」
そして意を決し、表情を変え、そして遊夜に向き直り、言った。
「ねえ、ボクを「外」へ連れてって!」
フロアに響き渡る声。その声に引きつけられるように、その場にいる全員が祈りを見つめた
「ああ、鳥かごのお姫様。世界を見せてやる」
目をぎらつかれてにらみを利かせる、従魔、そして管理者を挑発するように遊夜は周囲を見渡しながら言い放ち。
遊夜はいのりを抱き留めた。
「彼女はお前さんの愛などいらないとさ」
レモンに化けた管理者へ遊夜は言い放つ
「うん、待ってた、ずっと待ってたよ、一緒に行こう、この楽園の外に」
「うわー、すごい演技力ね」
それをみて雨月が言った。
「いのりは演技も勉強してるからねぇ。ほんと多才だよね」
なぜか澄香が胸を張る。
「……さぁ出よう、この鳥かごから」
そう遊夜が言うと、遊夜はいのりの顎に指を当てて瞳を覗き込むように見つめ。そして。
――……、それ以上はだめ!
ユフォアリーヤに怒られた。
「殺せ! 奴を。イリスを奪う物を!」
そして案の定攻撃の対象にされる遊夜。だがそれをものともせずに、遊夜はその従魔たちを打ち抜いていく。
あたりには従魔の破片が降り積もっていく。
そう従魔の破片が。
それを踏み砕くバキッという音をきくと、遊夜はにやりと笑った。
「これでかくれんぼは終わりですね」
鈴音が虚空に語りかける。
いや、違う、正確には。そこに誰かがいる。その誰かめがけて鈴音は大剣を振るった。
「なぜ、私の姿が!」
マッドハッターはよけきれずその刃を受けた。横なぎにふきとばされ地面を転がる。そしてそれに追撃の一太刀。
「逃しはしません。」
「きゃ!」
そうマッドハッタを追い詰めている後ろで鋭い悲鳴が響く。
武器を弾き飛ばされ、遙華にミスターが迫っていた。
「そこまでです!」
直後、その腕は、間に入り込んだ蛍丸によって切り落とされる。
「あなた達にerisuを好きにはさせません」
返す刃で膝を切り付け、体制が崩れたところで頭を強打。
「力ずくでも彼女を連れ出します。この箱庭のような場所から……!」
そして頭を切り飛ばした。
「おお、erisu、erisuああああああ」
劣勢を覚った管理者、慟哭にも似た叫びをあげて、彼はその手の銃を構える、しかし。
イリスは管理者に急接近、その銃身を盾で抑え。足を剣で払う。銃口を自分に決して向けさせず。盾で弾き接近した。
――この暗闇なら、見えないだろう! ……イメージはちょっと悪いが
「ホラー映画の怪人側って言わないで!?」
そして。管理者の腹部に盾を叩きつけ。くの時に曲がった体を台にイリスは後方に飛んだ。
その剣、憎き白刃、そのレプリカに霊力を集中させるイリス。
「これで、おわりだ!」
距離をとり放たれる影刃、その刃を浴びるように受け、そして管理者は跡形もなく吹き飛んだ。
「これで、全部? マッドハッターは?」
ラジエルを閉じた澄香はあたりを見渡す。
「そこに横たわってます、澄香さん聞きたいことがあるって言ってたから」
鈴音が指さすとそこには横たわる。マッドハッタ―。
そのマッドハッターに迫りクラリスは支配者の言葉で告げた。
――答えなさい。貴方の主の目的は、グロリア社ですか、遙華ですか
「お前、知りたがるな?」
澄香の表情が曇る
「知りたいのは怖いからか? 俺たちが怖いか? 弱いもんな、お前。俺と同じタイプだ」
そう告げると愚神は自らの胸に手を当てると、最後の力が尽きたのか霊力となって消えていく。
突如足元から光が湧き出した。めきめきと床が砕け、暗闇が取り払われていく。
「私のかつての仲間たちに、安らぎをくれてありがとう」
今度はその言葉が全員の耳に聞こえた。
全員が振り返る。そこには少女が立っていた。白い衣のerisu。囚われの乙女
「あなたは?」
鈴音は問いかける。その問いに少女が首を振ってこたえた。
「残念ね、時間切れよ」
そしてリンカーたちは光の中に放り出された。
その光の中で彼女の声を聴いた。
「お願いしていい? 私を、みつけて。本当の……ね」
●エピローグ
気が付けば全員がはらっぱの上に投げ出されていた。
目覚めてはいるが皆が動けない。
その中でも特に蘿蔔はぐったりとしていた。
「お前何もしてないだろう」
「してなくても……見えるんです」
そんな二人から視線を外し遙華は寝返りをうつと蛍丸と視線が合った。
「……もう、大丈夫ですよ? 遙華さん、安心してください」
二人は起き上がる。そしてそんな仲睦まじい二人を見て詩乃は不機嫌そうにそっぽを向いた。
「私もお化けを怖がったら守ってくれますか?」
「もちろん、守ります! けど詩乃、お化け苦手でしたか?」
「もう……」
「ああ、死ぬかと思ったわ、助けてくれてありがとう、蛍丸」
「ふふふ、きゃーって言ってたわね」
その遙華の髪についた草を払いながら雨月は笑った。
「面白かったわ」
「あれは……忘れてちょうだい」
そう恥ずかしそうに顔を伏せる遙華。そこから少し視線をずらして雨月は自分の幻想蝶を見る、そしてそれを指ではじいた。『アムブロシア(aa0801hero001)』は今日もだんまりであった。
「うそ、ドロップゾーンは消えたね」
そうつぶやく澄香。そして遙華に振り返る。
「遙華、お疲れ様 オバケじゃなくて愚神だったね。何だか最近遙華の周りがきな臭くなってるきがするから気をつけてね」
「そうだ、言い忘れてたんだけど遙華、私たちの事務所が出来たんだ。まだ小さいけれど」
「『モノクロプロダクション』略して『モノプロ』」
澄香といのりは懐を探る
「名刺になります。このプロダクションが、黒幕への反撃の第一歩です」
「 『あの歌』の系譜も歌い継いでいくよ。これからもよろしくね!」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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