本部

その追撃者達を撃退せよ

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/02 10:11

掲示板

オープニング

●表は弔意。裏は策謀
 とある場所で、とある組織の最高幹部が息を引き取ろうとしていた。
「ヤーセル様……フランツ・フォン・ノイラート様が参られました」
 医師の呼びかけと共に、1人の男がヤーセルと呼ばれた男に歩み寄り、その手を握る。
「お前を30年来の同志と見込んで頼む。フランツ。どうか我が孫娘エステルの後見となって、共に『シーカ』を盛りたててくれ」
「謹んでお受けいたします、ヤーセル様」
 フランツと呼ばれた男が内心の感情を隠し、謹厳な様子を見せて応じる。
 医師達がヤーセルの死を告げたのはその後の事だった。
 そのフランツは自室で、己の密偵よりエステルのいる館が、愚神や従魔達の襲撃を受けたとのからの報告を受けていた。
 密偵からの報告では、館の使用人達は全滅したが、唯一エステルだけが突如現れた『英雄』らしき存在に助けられ、襲撃した愚神や従魔達を全滅させ行方を晦ませたとの事だ。
 一瞬瞑目すると、フランツは密偵にエステルの追跡と保護を命じた。
 そして密偵が消えたところで、フランツは己の影に声をかける。
 するとフランツの影が揺らぎ、部屋の隅に人の姿をした何かが現れ、フランツに向け片膝をつき頭を垂れる。
 フランツはその存在に命じる。
 シーカの秘密がエステルよりどこかへ漏れる事態は防がなければならない。
 シーカの人間達よりも先にエステルに追いつき、その口を封じろ、と。
 その存在は頭を垂れてフランツに応諾を示し、こう提案した。
『この世界では通りすがりの愚神や従魔達に、人間達が襲われて死ぬ話はありふれたものです』
 自分の直属部隊を使うので、事の正否に関わらずフランツは無関係でいられるとの愚神の提案をフランツが受け入れると、つかの間部屋に生じた一陣の風に紛れ、愚神の姿は消えた。
 フランツは自分に協力する使い勝手のいいこの愚神を重用していた。 
 そしてこの愚神の動かす災厄達が、追撃者となってエステルとその英雄を追う事になる。
 
●追撃者
 その追撃者となった愚神達は、追跡の末、エステルのいる街に出没した時点でH.O.P.E.所属のプリセンサーによってその存在や規模などを捕捉され、直ちにこれを防ぎ止める為の依頼が斡旋されることになる。
 部屋に急遽集められたあなたたちリンカーに向け、担当官がスクリーンにある都市の地図を映し出す。
 その都市は別件で既にH.O.P.E.のエージェント達が集められ、これから出撃する場所でもあった。
「現在この都市に流れてきた何者かと、この都市のギャングの間で騒動が起こり、警察を巻き込み多数の負傷者が出た事から、今別室で騒動鎮圧のための依頼を斡旋しています」
 騒動鎮圧や何が起こっているか調査する話は、そちらの依頼で行われる形になるとの事らしい。
「こちらでは、プリセンサーの感知した愚神や従魔達への対処が主な依頼内容になります」
 そして担当官の口から、プリセンサーの感知した内容が伝えられる。
「これからこの街に現れる愚神は1体。ケントォリオ級です」
 その目的は不明ながらも、その強さから鑑みて、この愚神を放置すればその街の人間達が皆殺しにされる事は容易に想像できる。
 そして従魔達については全て骸骨姿の従魔で、強さは推測でミーレス級との事だ。
 現在現地のH.O.P.E.別働隊の手で、既に発生している騒動から逃れた全ての人間を退避させ、周囲の封鎖に当たろうとしているが、いまだに騒動の野次馬が多く存在し、そちらへの対処へ動員限度の人数を出しており、現在の任務に専念するので手一杯であるため、増援や別任務要請には応じられないとの事だ。
 またH.O.P.E.以外で、現地の人間達の所属する全ての組織への要請は、上層部より次の言葉と共に認可できないという判断が示された。
『彼らにも帰りを待つ家族がいる』と。
 なお無線は全員に貸与されるが、担当官はこう助言する。
「ご不安でしたら緊急連絡にはライヴス通信機をお使い下さい。それならば指定先の通信機を持つ方以外の他者に話を傍受される危険はありません」
 既に現地には『あなたたち』という精鋭たちを送り込む『露払い』として、エージェント、真継 優輝(az0045)とシャレーク(az0045hero001)を含めた先発隊が出撃している。
 彼らに託された任務は2つ。1つ目は可能な限り、これから現れる愚神と周囲の状況がわかる情報を集める事。
 2つ目は、愚神達の率いる従魔達を街に入られる前に掃討する事だった。
 
●迎撃地点は
 そして『有志』達は満身創痍で帰還し、従魔達の掃討完了と、入手できた情報をH.O.P.E.に報告する。
 その内容を整理分析した結果、判明したのは以下の3点だ。
 ・これから街に来る愚神は、空気をライヴスで圧縮硬化した刃を構築し、斬撃を繰り出してくる。刃の長さは目測10mだが、射程や一回に放つ刃の数は不明。
 ・従魔達を全て失った愚神は、現在速度を上げて街へ向かっている。
 ・この愚神を街の周囲に広がる見通しの良い荒野で迎撃できれば、街への被害を抑えられる。
 優輝を含む『有志』達はそれらの情報を『あなたたち』にもたらしたが、貴重な回復役として守られていた優輝を除き、全員集中治療が必要で、彼らへのこれ以上の任務要請も一切認められないとH.O.P.E.より報告があった。
 そしてスクリーンに映された現地地図が、これから愚神がやってくる方角部分を拡大され、地図の中で、愚神を示す赤い点が、その先にある街を目指して荒野の中を一直線に突っ切って進んでいるのが『あなたたち』にもわかる形で示されている。
 敵の移動速度と街との距離を鑑みると、現場へ直行するならば荒野で迎撃できるが、現場へ直行する前に別の行動を取ると敵の荒野到達に間に合わなさそうだと、『あなたたち』にも判断できた。
 担当官が皆様に頭を下げて訴えた。
「騒動につきましては、別班の方々が解決します。どうか皆様にはこの街にこれからやってくる愚神達を撃退し、街を守ってくださいますようお願いいたします』 
 そして『あなたたち』は、現地へ到着後、現地にいる別働隊に感謝の言葉を残し、あなたたちの回復を支援する役目を与えられた優輝と共に動き出し、あなたたちは弾丸のような速さで街へとやってきた愚神と対峙する。
「我が憎悪と命の続く限り。お前ら人間とこの世界を1つ残らず斬り刻むのが、我が切なる願い(ホープ)」
 そう告げると、その愚神は大きく両腕を広げて戦闘態勢をとり、あなたたちにこう名乗った。
 我が名はフィロ。属する組織は『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)と。

●潜伏
 どこかの遠い高所から密かにあなたたちと愚神の対峙を見つめる謎の人物がいた。
「さて。お手並み拝見と行きましょうか」
 私は自分に手出しをされない限り攻撃はしないつもりですが。

解説

●目標
 愚神の追撃を迎撃し退けるor20ターンしのぐ

 登場
 ケントォリオ級愚神『フィロ』
 愚神組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達。以下『PM』と略)に属する愚神。
 今回PMの首領からの指示を受け、追撃者となってこの街に来た。
 人間を憎悪しており、人間の言葉に耳は傾けず殺しにかかる。
 二回行動。ライヴスで空気を圧縮硬化して構築する無数の刃で攻防する。
 
 防刃
 射程3以上の射程攻撃を、無数の刃で編まれた壁で『切り刻み』防ぐ。
 
 煌刃
 空間に浮遊する刃を無数に構築し、切り刻む。範囲5(射程1~10)
 (以下PL情報)
 この他にも何か斬撃の種類がある模様。

 フランツ・フォン・ノイラート
 暗殺結社『シーカ』幹部。今回現れた愚神の上位存在であるPMの首領と協力関係にあり、愚神や従魔達の襲撃で生き残ったエステルへの追撃と口封じを首領に命じた。

 真継優輝
 今回唯一の有志。使用スキルはケアレイ、クリアレイ。皆様の指示に従う。

 状況
 とある海外の1都市。現在内部でOPに出たエステルと『英雄』、ギャング達が乱闘中。
 現場へ直行するならば荒野で迎撃できるが、現場へ直行する前に別の行動を取ると敵の荒野到達に間に合わない。
 街周囲の封鎖と残る住民達の避難は完了しつつあり、迎撃予定地点の周囲にはH.O.P.E.の手で非常線が張られ、民間人は接近できないよう取り計らわれている。
 無線貸与済み。

リプレイ

●荒野での対峙
 現地へ到着したH.O.P.E.エージェント達は、遮るものがない広い荒野へと疾駆する。
「愚神に街を襲わせたりしないわ。ニック、変身(共鳴)よ!」
『了解だが、どうにもこの変身ポーズとやらには慣れんな……』
 大宮 朝霞(aa0476)の声に応じるニクノイーサ(aa0476hero001)は変身時の儀式(?)に半ば諦めの言葉を残しつつ共鳴し、白とピンクを基調とした、どこぞのヒーローものと某歌劇団を足して2で割ったような姿の自称『聖霊紫帝闘士(せいれいしていとうし)ウラワンダー』に変じた朝霞は荒野へと征く中、合流を果たした真継 優輝(az0045) にも挨拶と労いの言葉をかける。
「はじめまして、真継優輝さんにシャレークさん。よろしくお願いしますね。貴方達の情報は、決して無駄にはしませんよ」
「よろしくお願いします、朝霞さん、ニクノイーサさん」
 優輝もまた朝霞やニクノイーサに短く返礼すると、誰かの呼び出しを受けたのか、別のエージェントのもとへ駆けていった。
「喰らいがいのある獲物が自ら向かってくるとは手間が省ける」
 紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴し、己の髪を伸ばして一房だけ英雄の色を残すスーツ姿となったダグラス=R=ハワード(aa0757)がそう呟き、風を置き去りにする疾駆の中、獰猛な肉食獣の笑みを見せる。
 好戦的な発言の一方で、愚神を後方に通してしまった場合、街に甚大な被害が出る事はダグラスも承知していた。
 祖狼(aa3138hero001)との共鳴で狼の特徴と白の狩衣姿を得たライロゥ=ワン(aa3138)もまた全力で荒野へと疾駆する。
(随分と分かりやすい愚神みたいじゃからな。正面衝突でいいのだろう?)
「街に被害が出る事は避けたいですからネ。問題は……」
 内からの祖狼の声に同意する一方、ライロゥには一抹の不安が残っていたが、これも祖狼からの尊大ながらも頼もしい助言で払拭した。
(力の差、というやつがあるとしても、こちらも随分な猛者が揃った。問題ないだろう)
 その通りだった。この場にはH.O.P.E.の精鋭達が揃っている。ゆえにライロゥは戦意を解放する。
 ――人々に仇なす愚神。ここで止めル!
 リーヴスラシル(aa0873hero001)の世界の作法に則り共鳴し、光の姫騎士姿となった月鏡 由利菜(aa0873)もまた、荒野で愚神を迎え撃つべく、翼型の外套の装飾を施したライヴスラスターを発動した。
「ライブスラスター、最大出力!」
 ライヴスが背中の『翼』より噴射され、由利菜は飛翔に等しい速度で荒野を目指す。
「『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達)……動き始めましたか」
 自らを『楽園の作り手達』と称する愚神組織は、最近激闘の末討伐した愚神グリスプも所属しており、一連の事件でその一端を知る機会があった。
 この場でその存在達に関わった事があるのは、由利菜とリーヴィスラシル、テミス(aa0866hero001)と共鳴して己の魔法書にテミスを十字の意匠として纏わせる石井 菊次郎(aa0866)と、メグル(aa0657hero001)と共鳴してメグルの髪と瞳の特徴を宿す姿に変じた御代 つくし(aa0657)、ヤン・シーズィ(aa3137hero001)と共鳴してその表情を凛としたものに変え、白い装束姿となって横を疾駆するファリン(aa3137)達だ。
 ただし、つくしと菊次郎は別件でトプリヌス級愚神と戦った結果、今もその身に重体を負っている状態で、常なら出せる能力も大きく削減されている。
 戦意に負傷した身が追いついていない2人を見かねた由利菜がつくしを抱え、菊次郎は由利菜より指示を受けた優輝が抱えて全力疾走し、荒野への移動を助けている。
「骸骨姿の従魔はグリスプの動かしていた従魔達と同じだけど、何か関係があるのかな。由利菜さん、菊次郎さん、ファリンさん、メグル。どう思う?」
 由利菜に運ばれる最中、合流した優輝より借りた『交戦した従魔達との戦闘』を記録した機器から情報を得たつくしが、同じくグリスプや配下の骸骨達と交戦した事がある由利菜や菊次郎、ファリン、そして己の内にいるメグルに、つくしは問いの形で意見を求める。
 ――この従魔達を率いている事が、その存在をパラダイス・メーカーズ所属の愚神だと識別できる手がかりとなるか、否か。 
(今の段階では情報が不足しているのでなんとも言えません。グリスプの属していた組織の愚神達が好んで使う従魔なのかもしれませんが)
「ほぼ間違いなくパラダイス・メーカーズと思って差し支えないでしょう」
 内からのメグルの声と共に、つくしを抱える由利菜もまた賛意を示し、後続の菊次郎やファリンも頷く事で、つくしの考えに賛意を示した。
(結局そのグリスプは滅び、パラダイス・メーカーズなる愚神の群れの謎が残るのみだがな)
「そうですね。ただの集団というわけでもなさそうです。『あの』グリスプに滅ぶことを命じる事ができる存在がいるだけでも十分脅威でしょう」
 優輝に抱えられ、内からのテミスの声にそう応じながらも、菊次郎はパラダイス・メーカーズの脅威の本質を見抜いていた。
 五々六(aa1568hero001)と共鳴した獅子ヶ谷 七海(aa1568)は、その身に五々六の人格と戦闘技術を同居させ、荒野への道なき道を全力で進み、その口から五々六の人格が敵の脅威に関する意識の共有化を図る。
「敵愚神は空気と斬撃を操るらしいが、先発隊が敵の能力全てを明らかにしたとは思えん。何かしらの状態異常攻撃も放ってくると考えても損はないはずだぜ」
 口調こそ尊大だったが、敵の力量を甘く見積もる事は避けるよう忠告する五々六の言葉に、ファリンも頷いた。
「今回の愚神はあの、ズセなる女性の愚神が所属する組織の『同僚』なのでしょうか、お兄様?」
(不思議と縁があるようだな。だが、今、君が気にするべきはそこか?)
 内より響くヤンの問いに、ファリンは緩く首を横に振ると、己の決意を口にする。
「いいえお兄様。わたくし、街を護ります。誰にも被害が及ばない荒野で愚神を迎え撃ちますわ」
 それぞれの決意と戦意が荒野へ到達し、それぞれの場所で荒野の彼方より街へ迫ってきた愚神と、街の外にある荒野で迎え撃つ。
(あの突進力は脅威だ。防衛ラインを突破されたら、全力で回り込む)
 内より響くリーヴスラシルの声に由利菜は頷いた。
「つくしさんや菊次郎さんの命もかかっています。尚更、敵を街へは入れさせられません」
 既に抱えてきたつくしや菊次郎は、安全を考慮して後方に配置している。
 優輝には当初後衛役の仲間達に守ってもらうよう指示を出すつもりだったが、つくしや菊次郎にも敵の攻撃が及んだ場合を考慮し、保険として2人を守る事も指示してある。
 やがて片目を眼帯で覆う愚神が到達し、頬の肉皮を嘲笑の形に歪ませ、愚神組織『パラダイス・メーカーズ』の1体にしてフィロと名乗り、対峙する朝霞もこう応じる。
「私は聖霊紫帝闘士(せいれいしていとうし)ウラワンダー! この世界とそこに住む人々の笑顔を守るのが、私の願いよ!」
 そして荒野で9人のエージェント達と1体の災厄が激突する。

●相克
 ダグラスがフィロに向けた拳銃「ケルベロス」が獣の咆哮を思わせる発射音と共に3発の銃弾をフィロに放つと、フィロの周囲を光閃の群れが旋回し、ダグラスの弾丸が切断されて霧散する中、その間にフィロとの間合を射程距離圏内まで縮めた由利菜より放たれた守るべき誓いのライヴスが、フィロに絡みつき、その敵意を由利菜に固定する。
「しゃらくせぇっ!」
 フィロが右手を振ると、由利菜の周囲に無数の光閃が描かれ、とっさにインサニアを掲げた由利菜の総身に斬撃の火花と無数の金属音が咲き誇る。
(ユリナ。守るべき誓いだけでは、奴の憎悪を引き付けきれないかもしれない)
 リーヴスラシルの加護が由利菜を包んで殺到する斬撃から護るが、全てを護りぬくことはできず、無視できないダメージが由利菜に蓄積されていく。
「リスクを負ってでも、前衛に立てる私達で包囲網を作らなければ……!」
 こんな攻撃を街に人々に届かせはしない。苦痛を恐れない。
 自分の損壊を踏み越え、由利菜はなお立ちはだかる。
 由利菜がフィロの攻撃を釘付けにし、そのダメージを駆けつけたファリンがケアレイで癒す中、ライロゥが顕現したのは魔法ではなく15式自動歩槍「小龍」だった。
(? 魔術書は使わんのか?)
「愚神にはちょっとやそっとじゃ当たらないからナ。……仕掛けル」
 内からの祖狼の疑問にそう応えたライロゥの15式自動歩槍「小龍」が唸りを上げると、束になった機銃弾が灼熱の輝線と化してフィロへと放たれ、殺到した銃弾の嵐がフィロを手荒く叩き据える。
 刃の煌めきを潜り抜け、フィロとの間合を詰めた七海のディフェンダーより繰り出された電光石火の斬撃は、不可視の速度でフィロの身に叩き込まれたが、フィロの憎悪が強固だったためか、その意識に揺さぶりをかけることはできず、七海と入れ替わるように朝霞が距離を詰め、白地にピンク色で見た目は可愛らしいが非常識な大きさのレインメーカーを振るい、空間にハートの形をした残光を残してフィロの身に魔法の一撃を叩き込む。
 一連の攻防を、つくしはやや離れた場所からライヴスゴーグルを使い、フィロの周囲に渦巻くライヴスの流れから、攻防の特徴を把握しようと努めていた。
 敵の動きを読み取れ。敵の攻撃を把握しろ。
 護りを固めるときと、牙を剥く時を定め、この戦場を掌握する。
「それが私が握り締めた使命なんだから!」
 未だ満足に力を発揮できぬ重体の身でも、つくしは眼前の戦闘を見極めるべく、視界10mの範囲で見通す事のできたライヴスの流れを逐次味方に報せ、己のできる事で仲間達を支える。
 菊次郎もまた戦闘が展開する間合から距離を保つ姿勢のまま、ライヴスゴーグルでフィロや周囲の空間に漂うライヴスの流れだけでなく、この荒野周囲で不穏な動きがないか警戒していたが、ライヴスゴーグルが見る事の出来るライヴスの流れは視界10mの範囲に限られるため、静かに仲間達やフィロの交戦する間合へと移動を始めていた。
「状況によっては近接戦闘を挑みます」
(主は憑いておるのか、憑かれておるのか)
 内より呆れを含んだテミスの声が聞こえたが、菊次郎は緩く首を振ってこう応えた。
「ライヴスゴーグルが見える範囲外ですが、奴は全ての攻撃を斬り払っているわけではなさそうです。ならば手数を多くして攻撃を畳み掛ければ、倒しやすくなるでしょう」
 尋問するならば、まず弱らせなければ。
 とある愚神を探す事に執念を燃やす菊次郎だが、個人的感情ですべきことの優先順位を変える真似はしない分別はあった。
 同じように攻防の中、ライヴスゴーグルでフィロ周囲のライヴスの流れを読み取る事で、フィロの攻防を見抜こうとする者が多い中、ダグラスは持参した消火器をフィロの上に投擲すると、拳銃「ケルベロス」を咆哮させて、消火器を3度穿つ。
「見えなければ、見えるようにするだけのことだ」
 ダグラスがそう嘯く中、破裂音と共に消火用に用意された白色の薬剤が、フィロや周囲に降り注ぎ、フィロと周囲で硬質化していた空気の群れを白く染めあげ、浮き彫りにしていく。
 単純ではあるが、刃を視覚化するうえでは効果的なダグラスの一手だった。
(くるぞ朝霞! 気を付けろ!)
『朝霞さん、前後左右から斬撃が来るよ! 飛んで躱して!』
「了解、ニック! つくしさん!」
 内よりニクノイーサから、ライヴス通信機よりつくしの警告が飛び込んできた朝霞は迷うことなく跳躍し、眼下を無数の斬風が通過する。
 そのままフィロの頭上に達した朝霞が空中で体を捻りざま、レインメーカーを振りおろし、フィロの頭部を痛打して着地する中、再びフィロの頭上を何者かの影が覆う。
「集エ集エ。異界ノ蝶ヨ、纏エ!」
 フィロに向けて跳躍を終えていたライロゥの手よりライヴスの蝶が放たれてフィロに纏いつく。
 ライロゥの幻影蝶はフィロの意識と強さを強奪し、フィロの周囲にあった刃の群れを消し、ライロゥは着地して仲間達に告げる。
「守るべき誓いの効果が切れたようですので、お手伝いしまシタ。今の内にドウゾ」
 ライロゥの言葉を受け、それまで攻防に苦心していたエージェント達が一斉に攻勢に転じた。

●膠着
 七海のディフェンダーが重量を帯びた一気呵成と化して意識のないフィロを跳ねとばし、返す刃でフィロに更なる斬撃を刻む。
 七海と反対方向から肉薄してきたファリンが突風の速度で繰り出した白柳槍の穂先がフィロの身を穿ち、正面でフィロの攻撃を防いでいた由利菜が柄と鍔、刃に優美なデザインを施したレーヴァテインを繰り出して、フィロの脚を斬ったところで、つくしからのライヴス通信機を介した警告が3人に届く。
『由利菜さん、七海さん、ファリンさん! フィロが意識を取り戻して3人の周囲に煌刃を展開してるよ!』
 つくしの言葉を裏付けるように、ファリンと七海、由利菜の周囲に刃の煌めきが帯び始めた。
「五々六様、煌刃が来ます!」
(後方へ回避しろ、ファリン)
 七海と意識を共有する五々六に短く警告を発した後、内からのヤンの警告に従いファリンは後方へ身を捩り、ファリンは眼前の空間に無数の刃を斬らせて刃を凌ぎ、七海はディフェンダーの刀身で斬撃の大半を防いだが、防ぎきれなかった斬撃が七海の体を切り刻み、由利菜は武器をインサニアに持ち帰る間もなく総身に斬撃を浴びるが、リーヴスラシルの加護でどうにか負傷を軽減する。
 意識を取り戻したフィロの周囲に再び刃の輝きが帯びる中、轟然と火柱が噴き上がり、フィロとその刃を包み、つかの間フィロの行動を遅らせる。
「負傷中であっても、できる事はあるんですよ。このようにね」
 優輝に支えられて間近に迫った菊次郎からのブルームフレアの中で、何かが砕ける音が複数聞こえたが、空気を引き裂く音と無数の刃閃と共に菊次郎の炎が全て斬り払われる。
「てめえの弱点は見切ったぜ。防げるかよ、この一撃が!」
 七海がそういうと、何かをフィロに向けて投擲する。
 それは事前に立ち寄ったコンビニで購入して調達した――生卵だった。
 さすがにフィロも呆気にとられる中、卵は周囲に煌めく刃の一つにぶつかり、刃を黄色に塗らして落ちた。
(……なんで?)
(いや、なんか幻想蝶に入ってたのを投げたら、アレだったから)
 七海の意識から唖然とした声が届く中、七海に向け五々六はそう応えたが、フィロの顔から嘲笑が失せ、底冷えのする視線と響きを含む声をエージェント達に向ける。
「舐めてんのか、てめえら」
 五々六が後方の仲間に攻撃を向かせまいと、フィロの憎悪を集めるためにとった行動は、想像以上に成功したようだ。
 フィロの憎悪を糧とするライヴスが、全方位死角なしの一斉斬撃と化して七海や周囲のエージェント達に殺到し始める中、遠くからつくしはメグルの助けも借りて、敵の攻防を把握しようと努めていた。
 現段階までにつくしやメグルが分かった事は少なくとも3つ以上ある。
 1つ目は、フィロの防刃と呼ばれる能力は、物理攻撃、魔法攻撃の区別なく、射程6m以上からの全ての攻撃を斬り払い無効化する。
 2つ目は、防刃が斬り払うのは1回に付き1つの攻撃に対してのみであり、残りの攻撃は斬り払われずにそのままフィロの体に命中する。
 3つ目は、ライヴスゴーグルで斬撃と思しきライヴスの流れを把握し、その後の行動に繋げるのは極めて難しいということだ。
 ライヴスゴーグルを使いながら敵の攻撃を凌ぐには『視界10mの範囲に動くライヴスの流れの内、そのうちのどれかの流れが斬撃であるかを確認し、周囲から高速で迫る斬撃を全て把握しかわす事ができる』だけの情報処理能力と回避能力が同時に要求される。
 現在の状況でライヴスゴーグルに頼る戦いはかえって危険に繋がると察知したつくしは、8人の仲間達にライヴス通信機を介して判明した事も含めて全て報せ、仲間達の行動を支援する。
 できれば自分も接近して愚神との戦いを手助けしたかったが、メグルからも強い口調で制止され、自分も足手まといになる可能性を考慮し、その場に留まる。
 その間にもフィロの斬撃をエージェント達の強靭な意志を纏うライヴスが迎撃し、互いのAGWと刃の群れが激突する。
 吹き荒れる刃が描く剣閃のかすかな隙間に自身をねじ込む機動で、フィロの眼前に辿り着いたダグラスの右手に宿る黒色の拳銃が至近距離からフィロに向け咆哮し、フィロの肉を穿つ音を3つ響かせた後、ダグラスは別の仲間に次を任せて後退する。
「飛ベ跳べ……。闇夜ノ烏ヨ……塗リツブセ!」
 既に6m以内にいたライロゥのかざす手に闇色の蛇の群れが現れ、ライロゥのリーサルダークが呪詛を吠えながらフィロに絡みつき、再びフィロの意識を奪う。
 その間に駆けつけた朝霞が由利菜の負傷を治癒の光で癒し、七海の負傷はファリンからの指圧めいた治癒の光で癒され、再び戦闘に復帰する。
 その後も荒野には魔法や刃の煌めきが荒野に吹く風に煌めき、互いのAGWと刃の噛み合う響きが周囲を震わせ、9人のエージェント達と愚神はなおせめぎ合いを続けるが、依然膠着状態が続く。
 今のところはエージェント達全員がそれぞれの役割を果たし愚神の街への突入を防いでいるが、既に使用できる術の数はほぼ尽きている。
 そしてこれだけ攻撃を加えてもなお、眼前の愚神は倒れるどころか、弱っている気配をいまだに見せていない。
 このまま戦闘が続き、防御と回復を支えていた術が全て尽きた後も攻防を続けられるかと言えば疑問が残るが、だからといってこの場から退いて街へ愚神を通す真似などできない。
 そんな時だった。
「そこまでです」
 いつの間にかフィロの真横に見慣れぬ人影が現れ、そうフィロに告げた。

●新たな脅威
「手ェ出すなっつったろーが!」
 牙をむき出しにして喚くフィロの攻撃を事もなげに躱すと、その人影はフィロの首を握り締め、それ以上の行動を封じて皆様にこう名乗った。
「はじめまして、H.O.P.E.の皆様。私は『パラダイス・メーカーズ』の長、ニア・エートゥスと申します」
 その身に纏う黒衣に、己の髪や瞳と同色の金銀の意匠を施した姿の存在が、フィロを抑えながらエージェント達に向け恭しく一礼する。
 決着はどちらかの死のみ。逃がす気は一切ないつもりの七海だったが、フィロに加え、これまで苦戦していたフィロを事もなげに抑えこむ眼前の存在と同時に戦うのは危険だと判断できる思慮は働いており、七海は攻撃を手控える。
「今回の襲撃は御身の差し金という事ですか」
 菊次郎は一連の動向から、フィロが今回街を襲ったのは眼前でパラダイス・メーカーズの長と名乗ったニアという愚神の思惑であり、一つの『芝居』である事を見抜いていた。
「役者が必要でしたら、私達と適度な『すり合わせ』無しには劇を円滑に進める事は出来ませんよ。何より『役者のみが動く舞台』と『脚本』はご用意下さらなければ」
 言外に無関係の人々を巻き込まない事、今後パラダイス・メーカーズと関わる上で必要な情報を提供するよう菊次郎はニアに迫り、由利菜もまたニアに追及の矛先を向ける。
「グリスプが貴方の組織で担っていた役割、解明させて貰えませんか」
 菊次郎と由利菜の追及に対し、ニアは肩をすくめてこう応じた。
「私はただの使い走りで、今回の件はただの『ご挨拶』ですが、そう仰っている限り貴方がたは『役者』にすらなれませんよ」
「あなた達からただもらうのではなく、自分で掴み取るしかない、という事だね」
 優輝の助けを借りて近付いてきたつくしは、謎めいたことを告げる眼前の存在が求めるものを見抜いていた。
 ――あなた達が暴力で押し付けてくる様々なものから、人々を護りぬくための心の強さも含めて。
「ご名答。私達はこれで退散しますが、一つだけ手がかりをお見せします」
 ニアは未だ腕の中で暴れるフィロの眼帯に手をかざし眼帯を引き剥がす。
 眼帯に隠されていたフィロの瞳が9人の視界に垣間見えた瞬間、ニアの指を鳴らす音と共に、ニアやフィロの周囲に黒色の豪風が吹き荒れる。
「では失礼」
 ニアとフィロの姿が黒風の吹き荒ぶ音で一瞬寸断され、やがて風が去ると、広い荒野のどこを見渡しても2体の愚神の姿は消えていた。
 こうしてこの街に来たフィロと言う脅威は、皆様の奮闘とパラダイス・メーカーズの首領を名乗るニア・エートゥスによる幕引きという形で、この街より去った。
 駆けつけてきたH.O.P.E.別働隊より補充や治療を受ける中、ファリンと共鳴を解いたヤンより、五々六と共鳴を解いた七海に向け、予め駄菓子代わりにとコンビニで購入していたお菓子を『お詫び』と称して進呈していた。
「五々六様! 盾にいたしましたことをお許しくださいませ」
「敵の攻撃の盾にしていた事へのお詫びだ」
 ファリンが頭を下げる中、七海は思いもよらなかったらしく、おずおずとヤンからのお菓子を受け取り、こちらも頭を下げる。
「あの、あのっ……このたびは結構なものを、ありがとう、ございます。大切にします」
「いや、早めに食えよ」
 思わず五々六が七海に横からツッコミを入れた。
 お菓子の中には賞味期限の設定されていないものもあるが、五々六が見る限り、ヤンより差し出されたお菓子は日持ちする物とそうでないものが混在していた。
 そんなやり取りの中、五々六は人間への憎悪に満ちたフィロという愚神について思考を巡らせていた。
(憎しみなんてなぁ、恐怖、不安の裏返しみてえなもんだ。あの愚神。人間にどんな苦汁を舐めさせられたんだろうなあ?)
 一方共鳴を解いた菊次郎とテミス、つくしとメグルにリーヴスラシルからフルーツの差し入れが届けられた。
「お見舞いの果物だ。感染症を避ける為、元気になってから食してくれ」
「すみません。ありがたく頂きます」
「感謝する」
 いまだに満足に動けないつくしや菊次郎に代わり、メグルやテミスがリーヴスラシルに頭を下げてフルーツを受け取り、メグルはつくしを支えながら帰路に就く中、テミスと菊次郎は謎めいた会話をしていた。
「あれが主の求めていた手がかりか?」
「『片目』を2体が持っているなら、グリスプの話とは符合しますが……」
 ニアが見せたフィロの眼帯に隠されていたのは、紫色に十字型の瞳孔を帯びる瞳だった。
 しかし金縁はなく、片目という『手がかり』は果たして、俺の求めるものであるのか。そうでないのか。
 別の場所では愚神の撃退には成功したものの、撃破には至らなかった事にしこりが残るライロゥに向け、共鳴を解いた祖狼が助言していた。
「今はまだ守れた事を喜べばいいだろう? 力を得る事を目的とするなよ?」
「わかっていル……つもりデス……」
 そう応えるライロゥの内には、別の感情も渦巻いていた。
 まだまだ届かない。今のままでは、たぶん、ずっと。
「そうだといいがな。力は目的を達成するための手段に過ぎぬのだ、それを見失うなよ」
 祖狼の言葉は正しいと理解しつつも、それでもライロゥは渇望する。
 守るための力が欲しいのデス。
 様々な感情を内に秘め帰還した9人は、現地で得た情報や手がかりなどをH.O.P.E.に提出し、後日手がかりや情報の整理分析を終え、結果報告に来た担当官から恐るべきことが伝えられた。
「皆様が現地で対峙した、ニア・エートゥスと名乗った存在はトプリヌス級愚神です」
 ケントォリオ級よりも上位存在である可能性を考慮していた由利菜やリーヴスラシル、菊次郎やテミス達はやはりという思いがあったが一方で疑問もあった。
「そんな危険な存在なら、プリセンサーに感知されるはずだよな?」
 仲間達の疑問を代弁するように、ニクノイーサが尊大な口調で担当官に疑問をぶつけたが、担当官は頭を下げてこう応えた。
「プリセンサーの感知できる範囲には『揺らぎ』があり、感知にも限界がございますが、皆様を危険にさらす事になり、申し訳ありませんでした」
 己を使い走りと称して消えたニアだが、同じ頃、エステルの始末を命じたフランツ・フォン・ノイラートの前で片膝をつき、H.O.P.E.の介入の結果、追撃に失敗した事を報告していた。
 ニアはフランツの叱責を浴び、畏まっていたが、この時フランツは気づいていなかった。
 眼前の愚神がトプリヌス級愚神である事や、そんな存在が自分の命令に従っているという事態がありえない事に。
 フランツの属するシーカという組織やその周囲に、見えざる暗雲が立ち込めようとしていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 焔の弔い
    ライロゥ=ワンaa3138
    獣人|10才|男性|攻撃
  • 希望の調律者
    祖狼aa3138hero001
    英雄|71才|男性|ソフィ
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