本部

未来の戦友を育てよう?

星くもゆき

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/29 19:46

掲示板

オープニング

●新しい季節

 四月は新しい年度の始まり。エージェント業は年齢も学歴も関係なく就けるものだが、何だかんだ言って四月はやはり新人エージェントが多く入ってくる。せめて学校を出てからという意識が働くのかもしれない。
 今年の四月も、例にもれず新しい人材がそこそこ入ってきた。これから依頼を通じて成長し、いつかは先輩エージェントと肩を並べて戦場に立つ者もいるだろう。本来であれば研修や訓練課程を経てから依頼現場へ送り出すのが常道と言える。
 しかしH.O.P.E.は基本的に人員不足。新人とはいえ懇切丁寧に指導を施してやれる余裕はない。彼らは戦力として扱われることになり、エージェント契約を結んだ直後に現場へ放り出されることもよくある。いわゆる『俺の背中を見て覚えろ』というやつ。
 急に従魔退治にあてがわれて、てんやわんや。そんな光景はこの季節によく見られる。毎年の恒例行事である。

●駅前、事件発生

 日中、快晴、駅前には多くの人が入り乱れる。
 至って平和な時間。しかしそれをぶち壊すように、奴らは現れる。

「逃げろーーーーーーー!!!」
 誰かが言った。大声に反応して、何事かと駅前の人々が一斉に視線を動かす。

 人通りのど真ん中に現れたのは、無数の犬だった。それらは尻尾の先が半透明で、炎のように揺らめいており、従魔であることが一目で理解できる。
 従魔どもは即座に通行人たちに襲いかかり、駅前ののどかな風景はあっという間に悲鳴あふれる事件現場へと変貌を遂げた。

●ルーキー同伴

「駅前に従魔の群れが現れることをプリセンサーが予知しました。敵は犬型のミーレス級従魔が30体、その場にいる一般人を襲うようです。駅前には逃げ遅れた者が数名おり、また駅の中には逃げられずにいる人々が大勢います。彼らの安全確保を最優先として下さい」
 ブリーフィングルームに集まったエージェントたちへ向け、オペレーターが事件の詳細を伝える。そして室内の隅っこには、2名の男女が控えていた。
「人手があって困ることはないと思いますので、新人さんも連れていって下さい。数が多いとはいえ敵はミーレス級ですので皆さんの負担になることはないかと。現場経験を積むことは大事ですので、お願いします」
 そう言うとオペレーターは2名の新人エージェントに挨拶を促した。
「四月からエージェントになりました、道長といいます! よろしくお願いします!!」
 威勢の良い青年、道長は短い挨拶を終えると深く頭を下げた。
「あの……ご迷惑おかけするかもしれませんが、頑張ります……。あ、佐恵です」
 物静かな少女、佐恵はどこか自信がなさそうな態度である。
「彼らの能力に関するデータは端末に送っておきましたので移動中に確認しておいて下さい。従魔たちの掃討をよろしくお願いします」
 新人指導も兼ねた依頼というわけだ。ともかく今は悠長に話しているような時間はない。エージェントたちは新人を伴い、輸送機の発着場へと向かう。


 ミーレス級のみの比較的に軽い仕事ということで新人エージェントがあてがわれたものの、現場にて予定外のデクリオ級従魔と交戦することになるとは、誰もが知る由もなかったのであった。

解説

■目的
・従魔の討伐+新人トレーニング
敵を倒すことはもちろん、新人たちに経験と自信を与えてあげて下さい。
先輩として彼らにエージェントとしての第一歩を踏み出させてあげましょう。
全て自分たちでカタをつけてしまったり、新人に大怪我を負わせたりしたら失敗となります。

■敵戦力
ミーレス級従魔『ハウンド』30体
体長1m未満の犬型従魔。主に牙による噛み付き攻撃を行う。
特別な能力を持たないシンプルな敵。

デクリオ級従魔『ヘルハウンド』2体(PL情報)
体長150cm程度の犬型従魔。
ハウンドが残り10体になった時点で出現する。
噛み付きの他に、口から炎を吐く範囲攻撃を行ってくる。
炎は命中対象に減退(1)を付与。

■味方戦力
新人エージェント2人

・道長(ミチナガ)
攻撃適正のドレッドノート(ブレイブソード装備・活性化スキルはヘヴィアタック、オーガドライブ)
従魔を倒すという気持ちが先走り気味で、視野が狭くなる傾向あり。
攻撃行動は問題ないが、突っ込みすぎて危険に陥ったり、周囲の一般人に気が回らないことがある。

・佐恵(サエ)
命中適正のジャックポット(オートマチック装備・活性化スキルはストライク、トリオ)
視野を広く保ち、状況に応じて行動する柔軟性はある。だが肝心の戦闘面に難あり。
慎重になりすぎて攻撃を外してしまうことが多い。
適正とクラスからして当てる技術は備えているはずで、専ら精神面の問題である。

■場所
駅前。周囲に建造物はあるが現場は開けた場所。
日中で晴天。視界良好。
駅外にいた一般人は避難済みだが、逃げ遅れた者も数名いる。
駅舎内には逃げられなかった人々が残っている。
PCたちが現場に到着した時点で5体のハウンドが駅舎に侵入している。

■状況
ハウンド出現と同時にPCたちは現場に到着します。
新人エージェントの面倒を見ながら戦うことになる。
彼らは基本的に先輩エージェントであるPCの指示に従います。

リプレイ

●実地教育

「わーなにこれ、101匹ドッグちゃん?」
「……いっぱい」
 我が物顔で駅前を占拠する犬型の従魔『ハウンド』たちを前に、シエロ レミプリク(aa0575)は呑気なことを言っている。頭部にはいつものようにナト アマタ(aa0575hero001)が引っついており、シエロが現場を見渡すために頭を動かすともれなく一緒にくるっ。
 現場はすでに人影少なく、閑散。逃げ遅れた者を何名か視認できる程度だ。
「本格的な戦闘依頼は初めてだから少し緊張しますね」
 レオ・バンディケット(aa3240)が何気ない一言を放つと、フォルド・フェアバルト(aa3240hero001)がつま先立ちになってレオの耳に口を寄せた。
「今回同行する二人よりはマシだろ! 少しは先輩らしく振る舞えよ!」
 当の道長と佐恵に聞こえぬよう、フォルドはなるべく小さな声で伝える。その言を受けてレオは新人2人の様子をうかがう。2人はやはり落ち着かない様子で、せわしなく目線を動かしていた。
「ですね、気持ちで負けたらダメですよね。ありがとうフォルド」
 今は先輩として見本とならねばならない時。レオは弱気になってはならないと気合を入れ直す。
「ある程度は固まって進んで、その後散開ってところかな」
 皆に先んじてIria Hunter(aa1024hero001)との共鳴を済ませたArcard Flawless(aa1024)が状況分析し、まずは全員で固まって駅前に進軍、その後は駅前制圧・救護と駅舎内の対応に分かれることとなった。
「気負わなくてもいい。失敗なんて、あっても味方がどうとでもしてくれる」
「あ、は、はい!」
「わかりました……」
 不安を見せる新人2人の肩に手を置き、Arcardは緊張をほぐすために一声かける。2人はその言葉を素直に嬉しく思うのだが、失敗してもいいという心持ちになることは難しい。
 硬さの抜けきらない表情を見て、クレア・マクミラン(aa1631)とリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)も一言伝えておく。
「あれもこれもと考える必要はありません。まずは敵と味方、要救助者の位置を頭に」
「できることを落ち着いてこなしましょうね」
 黙して頷く道長と佐恵。緊張下にあってリリアンの柔らかい空気は浮き足立った精神を落ち着けてくれる。
 そしてArcardやクレアたちの言葉を胸に刻んでいたのは道長らだけではなく、椋実(aa3877)も助言を心に留め置く。彼女は2人より1週間ほど早くエージェント登録をしただけで、ほぼ新人と変わらない状況だった。
「ムクもしっかり教えてもらえよ!?」
 厚い筋肉をまとう鳥人、朱殷(aa3877hero001)は隣でやかましく何か言っている。彼の異様なテンションはたびたび椋実を困らせていた。
「……研修は受けた……」
「まぁすぐ活躍できるようになる! そう! 俺みたいにな!」
「…………うざ」
 じっとり睨みつける椋実に気づきもせず、朱殷は高らかに笑い続けるのみである。
「では行こうか」
 Arcardが仕事の始まりを告げると、総員共鳴。
 駆逐開始だ。

●学びの時間

 先陣切って突っこむのは散夏 日和(aa1453)だ。白銀の髪が風を受けて流れ、瞳孔には獣じみた迫力が宿る。
「先輩としてより一層力を振るわなくてはなりませんわね!」
(「新人研修か……日和なら軽くこなしそうだな」)
 共鳴中のライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)は、新人だろうと構わず物を言う日和の姿を想像した。
 練り歩く犬の群れに深く踏み込み、大鎌を振って蹴散らす。
(「……情報より少ないな。日和」)
「躾のなっていない犬は調教しなくてはなりませんわね」
 予め連絡先を交換し、ハンズフリーで通話できる状態にしてある。日和は駅舎内に従魔が侵入している可能性があると皆に伝える。
 数が多いとはいえ敵はミーレス級に過ぎず、軽い。一同は容易に駅前の空間に到達した。
「それじゃ私らは駅の中に」
 繰耶 一(aa2162)と鵜鬱鷹 武之(aa3506)は戸惑い気味の佐恵を伴って駅舎の中へ向かう。
 ほぼ新人状態の椋実はどちらにするか少し考えたが、広いほうがやりやすいと思い駅前に残る。
(「蜥蜴なのにな」)
「朱殷……!」
(「悪い。今のは俺が悪かった」)
「…………ん」
 朱殷はデリカシーは無いが、謝るべき時はしっかり謝れる男だ。

 駅前では従魔掃討と、一般人の救護に取りかかる。
「推して参ります!」
 進軍の勢いそのまま、日和が前線に出た。
「こちらですわよ、私がお相手して差し上げます!」
 大声をあげて、敵の注意を惹く。駅舎の中にこれ以上は敵を入れさせない。駅舎から遠ざかりながら戦い、群れを引き離す。
 その間にクレアが一般人の治療・避難を進める。
 日和と同じく前衛を務めるレオは、積極的に道長に声をかけていた。
「今回はよろしくお願いしますね道長さん」
「お願いします! 足引っ張らないように頑張りますっ!」
 従魔を前にしても道長は萎縮する素振りもない。それどころか果敢に攻めている。大振りながらもしっかりと攻撃は当て、ダメージを受けようと怯むことはない。前衛の仕事はこなせていた。
 だが1人で突っこみすぎるきらいがあり、仕留め損なった従魔に反撃を喰らうことも多かった。
 レオは仕留め損ないを見つけると、手ずからトドメを刺してやり、互いに連携すれば被害を抑えられると説く。
「こう戦えば被害は少ないですよ、ただ突撃したら一気にどざえもんです」
「え、はぁ……」
 反応が鈍い。連携の重要性が身に染みるほどの状況でなかったためだろう。思うように自分の考えを伝えられず、レオももどかしい気持ちになる。
 道長は続けてハウンドに剣を振りかぶるが、瞬間、背後から強襲。もう1体。
 ハウンドの牙。
「はッ!」
 道長に触れようとしたところで、グリムリーパーの切っ先がハウンドを捉え、裂く。
 日和の援護だ。
「すみません……ありがとうございます」
「突出しすぎですわ。無闇に突っこむのは危険ですわよ」
「おっす!」
 道長は敵の位置を見て、彼なりに考えて動き始める。すべての位置を頭に置く。戦闘前にクレアから言われていたことを思い出していた。
(「……人の事は言えないと思うが」)
 日和の心中に、ラインが一言。
「私は無闇にではなく敢えて! というやつですわっ」
(「そういう役割も必要だ。タフな日和には向いているだろう」)
「淑女に対する台詞ではありませんわよ」
 微笑を浮かべ、日和は大仰に動き回り、敵の誘引を続行する。
 一連の流れを傍から眺めていた椋実は、大事に至らなくて安心していた。
「後輩君達は……大丈夫みたい」
(「どっちかといえばムクがピーンチッ!」)
 少し先輩っぽくチラチラ道長を気にしていた椋実だったが、その実、3体に囲まれてちょいピンチであった。
「こんなのピンチじゃない……」
(「それとなんでシャベルが武器なん!?」)
「え……今更……? バカなの?」
 彼女が堂々と構えているのはメトロニウムシャベルだった。このセンスである。
(「剣とか槍とかあるじゃん? 銃でも大砲でもいいぜっ!」)
「目立ってどうすんのさ、鳥頭」
(「はっ! 褒め言葉か! 梟なだけにな!」)
「見れば分かる……シャベルでも立派な武器……」
(「ちみっこにはちょうどいいか!」)
「……うざ……くるよっ!」
 1週間先輩の意地。無様なシーンは見せられない。愛器メトロニウムシャベルを手に、椋実は戦場を舞う。

「ふふふ……いっぱいいるってことは、いっぱい撃てるってことなのだぁ!」
 左眼が赤く点灯し、シエロは怪しい雰囲気満点。謎の骨のような鎧装をまとい、いやに刺々しい。見た目完全に悪。
 ブレイジングソウルを両手に携え、腰の後ろには拳銃『ケルベロス』、更に肩の鎧部分には肩キャノン風に16式60mm携行型速射砲をガシャーン。最終全身兵器、フルアーマーシエロちゃん爆誕です。
「いつも通りぶっ放しちゃう! ……って今回新人研修も兼ねてるんだっけ?」
 全部殺る勢いだったシエロちゃん、ここでようやく新人の存在を思い出す。自分たちだけで仕事を終わらせては何のために彼らを連れてきたのかわからない。
「……よし! だったら援護メインにしちゃう!」
 ガシャンガシャンと走り、シエロは駅の入り口付近に陣取る。ここならば現場を広く見渡せる。
 駅へ侵入しようとする敵の迎撃、一般人への敵攻撃の妨害、新人の援護。どこにだろうと撃ちこめる。
「うららららーーーー!」
 振り回したブレイジングソウルが唸り、駅舎に向かってきたハウンドどもをまとめて撃ち払う。何も考えず撃ちこめる瞬間は実に爽快。
(「……シエロ、あそこ」)
「あいよぉ!」
 ナトが示す先には、一般人に迫るハウンドの姿。
 後部のケルベロスを抜き、狙い、即撃ち。ファストショットが跳躍したハウンドをはたき落とす。
 撃って撃って撃ちまくる。シエロの狂乱は止まらない!

 右に魔銃『フラガラッハ』、左に拳銃『ケルベロス』。
 得物の二挺拳銃を自在に扱い、Arcardはハウンドに着実に弾を撃ちこんでいた。リンクコントロールにより高まった攻撃力が群れの頭数を削ぐ。
 同じ駅前で戦う道長にも目を配ってはいるが、当人の攻撃的な気質ならばミーレス級程度の従魔の相手は問題ないだろうと判断して、フォローは牽制や射撃支援に留めている。
 戦闘が経過するうち、Arcardは現場に愚神の痕跡が無いことを知る。彼女は今回の戦闘規模の大きさから、犬どもは愚神の差し金ではないかと考えていた。例えば陽動作戦などである。
 現場で何らかの情報を掴めると思っていたが、何も無いとは想定外だ。すぐさまオペレーターに情報照会を要請する。陽動であれば別の場所で何らかの動きがあるはず。
 だが返ってきた内容は、異状なし。別件で愚神が動いているということも無いとのことだった。
「ただの犬の群れ? だったらいいんだけどね」
 別の可能性に考えを巡らせながら、目に留まったハウンドを一射。一般人を襲おうとしていた。クレアが駆け寄るのが見えたので、そこは彼女に任せてすぐさま視線を他へ向けて制圧行動を続ける。

●駅舎内

 他方。
「偶には頑張りますか……未来の為に」
(「武之がやる気を出してくれて嬉しいんだよ! ルゥも頑張るね!」)
 珍しくちゃんとしている武之は潜伏を使用して先行。駅舎内を駆ける。キビキビとした彼の様子にザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)は純粋に喜んでいた。
 奥の一角に人影が固まっているのを発見。同時にハウンドも2体。手前と奥。奥の個体は一般人たちのすぐ傍まで迫っている。
 武之はまず手前の敵を縫止を刺し、奥にいる敵を優先して追走。
 追いついたところでジェミニストライクを使い、人々に被害が出る前に1体を討つ。
 いつもより明らかに動きがキレている。どうした武之。
 ここで彼が覚醒に至るまでの思考をたどってみよう。

 新人に頼れる先輩アピール
 ↓
 『武之先輩格好良い!』と信頼を得る
 ↓
 後に今回の新人くんが成長する
 ↓
 養って?
 ↓
 あの時世話になったし格好良い先輩の言う事なら!
 ↓
 大勝利

 いつもどおりのダメ思考だった。後の安楽を得るための先行投資だった。正直『養って?』の段階で信頼もクソもなくなる気がするが、武之はマジだった。
(俺は養って貰えて、相手は格好良い先輩の世話が出来る……お互いにWinWinの関係じゃないか!)
 何て発想の逆転なんだ、と目からウロコってるダメ人間。
(「武之格好良いんだよ!」)
 華麗な動きを見せる武之にルゥルゥは目を輝かす。共鳴中だけど多分輝かせている。武之の愚考など知る由もなく。
 そんなキレッキレダメ人間とは逆に、新人の佐恵は射撃に手こずっていた。大外れはしないが、慎重な気質が災いしてトリガーを引くのが遅れてわずかに逸れる。それを繰り返していた。
「ご、ごめんなさい……」
 弾を外すたびに、隣に添ってくれている繰耶に頭を下げる。
 同じジャックポットとして、繰耶は佐恵に静かに語る。
「射手ってのはさ、後ろの下がってのんびりしてるわけには行かないんだよ。仲間に当てたらどうしようだとか、標的がこちらに向いたらとか、仕留められなかったらどうしようだとかいろいろ考えるかもしれない。……誰だってハナから上手い事出来る奴なんていない、出来ると思っていない。だからこの状況から目を背けず先輩たちの動きや判断をよく見ておきな。次の自分へ活かせるように。もっと自分の才能に胸を張りな!」
 強めに佐恵の背中を叩き、鼓舞する。佐恵に必要なのは考えることよりも撃つことだ。撃って1回でも当てられたなら、自信を持って任務に臨めるようになるだろう。
 武之が張り切ったおかげでいつの間にか敵は残すところ1体。繰耶は最後の1体を佐恵に撃たせようと考え、武之に合図を出して撃破を止めてもらう。
「……あの敵の動きを鈍らせる。だから、仕留めるのはあんたに任せたよ」
「……はい」
 スナイパーライフルを向け、繰耶は狙いを定める。敵の近くに撃ちこんで動きを阻めば、その瞬間に佐恵が当てられるはず。元々の力はあるのだから。
 ハウンドが動く。その先に一撃。床の破片が舞い、ハウンドはブレーキ。止まる。
「撃ちます」
 小さく一言。佐恵が撃つ。弾丸は足を止めた従魔の頭を貫く。
 駅舎内の敵はすべて、片づいた。
 当たった。そのことに佐恵は驚いてしまっていて、呆けた表情でちらりと繰耶を見た。
「気負わず撃ちな。あんたは当てられるんだ」
「はい……!」
 そこに颯爽と武之登場。格好良い先輩スタイルを崩さず、優しく語りかける。
「怖がる事は何も悪い事ではないよ。戦場で生き残るのは臆病な性格の人物だって言うからね。でも自分一人だけ生き残っても辛いだけだ。それなら少しだけ勇気を出して仲間を助けてみないか? 大丈夫、今はみんないるんだ失敗を恐れる事は無いよ。僕たちが全力でカバーするから――」
(「武之が先輩みたいにしてるんだよ! でも佐恵さんもういないんだよ!」)
「あーうるさい。今は俺の未来がかかって……待て、いない?」
 長々と先輩らしく語っていた武之だったが、すでに佐恵は駅前に向かっていた。聞いてない。ばかな。
「えーつまり……何だこれ、作戦失敗?」
(「作戦って何なのか気になるんだよ!」)
 説明しても疲れるだけなので、もちろん武之は無視していた。

●成長

 駅前に出てくると、繰耶たちの目に飛びこんできた。
 フルアーマーシエロちゃん。ひたすら撃つ。道長も佐恵もひたすら引く。
 何かこれ見たことある。繰耶は呆れた表情でシエロに視線を合わせ、佐恵に語る。
「佐恵……ジャックポットには、ああいうトリガーハッピーなエージェントもいる。……ってことでとりあえず、戦闘時コンディションの参考までに……」
「は、い……」
 やっぱり引いてる。
(「彼女、真に受けないと良いのですが……」)
 サイサール(aa2162hero001)が先行きを案じると、繰耶は遠い目をして答える。
「大丈夫よ、こんなに引いてるんだから……」
 心の中でシエロに敬礼した後、繰耶はハウンドたちの掃討の援護を始める。駅舎の3人と入れ替わるようにArcardは駅内に後退した。
「うろちょろと……纏めて潰してやりますわ! 道長さん、佐恵さん、私のほうに誘導を!」
 新人2人に向け、日和は連携支持を出す。
「わっかりました!」
「や、やってみます……」
 道長はブレイブソードを振り回し、何体かを追いこむ。駅舎内ですでに似たようなことを経験した佐恵も的確にハウンドの移動先に射撃。
「ご協力感謝致しますっ」
 自分の周囲にハウンドが追われてきたところで、日和は怒涛乱舞を繰り出す。道長らが追い立てた敵を一網打尽。
「一人当千の兵者なりや! ですわ」
 新人の動きもだいぶこなれてきて、敵の数は目に見えて減った。このままなら間もなく事件解決。
 そう思った時だ。

(「……増援2体、日和」)
「あら? まだまだ楽しめそうですわね」
 外域から大きなモノが駆けてくる。2体。戦場中央に到来。
 外見はハウンドと類似しているがサイズが違う。威風まとう姿に、エージェントたちはそれがワンランク上の敵だろうことを悟る。
「……みーれす級?」
 1週間先輩の椋実だけは気づかずにぼーっと敵を眺めていた。
(「あほか! 雰囲気違うだろうがっ! もっと上だ! ムクじゃ手に負えんぞ!?」)
「……だいじょうぶ……きょうりょくだいじって習った……」
(「どーすんだ!?」)
「……足止めやる……」
 椋実は潜伏を発動させ、従魔たちから身を隠す。
「さすがにあれ相手じゃ厳しそうですね、素直に合流しましょう」
 推定デクリオ級の敵を前にしたレオは、一旦引いて味方と合流するべきだと道長に促す。しかしここまでで戦えるという実感を得た道長は、前に出た。
「あっ! 道長さん!?」
「従魔を倒すのが俺たちの仕事でしょう!」
 レオの制止も聞かず、道長は駆け出し、大口を開けた従魔・ヘルハウンドに突っこんでいく。
 だが。
「っ!?」
 即座に伸びた手が、道長の襟首を引っつかんだ。クレアだ。襟が喉を絞め、道長は一瞬狼狽する。
 その道長の眼前、燃え盛る。ヘルハウンドが吐き出した炎。クレアが止めていなければ無事では済まなかった。
「バンディケットさんの言うように、あれはあなた1人で対処できるものではありません。ミーレス級ならばともかく、あのレベル相手では死に直結します。貴方だけではなく味方もです」
 危険をその身に感じ取った道長にクレアが強く迫る。その真剣な目を見て、逸っていた道長も押し黙る。
「落ち着きましょう。それができれば、貴方の積極性は武器になりますよ」
 一転してクレアの表情は柔らかい。諭すように、長所はそのままに、締める所は少しだけでいい。
 静かな言葉は胸に染み入り、道長は大剣を下ろして手で合図する。もう大丈夫だと。クレアは襟を握っていた力を緩めた。
 2体のヘルハウンドが猛炎を撒き散らす。飛び退くも火は道長の足先に移り、侵食。
「放置しては面倒になりそうだ」
 クリアレイの光。クレアの対応により道長を襲う炎は沈静化、被害は小さい。
「私の役目は仲間を癒し、守ること。それを頼りに仲間は別の役目を果たす。それがチームで戦うということです。そしてあなたたちもその役目を負っている」
 道長と佐恵に、クレアが伝える。それぞれが役目を果たすことが肝要であり、2人もその一部。
 チームの一員としての責任を胸に、仕事の締めくくりに取りかかる。
「道長さん、連携して攻撃を叩きこみましょう!」
「じゃあ俺が先にいきます!」
 レオの提案を受けていち早くヘルハウンドに突っこむ道長だが、もう危なっかしさは薄れていた。渾身のヘヴィアタックを振り下ろすと、レオの動きを頭に入れて、続けて攻撃しやすいように素早く身を避ける。
 道長が斬りつけた部分へ、レオが追撃。敵は低い唸り声をあげる。
「こう交互に叩き込めば隙が出来るはず! みなさんも重い一撃をお願いします!」
 呼応し、2発の銃弾。光る弾道がヘルハウンドの胸部を抜く。
 繰耶と佐恵の援護射撃。佐恵ももう引き金を引くことを躊躇わない。敵を倒し、連携もこなせた事実が彼女の自信になっている。
「素晴らしい、呑み込みが早い。自分のできること、すべきことが見えてきたようですね」
(「ふふ、将来有望ね、クレアちゃん」)
 吠え立てるヘルハウンド。再度の開口。
「炎が来ますわ!」
 日和の警告。敵の頭の動きを見て、全員が避ける。
 だが回避先。道長の跳んだ方向から、ハウンドが跳びかかってきた。まだ奴らも残っている。
「やば……!」
 噛みつかれることを覚悟。身をこわばらせる。
 刹那、空間から1発の弾が飛来。ハウンドを撃ち落とす。
「にひひ……新技が役に立ったねえ♪ 怪我はなーい?」
「あ、ありがとうございます、えと……シエロ……さん!」
 道長を救ったのは、シエロのテレポートショット。(良いところを見せるため)新人への援護・気配りに余念はない。すでにちょっと引かれていたとしても。
「何か反応が……ウチ怖がられてる?」
(「……どんびき?」)
 うわああーん。ほろりと涙を落としながら、シエロはますますダークサイドへ堕ちていくのだった。
 レオや道長らが攻めたヘルハウンドは消耗し、後はトドメの一押し。
 機を見計らっていた椋実は遮蔽物の陰から飛び出し、頭部にジェミニストライクを叩きこむ。不意打ちに敵は怯み、好機到来。
 皆に促されるように、道長が振りかぶる。
 全力のオーガドライブ。大剣がヘルハウンドの首を飛ばす。
 1体撃破。強敵を己の手で。
 強く、道長は拳を握った。
 片割れを失ったデクリオ級は、暴走。抑えていた日和やクレアを振り払い、駅舎へ一目散に駆けていく。中に避難していた人々のライヴスを狙っているのかもしれない。
「こっちへ来るか。じゃあひとつ先輩として格好良いところを見せておこう」
 駅舎に待機していたArcardが、迫りくるヘルハウンドに立ち塞がる。その腕に着けるはグラビティゼロ。彼女独自の再設計がなされたものだ。
 眼前にむき出しの牙。だが牙に喰いつかれることを意にも介さず、Arcardはライヴスリッパーを当てて敵の意識を刈る。
 立て続けに追撃。ヘルハウンドを襲う。
 潜伏していた武之がレーヴァテインで足を斬りつけ、シエロと繰耶が背面に弾丸を撃ちこんだ。痛みによって強制的に意識が揺り起こされる。
「さよならだ」
 伏したヘルハウンドの首の後ろに、グラビティゼロの先端。押し当てる。
 ライヴスブロー。杭の先でライヴスが迸り、爆発。首の内部から爆砕し、断ち切った。
 わずかな時間の出来事。
 鮮やかな手並みに、道長と佐恵は自分たちがまだまだ皆には及ばないのだと実感した。

 数体残ったハウンドも程なく駆逐し、新人たちの初依頼は無事に終わる。

●依頼を終えて

 戦闘終了後、現場にはにわかに安息が戻ってきた。Iriaが気ままに市民に甘え倒して、愛嬌を振り撒いているのも一役買っている。無垢な猫っ子の癒し効果は絶大。
「だい、じょうぶだった? わたし椋実……1週間だけせんぱい……」
「体は丈夫なんで!」
「私も怪我ないです……」
 おずおずと、椋実は道長と佐恵に話しかけた。
「仲良くしてやってくれな!!」
「あーもうあっちいってて……!」
 頭を乱暴に撫でてきた朱殷を追っ払い、椋実は話を続ける。
「ミチナガ……サエ……一緒に、頑張ろう……ね……?」
「こっちこそよろしくです!」
「はい、頑張り……ます」
 追い払われた梟がにゅっと顔を出す。
「こいつさ、友達いないんよ。頼むなっ!」
「朱殷ーー!!」
 それは言われたくなかったのに。顔を真っ赤にして、椋実は逃げる朱殷を追いかけ回す。
 苦笑しつつ椋実を見送る道長に、背後から一声かかる。レオだ。
「道長さん、従魔を倒すのに逸っていましたが、今はどうです? 助かった皆さんが笑顔でいてくれます。それだけでも嬉しくないですか? 少なくとも僕は嬉しいです!」
 Iriaとじゃれ合う人々の微笑ましい光景を指し、レオが問うた。
「はい、俺も嬉しいです!」
「ですよね!」
 隣から、ひょっこりフォルドが頭を出して。
「とか言いながら暴れたいと思ったんだよな~レオ!」
「フォルド! そんな事ないと何度言ったら!」
 逃げるフォルドに追っていくレオ。何これデジャヴ。道長も佐恵もくすりと笑っている。
「お疲れさんだね。また、あんたらと依頼で一緒になるの楽しみにしてるよ」
 笑う2人の肩に繰耶が腕を回す。いつか彼らと肩を並べて、そんな日を心待ちにして。
「H.O.P.E.は人が足りない。ですから期待していますよ」
 クレアとリリアンが会話に加わってきた。彼女の手には2枚のメモ用紙。新人たちが出来たこと、学ぶべきこと、今回の仕事の総評を記してある。
「不測の事態でしたが、上出来です。またどこかでお会いしましょう」
「さようなら、くれぐれも命は大事にしてくださいね」
 言葉を添えて、2人に手渡す。
「またどこかで!」
「いつか……また……」」
 ではお開き。と皆が解散しようとした時。
 ちょっと待ったー、と声がかかる。日和だ。
「皆さん帰ってしまわれるつもり? お疲れ様と反省会ですわよ! 勿論私が奢りますわ」
 ふふーんと胸を張る日和。奢りと聞いて、朱殷やレオたちがダッシュで戻ってきた。
「パーティーなんだよ、武之!」
「違うだろ……」
「奢り……よーしヤケ食いしちゃおう!」
「……太る?」
 天使の一撃、シエロは死んだ。
 咽び泣くシエロを皆で抱えて、一行は軽い打ち上げに向かうのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162
    人間|24才|女性|回避
  • 御旗の戦士
    サイサールaa2162hero001
    英雄|24才|?|ジャ
  • 今こそ我が刃を以て
    レオ・バンディケットaa3240
    獣人|16才|男性|攻撃
  • エージェント
    フォルド・フェアバルトaa3240hero001
    英雄|13才|男性|ドレ
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • 巡り合う者
    椋実aa3877
    獣人|11才|女性|命中
  • 巡り合う者
    朱殷aa3877hero001
    英雄|25才|男性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る