本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】見舞うものたち

布川

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/04/25 16:07

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.総合病院
 清潔な消毒液の臭いが、あたり一面に立ち込めている。
 病院は、良くも悪くもエージェントたちにもなにかと縁が深い場所である。自分自身の治療のために、または、友人や同僚、あるいは依頼で出会った被害者たちの見舞いのためにと、エージェントたちは病院を訪れる機会も多いことだろう。……たまには、捕らえた治療中のヴィランを尋問するような任務もあるかもしれない。

 ここは、香港にあるH.O.P.E.が多く出資する総合病院のひとつである。

 あなたたちは、用事があって病院を訪れた。それは受診のためなのかもしれないし、ひょっとすると入院中なのかもしれない。あるいは、HOPEの任務だろうか。

「ふざけるなよ!」
 病院の中にいるあなたたちのもとに、――誰かに怒鳴りつける、男の怒声が耳に入った。

●暴れる男
 声を荒らげていたのは、古龍幇の構成員。……まだ若い男だ。おそらくは、重傷を負って、病院に収容されていたうちの一人だとわかる。
 少年は、自分の英雄につかみかかる。
「もう協力できないってどういうことだよ!」
『落ち着いたら、……いずれまた相談しよう。……それよりも、今はケガを治すことに専念しよう』
「なんで……」
 そこで、騒いでいた男はあなたたちに気が付いた。かっと頬に血が上る。HOPEのものたちだと判断したのだろう。
「てめえら!」
 力なくつかみかかろうとするが、けががひどいようで、男は何もしなくとも崩れ落ちた。
「お前らのせいで。お前らのせいで……」
『すまないな』
 英雄が一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「どうして……」
 男は、あなたたちをにらみつける。
「どうしてそいつらに謝るんだ、春旭(チュンシュ)……」
『いずれ、分かる』
「俺は、”いずれ”なんてムリだ。今すぐにでもボスのところに行って、俺は俺の責務を果たす……なんなら、今、ここで、やりあうってのも手だな、なあ?」
『……』
 この男は、何かを焦っている。

解説

●目標
 峯を説得して、おとなしく治療を受けることに同意させる。

●登場
峯(フェン)
 古龍幇の若き構成員。正面からの戦いを好む。第一次作戦で深手を負って、つい先ほどまで意識を失っていた。相棒の春旭にそれとなく契約を破棄することを勧められ、能力者としての危機を感じている。
 クラスはブレイブナイト。カッとなると手が付けられなくなるところがあるが、根は素直。
春旭(チュンシュ)……峯の英雄
 峯の英雄。長い黒髪を持つ。思慮深く、何かと先走る相棒を支える。今回の一件については、事情を知っているようだがかたくなに口を閉ざしている。心の底から峯のことを思っているが、無口がちで自分で出した結論のみを述べることが多い。
友明(ヨウミン)……峯の親友
 峯の唯一無二の友であり、クラスはシャドウルーカー。作戦中、峯と行動を共にしていたが……?

●場所
香港のとあるHOPE総合病院。

●背景
 峯は通信センターで通信断絶が起こっていた際、前線に出て小競り合いを起こしていた構成員だ。彼には無二の親友と呼べる『友明』がいた。
 峯は、乱戦の際に深手を負って意識を失い、その際、体のコントロールを英雄にゆだねた。目覚めてみると、親友の行方が知れず、英雄も事情を明かしてはもらえない。

 現在、峯はHOPEが卑怯な不意打ちにより友明を殺害し、春旭が友明の死を隠しているのではないかと疑っている。

●ヒント
・春旭は峯のダメージを肩代わりした結果、背中から首筋にかけて大きな傷を負っている。
・峯は友明が組織や自分を裏切ることは絶対にないと思っている。
・峯は、末端の構成員であり、多くの情報を知らない。
・この一件以来、峯の英雄は、共鳴して戦うことに非協力的である。
・友明の消息をHOPEに尋ねると、峯以上の深手を負い、別の施設に厳重に収容されているということがわかる。

リプレイ

●H.O.P.E.からの依頼
「おまえ、ケガしてるんじゃないか」
『……ここは病院ですから』
 赤城 龍哉(aa0090)が話しかけると、春旭は僅かに身をすくめる。
『軽いケガではなさそうですわね』
 立ち振る舞いから、酷いケガを負っていることがわかる。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は目を伏せた。

 ほどなくして、H.O.P.E.からエージェントたちに依頼が舞い込む。依頼の内容は、先ほど騒動を起こした古龍幇の構成員、『峯を治療に同意させること』。
 峯と春旭が、不知火 轍(aa1641)のすぐ側を横切った。至近距離だったが、峯と春旭は気配を消した不知火には気がつかない。
 面倒事の予感を感じ、不知火はいっそう気だるげな表情を浮かべる。
『やるのでしょう? シャンとなさい!』
「……チッ」
 雪道 イザード(aa1641hero001)に発破をかけられ、彼は仕事にとりかかることにした。

「峯さんは治療を一切拒否して、たびたびトラブルを起こしているらしいね」
『なんとか説得して治療に専念してもらうのが、わたくしたちのお仕事というわけですね』
 クロード(aa3803hero001)は世良 霧人(aa3803)の言葉を引き継ぎ、生真面目に頷いてみせた。
『春旭様は何を隠されているのでしょう? 峯様に知られてはならない事があるのでしょうか』
「このままじゃ説得は難しそうだな。説得の材料を集めないと……」

 九龍 蓮(aa3949)とその従者、月詠(aa3949hero001)は、見舞いと九龍の定期検診のために病院を訪れたところで騒ぎに出くわした。……もちろん、騒動の際、月詠が九龍を庇うように立っていたのは言うまでもない。
「……麻煩」
『そんなことおっしゃらずに。やり切って、家主の彼に褒めてもらいましょう』
 従者の言葉に、主は素直に頷いた。

 事の成り行きは、きっと悲劇だ。
「どうしたら、治療受けてくれるかな……でも、真実はきっと……」
「心配ありませんよ、マスター。……先ずは、準備をしましょう」
 痛ましげな表情のナガル・クロッソニア(aa3796)を、千冬(aa3796hero001)が励ます。
『……知らない方が良い事も、きっとある』
「そうだね。でも、知らないままで多くを失うのは、きっと苦しいよ」
 木霊・C・リュカ(aa0068)がオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に言う。
「やれるだけのことは、やってみましょう」
 しっかりと背を伸ばす紫 征四郎(aa0076)。その眼には、年齢に似合わぬまっすぐな決意が宿っている。
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は、紫から幻想蝶を受け取った。木霊は紫の頭にぽんと手を乗せる。

「手間だな。手足の二本や三本、使い物にならなくしてやれば嫌でも治療するだろうに」
『てめぇ、それ他の奴らの前で絶対言うなよ』
 古海 志生(aa0446)は人知れずぼやく。椒圖(aa0446hero001)が釘を刺すが、古海は気にしていないようだ。
 古海は冷徹な男だ。――それは、合理的ということでもある。それぞれに自分のやり方があるように、彼にも彼のやり方がある。

 こうして、エージェントたちの任務が始まった。

●見舞う者たち
 エージェントたちが病室に入ると、峯はいきり立ち、春旭は顔をこわばらせて身構える。
「何しに来たんだ、てめえら」
『峯』
「これ、お見舞いなのです」
 紫はチョコマカロンとH.O.P.E.まんを差し出す。予想外の手土産に、峯は勢いをそがれたようだ。
「いらねえよ、そんなもん」
 そう言われても、紫は引かない。しばらくの無言の押し問答の末、ついに峯が折れたようだ。春旭が小さく礼を言って包みを受け取る。
「何しに来たんだ、お前ら」
「お話しあい、かな」
 含意の感じられない、穏やかな口調。木霊はそう言って、あたりを見回す。ガルーが意を察して窓を少しだけ開けた。
「春旭さん」
 ナガルは、小さな声で春旭を呼び止める。
「どうか、私達に本当の事を教えてください。このままじゃ、峯さんも納得できないでしょう?」
『……』
「私達にだけ、でもいいです。……峯さんの事を思うなら、どうか」
『峯。少し、一服してきます』
「おい、なんのつもりだ!?」
 峯は立ち上がる。
「ここでやりあうか。それもいいかもしれねぇな」
 赤城は敵意を言葉に乗せず、まるで日常会話のように言った。
「怪我人が自覚せずに動き回って、周囲に迷惑を掛ける。今回迷惑を掛けるのはお前のボスになりそうだが」
 図星なのだろう。峯は顔を赤くした。
「それでも動きたいって事なら、示せよ。実際に」
 峯は、赤城に掴みかかる。

 勝負は一方的なものだった。
 赤城は、峯の攻撃を難なく受け流す。――まるで相手にされていない。こちらをいたわる様子すらある。
 このままでたまるか。峯が捨て身で放った一撃。
 結果は。
 あっさりと床から赤城を見上げることになった。
「気が済んだか。それじゃ寝ろ。まず怪我をきっちり治すんだな」

●カルテの中身は
「組織の人間にも聞きました。しかし、現場に居たあなたたちであれば、何かしら詳しいところをご存じではないかと思いまして」
「ああ?」
 二人の古龍幇と相対するは、九龍と月詠。
「おい、待て、こいつは……」
 九龍 蓮――ともすれば10代前半の子どもにも見えるが、中国マフィアの頭領である。名目上の地位とはいえ、その影響力は決して侮れるものではない。
 しかし、目の前の男は古龍幇に入ったばかり。
 男が何か口にした。
 次の瞬間、男は床に伏して気絶していた。
「な、なにが起こった?」
「蓮の侮辱でなくて、良かったですね」
 月詠は、その唇に妖艶な笑みを浮かべ、もう一人の方へと歩み寄る。
「じっくり聞かせてくださいね」

 名前が挙がったのは、友明という男。
 九龍らから連絡を受けた不知火は、さらに詳しく調べにあたる。彼もまた、先の一戦から行方不明。峯は病院に入院しているのであるが、友明はまた別の場所にいる。
『さて、どうしますか?』
「……友達なら行き付けの店はあるだろ、僕だったら友人との行きつけの店はある」
 雪道の尋ねに、不知火は答える。不知火は、慣れた様子で背後にある事情を紐解いていく。

「春旭の方には話したかもしれないが、峯の容態は実際どうなんだ?」
 彼らのケガが気になった赤城は、峯の担当医師に話を聞くことにした。
 医者の話によると、ケガの状態はかなり悪い。治療も拒否しているとなれば、古龍幇に復帰するのも難しい。その上。
(治療をしないと、いずれ、命に関わる……か)

「友明が収容された理由は、……”自死の恐れがあるため”……」
 オリヴィエは、首尾よく作戦に参加していたエージェントを見つけると、話を聞きだす。あの時、何があったのか。

「……こっちも調べが進んだところだ。ところで……いや」
 不知火は、赤城から彼らの容体を伝え聞くと、どこかほっとしたように通話を切る。顔には一切出てはいないが、雪道は、彼の不器用な優しさを理解している。
『心配なら聞けば良いのに……貴方って人は』
「……五月蠅いぞイザード、必要がないから居ないんだ……僕が居たら休まらないだろう
『そういうものですかね?』
「……そんなもんさ」

『作戦の最中、古龍幇の連中は内部から戦線を崩されたようですね』
『H.O.P.E.のエージェントも同じようなことを言っていたな』
 九龍らとオリヴィエの話は一致している。
「……峯は、いつも友明と行動を共にしていた」
 ということは。
「彼が峯達を裏切って、背中から攻撃した、のかな」
 木霊は真剣な表情を浮かべる。
「峯さんが殺されそうになった所を、春旭さんが庇ったけれども、両方大怪我してしまって……別施設に移されているのは、彼がもう話せる状態にないから?」
 ナガルの予想は、的を得ているように思える。
「春旭はその傷を肩代わりし、峯を傷つけないために友明が裏切った事実を抱えたまま消えようとしている……のかもしれないね」
「……友明は、最近、様子がおかしかった。……”友明”はマガツヒの構成員だ」
 辺りを一瞬沈黙が支配する。
「……峯が焦っているなら、利用しよう。……人間、焦ってる時が一番素直なもんだ、英雄もそんな相方を放っておけないだろ?」
『自分なら堪らず口を出してしまいますね』
 不知火の言葉に、雪道は少しだけ笑みをこぼした。
「……お前だからだろ」
『そうでもないですよ』
「……そんなもんかな。……っと、そんな感じ、英雄って結構過保護なもんだよ、僕の所だけだろうけどな」
『心外ですね』
「黙ってろ」
 心当たりのありそうな能力者があるいは英雄が、なんとなくパートナーの方を見た。
「話せば解決するが、色々と救いがないのでもう少し時間を置きたい」
 赤城は正々堂々の真っ向勝負である。
『ぶっちゃけすぎですわ』
「ま、気遣いが出来るってのは悪い事じゃないんだがな」
 沈痛な空気は、いつのまにかなくなっていた。希望はある。
「とにかく……お話してみないといけないみたいですね」
「マスター、私は友人の方を訪ねてみようかと思います」
「ちーちゃん、……気を付けて」

●傷心の治療
『あいつの事は信用するなよ』
 椒圖はそういい置き、病室を出た。
「なあ。お前なら何か知ってるんじゃないか」
 古海はふっと口を開く。
「貴方の友人は生きている、が、今の貴方には会わせられない」
「!?」
「どうすれば会えるか? こっちは何度も言ってるではないですか。治療を受けろ、と」
 古海は淡々と峯に告げる。物腰こそ丁寧だが、感情がこもっているわけではない。
「うそ、だろ?」
「俺は卑怯な人間ですが。嘘はつきませんよ」
 考えが読み取れない。迫力。すべて切り捨ててしまいそうな。
 耐えきれなくなって、峯は自分から目をそらした。

 しばらくすると、椒圖が包帯を持ってきた。椒圖と紫が峯に手当てを試みる。
『包帯を替えるくらいさせろよ、お前もそのままだと気持ち悪いだろうが』
「だれかが怪我したときは、こうするものなのですよ」
 振り払おうとする峯だが、紫は身構えすらしない。
「ちゃんと治してくれたら相手するのです。共鳴しなくたって、フェンには負けないのです」
「言ってくれるな」
「入院していて知らないかもしれませんが、H.O.P.E.と古龍幇は停戦、しているのです」
「……」
「信じて、というのは難しいかもしれませんが。フェンも少しだけ一緒に考えてほしい、です」
 紫は時折思案顔をしながら、てきぱきと包帯を巻いていく。誰かに教わったのだろうか、と峯は思った。
「ヨウミンはどんな人だったのですか? チュンシュはどんな英雄?」
 峯は、ぽつりぽつりと話し出す。紫は真剣に聞いている。
 孤児である友明といつもつるんでいたこと。春旭と出会い、古龍幇に拾われて、師に礼儀を叩きこまれたこと。
「春旭は、いいやつなんだ。でも、一人で……なんでも決めちまう」
「ガルーも大事なこと、征四郎にいっぱい隠してるのです。だからそれが悔しい気持ち、少しわかるのです」
 紫は、じっと峯の瞳をのぞき込む。
「でも、だからって今のままで、いいのですか? チュンシュは今もフェンの為に、「黙ってる」のかもしれませんよ」
「その気になれば、誓約はすぐに切ることができたはずだよ」
 春旭にも、少なからず躊躇いがあるのだろうか。
「せっかちな男はモテないよ! ……少し、待ってあげて。少なくとも、春旭は誰より君のことを考えてる。君が呼んだ英雄だ。信じてあげなきゃ、男じゃないよ」
「俺が、呼んだ……」
 峯は息をのむと、何かを決意したようだった。

●閉ざした口は誰のため
「春旭さんは、とても峯さん想いな方なんですね。だから、体にも心にも傷を残したくないと思われているのではないですか?」
 押し黙る春旭に、世良は辛抱強く接する。
「単刀直入に聞きますけど……、貴方達の背中を斬りつけたのは友明さんなんですか?」
『そこまで……お願いします。彼には黙っておいていただけませんか』
『今回の件は、お前さんが黙ってるが故に不信を買ってるとこもあるんじゃねぇ?』
 ガルーの言葉に、やはり春旭は言葉を返すことができない。
『共鳴するとばれてしまうのが怖いか? それとも、自分が友明を傷つけたからか?』
『……』
『それは紛れもなく、峯の為なんじゃねぇのか』
 しばらくの沈黙。
『自分の、ためなんです、きっと……』
(多分こいつは突っ走れない。でも多分、このままじゃ届かないままだ。自分の気持ちだけでも、何でも、伝える必要がある)
 ガルーは思う。
「春旭は、峯、嫌い?」
 九龍の尋ねに、春旭は首を横に振る。
『嫌いでないなら、話すべきです。「嘘だ」と言われても、あなたの口から話すことが大切だと思いますよ。それでも、無理でしたら、私たちが代わりに彼に話しましょう』
『……峯が一番納得できるのは、春旭からの言葉だ。それは変わらない。だから、あんたが抱えたままだと、先へ進めない。峯は友明に二度と会えない。全部が峯を蚊帳の外に置いたまま、終わる』
 オリヴィエが言う。
『それは駄目だ。春旭のその選択は、あいつのこれからを全て壊してしまう』
「黙っていても伝わる、とかやり過ごせると思うのは甘えだ」
 赤城はまっすぐに春旭を見ている。
「正直に伝えるのも大事だよ、心の切り替えってーの? ……ま、そんなんには正直に伝えるのが一番さ」
『珍しいですね、直球勝負ですか』
「……ま、ヒト、相手なら直球が、良い」
『……峯が、それを望むのであれば……』
 春旭は、ゆっくりと顔を上げた。
『ところで、峯様は何か焦っている様子でいらっしゃいましたが、何故なのか、ご存知ではございませんでしょうか?』
 世良の言葉に、春旭はわずかに言いよどむ。
『彼は、……うすうすは分かっているのです。友明がなんであったか、彼が、古龍幇になにをしたのか……』
「友明さんについて、知っている事を教えて頂けませんか?」
『……きっと、良い思いはなさらないと思います……』

●友明
 不知火らと千冬は、友明を追って収容施設を訪ねていた。
 ものものしい収容施設は、先ほどの病院とは何もかも違う。5分だけ、という約束で、エージェントらは面会を許された。
「……気を付けろ」
 不知火の忠告に、千冬は頷く。
「やあ……誰かな」
 友明は厳重に拘束されていた。目隠しをされたままだ。
「峯という人物をご存知ですか?」
「峯か……」
 友明の言葉に、懐かしそうな響きがにじむ。しかし、どこか底冷えするような冷たさをはらんでいる。
 エージェントたちは慎重に顔を見合わせる。千冬が相手の出方をうかがいつつ、――切り出す。
「今、貴方の親友は治療を拒否している状態です。このままだと、彼は死ぬでしょうね」
「死ぬ……? ははは、はははははは」
 友明はけたたましく笑い出す。
「峯さんは貴方を心から信頼していた……それを狙っての行動、ですか?」
「……峯はね。いや、春旭は、理解しなかったんだ……峯は……峯は……」
「あなたはマガツヒ、なのですか?」
 友明はにやりと笑った。
「どうだろうか、所詮、僕なんかは模倣犯に過ぎない、彼らはもっと――あ、あ、あ」
 男はもがき苦しみ、ついには暴れ出す。職員が慌てて押さえつけると、鎮静剤を打った。

 ”マガツヒ”。
 決して分かり合えないものたち。
「……戻ろう」
 彼らは、収容施設を後にした。

●真実
 病室には、春旭と友明。
 木霊はゆっくりと話し出す。
「事情は、だいたい、分かってるんだ。彼が黙っていても、俺たちから説明しようと思ってる。信じてもらえるかどうか、分からないけどね。ただ、このままだと、別施設への移動になる可能性もあるんだ」
 千冬から連絡を受けたナガルは、……唇をかみしめる。
「そのまま出ていったとして、あなたのしたい事は絶対万全にはできません!」
「おい!」
 峯は意表を突かれたように立ち尽くす。
「春旭さんの思いを、どうか無駄にしないであげてください……」
「……なんだよ、そんなに、酷い話なのか」
 春旭は暗い顔をしている。
「もし、耐えられそうにないなら、貴方が回復したら、必ず真実を話します。だから今は、治療に専念して下さい。けれど……」
 準備ができているなら。
 峯は長いこと黙り込み、ようやく口を開いた。
「しばらく、考えさせてほしい」
 一人、また一人とエージェントが出ていく。
「聞くんですね?」
 最後に病室に残ったのは古海だ。峯の返事を聞くと、同じように病室を出る。やるべきことはやった。彼は、事実の如何には興味がない。
 一足先に任務を完了させ、彼は病院を去って行った。

 それから、長いような短いような時間が経った。きい、と、小さな音を立てて扉が開く。
「覚悟が決まった、治療はちゃんとする。……どんな不都合なことでも受け入れる。だから……。話してほしい、春旭」
『分かりました』
 春旭は、ぽつりぽつりと話し出す。友明が、危険な思想に感化されつつあったこと。彼が裏切ったこと。後ろから斬りつけられて、春旭は咄嗟に反撃したこと。お互いに深手を負ったこと。
「そんなはずない! そんな、はず……」
 案の定、峯は取り乱す。
「春旭! 本当のことを言ってくれ! ちくしょう、H.O.P.E.が、こいつらが、お前に、嘘の情報を……!」
 ぱん。
 平手打ちの音が響いた。
「……キミ、命預けた、友達、…信じられない?」
 九龍の言葉に、峯はゆっくりと膝をつく。涙が一筋、頬を流れていった。
「チュンシュが守ったフェンの明日を、ここで無駄にしてはいけませんよ」
 峯は震えだし、その場で泣き出した。

●エピローグ
『命にかかわる重症だったとは思えませんわ』
「こういう事もあるさ」
 峯が目覚ましく回復したのは、説得により、おとなしく治療を受けるようになったからだ。一時的にではあるが、退院しても良いという許可まで出た。
 何人かのエージェントが、2人の見舞いに訪れている。
 紫が持ってきた花を、春旭が部屋に飾る。水滴が、鮮やかな花びらの表面で輝いた。
「元気になったようで、何よりです」
 ナガルはほっとしたような笑みを浮かべる。
「色々と世話になった。いまだに受け入れ難いところはあるが、不思議だな。これからのことを考えるようになった。今日はどうした?」
『蓮がやりたいことがあるそうで』
 九龍は2人に歩み寄ると、峯と春旭の手を握り合わせる。
「是、和好!」
 二人はぎこちなく向かい合って。
 はじめて、少し笑った。
「そう言えばお前の顔、しばらくまともに見てなかったなあ」
 春旭は気恥ずかしそうにして、幻想蝶に引っ込んでいった。
「あいつ、人見知りするんだよな」
『最初から友明殿が敵だったとしても、峯殿と過ごす時間は楽しかったのでは?』
 月詠は峯に向かって、語りかける。
『だから、重傷を負わすことはできても、殺すまでには至らなかった。逆にあなたになら殺されてもいいとまで思ったのかもしれませんね』
「……」
 峯はじっと自らの手を見つめる。
「お茶」
 九龍が淹れた、あたたかい、良いポーレイ茶の香りが病室に満ちる。
『蓮の淹れる中国茶はそれはもう絶品なんです』
 月詠はさぞ誇らしげだ。
「おい、もう一回出て来いよ、春旭」

 病室のカーテンが、さわやかな春風に吹かれて揺れていた。辛い事実ではあったけれど、彼らは前へ進める。
「なあ、ありがとう」
 小さな声でつぶやかれたお礼は、エージェントたちに聞こえたかどうか。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    古海 志生aa0446
    人間|27才|男性|生命
  • エージェント
    椒圖aa0446hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • 任侠の流儀
    九龍 蓮aa3949
    獣人|12才|?|防御
  • Knight of 忠
    月詠aa3949hero001
    英雄|24才|男性|バト
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