本部

桜の下で会いましょう

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/04/22 19:26

掲示板

オープニング

●おかしな出会い
 4月。
 新たな門出を迎えた若人たちが、桜の開花とともに新生活を夢見て、期待に胸を膨らませていることだろう。
 同時に、先に世間の荒波を知る人生の先輩たちが次世代を歓迎し、新たな社会の担い手を育てようと気合が入る時期でもある。
 そして、ここにも真新しいスーツに身を包み、とある会社に就職した新入社員たちは、上司の命令で初仕事に駆り出されていた。

「それではぁ! 新たな仲間とわが社の発展を祝して!」
『乾杯!』

 ま、ただの花見ではあるのだが。
 新入社員の歓迎会の名を借りたただの飲み会は、上司の音頭を皮切りに昼間から始まった。
 東京でも緑が豊かで、自然が残った地域。桜が並ぶ河川敷の一角は、すぐに彼らの宴会場と化す。
 桜の名所、と呼ばれるには少し弱いが、それでも地元ではちょっとした花見スポットで、数十名の社員たちはいくつかのグループに分かれ、景気よくアルコールを煽っていった。
 また、花見は別の桜の木でも行われており、すべての桜の木は少なくとも10人以上の人が囲んでいる。どのグループもお花見を満喫していて、人々の笑い声であふれていた。
「……ん?」
 酒の弱い参加者が、赤ら顔になり始めた頃。
 元々酒があまり飲めず、緊張でなかなか輪に入れなかった新入社員の1人が、ふと、何かに気付いた。
「……え?」
 早朝に場所取りのために敷いたブルーシートの上で、誰かが買ったらしい黒い『かりんとう』が、くるくるとダンシングしていたのだ。
 でも、待てよ?
 見間違いでなければ『これ』、上から落ちてはこなかったか?
 誰かが酔っ払って放り投げたのか? と思いつつ彼は周囲を見渡して、上を見た。
「あ……」
 口をポカンと開けて、見た。
 空から舞い降りる、大量の『かりんとう』を。

●喜劇? 悲劇?
「……い、依頼、です」
 招集に応じてエージェントが集まる中、女性オペレーターは依頼の説明に入った。しかし、その表情は固い。というより、引きつりがひどい。
 誰もが疑問符を頭に浮かべる中、オペレーターは意を決して口を開けた。
「場所は、東京でも都市部から外れた地域の、桜が綺麗な河川敷です。名所と呼ぶには小規模ですが、地元では定番かつ人気のお花見スポットなのだとか。事件当日は平日の昼間でしたが、すべての桜の下で別々のグループがお花見をしていたくらいには、地元から人気の高い場所のようです」
 説明の途中だが、若干場の空気が緩む。
 現地へは仕事で向かうとはいえ、満開宣言が出されてすぐに桜のある場所へ行けるのだ。それ故に気を抜くつもりはないが、明らかな戦場よりは余程いい。
「そ、そして、皆さんにお願いしたいのは、そこに出現した従魔の討伐、なんですけど……」
 しかし、呑気なことを考えられたのは、ここまで。

「従魔が憑依していると思われるのは、その、『毛虫』だ、そうで……」

 空気が死んだ。

「え、っと、事件が発覚したのは昨日。正午から地元の中小企業が新入社員の歓迎会と称して、数本の桜の木の下にわかれて集まっていました。すぐには何も起きなかったそうですが、およそ15分後、1人の男性新入社員が、ブルーシートで暴れる、『それ』を、見て……」
 え、何それ、嫌な予感しかしない。続きとか聞きたくない。
「不審に思った彼は、見ちゃったんですよ、上」
 全員に悪寒が走る。

「その瞬間、し、視界いっぱいに広がる、真っ黒な、『あれ』が……っ!」

 ひいぃっ!
 誰かが声なき悲鳴を上げた。
 後はもう、お察しである。
「すー、はー。つ、続けます。他にお花見をしていた場所でも、わずかな時間差で合計10か所に同様の現象が発生しました。当然ながら現場は大混乱。特に、第一発見者だった彼は、正面から『それ』を見てしまった上、反射的に口が開いていたらしく……、すみません、私の口から、もう……」
 あ、違った。察した予想よりなおひどい。
「彼はもちろん卒倒。他の人たちも、『あれ』の突然の出現でパニックを起こしたり気絶したりした人がいて、すぐに救急車が呼ばれました。ほとんどの人はすぐに落ち着いたのですが、大参事だった彼を含めた10人程は数時間ほど意識が戻りませんでした。詳しく調べてみると、原因はライヴスの減少による意識混濁だったようです」
 ここで従魔の話がやってきた。
「幸いにも、ライヴス減少のおかげでその10人には当時の記憶がなく、現在は心身ともに異常はありません。被害状況からして従魔の力は低いようですが、すでに一般人への被害が出ている以上見過ごすわけにはいきません」
 それは、そうだ。
 今は力が弱くとも、放置してしまえばこれ以上の被害が起きるかもしれない。
 いずれ排除せねばならないことは、わかっては、いる。
 でも、『毛虫』、かぁ……。
「また、今回の一件で長年愛されてきた河川敷から住民が離れてしまうのは困ると、管轄だった市より『毛虫』の排除をお願いされました。従魔の関与が濃厚であるため、H.O.P.E.が適任と考えたそうです」
 最後にもう1つ、と続けるオペレーター。
「地元住民に広まりつつある悪評を消すため、従魔討伐後にお花見をして欲しいそうです。エージェントの楽しそうなお花見の様子を、現場を訪れた住民に見せて宣伝することで、従魔は排除されましたよ、という安全性のアピールを図りたいのだとか。同日中に行いたいとのことから、お花見の様子を長く見せるためにも、討伐時間はなるべく短い方がいいでしょう。これも立派な依頼ですので、きちんとお花見を楽しんできてくださいね。あ、飲食物は報酬とは別に用意されるそうですが、各自持参でも構わないそうですよ」
 ……よし。
 これは花見だ。
 うん。そう思い込むことにしよう。

解説

●目標
 毛虫従魔の討伐、および現地の安全性を花見で宣伝。

●登場
 毛虫に憑依したイマーゴ級従魔。数は10体。

 桜の下に10人以上の人間がいると、15分後に桜の枝葉を揺らした後に大量の毛虫が落下。接触した人間のライヴスを吸収する。
 ライヴス吸収能力は低いが、対象が一般人だと数時間の意識混濁があり、接触前後の記憶がなくなる。能力者たちにはほとんど影響がない。
 ライヴス吸収を行うのは、従魔が潜む毛虫だけ。残りはすべて、従魔がどこからか呼び寄せた普通の毛虫。従魔毛虫か普通の毛虫かは、見た目で区別がつかない。

 従魔は連携などをせず、すべて独自に行動する。力も弱いため、共鳴して小突くだけで対象から追い出せ、排除は容易。従魔は大量の毛虫の中に、1匹は必ず憑依している。普通の毛虫は殺虫剤などで死ぬが、従魔毛虫は元気にブレイクダンスする。ウネウネ。(PL情報)

●状況
 現場は東京某市の河川敷。傘のように広がった見事な桜並木が拝めると、地元民からは花見スポットとして人気。川沿いに20本の桜の木が並んでいる。

 桜はすべての木が満開状態。『花見スポット』の価値を優先させるため、極力傷つけないように。毛虫駆除用の殺虫剤等を準備するなど、市の職員は依頼に協力的。

 スタートは土曜日の午前10時で、天気は快晴。一般市民の立ち入り規制は市がすでに行っているが、正午に解禁予定。毛虫被害の風評はまだ広がり始めたばかりで、花見客がくるとすれば正午過ぎから事件発生時と同程度の人数が想定される。

 花見終了予定は午後6時。付近に街灯などといった光源がなく、夕方になるとほとんどの一般市民が帰り支度を始め、宣伝効果がないため。

リプレイ

●出発前
 説明終了後。
「毛虫で花見が台無しかよ……」
「それは困りますね。何とかしましょう」
 依頼の概要を聞き、倒れた市民を思って表情を歪めた東江 刀護(aa3503)。はた迷惑な従魔への怒りを秘め、双樹 辰美(aa3503hero001)とともに意気込みを示した。



 また、酒宴の場を純粋に楽しもうとする者もいる。
「無料で上司も居ない花見なんて最高じゃない! 飲むわよ」
「その前に任務が有るのだが……」
「毛虫に殺虫剤撒いて終了なんでしょ? 適当に済まして……って、ビニールシートに殺虫剤が付いたらコトね。別に用意しなきゃ! ……それから」
「まあ、偶には良い気晴らしか?」
 気合が入りまくる蝶埜 月世(aa1384)の様子に、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)は微笑ましそうに眺めていた。



 そして、全く別の準備をする者も。
「部長がミニコミ復活しろだって。……もう取材先も決めたからって」
 やたらとテンションの低い穂村 御園(aa1362)に、ST-00342(aa1362hero001)の対応は慣れたものだ。
「御園、諦める他無いな。それで何処に行くのだ?」
「お花見で依頼なの」
「?」
 それのどこが問題なのだろうか? というST-00342の疑問の答えは、すぐに返ってきた。
「……って、事なんだけど、毛虫だよ! ただの害虫駆除だよ! 芸能人とインタビューとかだよね? 本当の取材って」
「……害虫駆除は大切な仕事だ。取材対象として適切かは分からないが……」
 御園の魂からの叫びは、言葉が詰まるST-00342にしか聞こえない。二人は上司の無茶ぶりのため、取材準備を進めていった。



●討伐準備
 時間前に集まったエージェントたちは、市の職員から殺虫剤を受け取っていく。
「自分の体なのに思うように動かせねぇってのはどうにも」
「強敵と真正面から打ち合ってそれで済んだのだから贅沢というものですわ」
「まぁ、実際死にかけたしな」
 前回の出撃で負った傷の深さを示すように、服の中から包帯を覗かせる赤城 龍哉(aa0090)は、寄り添うヴァルトラウテ(aa0090hero001)に苦笑をこぼす。
「龍哉ちゃん、大丈夫? 無理はしないでね」
「今回の敵は強力では無い様だから大丈夫だと思うが、何かあったらフォローする」
 負傷を知る伊邪那美(aa0127hero001)と御神 恭也(aa0127)も龍哉の体を心配し、ヴァルトラウテに続けて声をかけていた。
「みんなのお花見の邪魔はさせないんだから! でも、……毛虫ダメぇ~!」
「じゃあなんでこの仕事受けたの……」
 一方、始まる前から泣きそうな天都 娑己(aa2459)。龍ノ紫刀(aa2459hero001)はため息をついて呆れ顔だ。
「お花見しか頭に残らなくて……!」
「……」
 紫刀はお馬鹿な娑己が可愛くなり、無言でハグした。
「ひゃぁ!?」
「仕方ないなー……。あれはかりんとうだよ」
「か、かりんとう……?」
 なすがままの娑己は、紫刀の言葉を反芻していった。
「終わったらお花見だって。ご飯食べたりしながらなのは初めて。つきは?」
「三回目、だね」
「注意事項は?」
「ゴミは持ち帰る、飲み過ぎない……は詩には関係ないか」
 同じく意識が花見に傾いているのは廿枝 詩(aa0299)と月(aa0299hero001)。他愛のない話をしながら、淡々と毛虫駆除の準備を進めている。
「ん、何気に、お花見とか、やったこと無いよ、ね。おうどんは、出るのかな?」
「どうだろうな、月見うどんは聞いたことがあるが、花見うどんは無さそうではあるが……」
 キョロキョロと周りを見渡すのはエミル・ハイドレンジア(aa0425)だ。どこまでもマイペースなエミルに、ギール・ガングリフ(aa0425hero001)は律儀に返事をしていた。位置関係は、ギールonエミル。いわゆる肩車状態の二人は、傍から見ればかなりシュールである。
 それから二組のチームに分かれた。従魔の出現条件から当時の状況を再現し、待ち伏せる作戦だ。
 相談の結果、両端から一本ずつ桜の木の下で待ち構えることに。

●アクティブのAチーム
 グループに分かれてすぐ、志賀谷 京子(aa0150)が取り出したのは鉄色に輝くL字型の棒。二本一対のそれを両手に握り、長い方の先端を平行にして桜へ向けた。
 レッツ・ダウジング!
「……正気ですか?」
「何でも試して見るものさ、って言うじゃない?」
「……全く信じていないでしょうに」
「きこえなーい」
 ジト目を送るアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)の苦言などものともせず、京子はダウジングロッドで遊ぶ。が、結局大きな反応はなし。
「赤城さん、ちょっといい?」
「ん? どうした?」
 ダウジングに飽きたところで、京子は市民の目に留まりやすい場所を探して周囲を見渡していた龍哉に声をかけた。
「もしかしたら、そのライヴスゴーグルを使えば、従魔の位置がわかるんじゃないかな~、って思ったんだけど、どう?」
「なるほど、やってみるか」
 京子に促され、龍哉はすぐさまライヴスゴーグルを装着し、桜を見やった。
「……策があったのなら、先ほどの無意味な行為は何だったのですか?」
「~♪」
 アリッサにまたまた苦言をもらうも、京子は鼻歌交じりにスルーしていた。
 すると、思惑通り龍哉の視界にはいくつかの桜にライヴス反応があった。しかし、桜の木全体を薄く覆うように見え、個別に毛虫は狙えないことも判明する。
 従魔のいる桜が知れたのは大きい。Aチームは龍哉の誘導に従い、桜の下へ集合した。
「ま、毛虫を落とすには話が早いが、樹を痛めないよう注意だな」
「やり過ぎて花まで散らしてしまっては本末転倒ですものね」
 満開の桜を見上げ、龍哉とヴァルトラウテは呟く。
 皆が誘導に従い桜の下へ集まる中、恭也は桜の幹に近づき、おもむろに腰を落とした。
 あ、蹴るな、この人。
「ちょ、ちょっと何してるの!?」
 恭也の意図にいち早く気づいた伊邪那美が止めに入った。
「木に影響が無い様に加減はする。時間的期限があるんだ1本に時間は掛けられんだろ」
「駄目だって! 桜が散っちゃうでしょうが」
 結局、ちょうど似たような話をしていた龍哉たちにも止められ、恭也は蹴りを断念した。
「さて、やるよ紫!」
「任せて」
 ブルーシートを敷き終えた娑己と紫刀は、イメージプロジェクター使用し、華やかな着物姿へ変身した。娑己は和傘を持ち、紫刀は笠を被って、優雅な舞を披露し始める。
 各々ブルーシートに座った面々は、娑己と紫刀の舞踏を観賞しつつ、従魔が来るのを待つ。

 そんな中、京子とアリッサの話題は今回の相手へ移行する。
「ところで毛虫ってどう? わたしは見た目が好きじゃないから超事務的に作業するだけだけど」
「とくに苦手でもありません。戦士として、巨大な毛虫と対峙したときは難儀したような記憶がありますけれど」
「……きゃー、とか言ってたほうがモテるんじゃない?」
「その言葉、そっくりお返ししますよ」
 アリッサの話に引き気味な京子だが、本人はすました皮肉をお返ししていた。
 15分後。何かが起きることの予兆がごとく桜の枝葉がざわざわと動き出し、警戒を強める。娑己と紫刀は持参した和傘と笠を、その他は龍哉が用意していたビニール傘を広げ、従魔出現を待ち構えた。
 瞬間、ボトボトボトボトッ!
 従魔がもたらす絶望の雨が彼らを襲う!
「かりんとうだと思えば怖くないっ!」
 紫刀の助言を採用した模様。単純バカな娑己は、こうして毛虫を克服していった。バカって便利。
「しっかりー」
 自己暗示に忙しい娑己へ、詩はやや棒読みな応援を送る。毛虫は平気で、特に思うところはないらしい。傘を滑り落ちる毛虫には無反応だ。
 詩の声援を受け、娑己は落下したかりんとうへ殺虫剤を噴射した。辺りに散らばった他の毛虫はすぐに体をくねらせて苦しみだす。
「せいっ!」
 その中で1体、やたらと元気な毛虫を発見した娑己。すぐさま紫刀と共鳴し、袖に隠していたナイフで小突く。従魔は毛虫から追い出され、娑己の返す刃で切り裂かれて消滅。
 その後、1度目の毛虫駆除はスムーズに終了し、娑己は共鳴を解除。ブルーシートの上にいた毛虫を折り畳んで回収し、穴を掘って地面に埋めた。ついでに桜の根元にティッシュを半分埋め、討伐完了の目印とした。
 その間、傘で防御したため広範囲に散らばった他の毛虫もまた、個別に用意していた箒やちりとりでかき集め、ゴミ袋に入れられる。これらは市職員が引き取り、すぐに撤収されていった。討伐に集中できるよう、サポート体勢も万全だ。



 Aチームは2本目の桜の下へと移動し、その時を待つ。
 先ほどと同様、一斉に落ちてきた毛虫に対し、恭也は持参した木酢液を散布した。
「なんか燻製みたいな匂いがするけどなんなの?」
「炭を作る時に出る木酢液だ。木々に悪影響を及ばさせ無い農薬みたいな物だな」
 配布された殺虫剤ではないが、木酢液を浴びた毛虫は嫌がるようにウネウネ動く。
「……そこまで心配りが出来るのになんで幹を蹴るなんて発想が出て来るの」
 即行で桜に蹴りをぶちかまそうとした人と同じ発想とは思えず、伊邪那美は天を仰いだ。なんなら最初から配慮して欲しい。
 その後、一際元気な個体を発見した恭也は即座に共鳴。問答無用で攻撃を叩き込んだ。
「……あっけないな」
『まあ、良いんじゃない? 噴霧中の踊りは面白かったけど』
 とはいえ、必死なアピールも恭也には届かず、観客は伊邪那美だけだったのだが。
 退治後、共鳴を解除した二人は毛虫を箒と塵取りで集め、ゴミ袋に回収していった。



「しかし、ホント良く落ちて来るな」
「予想以上の数ですわ」
 順調に3本目へ突入したチームA。
 次々と落ちてくる毛虫に、龍哉は思わず感嘆の声を上げた。毛虫は平気らしいヴァルトラウテも、特に動じることなくビニール傘越しに毛虫の雨を見上げている。
「しかも従魔憑きのは踊ってるぞ」
「ああいうオモチャをどこかで見た気がしますわね」
 今回毛虫従魔を見つけたのは龍哉たち。殺虫剤を向けながら、一際元気に跳ね回る毛虫へ視線を送った。
 右へ左へ飛び跳ねる毛虫従魔は一見苦しんでいるようにも見えるが、他の毛虫と比べて体力が有り余っており、一向に弱る気配がない。
 他の面々が従魔を倒す姿を見ていた龍哉だが、無理は禁物と判断。恭也に頼んで従魔を排除してもらった。



 4本目の待機中。そわそわとし出した京子は、こっそりアリッサに確認を求めた。
「背中にとか毛虫ついてない? ついてないよね」
「……あ!」
 すると、突然驚いたようにアリッサがリアクションを!
「え、ほんと。とってとって!」
「いえ、ついてませんよ」
「――やめようよ。ほんとやめようよ」
「ふふふ。結局苦手なんじゃないですか」
「おぼえてろよー!」
 普段と立場が逆転し、からかわれた京子はそっぽを向いた。
「……どうやって愚神と戦えるんだろ」
「恐怖や嫌悪は人それぞれだよ」
 そのやりとりをこっそり聞いていた詩と月は、聞こえないよう小声でヒソヒソ。苦手な人ならこんなものですよ?
「ていっ!」
 15分後、殺虫剤が撒かれるのを待ち、共鳴した京子はアリッサへのうっぷん晴らしも込めて従魔に狙いすましたデコピンをいれる! ちょろちょろ飛び跳ねていた従魔はそれで動かなくなった。
「手、ふく?」
「良ければどうぞ」
 京子が従魔を倒してすぐ、詩と月はウエットティッシュ片手に近づいた。さっきの会話を聞いていたが故の配慮だ。
「いいの? ありがとう」
 差し出されたウエットティッシュを受け取り、京子は急いで消毒。今度からデコピンは止めよう。



 5本目の桜で従魔を発見したのは、詩と月だった。頭(?)を下にしてクルクル回るヘッドスピンを披露し、他の毛虫とは違う存在感を見せつける。
「あやしい」
「従魔だろうなぁ……」
 が、相手が悪かった。必死にアピールするも、詩も月もリアクションが薄い。その後も精一杯ブレイキンする毛虫従魔だったが、さっさと共鳴した詩にペシッ! とやられて終わる。哀れ。



 6本目では、再び娑己の前に従魔が姿を現した。この頃になると娑己の自己暗示は完璧に作用していた。
 もはや作業のように共鳴して毛虫従魔を討伐した娑己は、じっとブルーシートに散らばるかりんとうを見つめる。
『娑己様、それは食べちゃダメだからねー』
 共鳴中の紫刀は娑己に注意を促した。バカは便利だが、時として常識を超越する。それを知る紫刀だからこそ、当たり前の注意ができるのだ。
「わ、わかってるよ!」
 案の定、かりんとうを見つめていた娑己は我に返る。危ないところだった……っ!
 そうして、コロリした毛虫を埋め、あるいはゴミ袋に回収し、Aチームの仕事は終了した。



●ブレイキンのBチーム
 一方のBチーム。
 彼らはひたすら待機して従魔をあぶり出す作戦だ。
「……なんかかなりシュールな状況ね」
 桜の木の下、特に盛り上がるでもなく10人が集まる姿に、月世はポツリと呟く。
 活動的なのは並行して取材を行う御園とST-00342だけで、他はじっと従魔を待っている。ただ気になるだけなら、ずっと肩車状態のエミルとギールのペアだろうか?
「毛虫が苦手なんですか?」
 ふと、頭上を気にする刀護に気付き、辰美は何の気なしに尋ねてみた。
「俺が苦手なのは巨乳グラビアアイドル並みの女だけだ」
 それにばっちり該当しちゃった娑己や紫刀とは別チームとなり、内心でひそかに安堵しつつ刀護は思案を続ける。口ではそういってみたものの、頭の上に落ちてくるなよ、と思いながら苦い表情で睨み上げていた。
 つられて頭上を仰いだ辰美もまた、毛虫はあまり得意ではないらしく、表情は苦い。
「日本人て結構虫が嫌いな人多いよね。イタリアには虫が入ったチーズもあるんだけどね」
「それは初耳だ。今持ってるのか?」
 漏れ聞こえた声から、毛虫より連想したアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)がポツリと呟くと、彼女の英雄であるマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)が耳ざとく聞きつけ興味津々に尋ねる。
「今は販売が禁止されてるからね。でも闇市では高値で取引されてるらしいよ」
「そうか、残念だ」
 手元にはないと知り、落胆気味なマルコ。酒のおつまみとして期待していたようだ。

 そうこうしている内に、頭上の木々が揺れ始める。来たか、と身構えるエージェントたち。エミルはすでにギールから降りてコートで守られ、毛虫襲来を待っていた。
 そして、バケツをひっくり返したように毛虫がダイブ! ブルーシートが黒で染まった!
 毛虫が落ちて来た直後、ほぼ全員が殺虫剤をシート上に噴霧。
「みんなで一斉に、……やっぱりシュールだわ」
 何ともいえない非現実感に、月世は苦笑気味だ。
 すると、従魔らしき毛虫がブレイクダンスを開始! 激しい動きで翻弄する!
「わ、本当にやってるよ♪」
 最初の目撃者となったアンジェリカは、思わずスマホで動画撮影。
 撮影後は即共鳴。毛虫を小突いて従魔を追い出す。
「行くよっ! 疾風怒濤! って、弱っ!?」
 すかさず弱点攻撃を用い、アンジェリカは武器を連続で振るう。
 が、たった一度の薙ぎ払いで従魔は消滅。風圧でコロコロと毛虫たちが転がり、余計に呆気なさが際立った。
「従魔の力は低い、って話だったけど、ここまでとはね」
 肩を竦めたアンジェリカはリンクを解除し、片付け開始。毛虫を持参した大きな袋に詰め、後で廃棄することにした。
「それにしてもこいつら、全部単独行動かよ。厄介だな」
 従魔が潜む桜に当たっても、その中には一体しか従魔がいなかった事実に、刀護は辟易とした表情になる。それすなわち、何度も毛虫のシャワーを浴びることと同じだからだ。
「毛虫の連携……、考えただけで気持ち悪いです……」
 一方、逆に連携して襲ってくる毛虫たちを想像してしまい、辰美は身震いを隠せない。ただでさえ普通の毛虫も気持ち悪いのに、それらが徒党を組んで飛びかかってくるなど、考えたくもないだろう。
 1本目の毛虫駆除は滞りなく終了し、ゴミ袋に集められて職員の手に渡った。



 2本目の桜にも従魔が潜んでおり、本日2度目の毛虫シャワーの洗礼を受けた。同時に、毛虫たちも殺虫剤の洗礼を浴びる。
「ツンツン、ツンツン」
 そんな中、共鳴したエミルは1匹ずつ蒼華でツンツン。本物の毛虫だろうと従魔だろうと気にせず、ツンツン。従魔でなければシュタタと素早く移動し、次々にツンツン。下手なツンツン数打てば当たる。
「あ」
 いた。
 おいおいお嬢さん、オイタはいけねぇぜ? といった風に体をくねらせた毛虫従魔。そして、そんなに見たけりゃ、見せてやるぜヒャッハー! とばかりにブレイキン。
 エミルはしばらくじーっと見つめていたが、飽きたところで蒼華をぶち込んだ。
「ん、この従魔は、成長とかしたら、何になるんだろう、ね」
『まぁ、こんな状況だ、成長出来る個体が残るとも思えんがな』
 従魔があっさりと消滅していく姿を眺め、エミルは小首を傾げる。答えたギールも興味なさそう。駆除される運命に変わりはないのだから。



 3本目は外れだったらしく、15分を過ぎても変化はなかった。が、4本目の桜でまたしてもヒット。毛虫&デストロイ!
 殺虫剤を毛虫にかけていると、刀護の近くでやたらと動き回る一匹の毛虫を発見した。
「毛虫のくせに踊ってやがる。こら面白い」
 殺虫剤をものともせず、縦横無尽にブレイキンする毛虫従魔の動きは実にコミカルだ。だんだん楽しくなってきた刀護は更に噴射しようとするが、辰美に止められる。
「刀護さん、従魔で遊んでませんか? そんな暇ありませんよ」
 他のメンバーがさっさと普通の毛虫を掃除している様子を見て、辰美は討伐を促した。
 それもそうだと素直に応じた刀護は共鳴。AGWで小突いて従魔を消滅させた。
「ちまちま倒すのは面倒臭いが、日本の象徴たる桜が傷ついてしまうんでな」
 呆気なく消滅した従魔を見下ろし、刀護は刀を鞘に納めた。



 5本目の桜も大当たり。毛虫の絨毯爆撃の後、エージェントたちは流れ作業のように殺虫剤を構えた。
「エスティ! この角度で撮って!」
「御園! それだと殺虫剤をもろに浴びる事に……」
 黒い斑点が動き回る様を写すため、御園はしゃがみこんで俯瞰の画を要求する。指示に従いつつ、ST-00342には画角よりも気になるものがあった、のだが。
「わぷっ!?」
「御園ーっ!」
 警告もむなしく、御園の顔は殺虫剤のスモークで見えなくなった。
 しかし、カメラの位置は固定させたまま、手ブレは一切ない。御園同様、ST-00342もなかなかのプロ根性だ。
 殺虫剤で視界がやもやしていなければ、完璧な絵面となっていたことだろう。残念。
「何やってんだか……、っと!」
 まるでコントのようなやり取りを見つめつつ、共鳴した月世は毛虫従魔を見つけ、AGWの切っ先であっさり退治した。
 慣れた手つきでシートを折って毛虫を集め、ゴミ袋にイン。



 6本目も外れたところで、Aチームと合流。討伐した従魔の数を教え合い、龍哉のライヴスゴーグルで再確認して、毛虫従魔の討伐は終了した。

●さあ、花見だ!
 毛虫討伐終了後、ちょうど市による入場規制が解除され、一般人が集まってきた。が、毛虫従魔の被害が多少なりとも耳に入っているのか、なかなか桜に近づこうとしない。
 それを見たアンジェリカは、早速密造酒を取り出し一杯やろうとするマルコの襟首を掴んだ。
「今から歌を歌うからマルコさんも一緒に歌ってよ」
「俺も? ……あぁ、なるほど」
 アンジェリカの意図をくみ取ったマルコは、やれやれと立ち上がる。
 そして、他のメンバーに向かって、実際は一般人たちに聞かせるように、桜の木の下で二人の合唱が静かに紡がれた。
「薄桃色の花びらが 風に舞い散り水面に揺れる その一瞬の美しさ 心に刻めば永久(とわ)となる♪」
 アンジェリカのソプラノボイスとマルコのバリトンボイスが、落ち着いた曲調に乗って広がる。卓越した歌姫の美声と、聖歌がごとく荘厳な男声のハーモニーは、聞くものすべての胸を打つ。
 最後まで歌い切ると、自然と集まった市民からの大歓声を浴び、優雅に一礼した。

「ただめしだ」
「……うん」
 そうした歓声をBGMに、詩と月は職員が用意していたお弁当とお茶の他、割り箸、取り皿、紙コップを拝借する。
 詩は適当に取り皿に自分のものを取った後、唐揚げとおにぎりをそれぞれ一口分にし、月に差し出した。
「はい」
「有難う」
 さらっとはいあーん状態。詩なりの親愛表現であるため、人目は気にしていない。月は努めて気にしない事にした。早速お酒が入ったらしい大人たちから、様々な冷やかしの声が飛ぶ。
「習慣みたいなものでして……」
「つき、他に食べないからお皿もったいないでしょ?」
 詩はそれでも全く気にせず、周囲への対応は月が苦笑しながら律儀に応えていた。それでも、野次や指笛はなかなか消えなかったが。

 一方、別の場所にいたエミルとギール。
 ギールの予想通り、職員から提供された食べ物の中に花見うどんはなかった。
 が、そこはうどんの妖精ことエミル・ハイドレンジア。
 持参したお弁当の中身は、うどんの生麺。水筒からは保温されたほかほかの出汁。それら二つをドッキングすれば、もはや説明不要だろう。
「ん、外で食べる、おうどんは、格別、特別、うまうま」
「あらかじめ準備しておいてなお、うどんの存在を確かめたのか……」
 無表情ながら美味しそうにうどんをすするエミル。ギールは配布された弁当をつつきつつ、エミルのうどん愛に改めて脱力した。



 皆が楽しみだしたころ、娑己と紫刀はティッシュを回収後、来場した花見客のために本格的な巫女舞を披露した。紫刀が神楽の調べを奏で、笛の音に合わせた娑己が静謐な足運びで華麗に舞う。

「一般の方々からも適度に気付かれ易い場所なら、この辺りが良さそうですわ」
 笛の音を聞きつつ、龍哉たちは毛虫退治前に目星をつけておいた場所を確保。お菓子とティーセットを広げて紅茶を用意。
「バレンタインの時に腕を上げたからって、ここぞとばかりに」
「お黙り下さい、ですわ」
 楽しそうに準備するヴァルトラウテに、龍哉は苦笑をこぼす。ヴァルトラウテも龍哉にきっちり反応しつつ、紅茶を作る作業の手は休めない。

 彼らと一緒に腰を下ろしたのは恭也と伊邪那美だ。
「おお~、今日のは一段と豪勢だね」
「花見に参加する機会が多かったからな、その時に教えて貰った料理を作ってみた」
 目をキラキラさせる伊邪那美の横で、御重をオープンさせていく恭也。早速パクつく伊邪那美の様子につられ、龍哉やヴァルトラウテ、さらには依頼主側である市の職員も集まってくる。

「おつかれー」
「ご一緒してもよろしいでしょうか?」
 すると、京子が老婆餅と桜餅を、アリッサがお弁当を手に持ち近づいてきた。京子の目は紅茶とお菓子に注がれている。
「もちろんだ。さっきは助言、ありがとうな」
「お花見は大勢の方が楽しいですから、歓迎いたしますわ」
 京子に礼を言い、龍哉もヴァルトラウテも来客を笑顔で快く迎え入れた。

「あは、癖でつい上を見ちゃうね!」
「まぁねー」
 舞が終わり、拍手喝采を浴びる娑己と紫刀も満面の笑顔だった。



「段々と盛り上がってきました! 通行のみなさんも興味深そうにこちらを眺めていますね。聞いてみましょうか?」
 能力者たちの花見が展開される中、御園は徐々に集まってきた一般人へ取材慣行。ミニコミ記事のネタを求め、ST-00342を連れて走りまわる!
 その際、噂になっていた毛虫について聞かれても見なかったと主張し、市民の不安を払拭することにも貢献していた。



「では、今度こそ花見を楽しむとしよう。ああ、そこの君も、一杯どうだい?」
 聴衆の相手がようやく終わると、マルコは先ほどとはうって変わって市民数名を巻き込み、酒杯を傾けた。
「仕方ないなぁ、マルコさんは」
 抜け目がないと苦笑しつつ、アンジェリカも持参したマスカルポーネチーズとバナナで作った甘春巻きを広く提供し、お花見の食卓に色を添えた。
 ちなみにチーズに虫は入ってないらしい。

「ふふふ、いい感じに冷えてるわね!」
 マルコに続き、月世が川から引き揚げたのはマグナムボトルのシャンパン。花見に合わせて種類はロゼ、銘柄はワイン女子御用達のエグリュ・ウーリエ。依頼前に専門店で手に入れた、彼女のとっておきだ。
「は! 意外と未成年が多い……。よし、道行く人を引き込んでしまえ!」
「ほどほどにな」
 ただ、今回のメンバー構成が未成年寄りだと気づき、月世もマルコ同様市民に声をかけに行った。アイザックは彼女を見送り、一人桜を仰ぎ見る。

「ワインないかなぁ……」
 花見が進んで思わず呟いた月。ちょうど視線の先には、月世が川からシャンパンを引き上げる場面が。
「だめでしょ」
 月の目線に気付いた詩は、軽くたしなめる程度に肩をぺちっ、と叩く。毛虫の時とは力加減が雲泥の差だ。いや、当たり前だが。

「酒だ、酒!」
「飲むのは構いませんが、羽目を外さないでくださいね」
 桜よりもアルコールに夢中な刀護に、辰美はお茶を飲みつつ注意を促す。
「楽しんでますかっ!」
 と、油断したところに娑己、出現!
「おわぁっ!?」
 刀護はまず不意打ちに驚き、相手が娑己と気づきさらに驚きを重ねた。
「はいはい、迷惑かけない」
「あ、紫、引っ張らないで~!」
 が、紫刀のフォローで即刻退場。何しに来たんだろう? それもピンポイントで。
「し、心臓に悪い」
「大丈夫ですか?」
 思わぬドッキリに見舞われた刀護は、胸を抑えて去っていく娑己たちを見やる。辰美は刀護の背中をさすっていた。

「ふむ、この味は……まったりとしていて、それでいてクセが無く……」
「この前は魚の卵の干物にその表現を使っていたな。……同じ味には思えんのだが」
 酔いが回った月世が甘春巻きを口にし、アイザックの突っ込みをもらっている。こちらは羽目外し満喫中だ。



「しかし、任務のついでとは言え、のんびり花見が出来るとは思わなかったな」
「良い風習だと思いますわ」
 前回の激戦を思い浮かべ、龍哉は桜を見上げながらポツリ。新たな茶葉で紅茶を蒸らしつつ、ヴァルトラウテは穏やかな時間と光景を楽しんでいる。

「ずっと戦いばかりでは、いずれ己の破滅を引き寄せる。時には休息も必要だ」
「そうそう! 美味しいもの食べて、ゆ~っくりするのもまた、ボクたちの義務なんだよ!」
 龍哉の言葉を拾った恭也と伊邪那美。持参した御重の中身はすでになく、今は二人とも食後の紅茶を楽しんでいる。

 そうして、エージェントも市民も区別なく、花見の時間を大いに楽しんでいった。



●楽しい時間はすぐに流れて
 夕方6時になると、市民たちは帰り支度を始める。この河川敷には街灯がなく、夜になると一気に暗くなってしまうからだ。それに合わせ、エージェントたちも帰り支度を進めていく。

 そんな中、片付けをする前にふらっと姿を消していたエミル。花見中は主に市民の集団に突如出現し、笑いと癒しを配っていた。
 その帰り道、地元のうどん屋を見つけた彼女は、当然のように入店した。
「ん、仕事の後の、おうどんは、また格別。うまうま」
「うどんばかりだと栄養が偏るぞ、エミル。……む? うまいな、店主」
 エミルが幸せそうにうどんを楽しむ隣で、ギールは軽くたしなめつつもうどんをすすっていた。店主は威勢よく返事をしつつ、似てない親子だなぁ、と内心で首をひねっていた。

「また来年、だね」
「御弁当も作ろうか」
 片付けも終わり、ゆったりと家路をたどっているのは詩と月。依頼でなければ引きこもりがちな詩だが、他者との交流が増え、進んで外出する意思を見せ始めている。頬を緩ませ、月は来年の自分たちに思いを馳せた。

 こちらは撤収後。人がほとんどいなくなった河川敷に、人影が二つ。
「桜というのは葉も出さず一斉に咲くのだな……。美しいが何処か不吉な感じがするな」
「……そう思うんだ? それなら夜の方がお勧めね。あと、根元を掘り返すとよく……」
 桜の美しさの裏に言い知れぬ妖しさを覚えたアイザックに、月世は日本では割と定番な逸話を口にした。
 桜の木の下には、死体が埋まっている、と。
 桜の幽玄さを噛みしめるアイザックと、脳内で己を深夜に置き換えた美しくも妖しい腐腐腐な夜桜デートを妄想してご満悦な月世。
 あ、ちなみに、今通った桜の木の下には、娑己が埋めた毛虫たちが埋まっている。
 掘り返したら出てくるかもよ?



●残業&後日談
「うー、また頑張ってしまった……。結局悪循環なんだけどね」
 依頼終了後、職場に戻ってようやく記事を纏め終えた御園は、椅子の背もたれに寄りかかってため息をついた。
 しかし、彼女の仕事はまだ、終わらない。
「御園、市広報向けの記事は気合を入れてまったく別構成にしろと部長から……」
 何でも、御園の取材が市職員の目に留まり、市に記事と写真を提供することをお願いされ、御園に無断で引き受けたらしい。
 しかも、現時点で終業間際にも関わらず、今日中に作れ、との追加注文まで。
 ST-00342の伝言を聞いた御園はフリーズし、頭を抱えて絶叫した。

 後日、御園が必死に作成したミニコミ記事は市報に掲載された。賑やかで楽しい内容のおかげか、前年よりも多くの花見客を集めることが出来たという。

 また、恭也の木酢液には、桜の新たな毛虫発生を抑止したそうな。
 本当に何故、桜を蹴ろうとしたんだろう……?

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃
  • 呼ばれること無き名を抱え
    aa0299hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
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