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桜の木の下にはわたしが埋まっている
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最終発言2016/04/07 08:33:37 -
【相談卓】
最終発言2016/04/07 23:09:33
オープニング
●桜の見頃
日本の春の風物詩、花見。何故か日本人に愛される桜の下で、何故か酒を飲んだり歌ったり楽しく騒いでしまうという、謎の行事。
そんな心のオアシス、花見が今年も日本の某公園で行われる。
池や木々が配された広大な公園にて催される花見は、きっと素晴らしいものになるであろう。
何かすっごい楽しそう。
その一念に駆られて、1人の男が前日に現地入りを果たす。
日中の公園には見渡す限りの桜花。薄いピンクが宙を埋め尽くし、景観は最高だ。
「絶景かなーー!!」
柔らかな土を踏みながら、男は桜の木を撫でる。そんで体とかすりつけてる。現時点ではそれほどの人がいないので痛い視線とかもない。
濃紺ボディスーツに白マント、顔にはのっぺらぼうのような簡素なマスク、胸には陽光を受けて輝くハートがちらり。
この男がもたらす騒動はどのようなものなのか……。
●桜が、桜がー。
イベント当日、桜の公園には大勢の花見客が押しかけていた。がやがやと騒がしい。
酒につまみにポータブルカラオケ、もう騒ぎまくる気満々である。桜とか観る気ないのだろう。
わーわー。
ぎゃーぎゃー。
のめのめ。
うたえうたえ。
……。
…………。
………………。
花見はそんなもんじゃねええーーーーーーーーーーー!!!
とか言う勢いで、地中からもっそりと、いやさガバーっと。
桜の木の根が盛り上がる。ぶっとい根がうねうね蠢き、ばしばしと花見客を折檻していく。
「何だこりゃーーーー!!?」
「従魔だーーーっ!! に、逃げろーーーー!!」
蜘蛛の子を散らしたように逃走していく花見客。しかし逃げ切れずに木の根に捕らえられる人々もちらほら。
従魔に憑かれ暴走する桜の木。土中から突き出た根が触手のように一般人を襲っていく。
生えている桜並木も揺れて、振り落とされた花が吹雪いて景色だけは美しい。
そんな珍事件が起きてしまったのですよ。
●まあ惨状ですわ
「桜の名所にて桜の木が暴走し、桜も観ずに騒いでいた人たちを根っこで捕まえて幹に抱き寄せ、強制的に桜の観賞をさせているそうです」
集められたエージェントたちは、いつものようにオペレーターから事件の概要を聞かされる。
「どうやらその公園中の桜の木が従魔に憑かれているようで、総数は何百というものになるでしょう。幸い強いライヴスを感じませんので倒すのに苦労することはないと思います。ですが一般人を大量に捕らえているので普通に攻撃しては彼らに当たってしまう可能性が非常に高いです。例えば木の根にわざと捕らえられて至近距離まで接近するとか……工夫が必要でしょうね」
絶対に一般人に当たらないような状況を作り出して攻撃せよ、ということか。
「それと桜の木も破壊しないようにお願いします。木は替えが利きませんからね……。従魔が憑いている限りは攻撃しても大丈夫ですが、分離した木を攻撃してはタダでは済みませんので……」
大体の内容を把握し、エージェントたちは踵を返して出動しようとする。
だが、まだ言っておくことがあるとオペレーターが呼び止めた。
「あの、特に重要ということでもないのですが……現場にグラスハートという怪盗がいるようなんです。分類はヴィラン……と言っていいのでしょうか。メンタルが極弱でろくに盗みも働けず、今ではお茶の間の人気者タレント扱いなのですが……」
待って。面倒くさい気がする。
もしかして従魔の騒ぎもそいつの仕業……じゃないか。重要じゃないって言ってたし。
「これをご覧下さい」
そう言ってオペレーターが卓の上に置いたのは、1枚のメッセージカード。
そこには――。
『桜の木の下にはわたしが埋まっている』
……何これ。死体じゃなくて?
「グラスハートはこのカードをH.O.P.E.に送りつけた後、現場の公園に自ら埋まりに行ったみたいで、付近の監視カメラ映像にこちらを向いてピースしている姿が残っています。そして先ほど、支部にコンタクトしてきまして……」
オペレーターがやれやれと言った調子で、用意した音声データを披露する。
その内容とは、ゴクリ……。
「たすけて! 木の根が! 桜の木がなんかものっそい……あ、待って、ちょ、らめーーーーーーーっ!! たすけてほーぷーーーーーー!! くらいよせまいよこわ」
音声がぷつりと途切れた。
……どういうことやねん。
「状況から察するに桜の従魔が暴れだしたせいで土中から出られなくなったのだと思われます。根が絡まってとかそういうことでしょう。……もうずーーーーっと支部宛に問い合わせメールを送ってくるんです。1分に100通は入ってきていて本当に迷惑しているんです。事件を一番に通報してきてくれたのも彼なんですけどね……」
えっと、我々はつまりどうすれば?
「いえ特に何もしなくても大丈夫です。桜の従魔を駆逐すれば勝手に這い出てくると思いますし。ただ彼が現場のどこかに埋まっているということを頭に入れておいて下さい、ということです」
ふーんそっか。まあ気にしなくてもいいよな!
無用な情報で時間を無駄にした、とエージェントたちはいそいそと現場に出発するのだった。
解説
■目標
桜の木に憑いた従魔の駆逐(ついでに怪盗グラスハートの救出)
■敵
従魔が憑依した何百という桜の木
巨大化した根っこで人を捕まえて幹まで抱き寄せ、強制桜観賞させるごくあくっぷり
桜を軽視して騒ぐ人によく反応する。
根っこを攻撃しても効果がなく、幹の破壊だけが有効となる。
弱いのでリンカーには特に危険はない。
■場所
桜の名所として知られる公園 日中で晴天
至る所に桜の木が配置され、景観が美しい。絶賛、桜吹雪中。
地面は柔らかいので根っこは急にぼこっと出てこられる。
■状況
現場到着、異様な光景を目の当たりにして、スタートです
木に捕らえられた人以外は、現場に一般人はいない。
木は一般人を多く幹に抱き寄せており、普通に攻撃しては彼らに当たってしまう。
根っこに捕まって接近するなどの工夫が必要。
助けた一般人は逃げる途中で木に捕まる可能性がありますが、そうなっても実害は特にないので放置しても大丈夫です。桜観賞させられるだけです。
■おまけ
現場には怪盗グラスハートが埋まっています
メンタルがとっても弱く、その繊細な心から付いた異名が『グラスハート』
シャドウルーカーと推定され、リンカーとしての実力は一流。(実力に関してはPL情報)
今回は何か面白そうという理由で公園の土中に埋まり、根が絡まって動けなくなった。
スマホぽちぽちでH.O.P.E.にSOSを送信しまくり、現在継続中。出られればやめる。
お騒がせキャラだが、根は善人である。
怪盗を自称しているのでH.O.P.E.では一応ヴィラン扱い。一応。
敵の駆逐前に発見できたら協力してくれるかも。かも。
リプレイ
●桜と変態
エージェントたちが到着した現場には、すでに桜の根がウネウネしている光景が広がっていた。
「うふふ、上だけ見れば綺麗ですねぇ」
十七夜(aa3136hero001)は桜が吹雪く上方をだけを眺めてにっこり。下方は根っこがウヨウヨでボコボコですけどね。
傍らの姚 哭凰(aa3136)は桜の状態を興味深そうに観察している。
「従魔が憑いた事で桜吹雪が舞っても花が散らないのね」
「従魔を調教できれば枯れない桜の出来上がりというわけですか……」
「従魔じゃ願い事なんてかなえてくれないだろうし、そもそも春の風情がなくなるからやめて」
「確かにキレイな桜吹雪だ♪ これが終わったら皆で花見でもしましょうか」
哭凰たちの隣に笹山平介(aa0342)がひょっこり顔を出す。彼はすでに依頼を終わらせた後のことを考えていた。というか道中でコンビニに寄って簡単なおにぎりとか飲み物とかを調達してしまっていた。
「……平介……グラスハートどうする?」
「さすがに気の毒だから……助けてあげたいかな。そうしたら手伝ってくれるかもしれないし♪」
「……手伝ってくれるのかしら」
土中の怪盗について柳京香(aa0342hero001)と話し合っていると、背後から虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)が声をかけてきた。
「平介ちゃん! 頑張ろうーねー!」
「京香殿、今回はよろしく頼むでござる」
軽く挨拶を交わすと、彼らはとりあえず桜への対処法を思案する。
「……何でこう、梅と言い桜と言い無駄に生命力旺盛なのかしらね」
「うむ。雑草根性だな」
「……あー、うん。そうね。どこかのグラグラハートさんも見習うべきよ」
ヒャッホーと跳ね回る根っこを眺めながら、鬼灯 佐千子(aa2526)は植物の恐るべき生命力に感心混じりのため息をつき、リタ(aa2526hero001)は相変わらず言葉を少しずれた意味合いで当てはめる。
「しっかし数が多いな。あの埋まってる奴にも協力してもらおうぜ」
「見つける手段あんのか? 環」
「まぁ任せとけって。メアドはゲットしてある。支部でな」
見渡す限りにうねる木の根。予想される作業量に閉口し、五行 環(aa2420)は件の怪盗も救出して頭数に入れようと提案する。鬼丸(aa2420hero001)の知らぬ間に下準備は済ませていたらしく、メンバー全員と連絡先を共有し始めた。
「グラスハートか……放ってはおけないな」
賢木 守凪(aa2548)も環と連絡先を交換しながら、土中の怪盗を案じる。なんとなーく彼はグラスハートに親近感を抱いており、もしかしたら友達になれるかもしれない、とか思ったりしていた。
そしてそういうことは相方のカミユ(aa2548hero001)にはすぐにバレるのだ。
「ぼっちでお花見してたのかなぁ? 親近感湧いちゃったぁ?」
「どういう意味だ……! 俺はぼっちではない!」
見透かされても守凪は力強く否定する。そう、ぼっちなんかじゃない。現に今、連絡先交換したし! 仕事のためだけど事実は事実だし!
ぷいっとカミユから顔を逸らすと、守凪はその先に符綱 寒凪(aa2702)の姿を認める。何かシャベルに頬をすりつけてめっちゃ嬉しそう。不審すぎて守凪も不安になる。
(何か声をかけたほうが……いや知り合いがいないと思わせておいたほうがじっとしているか……?)
そんな守凪の視線には全く気づかず、寒凪は相棒の厳冬(aa2702hero001)と楽しそうに会話している。
「お花見だね!」
「飯か?」
「桜の木の下にはね…財宝が埋まっているのさ!」
「面白そうだな!」
「私の愛器、リクトV三世にも出番が来たよ……」
「オンパレードだなー」
寒凪は愛用のメトロニウムシャベルを担ぎ、ぼっこぼこと穴を掘れそうな依頼にめぐり合えたことに感謝。厳冬は彼の高揚感を理解は出来ないが、そもそも理解するつもりもないし理解できなくても問題ないのだ。
つまりは、寒凪は穴を衝動のままに掘りまくるつもりらしく、彼が何かしでかすのではという守凪の不安はバッチリ当たっていた。
そして寒凪とは別方向でやらかしそうな人も一行の中に混じっている。
「えーと、ジャックちゃん、わかってると思うけど桜をどうにかするのが仕事だからね?」
「キヒヒ♪ わーってるっつーの、サクラも変態野郎も苛めればいいんだろ?」
「変態さんは助けるんだよ!? って、僕も苛められるの!?」
「冗談だっつーの、半分」
「半分本気なの!?」
いじり甲斐のある獲物を見つけ、ジャック・ブギーマン(aa3355hero001)は殺る気満々。桃井 咲良(aa3355)はそんな相棒が何をするのかと気が気でない。
「そういえばジャックちゃん、変態さんにメール送ってたよね? 返事来た?」
「来てねぇ。死にてぇのかあの変態」
ちなみに文面は。
「よう、オレの事覚えてるか? テメェ曰く悪いコだぜぇ。バレンタインの時は楽しかったなぁ? キヒヒヒ、助けてほしけりゃ手ぇ貸せよ」
「協力して親切にされるのと、何もしないで心折にされるの、どっちがいいんだ? あ?」
脅迫だった。返信あるわけなかった。
返信がないことに苛立ち、ジャックはグラスハートの端末に罵倒メールを送りつける。
延々と。嬉々として。着信拒否対策にアドレスを都度変えながら。嫌がらせの執念。
「キヒヒヒ♪ どんな事になってるか楽しみだなぁ、オイ」
「ジャックちゃん、物凄い笑顔が輝いてるなぁ……」
●発掘
ここから先はお仕事なので共鳴だ!
けど真面目に仕事してる人は少なかった。
「知っているかい? シャベルは軍用がある程にメジャーで且つ高性能だと言う事を。盾や斧、更にはノコギリ、ナイフにもなるのです。そう、シャベルには無限の可能性がッ!」
(「いいから行こうぜ凪ー」)
「そうだね、掘らないとね!」
シャベル愛が止まらん寒凪は、厳冬に注意される始末。厳冬に。
(「凪が暴走してるなー面白いなー」)
「通常運行だよ!」
それが最も不安な点なんだけどね!
通常運行と仰る寒凪さんが取り出すはダウジングロッド。
(「何するんだー?」)
「グラスハートさんって人を捜そうと思ってね……というか埋めようと思ってね」
何か思うところがあるらしい寒凪。割と本気。
「土の中は温かいからダイジョウブ、埋めたら賢木さんに一報入れてあげよう」
見つかったら死ぬ。そんな危険キャラが徘徊する園内で、グラスハートは生還できるのだろうか。
ジャックは大人しく桜を刈ることに。
持ち込んだ高級お弁当を開け、とにかく食う。桜に目もくれず一心不乱。
案の定、根が地を走ってジャックを捕らえ、幹まで小さな体を引き寄せた。
「テメェ等オレのサクラと同じ名前でややこしいんだよ、とっととくたばっときやがれ、キヒヒヒ!」
朱里双釵を振るい、ジャックは接近できた幹を次々と破壊していく。
「要は桜を見ないで楽しめば良いって事だろー! よし花見しようぜー!」
酒を取り出して馬鹿騒ぎをするのは千颯。確かに今回の桜の処理には正しい方法で、ちゃんと仕事してると言えるんだけど。
何故だろう。何か違う気がする。
だが彼の目的はどうあれ、桜はしっかり千颯に反応した。
うねうねにゅるにゅる。根が千颯の体を捉える。
「お? お? ちょっとこの根っこ動きがいやらしいぞ~?」
(「いや……それはお前が酔っているのでは無いでござるか?」)
桜そっちのけで酒を飲みまくる。従魔とか関係ない!
だから根っこに捕まるたびにグリムリーパーで幹を両断しているのも、花見の邪魔をするんじゃねえ的なそんなノリだった。
飲んで飲んで、飲まれて斬って。
そういうことを続けていると妙に気分も高まっちゃって。
となると脱ぐしかないんです、この人。
「ここは必殺の完全開放(フルオープンパージ)だぜ!」
ばーんと己の全てを開放する千颯。説明しよう、完全開放とは至上のブリーズ感を得られる代わりにポリスのお世話になるかもしれないという危険な技なのだ。
良い子は真似してはいけない。
(「させないでござるよ! この馬鹿もんが!」)
っていうか悪い子も大人もダメだから。鉄壁の倫理基準、白虎丸が千颯の精神乗っ取る勢いで阻止する。彼が前科者になったら奥さんに合わせる顔がない。
「白虎ちゃんにオレちゃんが止められるかな……!!」
(「千颯を朝刊の社会欄に載せるわけにはいかないでござるよ!」)
「どこでそういうの覚えたのよ白虎ちゃん!?」
せめぎ合いの結果、半裸になった男はたくさん従魔に捕まったそうです。二重丸。
千颯の様子は平介にはとても楽しそうに見えた。加勢する必要ないだろうと判断。
では何をすべきか。平介は考えて、皆が従魔を倒しやすいように桜に捕らわれている人を解放できないかと試すことにした。
大人しく桜鑑賞しながら近づけば、案外簡単に木に接近できそうな気がする。ということで咲き誇る桜を見上げながら、のんびり歩く。
「満開ですねー♪」
地面でウネウネと根は踊っているが、平介に絡みつく気配は無い。いけるっぽい。
するするっと幹に迫ると、捕まっていた青年が助けを求めてきた。
「大丈夫ですか? 苦しくはないですか?」
「は、はい……何とか」
「とりあえずここから離れましょう♪ 桜鑑賞をしに来たってこの木にちゃんと伝えれば大丈夫なはずです」
耳打ち。青年は「桜が綺麗だなー」と言ってみる。
何度か。割と大きな声で。
けどダメみたい。多分1度捕まったらダメなのだろう。
「仕方ないですね……」
斬っちゃいましょう、と平介は笑みながら疾風怒濤を繰り出す。結局は全部の幹を壊して回るしかなさそうだ。
平介と同様の方法で、哭凰も桜への接近を果たしている。充分に近づいたところで銃口を突きつけ零距離射撃。確実に仕留めていく。
従魔憑きか不明な場合は鉄パイプで小さく傷をつけてみる。無傷なら従魔というわけだ。
「これ従魔を倒すのはいいんだけど、地上に出てきてる根っことかどうしようか」
(「元に戻ってしまったら伐る訳にも行きませんし放置するしかないですねぇ。まぁものによってはアスレチックとかになるんじゃないでしょうか?」)
「従魔はがしても花見公園としては致命傷だね、これ」
さようなら花見公園。アスレチック花見っていうのも良いかもしれないよ!
桜の駆除に仲間たちが奮闘する傍ら、環は園内をぶらぶら歩いてグラスハートを捜索していた。
SOSメールを連発していることから相手は電話を使えない状態にあると推測し、変態の端末に投げかけるのは専らメールだ。自分にメールさせれば支部への問い合わせも減るだろう。
『H.O.P.E.だ。助けに来た。埋まっている場所は大体どの辺だ』
明瞭に用件だけ書き記したところ、2秒で返信が来た。指どうなってんだ。
『わかんにゃいよぉぉーーーーー!!』
『帰るわ』
『待って! わかんないの本当! でも周りに桜が少なかったと思う! たすけて!』
『んじゃ地面を5回蹴りながら捜していくから、気づいたらメールしろよ』
『待ってるゾ☆』
内容に若干いらつきながらも、環は桜が比較的少ない場所を探して地面をノックする方法で、変態の居所を探っていく。土中の相手を捜すには有効だろう。
もちろん桜に狙われないように、至って真面目に桜鑑賞しているフリをしながらだ。
上手いこと桜に捕まらずに探索できているが、返事がなかなか来ない。
「マジで埋まってんだろうな……」
(「もう養分になってんのかもなー」)
てくてく。辛抱強く地面を蹴り続ける。
位置を変えるかと移動しようとした時、環の端末に反応あり。
『聞こえたゾ☆』
『帰るわ』
『本当にお願いします。助けて下さい』
変態発見。軽くからかってから環は仲間に連絡を入れる。
『承知しました、すぐに向かいます♪』
環の連絡を受け、平介は従魔の相手を切り上げてグラスハートを救いに行くことに。
「少し待ってて下さい、すぐ戻ります」
「ちょっ!?」
幹に巻きつけられた救出中の人に一言。相手は完全に慌てている。
「大丈夫です。この桜、人を傷つける感じではないので♪」
ポン、と肩に手を置いて。曇りない笑顔で安心させて。
去った。無情。
「先に見つけられてしまったか、残念!」
エネミー寒凪はグラスハートを葬り去ることは諦め、仕方なく桜の駆除を始める。
「確か桜を無視したら強制だっけ? じゃあ私のこのシャベル愛を!」
(「アブナイ人扱いされるんじゃねーのかー?」)
「厳冬に言われちゃうくらいなのか……仕方ない、移動売店しよう!」
彼が思いついたのは、花見客目当ての商売人に扮すること。まさに桜に興味ない人種。あつあつおでんに紹興酒「仲謀」等。品揃えはそれっぽい。
更に鉄扇を使って小噺をしながら歩く。客寄せのため。自由に動ける人いないから誰も来ないのだけが悲しい。
するりと木に捕まれば、その都度ザクッと幹を刺す。実害なくても気持ち悪いからさっさと駆除。
「これじゃ物足りないな……また伐採したいなぁ」
ザクザク桜を刺しながら、寒凪は存分に力を振るえる依頼が来るのを待ち焦がれる。
(桜を侮辱すりゃいいんだよな……?)
グラスハート救出のために木の根を引っ張り出そうと考え、環は妙案を思いつく。
そしてそれは、仲間たちがいない今しか出来ない!
「やべ、漏れる~! もう無理~ぃっ!」
騒ぎながら桜の木に放尿。するフリ。モノはギリギリ出てない。大丈夫。
しかし桜にとってこれほどの侮辱はない。小便かけるとかマジ許さんよ?
ってことでガバーッと根が環めがけて立ち上がる。もうわさわさ。
一緒に根に囚われたボディスーツの変態も出てきた。天高く上がったぶっとい根に引っ付いてる。
ちょうど到着した平介や守凪、佐千子も、情けなく根に吊られてブラーンとしている姿を見止めた。
「……馬鹿じゃないの?」
佐千子のド直球。けど距離が遠かったので変態の耳には届かなかった。届いてたら面倒なことになってた。
「とにかく救い出してやるか……」
「そうですね♪」
守凪と平介が根の大元の幹を壊し、怪盗はドサッと落下してきた。どうやら無事な模様。
「サンクス! ほーぷマジ希望!」
陽光って素晴らしい、とばかりに元気ハツラツなグラスハート。何か頼りなさそうだけど足しにはなるだろ、と環はグラスハートに協力要請をする。
「今ちょっと面倒なことになっててな。従魔退治を是非手伝ってもらいたいんだ。大怪盗のあんたなら必ずやってくれると信じてるぜ!」
「大怪盗とか照れるな! よぉし俺についてこぉい!」
腕を掲げて振り、率先して桜退治に向かう怪盗。一同もついていってあげる。
「そう言えば……グラスホッパー1号さんって自称怪人、じゃなくて怪盗だったわよね? 捕まってる人たちを、さくっと盗み出したりとか出来ないの?」
(「なるほど、それがちゅうにりょくか」)
佐千子の素朴な疑問。ついでにリタの間違いだらけの日本語辞書も更新。
「今日は非常に調子が悪――」
よし、無視しよう。
佐千子は馬鹿を放って活動開始、弁当食べるフリで華麗に根っこに抱き上げられた。
「あら、やだ。誰かに抱きかかえられるなんていつ以来かしらね。ドキドキするわ」
体重3桁超えの乙女はちょびっと気分を高ぶらせる。
(「さほどダメージは無いようだな。――気は済んだか? さっさと降りるぞ」
「……何よー、もう少し浸らせてくれてもいいじゃない」
(「……サチコ」)
「わ、分かったっわよー。あー、もう」
リタが悲しい目を向けている気がしたので、大人しく従う。
「ごめんなさい。構ってくれるのは嬉しいのだけど……私なんて、止めておいた方が良いわよ? 私、良く……重い女、なんて言われるもの。ええ。めっさ重いわよ。めっさ……!」
強烈な怨嗟がこもる呟き。過去に手ひどいことを言われたのかもしれません。
「プークスクス! 重い女なんて、まるで愛が重いって言われてるみたい!」
ポンコツ怪盗の心無い茶化しに、ブチッ、と彼女の何かが切れた。
佐千子は全ての装備品を幻想蝶から召喚し、展開。発生した体積により体に絡みついた根との間に隙間を作り、脱出する勢いで幹にライヴスガンセイバーを突き刺す。淀みない動きで従魔を消滅させた。
続けて他の桜からも根の触手が向けられるが、ガンセイバーの銃身で受け止め、刃で軽く斬り飛ばして進む。
ポンコツをこの世から消すために。
「すまんかった。いやホントにマジで出島! 地中に戻そうとしないで!」
白旗上げて謝り倒す怪盗。
見過ごすわけにもいかないので、平介は佐千子をなだめて変態を救ってあげることに。
「気を静めて下さい鬼灯さん。桜の木の下に死体なんてピッタリですけど、彼も悪気があったわけではないですよ、きっと」
「そうだよ! 悪気なかった、きっと!」
「便乗してんじゃないわよ変態……!」
平介の庇護を得て息を吹き返したグラスハートは、温情を賜ることは出来たようです。
「何が希望よ! むしろ絶望!」
文句を言いながら土中から這い出るグラスハート。彼はもっと優しい接し方を期待していたようだ。
しかし期待とは裏切られるもの。出てきてバッタリと顔を合わせるのは、哭凰。
せっかく変態の精神を傷つけないために近づかないようしていたのに、土中から来られてはやるしかない。
ということでわざわざ共鳴まで解除して、十七夜さん発現。
「あらあら、これは生きのいい死体ですわね。いえ……動いているのでゾンビになるのでしょうか」
「ハッハッハ、そうなんですよ。怪盗とは仮の姿、その正体は生きのいいゾンビ……ってデジャヴゥッフッ!」
精神的に吐血どばー。変なうめき声を発しながらノリ吐血をしてしまうグラスハート。無意識の口撃って恐ろしい。十七夜さん恐ろしい子。
「生きのいいゾンビや死体ってどうなの……」
悶え苦しむ変態の横で微笑みを絶やさない相棒を見ながら、哭凰はとりあえずツッコミを入れておく。
「このゾンビさん葬送してあげないといけませんわね」
仰向けでピクピクしてるグラスハートを指して、十七夜が哭凰と話し込む。
「火葬か土葬かな」
「うふふ、従魔の木が暴れていた現場ですし、風葬や鳥葬なんていかがです?」
もうどんな葬り方がベストかって話題になってる。やめてまだ生きてる。生きてて2人の話にぷるぷる震えてる。
「ただでさえ従魔が暴れて人が離れてるんだからやめてさしあげなさい。そもそも日本じゃ鳥葬は死体損壊罪に抵触する可能性があるから、やるなら中国まで運ばないと」
「今なら香港に送り出せば愚神に葬ってもらえるかもしれませんわね」
「死体に反応するかしら?」
「死んでない! 生きる!」
芋虫のような動きで這いつくばって脱出する変態。これ以上2人の傍にいては殺られる、と本能的に察知したようだ。
しかし、ウネウネと逃げる変態の前に悪魔が立ちはだかる。
「よう変態野郎、キヒヒ!」
「その口調……げぇっ! 悪いコ!」
素っ頓狂な声をあげるグラスハートに対し、悪いコは朱里双釵を突きつけて。
「オラ、助けてやったんだからちゃっちゃか働けや変態野郎。サボったら玉無しにすんぞコラ」
「やめて! その姿で変態と呼ばないで! あと私生きる! あと玉も生きたい!」
慌てて立ち上がって桜の撃破に加勢するグラスハート。
精神的ダメージのせいで足取り乱れ、1m進むのに5秒ぐらいかかってるけど必死です。
見るに見かねて守凪が歩み寄り、言ってやる。
「……ふん、疲弊しているだろう、また捕まっても面倒だし休んでいろ」
「君はいつぞやのぼっち……」
「な、何を言っている……。俺はぼっちなどではないぞ、決して……!」
ぼっちじゃない。断固拒否。
「とにかく、貴様はその辺りで休んで……」
休息を促すも、変態は小さく震えて、一向にその場を動こうとしない。
更に、何かを訴えるようにマスクが守凪を見つめている。
「どうし――」
守凪は言いかけて気づいた。グラスハートの背後に、朱里双釵を突きつけているジャックがいることに。さっさと働けや、と言わんばかりにジャックがツンツン背中をつついているのです。
「……働けばいいの、休めばいいの!?」
板ばさみ。どっちを選んでも軋轢が生じるね!
「そ、そうか……。すまなかった、存分に働くといい……」
「うん! はたらく!」
涙。半ばヤケクソになって変態は桜の木々にその身を投じる。
生きるため、そして玉を守るために。
ちなみにエージェントたちの精神攻撃を受けてボロボロだったグラスハートはクソの役にも立たなかったようです。
●かえる
従魔の駆除は済んだ。後はこの変態どうする、ってことだけ。
「終わったんなら帰れや、変態野郎。お前馬糞と同じ臭いがすんだよ」
ジャックは鼻を摘みながら無慈悲な罵倒。真顔っていうところが堪える。
「エグすぎるよジャックちゃん!? 確かに土の中にずっといた所為か変な匂いするけど!」
「確かにって何!? 何かデジャヴ!」
説明を求めてグラスハートがすり寄ると、咲良はスススッとジャックを盾にして隠れる。相手は変態だし仕方ないよね。
「フォローしてんのかトドメ刺してんのかどっちだよ? キヒヒヒヒヒ!」
めっちゃ悪い笑顔のジャック。
「かえろう」
寂寞たる背中を見せつけて、変態は帰ろうとする。
だがこのままでは忍びない、と平介はグラスハートの肩を叩き、笑顔を向ける。
「せっかく桜が咲いているのですから、グラスハートさんも花見していきませんか? 私たち、帰る前に桜鑑賞でもしながらお弁当食べようかと思っていたんです」
それは嘘ではなく、実際に平介は任務が終わってからメンバー全員にコンビニで買った飲食物を配っていた。
「は、花見……! で、でも私、馬糞の臭いするし……」
「桜の花びらたくさん落ちてますし、その辺りをゴロゴロすれば、桜の香りで臭いも取れるのではないでしょうか?」
「天才か!」
変態は降り積もった桜の花弁にダイブ。言われるままにゴロゴロする。馬糞と言われた体臭を消し去るべくそれはもう必死でゴロった。
彼が消臭を終えると、佐千子が平介に頼まれて弁当を届けに近づいてきた。鼻は摘んでない。
「そういえば……あなた、一応ヴィラン扱いされているみたいだけど。――そうなの?」
「……」
弁当を渡しながら、佐千子がぽつりと尋ねた。彼がヴィランだとしたら彼女はこの憎めない男を見過ごすわけにはいかなくなる。
どうか――と念じた時、グラスハートが口を開いた。
「え、マジで……?」
初耳だったらしい。やはり阿呆、騒がせはすれど人に害をなす存在ではなかったようで、佐千子はホッとする。
「前科ついちゃう……」
犯歴を気にする怪盗。
「そんなの気にしちゃダメだぜー?」
知らぬ間に傍まで来ていた千颯がチッチッと指を振る。
「そんなんじゃ生きてくの大変っしょ? よし、ここは一緒に完全開放(フルオープンパージ)だ! そうする事で君のその繊細なハートも強化されるんだぜ!」
「変な事を吹き込むのはやめるでござるよ千颯! いいでござるか、いくら繊細すぎて全く怪盗らしくないとしてもグラスハート殿も一生懸命生きているのでござるよ! 根っこに捕まって呆れる程助けを求めて若干引かれたとしてもそれでも一生懸命なのでござるよ!」
「白虎ちゃんストップ! グラスハートちゃんのライフはもう0よ!」
白虎丸の天然口撃を制止する千颯。変態はやっぱり吐血どばーです。
悪気ゼロだけど完全にグラスハートの紙メンタルを抉りまくっていた白虎丸。白虎ちゃんも恐ろしい子。
そして別方向からの追撃も重なる。グラスハートと何か話して友達になれたりしないだろうか、とソワソワしていた守凪がタイミング悪くやってきてしまう。
いや守凪自身は問題ないのだけど、相方がまずい。
「ねぇねぇ、ぼっちでお花見してたのぉ? カミナと同じでぇ、友達いないんだねぇ?」
「「ぐっ……」」
抉りこむように言うべし。守凪とグラスハートが同時に胸を押さえる。
守凪が喋りかけるよりも先にカミユが口撃してしまい、変態は悟った。
「花見しにきたわけじゃないし! 土盗みに来ただけだし!」
マスクの顎辺りから大粒の涙をこぼしながら、グラスハートは駆け出していった。
おうちかえる。彼の決意は固く、全速力で離れていった背中はあっという間に見えなくなった。
「……話せなかった、な……」
「そのほうがカミナのためなんじゃなぁい?」
グラスハートを見送った守凪の寂しそうな背中を見て、平介は優しく声をかけてあげ、いつの間にか始まっていた花見の宴に誘うのだった。
結局グラスハートは何をしたかったんだ、という話になったのは花見を終えて帰る頃だったらしい。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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