本部

絵本の少女はもういない

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/13 17:43

掲示板

オープニング

●絵本の世界
一人の絵本作家がいた。
彼女は、人里離れた田舎で自分の作品を作っていた。彼女が作り出す物語は、すべて幼い頃に亡くなった妹に読ませたかった話ばかりだ。
「戦う小さな女の子……蛇のお城に囚われたお友達を助けにいくの」
 愚神に取りつかれた女性は無自覚に、今日も話に登場する従魔を生みだして行く。
 女の子の友人を守る、蛇の敵。
 女の子の友人に惚れて誘拐してしまった、敵の親玉の男。
 友達を助けに行く、主人公の女の子。
 主人公を待ち続ける、女の子の友人。
 絵本作家が物語を作れば、登場人物たちが従魔になって踊り出す。いつのまにか、絵本作家のアトリエは従魔が支配する家となった。

●真っ赤な女の子
「先生……原稿を受け取りに参りました。ミユキさん」
 原稿を受け取りに来た編集者が、古い日本家屋に足を踏み入れる。絵本作家のミユキが購入した際に多少の修理はおこなわれているが、それでも耐久年数を超えて使用し続けられている家は今にも壊れてしまいそうだ。編集者の八木はミユキと公私共に長い付き合いであったが、彼女と知り合った当初からミユキはこの家で暮らし続けていた。
「ミユキさーん」
 縁側から庭をのぞいてみると、蛇がうねっていた。
 後で業者を呼んで駆除して貰おうと思って視線を戻すと、目の前には赤いワンピースを着た少女が笑っていた。ふわりと微笑む少女には、見覚えがあった。ミユキが大事にしている家族写真に映っていた、今は亡き彼女の妹の姿。恋人の八木にもあげることができない、と言っていたミユキの唯一の宝物。
 編集者が振りかえると、そこにはうら若き絵本作家がいた。とても嬉しそうに微笑む彼女は、優しい姉の顔をして妹を後ろから抱きしめる。
「ねぇ、見て! 八木さん!! 妹が……絵本のなかにしかいられなかったあの子が生き返ったですよ。あなたと私が結婚すれば、この子はあなたの義妹になるのね」
 茫然としている彼が物音に気がついて振り向くと、そこには騎士の恰好をした少女がいた――。彼女は剣を抜くと、八木に切りかかろうとした。

●現実は助けを待つだけ
「もしもし、HOPEですか! ウチの看板作家の家に従魔が出たんです!! 早く、早く、退治してくれ!!」
 編集者の男は祈るような気持ちで、携帯の電源を切った。今は身を隠せているが、携帯の着信音などで居場所がバレてしまうのは避けたいことだった。古い日本家屋の敷地内にある蔵に隠れてはいるが、従魔の力では簡単に壊されてしまうだろう。
「いててて……」
 男は、負った傷に触れる。
 後ろから切られたが、背中の傷は深そうだ。だが、動けないほどではない。HOPEから助けがきて、大体の従魔が倒されれば八木はここから逃げるつもりであった。
 八木がここにいれば、ミユキが八木を攻撃したことがバレてしまう。それはミユキの人生に置いて大きいなマイナスになるし、なにより恋人に怪我をさせたという真実を彼女だけには知らせたくなかった。
 会社にも周りにも伏せていたが、八木とミユキは恋人同士だった。
 八木は、懸命に祈る。
 優しい恋人に、人殺しの汚名を着させないために。

解説

・従魔および愚神の討伐

・日本家屋……広くボロい、日本家屋。人里は離れた場所にあり、日中のために視界は良好。手前から、玄関、広間、私室、仕事場となっている。玄関と広間には大きな荷物はなく、私室もベットと机があるのみ。仕事場は本や画材が溢れかえっており、足の踏み場もない状態。少し離れた場所に大きな蔵が建っている。

・従魔(蛇、赤いワンピースの少女、騎士の少女、敵の男)……ミユキの絵本の登場人物。縫いぐるみなどに、従魔が憑いたもの。
 ・蛇……玄関と蔵周辺、仕事場に多数出現。三十センチほどであり、素早く動き首に巻きついて窒息させようとしてくる。
 ・赤いワンピースの少女……広間に出現する。攻撃力はないが、彼女が現れるとPLの後ろから騎士の少女が出現する。騎士の少女が不利になると、一回限り自分のライヴスを使用して騎士の少女の体力を回復させる。回復終了後に赤いワンピースの少女は消えてしまう。
 ・騎士の少女……広間に出現する。剣による攻撃が主となり、魔法攻撃などは鎧で防いでしまう。赤いワンピースの少女に体力回復の支援を受けると、攻撃力が徐々に上がっていく。
 ・敵の男……私室に出現。黒い鎧を着ている。赤いワンピースの少女が倒されていると騎士の少女同様に攻撃力が上がって行く。武器は斧。一定時間をすぎると、仕事場へと向かってしまう。

・ミユキ(愚神)……絵本作家。本人は自分自身に愚神がついたとは思っておらず、夢を見ていると思い込んでいる。仕事場に出現している蛇の一部を徐々に巨大化させて、少しずつ攻撃力をあげる。また、敵の男が仕事場までたどり着くと、彼にも剣を巨大化させて、さらに攻撃力をあげてくる。

以下、PL情報

・八木……ミユキの恋人。蔵に逃げ隠れている。発見されたり、PLが従魔を全滅させると蔵から逃げだそうとする。なお、本人は緊張のために気がついていないが、かなりの重症を負っている。

リプレイ

 騎士の少女には、赤いワンピースがよく似合うお友達がいました。
 二人は、ずっと一緒に遊んでいました。
 けれども、黒い甲冑の男が赤いワンピースの少女をさらってしまったのです。
 騎士の少女は、お友達を取り戻す為に蛇が守る城へと向かいました。

●玄関
『絵本作家さんの家だから、もっと可愛い外見だと思ったのに……』
 年季がかかっている日本家屋を眺めて、伊邪那美(aa0127hero001)はそんな感想を漏らした。集まったリンカーたちの感想は、似たり寄ったりだ。
「たしかに、絵本というとパステルカラーの可愛らしいイメージですよね」
 九字原 昂(aa0919)も、うんうんと頷く。
 小さい頃に読んだ絵本は、どれも柔らかい色合いだった記憶がある。
『また、壊れそうなお家なのね……。壊さないでよ、こーちゃん』
 稲穂(aa0213hero001)は、脳味噌が筋肉で出来ている噂の忍者―小鉄(aa0213)に注意をする。しかし、帰って来たのは「……善処するでござるよ、うむ」という何とも頼りないものだった。
『家主の絵本作家とやらと、通報者の安否が気になるな』
 ナイン(aa1592hero001)は淡々と語るが、通報者の行く末はリンカーたちの心配の種でもあった。かかってきた番号にかけ直して見ても電話が繋がらないということは、すでに最悪の事態が起きている可能性もあったからだ。
「うん。どんな状態かは分からないけど、助けは必要だと思う。行こう、ナイン」
 楠葉 悠登(aa1592)は、拳を握る。たとえ何が待っていようとも、助けを求められているのならばいかなければならない。
「もし、通報された編集者の方が傷を負っているのなら血痕を辿れないでしょうか?」
 従魔が出現した家に入って一般人が無傷でいるとは思えなかった月鏡 由利菜(aa0873)の提案に、「そうだね、由利菜さん。大人が隠れられそうな場所と合わせて、探して見るよ」と悠登は頷いた。
 石井 菊次郎(aa0866)は、事前に調べてきたミユキの作品やインタビュー記事のことを思い出していた。彼女は独特の世界観で、少しばかり名を知られた絵本作家だった。絵本の対象年齢こそ若干高めだが、戦いそして成長する女の子の物語は教育機関でも読み聞かせなどで使用されることがあったらしい。
『妹がいたんだったか?』
 テミス(aa0866hero001)の言葉に、菊次郎は頷いた。
「もう、何年も前に病で亡くなったそうですけどね」
 亡くなった妹についてのインタビュー記事は少なく、だからこそミユキが妹の死を未だに乗り越えていないのではないかと言う疑問が深まった。少なくとも、菊次郎はそのような印象を受けたのだ。
『ね、芽衣。いまのアリスちゃんの気持ちわかる?』
「懐かしい、だね。ミユキ先生の夢を終わらせてあげよう」
 北里芽衣(aa1416)は、隣にいるアリス・ドリームイーター(aa1416hero001)の顔を覗き込む。
『芽衣がアリスを変えてくれたみたいに?』
「アリスが私を、救ってくれたみたいに」
 二人は頷き合い、絵本の世界へ入る決心を固めた。
「行くぞ」
 御神 恭也(aa0127)が先頭に立ち、日本家屋らしい玄関の扉を開ける。
「絵本なら、もう少しファンシーなものが出てきてもいいんじゃないかなぁ……。クマとかウサギとか」
 昴が言うのも無理がないというほど、玄関には蛇が溢れていた。田舎だからという理由を差し引いても、数が多い。ここに彼らの巣があることは疑いようがなかった。
「たしかに、やたらと蛇の数が多いな……なにか、理由があるのか?」
 蛇に対して構えをとりながら、恭也が呟く。
『う~ん。守り神って感じじゃないから、西洋的な悪魔の化身的な感じかな』
 伊邪那美はそう分析したが、敵であることには間違いなかった。
 そんなとき、ちょうど彼の死角になる位置から蛇が忍びよろうとしていた。だが、恭也はその蛇を踏みつぶす。
「悪いが、早めに決客をつけさせてもらう」
 ――怒涛乱舞。
 恭也のスキルが発動した。

●居間
「室内にこんなに従魔がいると……通報者が隠れられる場所は少ないよね。小鉄さん、俺たちは屋外を探そうよ」
 悠登は、子鉄に声をかけた。
「拙者は癒しの術を心得ていらぬ故……頼らせて頂くでござる」
 悠登と小鉄は、一度屋外に出た。
 由利菜たちは、玄関にいる蛇の従魔を殲滅させてから広間へと向う。恭也と昴たちはすでに別行動を始めており、この場にはいなかった。彼らは先に、さらに奥にある私室へと向かったのである。
 真っ赤なワンピースを纏った少女が、リンカーたちの前に現れる。
 溌剌とした姿をただ見せるだけで何もしない少女に、由利菜たちは警戒心を強めていた。
「きゃあ!」
『ユリナ、後ろだ!!』
 由利菜は背に、衝撃を受ける。振り向けば、由利菜の後ろには剣と甲冑で武装した少女がいた。その姿は、騎士である。
「由利菜さん!」
 芽衣が、先輩である由利菜を気遣う。だが、後輩に心配はかけられないと由利菜は気丈に振る舞った。芽衣はその姿に、静かに頷く。由利菜は、従魔になど負けはしない。ならば、自分たちは自分たちの役目を果たすのみである。
『メイ殿たちは、先にミユキ殿のところへ向かったのだな』
 芽衣の後ろ姿を確認した、リーヴスラシル(aa0873hero001)が呟いた。
「菊次郎さんも同行するから大丈夫だと思うけど……私たちも従魔を倒したら向かうわ」
 後ろからの不意打ちを食らってしまったが、致命傷というほどのものではない。なにより、騎士として契約を結んだ二人は騎士の少女に思うところがあった。
「……あなたは、本の中で読む人々の心を動かす存在。外で、人々を傷つけてはなりません」
 由利菜は、レーヴァテインを構えた。
 騎士の少女も、己の剣を構える。
 由利菜と騎士の少女は、互いに合図などせずに同時に床を蹴る。二人は互いの顔が触れ合うほど近づき、剣と剣とを交差させていた。由利菜が騎士の少女を振り払うも、騎士の少女はなおも噛みついてくる。二人の剣戟は空気を震わせ、キンと澄んだ金属音が日本家屋に響きわたった。由利菜は早期に決着をつけるために、ライヴスブローを使用する。ライブスを纏わせた剣が、騎士の少女を貫く。しかし、騎士の少女を手助けする存在があった。
 赤いワンピースを身にまとった少女だ。
 ワンピースの少女が祈るような仕草をすると同時に、騎士の少女の傷はふさがっていった。ワンピースの少女の姿も消えていく。
 再び騎士の少女は、由利菜と剣を合わせた。直接剣を合わせた由利菜は、騎士の少女の攻撃力があがっていたことに気がついた。
 今の攻撃より、次。
 次の攻撃より、その次。
 どんどんと敵の力は、上昇していく。
 それでも由利菜とラシルは、負ける気などしなかった。
『……愚神に心を奪われた騎士では、私たちを倒せん』
 ラシルの言葉に煽られたように、騎士の少女はさらに踏みこんでくる。騎士の少女には、由利菜とラシルしか見えてはいなかった。
 それは、決定的な隙となった。
『回復しちゃったのかな?』
「そのようだな」
 別の部屋での戦闘を終わらせて駆け付けた恭也と伊邪那美は、騎士の少女に電光石火を使用した。

●私室――少し前――
 私室は、実にシンプルであった。ベットと机だけが置かれており、寝るためだけにミユキはこの部屋を使用していたようだ。そのシンプルな部屋に、似合わぬ男がいた。
 黒い甲冑姿の禍々しい男は、分かりやすいほどに悪役の姿をしていた。
 ここに来る途中で、恭也たちは書きかけの原稿を見つけていた。原稿と言うよりは作品のメモのようであったが、それによるとミユキの最新作は黒い甲冑の男にさらわれた友人を助ける少女の騎士の話らしい。残念ながら話しのラストまではメモでは分からなかったが、『ハッピーエンド必須』という走り書きがなされていた。
「室内で、大型の武器は適さんよ」
 黒い甲冑の男の武器は、斧であった。男は、黒光りする斧を恭也に向かって振り下ろす。恭也はその攻撃を避け、時には受け流した。チャンスは巡ってくるはずであり、恭也はそれを掴むために耐えた。黒い甲冑の男は、斧を振り上げた。恭也は黒い騎士の腕に、突きの攻撃を当てる。威力は期待していない攻撃ではったが、その突きは騎士の男の攻撃の軌道を変えた。騎士の男の斧は、日本家屋の柱に突き刺さった。
『……家屋に被害が出る前に倒しちゃおうよ。屋根に潰されるなんてやだよ、ボクは』
 伊邪那美の言葉を聞きつつ、同感だと恭也は思った。
 だからこそ、鎧のつなぎ目を狙って疾風怒濤を発動させる。
 手ごたえはあったが、鎧の男を倒すにはまだ足りないらしい。よろめく鎧の男を警戒していると、突然に鎧の男が走り出した。恭也はその動きについていくことができなかったが、鎧の男の足止めに成功した者がいた。
 昴だ。
「易々と絵本の世界に侵食されるほど、現実世界は軽くないですよ」
 投げたハングドマンの鉄線が、鎧の男の足に絡まる。
 さらに女郎蜘蛛を発動させ、相手の動きを決定的に封じることに成功した。
「僕たちの役目は、あくまで足止めですよね?」
「ああ。だが、倒せるならば倒すべきだ」
 動きの止まった鎧の男相手に、再び恭也が疾風怒濤を食らわせた。
「物語的に言えば、これでめでたしめでたしって感じかな」
 昴は倒れる鎧の男を眺めながら、そんなことを呟いた。


 菊次郎は拒絶の風を使いつつ、最奥の部屋にたどり着いた。片付けられていたというよりは物が少なかった他の部屋とは違い、仕事部屋には物が多かった。本や画材が溢れかえり、足の踏み場もない。そして、その画材の陰に隠れるようにして蛇がいた。女性の部屋とは思えぬ光景であった。
「あなたが、ミユキさんでしょうか?」
 菊次郎は、机に張り付いている女性に話しかけた。名を呼ばれた女性は、ゆっくりとした動作で菊次郎の方を見た。どこかぼんやりとした表情で、家の中が従魔で溢れかえっているにしてはあまりに余裕がありすぎた。
 従魔の姿は、その全てが彼女の絵本に出てくる登場人物に似ていた。どうやら、彼女に愚神がとりついて自分の作品の登場人物に疑似的な命を与えているようだ。
「ミユキ先生、ミユキ先生の夢を私たちは終わらせにきました」
 芽衣の言葉に、ミユキは首をかしげる。
「夢……?」
 室内をはいずる蛇たちが、徐々に大きくなっていく。
 芽衣は向かってくる蛇にゴーストウィンドを使用し、退けていた。
「絵本の世界も夢の世界も、とても幸せですよ。私も、アリスも、ずっとずっとそこにいたかった。……いなくなった家族に会える夢なら、ずっとそこにいたかった」
「これは、夢なの……?」
 未だに自覚はないのか、ミユキはぼんやりとしていた。
 月欠ノ扇に持ち替えた菊次郎は、ブルームフレアで蛇を焼く。心なしか、蛇はだんだんと強くなっていく。
「これは夢ではなく現実です。あなたが、従魔を生みだしているんです」
「私が……従魔を」
 彼女は、書きかけの原稿を眺める。
『自覚がないのか。随分と都合がよい夢を見ていると思い込んでいるようだな』
 テミスは、ミユキの様子からそう判断した。
 菊次郎も同じ判断である。
「妹さんのために絵本を書かれていたんですよね」
 芽衣の言葉に、ミユキは頷く。
 インタビューでも、ミユキはそれを語っていた。早世した妹に読み聞かせるたかった作品を作っていると。
「妹さんをモデルにした赤いワンピースの少女が、既に滅んだと言ったら信じますか?」
「え……」
 菊次郎の言葉に、ミユキは目を瞬かせた。
 菊次郎は前もって、仲間に連絡をつけていた。彼らは、赤いワンピースの少女の撃退に成功したらしい。
「ヌイグルミなどに従魔が憑いて、あなたの物語の登場人物は動きだしました。今、私の仲間が戦っています。あなたが妹に語りたかった物語は、こんな戦いの物語なのですか?」
「違う。私は……あの子が聞いてたら、ドキドキするような話しを」
 ミユキの瞳から、ぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちる。
「……ミユキ先生、夢の中にいる『家族』は、生きていた頃みたいに、私達を、抱きしめて、笑顔をむけてくれてくれた、本当の家族じゃないんです。ずっとずっといて欲しかった、あの人達じゃないんです」
 会話の間にも強くなっていく蛇を、芽衣は退ける。
 それでも会話を続けるのは、自分とアリスと同じように家族を亡くしているミユキの痛みを和らげたかったからである。
「苦しいのも、痛いのも、泣きたいのも、すごく……すごくわかるけど。残された私たちが夢の中の家族を本物にしちゃったら、ずっといて欲しかった本当の家族が悲しむじゃないですかっ!」
 蛇の攻撃力は、最初の頃とは比べ物にならないほどに上がっている。
 一撃一撃が重い攻撃をかわしながら、それでも芽衣はミユキに語りかけた。
「私が、この夢を弔いますから。先生についた愚神と一緒に」
 芽衣は、幻影蝶をミユキに向けて飛ばす。
 それとほぼ同時に、従魔を倒して駆け付けた由利菜のライヴスブローが発動した。
 二人の攻撃が、ミユキと愚神を引き離す。
 愚神の姿をみた菊次郎は、サングラスを外した。鮮やかであり、異形でもある紫の目をさらした彼はミユキと離れたばかりの愚神に問うた。
「この瞳を知りませんでしょうか?」
「知らないが……そういう従魔を出してやろうか」
 愚神が笑う。
 どうやら、本当に知らないようである。
 菊次郎は再びサングラスをかけ、武器を握った。
「ミユキさんの想いを弄んだ罪は……私達が裁きます!!」
 由利菜の宣言が高らかに響き渡った。


「遮るものは何であろうと、切り捨てるのみでござる」
 屋外に出た小鉄は、蔵の付近に集まっていた蛇の討伐に当たっていた。早期に通報者を見つける必要はあったが、こうも従魔が多くては危なくてしかたがない。
「早々に退場して頂くでござる」
『急いでいるの、ごめんなさいね』
 怒涛乱舞を発動させながら、子鉄は悠登の足もとに蛇が這う姿を見た。普通ならば、届かないと思う距離であろう。しかし、子鉄は技を持っていた。
「……そこも拙者の刀の届く距離でござるよ」
 小鉄の烈風波は、悠登の足もとにいた蛇を切り裂く。
「ありがとう、子鉄さん」
 悠登は、きょろきょろとあたりを見渡す。蔵の周りの蛇は、あらかた退治で来たようであった。屋外で大人が隠れられそうな場所は少なく、もし通報者が隠れているのならば蔵であろうと悠登はアタリをつけていた。地面の血痕も、ここに続いている。
 登悠は、そっと蔵の扉を開けた。
 突然、なかから誰かが飛び出してくる。
 怪我を押さえながら走る人物を、悠登は呼びとめる。
「待って! 怪我をしてるよ」
『この血の量は……深手を負っているのか?』
 押さえても溢れ出てくる血の量で、彼がけっこうな重傷を負っていることがナインにも知れる。
「待って。このままじゃ、命が危ない。俺に、治療をさせて!」
 悠登の言葉を振りきるように、男は走る。
 小鉄は、そんな男に鋼糸を使用する。威力を弱めた鋼糸は男に絡みつき、その動きを止めた。
「俺たちは、HOPEのリンカーだよ。安心して、怪我を治療させて」
「駄目だ。この怪我が表に知られるわけにはいかない……ミユキに知られるわけにはいかないんだ。表に知られればミユキの作家人生はおしまいだし、ミユキ本人が知っても彼女は悲しむ。俺は恋人としても編集者としても、彼女の足を引っ張るわけにはいかないんだ」
 治療を拒む男―八木は、そう語った。
 悠登は、ケアレイを発動させる。
「八木さんが、作家さんのことを大事に思っているのは分かった。でも、ここで八木さんが亡くなったら作家さんも悲しむ……。両親が亡くなった時の俺みたいに、辛い思いをすると思う。だから、治療するよ。表沙汰にはしない」
 悠登は、小鉄を見る。
 その意をくんだ小鉄は、頷いた。
「お主は怪我などしておらぬよ。拙者はなにも見ていない……これで良いでござろう?」
『あなたの彼女への想いやり、無駄になんてしないわよ』
 治療をすませた悠登は、立ち上る。
「後悔してほしくはないんだ……八木さんにも、作家さんにも。全部が終わるまで、ここで隠れていて」
 悠木たちは、仲間の援護をするために屋敷の方へと走った。もしも、戦闘が終了していなければ手助けをしなければならない。
『あれだけの傷を負っても恋人のために……愛の力ってすごいわね』
 稲穂は感心していた。八木は一般人だが、恋人を心から思う気持ちは誰にも負けていなかった。女性として、少しばかり羨ましいほどに。
「うむ、あの忍耐力は忍びとしてもやっていけるでござる」
 小鉄のずれた言葉に、稲穂は胃が痛かった。
 だが、目がきらきらしているところをみると小鉄は本気のようだ。
『そういう事じゃないんだけど……はぁ』
 

 騎士の少女は、黒い甲冑の男を倒して赤いワンピースの友達を助け出しました。
 赤いワンピースの少女が好きになってしまった黒い甲冑の男は、泣いて暮らしました。その姿があまりに可哀想だったので、騎士の少女は言いました。
「女の子に告白するんなら力ずくじゃダメなのよ。お花と手紙、そういう素敵なものばかりを集めて告白をするのよ」
 数日後、黒い鎧の男は沢山の花と手紙をもって二人の少女の前に現れました。
 手紙には、きっと素敵な言葉が書かれていたのでしょう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
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