本部
掲示板
-
人☆狼ゲーム!!
最終発言2016/04/02 06:02:23 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/29 14:43:49
オープニング
●人狼にご用心
広州市襲撃は続いている。緊急編成されたこのチームが向かうのは、アジア最大級の敷地面積を誇る動物園だ。しかしオペレーターの説明には、不明な点があった。
『もちろん、動物園の避難誘導は既に開始していますが……敵の正体が分からないのです。
プリセンサーが捉えた未来の映像では、暴徒と化した一般人が人々を襲っていました。
しかし、ライヴス反応的には従魔の襲撃と見て間違いありません。
考えられるのは、憑依操作型の従魔……あるいは、変身できる従魔の可能性です』
お気をつけて。そうは言われても、一般人の中に紛れ込んでいるのか否かすら分からないのでは、雲を掴む話で。現場に急行したエージェントたちは無人の園内をとりあえず見て回ることにした。そして走り去る大勢の人影を認め、その後を追っている。
――おかしい。このエリアの避難は、とっくに完了しているはずだ。
ここはサファリゾーン、本来は車でしか入れないが、ゲートを見張る者はいま誰もいない。追いついてみると、その人影は皆一般人のようだった。避難誘導からはぐれた列だろうか? H.O.P.E.別動隊員に連絡を入れ、順路を説明しようとその人々に近づくと……
「騙されちゃダメ! その人たちは偽物よ」
「人間そっくりに化ける従魔が出没しているんだ」
「正しい道はこっちです、さあ早く」
エージェントたちが、反対側から走って来た。いや、正確には、エージェントたちと全く同じ姿をした『何か』が走って来た。一般人たちは怯えて悲鳴をあげながら本物のエージェントたちから離れ、偽物のエージェントたちの方へ走っていく。まずい……このままでは彼らは連れ去られてしまう。従魔を倒して、自分たちが本物だと証明すると共に、速やかに避難させなければならない。
●最強の駒
「カードの方が好きだけど、たまにはチェスもいいよね。
さあ、どうする? ただの駒も、君たちのライヴスに触れれば……」
盤上、愚神の手で黒いポーンは、全てクイーンに。
君たちが何者であっても、騎士であっても、王であっても。
人間風情が、このゲームに勝てるのかな? 躊躇のうちに獣の牙に沈むなら、それも面白い。
「ほら、見せてみなよ。君たちはどんなカオをして、自分の現身を斬るんだい?」
白い駒は映像の薄明りを照り返し、敵を見つめている。
解説
概要
広州の動物園に従魔が出没し、エージェントに化けて一般人を連れ去ろうとしています。従魔を討伐し、人々を安全な場所に避難させてください。
敵構成
ミーレス級従魔『低位人狼』×参加人数と同数
ライヴスプロジェクターのような能力で、瞬時に他の人間や動物の姿をコピーできます。
しかし能力が低級なため、表情や言動は本物とは対照的になります。
さらに全身に赤いトライバルが浮かび上がるので、見分けるのは簡単です。
プログラム通りの連携も取りますが、自分たちで考えているわけではありません。
武器の見た目もコピーできますが、従魔のステータスには反映されません。
※魔法攻撃は低いので、常に攻撃でダメージ判定します。コピー対象はランダムです。
一般人について
避難してもらう方法の例として、下記を提示します。
1、強い説得力を持った説明で、自分たちが本物であることを証明します。
説得を試みる場合、1d100で下方判定します。(目標値は20、スキル等による増減有)
また、この方法で避難させようとすると従魔が対抗して説得を試みます。
判定値で負けた場合、一般人はもうエージェントを信頼してくれません。
2、本性である狼人間の姿を見せることで信頼を得ます。
従魔は生命力が低下すると正体を現します。
同時に、一般人を盾にして逃走を図るか、食べて回復しようとします。
パニックにも注意してください。
状況
・戦闘エリアはヨーロッパの山岳を模したサファリゾーンで、非常に広く高低差があります
・満月の夜で、特に車道付近は明るいでしょう
・ゾーン内にはウサギ・シカ・オオカミ等の野生動物もいます
・プリセンサーの予知で、敵の戦闘能力は既に明らかです
※●最強の駒章はPL情報です。この情報はPCが知っているものとして扱うことはできません。
リプレイ
●
「盛レ盛レ……灼熱の花ヨ散レ!」
燃え上がる炎の壁に阻まれ、歩を止めるエージェント達。その中の一人、陰陽師を思わせる白い狩衣を纏った男性が進み出た。
「お願いデス! 話を聞いてくだサイ!!」
「その必要はありません」
「!!」
ブルームフレアで彼らと一般人達を隔て、彼らの前に走り出たライロゥ=ワン(aa3138)は思わず振り返る。その心中、祖狼(aa3138hero001)が苦々と。
『ほぉ……よくできとるわい』
その青年は雲豹の銀髪から金眼までライと瓜二つ。唯、袖から覗く褐色の肌に、赤い刺青の様なトライバルがある。訛りは無く、本物より流暢に言葉を話す。
「こいつらは従魔デス! 身体に赤い模様ができるのが証拠デス!」
「嗚呼、やだやだ……よく喋るのは嘘吐きの典型だ。共鳴状態で姿が変わるのは常識です。そんなことも分からない低能な従魔には、皆さん騙されたりしませんよね?」
「人以外にも化けられるんデス! 動物にも注意を……」
「さあ、早く避難しましょう!」
人々はどちらのエージェントを信じたら良いか分からず、ひどくざわついて悲鳴の聞こえそうな勢いだ。
『あら、パニックに陥っているわね。落ち着いて貰えるかしら?』
脳裏で言う泥眼(aa1165hero001)に、従魔の群れを見つめるエステル バルヴィノヴァ(aa1165)は氷の無表情で。
「恐怖の中で混乱するような情報を与えられた人間は、多少おかしくてもハッキリとした情報をくれる方を信じてしまうもの。先手を打たれたのは少し痛かったかな」
「エステル……? エステル、」
黒く光る薙刀を手に尚進もうとする彼女は、泥眼の呼び掛けで漸く足を止めた。水鏡の様に無機質なエステルの瞳には、抜けるような白髪白肌を湛えた胴丸の女武者。しかし相手はとてもにこやかで、エステルを見つけると剰え微笑んですら見せた。その頬には人外の証が赤く浮かび上がっている。
「非常手段、使うしか無いよね?」
『それは、他に手段が無くなったらよ。でもちょっと待って、抑えてね』
この状況、桜木 黒絵(aa0722)には打開策が見つけられない。
「早く一般人を避難させないと! でも、どうやったら信じてくれるんだろう……」
「大丈夫だよ、クロエ」
知略に優れるシウ ベルアート(aa0722hero001)は、事も無げに咥え煙草を燻り。契約者に手を差し伸べた。
「ただ姿だけを複製した偽物が、本物の僕らに勝てるわけがない。さあ、共鳴を」
レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は群衆の様子に溜息も出ない。
「どっちが敵か味方かも理解できないなんて……やっぱり人間って、何処までも愚か、ね」
「まあそう言ってくれるな、この状況下だ。ともあれ、敵が何に化けているのか分からんのは問題だな……」
狒村 緋十郎(aa3678)の素直な愚推に、レミアは赤あかと満月に濡れ光る瞳をすぅと細めて。
「緋十郎……わたしたちと同じ姿をした奴等が確実に敵なのは間違いないのよ。それにほら、よく見て御覧なさい、あの煌々としたトライバル。あれを目印にすれば、他の何に化けようと判別は容易につくわ」
マリオン(aa1168hero001)も考えは同様。
(そこな女の言う通りだな。何だ? この文様は。これではまる分かりでは無いか?)
(マリオン、これはそこらの逃げ遅れを惑わせる為の案山子みたいなもんだ)
成人した自身の姿を借る雁間 恭一(aa1168)の心中に語り掛けると、彼は絵に描いた様な仏頂面で。
(ちょっと吃驚させて、引き裂く一瞬だけ動きを止められれば、狙い通りって訳だ)
(なるほど、それなら話は早い。引き裂かれる前に、こいつ等の息の根を止めればいいのだろう?)
(ちげえねえが……このまま遣り合うと飯だらけだからよ。尻尾掴んで逃げ遅れ共を避難させるのが先決なんだと)
(それは構わんが……これはこれは、全く随分と不遜な生き物があったものだ)
マリオンが言いたいのは、五体の従魔が自身を含めた身内に扮しているという事。
(おい、お前に化けてる奴を見ろよ、随分まともな顔つきだぞ? お前より女にもてるんじゃねえか? 替えて貰えよ)
(黙れ……あんな腑抜けな面になって堪るか!)
「ちょっと雁間、何ニヤニヤしてんのよ。怖がらせてるからやめなさい」
「ああ、悪いなレミア」
(……貴様も余の顔で……)
(あきらめろマリオン、目付きの悪さは誤魔化せねえ)
「でもまあ、緋十郎のお節介も、一応警告として受け取っておいてあげようかしら。敵は全部で六体と聞いてるわ。残り一体、只人の群れや動物の中に紛れているかもしれないものね?」
「ああ、そうだな。今夜が満月でよかった、斑点はよくよく視認で確認しよう。全員無事に助け出すぞ」
「いいわ。緋十郎、力を貸しなさい」
共鳴、溢れる光で金の髪は月夜に透く。レミアが浮かび上がるような白い細腕を組み、人々を見下すと、彼女とマリオンの美麗さに心奪われていた者は思わず視線を逸らした。其れにまた呆れながらも、彼女達は成り行きを見守る。
「まずは様子見よ。攻撃が掠っただけで死んでしまうような人間の大勢いる前では、できれば戦いたくないもの。聞こえる、鬼灯? これから説得を始めるわよ」
『了解です。レミアさん、さっきもリタが言いましたが……』
「あら、それをわたしに聞くの? 毅然と真摯に対応し、人間達から信頼を得るべき……でしょう? みんな心に留めているわ」
『はい。では、幸運を』
通信機の回線は開かれ、最低限の音量が維持されている。鬼灯 佐千子(aa2526)はレミア達の居る車道より100メートル程離れた山岳の中腹にて、直接火砲支援のスタンバイへ。
「姿を自在に変える相手、ねえ」
『……状況次第では厄介だが、そういう事を言いたいわけではなさそうだな』
「そうね。……ちょっと妬ましいわ」
自身に宿るリタ(aa2526hero001)の声に応える鬼灯。そんな感情が湧いてきたのは、あの従魔達が自分に化けた時の事を考えたから。
「コピーできるのは外見だけ。私に似せた従魔はきっと柔らかくて軽そうで、走ってもガシャガシャ鳴らないんでしょうね」
戦場を見下ろせる位置に着き、匍匐から状態を起こした鬼灯は、幻想蝶よりギリ―スーツを引き出す。脊椎と置換された機械の上に是を羽織れば輪郭は自然に溶け込み、更にライヴスプロジェクターによって簡易迷彩が施された彼女を、遠目からそれと判別するのは従魔には至難。
『稜線伝いに動いては星明りに影が浮く。速射砲の反射光もあるし、このまま中腹を行くべきだろう』
「ええ。従魔の能力を見る限り、一般人を人質に取る可能性は大きいわ……狙撃手を配して急襲・不測に備えるのは良い手だと思う」
『フ……狙撃? 60口径の携行砲でか?』
「失礼。砲撃、ね」
カシ、と義肢の下腿が変形しアウトリガが展開。この身体、反動制御には有用でも重量と併せて取り回しの悪さも格別で。
「ねえ。やっぱり……スラスターを噴かしたらダメ、よね?」
『肯定する。当然だ』
如何にカモフラージュと言えど、其れは誤魔化し切れまい。鬼灯が敵に標準を合わせると、弾帯が微かに金属の擦れる音を立てた。
「そんなに簡単に彼らを信じて大丈夫なのかな?」
手筈通り、最初に仕掛けたのはシウ。人々の前に進み出て、ライヴスゴーグルを通して彼らを見渡す。
「貴方方が置かれているのはどんな状況だろう? 見ての通り、人間そっくりに化ける従魔がいることが分かっている……つまり、本物と偽物が入り混じってる状態だ。それは今さっきからなのか? それとももっと前からなのか? ……そう考えると、今隣に立っている者も本当に人間かどうか怪しいもんさ。勿論僕も含めてね」
説得で切った手札は、真実のみ。
「今この場所で信用できるのは自分自身だけ。まずは自分の身を自分で守る為に、他人との距離を確保した方が良いんじゃないかな?」
誰もが深く納得した。互いを疑い合い、彼らは寄せ合っていた身体同士の距離を空ける。
『……パニックを起こして方々に逃げ出す人もいるかと思いましたが、流石はベルアートさんですね』
人々の間を何食わぬ顔で通り抜けるエステルの心中で、泥眼が息を吐く。群衆が彼に注目している間に、彼女は武装を解き、普段の制服姿で一般人に紛れ込んでいた。
『エステル、このあたりでいいでしょう。この人達に不穏な兆候が見えれば、すぐにセーフティガスで鎮圧できます』
「ちょっと待ってよ! 僕の顔で適当な事言って、皆を騙そうったってそうはいかない!」
やはり来たか、とシウは駆けて来た人影を見遣る。白い肌、髪、獣の耳に丸眼鏡。頬の紋が無ければ鏡映しの自分だが、腹立たしい程バカっぽい。一般人と従魔は放つ波長が異なる。この者の正体、一般人の中に従魔が紛れていない事、双方はライヴスゴーグルで既に見抜いていた。
「やけに必死に僕を従魔だと決めつけるね」
「違うよ、僕はただ、」
「僕は自分の事を本物だとも偽物だとも言ってないよ? あくまで客観的にこの状況を語ってるだけだ。逆にそういう発言をされると困る事でもあるのかな?」
「……違うよ、僕はただ、」
「従魔って奴は思考能力を持たない。プログラムの範疇を超える屁理屈で翻弄してやれば、さてどうなる?」
「……」
シウの説得は完璧だった。舌戦の敗北を察知し、従魔――エステルに化けた従魔は、唐突に声を上げた。
「あーっ! あんなとこに従魔が紛れ込んでるー!」
『……しまった、』
「もう、非常手段しかないわね」
振り返った人々は本物のエステルの存在に気付き、驚いて悲鳴を上げ彼女から遠ざかる。すぐさまセーフティガスが噴霧され、半数ほどは眠りに落ちた。しかし、シウの説得で距離を取っていた事もあって眠らせる事のできなかった者も多く、彼らは突然倒れた人を見て完全に動転、散りぢりに逃げ出した。
「皆さーん! こっちですよー!」
エステルの顔をした従魔は、数人の一般人を連れ去ろうとしている。エステルは素早く武装を纏い、彼女と人々の間に割って入った。
『この人達はもう言う事を聞いてくれないでしょう。危ないですから、眠らせてください』
「そうですね」
泥眼の助言に従い、再びセーフティガス。従魔の方へ逃げ出そうとしていた一般人は気絶するように眠りに就く。
「キャー! ニセモノ、ニセモノナノヨー!」
「もう、そんな小細工で騙される人は居ません。お引き取り下さい」
「ニセ、ニセセ、ニャヒャ――」
風を切る砲弾が従魔エステルを直撃した。衝撃で水分が分離し、顔面はプリンの様に崩れる――説得の失敗を知った鬼灯の攻撃だった。
「余波で他を巻き添えにしないかしら」
『爆弾ならあるいは。砲弾なら心配ないだろう、射線さえ誤らなければな』
「リタ……私は、そんなヘマはしない」
全身全霊を傾けた射撃は完璧な弾道計算を導き、もう一撃がエステルを模した従魔を貫く。着弾、轟音と共に土煙が立ち込めた。
「エステル君、僕はこの人達を避難させて来るから! さあ皆さん、此方へ!」
「待っテェ!」
シウはできる限りの一般人を連れ、周囲に英雄経巻の光を浮かべた守勢で避難誘導に入った。そこへ彼に化けた従魔が、三叉の槍を手に襲い掛かる。
「本物ハ僕ダァーッ!!」
素早く敵へ手を翳すシウ。展開された魔法陣から豪と噴き出す火炎が従魔を迎え撃った。焼け付く喉から従魔は獣染みた悲鳴を上げる。
「そんな訳ないだろ。見苦しいんだよ、ド三流」
燻る従魔に吐き捨て、シウは振り返る。自分だけで方々に散った一般人を全て避難させるのは難しい。
「ライロゥ君、レミア君、雁間君! そっちは任せたよ!」
「ああ、うまくやるさ」
「言われなくても分かってるわ」
「ハイ! 早く逃げて貰わないと……このままじゃ犠牲ガっ」
『落ち着けよライ……優先順位を考えろ。リタさんも言っていただろう』
一般人の安全確保が最優先。祖狼の言葉に、ライは決意した。
「……もう命は散らせまセン……!」
『必死な言葉は伝わるものだ。心から叫べ』
「イエ……最早それでは足りナイ」
『ライ……? ライ!』
「僕はもう、誰にも犠牲になってほしくナイ!!」
ライは共鳴を解き、逃げ惑う人々の方へ。彼に化けた従魔もこの機を逃すまいと。
「お願いデス! 僕に付いてきてくだサイ!」
「無駄ですよ、従魔! お前は今から、オレに倒されるんです!」
「お願いシマス! 僕の、この血に懸けて……!」
「ライッ!!」
祖狼が止める間もなく、ライは鉤爪で自身の左腕を切り裂いた。AGWは共鳴しなければ活用出来ない。だが、非共鳴であっても、自分自身の意思で自身を傷付ける事ならできる。赤色が、肌を伝って地に落ちる。人々は思わず息を呑んで、彼を見詰め言葉の続きを待った。
「部族……の、誓い……デス……。この血に懸けて……あなたがたを、守ります!」
「……馬鹿者がっ! 敵の前で自虐行為などっ!」
「僕はあなた達を守りたい……お願いデス、避難に従って……ください!」
「ライッ、共鳴を!」
祖狼が駆け出す。従魔が襲い掛かっても、無防備なライは人々に向かって。
「お願い……はやく逃げて!!」
命懸けの説得に、人々は彼が本物のエージェントだと確信した。しかし間一髪共鳴を果たしたものの、ライは従魔の攻撃を受けて倒れてしまう。
「あら、意外と物分りが良いのね……ほら、護ってあげるから、さっさと逃げなさい」
「待って! その人は従魔なの! 言う事を聞いちゃダメ!」
避難を始める一般人達を守るように立つレミアの前に現れたのは、彼女そっくりの従魔。しかし従魔レミアには本物が持つ威厳が無く、挙動は外見相応。是を見たレミアは総毛立った。
「……不愉快だわ……」
漲らせる並々ならぬ殺気。緋色の爪を覆う瘴気は、益々濃く。
「このわたしの顔で、そのふざけた態度……万死に値するわ」
翻るドレスの裾は、月下に咲く漆黒の華。瞬時に相手の懐へ飛び込み、繰り出される疾風怒濤。緋爪が描く三連の紅光は、舞いの様に美しい。切り裂かれた従魔レミアの腕は、まるで出来の悪い立体映像の様に其の下で怪獣の腕が見え隠れする。
「それがあなたの本性ね。畜生如きが、よくも」
「わた、ワタシ……キャアァ、助ケ――」
「わたしはね、そんな事言わないのよ!」
一気呵成を仕掛け、転倒した従魔レミアを間髪入れず爪が襲う。喉笛を引き裂くと、空気を劈く悲鳴は獣そのもので。虐殺の始終に人々は堪らず顔を背ける。再び見れば、従魔の化けの皮は剥がれ……転がっているのは狼男の躯。
「口で言っても無駄でしょうけど……これなら信じざるを得ないわよねぇ。さあ、只人方。分かったらさっさと行きなさいな」
ピ、と爪の血振りをするレミアは、顔だけで彼らを振り返って言った。
「死ネ、偽物ォ!」
「う、ぐッ」
怪我をしたライを、自分と同じ顔の従魔が襲う。敵の表情は獣そのもの、精悍な顔つきは見る影も無い。溢れる血と苦痛に、ライの口から漏れる呻き。
『だから言ったじゃろう! 無茶にも程があるぞ、ライ!』
「悪い、祖狼……オレはマダ、」
『まぁいい、それよりも目の前じゃ。見えていた敵は全部で五体……レミアさんとシウさんで二体始末しとるから、残り三体。これで全部じゃない事も分かっとるし、化ける能力はやっかいじゃ、逃がす訳に行かん。こいつだけでも仕留めねば』
「ああ。いかせない……逃がさナイ!! 走レ走レ……銀ノ狼ヨ、穿テ!!」
放たれたライヴスの弾丸、そこへ鬼灯の援護射撃。配置は十字砲火、回避困難の二射が従魔を貫く。
『――ヒット、標的撃破』
「了解。次は雁間さんの所ね」
リタのオペレーションで、鬼灯は追撃の構え。
「……やったカ?」
『ああ……にしても、お前と同じ顔と戦うのは、聊かやり辛いものがあるな……』
「見かけだけダ。知ったことじゃナイ」
『……お前、結構ドライだよな』
「今はそれより」
『うむ、従魔がここだけとは限らん。ただ、その傷ではこれ以上は無理じゃ』
ライは悔し気に拳を握った。
「グググッ……」
鬼灯の砲撃を受け、マリオンに化けていた従魔は顔面の一部が本来の毛むくじゃらに戻っていた。綻びから覗く目はギラギラと敵意に光っているが、片割れの翠眼は優しい微笑みを湛えたまま。
「なるほど……狼人間って訳か? どこかの昔話だな」
『“皮”を借りる話は何処にでもあるが……何にでも変化出来るのは魔法使いだな。それ程魔力が有る様には思えぬが』
「世の中どんどん便利に成ってるしよ。魔法もお手軽になって来てるんだろ」
『如何でも良いか。さて、この痴れ者――覚悟は出来ているだろうな。ふふふ、余の剣の露と消えたいか』
「まぁ、逃げられないようにはしておいたぜ。アクションナビ、使わないで済みそうだな」
守るべき誓いによって、この従魔の狙いは雁間一人に絞られている。手にした礼装剣で与えた傷によって従魔の左手肘は靭帯を損傷し、最早使い物にならない。
「いい感じで削れたな……そろそろ仕掛けるか」
雁間は剣戟を振るい、従魔の回避跳躍を誘った。それはフェイント、この隙を付き、換装するは大剣インサニア。ライヴスを乗せた一撃が従魔を襲う。袈裟切りを受けた従魔は完全に獣の正体を現し、遠吠えを上げ四足で素早く逃走を図った。
「おっと、そうはいかねぇ」
インサニアをライヴスに帰すと、雁間のガントレットは星の輝きを秘めた腕輪へ。立ち込める星雲は、光の弾丸となって従魔を撃ち抜いた。更に付近の崖を破壊し、瓦礫の下敷きとする。これでもう逃げられまい。追い付いた雁間は再び大剣を手に。
『……我が一撃、心して受けよ』
唇が弧を描く。振り被られた剣は、容赦無く斬り下ろされる。
「ググッ、グゲェ」
「……」
従魔エステルの姿は、既に殆ど狼男の物に戻っている。周囲には眠りこけた一般人が大勢おり、何度もその捕食を妨害されたせいで従魔の脚はボロ雑巾の様にずたずただった。エステルは動けない従魔を、薙刀のリーチを活かし一方的に切り刻む。
「……」
振り下ろしては、また振り上げる。獣が悲鳴を上げる。白い頬に、返り血が幾筋も。
『エステル、やめて……』
「え?」
耐えかねた泥眼の声に、恐ろしいまでの無表情が漸く動いた。
「あ、もう死にましたか? ……いえ、絶対に起き上がらないようもう少しだけ」
ざくざく。泥眼はぱっと目を逸らした。
「でも、一匹でも残してはイケないですね、またされたら堪らないもの。……何で、私なんかに化けるんだろう?」
それから、エステルはやっと挽肉に背を向ける。残る一体を探さねばならなかったが、見れば大勢の一般人が倒れている中に血を流すライの姿が。
「……治療が先だわ」
『そうですね、かなり酷い傷です』
ライが倒れた為、シウは避難誘導を一人で行っていた。
『シウお兄さん、すごいねぇ。動物がいっぱいだよ』
「クロエ、よく見ておいて……敵はもう一匹残ってるはずだ。そいつはおそらく、この子達の中に紛れてる」
ライヴスゴーグルもその発見を早期にした。鹿の群れが突如騒がしくなり、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。襲い来る狼の身体に、浮かび上がる赤い紋様。
「来たな!」
「壁役は任せなさい、ベルアート」
「レミア君! 助かるよ」
後方の護衛を務めていたレミアも、それに気付いて前方へ躍り出る。従魔は変身を解き、本来の姿となって鋭い爪でレミアの攻撃を受け止めた。
「遅い!」
ふわり。軽やかな足取りで、レミアは次撃を従魔に叩き込む。
「さあ、お伽噺はお終いだ」
シウの放った銀の魔弾に貫かれ、最後の従魔は地に伏した。
●
シウとレミアが避難誘導を終え、一般人からお礼を言われて戻ってくると、エステルの治療を受けて回復したライは申し訳無さそうに。
「桜木さん、シウさん……ゴメンなさイ、僕、避難誘導を手伝えなくテ」
「そんなことないよ! ライちゃんの説得が無かったら、皆言う事聞いてくれなかったもん!」
「ああ、そうだよライ君。君は良くやった」
「ライ……キズはどんなもんじゃ?」
「……痛いデス……」
「ならもう少し、エステルさんに回復を」
「いえ……これは誓いの跡デス。簡単には消せまセン……」
「……お前馬鹿だろ?」
「よく言われますネ」
ライは気にしていなさそうに、薄く笑った。
「エステルさん。この人数では大変でしょう、手伝います」
「ああ……ありがとうございます」
合流した鬼灯たちは、眠ってしまった一般人を一人ずつ起こして事情を説明しているエステルを手伝うことにした。ふと、角にあるロードミラーが目に入る。
「今回の相手……能力の割には組織立っていたな。威力偵察とでも言ったところか? ……どうした、サチコ?」
「ホント、酷い身体ね――……私」
「……」
彼女の過去は物理的な質量を伴って両肩に圧し掛かる。リタには掛ける言葉も無く、できる事は唯、悪鬼に呑み込まれぬ様見守るだけ。
「お前も手伝ったらどうだ」
「ふざけんな、お前の面でも怖がられたってのに」
不貞腐れる雁間に、マリオンはくつくつと笑う。
「エステル、大丈夫? 顔色が悪いわ」
「……いつもの事ですけど」
気遣わし気に法衣の手で、泥眼がエステルの額、妙な汗に張り付く銀髪を除ける。
「でも、まあ……違う表情の自分の顔が目の前にあるというのは、想像以上にダメージが大きかったですね」
その首元、チョーカー状の機器に月明りは無機質に跳ねて。空には淡く輝く満月を望む。月光の下に立つレミアの佇まいに、狒村は見蕩れて気の抜けた声をあげた。
「しかし……満月ってのは、こんなにも明るいもんなんだな」
「そうよ、満月の夜は明るいの。それに……酷く、乾くのよ」
振り返ったレミアはいつものように微笑んだが、それから僅かに、余裕無さそうに両の腕を擦った。
「だ、大丈夫か? 血が…足りないのか?」
狒村は驚き、心配そうに彼女の方へ駆け寄る。
「満月の夜は、魔が疼く夜よ……。御蔭で、さっきの戦いでは調子も良かったけど、」
レミアは近付いた彼の片手を掴み、性急に引き寄せる。
「……駄目……もう……限界……」
「……ぃ、」
首筋に双牙が突き立てられ、狒村は小さく呻いた。えも言えぬ生血の味覚、緩やかな痛み。それぞれに酔い痴れる二人を、月だけが見ていた。