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広告塔の少女~その手を重ねて~
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最終発言2016/03/28 00:35:41
オープニング
「みなさんこんにちわ、西大寺遙華です」
はるうらら。日本では桜も咲きつつあるこの季節。遙華はマイクを片手に歩道を歩いていた。
「みなさんを部屋に閉ざすような冬が終わりをつげ、徐々に活動しやすい季節になってきたわね。今まで外出を控えていた人も、思わず遊びたくなっていたりはしないかしら」
そう言うと遙華は立ち止まる、するとその背後に映りこむのは。大きな輪。それに等間隔でゴンドラが取り付けられている。
そう観覧車である。
「そんな人たちは、隣を見てみて。一緒にテレビを見ている人の手を取って外に飛び出してみましょう。きっと楽しいことがたくさんあるはずよ」
遙華は言葉を続ける、映像は切り替わり、各種アトラクションが稼働している映像になった。
BGMと一緒に遙華の声が響く。
「今日は私、都内の某遊園地に来ているわ。やっと雪もなくなって稼働再開したての遊園地」
アトラクションは、コーヒーカップやメリーゴーランド。ミラーハウスにジェットコースターなど、定番の物は一通りそろっている。
「遊園地って、基本大人数で来るわよね。一人で行く人はあまりいないと思う。それはきっと楽しい時間を楽しい人と共有したいからだと思うの」
そして共有した時間を重ねれば重ねるほど、その人はあなたの大切な人になっていくのよ。
そう遙華は自分に言い聞かせるように優しく言った。
「でも、大切な人って、身近にいる人じゃない? 私たちはほとんどの場合、身近にいる人たちを雑に扱いがち。
でもね、きいて……たまにはね。その人たちに自分の思いを伝えないと。きっとその関係は大変なことになってしまうと思うの」
親しくなると、なぜだろうか。最初のころは言えていた言葉が恥ずかしくなることがある。
それはきっとお互いを尊重し、分かり合おうとする努力を、徐々に徐々にやめていってしまうからだと遙華は言った。
つまり、ある程度関係が進み、現在、ある程度理解しあえているのだから、それ以上深くは知ろうとしなくなる、かかわろうとしなくなる状態になるということ。
けれど、世の中とは非情なもので、変わらないものなどなく、変わらないのは変わるものなどないというルールだけ。
関係性もまた同じ、変わらないと錯覚して何の努力もしなければ、あとは離れていくだけになってしまう。
そう、本来であれば、いついかなる時も、誰かと理解し合う努力を怠ってはいけないはずなのだ。
そんなような内容を遙華はカメラに向かって訴えかける。
「ねぇ、みんな。努力を怠っていない?」
「大切な人に大切だって言う。大好きな人に大好きだっていう。その行為を、忘れてしまってはいない?」
「もし忘れているのだとしたら。隣にある手を取って、一緒に外に出かけてみてそしてなんでもない特別な日を過ごすのよ。そしてそれが明日も続けばいいなって思うなら、言わなくちゃ、その言葉」
「でも私はわかるわ。その気持ち、照れくさかったり、いまさら真面目に言ったら、変に思われるかもしれないものね。
だったら。もしそれができないのだというなら。私たちがお手本になるわ」
そう言うと突如場面が変わり。遊園地の前に場面が映る。
そこにずらっと並ぶリンカーたち。
つまり君たちが並んでいる。
「私達リンカーは常に隣にその人がいるの。大切な人。関係性はさまざま。友人、恋人、憧れ、家族。いろいろある。けどその人たちはこの世界の住人ではないわ。
異世界から来た、文化も考え方も違う人たちなの。けどね。絆を結んで、苦難を何度も乗り越えて、今ここにいる。
けど、久しくありがとうを言っていないと思うの。言っていたとしてもそれは軽いありがとうだけ」
遙華はリンカーたちをみつめた、そしてリンカーたちに言った。
「ねぇ、みんなも本当は言いたいこと、あるんじゃない? というわけで今回は、ありがとうを言えるチャンスをあなた達にあげる、感謝しなさい!」
そう遙華はリンカーたちに『遊園地一日フリーパス』を手渡していく。カラフルな紐状で。バーコードが書かれており、乗る際にかざすと。乗ったアトラクションの履歴が最後にもらえる。
そんなちょっとしたサービスが付いているフリーパスだった。
「あなた達『ありがとう』を言うためにここに集まったのよね? だったら今日一日。閉園時間までに『ありがとう』を相棒に伝えなさい。
伝えた人から晩御飯を食べられます。
あと、ちょっとしたサプライズとして、お好みのハプニングをグロリア社の力で発動可能よ、事前に申告して、活用して。
じゃあ、すた……。え? お手本? 無理よ。私、台本をそれっぽく読むので手いっぱいなのにこれ以上恥ずかしい思いさせるつもり?」
遙華はカンペを凝視した。
「え? むり、ロクトに? 無理よ。私感謝してないし。むりむりむり」
一向に首を縦に振らない遙華に痺れを切らしたロクトはため息をついて。カメラの前に現れた。
「遙華」
「どうしたのよ、ロクト」
二人の間に微妙な空気が流れる。二人ともにらみ合ったまままったく動かない。
しかし、先に口を開いたのはロクトだった。
「遙華、私ね、思うのよ。私がいなかったらどうなっていただろうって」
「どうせ、友達も一人もできなかったって言うつもりでしょ?」
「いえ、違うわ。私がいなくてもあなたはうまくやれていたはずよ」
「え?」
遙華は言葉を失った。
「あなたはまじめすぎたのよ、世間知らずだし。肝心なところでミスをして不評を買うのも得意よね。けど最近はなくなってきてる。それはあなたの努力の結果」
「違うわ、全部、ロクトに言われて直そうとして、それでやっと……」
「違うわ、遙華、あなたの努力はあなたの物よ。そしてあなたはいずれ遅くなっていたかもしれないけど。同じ努力をしていたはずよ」
ロクトは言う、遅かれ早かれ同じ状況にはなっていたと。
「だから今、友達に囲まれているあなたを見ると、誇らしいわ。私の可愛い遙華がたくさんの人と仲良くできていることが」
遙華は六か月前までは、誰も友達がいなかった。
グロリア社のショップに立って声をかけるだけ、返ってくる声はない、そんな一日だった。
けれど今はたくさんの友人に囲まれている。
「だから、ありがとうを言いたいのよ。私の厳しい言葉に耐えて、一緒にここまで来てくれて『ありがとう』。あなたは魅力的よ、もっと輝けるはずだわ」
そうロクトは言うと、遙華に微笑みかけた。
「そしてこれからもよろしくね」
「ええ……、ロクト……。わたし、わたし頑張るから!」
そう遙華は目を輝かせてロクトをうっとりと見つめた。
『ありがとう』作戦大成功である。
「こんな風に、最悪英雄から能力者に向けての『ありがとう』でもいいわ。ではみんな、検討を祈ります」
そうロクトは注意事項を口にすると、番組開始の鐘の音がなった。
遊園地の扉が今開く。
解説
*番組主旨
最近くらいニュースでお茶の間が冷え込んでいるので、明るくするための番組です。
要は、見ている人の胸がほっこりすればいいのです。
*遊園地について
平日なので人はあまりいません。
一般的なアトラクションは大体ありますが。
ジェットコースターが三種類。グルグルと大回転させられる奴と。腰を固定して両手両足をぶら下げた状態で走る奴、そして高いところから水に落されるものがあります。
あと、名物はチョー怖いお化け屋敷です。
変わり種としては、花で作られた迷宮。コスプレ撮影スタジオ。遊園地内通貨を使用するカジノ。カラオケ。お土産屋さんは二十軒。レストランは和洋中の三種類。
*ハプニングについて。
ハプニングを演出できます。その後でならタイミングもいいので思いを打ち明けやすいのでは?
例えば黒づくめの男に相棒を攫わせたり。観覧車を天辺で止めたり、。手紙を渡したり、雑用を押し付けたり。意外と幅広く対応できます。
*カメラについて
超小型浮遊カメラを使っているので、カメラを意識せずに遊ぶことができる。
今回は番組形式ですが、それがやりづらいという方は、英雄や能力者には内緒でこの企画に参加することが可能です。
その場合は遊園地の中で待機していて、相手は何も知らない状態であるところからスタートです。
*遙華たちについて。
遙華とロクトは常にこの遊園地内を巡回してます、助けが欲しければ事情を話すと協力してくれるでしょう。
遙華は遊園地が初めてなので、アトラクションい誘うととても喜びます。
*グループ行動について。
リンカーたちは二人一組で行動する必要はありません。大人数で遊園地を楽しむのもありです。
*ありがとうについて。
基本的には能力者から英雄にありがとうですが。英雄から能力者にありがとう、でもいいですし。
変則的ですが。別のエージェントへのありがとうも認めます。
リプレイ
「はい、六名様ごあんない」
「遙華。ってなんでもやるんですね」
『蔵李・澄香(aa0010)』と『小詩 いのり(aa1420)』は半分呆れながら、黙々と作業をこなしていく遙華を見やる。
今日は遊園地で遊ぶ。だけではなく、日ごろの感謝を伝えるという企画の撮影だ。それを英雄たちは知らない。
よって『イリス・レイバルド(aa0124)』と合同で企画したサプライズも英雄たちは知らないはずだった。
澄香は振り返り、『セバス=チャン(aa1420hero001)』と『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』に言った。
「私はいのりとデートしてくるから、クラリスはじいやさんと遊んでて」
「あら、よいですけど。アイリス様たちは?」
『アイリス(aa0124hero001)』は日傘をくるりと回していった。
「私たちは気ままに回ることにするよ、そもそも遊びでこういうところに来ることがほとんどない。気楽にやることにするよ」
そんな風に六人は三組に分かれ遊園地の各方面に散ってく。
「全く。仕方ありませんね。じいや様、宜しければ遊んでくださいませ」
そうクラリスはセバスの手を引いて、コーヒーカップなどがあるエリアに向かった。
* *
「もういい! もうたくさん! 輝夜なんて居なくても私は一人でやっていけるわよ!」
遊園地の西側のエリア、そこで甲高い怒号が響いた。
(どうして……こういう時素直になれないんだろ……)
こんなはずではなかったのに、そんな後悔だけが『御門 鈴音(aa0175)』の胸を貫く。
「ふん! わらわとてお前なんぞおらんでも人間共をたらふく喰らって自由に生きてけるわい!」
(……それが出来てれば苦労せぬのに。何やっとるんじゃわらわは)
また、怒らせてしまった。『輝夜(aa0175hero001)』はそういたたまれない気持ちを抱えた。
鈴音が一歩踏み出してくる、それを不快に思い輝夜は鈴音を強く押した。
そんな二人を見て一般人客は引いている。その二人を止めるためにロクトがやってきて。
「連行!」
そう手錠をかけた。
その後、輝夜と鈴音をセットにしておくと、すきあらばケンカしだすので、鈴音は遙華に預け、ロクトは遊園地の入り口付近まで戻ってきた。
その入り口付近の売店でホットドックを買って、二人はベンチに座る。
「同じ英雄としてわかるわよ。この世界の物って珍しいものね」
「そうなのじゃぁ、あー」
輝夜は深いため息をついた。
「でも言ってたじゃない、もっと優しく接したいって」
生返事を返す輝夜。よほどショックだったのだろう、それに怒りも収まってないと見える。
「今日はいったい何をしたっていうの」
輝夜の説明の要点をまとめるとこうだ。
1 お化け屋敷に三回ほど入った。
2 メリーゴーラウンドの馬を持って帰ろうとした
3 嫌がる鈴音をジェットコースター乗り場まで引きずろうとした。
「なるほど。もうどうしようもないわね。あなた達」
ロクトがあっけらかんと言い放つ。
「…………帰る、邪魔したのぅ」
「ごめんごめん、冗談よ。ちょっといじめたくなっただけ」
そう席を立つ輝夜の腕を引いて、ロクトは止める。
「それだけじゃよくわからないから、もっといろいろ話をきかせてもらおうかしら。たとえば……」
そんな雑談を繰り広げていると。一人の少女が話しかけてきた。
「沙耶どこにいるか知ってる?」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』である。そしてどこかむすっとしていて不機嫌そうである。
「待ってたわ。寝坊したって聞いたから、ひやひやした」
「寝坊したわけじゃない、おいて行かれたのよ、絶対わざと。それより沙耶は?」
沙羅は相棒である『榊原・沙耶(aa1188)』とは別々のルートでここまでたどり着いたため、状況がよくわかっていないのであった。
「わからないわ。一緒に探しましょう、さぁ輝夜立って」
「わらわも一緒に?」
「…………沙耶が見つかるまでだからね」
「わらわはまだ納得しておらん。離せ!」
そう三人は遊園地の奥底へ消えていった。
* *
そんな大変な目にあっているリンカーがいるとはつゆ知らず、仲睦まじいペアにとって遊園地はとても平和だった。
「もしかしたら討伐依頼で来たことはあるかもだけど」
イリスは遊園地のマップを眺めながら言う。どことなく見覚えがあったからだ。
「まあ、その時はどこだろうと戦場でしかないからねぇ」
なかなかに物騒なことを言いながら、イリスとアイリスの遊園地探索は始まった。
まずお化け屋敷。
「殺気も脅威も感じないね」
「暗がりなので足場には気をつけたまえよ」
そう二人はあくびをしながら通りがかっていく。悲鳴ひとつあげないまま。するする行くものだから。前のお客の背中が見えてしまった。
「おや、あれは……」
アイリスは目をぱちくりさせた。見覚えがあったのだ。
「ひゃぅ……。もう一歩も前に進めません」
「そしたら後ろから来るんだけど」
「お化けですか?」
「……、いや、お客」
『レオンハルト(aa0405hero001)』と。その腕にしがみついた『卸 蘿蔔(aa0405)』であった。
「……もう、沢山です」
そんな半べそをかきながら曲がり角を曲がると。そこには。光。
出口だ、出口が見えた。
そう安どしたのも束の間。
最後の仕掛けなのか、通路の床から、びっしりと生首が生えてきた。
ここで蘿蔔、特大の絶叫。
「ん? 何やってるんだ蘿蔔。おいてくぞ」
レオンハルトは入り口近くで手招きをしている。
「……いえ、この生首さんたちがリアルすぎて。ちょっと怖くて……」
「生首? 何だそれ…もう出口じゃないか。早く出るぞ」
「い、いや…です」
「え……じゃぁ戻る?」
「それもいやですっ」
結局、蘿蔔は目をつむったまま、レオンハルトによいしょと運ばれて生還を果たした。
そして。その後ろから。続くイリスたちはというと。
「ホログラフィックだね」
「ホログラフィーだねぇ」
そんな感じで何事もなく脱出した。
続いて近くにあったのは、お花で作った迷宮。
「うん、なかなか元気な花たちだね」
アイリスは口づけしそうなほどに、花に頬を寄せ言った。
「わかるの?」
「いや、花は語りかけてくるものだろう?」
アイリスにとって花は友達だ、パッと見ただけで体調くらいわかるのだ。
「じゃあ、おねえちゃん、あれは?」
そうイリスが指さす先には、とても大きな花がさいていた。
「あれは…………。何だろうね」
さすがのアイリスも言葉を失った。
「いや、あれは花では」
それはラフレシアより大きく、蔦は人間の首ほどに太く、二枚の大きな葉はまるで手のようだ。
そしてその目の前には触るな危険と看板が立ててあった。
だというのに、触ってしまいたくなる人の心。さっそく一般人が触り。
その大きな咢に食らいつかれていた。
「たべられたあああああああ!」
イリスが驚きの声を上げる。
「だが、従魔ではないようだね。これはなんだろうか」
従魔ではないなら、とりあえずほおっておこう、そこで遙華も見ているし。
そんな風に思ったアイリスは傍観を決め込む。
すると。そこに蘿蔔とレオンハルトのカップルが登場した。
「たべられてる!」
蘿蔔は言葉を失った。
あわあわしながら、駆け寄って
「ぴゃぁぁぁっ……だ、大丈夫ですかっ」
と救助する。
「これは彼の計画の一環、なのかな?」
「どうなんだろう。あ、おねえちゃん実は準備があるんだ」
「準備?」
「ごめんなさい。十分後にここまできて」
そう言い残すとイリスは、迷宮の出口付近で待っていたいのりと澄香と合流する。
「アイリスさんはひとまず英雄の会へ」
そういつの間にかロクトが隣にやってきて、そしてアイリスをどこかへ連行していった。
* *
その後、無事に花の迷宮を突破した蘿蔔は、ちょうどお昼時ということもあり。レストラン内の座れる場所を探していた。
そこで発見したのは、鈴音と遙華。
「ご一緒していいですか?」
蘿蔔がそう声をかけると、遙華はどうぞといすを引く。
「蘿蔔、久しぶりね。元気だった? 最近見ないから心配していたのよ」
その隣にお昼ご飯のトレイを持ったレオンハルトが座る。
「チケットありがとうです。あ、そうだ、遙華、もしよければこの後、一緒にまわりませんか?」
「ええ、ぜひとも一緒にまわりたい、もの、だ。わ」
遙華の視線が泳ぎ、そして一点で止まる。
次いで周囲の客たちがそそくさと荷物をまとめて席を立ち始める。
何事かと鈴音が振り返ると。そこにはモヒカンの集団が。
「あわわわわわ」
思わず固まる蘿蔔と鈴音。
それが真っ直ぐこちらに向かってくる。
「席こちらよろしいですか?」
モヒカンの一人が尋ねてくる。もちろん革のジャケットに、アクセサリーがじゃらじゃらだ。
「はひ、いいですとも」
そう蘿蔔がカタカタ震えながら返事をすると、取り囲むように四人の周囲に座った。
そして三人の少女は思う。なぜそんな風に座る。
そしてにやにや笑いを必死にごまかすレオンハルト。
その後、生きた心地もしないまま少女たちは食事を終え、ジェットコースターの方へ。
「あ、私」
そのジェットコースターを見て思い出したのか鈴音は足を止める。
「私、輝夜を探してきます、みつかるかな」
「大丈夫よ、きっとあなたは見つけられるわ」
そう遙華が言う。
「相談に乗ってくれて、ありがとうございました」
そう言うと鈴音は足早に去っていく。
その代わりに現れたのが沙羅と沙耶だ。
「ま、まさか遊園地着く前から置いてけぼり喰らうだなんて……! 絶対わざとよ。許さないんだから!」
そう怒りが冷めやらん沙羅は鈴音に気が付くと笑顔を取り戻した。
「あら、蘿蔔、どこ行くの」
「ジェットコースターです」
ではみんなで行こうという流れになり、じゃんけんの末、一番前が沙耶、沙羅ペアとなる、その後ろに遙華と蘿蔔。最後尾にレオンハルトだった。
遙華はやや興奮ぎみに蘿蔔に語る。
そしてゴンドラが動き出す。カチンと何かにはまる音がして、急な傾斜をカチカチと登っていく。
「この上るときが楽しいのよね、そして頂上で一拍おいて落ちるのがたまらない、の、よ」
そこでなぜかジェットコースターが止まる。
ここは観覧車に次いで遊園地で高い場所。
そして本来これから落ちるはずのジェットコースターが、なぜ落ちていかないかというと。
これは沙耶のオーダーだった。これが彼女のサプライズ。だがそのサプライズを受ける側はというと。
白目だった。状況を理解できていないのだ。
「なんでとまってるの? 」
沙羅が沙耶に言う。風が強いため声を大きく張った。
「今日はね、これ、これをしたためてきたのよぉ」
そう沙耶は沙羅に手紙を手渡す。
そこにはこう、書かれていた。
『普段言えない事をこの手紙に書くわね。
人を癒す事。誰よりも苦しみを知ってるからって言ってたけれど、誓約でこんな事を言われた時は、聖人君子って本当にいるのかと思ったわぁ。
英雄で、人間じゃない事を気にしているけれど、人間に拘る必要はないわ。小鳥遊ちゃんは、誰が見たって良い子だから。
胸を張っていきなさい。そして、2人で小鳥遊ちゃんの体の異常、治しましょうねぇ?ありがとう。これからもよろしくよぉ』
紙が風でばたばたと鳴る。直後、封筒が風で飛ばされてどこかへ消えた。
「ど、どうかしら?」
沙羅はたまらず声を張り上げた。
「ごめん! 少しも入ってこない! 何でここ!? 何でてっぺんで止まってるの!? 嫌がらせ!? 嫌がらせなの!?」
「違うわ、思いのたけを伝えたいの」
その時である。がしゃーんと派手な音がして。
「ろっくはずれた!」
ジェットコースターの安全バーがなぜか解除された。
「さぁ、返事を聞かせてくれないかしら」
「わかった、わかったから。言うから、でもまずは。他のお客さんにも迷惑だから、これ、この状況をどうにかして」
「わかったわ」
その瞬間、ロックが戻り、そして。発車。無数の悲鳴がこだまする。
「返事を……」
「今じゃないでしょ!」
そう沙羅は言うが、沙耶は許すつもりなどないらしい。視線だけで返事を求め続ける。
「キャー、私、わたしわぁぁぁ」
沙羅は頑張って、その感想を、感謝の感想を伝えようとする。けど。
予想以上の速度で口が回らない。
「ほらぁ、もう少しで終わっちゃうわぁ」
「私も、あなた、ごぱぁ」
突如降りかかる、液体。後ろの席にもろにかかってしまう。
遙華と蘿蔔が頬をぬぐうと血が。
「ちだああああああ!」
まず、初めて沙羅の吐血を目の当たりにした遙華が叫んだ。
「割と、日常茶飯事ですけど、顔にかかるとなると話は別で怖いですね」
蘿蔔はわりと冷静だ。
「冷静! なんですごく冷静なの?」
「今日は絶叫しすぎて疲れてるのかもしれないな」
レオンハルトはすごく冷静だった、むしろ楽しそうですらある。
「ごぱぁ」
さらにおかわりされる吐血。
「きゃあああ。より回転力のある吐血が」
そんな別の意味で絶叫マシーンと化したジェットコースターから降りるころに、遊園地の時計が、四時の鐘を打った。
その直後。遊園地の中心にある。大ステージから、軽快な音楽が聞こえてきた。
* *
セバスとクラリスはゆっくりお茶を飲みながら、雑談をして優美に過ごしていた。すると四時ちょっと前に、クラリスのスマホが震える。
「あら? 10分後にステージに集合? なんでしょう?」
その指示に従い、ステージまで来てみると。ステージ前のシートはほぼ満席だった。
そんな会場をイリスは舞台袖から見つめていたる。
そしてアイリスが到着したのを見届けると振り返る。そのイリスの両手を澄香といのりが取った。
「言葉はいらない……それでも、言葉で伝えたいんだ」
そうイリスが言うと、三人は笑った。
そして。登場。
湧き上がる歓声。
「皆様、本日は急な催しにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
澄香がセンターであいさつをする。
「精一杯歌いますので、楽しんで下されば幸いです」
三人ともきらびやかな衣装に身を包み。笑顔を元気を振りまいた。
そしてライブが始まる。三人の笑顔は観客を魅了し盛り上げた。
そしてひとしきり歌い終わった後、上がった息を整えながら。いのりが語りだす。
「はーい、みんな、ありがと! ここでちょっとだけ時間ちょうだい?」
そう、ここからが本番だ。今日はこのためにリンカーたちは集められている。
「ボクね、今日はお礼を言いたい相手がいるんだ。
ここに集まってくれたみんなには勿論だけど。
それ以外に。
ボクの日常を支えてくれてる人に」
いのりはちらりとその姿を見た。セバスの姿はすぐみつけられた人ごみの中でも見つけられないわけがなかった。
「じいやー、聞いてるー?」
その声を聴いて少しセバスの表情が変わる。
「そう、あのじいやがボクの英雄」
そう穏やかな笑みを浮かべると、いのりはセバスに向けて、一つ礼をした。
「ボクの身の回りのこと殆どしてくれてるんだ。
物心ついた頃からずっと一緒。
辛い時も楽しい時もずっと側で支えてくれてさ。
いつもは言えないけど、今日はお礼を言わせて?」
そういのりはイリスを見る。するといのりがアイリスに手を振りながら言った。
「ボクたちからのサプライズプレゼントだよ!!」
「ありがと、じいや!
感謝の気持ちを込めてこの曲を贈るよ
みんなも聴いてね」
「ありがとうを、歌うよ」
「「「春の音~ルネ~『Thanks』」」」
三人の声が重なり、響き。
そして曲が流れる。まるで春の訪れを感じさせるような、さわやかな伴奏が会場を満たす。
ただ、この曲は完全なるオリジナルではない。調や歌詞に、ルネの面影が残っている。
歌詞は、アンサーソングのようだった。
女神が癒した大地は春を迎えた。
女神が守った世界で彼女の友達の少女は、悲しみを抱えつつも多くの友達と一緒に強く生きていき、やがて恋をする。
女の子は喜びの中、女神が守ったこの世界全てに感謝を捧げる。
そう。
「あなた」も「私」の大切な世界の一部。
その歌の最中、Cメロ前の伴奏でいのりは澄香の背中を押した。
ほら、今はキミがセンターだよ!
そう視線だけで澄香に伝えると、澄香は意を決したようにクラリスへと声を向ける。
「クラリス。君が受け継いだ歌を、私たちだって繋いでいくよ。
ありがとう。もう一人の私。君のおかげで前を向けたよ。もう、私は大丈夫。だから」
澄香は知っている、彼女の愛情を。かつて聞いた『貴女に辿り着いたのは私の誇り』その言葉の重さと意味を。
「だから、クラリス、君だって幸せになってよ」
「もう、十分に幸せに決まっているではないですか」
遠巻きでは微笑んでいるようにしか見えなかっただろう、だがセバスの目には見えていた。その瞳が潤んでいることに。
瞬きすると一滴涙がこぼれた。
「わたくしはただ……いえ、何も申しますまい」
セバスはそう複雑な表情を浮かべた。
そして歌は最後のサビに突入する。
最高の盛り上がりと共に歌がこの場に、世界に響いていく。
* *
「鈴音!」
「輝夜!」
二人は歌に導かれてステージまで来た、するとその入り口で再開することができたのだ。鈴音の脳内に遙華の言葉がよみがえる。
『自分の思いを信じて、間違っていないわ。あなたが感じたこと、怒りも感謝も同じ分だけあるはずよ、全部を伝えるの』
そのアドバイスの意味が今なら。わかるきがした。
二人は手を取り合った。
「ごめんね」
「すまなかった」
二人は謝罪の言葉を重ねた。
「結局ダメじゃった、今日も食えんかったわ。のう鈴音。わらわはのう……いつも口癖のように人間を喰うとか言っておるが」
輝夜はバツが悪そうに頬をかく。
「腹が減って苛立つのに……いざそれをしようとすると何故かわからんが身体がそれを拒むのじゃ。じゃから本当は食うことなどできん、じゃから。お主の血だけが頼りなんじゃ」
そう言うと鈴音は首を振る。
「私も。輝夜がいなかったら……ずっと誰にも心を開くことなどなく死ぬまで孤独を抱えて生きていたかもしれない」
鈴音は思い返す、輝夜と会う前の自分。ただ学校に行って、誰とも話せず、家に帰って部屋にこもる日々。
その日常を壊したのは、輝夜だ。
「それが輝夜に出逢って共鳴で得た力で守った人々に感謝されたり、ずっといなかった友達が出来たり。それまで真っ暗だった人生に光が差したような気持ちだった。なのに、私」
「定期的に自分の血を分け与えて気持ちのいい者なんておらぬであろうに……お前はいつもそうしてくれる、じゃというのに、わらわは」
輝夜は意を決したように鈴音の肩を掴んでいった。
「二度と言わぬからしかと聞け! ……わらわはそなたに感謝しておるのじゃぞ?」
「うん、私も、ありがとう。これからも一緒に頑張ろうね?」
* *
「言葉はいらない……が、言葉で伝えたいか」
アイリスは舞台袖にいた。一番近くで聞いてやりたい、そう思ったためだ。
その舞台袖でぽつりとひとりごちる。
「まいた種が花開くように……受け取った歌はただ風化するだけではなく、次へと繋がっていくものか」
やがて歌が終わり、大歓声の中三人ははけてくる。
そして真っ先にイリスはアイリスをみつけ、その胸の中に飛び込んだ。
「頑張ったね」
「一緒にいてくれて、お姉ちゃんでいてくれて……ありがとう」
その表情はいつもと変わらず優しげだが。
イリスは気が付いていた。
いつもよりほんの少しだけ表情が違うことに。
「君たちも、お疲れだったねいいライブだった」
そうアイリスがねぎらいの言葉をかけると。後ろからアンコールの声。
「大変、素敵な歌でございました」
そうセバスとクラリスが舞台袖に上がってきた。
「ありがとうございます、お嬢様」
すこし照れるいのり。
「行ってらっしゃい。アイドルがアンコールに答えないなんてこと、あってはなりませんよ」
そうクラリスが、澄香の肩を叩く。
そして三人はうなづくと。勢いよく駆け出した。
アンコールの曲目は『愛のバーゲンセール』
そして見事に遙華はフリーズしていた。
* *
「良いライブでしたね」
蘿蔔はそうため息をついた。その隣でレオンハルトが短く同意の言葉を返す。
二人はいま観覧車に乗っていた。
そしてこの観覧車から降りたら帰ろう、そう言う話になっていた。
ありがとうをいう機会を後回しにしていたレオンとしては、いつその話をしようかタイミングがつかめないまま、やきもきしていると。蘿蔔が口を開いた。
「レオン……あの、ありがとうございます」
「えっ。どうした急に」
「今日は楽しかったので。それに、レオンもなんだかいつもより楽しそうで……私も嬉しかったというか。
思えばこうして色々できるのもあなたのおかげなのに、いつも困らせてばかりで。私にできることは……って、な……何で泣くんですか」
「いや……ちょっと、嬉しくて」
ちょくちょく泣いてばかりのレオンハルトである。
ちなみにそのすぐしたのゴンドラにはいのりと澄香が乗っていた。
「素敵な一日だったね、澄香」
いのりは言った。
「キミにも言わなきゃね。いつも一緒にいてくれてありがと!」
そう言うと澄香は笑う。
「私も、いつも一緒に居てくれて、ありがと。ふふ、今日も楽しかったね」
* *
ほっこりもつかの間、全員で遊園地から出ようと出口に向かうと、何やら機材を運び出しているオジサンたちがいっぱいいた。
それを見た蘿蔔は足を止める。
反射的にレオンハルトはまずいと思ったがどうしようもできなかった。
運び出されていく人食い花。そしてカメラたち。すべてを蘿蔔は察した。
「テレビ……なんですかそれ。何も聞いてません」
その怒りのボルテージは上がっていく。
「私知りません。一体どこからどこまで撮られてたんですか」
真っ赤になって泣きながら走り去る。 それをあわててレオンハルトが追いかけた。
その様子を澄香と遙華が見守っている。
「あ。そうだ、最後に遙華、ロクトさん。何時もありがとう。二人に会えて本当に良かった!」
そう澄香は花の咲くような笑顔で笑った。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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