本部

たくさんとける……らしい

睦月江介

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/04/05 17:41

掲示板

オープニング

 水の都と名高い運河の街、ヴェネツィア。縦横無尽に走る運河には、当然橋もいくつも架かっている。時にはその下を通った時、時には運河周辺の細い路地に入った時……べちょり。
 重く湿った音がしたかと思うと、巨大な粘液の塊……いわゆるスライムに体を覆い尽くされていた。あらん限りの声で叫ぶ悲鳴が、町の静寂を打ち破った……。

「とまあ、そんなわけでスライム状の従魔が多数確認された。君たちにはそれらを倒して貰いたい。連中はイマーゴ級だから、多いのは数だけだ」

 話しぶりからすると人的被害が出ていてもおかしくなさそうだが、全部イマーゴ級らしい。放置していたら成長の可能性はあるので放っておくわけにもいかないが。

「スライムはとある運河周辺の細い路地とか、橋の下なんかに潜伏していて人間が通りかかると覆いかぶさるように落ちてくるそうだ。戦闘力は無いに等しいが、注意点がある」

 何か、厄介な特性でも備えているのだろうか? 緊張感を取り戻したところに、HOPE職員が口を開く。

「服が溶けるそうだ」

 は? 今なんと言いました? もう一度、尋ねる。

「服が溶けるそうだ。これまで被害にあった人も老若男女問わず、半裸だったり全裸だったりと結構悲惨な有様だったらしい。ただ、直接ダメージがあった様子はない。金属類が溶けたという事も聞かない。だがこれが結構重要なんだ」

 何が重要なのかと言うと、スライムの行動に関して、ということらしい。

「見た目に反して逃げ足が速いようで、奇襲に失敗するとすぐに逃走してしまう。だが服を溶かしている間は人間にまとわりついて離れない。それから、あまり大人数で固まっていると襲ってこないこともあるようだ」

 ちょっとバカらしくなったが、腐っても従魔。放っておくわけにも行かない。

「服を溶かされてもいいように、着替えを用意すると良いかもしれないな。数は15体、数体ずつばらけて潜伏しているが別段落ち着いてやれば恐ろしい相手ではないはずだ、グッドラック!」

 良い笑顔でエージェント達を送り出す職員に対して、女性陣の冷ややかな視線が突き刺さったのは気のせいだと思う、多分。

解説

運河周辺に数体ずつ潜伏しているスライム(イマーゴ級)15体を殲滅してください。
戦闘力は皆無に等しいですが、その粘液が触れると服が溶けます。服を溶かしている間は人間にまとわりついて動きませんが、奇襲に失敗するとすかさず逃げようとします。また、あまり大人数で固まると怯えて出てこない可能性もあります。

隠れていそうな場所としては主に裏路地と橋の下で、適度に湿った薄暗い場所を好むようです。

リプレイ

●水の都で花開く研究者魂
 水の都に現れたイマーゴ級のスライム達。まとわり付くとその部分の服が溶けるという、お約束というか誰得というか、そんな一風変わった特性を持っていることに今回の依頼を受けた能力者達の数人が興味を持ち、まずはその性質を調べるところから取り掛かった。大人数で固まると逃げる事もあるという性質から、2、3人のグループに分かれて退治に当たることになり、調査を考えた御神 恭也(aa0127)、九重 詩乃(aa3372)、カグヤ・アトラクア(aa0535)の3人でまずは1チームとなった。
「水の都だけあって湿度は高い……なら可能性があるのは光の当たらない場所か」
「あーあ、どうせなら旦那とデートで来たかったなー」
 詩乃はそんな愚痴を漏らすが、仕事なのだからそこは仕方がない。
「それでは、それらしい場所をまずは適当に探してみるかの」
 カグヤがまずは地図を広げてそれらしい場所にあたりをつけて行く。そうして出てきた候補の1つが運河に架かった橋の下であり、まずは恭也がゴンドラを二艘借りて前の一艘に服を着せた人形を配置して先行させて餌にしてみる。
「これで、布に反応して襲って来るのか体温に反応しているのかが判るな」
 予想通りべしょっ、と落ちてきたスライム。だが人形は素通りし、スライムは自分達の乗ったゴンドラの上に落ちてきた。見てみると、サイズは思ったよりも小さい。おおよそ数十センチ……例えは微妙だが、少し大きめのぬいぐるみくらいだ。だがこれによって敵は体温に反応していることが分かった。良く良く観察すると、こういう場所にいそうなネズミやコウモリと言った小動物の気配がない……普段は体温を頼りにそうした小動物を捕食しているのだろう。念のため厚着をしておいた服が溶かされ、厚手の長袖が夏場のような半袖にされているうちに速やかに討伐する。
 そして、その様子を見ていた詩乃が前々から気になっていた事を試そうとまるで散歩のような気軽さで水路に踏み込み、スライムの襲撃を受ける。1体1体はそこまで大きくないが、都合3体もまとわり付けば、体を覆うように粘液が触れた状態になる。当然服が溶け始めるが、全く気にする事も無く用意したのは多種多様な素材の衣服……まずはどんな繊維でも溶かせるのかから調べよう、という魂胆だ。
 綿や麻のような植物繊維、絹やウールのような動物繊維、レーヨンのような合成繊維と次々試す。すると、一応全て溶けたがその早さには差があった。動物繊維は瞬く間に消えたが植物繊維は動物繊維よりは時間がかかり、合成繊維は更に時間を要した。繊維状でも、スチールウールのような金属に関してはやはり溶けなかった。綿百パーセントの服が溶かせるのを確認したので、今度は植物のワタも溶かせるのかも試し、それすら溶けて行く事を確認。
 「本当は麻でも試したかったんだけどねー。栽培からしてダメ! ゼッタイって言われちゃーしょうがないね」
 そんな事を暢気に言いながら次にスライムの身体のどこに繊維が触れても溶かせるのか、あるいは特定の部位でのみ溶かすことができるのかを実験。これに関しては全身くまなく、どこに触れても溶けていった。
「ほうほう、ふむふむ。にゃーるほどー」
 その横でカグヤもスライムの構造解析。粘液性の群体生物なのか核を元にした単性なのか、ぐねぐねとさわりまくって調べ、後者である事が判明。
「どうやら溶かす、というよりも食べているようじゃな。植物繊維や合成繊維も溶ける辺り雑食性と見て良いじゃろうが小動物を食っていると推測できるところからすると肉食寄りか」
「体温に反応しているところとか見ても知性は特に無し、溶かせそうならとりあえず構わず襲うって感じかな。動物としてみても下等生物にありそうな性質が色々あるねー」
「君子危うきに近寄らず……フレンドリーファイアーが起こりかねん」
 恭也は女性陣の服が溶け始めているという状況が状況だけに、なるべく離れてスライムを射撃で撃破して行くが実は詩乃もカグヤも羞恥心よりも知的好奇心を優先する、というより羞恥心そっちのけだったので当人達からすればあまり問題ではなかった……当然の配慮、ではあるのだが今回に限っては取り越し苦労だったかもしれない。
「これは使い方次第では繊維業界に新たな風を生み出すやもしれぬ。けど愚神じゃしょうがないね。死ね」
「後は研究用も兼ねて少しばかり持って行くとしようかの、金属を溶かせんようじゃし、職員にも色々思い知って貰わねばの」
 持参した大きめの魔法瓶にスライムの一部を詰めるカグヤに、余裕でスライムを撃破する詩乃。所詮イマーゴ級では敵ではない、研究を十分にさせてもらった後一応その一部を通信機で連絡し、このグループの討伐は余裕を持って終わったのだった。

●サービスカットというのはいじり倒すためにある
 知的好奇心に突き動かされてノリノリで分析と討伐を進めていたカグヤ達のグループとは対照的に、ほぼ終始テンションが底辺と言っていいほど低い状態で依頼に当たっていたのが防人 正護(aa2336)、藤丘 沙耶(aa2532)、天城 稜(aa0314)のチームだった。
「スライムかぁ……テケリ・リとか言わないよね?」
 とある神話を思い浮かべ背筋を震わせる稜だったが、そんな事はないので安心していただきたい。そもそもそんなSAN値直葬なスライムだったらイマーゴ級ではない。
「はぁ……全く、下らない仕事ですね」
「たかが小型従魔と言えど被害が出ているんだ。放っておくわけにもいかない……すべて処理するぞ」
 そんな稜の心配を他所にいたって冷静な態度を崩さない正護と沙耶。沙耶はとりあえず無言で鷹の目を使用し、鷹に録画モードのスマホを取り付けて飛ばす。スライムの探索のためと2人には説明したが、それはごまかしていたに過ぎず本当の意図は別のところにあった……そちらの意図に関してはオマケに袖の下にインスタントカメラまで隠す周到さであった。
 怪しいのは橋の下ばかりではない。湿気が多く、薄暗い路地に入ると小さな影に気付いた瞬間落下してくるスライム。
「うわっ! 危なっ! これでも喰らえっ!」
 間一髪、最初の奇襲を盾で防ぎ、ライトブラスターで反撃に転じる稜。やっぱりイマーゴ級なので、しめやかに爆発四散。だが当然といえば当然のごとく、たった1体で終わるわけはない。次々と落下してくるスライム達……それを防ぎ、かわし、撃破して行く。服が溶けようといっこうに気にしない3人。だが、周辺のスライム全てが片付いた時……ついに沙耶は自身の目的のために動いた。
 スライムの気配が消えた事を確認の上で、自分達の状況を確認してみればそれなりに服が溶けているわけで……ついでに粘液でべとべとなわけでどういうことかというと……そこはかとなくエロスを感じないでもない光景になっていた。
「ううっ……ベトベトする……」
 顔を顰めながらそんな事を言っている稜に、服が溶かされた状態のまま抱きつく沙耶。
「えっ?」
 人によってはいらない誤解をしても全く不思議ではないそんな状態を、すかさず自撮り。あえて黙っていた沙耶の目的……今後の会話の面白いネタ、確保完了。
「ええええっ!?」
「とりあえずこちらは完了だな。手分けした他の班に連絡して、必要ならば応援に行くぞ」
 慰めの言葉が浮かばないし、下手に触れると余計に傷口が広がることにもなりかねない。最悪自分に飛び火する可能性すらある。とりあえず、重要なのは目下の仕事……そう割り切って正護は目の前でしっかりネタにされた稜をスルーすることにしたのだった。薄情かもしれないが誰だって自分の身は可愛いのだ。

●単独行動は危険だとあれほど
 最後は狒村 緋十郎(aa3678)と狼谷・優牙(aa0131)のチーム、というか8人中2人なのでペアである。2人とも最初は囮を買って出るつもりだった事もあり、まずはそれぞれに単独行動でおびき寄せることにした。しつこいようだが相手はイマーゴ級のスライムに過ぎないので、共鳴さえすれば小バエ感覚でぺちっとやってしまえるのだ。厄介なのは性質と数だけで、討伐、というよりも害獣駆除という方がしっくり来るレベルである。
「囮とかどうなるか予想が出来てしまいますけど……うう、依頼を成功させるために頑張りますー」
 場所は観光よりは物資運搬のために使われることの多い細い水路。意気込んだ直後にガタン、と大きな音がして思わずびくり、と体をすくめてしまう優牙。
「わひゃあ!」
 身構えたその姿を何だコイツ、とでも言いたげな目で見て歩き去って行ったのはただの野良猫だった。華やかなヴェネツィアに住む猫にしてはふてぶてしい態度に若干腹が立たないでもないが余所者は自分の方であるわけだし、そもそも猫に構っている余裕はない。
「ね、猫さんですか……心臓に悪いです。話だとこういう所に出やすいとのことですけど、ここには……」
 上からの奇襲のケースがこれまでほとんどと報告を受けていたこともあり、上に注意を向けていたが相手は必ず上から来る、と言うわけではない。意識が逸れていた左側面からびちゃり、とスライムが飛び掛る。
「わひゃ!? で、出ましたねー!? 共鳴時はそう簡単に溶かされるわけにはいかないのですー! お、女の子の身体になってるだけに余計にー!」
 ナックルを装備して、自分の服を溶かしているスライムを溶かしきられる前に攻撃し倒していこうと構えるが、冷静に考えていただきたい。小柄な女の子が1人……他のグループのように複数で行動していたり、緋十郎のような大柄な男が歩き回っているのと比較すれば『スライム側にとっても格好の獲物』であることは火を見るよりも明らかである。そして当然だがスライムが放っておくはずはなく、わらわらと残存スライム一斉集合……その数5体。
「ええええーーっ!? こ、これはいくらなんでもまずいですよー!?」
 何がまずいって戦力的にではなく、衣服的に。1体1体は小さいがこれだけいれば優牙1人くらい余裕で全裸にしてしまえるだろう……そして実際、緊急事態の連絡を受けて緋十郎が到着した頃には優牙はすっかりべとべとになっていた。
 到着と同時に緋十郎は共鳴、獣人化。大剣<アルクトス>を抜き放ち緋色と黒が入り交じったライヴスの刃で速やかにスライムを焼き切る。
「あう、絡みついてるかの感じがとっても気持ち悪いですよー! は、早く倒れてくださいー!」
 緋十郎にもスライムがまとわりつくが、
「スライムどもめ、さすがに俺の体毛までは溶かせんだろう」
 タンクトップの黒シャツは溶けたが、その体毛は粘液でベトベトになるだけで溶ける気配は無く、例によって危なげなく撃破。
 かくして無事スライムを全滅させたが、その時点で優牙の衣服はほとんどなくなってしまいに真っ赤になっていた。だが緋十郎はぴくりとも動じることなく持参したバスタオルを掛けてあげ、紳士的に対応。緋十郎は自分の英雄ひとすじ(片思い中)のうえ、優牙の外見年齢は10歳……こう言っては悪いが、お子様である。コメディ漫画みたいなえっちぃ雰囲気になる心配は無用だった。こうして、無事(?)スライムは確認されていた15体全ての討伐に成功した。

●観光の前に何か忘れちゃいませんか
 無事討伐が完了したところで一度集合し、最終的に討ち漏らしが無かったかという確認や何か変わった事がなかったかと言った報告、情報交換を行い、問題がないという最終的なチェックを済ませる。あとは水の都と名高いヴェネツィアをゆっくり観光……と行きたいところだったが良く見れば何だかんだ衣類への被害は軽くなかった。一番悲惨だったのは優牙だが、カグヤも念のためにと着物の下に着込んでいたビキニアーマーが露出して肝心の着物の方はボロボロになっているし、沙耶も服にあちこち穴が空いたような状態だった……。
「ふぅ……酷い目にあった……もうスライムなんて見たくないや……」
 加えてスライムで服がボロボロになったところを撮影されネタにされた稜に至っては精神へのダメージも軽くなく、そのまま観光と洒落込むには大分問題がある状態だったのでとりあえずアフターケアが必要と判断された。
 事前に服が溶ける事を想定しておいた事でそれぞれ持ち込んであった衣類に着替え、そうした準備がなかった者には準備した者が服を渡して準備完了。改めて観光へと乗り出したところで、緋十郎は少々いたたまれない気分になった……。
 彼自身はタンクトップの黒シャツ一枚に黒ジャージズボン姿で現場入りしていたのだが、スライム殲滅でタンクトップはボロボロ。そして被害が大きかったメンバーへのケアを優先した結果……
「準備した着替が無い……?」
 やむを得ず緋十郎は上半身裸という、やや締まらない格好で他のメンバーに同行する羽目になり……その横を歩くのは疲れた顔をした稜だった。観光を楽しむ間にもしっかりいじり倒されたようでがっくりと肩を落としている。今回のスライム退治は皮肉にも、服が溶けると困る女性よりもそれほど困らない優しい男性が苦労することになったのであった……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • エージェント
    九重 詩乃aa3372

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 終始端の『魔王』
    藤丘 沙耶aa2532
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    九重 詩乃aa3372
    獣人|26才|女性|生命
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
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