本部

寝た君、これからの君

真名木風由

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/03/30 01:29

掲示板

オープニング

「わしはつくづく思うのじゃが」
 明るく快活な印象とは裏腹の口調をした少年が、ぽそっと呟く。
「人の姿だと寝るのも大変じゃな」
 この少年は、デイ・ブレイク(az0052hero001)……最近彼のパートナーである蒼 星狼(az0052)と契約したという英雄だ。
 本人が言うには見た目通りの年齢ではなく、また、元の世界では竜であった為、非常に新鮮らしい。

 それは、『寝相』だ。

 今日、『あなた』達は韓国の古都慶州にて桜の季節を前に従魔騒ぎがある寺へ向かい、無事に討伐してきたばかりだ。
 しかし、倒した時には既に夜も遅く、また、遅くなった原因である従魔の数だけは多いのに疲れている……ということで、最寄の支部で一晩休むこととなった。
 大部屋に布団を並べて、というもので、雑魚寝だが……大変自由な世界が展開されている。
 デイは元の世界であまり睡眠を必要とせず、こちらでも睡眠が必要とせず、ということであるが、星狼の生活スタイルに合わせる為、夜寝るという習慣をつけようとしている段階だそうで、寝るのにまだ時間が掛かる為、この感想らしい。
「星狼の寝相はつまらんが、見応えがある者もおるのぅ。自由でいいことじゃ」
 カラッと笑う声も寝ている者に配慮して小さい。

 さて、この時、『あなた』は星狼のように寝ているか、デイのように起きているか。
 一体どちらだろう?

解説

●選択肢(どちらかひとつまで。能力者・英雄別で選択してOK)
・寝てる
寝相は自由でOKに設定していただいてOK。
メイン描写ではないですが、夢の内容も書いていただいてもOK。ただし、シナリオ趣旨より『シリアスではない夢』限定。
シリアスを書いても夢ですので、面白おかしく改変します。
その夢を見ている現在の自分も書いてください(例:女の子スキーが可愛い女の子にモッテモテ夢→現実でだらしない笑顔で寝てる)
いびき・寝言OKです。

・起きてる
まだ寝つけてないです(消灯して30分後)
起こさないようボソボソ喋ったり、寝てる人の寝顔をガン見します。
部屋を出て別のことをする(外に出て物思いに耽る等)・寝ている人を起こす以外の範囲なら自由です。
範囲外と思われる行動全てマスタリング対象となります。

●メイン描写時間帯
・日付変更前後
朝描写も行いますが、夜通し起きている時間経過はほぼ描写しません。

●場所
・支部の大部屋
和室。全員布団で雑魚寝状態。

●NPC情報
・蒼 星狼、デイ・ブレイク
星狼→寝てます。どうやらデイが迷子になってる夢を見ているらしく、「クソジジイ、ジジイの威厳がないならただのショタだ」と寝言。
デイ→起きてます。寝言には呆れるようですが、笑って流す模様。眠くなるまで方々の寝相・寝顔チェックします。

●注意・補足事項
・任意絡み描写あり。個別にはなりません。ほぼ確実に絡みます。
・シリアス案件ではありません。コメディに近いでしょう。交流主体であり、皆で楽しむ趣旨です。TPOや年齢制限関連注意。
・夢は現実で起こっていない・起こりえないこともOKですが、夢である為全て事実ではなく、夢でしかありません(事実として成立しません)また、夢の中で誰かと絡む夢もOKですが、メイン描写ではない為ガッツリ書きません。
・強行しても不本意な描写になってしまうのでご注意ください。自由度が高い=何をしてもいいということではありません。

リプレイ

●お静かに
「男女雑魚寝とは……」
「文句言うても仕方ないじゃろ。東京海上支部とは同じにならんということじゃな」
 御神 恭也(aa0127)の嘆息にデイ・ブレイク(az0052hero01)が、軽く肩を竦める。
 夜遅かった為、この支部での寝ることになったものの、寝られる場所そのものが支部の規模の関係でここしかなかった。
 それでも、着替え自体は更衣室を貸して貰える為、ここは本当に寝るだけといった所だが。
「施設の防犯上施錠されていますし、宿直の方が休んでおられたりする関係で出歩かないでほしいとなると、少々窮屈ではありますね」
「ロロ……」
 構築の魔女(aa0281hero001)は消灯前に職員からの差し入れという形で貰ったペットボトルのお茶を口につけてそう言うと、辺是 落児(aa0281)は緩やかな肯定。
 その言葉は構築の魔女以外解らないが、構築の魔女が言うには「辺是も状況を楽しんでいるようです」とのこと。
「私は馴染みがないですけど、修学旅行以来、とのことで」
「……夜の雑魚寝となると、そうなるか……っと」
 構築の魔女の通訳を聞きながら、恭也は伊邪那美(aa0127hero001)の布団を掛けなおしてやる。
 寝相が悪い伊邪那美、寝相が大変自由だが、デイは特に覗き込まない。
「如何にわしと姿形が変わらぬ女児とは言え、女子(おなご)じゃろう。そこまでの無礼はせんわ」
「その辺りは見た目通りではないということですね」
 アリス(aa0040hero001)が携帯ゲーム機操作しつつ、反応。
 佐藤 咲雪(aa0040)と共に寝る前の狩りに出ているそうで、反応しながらもその操作は神の如き技巧。
「それにしても、修学旅行……一線を越えるシチュエーション……」
 この世界に降り立ってから、その精神が腐方向に向かったアリス、ゲームしながらもSNSへ投稿する作品を考えている模様。
 咲雪は反応が面倒くさいらしく、「ん」とだけ言って携帯ゲーム操作熱心。
「シュウガクリョコウなるものは何を越えるのじゃろうなぁ。わしはまだこの世界に来たばかりでよく分からん」
「辺是、実際に教えて差し上げてはどうでしょうか」
「ロロ!?」
 デイの呟きに構築の魔女がからかうように見ると、落児が硬直した。
 アリスの目がぎらんっと光り、超ガン見。
「辺是が教えてくれると言っております」
「あまりそう見えないのじゃが」
「照れてるんですよ」
 落児、この時は構築の魔女の通訳を全力否定したく、意思疎通の手段はないか探すが、消灯時間過ぎているので、あんまり動けない。
 アリスが狩りをしながら、その瞬間待機なう!
 落児は恭也に助けを求めるように顔を向けるが、恭也、危険を微妙に感じ取り、「また布団を蹴飛ばした」と伊邪那美の布団を直して会話から離脱した。
「照れてるなら仕方ないわよねぇ」
 GーYA(aa2289)の寝顔を見て楽しんでいたまほらま(aa2289hero001)がくすくす笑う。
「照れるようなものなんじゃろうか」
 デイが首を傾げ、落児が進退窮まったその瞬間───

 ぶっほおおおおお

 狒村 緋十郎(aa3678)が盛大に寝屁こいた。
「ちょっと!? 信じられないわね、この脳筋猿!」
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が小声の範囲で最大に呆れ声を出す。
「凄い音だったな。寝た者が誰も起きないのが不思議な位だ」
「サクラにそのような機微などある訳もない」
 酒を呑む緋褪(aa0646hero001)へシンシア リリエンソール(aa1704hero001)が呆れ果てる。
 彼女のパートナーである風深 櫻子(aa1704)は筋金入りのロリコンであり、ストライクゾーンに入る女子が複数いるような中雑魚寝など危険過ぎると判断したシンシアが緋褪から少し酒をお裾分けして貰って彼女を強制的に寝かしつけたのだ。
 ただし、寝ながらセクハラ魔になっているので、シンシアも気が抜けない。
 着ぐるみ猫さんパジャマの警戒レベルはマックスである!
「私としても警戒する必要はありそうだ。それで起きたら、色々怖いことになる」
 緋褪の尻尾には、來燈澄 真赭(aa0646)が抱き枕であるかのようにもふもふした状態で寝ている。
 睡眠を邪魔されることを嫌う彼女がセクハラで起こされ、ハウンドドッグをぶっぱする為に共鳴を希望とか言い出されてもちょっと困る。
 と、咲雪が携帯ゲーム機の電源を落とすと、もぞもぞと布団の中へ入っていく。
「……ん、終わった。寝る」
「ええ、おやすみなさい」
 アリスが声を掛けてから少しもしない内に咲雪は寝たそうで、アリスも物音を立てないように起きているグループが集まっている一角へやってきた。
「起きている者は半々といった所じゃのぅ。薫、あやかなどはぴくりともせんようじゃ」
 デイの視線の先には、離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)の姿。
 寝顔を見に行くことはしないようだが、布団が動かないのは消灯した今でもはっきり分かる。
 普段の生活習慣から、早寝らしく、彼らは真っ先に寝落ちている。
 一応、男女雑魚寝とは言え、殊更入り乱れて寝る必要もないだろうといことより、大雑把ではあるが男女エリアが分かれる形、あやかは咲雪と構築の魔女が隣の隅の壁際、薫は恭也とジーヤが寝る布団に挟まれる形だが、特に隣の寝相を気にする必要もない程眠りが深そうだ。
「しかし、落児よ、おぬし起きておって良かったの。寝ておったら、寝屁の被害を受けておったわ」
「……――」
 デイに言われ、落児は重々しく頷いた。
 ちょうど、緋十郎の隣が落児の隣、尻の方向であった為、寝ていたら……解るな?
「まぁ、逆向きじゃったら、星狼が被害じゃな」
 デイが言った途端、その蒼 星狼(az0052hero001)が寝返りを打ち、外見に見合わぬ寝言を吐いた。
「クッソジジイ、どこ行きやがった……」
「夢の中でわしは迷子のようじゃのう。うつけが、このなりは幼くともおぬしより長く生きておる」
 あまり気にしていない様子で笑って流す。
「あら、見かけ通りじゃないってこと?」
「この世界に降り立ったら、童になっておったが、かつての世界では竜であったの」
 レミアが話を向けると、デイは気にした様子もなく笑う。
「不躾になってしまうかもしれませんが、幾つかご質問してもよいですか? 私もお答えしますので」
「構わんぞ」
 構築の魔女は最近この世界に降り立ったという英雄へ向けて幾つか質問を開始しようとする。
 と、いきなり、ジーヤががばっと起きた。
 確かジーヤも体力がない部類で、薫とあやかよりも早く落ちていた筈……。
 あれ、トイレ?
 思わず彼を見るエージェント達。
「大丈夫、息をゆっくり吐いて~」
 ぴくりとも動かない薫をぽんぽんし出した。
 あれ、これ、寝惚けてる?
 皆、思わずまほらまを見た。
「ジーヤはあたしと誓約を交わすまで病院のような施設にいたって教えて貰ったわね」
 多分、皆一緒に寝てるから、その時のことを夢見て、こうなっているのではないか。
 まほらまはジーヤから聞いた話を聞かせ、くすくす笑う。
「ちょーっと案件よねぇ」
 明日の朝が楽しみといった様子のまほらまの視線の先、動かない薫の頭を撫で撫でしているジーヤ。
 一応、寝息が聞こえているらしく、「ぐっすりおやすみー」なんて言ってる。
 それと同時に緋十郎が「んがっ」とすんごいいびきを上げ、ジーヤが「眠れないんだねー」なんて移動し、沈黙──寝たのかと思いきや、
「先生、居眠りーいっけないんだー」
 それに応えるかのように緋十郎が掛け布団蹴った。
 何故かケラケラ笑うジーヤ、多分寝惚けてるから慌てて起きた先生が映っているのだろう。
「かーっ、天国だわ。皆もっと、お姉さまのそばに来てー」
 櫻子の盛大な寝言に反応して、ジーヤがふらふら向かっていく。
 寝ている彼ら、今は何者からも束縛されない自由な存在である(かっこいい言い方)

●夢見る人達を眺めつつ
「ちょっと動画撮影しておきましょ」
「それ何?」
 まほらまがスマートフォンでジーヤを撮影し出すと、レミアが見慣れないのか問い掛ける。
 元の世界では存在せず、誓約を交わしてこの世界にいる今も馴染みがなかったらしい。
 まほらまがスマートフォンを説明している間も、寝ている彼らは自由世界。
「……伊邪那美がまだ可愛いと思える俺がいる」
 寝相の悪さで迷惑を掛けなければいい……そう思っていた俺は世界をまだ知らなかった。
 ※世界=緋十郎
 何て言うか、緋十郎は凄い。伊邪那美と違って体躯がしっかりしている分、掛け布団の蹴飛ばしは豪快、敷布団から既に転がり落ち、いびき歯軋りのソロステージ……凄過ぎる。
 なーんて、思ってたら、伊邪那美の蹴飛ばした掛け布団が恭也の顔面にクリーンヒット☆
「う~ん、まだまだ食べられるよ~……おかわり~」
 どういう夢なのかすんごい判り易い。
 近所の店で何とか確保した寝巻き代わりのTシャツからお腹が見え、大丈夫とばかりにお腹ぽんぽんしている。
「年頃じゃないとは言え、女子がして良い姿ではないだろうに」
 とりあえず、腹を隠せとTシャツを直していると、伊邪那美がガジガジ。
 ピラニアかと思っていたら、伊邪那美はにへらと笑う。
「恭子ちゃん、こっち美味しいよ~女の子の姿になってるんだから、なりきらないと~」
 恭也は、家に帰ったらまず伊邪那美を吊るそうと心に決めた。

 そうした恭也の揺るぎない誓いの最中も、時間は動いている。

「モフモフ……、えへへ、モフモフがいっぱい……緋褪大丈夫。後でちゃんとモフってあげるから……」
 幸せ全開で尻尾をもふもふしている真赭もきっとわんこふるもっふの夢を見ているのだろう、その顔は緩んでいる。
 帰宅したら発散させないと色々拙そうなと思う緋褪は身動きも出来ず、黙ってお酒呑むしかない。
 今の所起きる気配はないが、強制的に起こされたら場合によっては始末書書くこととかありそうだ。
「そちらはそちらで大変そうだな」
「……お前よりはいいと思う」
 シンシアが一瞬同情した目を向けるが、緋褪の言う通り、正に『お前よりはいい』状態のシンシアである。
「んへへ、きゃわいいこがいっぱーい……♪」
 未婚の女にあるまじき締まりのない寝顔と寝言だな、なんて思っている場合じゃなかった。
「ふかふかー」
「おい、やめろ、一応、ロリコンでどうしようもないとは言え、こいつも未婚の女だぞ、どういう夢を見ているんだ離れろ!!」
 シンシアは、ジーヤが櫻子に抱きつこうとしているのを割と全力で阻止している。
 そんなことも知らない櫻子は、
「んー、カレンちゃん、こっちいらっしゃーい♪」
 聞いたこともない少女(断定)の名を言って、にやにやしていた。

 さて、ここで、シンシアの知らなくていい櫻子の夢の世界を暴露しよう!

 リボンとレースで彩られた可愛らしい一室。
 そのふわふわのソファに櫻子はいた。
 お姉さま、お姉さま。
 見回せば、色んな国の色んな女の子。
 金髪碧眼の白い肌の女の子、イイ。
 銀髪紫眼の褐色肌の女の子、イイ。
 サラサラの髪の女の子も天パの女の子もショートの女の子もロングの女の子も可愛ければ、誰であっても平等に可愛がる。
 それこそ、真のロリコンというものである(真顔)
 頬にすりすり、お姉さまくすぐったい。
 やーん、可愛い。
 んん? そこにいるのは、猫着ぐるみのシンシアさん。
「サクラ、私ではお前の好みではないのだろうな」
「うへへ、シンシアちゃーん、甘えんぼさんでしゅねー、おいでー」

 ただし、世の中、第六感というものは存在するもので。

「!?」
 カレンって誰だとツッコミしながらもジーヤをどうにかしようと必死だったシンシア、何かエライ悪寒感じた。
「お、い?」
 今、私の名前口走らなかったか?
「おい、サクラ、貴様夢の中で何を……!!」
 シンシア、動揺の余り、ジーヤを思い切り起きているエージェント側にどーん。
 どーんされたジーヤ、寝惚けながら何となくころころ転がりだした。
「ころころあそびーベッドから落ちないよー」
 その前にそこベッドじゃないし。
「まぁ、転がっておる分には問題ないじゃろ」
「クソジジイ、ジジイの威厳がないならただのショタだ」
「口悪いひよっこよりは格段にまともじゃ」
 寝言言いまくる星狼を指し示し、デイは笑う。
「それにしても皆案外起きぬのぅ」
「咲雪なら、面倒くさいからそのまま寝るに決まっています」
 咲雪のめんどくさがりを甘く見ないでくださいとばかりに言い切ったアリス、それもどうなんだろう。
「ジジイ……本当に永く生きてるのね」
「あ、先程の質問、いいでしょうか」
 まほらまがデイを見ていると、心理学的な観点から寝相はなどと分析して自由な世界を見てた構築の魔女が会話に加わった。
「かつて竜とのことでしたが、この世界でも人間では存在しない器官の感覚はあります? 翼とか、角とか……」
「わしに関して言えば、ないのぅ」
 英雄という存在が多岐に渡る為、自分のケースとしてデイは答えた。
「少なくとも、わしは元の世界で人の姿を取れなかったのは覚えておる。それ故にこの世界の姿は完全に別物といった所で、感覚は全く違うのぅ」
「それはそれで困りそうね。体躯から違うんじゃないの?」
「そうじゃな、勝手が違うことが多いわ。が、小さきで損をすることもあるが、店やでは得をすることが多いのぅ」
 レミアが顔を向けると、デイが笑ってみせる。
「では、異世界で振るっていた力を行使出来たりします?」
「わしは使えぬのぅ。人の姿故、火も吐けなければ空を飛ぶことも叶わんのじゃ。ぴんちで元の姿ばーんとかなったら面白そうじゃが、無理じゃな!」
「それには同意するわ。この世界は色々勝手が違うもの」
 構築の魔女が問いを重ねるとデイが明るく笑い、レミアも以前の世界と勝手が違うと嘆息する。

「レミアァァァ」

 緋十郎が何かでかい寝言言い出したので、レミアは怪訝な顔をして彼の様子を見に行く。
「わしが思うに、緋十郎はレミアに懸想しておるような気がするのじゃが」
「どうなんでしょう? 人の心は解明出来ません」
 デイの感想に構築の魔女は軽く肩を竦めて見せる。
「ま、良き女子はみすてりあすな位が良いとも言うのぅ。あれは……その手の話をせんが」
「クソショタジジイ、てめぇなんかKSJだ」
 ぎゃあぎゃあとした寝言が続いている所を見ると、夢の中でデイは見つからないらしい。
 それもこれもデイのかつての世界とこの世界が違うということやデイが人ではなかったという所を星狼が心配しているという所なのだろう。
「美森さんのように文明圏が同じ位の世界で生活していると、戸惑いなく、見知らぬ土地にいきなり放り出されて生活する程度の感覚の方もいますが、そうではないとやはり心配してしまうのでしょうね」
「あと、彼女の場合独りでこの世界に来ているわけではない分、心強くもあるのだろうな」
 構築の魔女があやかに視線を転じてそう言うと、恭也が一旦戻ってきてあやかが親友と共にこの世界に降り立ち、今も共にある事実を指摘した。
 たった独りではないというのは、何かと心強いことも多いだろう。
 この世界に降り立つ際に多くの記憶が失われることを考えれば、同じ世界の、自分の親友という存在のありがたみは尚のことである。
「彼女の親友の能力者も薫と親友であるから、近いだろうしな」
「縁とは奇妙なものじゃのぅ。まぁ、わしもあれと縁あって誓約を交わしたんじゃろうがな」
 ちと失礼とデイが立ち上がり、星狼の布団を直す。
 緋十郎の足が星狼の布団に引っかかり、剥がれてしまった為だ。
 デイは寝顔を見、まだ寝言言う星狼を見て、笑って、額をつついている。
「……もう10年すれば……」
 アリスがぼそっと呟く。
 10年という単語には無限の可能性があるのか、アリスは何かデイガン見し出す。
 構築の魔女はその意味に気づいたが、人の心は自由領域なので黙っておいた。
 ついでにまほらまも面白そうだから、黙っておいた。
 ただ、落児だけ、やったら同情的な目を向けたという。
 多分、アリスの自由領域にはネームが切られたんだと思うよ。

●心は自由に解き放たれて
 一方、自由過ぎる2名を取り巻く世界を緋褪は酒を呑みながら観察していた。
 ぶっちゃければ、真赭起こさないといいという心配からである。
 だって、起きたら攻撃的になるだろうが、真っ先に被害に遭うのって、多分今呑んでる酒だと思うし。
(……お神酒は米の酒に限るが……奪われていいということでもないからな……)
 でも、正直、スゴイ自由だから、いつ起きないかちょっと怖い。
 尻尾が微妙に震えているが、それがくすぐったい真赭がくふくふ笑っている。
 親子になったつもりはないが、親の心子知らずという奴だ。

 爆睡真っ盛り、いびき、歯軋り、寝屁……寝ている人間がやらかす迷惑行為コンプリートまっしぐらの緋十郎氏、現在レミアの名を連呼して大変幸せそうである。
 何故幸せなのかというと、まぁ、方向性としちゃー櫻子と同じと言おうか。
 ロリコン櫻子のきゃわいい女の子ハーレムと異なり、彼の場合絶賛片想い中のレミアオンリーの違いはあるが。
 まぁ、ちょっと夢の中を覗かせてもらおう。

 緋十郎はレミアと色とりどりのお花畑を歩いていた。
 傍には湖があって、遠くから小鳥の囀りが聞こえてくる。
 2人きりのデート……!
 彼の夢の中を第三者が覗けるなら、何で緋十郎はタキシードなの、とツッコミが入る所なのだが、残念なことに人の夢を第三者が見ることが出来る程、科学はまだ発達していない。
 春風が吹く中、少し先を歩いていたレミアが足を止めた。
「……気づいているわよね、わたしの気持ち」
「レミアの、きもち……?」
 このシチュエーションは、まさか。
 緋十郎、胸を高鳴らせる。
 迫害の苦い経験がある緋十郎、よもや、年齢と恋人がいない時間が一致する以上、つまり、その年齢(禁句)で初恋疑惑が立つ瞬間だが、大丈夫、ここは緋十郎の夢、誰もそのツッコミはしない。
「そうよ!」
 レミアの瞳が潤んだ。
「わたし、ずっと……緋十郎のことが好きだったのよ……!」
「お、俺も出会った時からレミアのことが……!」
 緋十郎がその想いを告げると、頬を赤らめたレミアが瞳をキラキラ輝かせ、胸に飛び込んでくる。
 幸せ絶頂、花びらが祝福するかのように舞い上がり──

 ※あくまで緋十郎個人の夢の中なので、現実は実際大きく異なります。

「いつになく気持ち悪い寝顔ね」
 その現実のレミアが涎垂らしてだらしない笑みを浮かべて寝てる緋十郎を見下ろしている。
「レミアァァァ、愛してるぞぉぉぉ」
 レミア的には大型犬が尻尾を千切れんばかりに振っているように見える姿なので、夢の中で何故かキャッキャッウフフの新婚生活までかっ飛ばれてることなど微塵も想像がつかない。
「そっちも大変そうねぇ」
「酒を呑ませたのが失敗だったとでも言うのか……ッ!!」
 レミアがシンシアを見ると、櫻子によって精神削られまくっているシンシアが忌々しげに彼女を見ていた。
「夢の中で小娘を侍らすだけでなく、この私までも……!」
「薄いお胸も大好きよー♪」
「おい、貴様夢の私に狼藉しているんじゃ」
「声が大きい」
 シンシアが櫻子に掴みかかろうとし、緋褪が静かにけれどはっきりと注意した。
 真赭が、起きる。
 それは、寝かせておいてやりたいとかではなく、起こすと色々大変という意味で。
「く……」
「ちゅーしてあげよー♪」
 殴りたい。
 殴って起こしたい。
 起こして殴りたい。
 落ち着け、落ち着くのだシンシア。
「おのれ、ロリコンめ……」
 寝ながら私の精神を削るとは。

 ぶっほおおおおおお

 ここで、緋十郎、盛大な寝屁(2回目)
 レミアに蹴られるが、緋十郎は起きない。
 が、それでシンシアはヒントを得た。
「目に物見せてくれよう……」
 シンシアは櫻子の耳元で囁いた。
「いいか、そいつは今放屁した45歳の肥満モンスターだ。顔面偏差値は35といったところだな。あぁ、失敬、人間でもなかったな……そんなのに囲まれてよくにたつけるな?」
「……ぐっ、ぐごご……んげっ」
 あ、櫻子落ちた。
 落ちたよ!!
「……何だ、あっさり効いたな。単純な奴だ」
 緋十郎の放屁に反応したということは、櫻子の夢の世界に届いていたかもしれない。
 それはそれで恐ろしい。

「当たり前だけど、寝てる時って無防備よね……。これが殺意の攻撃だったら、ひとたまりもないわね」
 緋十郎を蹴っているレミアは櫻子の決着を見ながらそう言う。
 ただし、緋十郎はストイックなどM。しかも、片想いのレミアから蹴られているなら、単なるご褒美説は否定出来ない。
「とは言え、うるさいわよね。起こすのは流石に忍びないわ」
 下々の者に寛大な心を示すとばかりにレミアは緋十郎に猿轡、それから両手の親指、両足の親指をまず拘束、手馴れた手つきで布団のすまきにして誰もいない部屋の隅まで転がしていく。
「ごめんね、うちの脳筋猿が散々迷惑かけて。もう今夜は大丈夫だと思うわ」
「助かる」
 レミアの笑みに緋褪が丁寧に礼をするが、睡眠邪魔された真赭ってどんだけ攻撃になるのだろう。
 試してみたいとは思わないが、皆素朴な疑問を抱いた瞬間である。

 と、ころころ転がっていたジーヤがころころ遊びに飽きたらしく、芋虫のような動きでまほらまの所へやって来た。
「なに難しいかおしてんのさー」
 芋虫の動きでまほらまの膝に這い上がると、頬をむにっと抓る。
「なにすんのよ」
「えへへー」
 ジーヤは甘えた表情でまほらまに擦り寄る。
「懐かれておるのぅ」
「でも、あなたのような英雄じゃないわ」
 正道に導ける訳ではない。
 戦いの狂気に引き込んでしまう。
 まほらまはジーヤと自分が違い過ぎることは解っている。
「どうじゃろうなぁ。わしも案外同類かもしれんしの」
「どうして、そう思われるのでしょう?」
 構築の魔女が興味を持って尋ねる。
「おぬしらがどれ程生きておるかわしには知らぬし、年の話は無粋じゃと思うておるので置くが、自分が本当は誰であるか正確に知っておるものなどおらんわ。とりあえず、わしはあいすが美味しいし、しちゅーが美味しい。それで良いがの」
「女性の配慮を見れば、あなたが子供であると思う方はいないでしょうね」
 年齢の話を自らしないとするデイへ構築の魔女が微笑んだ。
 その間もジーヤはまほらまの膝の上でごろごろしている。
「おしゃべりしてないで、一緒に寝よ~」
 どうやら、仲間はずれと思って拗ねたアピールらしい。
「そろそろ布団に強制送還するわね」
 まほらまがやれやれとジーヤを引き摺り、布団へ放り込もうとすると、ジーヤに引き寄せられた。
「!?」
「俺の……え……ゅ……」
 最後まで言い切れず、でも、ちゃっかり胸に頭を預ける形でジーヤが眠りに落ちた。
 彼の中で夢なのか現なのかは、まほらまには解らない。
 が、とりあえず、やんわり抜け出て、ほっと一息。

「これも雑魚寝の醍醐味なのかもしれませんね」
「修学旅行でこんな凄まじいものを見た経験はないが」
「ロロ……」
 構築の魔女がのほほんと言うと、恭也がやっと静かになったような気がするという安堵と共に呟いた、
 落児は恭也に同意するつもりで緩やかに頷く、が。
「あら、辺是は懐かしいと言っていますが」
「……!!」
 恭也の目から見ても落児は否定しているように見える。
「冗談はさておき」
「冗談のセンスはないぞ」
「雑魚寝とはそういうものです。例えば、研究者などは研究室に寝泊りします。仮眠研究研究仮眠……まぁ、気を失ったら、仮眠するような感じで、自主性はないと思うのですが」
「ブラックなんじゃないのか」
 シンシアのツッコミを軽く流した構築の魔女、恭也からもツッコミ受けるが、「研究者の日々の苦労によって生み出されるものがあります」と流したので、実体験に基づいているのかもしれないが、その辺聞くと怖そうな感じがして、誰も聞けなかった。
「そろそろわしは眠くなったので、先に寝ておくかの」
 ここで、デイが脱落する形で布団の中に入っていく。
「わたしも幻想蝶の中に戻るわ。十分楽しめたし。皆も早くやすみなさい。おやすみなさーい」
 散々楽しんだらしいレミア、幸いというべきか布団の数の関係を幸いにと幻想蝶の休息を申し出ていた為、緋十郎の幻想蝶の中へ。
 実際は『吸血鬼の王女』と自身を名乗る彼女の性格的に雑魚寝が厳しかったからだが。
「サクラも落ちたからな。私も寝る。疲れた」
 シンシアもペットボトルの水を飲み干し、布団の中へ戻っていく。
「ところで、今何時でしょう?」
「消灯から、大体45分程度経過してますね」
「密度濃すぎる45分だったな……」
 構築の魔女が時刻を確認しようとすると、アリスが先に答える。
 アリスの言葉を聞いて、恭也がやれやれと溜息をつく。
「俺も、寝ておく。……眠れないなら、それまで散歩しようと思っていたが……」
 防犯で施錠もされているし、この部屋の自由さで色々持っていかれたので、散歩は取りやめにして、恭也も布団の中へ入っていった。

●寝る間際、少しだけ
「皆だいぶ寝ちゃったわね~」
 まほらまがやれやれと息をつく。
 櫻子、緋十郎の2巨頭が安らか(?)な眠りに落ちてからは、大体伊邪那美の寝相がちょっと元気がいいとか、ジーヤと星狼の寝言がちょっとうるさい程度で、先程から比べれば驚く程平和だ。
「……ロロ」
「雑魚寝で寝る前にはコイバナが定番であったと辺是が言ってます」
「ここで抜け出して、月夜の下で一線というものがなかったですね」
 構築の魔女の通訳に全力否定している落児を見なかったことにして、アリスが嘆息する。
 ちなみに、月夜の下で一線を越えるのは、男同士であるのは言うまでもない。
 が、十分SNS投稿のネタは稼げたように思う。
「コイバナねぇ。あたしは剣しか興味ないわ~。男? どこを斬ればすぐに逝くかは知ってるわよ。ま、あたしもこの辺にして寝るわね」
 まほらまがひらひらと手を振って布団の中へ。
 落児がまほろまの中盤の台詞に微妙に怯え、彼女の眠りにちょっと安堵したような様子を見せた。
 今日は彼的に最後の最後で大事件の連続といった所だろうか。
 構築の魔女はそんなことを考えながら、窓の外を見た。
 そこには、月が浮かんでいる。
 部屋を抜け出し、建物の外に出なくともゆっくり月を見られる場所をと思ったが、緋褪が静かになった今だからこそ真赭が起きるとばかりに腕を交差させており、彼の精神衛生の為に止めておくことにした。
「月は不思議ですね。この世界にも変わらずにある」
「ロロ……」
 落児の声には寂寥や懐古の感情が見え隠れする。
 やはり、かつての世界が気になるのだろうか、と。
 自分のように大切に想う存在がいたのではないか、と。
 構築の魔女はそれに微笑んだ。
 肯定の意味なのか否定の意味なのか──女の年齢を聞くのと同じ位、過去の詮索は無粋という意味なのかもしれない。
「気にはなりますが、帰りたいとはまた違う感情ですよ? どう交わりどう関わっているのかという知的好奇心とも言いましょうか」
 研究者気質ですね、と微笑む構築の魔女。
 ただ、と彼女はこう続けた。
「太陽なければ生きていけない存在ではなく、誰かの闇を照らす存在でもあると思います。……私が、何を言いたいか解りますか?」
 落児は答えず、ただ月を見上げた。
 激情に焼かれて灰となったこの身が、誰かの月になるなど、彼には想像も出来なかったから。

 やがて、彼らも眠りに就く。

「咲雪……起きてたわね」
 アリスは途中で携帯ゲームが枕元からなくなっていることに気づいていた。
 多分、途中で目が覚めたのだろう。
 が、引き続き寝られるような環境ではないし、その環境で寝る努力もめんどくさいので、静かになるまで狩りをしていたといった所か。
「ん……めんどくさい」
 寝かせろと抗議するのも寝る努力をするのも。
 アリスが「効率的なんだかそうでないんだか」と呆れる中、咲雪はクエストをクリアし、また電源を落として、布団の中から携帯ゲーム機だけ出した。
 すぐに寝息が聞こえてきて、今度は朝まで寝られるだろうとアリスも確信する。
 顔を上げれば、酒を呑み終わった緋褪も壁に寄りかかって眠りの世界に向かっていた。
 アリスは、もう1度、舐め回すように見回す。
 元から男同士であった面子は勿論、男体化した場合──一通り妄想してから、電源を一時的にオフにし、擬似的な眠りへと就いていった。

 そして、夜は進んでいき、朝がやってくる。

●目覚めたら
 薫は6時少し前に目が覚めた。
 スマートフォンのアラームを見ると、いつも通りの時間に鳴るようになっており、慌てて切るのを忘れない。
「起こしちゃう所だった」
 ほっと一息。
 身体を起こせば、皆まだ寝てる。
 寝て……!?
「何で簀巻きが出来上がってるの……」
 言うまでもなく、緋十郎簀巻きである。
「俺が起きた時には出来てたぜ」
 布団から身を起こしていた星狼が水を飲みながら指し示す。
「朝は強くてな。少し前には目が覚めてた」
「僕も朝は早いんですよ。その分夜も早くて。年が離れた妹がいるからかもしれませんけど」
「習慣って奴だろうな。ま、健康的でいいと思うぜ?」
 任務中は気を張っているからそう感じないが、終われば気は抜けるから余計だろう。
 親友がいればまた違ったかもしれないが、今日はいない。
 となると、妹達の時間に合わせたり朝食の支度等々で朝が早い為に普段から夜遅くまで起きていないだけあり、あっさり寝てしまったという訳だ。
「でも、雑魚寝とは言え、流石に男女大まかにでも分かれててそこはほっとしました」
 薫は明言しなかったが、あやかは事情あって異性の傍は無理なのだ。
 が、わざわざ男女入り乱れる必要はないという話はごもっともとしか言いようがなく、ごく普通にあやかの寝る場所で気を揉む必要もなく、そこもほっとして早く眠れる要因だっただろう。
「幾らなんでもそれはそうだろ。雑魚寝だからっつって、男女交互に配置してもなぁ」
「それは言えてますね」
 薫が納得していると、あやかの布団が動いた。
「おはようございます」
 あやかも異性を拒絶する必要もなく、同性付近で寝られた為よく眠れたようだ。
「よく眠れた気がします。いい夢を見たような気がしますが、覚えていません」
「夢ってそういうものですよ」
 薫がテーブルの上にあったペットボトルの水を取って手渡すと、あやかは礼を言って受け取る。
 あやかが異性拒絶の為部屋の角の配置であり、めんどくさがりの咲雪と無粋な真似などしない構築の魔女が隣であった為、あやかの寝顔を見、その夢を推察するということもなかったので、どのような夢を見たのかは最早誰にも分からないが、悪夢よりはずっといいだろう。
 薫もそうであったが、あやかも寝相は良く、特にあやかは場所的に誰かが介入するような場所でもなかったので、布団の乱れもない。
 周囲に誰かが近寄った痕跡もなく、音に出る位安堵の溜息を吐くのを見、薫がぽそりと言った。
「……あやかさん、よくよく考えれば、昨日の夜って幻想蝶に入れば良かったんじゃないの?」
 布団の数の関係もあったが、別に無理に布団に寝ろという話でもないのだし、そこまでなら幻想蝶で休んでいた方が良かったのではないか。
 休む時まで何かに怯えるようにして神経を尖らせる必要もないんじゃないか。
「あ」
 あやかが声を上げる。
 レミアがそれを申し出ていながら、何故、自分は続かなかったのだろう。
 幻想蝶の中で眠ってはいけないというルールもないだろうし、そこで眠っていても良かっただろうに。
(……普段から幻想蝶の中にあまりいないからかな)
 あやかは文明圏が同じ位の世界から来た為、この世界にさほど違和感を感じない。
 それもあって、親友と共にバイトに精を出していたりするからか、滅多なことでは幻想蝶の中に入らない分、目の前で他の英雄が幻想蝶に入って休むと申し出たとしても、自身もという考えが頭から抜け落ちるようだ。
 世界の違いに戸惑いがないのは強みだが、これはこれで困るのかもしれない。
(武器防具出し入れ装置に過ぎないって思っていそうな……。僕達と同じ文明圏って言ってるけど、あやかさん達の世界に似たようなものがあるのかなぁ)
 元の世界がちょっと気になるが、やっぱりそれも違う世界のことから、思い描く以上のことなど出来はしないのだ。

「よく寝たわい」
「早いな」
 デイとシンシアがここで起床。
 2人も生活サイクルは早めに出来ているらしく、寝坊ということはないらしい。
「時間通りか」
「ーー……」
「あら、皆様意外にお早いですね」
 恭也と落児が起きた所で、アリスも設定していた時間が来て電源復帰。
「私達より早く寝た筈だが」
 今の所起きている者は後に寝た者達ばかりだ。
 と、ここでようやく薫、あやかに続いて先に寝た組の伊邪那美が元気良く起床!
「おはよう。お腹空いちゃったー」
「夢の中で十分に食べたんじゃないのか」
「恭也ひっどーい!」
 伊邪那美は恭也に頬を膨らませてから、ペットボトルのお水こくこく。
 その動きで目が覚めたのか、構築の魔女の布団がもぞもぞ動き、彼女が身を起こした。
「おはようございます……。皆さん、思ったより健康的な寝相で」
「えっ、ボク大人しいよ」
 伊邪那美は首を傾げたが、それを聞いて恭也が割と露骨な溜息を吐く。
 そうこうしている内にまほろまがのっそり起き上がり、大きく伸び。
「まだ寝てる人どうする~?」
 すると、手馴れた仕草で動き出す者あり。
「サクラ! いつまで寝ている!!」
「うー……きゃわいこちゃんどこー」
 シンシアが布団を引っぺがすと、首を緩く振って起き上がった櫻子が周囲を見回すが、寝る前と同じ光景だ。
「前半天国だったのに後半地獄の夢を見たわー……きゃわいこちゃんのほっぺスリスリしたい……」
 朝なので煩悩駄々漏れで、シンシアが後頭部を張り倒す一方、アリスがやはり布団を引き剥がしている。
 しかし咲雪はそれでも寝ていた。
「咲雪、起きないとダメなのは分かっているわね?」
「……ん」
 掛けられた声で起きなければ説教コースを感じ取った咲雪は無造作に身を起こした。
 年不相応なスタイルを見、伊邪那美が「子供の頃どういう影響摂ってたんだろ」とか言い出すが、恭也も口を出せない分野である為、(家に帰ったら吊るすだけじゃダメだろうか)などと心の中で呟く。心は本当に自由領域だ。
「そろそろ起きなければ朝食後すぐに出立出来ないぞ」
 緋褪が柔らかく、真赭へ声を掛ける。
 睡眠妨害と攻撃的になる可能性はあるが、起きて貰わないと帰ることが出来ない。
 やんわりとした起こし方もあり、真赭がもぞもぞ動き、尻尾を掴む手が動いた。
「あ、おはよう……」
 気持ちよく眠れたからか、目を擦って身を起こす真赭。
 緋褪の尻尾の具合を見るに、昨日の自由世界で起きなくて良かったと思う程度に睡眠妨害に対して攻撃的になれるようだ。
 ここで、やっと、ジーヤも起きた。
「俺、もしかして、寝坊した?」
「寝坊って程ではないと思いますよ」
 薫が気遣い、ペットボトルの水を手渡してくれる。
 身を起こしたジーヤはまほらまの視線を感じた。
「俺寝相悪くなかったよね?」
「そうね~」
 寝相『は』悪くなかったが、寝相であった方が幸せであったかもしれない。
 まほらまの主張を微妙に感じ取った起きてた組の視線を受け、ジーヤがたじろぐ。
「ナニ、このフンイキ……」
「僕にもよく分からないです……」
 寝ていた薫も説明出来ず、一緒に首を傾げるばかり。
「何かしらね~」
 まほらまがしれっとすっ呆けたので、ジーヤは何かあったのだろうと思うも教えるつもりもなさそうな気配を感じ取って、「俺何したんだろ」と寝ている時間を思い返そうとしているが、それが出来た人類はいないので無理であった。
「ね、ところで、部屋の隅のあれ、何?」
 櫻子が部屋の隅の緋十郎簀巻きを指し示す。
 レミアによって簀巻きにされたままだった。
 夜型であるとレミアは事前に伝えており、この時間は絶対起きていない為、絶賛放置されていたが、簀巻き事情を知らない櫻子は気になっていたらしい。
 この場にいない緋十郎の予想はついていたあやかは近寄れない為に言及しなかったが、ちらちら見ていた所を見ると、多分気になっていただろう。
「朝ー、起きてー!」
 伊邪那美が容赦なく簀巻きの上に乗っかった。
 すると、その中央部分からぐあっと声が聞こえてくる。
「圧迫されてんだろ」
 星狼に解除され、緋十郎、無事に起床。
「助かった。目が覚めたらこんな状態で訳が分からなかった」
「悪戯でもしたんじゃないの?」
 櫻子が揶揄するように言うと、シンシアが櫻子の後頭部を殴った。
「貴様が言うな貴様が」
「何すんのよ! きゃわいい女の子の情報が抜け出たらどうすんのよ!」
「少しは抜け出ろ、このロリコン」
「ロリコン舐めるんじゃないわよ。遊びじゃないのよ」
 シンシアと櫻子の壮絶な口論が始まる。
 それを見ていた真赭が緋褪へ結局どっちなのだろうと目を向けた。
「どっちもどっちという話だな」
 どうやら、自分が寝ている間に何かがあったらしい。
 が、起こされる程じゃないなら、別にいいかと思い直し、ペットボトルの水をこくりと飲んだ。

●夢の後
 職員が朝食を出す食堂へ車を出すと呼びに来た。
 仕度を整える為、男女別の更衣室に向かうことになり、エージェント達は移動を開始する。
「何であの目覚めだったのか」
 分からない様子の緋十郎は呟く。
 そりゃー、緋十郎が色々半端なかったから、レミアが簀巻きったからに決まってる。
「俺もイミフというか……」
「理不尽なこともある世の中だな」
 首を傾げるジーヤに緋十郎が溜息を吐く。
 起きていた4人が顔を合わせるのを薫は見たが、聞いちゃいけない空気を感じて、同じように感じたらしい星狼と顔を見合わせる。
 世の中、知らなくていいことってあるけど、今回もそういうことなんだろうか。

「本当に最後悪夢でイヤになっちゃうわー。帰ったら、お姉さま、癒されたい」
 夢を覚えているらしい櫻子がブツブツ言うのをシンシアが「貴様は一生悪夢でいい」とか言い出し、また賑やかになり。
「あたしはいい夢だったと思うんですけど、思い出せなくて」
「それだけゆっくり眠れたなら夢に感謝でいいと思うよ」
「そう思うことにしますね」
 あやかと真赭はそんな会話と共に更衣室へ。
「咲雪、歩きながら寝ないで」
「……ん」
 寝かけている咲雪をアリスが更衣室へ放り込むのに続いて、昨日の動画をどうしようかくすくす笑うまほらまが更衣室へ入っていく。
「でも、結局の所、何で簀巻きになってたんだろう」
「レミアさんからの慈悲という所ですね」
 伊邪那美の疑問に構築の魔女がファインプレー返答。
 そのまま納得したので、それ以上説明しなかった。
 何事も、知らないほうが幸せなことってある。
 緋十郎の幻想蝶で休んでいるレミアも、緋十郎の夢に出てきた自分がどんな自分だったかなんて、知らない方が幸せなのだ。

「……ま、いい夢だった」
 緋十郎が幻想蝶に目を落として呟く。
 けれど、既に眠りに落ちたらしく、レミアからその言葉に対する返答はなかった。
 今頃レミアも夢を見ているかもしれないが、どんな夢かは誰にも分からない。

 夢は自由。
 どんな夢を見るかは自由だ。
 とは言え、寝言、いびき、歯軋り、寝惚け、寝屁には気をつけよう。
 朝、簀巻きで目覚めても、文句は言えないぞ☆

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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