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おしりマイスター、来る
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相談卓
最終発言2016/03/15 12:58:23 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/15 12:03:55
オープニング
●マイスターの贈り物
「はぁ……」
夜の街路を歩きながら、由美はため息をついた。ホワイトバレンタインとかいうアレが近いが、彼女にとっては関係のないものだ。
いや、関係のないものになった。
彼女はついさっき、彼氏に別れを切り出されていた。
理由は、ちょっとお尻がだらしないから。
とってもひどい。もしかしたら何かしら真の理由が別にあって、それを誤魔化すためにそんなことを言ったのかもしれない。だけどそれにしてもひどい。
更に悪いことに、由美自身もちょっとそれを気にしていた。だからなおさら傷ついた。
「私のお尻がもっと魅力的だったら……!」
正直そんな男とは別れて正解ではないかと思えるが、由美は自らの内に湧きおこる敗北感からそんなことを口走っていた。
もっと引き締まっていたら、重力に逆らって少し跳ね上がっているようなお尻だったら……。
むしゃくしゃして、何となくお尻をパンッ、と叩いた時である。何故叩いたかは由美自身にもわからない。
「お尻が欲しいかね……プリップリのプリケツが……」
由美がその声に顔を上げると、1人の老紳士が立っていた。白髪交じりの灰色の頭髪、たっぷりとしたダンディな口ひげ、名店で仕立てたような上質のスーツをまとった男は再び告げる。
「プリケツが欲しいかね」
「……あなたは?」
普段の精神状態なら間違いなく即ポリスにコールする由美だが、今は傷心なので変態だとかそういうのは不思議と気にならなかった。プリケツという言葉を聞き逃すことなどできなかった。
老紳士は、提げていた鞄から何かを取り出し、由美に差し出した。
「これをおはきなさい。このジーンズが必ずや……君のお尻を高みに導いてくれるだろう」
「この……ジーンズが……?」
「そうだ……これをはくだけで、君のお尻は、もうなんかすごいことになるだろう……」
ふんわりした説明でも、由美は何故かそれを信じ、そのジーンズを受け取った。
「ありがとう、ございます……」
「いいんだよ」
にっこりと微笑んで、老紳士はその場を去ろうとした。由美はとっさに彼を呼びとめ、尋ねた。
「あの……せめてお名前を……」
ジーンズを大事そうに抱えて自分を見つめる由美に、老紳士は笑みを絶やさずに答えた。
「私は、おしりマイスター」
一言。老紳士は革靴の音を鳴らしながら、夜の街へと消えていった。
●事件ですよ
言うまでもないがブリーフィングルームに急遽集められたエージェントたち。女性オペレーターが依頼情報を読み上げていきます。
「街中で通行人に『お尻が美しくなる』と言って謎のジーンズを配布する老紳士が出現しています。おしりマイスターとかいう変態のようなのですが、皆さんには彼を見つけて、配布を止めてもらいます」
謎のジーンズを配布する変態。なるほどそれは危険だ。だがエージェントが動くほどのことだろうか、という疑問が生じる。
「H.O.P.E.が動くほどの事件じゃないとお思いでしょうが、ひとつ理由がありまして。実はこの紳士の配布するジーンズ、本当に素晴らしいヒップアップ効果があるそうなんです。ただ着用しているだけでツンと張りのあるお尻をゲットできるそうなんです!」
すごい。エージェントたちは感心する。オペレーターのお姉さんも語気が強まっている。
「失礼、少々興奮してしまって……ただそんなうまい話があるわけがありません。不審に思ってH.O.P.E.に情報提供して下さる方も何人かおりますし、我々としてもジーンズは何らかのライヴスの作用があるのではないかと睨んでいます。その老紳士が愚神なのかヴィランなのかはわかりませんが、何かよからぬことを企んでいる可能性があります。よって噂のジーンズを調べるべきとの判断に至りました」
確かに、信じられないほどのヒップアップ効果があるというのは、いかにも怪しい。怪しすぎる。
「老紳士の外見情報を端末に送信しておきました。老紳士は昼夜を問わず、ヒップに悩みを持つ者のため息を感じ取って姿を現すらしいです。神出鬼没と言ってよく、割とどこにでも現れるようですが、逃げ道が確保できないためか閉じられた空間だと出てきてくれないみたいです。そしてどうやらガチのお悩みにしか応えてくれないらしく、適当にフリをするだけではやってきてくれないようなんですよね……。ですので皆さん、お尻について真剣に考え、真剣に悩んで下さい。そして噂のジーンズを回収して私に……じゃなかった。何らかの危険な企みを阻止して下さい!」
ヒップアップ効果がすごいという謎のジーンズに事件の臭いを感じ、エージェントたちは老紳士の捜索に走るのだった。
解説
■目標
謎のジーンズの回収
ジーンズは老紳士が持つ鞄の中に入っている
■敵
愚神『おしりマイスター』デクリオ級
お尻が大好きな変態という名の老紳士。口ひげがダンディ。
お尻の真剣な悩みに応じて現れる。
男だろうが女だろうが区別はない。だけどやっぱり女のほうが出現が早い。
素晴らしいお尻には本能的に反応してしまうかもしれない。
だが20歳未満には目もくれない。紳士だから。
そして直接的な行動に出ることもない。紳士だから。
(以下の部分はPL情報)
アメイジングなお尻を有しており、そこの防御力は絶大。
アンチマテリアルライフルを零距離でぶち込まれても耐え切ったという。
今回は世の人々に素晴らしいお尻を与えたいという純粋な思いにより、やらかす。
何かの拍子で発生する後光に、世のオシリスキーはもれなく平伏してしまうらしい。
■場所
街のあらゆる場所。
繰り返すが、閉じられた空間には出てこない。
■状況(PL情報)
単なる人間のオシリスキー老紳士も複数人、何故か徘徊している。
そして彼らも『おしりマイスター』を名乗っている。
マイスターとほぼ同じ格好だが鞄から取り出す物は様々。
偽者の老紳士に気をつけよう。いやお尻への愛は本物のはずだけれど。
■その他
・謎のジーンズ……ヒップアップ効果がすごいジーンズ。男女関係なく適用される。
(以下はPL情報)
愚神おしりマイスターが情熱を込めて手作業で作っておりサイズも豊富。
どんな体型の人でもピッタリなサイズを見つけられるだろう。
ライヴスを利用した仕組みがあるのではと疑われているが、実際は市販されている品と何ら変わりない。
何故ヒップアップするのかは謎。多分、漢の情熱。
リプレイ
●YOKUBOU
出動前の支部。一行の欲望は様々。
「最近はこの手の愚神が流行っていますのかしら? 素敵な……こほん、厄介なことこの上ありませんわね」
紳士的な特殊事件に垂涎、いや憂慮を見せたのは御手洗 光(aa0114)である。ボインボインでバインバインなバディを持つ、豊満な女性である。
「レイアちゃんもぉ、もっと魅力的になりたいんですぅ」
光と並び歩くのはレイア・メサイア(aa0114hero001)。舌足らずな言葉でのんびり。
「おしりマイスターだなんて、聞き捨てならない話ですよね! その謎の紳士からちょっと詳しく話を聞かせてもらおうじゃないですか!」
意気揚々、張り切っているのは天之川・希望(aa2199)だ。見た目は美少女だが中身は男である。いわゆる男の娘である。
「しかもスペシャルなヒップアップジーンズがあるですって? そんなの欲しいに決まってるじゃないですか! 清廉可憐絶対的美少女のボクが手にしたら、いやおしりにしたら! 鬼に金棒、虎に翼です!」
彼も、いや彼女も多少不純な動機で参加しているようだ。女性らしさに磨きをかけ、更に魅惑的な男の娘になろうということらしい。
「希望ちゃんは今日も元気ですね~。自分を高めようと努力するその姿は、わたし的にと~ってもグーです~」
希望の相方のアニマ(aa2199hero001)は、おっとり語りで笑顔のサムズアップを見せる。その彼女の後ろでは、爺さんがいきり立っていた。
「わしはおっぱいが大好きじゃが、おしりも大好きじゃ!」
「いきなりのカミングアウトですね、老師。まぁ、知っていましたが」
新座 ミサト(aa3710)と嵐山(aa3710hero001)のたわいない会話。簡単に説明しよう。ミサトはイイ女、嵐山はエロじじいである。
「ミサトちゃんのおっぱいは超一級品じゃ。だが、おしりは残念じゃが超には少し届かん。一級品止まりじゃ」
「はぁ」
さすが老師のご慧眼、相方の状態を隅々まで把握している。
「弾力は申し分ないが、こうツンとした張りがいま一歩なのじゃよ」
「……どうしてそんなことがわかるんですか? 老師」
把握しすぎていた。老師ピンチ。
「えっ!? あ……いや……わし位になると、服の上から見ただけでもわかるものなんじゃよ」
「……みたんですか?」
取調べの様相を呈する会話。エロじじいピンチ。
「……」
「のぞいたんですね?」
口笛吹きながら素知らぬ顔をする嵐山だが、ミサトの全身からは禍々しいオーラがあふれる。じじい大ピンチ!
「まっ、まぁ、ソレは今回の依頼とはまた別の話じゃ! とにかく超一級品のおしりになる絶好のチャンスじゃて。パーフェクトミサトちゃんになるときがきたのじゃよ!」
「老師、今回の依頼、すごい熱の入れようですね」
依頼が終わってから殺されるかもしれないけど何とか首を繋げた嵐山。だがミサトのおしりをおっぱいと同じ次元まで高められるなら本望か。
他方、エロ目的以外でジーンズを入手したいと思っている者もいた。灰田 倫(aa0877)は長く繊細な茶髪をゆらめかせ、密かにやる気をみなぎらせている。
「トップクラスのジーンズがタダで手に入るなんて!」
物欲。相方のノエル・スノー(aa0877hero001)は倫の動機を知らなかったが、珍しく進んで仕事を請け負ったと思い喜んでいた。
●紳士たち
「待て、ミサトちゃん。なんじゃその恰好は」
「はい?」
出発間際、嵐山はミサトのミステイクを発見した。
「おしりマイスターを誘い出すのに、スカートとは言語道断! これを穿いていくのじゃ!」
デニムのホットパンツをどーんとミサトの眼前に取り出す嵐山。敵の性質を突く、老師の賢明なる判断。決してスケベ心ではない。
「どうしたんですか、それ」
「こんな事もあろうかと買っておいたのじゃ。いや、きっとミサトちゃんに似合うと思うてな。ちゃんとヒップラインがわかる服装でいかねば、おしりマイスターにも失礼であろう」
「たしかに一理あるわね」
嵐山の下心が勝利。ホットパンツを手に支部の更衣室へ。嵐山もナチュラルに同行しようとしたが部屋の前で蹴り出された。
普段は穿くこともないホットパンツを装備してミサトは往来を歩き、おしりに関する悩み事をぶつぶつと呟き始める。
「あのエロじいさん、この私のおしりが一級品止まりですって!?」
ひとけのない路地を歩きながら、ミサトは爺さんの妄言を思い出して苛立つ。しかし、しばらく無言で考え続け。
「でも、確かにもうちょっとヒップアップしたいなぁ。もっと運動しないとダメなのかしら」
理想のおしりは手に入れたいがOLでもある彼女には運動時間が確保できない。悩める事情。
はぁ、と大きくため息をついた時である。
「その息のつき方、おしりについて悩んでおいでかな……?」
変態、いや紳士現る。革靴をこつりと鳴らし、鞄を提げた老紳士。
じり、とミサトは後退するも、マイスターだとしたらジーンズを入手しなくてはならない。
「え、ええ。私のおしり、今ひとつ物足りないって知り合いのじじいから言われて……。おしりをもっとランクアップさせたいんです」
警戒しながらも悩みを伝えるミサト。紳士はウンウンと頷きながら。
「物足りない、ですか……失礼、ちょっとおしりを」
「ダメに決まってるわよね、普通?」
「失礼……」
セクハラ、ダメ、絶対。ミサトが声のトーンを抑え、キツく言い含める。当然ですよね。
「ではこれなど如何でしょう?」
もぞもぞと紳士が鞄を探る。微笑んで取り出す物は。
「これは……!」
ミサトが目にした物、それは。
座布団だった。何ですかねこれ。
「これは座るだけで骨盤の歪みを強制し、おしりを……」
饒舌に語り始める紳士を残し、ミサトは足早に路地を抜けていく。
ジーンズ欲しさに依頼を受けた倫は、マイスターの誘い出しにもジーンズ着用で臨む。可愛らしい春服で街を歩き、下は白のスキニージーンズでさりげなくアピール。ノエルも白のジーンズで色は合わせる。倫がメイクしたおかげでノエルは少し大人っぽく見え、20歳と言っても不自然でない。
「まだ春服寒いです……」
「お洒落は根性! あったかインナーウェア貸してあげる」
身を震わせるノエルを鼓舞しつつ、マイスターを呼ぶために倫は話をふる。
「契約がお茶会というのはいい考えだったと思うんですが、冬はヤバいですねー」
「?」
急な話題の転換に、ノエルは頭に『?』を乗せている。
「苺もチョコも美味しいじゃないですか。月1回のお茶会だからって食べてー」
「月1回以上じゃないですか」
すらすらと喋りだす倫に対し、ノエルはきょとんとして本気の応対。敵を誘い出すための話に乗ってくるよう、倫は少しずつ語気を強める。
「そう! 結局月1回どころじゃないですよね! そして、冬だと部屋にこもりがち……本当に体型が、ヤ、バ、イ!!」
「一緒に走りますか!」
元気なポジティブっ娘ノエルは倫の意図になかなか気づかない。
「特にヒップのあたりがうまく痩せなくて、鬱々して死にそうです」
「……! わたしもたいけいがきになりますねー」
ヒップという単語でようやく今回の依頼内容に気づいたノエル、見事な棒読みでおびき出しに協力する。そういう演技とか苦手な娘なんです。
「でも、倫は依頼関係なく寒いと外出ませんけどね」
演技でなく単純な指摘をするノエル。だがそれは倫が結構本気で悩んでいることのようだった。
「本当に共鳴してからビキニアーマーつらい。上に服着てるけど、それでも心情的につらい」
「本気で嘆いていません!?」
「ビキニアーマーを着る時にヒップのゆるみが気になると仰いましたかね?」
「「!?」」
唐突に会話に入り込んできた、スーツを着た老紳士。見れば、彼の左手には鞄が。
こいつなのだろうか……何となく後ずさりする倫とノエル。言ってることも何か取り違えてるし色々不安。
「そんなおしりの悩みを持つ貴女に、ピッタリの物が……」
ゆっくりと、鞄から何かを取り出す紳士。
それは。
ミニスカートだった。ん~違う!
「倫……これは」
「ええ、ただの変態のようね……」
「? いえ変態とかでなく私はおしりを――」
純粋な目で交互に2人を見る紳士。倫はやれやれと肩を落とし、説教を始める。
「いや初対面でおしりの話とかされたくないですし」
「うぅむ……」
それ言われちゃあお終いよ、と老紳士は黙り込む。倫のお言葉はまだ続きます。
「おしりが好き? そうだとしても、その持ち主を不快にさせたら、そのおしりも萎んでしまうかもしれないですよ!」
ちょっとずれてる気がするけど、倫の剣幕に紳士もたじろぐ。
「ノータッチ、見るのも絶対気づかれない範囲でお願いします!」
「え……それは……」
「え?」
加勢したノエルだったが、倫の微妙な反応を見て戸惑う。まあ暗に見てもいいよ、って言ってるわけですからね!
「なるほど、おしりを愛する者として大事なことを忘れてしまっていたようですね……」
失った何かを取り戻して、かは不明だが紳士は頭を下げて姿を消した。
1人のオシリスキーを正道に戻した倫とノエルは、彼の背中を見送りながらぽつり。
「そういえば、本物のマイスターは噂によるとダンディな老紳士らしいですよ。一体どんな人なんでしょうね」
「別に私はジジコンでもないし、そもそも変態にはときめかないので……」
「さぁ、行きましょう」
街の別区画。光は肉付きの良い巨尻を全面に押し出すウルトラローライズジーンズに、ボインを強調するデニムジャケット。これで外を歩いていいのだろうか。
「レイアちゃんはぁ、フリフリですぅ」
フリフリスカートのワンピースを着たレイアが光の後ろを歩いている。
「……ゴクリ! 固いデニム生地を内側から圧迫するムチムチのおしり……! ボクの至高のおしり感が揺らぐ……! これは究極のおしりなのでは……!?」
「希望ちゃんには到底たどり着けそうにないですね~」
光組と同行してマイスター召喚に当たる希望は、光のヒップに圧倒されていた。至高とか究極とか何を言っているのか。アニマはその希望を横からニコニコと眺めている。
かく言う希望たちもデニムホットパンツ着用で、マイスターを釣り上げる準備は整えている。
希望は美少女のイメージを保つために魅せ方の心得は修得済みであり、華奢な腰と小ぶりなおしりから瑞々しい生脚へと続くラインをアピールする。繰り返すが彼女は男の娘だ。
アニマのおしりは小さすぎず大きすぎずの理想的バランスで、およそ悩みとは無縁と思われるビューティフルボディ。(希望談)
「残念ですわ……せっかくアニマさんにお似合いのハーフパンツをご用意しましたのに……」
光さんはアニマに着せるブツを持参していたようです。
「あとで着させてもらいます~」
残念がる光からブツを受け取り、アニマは幻想蝶の中にしっかりとそれと収納する。
「この場で見られないのは残念ですが、仕方ありませんわね。では早速、おしりマイスターをおびき出すとしましょう」
「はい! お供致しますよ光さん!」
額に手を添えてビシッと敬礼。希望は光にどこまでもついていく所存。レイアとアニマも希望にならって意味もわからずに敬礼。
自身の肉体を惜しげもなく晒し、光はおしりの悩みを口にし始める。
「私も武闘家のはしくれ、常日頃から身体を鍛えているのですけれど……女性としては躊躇してしまうこともありますの」
「そ、それは一体……」
先を促す希望。フリというかちょっと本気で気になっている。
「鍛えれば筋肉がつくのは避けられませんよね……そうなると私の胸やおしりも、その、魅力が落ちてしまうのではと……」
「な、なるほど! 光さんの巨尻や爆乳が消失の危機に!!」
「ええ、女としての魅力を保ちながら筋力を維持するというのは、難しいことですの」
贅沢なお悩みを吐露しながら、光は周囲の様子に注意しながら歩く。何をするにも、まずはマイスターをおびき出さなければ始まらない。奴は釣れるのか。
「待ちなさい! そこのハイパーヒップの方!」
すぐ釣れた。話し始めて十数秒、スーツ姿の老紳士が猛然と駆け寄ってきた。
「あ、あれはおしりマイスター!?」
「本当におしりの話をしていると出てきますのね」
紳士はぜえぜえと息を切らしながら光たちの前までやってくる。
「そのヒップが消えてしまうなど世界的損失――」
「ちょっとお待ち下さいませ」
「うん?」
紳士の言葉を遮り、光は驚きの発言を放つ。
「どうやらおしりに並々ならぬ情熱を持つご様子。1度私のおしりを鑑定してみて下さいませんこと?」
「ひ、光さん! 何たる豪傑!」
「か、鑑定とな!?」
「ヒャッホーウ! やったぜー!」
驚愕する希望と紳士、それとどこかから知らぬ間に集まってきた一般男性たち。好奇の視線を気にもとめず、いやむしろ嬉々として、紳士らに品評を求めて巨尻を見せつける光。H.O.P.E.の評判がヤバイ。
「うふふ、如何ですかしら? んっ、ふふふ……もっと近くでご覧下さいな♪」
「な、何という尻だ……! 単なる尻ではない、武闘家としての鍛錬が磨き上げた、女性らしさとスタイリッシュのハイブリッドヒップ……!」
燃え上がるHENTAI紳士。湧き上がる男性たち。崇め立てる光。
「こ、これが失われるなどあってはならない。是非、君にこれを……」
紳士は慌てて鞄を漁り始める。その中から出てくる物は何なのか、光たちは固唾を呑む。
それは――。
タイツだった。黒タイツ。
単なるオシリスキーだった。件のマイスターではない。しかし光はそんなことはどうでもよくなっていた。
「うふふ、ありがとうございます」
タイツをそっと受け取り、ぱちんと指を鳴らす。レイアがどこからか持ってきた大きな布で光を覆い隠す。
これは、生着替えの構え! 内部では光がするりと衣服を――
――自主規制――
布が払われると、黒タイツを装備した光の姿が露になった。
「眼福!」
一言、紳士は告げる。そして満足そうに去っていく。
「マイスターではなかったのですね……」
ただのおしり好き変態紳士を構ったことによる幾ばくかの徒労感だけが光の内に残る。眼福って何だ。
「ご心配なく、今度はボクがマイスターを召喚してみせます!」
張り切る希望。彼女には熱烈なおしり愛がある、そのモノホンのおしり愛をもってすれば、マイスター召喚など造作もない。はず。
「おしりマイスター、おしりマイスター、おいでください……」
南無南無、という感じで両手を合わせて擦る希望。
「どうかボクに似合う、キュートかつ小悪魔的魅力あふれるジーンズをお与え下さい!」
七つ集めればうんたらみたいな口上を述べ、希望が渾身のお願いをする。さあ、願いを叶えたまえ。
わずかの静寂、そして。
「どんな願いでも――」
「マイスター!」
喰い気味に反応する希望。鞄を提げた、ただならぬ老紳士が目の前に現れたのだ。
「君のような小ぶりなおしりには――」
「マイスター! ボクはスポーティなきゅっと小さな、でもぷりぷりとしたフレッシュなおしりが至高だと思ってます! マイスターはどうお考えですか……!」
希望が紳士に喋らせてくれない。おしり愛を語れる相手を見つけて興奮していらっしゃった。紳士はしばし考えた後にゆっくりと口を開く。
「……おしりは、一日にして成らず」
「……はあ」
何言ってんだこいつ的な顔になってしまう希望だったが、すぐ首を振って疑念を払い、紳士の言葉に耳を傾ける。
「君は君の思う至高のおしりを追い求めればいい。なに、1人で荒野をさまよえとは言わんよ。これがあれば君は導かれる……これ……あれ……?」
ごそごそと鞄を探り出す紳士。希望に合うサイズが奥のほうに隠れてしまったらしく取り出すのに苦戦、背を向けて乱暴に手を突っ込む。四苦八苦している紳士の背中が、おしりが揺れる。
「これは!」
振り子のようにゆらゆら、おしりゆらゆら。希望はその端正なおしりに惹きつけられる。何だか無性に見続けたくなるような、素晴らしきおしり……。
「アメイジング……ッッ!!」
希望は本能的に理解した。目の前の超常的なおしりの持ち主が、噂のおしりマイスターであることを。
そして予感どおり、彼が取り出したものは。
「これを授けよう……これを穿けば、究極のおしりが手に入る」
ジーンズだった。不思議な魅力を感じるジーンズ、後部のタグには『OSIRIS』と銘打たれている。
「オ、オシリス……!」
差し出されたそれを、希望は平伏して受け取る。理想のおしりをゲットできるという、至高のジーンズ。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いいんだよ」
マイスターはにっこりと微笑み、希望の傍に控えていた光にも何本かのジーンズを渡した。
「この街で君たちのようにおしりの悩みを呟いている気配を感じた……だから、彼女らの分まで君に授ける。君に任せれば全て彼女らに行き渡るような気がしてね……」
「マイスターさん……」
光を、光のおしりをガン見しながらマイスターは物静かに喋る。やべえ、変態と紳士のせめぎ合いは変態が勝ってるっぽい。
マイスターは慌てて自分の頬をひっぱたき、紳士成分を引き戻す。
「頼んだよ、巨尻のお姉さん……では」
思い切り頬を叩いたダメージでふらつきながら、マイスターは踵を返して去っていった。紳士。
「あれがおしりマイスター……ボクは勝てる気がしませんよ!」
「あの方、結局何だったのかしら?」
地にひれ伏した状態から復帰する希望の横で、光は敵の思わぬ紳士対応に拍子抜けしていた。力尽くでもジーンズの入った鞄を彼から奪い取るつもりだったが、むしろ自分から渡してくるとは。
「しかしマイスターをも魅了するとは、光さん、さすがです!」
「希望さん? 遠慮はしなくても、宜しくてよ♪」
「な、なにがよろしいんですか!?」
悪戯っぽく笑いかける光のセリフに、希望は動揺と期待とその他色々が混じった反応を見せるのだった。
●ゲット
任務終了後、光は全員分のジーンズを持ち帰ってきた。
「大変申し訳ないんですけど、これって個人の体型に合わせてセレクトされてる手縫い品みたいなんですよ。だから、オペレーターさんには合わないと思います! なのでこれください! お給金要らないですから!」
オペレーターを前にして、金など要らぬ、ジーンズさえあれば、と鬼気迫る表情でジーンズを抱え込む倫。「あ、大丈夫です」
「?」
オペレーターは満面の笑みを浮かべている。
「マイスターが私の分もジーンズもくれたみたいで、御手洗さんから1本貰ったんです。いやー何かすごいヒップアップできそう!」
「そ、そうですよね!」
穿く前からジーンズ『OSIRIS』の虜になっている2人。マジで魔力的な何かが作用しているのだろうか。
「このジーンズ……やはり只者ではないな」
「触るだけでわかるとは。変態同士、なにか通じるモノがありましたか」
オシリスを舐めるように調べる嵐山に向け、ミサトが辛辣な言葉と冷たい視線を浴びせる。ご褒美ですね。
「しかし、うーむ、直接言葉を交わしてみたかったものよのう。これほどの職人は世界に2人とおるまい。まさに天下無双じゃ!」
「なら弟子入りでもしてきたらどうです? 2人目を目指して。その時は帰ってこなくても大丈夫ですからね」
「な、何を言うとるんじゃミサトちゃん! わしはミサトちゃんからは離れんぞ!」
ため息をついて支部を去るミサト、その手にはしっかりとオシリスが。嵐山はそんなちょっとツンの入ったミサトのおしりを追いかけていく。
その後分析した結果、ジーンズからはわずかなライヴスすらも検出されなかった。
おしりに作用していたのはただひとつ、漢の情熱のみだったらしいのです。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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