本部

【東嵐】連動シナリオ

【東嵐】ウタガイ

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/17 18:59

掲示板

オープニング

●悲惨なる事件
「Shit……誰が一体こんな真似を……」
 李永平は目の前の光景に歯を食いしばり拳を握った。踏みしめている高価そうなカーペットの一部には血が固くこびりつき、その上には一人の男がうつ伏せに倒れている。そして、二階の寝室には男の妻と八歳の娘が……黒づくめの男が、李永平の主である劉士文へとカードのようなものを手渡した。それを覗き見た李永平が驚きの声を上げる。
「ガイル・アードレッドだと……」
「知っているのか?」
「この前出くわしたH.O.P.E.のエージェントだ……そう言えばこの前ASSASSINとか名乗っていやがったな……クソッ! H.O.P.E.のShit共、まさかASSASSINを使って古龍幇にケンカを売るとは……」
「落ち着け永平。この件は不問に処す。お前達は迂闊な行動はしないでくれ」
「だ……だけど……」
「いいな、誰も、このH.O.P.E.のエージェントに手を出すな。命令だ」
 その場にいる全員を士文は見渡し釘を刺し、血だまりに沈む男に黙礼して去っていった。永平はガイル・アードレッドと書かれたIDカードを再び受け取った男に詰め寄り、「それを貸せ」と半ば無理矢理証拠品を奪い取る。
『永平、どうすんだ』
「決まってんだろう花陣。このガイルとかいうASSASSINを締め上げる……マイロード、劉士文は立場があるから今は迂闊に動けねえ……だったら俺が手足になって代わりに動く、それが俺のマイロード!」

●ああ勘違い
 ガイル・アードレッド(az0011)はその日、H.O.P.E.香港支部の近くの屋台で月餅を食べていた。ここ数日香港を中心に事件が多発しているため、ガイルも他のエージェント達と同じく香港に滞在していたのだ。
「あんぱんもおいしいでござるがゲッペイとやらもデリシャスでござる。ぜひともナニカアリ荘のミナサマのお土産に……」
「ガイル・アードレッド!」
 突然名を呼ばれ、ガイルは月餅を頬張りながら振り向いた。見れば、先日とある任務で出くわした金髪の男の姿がある。
「ユーはクーロンパンの! ……なんでござったっけ?」
「フザけやがって、H.O.P.E.のASSASSINが……」
「ASSASSIN? 拙者はNINJYAでござる!」
「ニンジャだかなんだか知らんがどうでもいい! てめえ、よくもうちの幹部をデストロイしやがったな! こいつはてめえのものだろう!」
 永平が手に下げたものにガイルはサングラスの下で目を剥いた。慌てて自分の体を探り、慌ててそれに指を差す。
「ど、どうしてミーのIDカードがそんな所に!」
「殺害現場に落ちてたんだよ! 冥土の土産だ、余生を満喫させるために一日だけ待ってやる! この香港には古龍幇の情報網が張り巡らされている、エスケープしたら承知しねえぞ!」
 言い残し、永平は去って行った。後には口の端に月餅をつけたガイルだけが残された。

●残り二十二時間
「ミーは! ミーはそんな事してないでござる!」
「分かった分かった。という訳で、ガイルの護衛及び真犯人の捕縛を依頼したい」
 オペレーターはガイルを宥めつつそう言って息を吐いた。当事者が当事者だけに笑いそうな状況だが、そうも言ってはいられない。
「とりあえず、現段階で掴めた情報は古龍幇の幹部が昨晩一家皆殺しにあった事、屋敷の場所、屋敷周りは現在古龍幇らしき人員で固められているという事だ。古龍幇の立場上、警察は介入していないようだが……犯人は非能力者か能力者か、愚神かも分からん状況だ。もしかしたらこの件がH.O.P.E.と古龍幇の亀裂を決定的なものにするかもしれない……それだけはなんとしてでも阻止してくれ、頼んだぞ!」

解説

●目標
 ガイルの護衛及び永平の説得

●状況
・古龍幇の幹部が殺された
・幹部の屋敷は二階建ての豪邸。周囲を鉄柵に囲まれている
・周辺住民や幹部の家の使用人は被害者が古龍幇幹部である事を知っている
・現場にガイルのIDカードが落ちていた
・ガイルのIDカードは紛失している。何処で失くしたか分からない
・ガイルは永平に脅された直後にオペレーターに相談し、オペレーターが事実確認するのに少々時間が掛かっている
・依頼を受けた時刻は夜十時
・二十二時間後に永平がガイルの元にやってくる
・事件現場までは車で片道五時間かかる

●PL情報
・現在屋敷の周りは古龍幇の下っ端リンカー二十人で固められている
・幹部は一階居間、妻とその娘は二階寝室で殺された
・幹部は家にいない事が多く、家に戻ってきたのは一週間ぶり
・鉄柵には監視カメラが取り付けられていたが人影などは映っていない
・死体は運び出されたが現場はそのままになっている
・屋敷に勤めている使用人は全員屋敷に留まり古龍幇からの指示を待っている
・真犯人は以下二名。真相がバレると逃亡しようとし、捕まると自害しようとする
 シャドウルーカ―(銃):縫止/猫騙
 ジャックポット(銃):トリオ/威嚇射撃 
・現状永平と連絡を取る手段を持っているのは劉士文のみ
・ガイルを移動させる事は可能だが、香港支部から離れ過ぎると逃げたと見なされ永平の怒りと攻撃力が上がり、出現時間が早まる
・古龍幇はH.O.P.E.に疑念を抱いているため協力を得るのは困難

●NPC情報
 ガイル&デランジェ
 回避適性/シャドウルーカ―
 スキル:縫止/鷹の目
 武器:二丁拳銃「パルファン」

 李永平&花陣
 古龍幇所属のドレッドノート。思考と発言にやや残念な所があるが実力は残念ではない。今回は大斧を使用

●持ち物
 車両貸し出し可、ロープ・無線貸し出し可、夜食:豚まん

リプレイ

●出立前
「今こそガイルちゃんに完全開放の術を授ける時が来たか……」
 虎噛 千颯(aa0123)は何故か得意げに呟いた。完全開放の術の詳細は不明だが、白虎丸(aa0123hero001)の反応は一先ず次の通りである。
「辞めておけでござる」
「カンゼンカイホウ? それはNINJYAの術でござるか?」
「辞めておけでござる!」
「ところでIDカードだけど、香港支部近辺で人通りの多い所に行ったりした? その時誰かとぶつからなかった?」
 本気でガイル・アードレッド(az0011)を止めに入った白虎丸と対照的に、千颯は鮮やかなサイドターンを決めてみせた。いつものごとくからかわれた事に気付いたが、本題を邪魔する理由はないので白虎丸は口を閉じる。
「行ったでござるし色んな人とぶつかったでござる。香港は人がメニ―ゆえ」
「ここ数日、他の所に行ったりしなかった……か? カードはいつまであったか覚えてる……か? いつもはどこに入れてんだ……?」
 木陰 黎夜(aa0061)の言葉に、ガイルは目をつぶって腕を組んだ。
「香港支部と屋台街以外はニンムで出掛けただけでござる。カードはNINJYA装束の中に入れているでござる。三日前はあったでござるが……」
「デランジェはその時どうしてた……?」
「幻想蝶の中にいたわん。ちょっとゆっくりしたかったから」
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)は申し訳なさそうに返事をした。性格上ガイルよりデランジェの方が頼りになるかと思ったが、二人からカードについての手掛かりはどうやら得られないらしい。奈良 ハル(aa0573hero001)と今宮 真琴(aa0573)は気付かれぬよう嘆息する。
「スラれたか落としたか、そんなに都合よくいくもんかのぅ?」
「ガイルさんじゃ……しょうがないのかな?」
「使ってる武器……見せてくれないか?」
「いいわよん」
 黎夜の言葉にデランジェは愛用の銃を出現させた。確認すべきは銃の口径と香水のような硝煙の香り。事件現場に向かう面々にも確かめさせ黎夜はデランジェに銃を返す。
「車以外だと現場に向かうまでどれぐらいかかるんだ? 他の交通手段も教えて欲しい……」
「可能なら幹部の名前も聞きたいんですが」
「幹部の家は郊外にあるから電車、バス、タクシーを乗り継ぎ運が良ければ三時間、悪ければ五時間以上かかるそうだ。深夜と朝方は動いてないな。
 幹部の名前については、住所録の名前は把握しているが古龍幇の中で何と呼ばれているかは不明だ。もしかしたら別の名で呼ばれているかもしれないからむしろ知らない方がいいだろう」
 黎夜と笹山平介(aa0342)の質問にオペレーターはそう返した。黎夜はスマートフォンに録音しつつ次の質問を投げかける。
「幹部殺害の情報ってH.O.P.E.内でどれぐらい流れているんだ?」
「君達に話したのは各地にいる調査員に探らせた情報で、公には出回っていないしH.O.P.E.内で知っているのも私と上層のごく一部だ。ちなみにこの調査員はリンカーではないのであまり突っ込んだ調査は出来ん」
「今の所、永平の独断かの判断は出来ない……か」
 黎夜の呟きにガイルは不安げに眉を寄せた。その姿に黎夜は励ますように声を掛ける。
「大丈夫……疑いは晴らすから……落ち着いて、な……?」
「ところで金髪の古龍幇、集合場所の指示はしたのかしら」
「聞いてないでござる」
 即答だった。漂う残念臭にアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)のみならずほとんどがなんとも言えぬ顔をした。しかし状況が差し迫っている事は確か。一同はガイルの護衛組と現場調査組に別れそれぞれ行動を開始した。

●支部周辺
「昨日の夜から今日の晩にかけて、ガイルの事、見なかった……か?」
 黎夜は職員を一人ずつ捕まえながらスマートフォンに撮ったガイルとデランジェと共鳴時の写真を見せていった。時刻はすでに深夜。詰めている職員の姿も少ない。
「はっきりとは分からないな。ここ数日忙しいから細かい事はちょっとな」
「では、監視カメラを見せて頂けませんか。出来るだけ情報が欲しいんです」
 御代 つくし(aa0657)と別れ黎夜達と行動を共にするメグル(aa0657hero001)は職員に嘆願した。「ガイルさんが人殺しなんてするはずないよ!」と力説したつくしに同じく、メグルもガイルの事を信じている。だが、それに盲目的になり過ぎて証拠を失うような事は避けねばならない。今は自分達に出来る事をするだけだ。
「分かった。ついてきてくれ」
「黎夜、大丈夫?」
「大丈夫……頑張る……」
 アーテルの言葉に黎夜は気丈に言葉を返した。過去の出来事により男性恐怖症を抱える黎夜には、男性と会話する事も相当な苦痛である。それが自分に危害を加える人物でないとしても。
 だが、黎夜は男性恐怖症を克服する努力をする事を誓約とし、今回も自分が目撃証言を集めると言ってきた。ならばアーテルはそれを見守るだけだ。三人はガイルのアリバイを証明すべく警備室へと歩いていった。

「酷い事件……だね。子供だって、いたんだよね……」
 つくしはいつも元気な彼女には似合わぬ痛ましい表情で呟いた。つくしは今、佐倉 樹(aa0340)やシルミルテ(aa0340hero001)と共に、ガイルから聞いた大まかな足取りを元に目撃証言を探していた。深夜の屋台街は明るく賑わっていたが、つくしの表情と心中には暗い影が落ちている。
「うぅん、落ち込んだって始まらない、今は出来ることを、だよね! ガイルさんは昨日の夜から今まで屋台辺りと支部にいたみたいだし、そこを中心に聞き込んでみよう! 樹ちゃんと一緒だし、一人よりも情報見つかるかもだよね!」
 憂いを吹き飛ばすように明るく笑むつくしの姿に、樹は「そうだね」と頷いた。つくしは最近仲良くなってきた友達なのでまだ面と向かって「友達」をするのはちょっと照れくさいものがある。というのは本人には内緒だが。
「あの! 昨日の十七時ぐらいからこの人を見かけませんでしたかっ?」
 つくしは屋台の一つを認めると携帯に撮った写真を店主の前に差し出した。だが店主はつくしを無視して作業を続ける。
「これ買いますので、話を聞いてもらえませんか?」
「ああ、最近よく見るな。目立つから記憶に残ってるよ。昨日の夜も歩いてたな」
 店主は答えると右手を樹に差し出した。樹は金を払って品を受け取り一つをつくしへと渡す。
「いいの?」
「ええ。どうせなら買い食いしながら話を聞こうかと。買った物は分配すればなんとかなるでしょ」
 樹は串団子を味わいつつ、先日訪れたバンコクの屋台街はどうなっただろうとふと思った。もう数日経ったのだからわりと復帰していると思うが……あの時暴れた古龍幇達もどうなっただろう。とは言ってもここの屋台街を見て思い出した程度なのでその程度の心配なのだが。
「もっとガイルさんを見た人がいるかもしれないね。あ、すいません、話を聞いてくださいっ!」
 つくしは串団子を手に持ったまま別の店へと駆けていった。樹も情報を集めるべく、スマホの隠し取りデータを手にまた別の店へと入っていった。

 真琴は支部の椅子に座りながらチョコバーをもぐもぐと食べていた。真琴の役割はみんなが調査している間のガイルの護衛。一応千颯と白虎丸もいるが、あちらは皆からの情報をノートパソコンにまとめたり、調査組と連絡を取ったり、ガイルから話を聞いたりと何やら忙しそうである。
「っていってもいつ来るのかな?」
「一日、という事じゃし夜じゃろうな」
「つくしちゃんも樹さんも足取り追って行っちゃったし……ヒマ……」
「護衛じゃから全員行ったらダメじゃろ? 夜来るとも限らんし念のためじゃな」
 ハルの言葉を聞きながら真琴はガイルに視線を向けた。いつもは無駄に元気なガイルだが、さすがに今は静かだ。真琴は二本目のチョコバーを取り出しぱくりと口の中に入れる。
「……濡れ衣なんだよね?」
「性格的に無理じゃのぅ。相手も暴走気味というらしいし、少々頭を冷やしてもらおうかの」
「あ、ガイルさんもチョコバー食べる? まだいっぱいあるよー」
 三本目のチョコバーを取り出し、真琴はガイルの元へ歩いていった。「ボクの経験値の半分はお菓子でできています!」と豪語する甘味好きとお騒がせNINJYAを眺めながら、ハルは呆れ気味に息を吐く。
「なんというか、緊張感の欠片もないのぅ」

●屋敷
「きな臭い感じがするな……」
 真壁 久朗(aa0032)は窓の外を見つめ呟いた。久朗達は今平介の運転する車に乗り、殺された古龍幇幹部の屋敷へ向かう最中である。セラフィナ(aa0032hero001)も天の川のように煌めく緑眼を外へ向けながら、華奢な佇まいと裏腹に強い調子で言葉を紡ぐ。
「あのガイルさんがそんな事をするはずないですし、何者かにハメられた可能性が高いですよね」
「無実の罪で疑われるのは辛いですものね。できるだけお力になれればよろしいのですが……」
 霙(aa3139)の呟きに墨色(aa3139hero001)は深く頷いた。ちなみに白虎のワイルドブラッドである霙と元猫の英雄である墨色は、見るものが見れば手を伸ばさずにはいられない罪深きモフモフなのだが、真壁はネコアレルギーらしいという事で二人は少し離れた所に座っていた。
「二階が先だったのかな……」
 平介はハンドルに手を乗せながら小さな声で呟いた。八歳の娘も犠牲になった、その事が平介の心を占めている。
「そうね……幹部が帰ってくる前に寝ている所を……そうすれば……」
 騒がれずに済む、その言葉を柳京香(aa0342hero001)は飲み込んだ。常に笑顔を絶やさず「喜」と「楽」以外の感情を表に出さない平介の真の胸の内は、京香でも推し量る事しか出来ない。そんな二人の逡巡を遮るように、無線機から千颯の声が聞こえてきた。
「現場で証拠が見つかったらカマ掛けて反応を確かめてちょー。そんな馬鹿な・有り得ないみたいな否定的な答えの場合犯人の可能性が大きいと思うんだ。否定するのは現場に証拠が残ってないのを知っているから。知っているのは犯人以外有り得ない」
「そうだね、やってみるよ」
 ヨハン・リントヴルム(aa1933)は言葉を返しふうと小さく息を吐いた。無線を切った後、傍らに座るパトリツィア(aa1933hero001)へと視線を向ける。
「僕が助けたら、お師匠様褒めて下さるかな。パトリツィア」
(緊張していらっしゃる。この歳でやっと出来た、大切なご友人じゃからか……)
 ヨハンは年少の頃、古龍幇の末端と言われる日本のヴィランズ組織に攫われ悪事の片棒を担がされた過去があり、自由になった今も内に傷を抱えている。そんなヨハンにとってガイルは、因縁ある古龍幇をさておく程に大切な人物なのだろう。パトリツィアは主の心中を慮りつつ、いつもとは違う髪の色に視線を向ける。
「ところでその格好は……」
「先日の一件で顔が割れてるかもしれないから古龍幇の一員に変装しようと思ってね。チンピラっぽい服装をすれば間違いないと思うんだけど……女装の方が自信あるんだけど、道具も服も今から揃えたんじゃ間に合わないからなあ」
「……さようでございますね」
 急ぎの依頼で良かった、パトリツィアはそう思った。主が望むなら何処までも付き従う覚悟だが、それでも足を踏み入れて欲しくない世界というものはある。そんな一同の姿を、呉 琳(aa3404)はよろしくはない目つきをキラキラさせて眺めていた。
「すげぇな、皆ちゃんと考えがまとまってる……タオ、お前も何か」
 琳は傍らに座る七・三分け、もとい今はオールバックの濤(aa3404hero001)を見た。濤は真剣な面持ちで何かを考えている風である。
「……かっこつけやがって」
「かっこつけてなどいない」
「聞こえてんのな……よかったよかった。目ぇあけながら寝てんのかと思っ……いってぇ!」
「きちんと考えているさ。睡眠薬をどう使おうとかスマホはどう使うのかとか」
「お前機械音痴だろ!」
「皆さん、着きましたよ」
 琳がデコピンされた額を押さえつつツッコミを入れると平介の声が聞こえてきた。外を見るとやや離れた所に遠目にも大きな屋敷があり、外柵を何人かの人間で囲んでいるのがうっすら見える。
「入るには芝居が必要そうだな」
「犯人が未だに罪を認めていない、もっと確実な証拠を突き付ける為に現場を調べさせてもらいたい、と言って中に入らせてもらうのはどうでしょう。あ、皆さん手袋どうぞ」
「それ、パトリツィアに任せてもらえないかな。ライヴスを介せば意思の疎通は可能とは言え見張りは一般人かもしれないし、パトリツィアの方が言語は得意だし」
 久朗の発言に平介とヨハンが意見を重ね方針は決定した。注意を払いながら死角に停めた車を降り、柵に沿って立ち並ぶ見張りに向かって歩いていく。見張りが見咎め近付いてきたと同時にパトリツィアは声を張り上げた。 
「李さんに言われて現場の様子を見に来たのよ。良い子ちゃんぶったH.O.P.E.のASSASSINがどれだけShit野郎か調べてこい、って。そんな物無しにさっさと殺せば良いのに、分からない人よねえ。今回はあの人の独断みたいだから後で上を説得する材料が欲しいのかしら?」
 パトリツィアの発言に見張りは顔を見合わせた。パトリツィアは腰に手を当て背後の仲間を指し示す。
「この人達も同じよ」
「うちの者じゃないような連中も見えるんだが……」
「これ? 私の英雄よ。まだこっちの言語には不慣れだけど勘弁してやって」
「少しでも証拠が必要だ。一刻を争う。悪いが通してくれないか」
 パトリツィアに濤が続き、久朗が普段から威圧的と評される鋭い視線を見張りへ向けた。見張りは顔を見合わせ、手振りで「行け」と指し示す。
 かに見えたが
「おい待て。そこの……猫みたいな耳。一体なんだお前は」
 見張りは何食わぬ顔で続こうとする霙の事を呼び止めた。霙の白い髪の上には白虎の耳が鎮座し、白い手の甲と膝から下は白虎の毛に覆われている。霙は獣人形態で顔を上げ、悲しそうに目を伏せた。
「大人……旦那様が、お披露目の前にお前の縁起でなんとかしろとおっしゃいまして……大人は今回の件で非常に心を痛めておいでです……もしかしたら私をこちらへの贈り物にされるおつもりだったのかもしれません……」
 霙は猫耳をしょぼんとさせ見張り達へ訴える。
「おそらく喪が明け次第、次の贈り先に行くことになりますでしょう。大人は私という隠し玉の驚きで他の方々の沈んだお心を晴らせればとお思いですわ。
 ですから、口外されるとちょっと……もしかしたら口外された方の立場が……」
 霙は声をすぼめ物言いたげに見張りを見つめた。眉間に皺を寄せ話を聞いていた見張りだが、下手に突っ込むとマズいらしい、というのは何となく通じたようだ。
「分かった。通れ」
「お、おい」
「いいだろう、別に。中にいるのは使用人だけだし。もし何か起きた時は……」
「すみませんご主人様」
 門を抜けたパトリツィアは小声でヨハンに謝罪を述べた。ヨハンも小声で「いや、良いんだ。ありがとう」と言葉を返す。
「とりあえず中に入れたな。俺達は外を探す。悪いが中の調査を頼みたい」
 久朗は門を通り抜けた後共鳴しライトアイを発動させた。内部調査組を中に入れ、平介と京香と共に庭と柵に目をこらす。
「見張りでがっちり固めているな。こっそり入るのも出ていくのも難しそうだ」
「ここ、足場がしっかりしていて走りやすそうだ。逃走するとしたらこの辺りかな」
 平介達が外と下っ端達の配置を確認していた頃、ヨハン達は注意を払いながら屋敷の中へ侵入した。灯りが見えたので向かってみると、使用人らしき人間が何かの作業に当たっていた。
「早いね。まだ四時前なのに」
「外にいる方々のお食事を用意しないといけませんので……」
 使用人は答えつつヨハン達を振り返り不審そうに顔をしかめた。見掛けない顔である事に気付いたようだ。そこに、一通り捜査を終えた久朗が現れ使用人の説得に加わる。
「幇の幹部がH.O.P.E.のリンカーに殺されるなんて納得出来ない。もう少し事件の事を調べたい」
「でも、IDカードがあったって……」
「H.O.P.E.に声明を出されてないということは、大人たちは何か別の証拠をつかんだのかもしれません」
「それを確かめるためにも情報が必要なんだ。監視カメラとかってないのかな?」
「えっと、こちらです」
 霙の発言にヨハンが続き、使用人はヨハンとパトリツィアを警備室へと案内した。一方、外の調査を終えた平介は居間へと入っていく。
「匂いはない……か。窓を開けた様子もないな」
 確かめたいのはガイルの銃の香水のような硝煙の匂いがあるかどうか。だが匂いは感じられない。窓を開けて換気した様子もない。
「二階は……すいません、お願いしてもいいですか」
 平介は入口に立つ仲間達に声を掛けた。遺体は運び出されたらしいが現場に入れそうにない。平介は二階に仲間を送った後、再び居間に視線を向ける。その頃、使用人に頼み監視カメラの映像を早送りで見終わったヨハンは情報を整理していた。
(見事に何も映ってないな。だけどお師匠様はこんな綺麗に身を隠すスキルなんて持っていらっしゃらないはず……潜伏だってここまでは出来ないはずだ……)
「ありがとう、お陰で助かったわ。だけど変ねえ、侵入者の影も形も見当たらないのよ。これじゃあ内部の犯行だって言われても弁解できないわ。貴方、犯行時刻は何をしていたのかしら?」
「私は部屋で寝ていました! 私じゃありません! 違います!」
「寝ていましたって事は、事件は夜の間に起きたの?」
「旦那様達の死体は朝方発見されたのです。夜の内に殺されたのは間違いないと思います」
 ヨハンとパトリツィアは居間へ赴き平介と合流した。平介は無線を入れ千颯に状況を説明する。
「支部からここに来て戻るまで車で十時間はかかるから、それだけの空白がない限りアリバイは成立する事になるのかな? そっちの状況はどうです」
「監視カメラや目撃情報を合わせると十時間以上の空白はないなー。幹部さんっていつも家にいたのか聞いてもらえる?」
 千颯の要請を受け平介は使用人に尋ねた。「いつもいる訳じゃない、帰ってきたのは一週間ぶり」という返答に千颯は無線の向こうで唸る。
「カメラには映っていない、幹部が家にいる事を知っていた、ここまで内部の情報に精通しているなら内部犯行が有力かな」
「ちょっとカマをかけてみますか。ちょうど使用人の皆さんも起きてきたみたいですし」
 平介は居間の壁際へ歩いていくと「あるじゃないか、証拠が」と呟き何かを仕舞う仕草をした。濤が最初に出会った使用人に近付き、他の使用人達にも聞こえるように声を上げる。
「協力ありがとう。おかげでいい証拠を見つけた……持って帰れば証拠として十分なものをな」
「証拠って、一体何です?」
 その時、一人の男が濤に声を掛けてきた。隠れていた久朗がスマホの無音カメラでその姿を密かに撮る。
「薬莢があったんだよ。これがあれば犯人の銃と照合してさらに追い詰める事が出来る」
「薬莢なんてあるはずないですよ。何かと見間違えたんじゃないですか?」
 男はそう言って自分の持ち場へ歩いていった。京香と琳が後を尾け男を密かに観察する。
「使用人は全員ここに残っているのか」
「はい、解雇されるか、別の家に行くか指示されるのを待っています」
 返答を得た久朗は思考を巡らせた。もし内部犯であれば犯人はまだここにいるのだろうか。そもそも屋敷周辺にいる見張り達は何のためにいるのだろうか。何かの襲撃に備えているのか、それとも。
「使用人の中にリンカーはいるのか」
「いえ、いないと聞いています」
「どうする。長居するとこちらの身元がバレる可能性も高くなる。その前に撤退したい。犯人が能力者かどうかは分からないが確かめてみるのはどうだろう」
「そうですね、犯人が証拠を奪いにくれば確定的だけど……では使用人を集めましょう」
 平介は仲間達に声を掛け使用人を居間へと集めさせた。使用人が皆集まったと同時に、久朗はセーフティガスを部屋中へと満たしていった。使用人達が次々崩れ落ちていく中で、先程の男ともう一人が何事もないように立っている。
「ちっ、リンカーか」
「仕方ない、逃げるとするか」
「逃げると言う事は黒に近い……とりあえず気絶させましょうか」
 共鳴した平介は事前に見当をつけていた逃走経路に回り込みローゼンクイーンを敵へと放った。しかし敵ジャックポットは威嚇射撃を平介に放ちその狙いを傍へと逸らす。ヨハンも共鳴し死者の書の機能を移植したグリム童話集を広げ、白い羽根のライヴスで敵の脚を狙ったが逃亡者はこれを回避する。
「もうこれ以上離される訳にはいかない……琳! ゆけ!!」
「うおぉお!?」
 濤に投げ飛ばされた琳はサメのギザッ歯で敵の腕に噛み付いた。しかし敵シャドウルーカ―は噛まれながらにやりと笑う。
「非共鳴状態ではな、共鳴したリンカーや愚神には歯が立たねえんだぜ。文字通りの意味でもな」
 シャドウルーカ―は琳を払うと、続けて縫止の針を琳に向けて発射した。そして柵へ向け大声を張り上げる。
「おい、H.O.P.E.の連中が紛れてるぞ! みんな眠らされちまった! 助けてくれ!」
「なんだと! 一度ならず二度までも!」
 犯人の声と共に見張りが門から雪崩込み、二十人掛かりでエージェント達に襲い掛かった。真犯人と思しき二人組は喧噪に紛れ姿を消した。

●正念場
「ガイルさん、普段着……いつもの服、もう一着持っていませんか?」
 アーテルの言葉に「あるでござるよ」とガイルは幻想蝶からNINJYA装束を取り出した。アーテルはそれを身に着け、金髪のウィッグを被りサングラスも装着する。
「あら、ガイルちゃんそっくり」
「念には念を、ですよ。襲撃まではコートと赤いストールと帽子で隠しておくけどね」
「こっちの話を聞いてくれればいいけどな~」
 千颯は呟きつつ無線機に視線を落とした。内部犯説有力、以降調査組から連絡はない。何かあったのかもしれないが確かめる術もない。
 千颯達より後方では、真琴が遮蔽物に隠れながらチョコバーをもぐもぐ食べていた。黒和装・陰陽モードのその手にはスナイパーライフルが握られている。
「そろそろかな。独りで来るのかな?」
『っぽい性格らしいの……聞いた感じじゃと』
「ガイル・アードレッド!」
 その時、聞くからに不良という声が響いてきた。見れば金髪の不良、もとい李永平が大斧を背負い千颯達へと歩いてくる。
「探したぜ。まさかこんな所にエスケープしてたとは」
「場所は特に指定していなかったじゃない……でござる」
「ぐう!」
 喋り方が不自然になってしまったが永平は偽ガイルに気付かなかったようだ。永平はショックを受けつつ、気を取り直して偽ガイルを睨みつける。
「無駄口はここまでだ。余生は満喫しただろう、諦めて往生しやがれ!」
 永平はガイルに扮したアーテルに斧を振り下ろそうとした。そこに千颯が滑り込み、グリムリーパーでその刃を受け止める。
『落ち着いてこちらの話を聞くでござる!』
「これが落ち着いていられるかよ!」
 白虎丸の声を一蹴した永平に死角から真琴の放った銃弾が襲った。感覚を研ぎ澄ませ足を狙ったそれを永平は飛びのき回避する。
『まずいな、奴はかなりの実力者じゃ。まったく止まらんな、完全に血が上っとる』
「はた迷惑な!」
「永平さん、ここ香港は古龍幇の庭のようなものでしょう。支部から現場までどれだけ時間が掛かるか、その間人目を逃れるのがどれだけ大変かは貴方の方が良く知っているのでは? そもそも、車を持っていないガイルさんがどう移動したと? リンカーですから走ればいいかもしれませんが……目立ちませんか? エージェントを騙った不届き者を捕縛したいのはこちらも同じです。共同捜査と行きませんか? お互い、情報は多い方がいいと思うのですが 」
「そんなもの、H.O.P.E.が車出せばいいだけの話だろうが! 女子供だろうと今回ばかりは承知しねえぞ!」
 つくしの言葉を切り捨て永平は再びアーテルに刃を向けようとした。そこに黎夜が立ち塞がり、永平は思わず腕を止める。
「答えて……今まで襲撃がなかったのは、貴方の指示……? ガイルに時間はくれたけど……他の襲撃は一切なかったから……もしガイルを泳がせたり真犯人が判ってたりしてるなら……貴方の上司は相当の切れ者……な」
「此処まで証拠が無いのにIDを落とすのは明らかなミスリードだ。ガイルを殺せばH.O.P.E.と古龍幇の全面戦争は免れない。それで得するのは誰だろうね?」
 黎夜の質問に千颯が続き、樹は何故か巨大なマグロを突き付けた。縁起物と聞かされた魚に視線を向ける永平に、樹は尋ねる。
「とりあえず話を聞く余裕は持ってみてくれないかな腹筋さん? アナタ、暗部とかじゃないよね?」
「……そうだが」
「ガイルさんのIDカードが落ちていた、にも関わらず古龍幇からの声明も無いみたいだし暗部も動いてない……古龍幇上部はH.O.P.E.と事を荒立てたくないんじゃない? それから、これ見て欲しいんだけど」
 樹は紙の束を取り出し永平へと差し出した。生駒山で出会った従魔と、先の古龍幇構成員暴走事件の資料……眉間に皺を寄せる永平に、樹は続ける。
「現在こういう状況なわけだけど、H.O.P.E.も古龍幇も『ナニカ』に狙われてるんじゃないの? それを上部は感じ取って慎重に動いてるんじゃないの? それ、貴方が潰していいの? それとも潰すのが指示なわけ? 違うでしょ? アナタの飼い主のために一番役立つことは何?」 
 沈黙する永平に真琴はライフルの照準を定めた。永平がそれでも動くならフラッシュバンを放つつもりだ。
 その時、永平の懐から音楽が鳴り響いた。永平は端末を取り出し耳に当て、サッと顔を青ざめさせる。
「使用人の中に犯人がいた……? H.O.P.E.が追い詰めて、写真も……分かりました」
 永平はボタンを押すと、斧を仕舞い共鳴を解いた。そして苦々しくエージェント達に視線を向ける。 
「今、兄貴から連絡があった……お前らの仲間が犯人をあぶり出したとよ。逃げられちまったそうだが、とりあえず俺の早とちりだったようだな……悪かった」
「随分あっさり謝るのね」
「俺達は幇だ。自分の過ちは認めるさ。……って、てめえガイルじゃねえな」
 声と喋り方に、ようやくアーテルがガイルに扮している事に気付いたようだ。黎夜はきっぱりと言葉を紡ぐ。
「覚えておいて……忍者と暗殺者は忍ぶけど……NINJYAとASSASSINは忍ばない。騒がしくて、派手好きなヤツらだ……」
「そうか。覚えておくぜ。仲間庇うために変装したり、古龍幇に直接乗り込んだりしたてめえらの度胸と心意気もな」
 そして、永平は去っていった。古龍幇に一時拘束された調査組が戻ってきたのはそれから五時間後の事だった。
「あ、いた」
「あれ、居ル」
「お、お師匠様……無事で……良かったあああ……!」 
 漫才のようなやり取りをする墨色とシルミルテをよそに、ヨハンは無事なガイルを見て糸が切れたように泣き崩れた。ヨハンをなだめようと頭を撫でてみたりするガイルを尻目に真琴はチョコバーをもぐもぐする。
「結局の所狙いが曖昧だったね……」
「漁夫の利を狙う輩がいるという事じゃの」
「なんてめんどくさい」
「豚マンはもう食べたのか?」
「食べた。これは口直し……」
「何本目じゃよ……」
「俺も、いつかああなれるかな……」
 歓談する仲間達を眺め琳は呟いた。本当は「あんた強いのか? カッコいいな!」と話し掛けてみたいのだが、勇気が出ないから濤の後ろから出ていけない。そんな琳に、濤は呟く。
「お前も今日はよくやった」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
「お疲れ様でした。よろしかったら半分どうぞ」
 平介が笑顔を浮かべ、琳やヨハンに豚まんを分けに行った。一先ず嵐は去ったようだ。ハイタッチを交わす平介とセラフィナを眺め、京香と久朗は苦笑した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • メイドの矜持
    パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • Foreseeing
    aa3139
    獣人|20才|女性|防御
  • Gate Keeper
    墨色aa3139hero001
    英雄|11才|?|シャド
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 堂々たるシャイボーイ
    aa3404hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
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