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狙われたエージェント! 豪華客船の罠!!
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/09 09:51:18 -
相談板
最終発言2016/03/10 17:51:46
オープニング
ある冬空の下に黒いスーツ姿の二十代後半の一人の男……ジョニー・サンクスは一隻の船、豪華客船セイントアマリリス号の前に立っていた。
行き通う人々はそれに乗り込み、また中には「ママお船の旅楽しみだね!」と言う幼い子供の声が聞こえた。ジョニーはアマリリス号を一瞥し、短く息を吐いた。
(ここで幹部達の期待に応えないと俺は組織から消されてしまう……)
ヴィランの彼はヴィランズである組織『蓮の花』に入りたいと『蓮の花』の幹部の一人の女に志願した。
その女は彼に一つの提案をした。
『良いわよ。ただし私の手伝いが出来たらね。大丈夫、簡単なお手伝いよ。豪華客船でちょっとした取引があるの。でも困った事に邪魔で目障りなエージェント達が紛れ込んでいるみたいなの。そいつらを一人でも多く始末したら組織に入れてあげわ。ね? 簡単でしょ?』
簡単な話。つまり『蓮の花』は豪華客船を隠れ蓑にし、AGWを他の組織へと密売をしょうとしていた。
だが、乗客名簿の中にはエージェントの名前があったのだ。それを知った幹部の女はジョニーにエージェント達の始末を任せた。
ジョニーがエージェント達を始末する間、女はエージェント達に気づかれないように取引を終え、行方を眩ませると言う筋書きが用意されていた。
その筋書どおりに成し遂げなければ自分は組織に入れない。
況してや失敗など赦されない……。
ジョニーは意を決し、緊張した面持ちで彼は歩を進め、船のタラップを踏んだ。
●豪華客船の闇の罠
豪華客船アマリリス号の一室に二人の若い男女と一人の老人がいた。
室内は広く、床には赤い絨毯が敷かれ、天井はシャンデリアが飾られていた。女性と老人の二人は白いテーブルを挟み、ソファに向かい合うような体制で座っていた。
黒いスーツに身を包んだ老人は頭に被ったシルクハット脱ぎ、目の前に座る女性へと穏やかな口調で話し掛けた。
「まさかお嬢さんが来るとは思いませんでしたな……」
まるで世間話でもするかのような口振りで言う老人に、見た目18歳ぐらいの整った顔立ちの黒髪のポニーテールに赤いチャイナドレスを身に着けた女性……彩乃は眉尻を少し下げ、口許に微笑を浮かべながら答えた。
「申し訳ありません。私ではご不満かも知れませんが父は本日急用が入りまして私が変わりに参りました。ですが、取引には何も問題は無いかと思いますので、どうぞご安心を」
彩乃の言葉に対して老人は小さく頭を振った。
「いやいや、すまない。お嬢さんには何の不満も無いんじゃよ。ただお嬢さんがこの世界にいること自体が不思議だったのでな。あと取引を始める前に一つ聞きたい事があるんじゃが、この船に目障りな鼠が乗り込んでいると耳にしたんじゃが大丈夫なんじゃろうな?」
スッと目を細め、そして冷たい表情で言う老人へと彩乃は内心そんな事かと小馬鹿にしながら平然と言葉を返した。
「ご安心を。手はすでに打ってありますわ。万が一に備えて私の隣にいる愚神も動かしましょう」
「大丈夫なのかね?………確か愚神は……」
老人は訝しむように眉をひそめながら彼女の傍らに立つ大柄な愚神へと視線を向ける。それに対して彼女はクスリと小さな笑みを溢した。
「大丈夫ですわ。彼は私と契約を交わしています」
そう言って彼女は目の前に置かれたアタッシュケースを開く。その中にはAGWが収まっていた。
彼女はスラリとした脚を組み、そして老人へと静かに告げた。
「さぁ、取引を始めましょう―――」
●標的のエージェント
船内の中央の広間の会場。
長テーブルの上には豪華な料理の数々が所狭しと並んでいた。シルフ・ハムレット(az0009)はそれを見て思わず感嘆な声を上げた。
「わぁ~美味しそうな料理ですね」
「そうね……」
隣にいる彼女の英雄ラプンツェル・ゴーデル(az0009hero001)も彼女言葉に同意するかのように呟いた。
数日前、彼女達は商店街の福引きで一等の景品『豪華客船の旅』を引き当て、他のエージェント達を誘って皆で訪れていたのだ。
この船には様々な施設が取り揃えられており中でもプール、美容ジム、劇場ホールなどの娯楽施設が人気を誇っていた。彼女達の目の前に並ぶ料理も同様、かの有名なシェフが作ったと称されている料理の数々だった。シルフは目の前にある飲み物を手に取ろうとした瞬間―――。
パァンと乾いた銃声の音が広間の会場内に轟いた。
急いで視線をやると中央に黒いスーツを着た男が立ち、拳銃を手にしていた。周囲の悲鳴が沸き起こる中、男は「うるせぇ!!」と鋭い叫び声を上げ再度拳銃を発砲した。
奇跡的にも銃弾は周囲の人間達に当たる事はなく、白い床に小さな穴を開けただけだった。
一瞬で静寂する空気の中で男は口を開いた。
「この船にエージェントが乗っているだろう? 大人しく前に出て来い! もし従わない場合この船に乗っている乗客達を皆殺しにする!」
そう告げたのち、男は近くにいた泣き叫ぶ幼い子供の腕を無理矢理掴み、引き寄せると銃口を子供の頭部へとグリっと押し当てた。
「まずはコイツから見せしめだ!」
「待って下さい、その子を解放して下さい! エージェントは私です。私が出て来たのならばその子は用済みな筈です!」
シルフはのんびりとした口調で、だが表情は凛とし、男へと厳しい視線を向けた。
ラプンツェルはその様子を見ながら咄嗟に隠し持っていた小型の無線機のスイッチを入れた。この船内にいる仲間達に、この会話が聞こえるようにと思っての行動だった。
そしてシルフは意を決して男の元へと歩き出した―――。
解説
ヴィランのジョニー・サンクスを確保し、ヴィランズの組織「蓮の花」の取引を中断、または捕まえる依頼になります
シルフから豪華客船に誘われた設定になります
登場人物
ジョニー・サンクス(25)
ヴィランズ「蓮の花」の組織に強い憧れを抱き、自らも入りたいと志願する。幹部の綾乃から豪華客船に乗り込んでいるエージェント達を始末しろと告げられ、騒ぎを起こす
攻撃……拳銃を二丁所持している。拳銃の弾は主にライヴスになり、近づくエージェント達に向かい連続で3、4発発砲してくる。
ピンチになると二丁で攻撃して来るが接近戦には弱い
老人……「蓮の花」の取引相手のヴィランズの別の組織の人間になる。
特に攻撃は仕掛けて来ないが逃げ足が速い
綾乃(18)……ヴィランズの組織「蓮の花」の幹部。豪華客船を隠れ蓑にし、別のヴィランズの組織の老人とAGWの取引をしている。
エージェント達にバレると愚神アルタ(デクリオ級)と共鳴をして攻撃してくる
攻撃……共鳴した綾乃達は大剣で攻撃してくる。剣を上に掲げると船を徐々に浸水させる。また剣を垂平に向けると太陽光線を放ってくる。
Pl情報……太陽光線は射程距離一メートルしか打って来ない。剣の柄にある宝石を壊すと太陽光線を撃つ事は出来なくなる
状況……豪華客船内での戦闘になります。
乗客の数は1000人。中央の会場の広間に750人、美容ジム50人、劇場ホールに200人いる
救命ボート、乗組員の避難誘導の協力可能
一階が中央の会場の広間、美容ジム、二階が劇場ホール、取引が行われている部屋がある
NPC
シルフ・ハムレット&ラプンツェル・ゴーデル
クラス……ソフトビジョップ
現在囮としてジョニーの前に出て来ている。隙を見てラプンツェルとの共鳴をする予定になります。
共鳴後指示などありましたらお気軽にお申し付け下さい。無い場合は皆様のサポートになります。
リプレイ
アマリリス号のデッキにある椅子に座っていたマリオン(aa1168hero001)は隣にいた雁間 恭一(aa1168)へと話しかけた。
『ふむ……中々快適な旅では無いか?』
青く澄んだ海の上を走る船の旅はマリオンの言葉どおりに正しく快適と言うようなものだった。それに対して雁間はどこか落ち着かず、暇を持て余すかのようにマリオンへと言った。
「どうも、食って寝て遊ぶだけってのはな……どうも落ち着かねぇ」
『まぁ、貴様に貴族の暮らしが無理なのは分かっておるが、この程度で音を上げるとはな』
「どっかのヴィランズでもシージャック仕掛けて来ねぇかな? 俺が手ほどきしてやっても構わねぇ」
雁間はテキトーにそう口にした直後二人の耳へと微かなざわめきが聞こえ、同時に無線機が鳴った。
「やれやれ、何とも不粋なこって」
広間の会場内の少し離れた場所にいた麻生 遊夜(aa0452)は銃声を聞き、ため息を軽くつきながら彼は視線を中央へと向けた。
そこには人だかりが出来ており、只ならぬ雰囲気が漂っていた。
『……あぅ、お肉ぅ』
麻生の隣にいたユフォアリーヤ(aa0452hero001)はテーブルに並んでいる料理を見ながら指をくわえ、しょんぼりと肩を落とし耳をたれさせていた。
麻生は鳴っている無線を手にし、無線の相手ラプンツェルから状況を聞くと片眉をピクリと動かした。
●狙われたエージェント!
会場内で一般人に紛れ込んでいたイリス・レイバルド(aa0124)視線を中央の方へと向けた。
そこにはジョニーとシルフの二人が対峙しており、人質の子供を解放するようにシルフが説得をしていた。二人の間から二メートル離れた場所には一般人達が身動き一つ出来ない状態で、その様子を固唾を呑んで見守っていた。
「もう、理不尽には負けたくない」そう心に誓った――
だから豪華客船を楽しんでいたイリスは瞬時に頭のスイッチを戦場切り替え、状況が動くのを待つ。
つい先程、人見知り発動で固まっていた少女とは違い、今は一人のエージェントの顔つきとなっていた。
「シルフさんに集中している隙に取り囲むように移動するよ」
『了解だ。頑張りたまえよ、イリス』
イリスとアイリス(aa0124hero001)の二人は互いに目配りした。
「俺の前でガキを泣かすたぁ良い度胸じゃぁねぇか」
麻生は泣いている子供を見ながら青筋をビキビキと立て憤りを露にしていた。「あらゆる者を受け入れる」事を信条とする彼にとって、この行為は許しがたい行為だった。
『……ん、オシオキだね』
小さくクスクスと笑うリーヤに、麻生は頷きながら短く言った。
「おう、今は隙を窺うぞ」
「なんだぁ? 喧嘩か?? もっとやれ!」
『おい下品だぞ! 紳士は黙って勝敗の行方を見守るものだ……そっちに100クレッドだ』
後ろの方から野次馬のように雁間達の声がジョニーへと浴びせられた。それに対してジョニーは焦り、苛立った声で雁間達へと喚いた。
「うるせぇ! 黙ってろ! 殺されてぇのか!!」
喚くジョニーへとシルフは静かな声音で再度言葉を告げた。
「その子を解放して下さい」
ジョニーはシルフの顔を見ながらニタリとした薄い笑みを浮かべ、
「ああ。良いぜ、こんなガキの命なんかよりお前の命の方が今の俺には価値がある」
ジョニーは、あっさりと子供の体を乱暴に突き飛ばした。
……そうだ。こんなところで、もたもたしてはいられない。目の前にいるエージェントの他に数人のエージェント達も始末しなければならない。
ジャッキと拳銃の音を鳴らし、銃口をシルフへと向けた。麻生とハーメル(aa0958)はそれを目にした瞬間互いに目配りをし、動いた。
「今だ、行くぞ!」
麻生はリーヤと即座に共鳴をし、ジョニーの手にしている拳銃を狙いテレポートショットで真上から銃弾で撃ち抜いた。撃ち抜かれたジョニーは拳銃を取り落としそうになりながらも痛みを堪えながら姿勢を崩さなかった。
が、墓守(aa0958hero001)と共鳴を果たしたハーメルは周囲の被害を押さえる為、猫騙を発動させた。それに対してジョニーが一瞬だけ怯み、標準を誤り、トリガーを引き絞った。
シルフへと放たれた銃弾は彼女の頬をチッと掠め、後ろの柱へと穴を開けた。麻生はすぐさま子供を後ろに庇い下がらせ、再度テレポートショットでジョニーの手を狙い銃弾を叩き込んだ。
「俺の弾からは逃れられんぜ鉄砲玉さんよぉ」
「この……クソがっ」
歯噛みをし、険しい表情を浮かべるジョニーは、もう一丁の拳銃を取り出し一般人へと銃弾を放った。
だが、それよりも早く、すでに共鳴をしていたイリスが庇うように一般人の前に出るとライオットシールドで敵の攻撃を回避した。
「適当に弾ばら撒いてんじゃねぇぞ、素人が」
『……ん、一人だと思った? ……ん、当てるならここに、ね?』
麻生達が敵を挑発する中、ハーメルは近くにいたシルフへと短く告げる。
「シルフさん、あの子をお願いします」
「分かりました」
シルフはハーメルへと頷くと子供を安全な場所へと連れていく。
「そんなに死にてぇなら、お望みどおり殺してやらぁ!!」
そう叫ぶとジョニーは麻生とイリスそれぞれに拳銃を向けた。
それを見、イリスは一般人へと流れ弾がいかないように守るべき誓いで敵の注意を自分へとさらに惹き付ける。
拳銃の銃口から吐き出された弾がイリス達へと迫る。それを麻生は回避し、イリスは盾で防いだ。
「接近武器なら接近して封殺してやるのに……銃とか面倒くさい武器を面倒くさい状況で振り回してっ!」
『まぁ、それが有効だからと言えばそれまでだがね』
イリスは近くにあるオブジェを背後にするように移動し、射線を一般人から出来るだけ遠ざける。
だが、そこにイリスの足元を狙った弾丸が撃たれるがイリスはそれを回避した。
『重心が変化した。次の攻撃は別のパターンだから気をつけたまえ』
ジョニーの狙いをアイリスは即座に察知し、冷静にイリスへと告げる。
アイリスは危険察知と防御に特化した盾の英雄である。普段のペースと同じに見えて、その視線は鋭い。
ジョニーの後ろの方にいた雁間はジョニーの手へと飛びつき銃の片方を確保した。ジョニーに隙が生まれ、麻生の銃弾がジョニーの左手に持つ拳銃を撃った。ジョニーは攻撃を受け、拳銃を床へと落とした。
それをイリスは見逃さずライヴススターで加速し、一気に距離を詰める。
間近に迫るイリスに対してジョニーは攻撃を試みるが、二丁の拳銃を使えない為失敗に終わった。
「護ると決めたんだ……豆鉄砲をいくら撃ち込んだところで怯むと思うなッ!」
『攻めあぐねる……その状況を、その言葉を、そっくりそのまま返してやりたまえ』
少女の金色の瞳に迷いはない。
イリスはライヴスリッパーをジョニーへと叩き込んだ。
ライヴスを乱され攻撃を受けたジョニーは体制を大きく崩し、それでも攻撃を繰り出そうとするが雁間に片腕ごと取り押さえられている為失敗に終わった。
そこにイリスのアロンダイトが閃き敵にさらなる攻撃を与えた。
●使い捨ての駒の真実
ジョニーは縄で縛られ床に座り込んだ状態でエージェント達へと取り囲まれていた。
「貴方は最初から一般人ではなく、僕達エージェントを狙っていましたよね? 僕達を狙った目的は何なのですか?」
真剣な表情で訊ねるハーメルへとジョニーは顔を背け、投げやりに言った。
「何で、テメェらに話さなければならねぇんだよ」
「おい、コイツはどうせ下っ端で何も知らねぇ! 知っている奴をこんな鉄砲玉に使うか? 早くコイツを処分して全員で親玉を探した方が早ええだろ!」
雁間はジョニーへと顔を近づけ凄んで見せた。それに対してジョニーはどこか恐怖を感じ慌てて口を開いた。
数分前。
石井 菊次郎(aa0866)と彼の英雄テミス(aa0866hero001)は二階の劇場ホールにいた。
船内の劇場ホールとはいえ、随分ときらびやかな場所の造りをしており、それを目にしたテミスは感想を口にした。
『なるほど、これはラスベガスの劇場と契約しているのでしょうか? 随分と派手なレヴューですね』
「そうか? こう言う物はよく分からんが……」
『ん? 主よ、ライヴス通信機に反応があるぞ?』
菊次郎とテミスは無線機で今会場内で起こっている現状を耳にした。
『……パーティ会場で? 分かりました。こちらの階でも不審な動きが無いか警戒します』
通信を終え、二人は駆け出しその場を後にした。
榊原・沙耶(aa1188)は二階の通路を歩いていた。
せっかくのクルージングにシージャックなんて、笑えないわねぇ。小鳥遊ちゃんは船酔いでグロッキーだし、不幸だわぁ……
そう内心呟き軽く溜め息をついた。
榊原は先程、無線機で会場内での状況を聞き船員に事情を説明したのち、客室課のユニフォームを借りて小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)のバックアップを受けつつ行動をしていた。
数分前、『うぅ、きもぢわるい。船は好きなのに……うぷっ』とグロッキー状態だった小鳥遊は何とか回復し、今は警備室で船内全ての防犯カメラをチェックしている。
榊原は防犯カメラが設置されていない客室内を見回っていた。そのうちの一室の扉を開けた。
室内には数人の男女がいた。
見るからに普通の青年達であり、ヴィランズの組織とは無関係な一般人に思えた。
榊原は青年達へと避難後の人数確認の為、写真を撮らせて貰った後、客室を出て近くの係員へと青年達を預けた。
その直後無線機が鳴り、スイッチを入れる。
相手は麻生からだった。
『こっちは今片付いた。他に仲間が紛れ込んでいるか探してみたが会場内にはいなかった』
「この規模の客船をシージャックするのに一人って事は流石にないわよねぇ。よっぽどの自殺願望か、誰かに乗せられて捨て駒にされているか……どちらにしろ、最も下っ端の役割ねぇ」
『他に敵がいると思ったが、予兆なし? マジで鉄砲玉か、こいつ』
『……ん、捨て石?』
首を傾げるリーヤの台詞に麻生はさらに言葉を続けた。
『榊原さん、多分それは当たりかもしれねぇ。実はさっきジョニー・サンクスが自白したんだ。この船内で取引が行われている。それもAGW関係の、だ。しかも、こいつは俺達エージェントを最初から狙っていた。そこが引っ掛かる……』
「おそらくだけど、先に私達を始末した後、上の連中は有利に取引を進める。そんなところだったかもしれないわねぇ」
『ジョニーは破壊や殺害が目的じゃない?……が、目は逸らしたい……チッ本命は最初から別の場所にあったってことか』
「私は引続き二階を捜索するわ」
『無理はしねぇようにな?』
一階の通路にいた麻生は榊原との通信を終えると、踵を反し二階の通路へと続く階段を駆け上った。
「あとはさっさと避難をしてくれる事を願うのみか、頼んだぜ船長さんよ!」
●組織「蓮の華」
菊次郎達は二階を巡回していた。
先程、劇場ホール内にいた一般人達の避難は既に済んでおり、他の客室なども見回ってみたが一般人はおろか疑わしい人物などは、いまだに見つかってはいなかった。
前方からこちらの方に向かって歩いて来ている榊原の姿に気づき、菊次郎は彼女に声を掛けた。
「そっちはどうでしたか?」
「こっちの方は怪しい人物はいなかったわ。でも……あの部屋の確認だけがまだだけど」
榊原はそう言い、後ろの方にある左側の一室へと視線をチラリとやる。
その客室の扉は他の客室の扉とは違い、一際白く、そして高級感を漂わせていた。見るからにも怪しい場所に思えてならない……。
菊次郎達は扉へと近づくと、そっと扉を開き室内を覗いた。
そこには老人と赤いチャイナドレスを身に纏った女性、黒髪の青年の姿があった。老人と女性は何やら会話を交わしており、テーブルの上にはアタッシュケースが広げてあった。
中身はおそらく先程情報にあった。AGWだろう。
菊次郎はライヴスゴーグルを使用し、老人達を見る。
三人からはライヴスの流れが見え、その内の一人の青年からは愚神の反応があった。
「随分と船内が騒がしくなってきましたなぁ……」
AGWの取引を行っていた老人は、ここまで聞こえる騒ぎの声を耳にし、天井を見上げてポツリと呟いた。
「そうですわね。大方あの目障りなエージェント達が動いているのでしょう。では、このAGWは先程提案させて頂いたクレッドで宜しいでしょうか?」
彩乃は冷静な表情をしながら老人へと確認をする。
エージェント達が、すぐそこまで来ているかも知れないのに彼女達は慌てる様子は無かった。
ジョニーは使い捨ての駒だ。
こうなる事はすでに計算済みだ。
本来の目的はこの取引をさっさと終え、自分がエージェント達を始末すれば良いだけのこと。何も慌てる必要はない。
「大丈夫じゃよ。むしろこちら側としては安いぐらいだがね」
「では、これで……」そう彩乃が言葉を続けようとした瞬間―――。
扉からエージェント達が突入してきた。
「あなた達が黒幕ね?」
「エージェント……」
彩乃達はその場から立ち上がり、より一層に不愉快な顔をした。
「このまま大人しく身柄を拘束されれば、人を殺すよりは刑期は軽くなるわよ。もちろん殉教精神はないわぁ。大人しく自分達の罪を償ってはどうかしらぁ?」
榊原は彩乃達へと向かい、わざと会話を引き伸ばす。
つい先程、密かに無線機でハーメルへと連絡をし、敵の逃走通路を潰す為に小鳥遊に近海に船を配備、また上空にヘリの手配を頼んでいた。
「ふふ……あははははは」
彩乃は笑いを堪えきれず、大笑いした。
その表情は醜く歪みきり、まるでそれはエージェント達を値踏みするかのようだった。
「誰が好き好んでお前達に拘束されなければならないの? アルタ!」
彩乃は近くにいる愚神アルタの名を呼ぶ。
それに対して瞬時に共鳴した菊次郎は支配者の言葉を使用し、彩乃へと自分の幻想蝶を砕けと命令する。
が、彩乃からは幻想蝶が何処にも見つからなかった。
「貴方はどうやって愚神と契約したのですか? その情報とAGWを全て差し出すなら無言で立ち去る事を許可するのを上と交渉します。死なばモロ共で船を壊されても困りますので……」
「ふん、契約? 馬鹿馬鹿しい。私達は協力関係で成り立っているのよ!」
彩乃は鼻を鳴らし、冷たく言い放った。
愚神は幻想蝶を作らない。
協力関係である彼らは体の貸し借りを行っているにしか過ぎないのだ。
「そうか……ならばそっちの愚神に聞きたい事がある。この瞳に見覚えはないか?」
そう言って菊次郎は眼鏡を少しだけ外し、紫色の瞳を晒した。
彼の瞳は、ある愚神を探し出す為の手掛かりだった。彼は何としてもその愚神を探し出さなければならない……。
菊次郎の問い掛けに愚神は平然とした口調で答えた。
『悪いが……知らんな』
「話はもう終わりかしら? では、そろそろ始末させてもらいますわよ!」
彩乃は菊次郎達へとそう告げると即座に愚神に自分の体を乗り移らせた。
そして床を蹴り、手に大剣を持つとそれを菊次郎達へと凪ぎ払うかのように攻撃してきた。
だが、菊次郎達はそれを回避した。
彩乃と菊次郎達が戦いを繰り広げる中、老人は菊次郎達の隙を突いて逃走した。
●逃走劇
整備室で防犯カメラをチェックしながら小鳥遊はハーメルと連絡を細かく行っていく。
『避難誘導中の中に二人のヴィランが紛れ込んでいたわ。でも今さっき誘導のサポートに回っていたイリスさん、シルフさんの二人が確保した。その他に怪しい動きは今のところないわ』
「分かりました。……では不審物の類いなどは?」
『それもカメラに映ってはいなかった。今から私は榊原達と合流するわ』
「了解です! そしたら僕達もそちらに向かいます」
そう告げた後ハーメルは通信機を切り、通路を駆け出す。
このシージャックはヴィランズから仕掛けてきた。すでに連中はある程度の事態に備えて対策を用意していたに違いない。
だが、こちら側も包囲網を張っている。
けして逃がしはしない。
『……必ず捕まえるぞ……』
脳裏に聞こえる墓守の声にハーメルは同意するかのように頷いた。
「もちろんだよ」
老人は船内のデッキへとたどり着いた。
だが、そこで老人を待っていたのはマリオンの姿だった。
『待っていたよ。ご老人』
「これは、これはエージェント殿。お待たせして申し訳ありませんなぁ」
シルクハットに手を当て、飄飄とした態度で老人は言った。
マリオンは老人から逃げられないように礼装剣で老人の手足を狙い即座に斬りつけようとした。だが老人はそれを回避した。
「いきなり斬り掛かるとは……短気は損気ですぞ」
『では、大人しく捕まれ。こちらとしても手間が省ける』
マリオンは老人へと向かい駆け出した。老人はその場を動かず口の端に小さな笑みを浮かべる。
礼装剣でマリオンは老人の脚を狙い攻撃をした。老人はその攻撃を受け、脚から真っ赤な血が流れるが老人は表情を崩さなかった。
老人はマリオンに迫り、唇を動かした。
「エージェント殿、ワシはここで失礼するとしょう。ただ一つだけ告げておく、この取引はまだ『序盤』にしか過ぎない……。また、お主達とは何れ再び会う事となるじゃろう。まぁ、ワシとしては遠慮したいところじゃがな」
そう言うと老人は駆け出し、海の中へとその身を投げた。
慌ててマリオンは海の中へと目を向ける。
海の上には老人の着ていたスーツが浮かんでいた。老人はスーツの下にダイバースーツを着用し、それで海の中へと潜って逃げたのだ。
マリオンはそれを見、舌打ちをした。
●間違った想いと護るべきもの
菊次郎はゴールドネックレスとレアメタルイヤリングを換装し、銀の魔弾で彩乃の大剣へと撃ち込む。菊次郎の攻撃を受けた彩乃は体制を崩そうとしたが、彩乃はそれを踏み止まった。
が、駆けつけた麻生のファストショットの高速射撃が彩乃の脚を襲った。
「テメェらが本命か……逃げんなよ、大人しくしやがれ!」
彩乃は忌々しそうに軽く舌打ちをし、麻生へと剣を垂直に向けると太陽光線を放ってきた。
麻生はそれを素早く回避し、穿たれた攻撃は壁に大きな穴を開けた。
彩乃の後ろから一つの動く影があった。
それはハーメルだ。
彼はスピードを上げ、彩乃へと迫る。
彩乃はハーメルへと向かい再び太陽光線を撃とうとするが、彼はそれを素早く回避する。
距離を詰めたハーメルはハングドマンで彩乃の剣を斬りつけた。そこに続けて麻生のストライクが剣の柄にある宝石へと叩き込まれる。
『……ん、外さない』
「デケェ的だなぁ、おい」
宝石にヒビが入り、そしてパリィンと音を立てて砕け散った。
宝石が壊れた以上太陽光線と船を浸水させる事が不可能になった。
……このままでは負けてしまう……
このまま負ければ妹は自分の身代わりにされてしまう。
「……こんなところでアンタ達に負ける訳にはいかないのよッッ!!」
彩乃は絶叫するかのように叫び、愚神に強く命令をした。
「アルタ! もっと、もっと力を私に貸しなさい!」
『無駄だ……お前はここで負ける。何故ならば理由はお前自身が良く知っているだろう? 役立たずは、そこで大人しく現物でもしていろ』
ライヴスを大量に消耗しすぎた彩乃の体から愚神はスッと離れた。
そして愚神は菊次郎へと襲い掛かる。
菊次郎は愚神の攻撃を回避し、リサールダークで攻撃した。同時にハーメルが愚神へと数本の投剣を放つ。幾つもの投剣の刃が愚神の体へとドス、ドスと音を立てて貫いた。
愚神はギロッとハーメルを睨み、攻撃を仕掛けようとした。それに対して墓守がハーメルへと声をかける。
『……ハーメル……』
「分かっているよ」
ハーメルは疾走し、愚神の攻撃を掻い潜る。
一気に距離を詰めたハーメルは愚神の胸に目掛けて刃を突き刺した。
『おおおお』
愚神は凄まじい絶叫をその場に轟かせライヴスの光となり、その場から姿を消した。
●終わりと、始まりと
その後。
彩乃がエージェント達に確保された後、彼女はH.O.P.Eから手配されたヘリで輸送された。
一般人達には騒ぎが収まり、犯人が捕まった事が船長の口から告げられ、今は皆先程までと変わらず船旅を楽しんでいた。
雁間とマリオンの二人はデッキの手すりに寄りかかり、風に当たっていた。
「まぁ、少しはマシな旅になった」
『内装が一部ズタズタになっておるようだが……』
マリオンは破壊された船の一部へとチラリと目線をやって言った。
「皆さん、助けて頂き本当に有り難うございました」
広間の会場内でシルフはイリス達、榊原達へと礼を述べた。
『良いよ。困った時はお互い様だろう』
「お姉ちゃんの言うとおりだよ。それにAGWと犯人を確保出来て良かったよ」
「そうねぇ。それに取り敢えずヴィランズの取引を中断させる事出来たしねぇ」
榊原達はそんな会話を交わし、互いに微笑んだ。
ハーメルと麻生の元へと一人の子供が話しかけてきた。
それは先程人質になっていた子供だった。子供は何か言いかけようとするが思わず何かに躓き、転びそうなった。それを近くにいた墓守が子供の腕をすかさず掴み、支えた。
『……大丈夫?……』
「うん、有り難う。お姉ちゃん」
子供はハーメル達へと視線を向け、そして笑顔で言った。
「助けてくれて有り難う」
その笑顔を見、麻生とハーメルは顔を見合わせ子供へと穏やかな表情を向けた。
「君が無事で良かったよ」
「恐かっただろう……よく頑張ったな」
ハーメルは優しい声音でそう言い、麻生はニッとした笑みで子供の頭を撫でた。
船内の通路に菊次郎とテミスの二人は壁際に背を預け会話をしていた。
彩乃が去り際に残した一言……。
「私を捕まえたあなた達に敬意を称して良いことを教えてあげるわ。これで終わったと思わないで、『蓮の華』の本来の目的は別のところにあるわ」
それを思い出し、テミスは真剣な面持ちで言葉を口にした。
『ヴィランと愚神が組む……世界の対立構造はこれから変わってゆくのかも知れませんね』
「やれやれ、ヴィラン共にも目を配らねばゲームは終わらんと言う事か」
テミスの言葉に菊次郎は溜め息交じりに言った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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