本部

クリムゾン・ブック

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/08 19:18

掲示板

オープニング

●呪われた深紅の本
 また、来てるな。
 とある古本屋。店主である山本は、見慣れた少年の姿に、眉をひそめた。
 近所の中学校の制服を着たその少年が本棚から引き抜いたのは、深紅色の本であった。
 この一週間、夕方になると、その少年は店にやってきて、いつも同じ本を手にとり、立ち読みを始めるのだ。
 そんなに好きな本なら、買いなさいよ。
 山本は、心の中で呟きながら、ハタキで本の埃をはらい始めた。少年の顔のすぐ近くでハタキを動かしているのだが、少年は本に集中していて、山本の存在に気づいていないようだ。
 一体、なんの本を読んでいるのだろう。
 山本は目を細めて本のタイトルを読み取ろうとしたが、よく読めない。
 山本がもっと少年に近寄ろうとしたその時、少年の身体がゆっくりと山本のほうに倒れてきた。
「なんだ? どうした? 大丈夫か?」
 少年の顔は真っ白で、意識は朦朧としているようだ。
 山本は少年の身体を床に横たえると、携帯電話で救急車を呼んだ。
 電話を切った山本は、ふと気づいた。
 本がない。少年が読んでいた深紅の本が。
 少年の手の中にもなければ、床に落ちているわけでもない。
 本棚を見ても、それらしき本はない。
 本はどこに行ってしまったのだろう。
 山本は首をひねった。

 昨日は、大変な一日だった。
 少年に付き添って救急車に乗り、病院で少年の両親が到着するのを待ち、少年の両親に事情を説明し……山本が、家に帰ったのは夜遅くなってからだった。
 少年は一命をとりとめて意識を取り戻したそうだが、詳しい病状は聞かなかった。
 早く元気になるといいが……。
 山本がレジスターの後ろに座ってそんなことを考えていると、店に一人の少女が入ってきた。少女は本棚の前をうろうろしていたが、やがて一冊の本を本棚から抜き出した。
 深紅の本。
「あ、ちょっと、その本」
 山本が思わず声をかけると、少女は本棚に本を戻し、店を飛び出して走り去った。
 別に驚かすつもりじゃなかったのだが……。
 山本は、少女のいた場所に立って、深紅の本を探した。だが、見つけることができなかった。

●古本屋に潜む従魔を倒せ!
 HOPE敷地内のブリーフィングルームで、職員は説明を始めた。
「昨日、ある古本屋で、一人の少年が突然意識を失って病院に運ばれました。名前は健太くん、中学二年生です。診察の結果、健太くんはライヴスを奪われていたことがわかりました。健太くんは、その古本屋に最近頻繁に通っていたそうです。おそらくその古本屋に従魔が潜んでいると思われます。みなさん、従魔の討伐をお願いします」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 ・ミーレス級従魔「クリムゾン・ブック」
  本の形をした従魔。
  単行本サイズ。深紅色。
  普段は本棚の奥に隠れていて、標的とした人間の前にだけ姿を現す。
  本の中には、標的とした人間が夢中になるような物語が書かれている。
  攻撃する時は、本のページが勝手にめくれて、旋風を巻き起こし攻撃する。
  また、体当たりで、BS「洗脳」を付与する。

 ・山本
  古本屋の店主。50代の男性。

 ・健太
  中学2年生の男子。従魔にライヴスを吸い取られ、意識を失う。病院で意識を回復した。入院中。

 ・葵
  中学2年生の女子。健太のクラスメート。健太が学校を休んだので、健太のことを心配している。
  健太が入院したことは、まだ知らない。
  健太が頻繁に古本屋に通っているのを目撃して、不審に思っていた。
  古本屋で「クリムゾン・ブック」に接触した。

●状況
 古本屋の本棚に従魔が隠れている。
 古本屋の通路は狭い(人がすれ違うのがやっとの幅)。

リプレイ

●情報収集
 パウリーナ・ビャウィ(aa3401)は、HOPE本部に連絡し、古本屋周辺の封鎖を要請した。到着したHOPE職員が、古本屋のある通りの両端に「立入禁止」のカラーコーンを設置した。
 パウリーナとその英雄テオバルト(aa3401hero001)は、古本屋の周囲にある商店や住居を回り、危険なので外出しないように、と呼びかけていった。
「本の従魔ね……魔導書とか曰く付きの本に憑いたのかな。命に関わるような被害じゃ無かったのは幸いだね」
『あぁ、そうだね。従魔一体ならさっさと片付けようか』
「早くやっつけないと、近所の人も迷惑しちゃうしね」

 その一方、他のエージェント達は古本屋に向かった。古本屋はこぢんまりとした平屋建てだった。
 赤城 龍哉(aa0090)は、傍らにいる英雄ヴァルトラウテ(aa0090hero001)に言った。
「本に化けた従魔か」
『人知れず浸透するタイプですわね。気付かれなければデクリオ級に達した可能性も否定できませんわ』
「……犠牲者じゃねぇが、店主にも目撃出来たってのが気になるぜ」

『ようやく依頼に入れたのう』
 嬉しそうにしているのは、夜月 海斗(aa2433)の英雄ロア(aa2433hero001)である。頭に被った動物の骸骨と、全身に刻まれた赤いタトゥーが印象的な少女だ。
「そうだな、やっと異界での引きこもり修行の成果が試せるな」
 ロアの隣で、海斗が呟いた。
『うむ、それも重要じゃが……今回は味方もいる。連携も考えるじゃぞ』
「ああ、善処する。それと早く片付けて妹の見舞いに行かないとな」
 海斗の唯一の肉親である妹は、生まれつき病弱で現在も入院中である。海斗にとっては、何よりも妹が一番大切なのだ。

「本の従魔とはなァ、野放しにはできねェな」
 狐の耳と九本の尻尾を持つ土御門 晴明(aa3499)は、大の読書好き。本の姿をしてライヴスを吸い取る従魔と聞けば、放っておくわけにはいかない。
『夢中になるほどとは、一体どんな物語なのか』
 英雄の天狼(aa3499hero001)は、わくわくして狼の尻尾をパタパタと振っている。
「わくわくするのは結構だが、洗脳されないようにしろよ」

 刀のように凛とした雰囲気を持つ少女、刀神 琴音(aa2163)は呟いた。
「本に擬態して相手のライヴスを吸うとは……また変わった従魔がいたものだな。現代社会に適応してると思えば良い進化だとは言えるが。まぁしかし一般の者に手を出したのならば是非もない。悪いが消えてもらうぞ」
 ガラガラとガラスの引き戸を開けて、琴音は古本屋に入った。琴音の後ろに、海斗、ロア、晴明、天狼、龍哉、ヴァルトラウテが続いた。
 突然の来訪に、古本屋の店主、山本が目を丸くして椅子から立ち上がった。
 海斗は、山本に状況を説明した。
「あの本が従魔だって? 変な本だな、とは思っていたが……」
「本の外見や、少年がいつ、どこでその本を手に取っていたか教えてもらえますか」
 海斗が尋ねる。
「本は、背表紙、表紙、裏表紙、すべて深紅色だったよ。タイトルは読めなかった。単行本のサイズだったな。少年が来るのは夕方だった。たぶん学校帰りだと思う。少年が立ち読みをしている場所は、一番右側の本棚だったな。でも、今日の昼におかっぱ頭の女の子が来たんだ。昼休みに学校をぬけだしてきたんだろうな。その女の子は、右から二番目の本棚から、本を取り出していたよ。女の子が帰ったあとで、本棚をよく調べてみたんだが、本は見つからなかった」
 山本が答えた。
 晴明は、店内を見回して提案した。
「左から一番目と二番目の本棚は、文庫本だな。従魔は文庫本の本棚からは出現していないから、文庫本の本棚に透明なビニール袋を被せるのはどうだ? 従魔が暴れても被害を抑えられるぞ」
 山本の顔が輝いた。
「それなら、本棚につける埃よけ用のカバーがある。今、奥から持ってくるから被せるのを手伝ってくれ」
 山本は店の奥にひっこんだ。
 龍哉が呟いた。
「狙った相手に姿を見せて誘き寄せ、その手に取らせる、か。……今の生活に満足出来てない奴でも見定めてんのか?」
『何かの機微を捉えている可能性はありますわね。それと誰かの手に取られている間は、第三者にも姿が見える点は無視出来ませんわ』
 ヴァルトラウテが応じる。
「しかし、いざ本棚を探すと見つからない。透明化じゃ隙間が出来たように見えそうなんで逆に不自然か。となると、背表紙の色を変えてるのかもな」
『本当に消えてなくなっている訳でないのなら、十分考慮すべきだと思いますわ』
 海斗が眉をひそめた。
「背表紙の色を変えているとしたら、見つけるのは難しいな。俺達が客のフリをして囮になるのはどうだろう」
 海斗の言葉に、みんな賛同した。海斗は、少年と話すために病院に向かっている途中の奈義 小菊(aa3350)にスマートフォンで連絡し、店主から仕入れた情報を伝えた。
 山本が埃よけのカバーを持って戻ってきた。一同は、文庫本の本棚をカバーで覆う作業を始めた。

「本は好きなのだが、従魔の本とは厄介だな」
 小菊はそう呟くと、病室のドアをノックした。
 健太はベッドに横になっていた。顔色はあまりよくない。
「物騒な見舞いですまないが、クラスメートが次の犠牲者になるかもしれないんだ」
 小菊が状況を説明すると、健太は顔をしかめた。
「おかっぱ頭の女の子って、葵だろうな。あいつ、余計なことして……」
「どうして毎日古本屋へ通うようになったんだ?」
「スマホのやりすぎで親にスマホを取り上げられちゃって、暇だって話を葵にしたんだ。そしたら、葵に、本でも読みなよ、って言われて。で、先週の土曜日に古本屋に行ったら、あの本があったんだ。『螺旋都市の百年迷宮』っていう、すっごく面白いミステリー。表紙に空に浮かぶ城が描いてあって」
「空に浮かぶ城? その本は何色の本なんだ?」
「水色の本だよ。城の絵は、白色だけど。なに? どうかしたの?」
「いや……話を続けてくれ。その本に呼ばれたという感覚はあったのか?」
「呼ばれた? そうかもな。最初はそんなことなかったけど、だんだん授業中でも食事中でも話の続きが気になってしょうがないようになっちゃって」
「それが従魔の手口か……自分がどんな状況で倒れたかは覚えているか?」
「覚えてない。古本屋で突然目の前が暗くなって、気づいたら病院のベッドの上だった」
「なるほど。葵は、どういう性格の子なんだ?」
「普通の子だよ。まあ、少し気が強いかな。そのせいで周りと衝突したりもするけど」
 従魔を怖がるタイプではないということだろうか。小菊が、葵に囮を依頼する場合になった時どのように説得すればよいか考えていると、健太が呟いた。
「あいつ、俺が入院したことを知ったら、自分のせいだと思うかもな。そんなことないって、葵に伝えておいてくれない?」
「わかった」
 小菊は病室をあとにすると、古本屋にいる仲間にスマートフォンで状況を連絡した。
「これから中学校に行って、葵と話してみる。そっちはどういう状況なんだ?」

●囮作戦
 文庫本の本棚に埃よけのカバーを被せる作業が終わった。そこに、避難誘導を終えたパウリーナとテオバルトがやってきて、被害者と年齢の近いパウリーナと海斗が囮役をやることに決まった。
 パウリーナと海斗は一番右側の通路で、目にとまった本を本棚から抜き出したり、ぶらぶら歩いたりと普通の客のように振る舞っている。
 ロアとテオバルトは、レジスターの後ろから囮役の二人を見守っている。囮役が万が一洗脳された場合には、店奥に待機している琴音、龍哉、ヴァルトラウテにすぐさま連絡することになっている。
 静かな時間が流れるなか、本棚の間をパタパタと走り回る天狼の足音だけが響く。
『ハルの家みたいだな』
 古本屋にいると、本で埋め尽くされた晴明の家を思い出すらしい。
「はしゃぐのはいいが転ぶんじゃねェぞ」
『そのようなへまするはずが……うわっ』
「人の言ったことは聞けよ」
 晴明は自分の尻尾で、転びそうになった天狼の身体と、落ちそうになった本をさっとガードした。
「ソラは大人しく遊んでてくれ。俺はちょっと店主と話してくる」
『はーい』
 天狼を残して、晴明は店の奥に行き、所在無げにしている山本に話しかけた。
「少年が読んでいた本は、どんな内容だったんでしょうかね」
「僕もそれが気になってね。あんなに夢中になる本とは、どういう本なのか。ちょっと読んでみたい気もするんだよ」
「相手は従魔だぜ。おやっさん、戦闘になった時に本に手を出さないでくれよ」
 龍哉が苦笑しながら、山本に釘を刺した。
 晴明が呟いた。
「戦闘は上手くできて二対一か。最低、一対一になることを考えておかねェとな。ただ、周りの本が傷つく恐れがあるのは何としても回避してェもんだ。尻尾でガードできれば一番いいんだが」
 その時、ロアとテオバルトが店の奥をのぞきこんで、手招きをした。
 琴音、龍哉、ヴァルトラウテ、晴明は、静かに店に移動した。
『パウラが読んでいる本を見てくれ』
 テオバルトが小声で囁いた。
 パウリーナは機嫌よさげに長い耳を揺らしながら、本を読んでいる。その本の表紙は、深紅色だった。
 見つけた!
 海斗は、パウリーナにそっと近寄り、深紅色の本を拳で叩き落とそうと身構えた。だが、従魔はエージェント達の殺気を感じとったのだろう。突然、宙に浮かぶと、本棚に飛び込んだ。
 エージェント達は慌てて本棚に殺到したが、既に深紅色の本の姿はなかった。
「え? なに? どうしたの?」
 驚いたパウリーナが、きょろきょろと辺りを見回す。
『今、パウラが読んでいたのが従魔だったんだよ』
 テオバルトの言葉に、パウリーナはぷっと頬を膨らませた。
「今読んでいたのは、男性アイドルグループの写真集だよ。表紙もそうだったでしょ」
『いや、深紅色の本だった』
 兄妹のように言い合いを始めそうな二人をおさえて、龍哉が呟いた。
「つまり、標的とした人間に見える本の姿と、第三者から見える本の姿は違うということだな」
 琴音は、従魔が飛び込んだ本棚を眺めていたが、見つけるのを諦めて首を振った。
「従魔は警戒してもう囮にはひっかからないだろう。一冊ずつ本を取り出して調べるしかないな」
 晴明が頷いた。
「じゃあ、そうしようぜ。女性陣は本を整えてもらって、男共で出す感じだな。流石に本は嵩張ると重てェし」
 晴明の提案で、地面にブルーシートを敷いて、本を出来るだけ汚さないようにしたうえで、本を移動させることになった。
 龍哉は本を運びながら苦笑した。
「こういう時に愚神探知機でもありゃ少しは手間も省けるんだろうけどな」
 ヴァルトラウテは、本を揃えながら微笑んだ。
『吸い取ったライヴスの揺らぎでも捉えられればとは思いますわね』
 古本屋の電話が鳴った。かけてきたのは、病院にいる小菊だった。
「こっちは、本を店の外に出して探しているところだ。従魔は囮にひっかかったんだが、逃げられちまってな。……そうか、よろしく頼む」
 海斗は電話を切ると、みんなに向かって告げた。
「これから小菊が葵に会いに行くそうだ。うまく協力してくれるといいんだが」

 小菊は中学校に到着した。門からぞろぞろと生徒達が出てくる。小菊は通りかかった生徒に健太と葵の教室の場所を聞くと、その教室に向かった。小菊はセーラー服姿なので、学校の中を歩いていてもさほど違和感がない。
「きみが葵か? ちょっと話を聞かせてくれ」
 小菊は教室にいたおかっぱ頭の少女に話しかけた。少女は驚いた様子だったが、小菊が健太の話を始めると、真剣に話に耳をかたむけ、心配そうに眉をひそめた。
「健太が入院しているなんて……健太は大丈夫なの?」
「彼はもう大丈夫。問題は従魔を見つけることなんだが……昼休みに古本屋に行ったそうだね。読んでいたのは、どんな本だったんだ?」
「題名は『城の石垣20選』で、いろいろなお城の石垣が写真入りで紹介されている本」
「なるほど……続きを読みたい?」
「読みたい! でも、それって従魔なんでしょう」
 小菊は、葵にその本を読むな、とは言わなかった。警戒されてしまうからだ。
「なにかあった場合には、私があなたを守る」
 葵は古本屋に行くかどうか迷っているようだ。
「あの本はあなたのもの、私は他の本を探すから一緒に行きましょう」
 葵はようやく頷いた。

 これから葵と一緒に古本屋へ向かうという小菊からの連絡を受けて、古本屋にいたエージェント達は、各自英雄と共鳴し、戦闘準備を整えた。
 龍哉はヴァルトラウテと共鳴。龍哉の前髪が一房銀色に染まり、左目の瞳の色が蒼に変わった。身体には、ヴァルトラウテの鎧を装着している。
 琴音も英雄と共鳴。琴音の髪が白くなり、瞳が赤く染まった。赤黒いライヴスが全身を覆っている。本来は桜色のライヴスなのだが、幼少時の事故によって赤黒いライヴスとなっているのだ。
 海斗はロアと共鳴。ロアと同じタトゥーが身体に現れ、ロアの被っていた骸骨を被った姿となった。
 パウリーナはテオバルトと共鳴。パウリーナの髪が白く変わった。
 晴明は天狼と共鳴。着崩した狩衣姿となり、九本の尻尾が現れた。腰ほどまで伸びた青い髪をかきあげながら、晴明は愚痴った。
「共鳴するのはいいんだが、この邪魔な髪はどうにかならないのかねェ」
 古本屋の一番右側の本棚にある本はほとんど外に運び出した。右から二番目の本棚には、まだぎっしり本が詰まっている。
 古本屋が見えてきたところで、小菊も英雄と共鳴し、葵の前に立って、警戒しながら古本屋に近づいていった。従魔が、狙いの一人である葵に向って、いつ飛んできてもおかしくない。
 古本屋の前で待っていた琴音が葵に言った。
「きみがさっき読んでいた本があったら、本には触れずに、教えてくれ」
 葵は、ゆっくりと店の中に入っていき、右から二番目の本棚の前に立った。そして、迷う様子もなく、本棚の一か所を指さした。
「ありました。『城の石垣20選』。右から三番目」
「え? 右から三番目の本……『日本の名刀30選』のことか?」
 琴音が眉をひそめた。
「右から三番目は、パウラがさっき読んでいた写真集だよ」
 パウリーナが、琴音の後ろからのぞきこみながら、言った。
「これですよ。この本にいろいろな石垣が……」
 葵の指がふらふらと、本に伸びる。小菊は素早くその手をつかんで引きとめた。
「なんにせよ、そいつが従魔ってことだ。みんなちょっと下がってくれ!」
 龍哉の言葉に、みんな本棚から離れた。小菊は葵を連れて店の外に避難した。
 息詰まるような一瞬の後、本棚から従魔が飛び出してきた。
 龍哉は、従魔にハングドマンを打ち込み、一気呵成にノーブルレイで捕縛した。従魔はワイヤーにからめとられて、床の上に落ちた。
「釣りじゃねぇが『フィッシュ!』とでも言うとこかね」
「お見事。ここは狭すぎるから、外に出すぞ」
 海斗はそう言うと、従魔を外に蹴り出した。
 晴明は、刀で外に転がってきた従魔に攻撃し、従魔をブルーシートの上の本から離れた場所へと押しやった。
 従魔は、身体をぶるぶると震わせてワイヤーから抜け出した。本のページがめくれ、旋風が巻き起こる。
 小菊は、我が身を盾にして葵を旋風から守った。晴明は、九本の尻尾でブルーシートの上の本をガードした。
(まさかスカート捲りか!? 気を付けるのじゃカイト、この本変態じゃ!)
「安心しろ、俺はズボンだ。本だから目が見えないのだろう」
 ロアの言葉に、海斗は腕で顔を覆い、風をよけながら言った。
(なるほど、こやつ間抜けじゃな)
「そうだな」
(ハハハ)
「ハハハ」
 ボケとボケが交差する時、物語は混沌と化す。突っ込んでくれる人がいなかったので、ボケは風に吹かれて飛んで行った……。
 琴音は、オーガドライブを使用し、会心の一撃を放ったが決まらなかった。だが、本が巻き起こす風が少し弱まった。
 海斗は気を取り直して従魔に近づくと、破邪旋棍で本の背を攻撃し、従魔を地面に叩き落とした。本がパタリと閉じた。
 従魔は飛び上がると、葵に向かって飛んだ。小菊が、葵をかばって立ちはだかる。
 パウリーナは、縫止を放ち、従魔の動きを止めた。
 晴明は、刀で従魔を攻撃した。
 従魔は今度はパウリーナに向かって体当たりをしかけた。パウリーナは従魔の攻撃を回避すると、ティグリスサーベルで従魔に斬りつけた。
「写真集の続きは見たいけど、洗脳されるのは嫌だからね!」
 琴音は、ヘヴィアタックで従魔を攻撃した。重い斬撃が、本を真っ二つにした。
 バラバラになった従魔は地面に落ちた。そして、その身体が突然赤い炎に包まれた。炎はすぐに消え、従魔がいた場所には何も、灰すらも残っていなかった。
「終わった」
 琴音は呟いて、剣をしまった。
「妹の見舞いに行く時間はありそうだな」
 海斗はほっとして、肩の力を抜いた。

 小菊は、道路にしゃがみ込んでいた葵を助け起こした。
「もう大丈夫。そうだ、一つ言い忘れていたことがある。健太からの伝言なんだが……俺が入院したのは葵のせいじゃないと伝えてほしい、と言われたよ」
 葵の顔が、泣き笑いのような表情になった。
「健太のお見舞いに行ってきます」
 走り去る葵の背中を小菊は見送った。

●そして、古本屋に平和が戻った
 エージェント達は共鳴を解除すると、本の片付けにいそしんだ。
 晴明は、本棚を綺麗に雑巾で拭いたり、本を整理したり、普段店主ができないことをこの際、とばかりにやってあげていた。
「少しでもいい買い手に出会ってほしいからな。綺麗にすることによって気の流れが良くなり、人を呼び寄せる。人は無意識に気の流れを読む生き物だからな。そして、本たちがいい買い手に出会えば、上等」
 本を愛する晴明らしい言葉である。
 龍哉は、本を抱えて店内に運びながら言った。
「俺達が本を外に運び出したんだから、きっちり片付けねぇとな」
 ヴァルトラウテは、龍哉から本を受け取りながら言った。
『そうですわね。従魔は無事に退治できましたが、健太君と葵さんはなぜ従魔に狙われたんでしょうか』
「パウリーナと琴音に対しても、従魔は望みの本に見えたんだ。誰でも狙われる可能性はあったんじゃねぇかな」
『面白い本を読んで現実逃避したいという気持ちは、誰でも持っているものかもしれませんわね。そんな気持ちにつけこむなんて、従魔は恐ろしいですわ。本の片付けが終わったら、健太君と葵さんのところに行って少し話をしてきます。従魔に襲われた心のケアをしたいので』
「わかった。よろしく頼む」
 ようやく本の片付けが終わった。
 きれいになった店内で、晴明と天狼は本の物色中である。
『ハル、あれがほしい 』
 天狼は図鑑を指さして、晴明にねだった。
「はいはい、じゃあ、落とすなよ」
『うむ』
 晴明から渡された図鑑を嬉しそうに抱え込む天狼。
「じゃあ、これとこれ、それからこれにソラが持ってるやつも含めてお会計で」
「この本は傷がついているが……」
「戦闘で傷ついちまったから、買い取りますよ」
「なんていい人なんだ、あんたは!」
 店主の山本は、晴明に抱きつかんばかりの喜びようである。
「この店で、一度にこんなにたくさんの本を買ってもらえるなんて初めてだよ。安くしておくよ」
 晴明と天狼は本を抱えて店を出た。
 通りの封鎖が解かれて、道行く人が戻ってきた。学校帰りの制服姿も、ちらほらと見える。
(みんな、いい本に出会ってくれよ)
 晴明は心の中でそっと呟いた。
『ハル、早く帰って本読もうよ』
 天狼は、本を抱えながら晴明にだいしゅきホールドするという高度な技をやってのけた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • エージェント
    夜月 海斗aa2433
  • 心頭滅却、人生平穏無事
    奈義 小菊aa3350

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    刀神 織姫aa2163
    機械|18才|女性|攻撃



  • エージェント
    夜月 海斗aa2433
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ロアaa2433hero001
    英雄|13才|女性|ブレ
  • 心頭滅却、人生平穏無事
    奈義 小菊aa3350
    人間|13才|女性|命中



  • エージェント
    パウリーナ・ビャウィaa3401
    獣人|14才|女性|攻撃
  • エージェント
    テオバルトaa3401hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
    英雄|8才|?|ドレ
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