本部

ニャンニャンニャンとフーフーフー

gene

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/03/07 19:01

掲示板

オープニング

●2月22日
「2月22日は猫の日よ!」
 猫崎タマ子は九条の研究室に入るなりそう言った。
「部外者は立ち入り禁止だぞ。警備はどうやって通ったんだ?」
「えー? 2月22日はおでんの日じゃないの?」
 九条の注意はフィリップの声にかき消された。
「ニャンニャンニャンで猫の日って、常識よ?」
「フーフーフーでおでんの日って、今朝のテレビでやってたよ」
「お前ら……」
 九条が苛立ったように椅子から立ち上がった。
 怒られると身構えたタマ子とフィリップだったが、その心配は無用のようだ。
 九条は今まさに手を加えていたAGWの試作品であるヘッドホンを手に取った。
「2月22日はヘッドホンの日だろ!!」
 新潟のラジオ番組が制定したというおでんの日もなかなかのマイナーだと思うが、ヘッドホンの日だということを知っているのは業界の人間かマニアくらいのものだろう。
 タマ子は一度フィリップと目を合わせ、それから九条に視線を戻してにこりと笑んだ。
「とにかく、今日は猫とおでんの日だから、ウチ(猫カフェ)でおでんを食べるわよ! 人は多いほうが楽しいし、ぶっちゃけ、誰か料理が得意な人が来てくれると嬉しいわ!」
「ということで」と、タマ子はフィリップの肩を叩いた。
「人を集めるの、任せたわ!」

 タマ子に頼まれたフィリップは、H.O.P.E.のエントランスで能力者や英雄に声をかけることにした。
 そして、偶然に出会った『あなた』達に声をかけた。
「ねぇ、君……猫とおでんは好きかい?」
 

解説

●目標
炬燵で猫とまったり&おでんでほっこりしてください。

●場所と時間
18時より開始
猫カフェ タマらんど

●状況
・猫カフェにはもちろん、猫がおります。やんちゃな三匹を除けば基本大人しい良い子たちばかりです。
・炬燵の中には数匹の猫がおります。足を入れすぎて怒らせないようにご注意ください。
・ぬいぐるみが大好きなニャンコがおりますので、あげるつもりでなければ持ち込まないほうが賢明です。
・猫草が大好きなニャンコがおりますので、あげるつもりでなければ無闇に持ち込まないほうが賢明です。
・料理上手な能力者や英雄は是非タマ子のお手伝いをお願いします。(タマ子は料理下手です)
・おでんはお好きな具材を食べることができますが、タマ子だけが料理した場合、味の保証はできません。(食べれるけど美味しくはない)
・お料理をお手伝いいただける場合には、お好みの地方の味付けで調理していただくことができます。
・あまり一般的でない地方の食材も、フィリップが商店街中を探して手に入れてきてくれます。きっと。
・飲み物はビール、ウーロン茶、オレンジジュースが用意してあります。持ち込み可。(未成年の飲酒は厳禁)

リプレイ


「おでんを食べつつ猫と戯れる……なんて素敵なのかしら!」
 世良 杏奈(aa3447)はりんごジュースを抱えて商店街を歩いていた。
「猫カフェなんて初めて行くけど、可愛い猫がたくさん居るのよね。とっても楽しみ!」
 ルナ(aa3447hero001)は持っている袋の中に猫にあげるおやつがちゃんと入っていることを確認して、口角を上げた。

「あー、眠い……」
 虎鶫 寒鴉(aa3153)はあくびをした。そんな相棒をコンル(aa3153hero001)は呆れたように見る。
「おめさんさっきまで寝てたじゃねぇかよ」
「んー、眠いものは、仕方ない……温まりたい」
「ま、店に着いたらだな」
「炬燵……炬燵入る」
「そうしとけ」
 寒鴉が目的地の猫カフェ タマらんどの前を通り過ぎようとしたのを、コンルが首根っこを捕まえて店に入った。

「なんか……人多くない?」
 店の扉から中を覗き込み、パウリーナ・ビャウィ(aa3401)は気後れする。
「ええと、テオ……」
 人見知りで、どのようにその輪に入っていったらいいのかわからないパウリーナがパートナーのテオバルト(aa3401hero001)に助け舟を求めると、テオバルトはそのパウリーナの手を優しく握った。
「行こうか」

 店内はすでに賑わっていた。
 ソファーや椅子、テーブルのあるカフェスペースを通り、奥にある扉の先に猫たちがいる部屋がある。
 調理場はカフェスペースとは暖簾で区切られている。もちろん、猫たちがいる部屋にはつながっていない。
「おでん、日本国内でも地域によっていろいろあるんだな」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は調理場の入り口付近でスマートフォンを見つめていた。
「関東風以外は馴染みがねぇから料理の手伝いは……」
 自分がどんな手伝いをするべきなのか考えていると、不意に小さな手が腕に巻きついた。
「ガルーは今日はこっち、なのですよ!」
 そう言うと、紫 征四郎(aa0076)はガルーを引っ張って猫たちがいる部屋に入った。
「え」
「今日はネコさんと仲良くなってもらうのです!」

「オリ!」
 名前を呼ぶと、たくさんの猫の中から黒と濃い茶色の美しい猫がパッとオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の方を振り返り、嬉しそうに駆け寄ってきた。
 オリはその勢いのままジャンプして、オリヴィエの肩に乗ると、自分の頭をオリヴィエの横顔に擦り付けた。
「元気、してたか?」
 オリヴィエもオリを優しく撫でる。
 目は見えずとも、オリヴィエの空気が嬉しさに溢れたものに変化したのを感じ、木霊・C・リュカ(aa0068)は微笑む。
「オリヴィエが幸せそうで何よりだよ……」
 自分の足元にももふもふした感触を感じて、リュカはその場にしゃがむと足にすり寄っていた猫を撫でた。
「やぁやぁ久しぶり、相変わらずいい毛並みだね。猫さん方?」

「ひーちゃあん!」
 会津 灯影(aa0273)は猫のぬいぐるみを掲げると、フリフリと振った。
「そのぬいぐるみ、何やら作っているとは思ったが、献上用であったか」
 楓(aa0273hero001)は呆れたような表情を見せる。
 名前を呼ばれて箱の中から少しだけ顔を出した赤茶色の猫は、灯影が猫のぬいぐるみを持っているのを見ると、箱から飛び出してきて、ひしっと灯影の足にしがみついた。
「〜〜〜っひ〜ちゃあぁぁぁん!!」
 あまりの可愛さに灯影がひーちゃんを抱き上げると、ひーちゃんはぬいぐるみにしっかりと抱きついた。
「そのひーちゃんとやら、貴様に似ているな……やや鈍臭いところが」
 ふふっと楓は鼻で笑った。
「ぐ、ど、鈍臭い……そんな事ないだろ! ……多分。……それに、色ならお前っぽいだろ?」
「まぁ」と、灯影は目尻を下げてひーちゃんに視線を戻す。
「ひーちゃんのがかわいいけどなぁ〜」
 腕の中の猫の背に頬を寄せて、灯影はその柔らかい毛並みを堪能した。

「緋十郎、この四角いのは何?」
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は腕組みをして、小首を傾げた。
「それは炬燵。布の中に入ると暖かいんだ」
 狒村 緋十郎(aa3678)が説明する。
 部屋には大きめの炬燵が三つ横並びに並んでいた。
 レミアは早速炬燵に足を入れ、途端、「痛っ!」と叫んだ。
「なんかいたわよ! 鋭いもので刺されたわ!!」
「あ〜……猫だな」
 炬燵の中には眠気を妨げられて苛立っている猫がいた。おそらく、この猫がレミアの足に爪を立てたのだろう。
「猫がいる場所を避けて、足を入れるしかないな」
「なんで、私が避けなきゃいけないのよ? 猫が私の足を避けたらいいのよ!」
 尊大な態度で炬燵に足を入れ、レミアは再び叫んだ。
「ぃっっった〜〜〜い!!」


「おでん作りを手伝ってくれる人は集合〜!」
 タマ子の声に杏奈、コンル、月影 せいら(aa2046)、土御門 晴明(aa3499)が集まった。そして、最後に、灯影がひーちゃんとひと時の別れを惜しみながら集合する。
 調理場に行くと、猫カフェという店の目的とサイズに見合わない予想よりもはるかに広い調理場があった。三口のコンロと卓上コンロが三つ用意されていた。
「ここにあるものは自由に使ってちょうだい」
 調理台には大根、こんにゃく、がんも、さつま揚げ等々、おでんの具材や昆布や鰹節等が用意されていた。
「まずは出汁をとるか」
 晴明は着物の裾をたすきでたくし上げる。
「うちは昆布と鰹出汁で結構一般的な感じだけど、みんなはどうかな? これだけコンロも鍋も揃ってるから、それぞれが調理してもよさそうだけど……」
 灯影の言葉にせいらが「そうですわね」と頷く。
「食べてくださる方もたくさんいますしね。わたくしは関西風のおでんを作ろうと思いますわ」
 せいらに続き、晴明が言った。
「俺も西向けだが、麦味噌を用意しようと思っていた」
「拙者は鰹出汁系の優しい味付けにしようかと考えていた」
 コンルが言う。
「味付けは皆さんにお任せして、私は串に刺さったおでんを作ってみたいんですけど、タマ子さん、ナルトってありますか?」
 杏奈がタマ子の姿を探すと、タマ子は土鍋に『おでんの素』とコンソメと椎茸の粉末(大量)を入れようとしているところだった。
「ちょ、なにしてんの!?」
「タマ子様!?」
「やめろ! バカ!」
「早まるな!」
「待ってください!!」
 エージェントたちはタマ子を羽交い締めにし、愚行を止めた。

「……危なかった」
 晴明は額の冷や汗を手の甲で拭う。
 とりあえず、タマ子を調理場から追い出すことによってその場は平穏を取り戻した。
「恐ろしい人ですわ……」
「何を作ろうとしていたんだろう……」
 灯影はタマ子から取り上げたコンソメと椎茸の粉末を見た。
「……気をとりなおして、おでん作りを進めましょうか」
 杏奈の言葉に気を取り直して、料理上手な彼らはテキパキと動き始めた。
 出汁をとっている間、彼らは具材の下準備を始める。
 せいらはたまねぎの皮をむき、それが終わると餅巾着の準備をした。『あたり』として、ひとつだけチーズを入れる。
「まぁ、可愛いですわ!」
 灯影が丁寧に切っている大根を見て、せいらは微笑んだ。
「猫型とは考えたな」
 牛すじの準備をしながらコンルも感心する。
「私もやりたいです!」
 ナルト、大根、こんにゃくを串に刺して串おでんを作っていた杏奈の言葉に、「じゃぁ、花型にお願いしてもいいですか?」と、灯影は切り方を教えた。
 出汁の中に具材を入れ、煮込みの工程に入ると、晴明は麦味噌、灯影は味噌ダレと柚子胡椒を作る。
「大根にも火が通ったみたいですね。一旦冷ましましょう」
 調理台に新聞紙を広げ、その上に土鍋を置いたせいらは土鍋を新聞紙で包んだ。時間をかけて冷ますことによって味が染み込むのだ。
「おでんは味が染み込んでこそですわ!」


 猫たちがいる部屋では、ガルーがなかなか猫を撫でることができない征四郎の様子を観察していた。
「お前さんは猫が好きな割に猫に好かれないよな……」
「よ、余計なお世話なのです!」
「もう少し猫に寄った方がいいんじゃねぇの? にゃんにゃん」
 ガルーは征四郎の耳に、以前タマ子からもらった猫耳カチューシャをつけた。
「が、がんばってみますにゃん……!」
 炬燵でオリヴィエと一緒に猫を撫でていたリュカが「ガルーちゃん」と呼んだ。
「せーちゃんとオリヴィエが猫たちと戯れる可愛い姿をたくさん激写しておいてにゃん! 後でアルバムに挟むにゃん!!」
「あー、はいはい。ただ、いい歳した男ににゃんと言われても全然可愛くねーぞ」
「そんなことあるわけにゃいにゃん!!」
「そうだにゃん!」と、征四郎も加勢する。
「……」
 とりあえず、ガルーはにゃんにゃん言う二人の動画を撮った。
「これさえあれば、あなた達なんて恐れるに足らず、だよ!」
 兎の耳と尻尾を持つパウリーナは子供の頃に猫に追いかけられたこともあり、かなり警戒しながら猫たちのいる部屋に入ったが、意を決して猫じゃらしを取り出すと、それをシャキーンっと構えた。
 猫たちは猫じゃらしにその大きな瞳を輝かせて飛びついた。
「……平和だな」
 テオバルトはパウリーナと猫たちの微笑ましい様子に優しい眼差しを向けながらも、パウリーナの白く長い耳に興味を持つ猫達を牽制するのも忘れない。
「なかなか油断のならない猫たちもいるみたいだな……」
 テオバルトが小声でそう零すと、パウリーナが「え?」と振り返った。
 次の瞬間、猫じゃらしを猫に奪われる。
「あ〜〜〜! 唯一の武器が〜!」
 叫ぶパウリーナにテオバルトは思わず笑う。
「君は、本当に手間がかかるね……」
 言葉とは裏腹に、テオバルトは嬉しそうだ。
「よ、寄るんじゃねーぞ……」
 そうその場の全ての猫を牽制しているのは猫嫌いのGUREN(aa2046hero001)である。
 パートナーのせいらから猫除けにと持たされたどうぶつパペットを手にはめて必死に応戦しているが、猫は遠ざかるどころか、どんどん寄ってきている気がしていた。
「どうなってるんだ? お嬢〜〜〜!」
 残念ながら、強い味方(?)のせいらはまだ調理中である。
「猫いっぱい! 可愛い♪」
 ルナはしばらく持参した猫じゃらしで猫たちと遊んでいたが、ふとした興味から炬燵布団の裾を持ち上げて中を覗いた。
「わあ、可愛い!!」
 炬燵の中で眠っている数匹の猫の姿に自然と頬が緩む。しかし、それはすぐに疑問を持つ表情に変わった。
「……丸くなってないわ」
 丸くなるどころか、炬燵の中の猫たちはゆったりと体を伸ばして寝ている。
「猫は炬燵で丸くなるんじゃないの?」
 炬燵に入ってすっかりくつろいでいる霙(aa3139)にそう話しかけると、自身も猫科の霙が説明してくれた。
「体を丸くする理由は、腹冷えと敵襲の二つの危険に備えてです……炬燵の中では腹冷えはまず心配ないですし……人が来ることに慣れているここの猫ちゃんたちは敵襲の心配もしていないんでしょうね……」
 ちなみに、『猫は炬燵で丸くなる』の歌詞が有名なかの童謡ができた時代、炬燵は炭などの火種の上に櫓をかけ、布団をかけていたため、猫は炬燵の中に入るのではなく、炬燵にかけた布団の横で体を丸くしていたようである。
 現在では猫は炬燵の真ん中に寝そべり、人の足を噛み、時に枕にする……さらには、猫用の炬燵まであるが、昔の猫にとって炬燵とはささやかな贅沢だったのである。
「なるほどね〜」
 納得しながらルナはカリカリを手のひらに乗せて猫たちにあげた。
「霙も、猫たちにおやつあげる?」
 ルナのカリカリを見て、「あぁ、そういえば」と、霙は両手を合わせた。
「ぬいぐるみを持ってまいりました」
 持ってきていたぬいぐるみを取り出して猫たちに振ってみせた。
「私も持ってきたぞ」と、近くにいた天狼(aa3499hero001)も猫やネズミのぬいぐるみを取り出した。
 新しいぬいぐるみたちに、ぬいぐるみ好きの猫のひーちゃんが軽い足取りで近寄ってきた。本日、ぬいぐるみ、大漁である。


「これも持ってきたぞ」
 天狼がそう言って袋から取り出したのは猫草だった。
 次の瞬間、「オリっ!?」というオリヴィエの叫び声が聞こえた。
 猫草が大好きなオリは天狼の持つ猫草にかぶりつき、数本の猫草を引きちぎってくしゃくしゃと噛んだ。
「うちのオリがすまない」
 オリヴィエは天狼に頭を下げた。
「うちの?」と天狼が首をかしげると、「あ、いや……」とオリヴィエは言葉に困る。
「……ここにはよく来ていて……オリとは一番仲がいいものだから、つい……」
「よく来ているのか? それならフィリップとかいうやつが言っていたやんちゃな猫というのを教えて欲しいのだ!」
「やんちゃな猫は、ブッチー、虎之助、グゥのことだな」
 オリヴィエはすぐに三匹を見つけた。
「楓の尻尾で遊んでいるあの三匹だ」
 やんちゃ三匹組は楓の振る尻尾に飛びついて遊んでいた。
「あれか! 私も遊んでやるぞ!」
 パタパタと尻尾を振り、天狼は三匹の元へ向かった。
「……」
 墨色(aa3139hero001)は炬燵に入りゴロゴロとしながら、駆けていく天狼の尻尾を見つめていた。
 あの尻尾にじゃれつきたいというささやかな欲望を抱えながら、しかし、やんちゃな三匹が天狼の尻尾に飛びつくのを見ると、とても競争に勝てそうにないと、他の尻尾に目をやる。
「……」
 楓のよく手入れされた尻尾が目に入ったが、どうにも気高そうなその雰囲気に気圧されて、手を伸ばす気は起きない。
「……」
 次に、近くでごろりと横になっている寒鴉の尻尾を見る。炬燵布団から出ている二本の尻尾の先は気持ち良さを表すようにパタリパタリと動いていた。寒鴉自身、おっとりとした様子だ。
「……」
 思い切って、ちょいちょいと尻尾を突っつくと、寒鴉の尻尾の動きが少し大きくなる。しかし、寒鴉自身が気にする様子は特にない。
 墨色はベシベシと寒鴉の尻尾にじゃれて遊びだした。
 墨色が遊びだしたことに気づいた寒鴉だったが、特に気にすることなく、炬燵に寄ってきた猫を捕まえて少し撫でてやると「一緒、寝よ」と目を閉じた。

「なかなかうまくいかないのですにゃん……」
 猫語を使ってみてはいるが、なかなか猫は寄ってきてくれない。
 ちらりとオリヴィエを見やれば、猫草を堪能したオリが安心しきった顔でオリヴィエの膝の上で寝ていた。他にも最近来たばかりの子猫がオリヴィエに甘えながら遊んでいる。
「あんなに仲良くなるには、にゃにか秘密があるはずなのですにゃん……」
 オリヴィエとオリをよく観察し、征四郎はその場にちょこんっと座ってみた。
「どうした?」
「オリヴィエみたいにクールに構えてみるのですにゃん!」
「クール……か?」
 ガルーから見れば、オリヴィエの頬は緩みっぱなしである。
「クールなオリちゃん……」
 ニマニマしながらガルーがカメラを構えて近づいてきたことに気づき、オリヴィエは天狼の尻尾にじゃれて遊んでいる三匹を呼んだ。
「ブッチー! 虎之助! グゥ! おもちゃが来たぞ」
 三匹はオリヴィエの視線だけでターゲットを正確に理解し、助走からの飛び蹴り、回し蹴り、最後に乱れ引っ掻きを見事に決めた。
 誇らしげに自分の元へ寄ってきた三匹を撫で、オリヴィエは褒める。
「さすがだ。すごいな。あとで美味しいおでんを一緒に食べような」
 突然の連携攻撃に驚き、ガルーは呆然とオリヴィエを見つめる。
「……何、今の……」
「明確な上下関係とアメ(褒めること)なのですにゃん!」
 素直に感心している征四郎に、「いや」とオリヴィエは訂正する。
「猫は犬と違って上下関係はない。俺とオリも、あいつらも対等だ」
 守るべき時は守る。頼れるところは頼る。
「俺と征四郎の関係と同じだ」
「……なるほどなのです……にゃん」
「ねぇ、ガルーちゃん」と、リュカがガルーの袖を引っ張る。
「さっきの猫たちの攻撃、ちゃんと動画に収めてくれた?」
「……悪い。無理だったわ……何せ、ターゲットが俺だから」
 しかし、偶然にも、カメラを連写していたため、オリヴィエのひやりとした眼差しと、突っ込んでくる猫たちの姿はバッチリ撮れていた。
 征四郎はオリヴィエが教えてくれた通り、猫と対等であることを意識し、猫が来たいと思った時に来てくれればいいと思うようにした。
 すると、自然と子猫や他の猫が征四郎に寄ってきた。子猫は、征四郎の膝の上に乗ると、丸くなった。
 征四郎の表情がパアッと明るくなる。
「ちゃんと仲良くなれましたよ!」
「へぇ、よかったな……」
 ガルーが征四郎の頭を撫でると、征四郎は自分の横で寝始めた黒猫を抱き上げてガルーの膝の上に乗せた。
「おいっ……乗せるなって!」
「大丈夫ですってば。ほらほら可愛いですにゃん……!」
 黒猫はちらりとガルーを見上げたが、そのままそこで寝ることにしたようだ。
「楽しそうだね〜」と、灯影が調理場から戻ってきた。 
「ヒカゲ! もうお料理はいいのですかにゃん?」
「あとは温め直すだけだよ。つまみもいくつか作ったし」
「楽しみなのです! にゃん!」
「ところで」と、征四郎は今回楽しみにしていたもうひとつを灯影にお願いした。
「タンバリンのあれ、またやってほしーのですにゃん!」
 灯影が返事をする前に、タマ子が「あれをやるなら、これを着なさい!」と、キャットスーツを灯影に渡した。
「え……マジで、これ着るの?」
 ひーちゃんの色によく似たキャットスーツは、お尻の部分に猫の尻尾がついている。
「いやいやいや、ひーちゃん色に染められたいところだけど、これはちょっと……恥ずかしすぎる!!」
 灯影の悲鳴に、楓がキャットスーツを覗き込む。
「何を騒いでいる? その衣装、貴様にはもったいなさすぎるな。我が着て、優雅に舞ってみせようぞ!」
「ありがたい申し出だけど、それはそれでなんか恥ずかしいからやめて!」
 そこに救いの声が響いた。
「おでん、できましたわ!」
 せいらの言葉に、灯影は「助かった!」と胸を撫で下ろした


「酒だ! 酒の準備だ! 寒い冬に炬燵におでんで呑むビール……くううッ! 心と体に染み渡る……日本の冬に、乾杯!」
 まだ飲んでもいないのに、緋十郎のテンションは高い。
「オデン……? かのワルキュリア達を統べる、神の槍を持つ北欧の主神の名を冠するなんて、さぞや絢爛たる料理なんでしょうね」
「残念ながら、想像しているものとは全然違うからな」
「え、違うの?」と、レミアはその瞳を丸くした。
「おい。出来たぞー……って、見事なだらけっぷりだなぁ」
 炬燵にすっぽりと収まり、右に猫、左になぜか墨色を抱えて寝ている寒鴉を土鍋を持った状態でコンルは見下ろした。
「温かい……」
「ヨカッタナー」
 土鍋を炬燵の上に移動した卓上コンロの上に置き、コンルは火をつけた。
「征四郎、箸持ってきてくれ!」
 お皿を運ぶオリヴィエの後に続き、コップを運んできたガルーが征四郎に声をかける。
「はーい!」
 返事をした征四郎にテオバルトが言った。
「お箸なら持ってきたよ」
 自分の後ろに隠れていたパウリーナを指差した。
「パウラ、一緒に配ってもらったら?」
「いいのかな……」と、征四郎にちらりと視線を寄越したパウリーナに、征四郎は笑顔を向けた。
「もちろんなのです!」

 お皿とコップ、それから箸が行き渡ったのを確認すると、タマ子が言った。
「乾杯をしましょう! みんな、飲み物の準備はいい?」
 タマ子の声に、それぞれ返事を返す。
 炬燵に隙間なく座って、やっとみんなが座れるような状態だ。
「ちょっと待ってくれ」
 晴明は天狼のコップにミルクコーヒーを注いだ。
 みんなに飲み物を注いで回っていた杏奈は、最後にルナにりんごジュースを注いでもらい、タマ子に返事を返した。
「いいわよ」
「それじゃ、猫の変わらぬ愛らしさと、美味なるおでんにカンパーイ!」
 カンパーイ! の大合唱がその場に響いた。

「よし! 飲むぞ! 初めは熱燗で飲むか」
「灯影」と、楓が灯影に目をやると、灯影は炬燵から抜け出して猫たちをモフッていた。
 ほとんど調理場にいたため、猫成分が足りていないのであろう。ただいま充電中である。
「にゃに?」と聞き返したその頬は緩みっぱなしだ。
「いや、たまには我自らしよう」
「えっ!? 楓が自分でするとか明日は雨かな……?」
「貴様は猫に埋もれてろ」
「では、お言葉に甘えてー!」
 灯影は幾つかのぬいぐるみが折り重なっているところにひーちゃんが埋もれているのを見つけ、その表情をますますだらしないものにした。
「わあ! 猫型の大根があるのです!! 可愛いのです!!」
 征四郎がお皿に取り分けた大根を見て、オリヴィエも「……可愛い」と頷いた。
「えっ本当!? 写真!! ガルーちゃん、写真!!」
 ガルーは楓と一緒に熱燗の用意に行っていたので、代わりにオリヴィエが写真を撮った。
 晴明は自分の足の上に天狼を乗せておでんを食べさせながら、緋十郎に焼酎を掲げて見せた。
「焼酎持ってきたぞ」
「俺は日本酒とレミアの好きな赤ワインを持ってきました!」
 緋十郎は日本酒と赤ワインを炬燵の上に置く。
「がんもとじゃこ天も食べたい!」
 大根、卵、厚揚げをあっという間に食べ終わり、天狼が言った。
「ああ。たくさん食べろ」と、晴明はがんもとじゃこ天を天狼のお皿に入れる。
「緋十郎! 給仕が遅いわ!」
 レミアが頬を膨らませる。
「悪い悪い。天狼と同じものでいいか?」
「一番美味しいものを選んでちょうだい!」
 エージェント達のテンションが上がるのに合わせて、猫達もソワソワと落ち着きがなくなっていく。
 しかし、そんな中でも変わらずにまったりペースなのは霙と墨色だ。
「えーとそちらのはんぺんと……ちくわぶをいただけますでしょうか?」
「……あと、さつま揚げ……」と、墨色。
 おでんをコンルに取ってもらうと、すぐに食べることはせずに、お皿を目の前に置いて、二人ともしばらく待った。
「すみません。猫舌なので……」
 墨色はふーふーっと息をかける。
「二人とも猫舌か……」
「自分も猫舌」
 寒鴉がコンルに言う。
「わかってるよ。調理場にあるやつのほうが大分冷めてるだろうから、皿に入れてきてやるよ……二人の分もな」
 調理場にはおかわり用のおでんが用意されていた。
「糸こん、糸こん食べる」
「牛スジと糸こん、多めな」
 なんだかんだと言いながらも、コンルは寒鴉を甘やかす。
「炬燵、最高……」と、寒鴉は再び炬燵に潜っていく。
「……こんな奴だが、宜しくしてやってくれな」
 寒鴉に呆れながらコンルは霙たちにそう言ったが、「こちらこそ……」と言いながら、霙と墨色も再び炬燵に潜っていた。
「……おめさんたち、意外に気が合ってんだな」
 コンルは冷めたおでんを取りに行くために立ち上がった。
「ちょっ、それ俺の!」
 お皿に顔を入れようとする猫から、慌ててGURENはお皿を……その中の玉ねぎを守った。
「……たく、ゆっくり酒も飲めねぇ……って、それビールだし!」
 今度はビールに顔を突っ込もうとする猫からグラスを取り上げ、GURENはできるだけ猫を遠ざけようとぬいぐるみを遠くに投げてみた。
 しかし、猫はそのぬいぐるみを引きずって、またGURENの元へ戻ってくる。
「いやいや、お前は犬か!」と、ツッコミを入れている隙に、他の猫が鍋に近づいたのを反射的にかばう。
「馬鹿っ!」と叫び、猫を持ち上げると、猫のふにゃりとした感触に寒気が走る。
「……うぎゃぉぅっっっ!!!」
 思わず猫を遠くへ放り投げたが、猫はシュタッと見事に着地した。そして、それを遊びと勘違いしたのか、再びGURENの元へ寄ってくる。
「GUREN、頑張って下さい! ……はぁ、この肉球たまりませんわ……」
 せいらは眠っている猫の肉球をモミモミしながら軽い調子でエールを送った。
「コンビニのとは結構違うんだね……」
 パウリーナはおでんの汁を一口飲み、その美味しさに口元を緩ませた。
「人参は入ってないのかな?」
「それはポトフだろう……いや、入れる地域もあるのかな?」
「ご家庭によっては人参を入れるようですが、おでんに人参を入れるのは地域性ではないみたいですよ」
 テオバルドの疑問に、近くに座っていたせいらがそう教えてくれた。
「我はやはり餅巾着好きだな。つくねも柚子胡椒で食べると美味いぞ」
「あとはつまみのだし巻き……」と、楓が炬燵の上を見回すと、ちゃんとだし巻き卵も用意されていた。
「やはり主はよくわかっている」
 そうウンウンと満足そうに頷きながら、気を良くした楓はぐびりと酒をあおった。
「リュカ、これ美味しいのです! たまねぎ!」
「たまねぎ!? 珍しいね! お兄さんにも取って! 取って! 大根も欲しいな〜」
 征四郎がたまねぎと大根を取ってくれる。
「これも食え」
 オリヴィエが卵と糸こんをリュカのお皿に入れた。
「この串おでんどうですか? なかなか上手くできたと思うんですけど……」
 杏奈が征四郎に串おでんを進める。
「こんにゃくにもしっかりと味が染みてるのです! 可愛くて、美味しいおでんをありがとうなのです!」
「喜んでもらえてよかったー!」
 嬉しそうな杏奈の横でルナも満足そうだ。
「やっぱり、おでんは美味しいわね! 変わったものも入ってて楽しいわ!」
 征四郎と杏奈、ルナが話しをしている後ろで、ガルーがツンツンっとリュカを突いた。
「リュカ、これ飲むか?」
「飲む飲む。って何、それ?」
 ガルーは声を少し小さくして言った。
「聞いて驚け! 噂の九龍仲謀だ!」
「え!? あの本家仲謀よりも美味しいって噂の?」
「本家のも持ってきたから、飲み比べしようぜ〜」
「ガルー! 我も飲むぞ! 飲み比べ! 実に良い!!」
「さすが狐。地獄耳だな」
 ショップに売っていたとはいえ、密造酒である。何とは無しに悪いことをしているようなドキドキとワクワク感もあり、小声になっていたのだが……。
「ふふふっ。我抜きに味わえると思うなよ?」
「それ、俺ももらっていいか?」
「俺も飲むぞ」
 緋十郎と晴明も寄ってきた。酒好きは美味しい酒に自然と引き寄せられるのだろうか。
 酒好きではない灯影は少し離れたところから、まるで何かの談合でもしているように円陣を組んでお酒を飲み始めた男たちを不思議そうに眺めた。
「何やってんだ……?」
 不思議に思いながらも餅巾着を一口食べ、「ん!?」と灯影は喜びの声をあげた。
「チーズだぁ〜」
「あら、灯影さんがあたりましたか? おめでとうございます」
 せいらが小さく拍手をし、讃えてくれる。
「ふーふー……」
 オリヴィエがちくわに息を吹きかけて冷ましている。
「オリヴィエ、猫舌でしたか?」
「いや、味付けも割と薄めだし、猫たちに少しあげようと思って……約束もしたしな」
「それなら、征四郎も手伝うのです」
 二人は猫たちのためにちくわを冷まし、小さくちぎる作業に入った。
 作業をしている間に猫たちは二人の間に集まり、おとなしく待っていた。


「ビール五杯からの焼酎二合、日本酒飲みつつチェイサー代わりにビール……ああ、おでんも旨いし、何杯でも飲めるぞ。幸せだ〜! 来てよかった!」
 緋十郎は獣人本来の姿である大猿のような姿に戻り、ビールをまたぐいっと飲んだ。
 レミアは緋十郎の隣で、空のワイングラスを握りしめて眠っている。
「ぷはー! 〆のジュースが沁みるのです……!」
 征四郎は最後のオレンジジュースを飲み干し、まるでお酒でも飲んだように少しばかりうっとりとした。
「また(雰囲気に)酔ってやがる!! ほら、片付けるぞ」
「はーい!」
 酔ってしまったり、眠ったりしていないエージェントたちは食器などの片付けを終え、帰り支度を始めていた。
「ソラ、帰るぞ」
 晴明は自分の尻尾に包まれて眠っている天狼に声をかけたが、全く起きる気配がない。
「墨色、家の炬燵まで頑張って帰りましょう」
「ん……」と頷いた墨色は寝ぼけているのか、猫を一匹、しっかりと抱えたままだ。
「毎年二月二十二日は幸せですわね」
 丸くなって眠る猫たちに優しい眼差しを向けて微笑むせいらの横で、GURENはぐったりしていた。
「……死合わせ……だ」
 炬燵から出たがらない寒鴉をなんとか立たせ、コンルは寒鴉を出口まで引きずっていく。
「炬燵、導入」
「おめさんがこれ以上だらけたら拙僧が面倒だから却下だ」
「コンルのーイジワルー」
「よく言うなぁ」
 コンルはにこりと笑い、両の手をぎゅっと握って拳を作ると、寒鴉のこめかみをグリグリと攻撃した。
「いででででで」
 征四郎にマフラーを付けてやりながら、ガルーは言った。
「猫飼う話だけど……」
「考えてくれるのですか!?」
「うちの裏庭、結構毒草とかも生えてるからな……」
「あっ」
 征四郎の横で、オリヴィエにマフラーを巻かれているリュカも言う。
「うちも古本屋だからなぁ……」
 オリヴィエは足元でちょこんと座っているオリに視線を合わせて、その頭をそっと撫でた。
「……オリ、また来るからな」
 別れはいつも寂しいけれど……オリはよくわかっていた。オリヴィエが割とすぐに遊びに来てくれることを。
「タマ子さん、次の開催はいつですか……!」
 灯影の質問に、「そうね〜」とタマ子は考えるそぶりを見せる。
「……とりあえず、これ着て踊ってくれたら考えようかしら〜」
 タマ子はキャットスーツを広げ、ひらひらと揺らしてみせた。
「あ、もちろん、写真を撮って、ブログに載せさせてもらうわ!」
「っ!?」
 頭の中によぎった地獄絵図に灯影は血の気が引く。
「貴様、完全に遊ばれているぞ」
 楓のツッコミは、今の灯影には聞こえていない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046
    人間|16才|女性|攻撃
  • 紅蓮の矢
    GURENaa2046hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
  • Foreseeing
    aa3139
    獣人|20才|女性|防御
  • Gate Keeper
    墨色aa3139hero001
    英雄|11才|?|シャド
  • エージェント
    虎鶫 寒鴉aa3153
    獣人|26才|男性|防御
  • エージェント
    コンルaa3153hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • エージェント
    パウリーナ・ビャウィaa3401
    獣人|14才|女性|攻撃
  • エージェント
    テオバルトaa3401hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    天狼aa3499hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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