本部

幼気の至り

玲瓏

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/09/30 00:50

掲示板

オープニング

●夏園

 田んぼに植えられた苗を見つめながら藁で出来た帽子を被った少女は雨上がりの土を踏んだ。この肌触りが都会から離れた少女の幻想を満たす。
「ちゃんと大きくなるんだよ」
 都会にない珍しい物全てが彼女の性格を潤している。山の向こう側に見える夕日も、静けさも、草木の香りも。都会とは違って、ここでは孤独が許される。だがもう、安息の日々も今日までだ。明後日からは夏休みも終わる。
「愛(あい)、田んぼへの挨拶は終わったかい」
 名前を呼ばれた彼女は立ち上がり、暗い道に立つ六十代の人物を見つめた。彼は愛のお爺さん。この田んぼの主で、背が大きい。彼はしゃがんでみせた。愛と同じ目線で田んぼを見つめた。
「明日からは寂しくなるなあ。朝すぐに帰ってしまうんだろう」
 愛は帰った後の事を考えた。待っているのは孤独を許されない世界、仲間からの嫌がらせだ。早とちりな憂鬱は、夕日の陰の中で見えなくなっていた。
「帰りたくないな、お爺ちゃん」
 お爺ちゃん、彼は立ち上がりながらその言葉を受け止めた。愛は彼の手を取って、無口のまましばらくその場に一緒に立ち尽くしていた。
 帰りたくない、帰りたくない。帰る時、新幹線が止まってしまえばいのに。
 
 ――その夜、愛の思いは英雄を呼んだ。

●断てない道

 ちょうど、次の駅が那須塩原とアナウンスが入って数分経った頃だ。帰省人の多い休日の新幹線は朝であろうがお構いなしに混んでいた。特に家族連れが多く、子供の、スナック菓子の入った袋の中に手を入れて中を漁る音、騒ぐ子供をしつける親の声が珍しくない。
「あれ」
 客席から、あれあれ、と声があがり始めたのは新幹線が停車の体制に入ろうとしていたからだ。駅ではない。素人の誰もが、子供ですら分かる程の異常事態が起きているに違いない。
「お知らせします」
 アナウンスの声だ。
「現在、線路上に不審な物をみつけましたので一時停車いたします。お急ぎの所――」
 人の恐怖心を留めるような口調ではあったが、車内は騒々しくなった。
 新幹線が完全に止まると、中央の一直線の道を女性の乗務員が歩いてきた。
「この中にリンカーの方はいらっしゃいませんか!」
 女性は焦りを帯びた口調で、早口に何度も繰り返した。
 車内から手が挙がる中、その様子を愉快そうに見る少女の姿があった。

解説

●目標

 線路上の物を退かして、新幹線を運行させてください。

●少女

 少女は水染(みなぞめ)愛(あい)という名前の、7歳の女の子です。今回の黒幕となります。
 学校は夏休みで、家族と一緒に田舎のお爺ちゃんの所に行っていました。しかし、もう帰らなくてはならないという状況に嫌気を覚えます。都会に戻っても友達はいませんし、家に戻ると家族も彼女に対して厳しくなります。(田舎に住んでいる時は優しくしていますが……)
 唯一彼女に優しくするお爺ちゃんがいるからこそ、離れたくなかったのでしょう。
 
●少女と誓約を結んだ英雄
 
 偶然愛を見つけた英雄で、帰省の前夜に二人は出会いました。英雄は少女が悲しむ様子を見て同情し、事情を聞きます。家に帰りたくない、という悲しみの理由を聞いた英雄は、少女に力を貸そうと申し出ます。愛は二つ返事で英雄とリンクする事を決めました。その時、愛は英雄と「友達になって、お互いに絶対に裏切らない」という誓約を固く結びました。
 アン・マリーネという名前で、『物を使役させる能力』を少女に与えました。物語には登場しません。

●状況

 愛の能力の影響で、線路上に様々な物が置かれました。人間の大きさをした丸太のような物や、小さい石が集まって人型になった物。他にも小さな鉄くずやゴミ等が集まってます。
 それらを退けようとすると、使役されているように、その物が襲いかかってきます。なので乗務員はリンカーを探したのでしょう。
 戦闘の邪魔となる物は特になく、新幹線に攻撃を当てなければ問題なさそうで、周囲に家もありません。
 
 最後、全ての物を退かし終えた後少女が線路上に飛び出してきます。

リプレイ

●新幹線は走る

「まもなく那須塩原」
 帰省ラッシュ、という言葉はこの時期は突飛して流行語になるが、この新幹線は混雑とまで言えない。家族が多く、窓側の席を取った子供達が窓から見える景色に眼と心を奪われている。
「綺麗……」
 セラフィナ(aa0032hero001)は次々と変わっていく景色を前に興味が薄れる事はなかった。ふわりとした白い癖っ毛を窓に当てながらも、気にしていない。
「窓に顔近づけ過ぎるなよ」
 真壁 久朗(aa0032)は兄が弟に注意するように言った。セラフィナは「分かりました」と言葉を返しているが、心ここにあらずだ。
 疲れたのか、セラフィナは背伸びをして首を左右に動かし体を調整した。
「これ、なんでしょうか」
 セラフィナは座席に付属するペダルを発見した。真壁はペダルを踏みそうになったセラフィナを止めようとした。
 次の瞬間、視界が回転した。
「あら」
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と志賀谷 京子(aa0150)は対面に座るセラフィナ達と目が合った。
「どうかしましたか?」
「すまない、こいつが勝手に押してな。セラフィナ、大人しくしてるんだ」
 目に見えて焦燥していた真壁に、志賀谷は愉快な様子で返した。
「いえいえ。元気なんですね」
元に戻すように言われたセラフィナはペダルと顔を合わせていたが、やがて座席が回転し始めて元に戻った。
「アリッサ」
 警戒を解いたアリッサは、志賀谷の方に振り向く。
「はい、なんでしょうか」
「確かに背の高い方の男性はいかにも悪の帝王みたいな顔をしていたけど、そんな敵意丸出しじゃだめじゃない」
 アリッサは一言も話さず、目つきの悪い真壁を凝視していたのだった。
「万が一の時に備えてただけです」
「アリッサって怖がりなのね?」
「別に怖気づいていた訳では――」
 アリッサは志賀谷の面白がる表情はからかっているのだと勘付いた。
 志賀谷が次にからかう言葉を見つける前に、駅についてもないのに新幹線が減速していく事に早くも彼女は気づいた。
 何か起きたのだろうか?
「まだ許してないんだからな」
 古川瑛理奈(aa0042)は少し前、英雄のエミール・エネクス(aa0042hero001)にされた意地悪を思い出していた。
 エミールは楽しい顔を隠さずこう言うのだ。
「怒った顔も素敵ですよ、エリー」
 エミールは古川の事をエリーと呼んでいる。
 古川はヤキモキしながら、袋の中から駅弁を取り出し始めた。
「おや」
 エミールは周囲の動きに神経を巡らせた。
 座席に座る人々から自然に次々声が上がり始める。その声はどれも不審感に満ちている。
 弁当を開けたばかりの古川も、周りを見渡して最大限の注意を払った。
 すると、遠くの方から精一杯の声量でリンカーを呼ぶ声が聞こえた。
「この中にリンカーの方はいらっしゃいませんか!」
「ほらエリー、呼ばれていますよ」
 名残惜しいように弁当を見つめる古川に向かってエミールは声をかける。
「駅弁、開けたばかりなのに……」
 別の車両では乗客へ向けて乗務員から説明が行われている。その中で立ち上がった女性は炎樹(aa0759)だ。
「ふぅ。まさか、旅行の最後の最後で問題が発生するとは思わなかったわ」 
 炎樹に続いて、氷樹(aa0759hero001)が目を擦りながら立ち上がった。
「ん~~……寝てくつもりだったから、まだちょっと眠いんだよ」 
 くあ。開いた口からあくびが漏れる。
「さてと、行くわよ氷樹。迷惑をかけてくれた奴らを後悔させてやるわ」
 二人が乗務員の所まで行こうとした時、後方から二人組の男女が歩いてくる所が見えた。
「貴方達もリンカーかしら?」
 炎樹は二人組に向かってやや強気に尋ねた。
「あ、ちわっす」
 炎樹は面食らった。目の前にいる女性は夢の中から現れてきたかのように儚げで上品な身なり、表情をしていながら、その全てに似つかわしくない言葉遣いで応答してきたからだ。
「何か問題が起きたんだろ? シュビ君の眼鏡で遊ぶのも飽きたってことで手伝おうとなー」
 咲山 沙和(aa0196)の後ろにいるシュビレイ・ノイナー(aa0196hero001)は眼鏡についた指紋を拭きとっている。
「人が多いと心強いわね。それなら一緒に行くわよ」
 運転士は集まったリンカーの面々を見ながら指を全て使って人数を数えていた。
 間違いのないよう数え直したところで幼い子供が二人扉から外に出てきた。迷子の子供かと、運転士はしゃがんで新幹線の中に戻るように促す。
「あの、わ、わたしリンカーですっ」
 北里芽衣(aa1416)、そして夢喰らいのアリス(aa1416hero001)の登場だ。

●お片づけ
 
 これ以上リンカーがいない事が乗務員から伝えられると、運転士は状況説明を始めた。
「線路に多くの物が散らばっているのがお分かりになるかと思います」
 線路上には運転士のいう通り、ゴミ収集場の一部からゴミがそのまま移動されてきたようだった。
「清掃員がモノを退かそうと近づいたら、生きているかのように攻撃してきたということです」
「厄介だな」
 古川は散乱した物を一瞥した。
「つーことは、この線路を掃除するのがあたしらの仕事ってこと?」
「へぇ、なんだか面白そう。アリスと遊びたいのね」
「荒れ事は免れなさそうだな」
「さあエリー、また私と一つになろう」
 一人は頭を抱えながらも、リンカーは共鳴し全員の戦闘態勢が整った。
 手始めに志賀谷が口を開いた。
「モノを動かしてみましょう。私が矢を撃つので、あちらの出方から窺ってみます」
 矢が物の近くに刺さると、次々とモノが立ち始めた。鉄くずが集まって人型を催したモノが何体か完成され、石コロは跳ねまわる。たちまち、線路上のモノは全て起き上がった。
「いきます!」
 北里がスタッフを両手に持ち、駆け始めた。一番近い敵とすぐに距離は縮まり、武器を振り下ろす――が、石が彼女目掛けて勢いをつけて飛んで来ていた。
「あ、あぶなっ!」 
 目に当たるか否か。北里は目を瞑ったが、痛みを感じる事はなかった。
 人型モノが北里に向けて腕を伸ばしている事に気づいた炎樹は、武器の刃で側面から腕に円を描きながら斬撃を刻む。よろけたモノを蹴り飛ばし距離を空けた。
「大丈夫?」
「まったく。次から特攻する時は気をつける事だな」
 石を寸前で破壊したのは古川だ。
「ところでその武器、杖だろう。魔法は使わないのか」
「まだ使えないんです。それに、あまり戦わないので」
「魔法使いなのに魔法を使わないのか。なるほど。魔法使いでありながら魔法が使えないキャラクターが主人公のファンタジー小説っていうのも――」
 古川の耳元で風を切る音が聞こえた。
「危ねぇぜ~」
 軍服姿になり、コウモリの幻影を周囲に飛ばす咲山が弓を握っていた。彼女は古川に向けて飛んできた石を矢で砕いたのだった。
 エミールにからかいの種を与えた事に頭痛を覚えながらも古川は扇子を構え直した。
「おい、聞いてくれ」
 大剣を上に掲げて、真壁は注目を仰いだ。
「横から俺がこの剣を使ってモノを押し出し線路から外す。その間どうしても後ろが無防備だ。だから背中を守る人材が欲しい」
「線路に傷つける心配がなくなりますね。お手伝いします」
 全員が協力の合図を示し、真壁は剣で身を守るように構えた。
「乗客が待ってるんだ。迅速に片付けるぞッ」
 構えを解かず、真壁は線路の側面に移動する。戦機を見て、真壁は駆けた。盾となった剣は真壁に飛び交う石を弾き飛ばす。
「はぁあ……ッ!」
 全力を使ってモノを押し出す。しかし一人の体につき相手が多数。真壁の全力を使っても動じないどころか――たった今真壁の足が後ろにずれた。
 作戦は失敗に終わるかと希望を失いかけた。
「手を貸すわ!」
 パルチザンを突き、モノの体に刃を埋め込ませる。そして力を込めて押し出しているのは炎樹だ。
「私もお手伝いしますっ。見てるだけなんて、私が許しません」
 北里も杖を前に突き立てて真壁の助力となった。彼女は体が小さく力が弱い。それでも真壁の足は一歩前に進んだ。だが、一歩だけだ。
 二歩目、足が進んだ。
 古川が真壁の背中を押して力を加えたのだった。
「早く、しろ。迅速に、行うんだろ……!」
 真壁は失いかけた力を取り戻し、気合を入れて再び作戦を開始した。
 四人は前へ前へと進む。そしてついに、線路外へモノを押しやる事に成功した。
「よし。後は集中攻撃だ!」
「援護は任せたわ。線路に当てたら仕事が増えるから、絶対当てるんじゃないわよ!」
 一箇所にまとめられ、そして新幹線からも線路からも離された障害物。後はそれらを始末するだけだ。面倒な事は何一つない。単純だ。
 
●帰省ラッシュに抗う少女

 咲山の矢が極めつけの一撃となり、最後の一体は崩れ落ちた。
 六人はモノが完全に動かなくなった事を確認すると、共鳴を解いていった。
「動きからして従魔じゃなさそうだ。ヴィランの仕業だろうが、当のヴィランはどこにいるのか気がかりだな」
 古川は共鳴を解くも、警戒は怠らなかった。
「ありえますね。とりあえず運転士さんに解決をお伝えしましょう。運転再開は見込めるようになりましたからね」
 ――少女が飛び出してきたのは、炎樹が車内に戻ろうとした時だった。
「あ、ちょっと待ちなさい、危ないわよ」
 少女は炎樹の言葉に耳もくれず、線路の上に立った。両手を広げて。
「帰りたくない!」
 少女は叫んだ。心がそのまま口から飛び出してきたように。
「帰りたくないからわたしが新幹線を止めたの!」
 新幹線の中から、「愛!」と名前を呼ぶ声が聞こえた。すぐに女性が表に飛び出してきた。
「あの子の親か?」
 女性は首を縦に振った。
「なんで帰りたくねーの?」
 一歩前に出て、咲山が愛に問いかけた。
「友達もいないしパパとママは夜にしか帰ってこないし、ずっと一人ぼっち! つまんないのッ!」
 愛の涙が後を物語った。母は困惑している。
「帰りたくないなら帰らなければいいじゃない。アリスならそうするわ」
「ア、アリス、しっ!」
 全てを台無しにさせかねないアリスの口を北里は両手で塞いだ。
「事件を起こしたのは自分だと言ったな。その力は一体どこで手に入れたんだ」
「アンって子が部屋にきて、わたしのことを一番よく分かってくれて、力をね、貸してくれたの」
「今アンはどこにいるのかしら」
「新幹線の中の、どっか」
 炎樹は新幹線の中に戻った。氷樹はその後を急いで追った。
「アンを捕まえにいくわよ、氷樹」
 愛は涙を見せながらも弱気になる事はなかった。小さな体だが姿は勇者を想像させる。しかし。
 誰も同じ方法でルービックキューブを完成させる事はないが、最後は必ず誰もが同じ物を完成させる。愛は、誰がどんな見方をしていたとしても最後には全員が言う言葉があるだろう。
「あたしもさー、あんま家好きじゃないから帰りたくねー気持ちは分かる。超分かる」
 愛は咲山の方へ体を向けた。初めて彼女が新幹線から向きを動かした。
「けーどー。家に帰りたい人だったりこれから出かける人だったり、乗ってんだろ? そいつらの気持ち全無視して自分だけの気持ちを押し付けるってのは我が儘つーもんだ。そこだけはダメー分かるっしょ? 愛ちゃんだっけ? 頭良さそうだし」
 愛、と母が強い声で呼んだ。愛はその声に怯える様子を見せた。
「わたしは、愛ちゃんが意志を示した事は評価するよ? その示し方は評価しないけど」
 志賀谷が、怯える愛にゆっくりと近づいた。
「帰りたくなかったんだね。その心を自分の中に閉じ込めてしまうよりもずっとよかった。でも考えてみて。お爺ちゃんの所での暮らしは、いつもと違ったから輝いていて、楽しかったんじゃない?」
「……うん」
「お爺ちゃんの所にずっといれば、当たり前になってしまう」
 つまりね、愛ちゃん。
「愛ちゃんの大切な場所は色褪せてしまう」
 アリッサは、志賀谷の口から出たとは思えない言葉に思わず彼女に見とれた。
 志賀谷の優しさに、愛の胸は詰まった。涙をまた流した。さっきの涙とは色が違った。
「お爺ちゃんは好きだけど、大切な場所じゃなくなっちゃうのはやだ」
 怒りを顔に表している母親が何か言葉を出そうとしている。古川がそれを止めた。
「これだけ話して、まだ迷惑だなんだと言うのか」
「たくさんの人の時間を無駄にしてしまったんですよ。叱ってやらなきゃ」
 古川は肩を竦めた。
「彼女の強く、悲痛な願いが未知の力を呼び出してこの事態になった。未知の力が、彼女の強さとなった。でも本当はあなた達が彼女を支える強さになってあげなきゃいけない筈だ。未知の力じゃない。みんなが持っている力で」
 引きこもりであった古川は、みんなが持っている力を親から貰っていた。それは、愛情。
「当然叱るべきだろう。だが、叱るのは誰でもできる。あなた達にしかできない事をしてあげてはくれないか」
「私達にしかできないこと……」
 母は、線路の上に立つ愛を見た。そして自分の過ちに気づいた時、彼女はハンカチを取り出し、目に当てた。
 真壁は愛の近くまで歩き、彼女が怖がらないようにしゃがんだ。
「人は独りで戦わなければならない事もある。それは本当に辛い事だ。けれど、誰かと過ごした思い出があるからまた立ち上がる事ができるんだ。……人は、話し合わなくちゃ、素直にならなくちゃ分かり合えない」
 あ、あの……北里が小さな声を上げた。
「その、愛ちゃん、お友達がいなくて寂しいって言ってました。私達が愛ちゃんのお友達になりませんか?」
「いいんじゃね? 微力ながらもうかかわっちまったし。シュビ君は超無理だけど、あたし達なら力になれるぜ。あたし達がいりゃ百人力だぜー」
「友達に、なってくれるの? あの人達……」
 愛は照れくさそうに真壁に訊いた。
「みんな君の味方になってくれるだろうよ」
 愛の頭に、大きな手が乗った。大きくて包み込むようで、暖かくて優しい手。そんなに温かいから、また涙が出てしまうのだ。

●思いつきのサプライズ

 運転士に事件の解決を伝える係をシュビレイにまかせて、一行は新幹線の中へ戻っていった。
「これで終わりですよ。新幹線も通常運転できます」
 相変わらずの無愛想をシュビレイは見せている。
「ありがとうございました。本当に助かりました。あの、もしよろしければ原因を教えていただけますか」
「原因? 何、些細な事ですよ。それに、解決済みです」
 シュビレイはそういうと、運転席を後にして自分の席へと戻った。
「へえ~。そんなに綺麗なんですね。僕も見てみたいです」
 座席を向かい合わせにして、愛と咲山、真壁とセラフィナ、志賀谷と北里が向い合っていた。アリスは北里の頭上に乗っている。
「昨日はね、お畑でお米を植えてきたんだよ」
「お米を? それは貴重ですね。台風がきて全滅しないといいのですが」
「縁起でもない事を言わないであげてください」
「そ、そうですよ。愛ちゃん、頑張って植えてきたんですから、ね?」
「台風なんかきても吹き飛ばしちゃうから!」
「おー、その意気だぜ。つーか吹き飛ばすんじゃなくて倒しちまってもいいんじゃねー? 今の愛ちゃんなら倒せるって絶対」
「出来立てのお米アリス食べたいなー。今度食べにいってあげるから、楽しみにしててよ!」
 離れた所で、古川が炎樹の場所を探していた。車両を三つ変えた所にあるデッキでようやくその姿を見つけた。
「――貴方が守りたいって言ってた子が、犯罪者になる所だったのよ」
 アンを叱っていた炎樹が古川に気づいて、氷樹に逃げないように見張ってるよう指示をした。
「さっきは手伝ってくれて助かったわ」
「当然の事をしただけだ。それより、あっちの車両で愛と他の連中が仲良くお喋りをしているが」
「私達はいいわ。まだアンに言わなきゃいけない事があるし」
「そうか。ならいい」
 古川が踵を返すと、炎樹はアンへ振り向き説教を再開した。
「良い? 出来る限り穏便に済ませるように私達からも鉄道会社にお願いするけど、本当ならものすごい大問題になってるんだからね」
 古川は自分の席に戻った。
「おや、エリーは混ざらないのですか」
「魔法を使えない魔法使いっていうのは面白いネタだ。今回の事件もドラマチックでいい。忘れる前に執筆していた方が良いと思っただけだ」
「なるほど。ですが、確かエリーは筆記用具を忘れていたはずですが」
「しまった……。迂闊だった……」
 執筆しようとして前の座席から台を倒したが、そこに突っ伏した。エミールはこの上ない程に愉快な光景を見る気分を味わった。
 談笑している六人の所へ、母親が訪れた。片手には携帯を持っている。
「祖父からお礼を言いたいとのことで電話があるのですが」
「じゃああたしが出てもいいか? お願いしてー事があってさ」
 咲山がすぐに名乗りを上げた。
「あ、あの、私も!」
 咲山と北里は母親に連れられてデッキまで来たところで咲山が先に受け取った。
「あたしがリンカーです」
「本当にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ないと思ってます。うちの孫が、大変な事をしてしまって」
「大した事ないですよ。それよりあのう、お願いがあるんですが」
 咲山は新幹線の駆動音に負けない声ではっきりと述べる。
「愛ちゃんは帰りたくないから事件を起こしたんです。そこで愛ちゃんに贈り物とか用意してあげて欲しいんです。愛ちゃんの力になると思うので」
 北里が何か言いたげに目を向けられている事に気づいた咲山は、電話主交代を伝えた後、北里に交代した。
「わ、私からも、お願いします。贈り物、お手紙。喜ぶと思うんですっ。よろしくお願いします」
「……本当に、ありがとうございます」
 北里は、ぽん、と頭に置かれた手に気づいて視線をあげた。咲山が乗せた手だった。
 談笑の席に二人が戻ってくるのとすれ違って、愛がデッキへ向かった。
「お爺さんと話してくるらしい。謝るんだそうだ」
「立派ですよね。あんなに小さいながら、他の人の迷惑を考えられるようになったのですから」
「わたしもそう思います。志賀谷さんは見習って欲しいと思います」
「アリッサ、言うようになりましたね。私は周りの事を――」
 志賀谷が一方的にアリッサに言語のマシンガンを飛ばしている横で、真壁は冷静に考え事をしていた。セラフィナは考えこむ真壁に気づき、そして彼が何を考えているのかまで察した。周りを見渡して、愛の鞄が見え、その中に折り紙が入っている事に気づき。
「みなさん。僕から提案があるのですが」

 古川はテーブルの上に駅弁を出していた。蓋を開ければ、食欲しか唆らない盛り付けが目の前に広がった
「お願いがあります」
 古川は声を掛けられた事実を仕方なく受け入れて、顔を向けた。セラフィナが立っていた。
「愛さんに形残るものをあげたいと思って、折り紙をおることにしたんです。愛さんの鞄の中に入っていたのを見つけて、みんなで相談して決めたんです。サプライズを、ということで」
「彼女の鞄に? 勝手にとったのか」
「お母さんからの許可付きです」
 彼の瞳にはと熱心さが混ざっており、どうにも断り辛い。
「何を折ればいいんだ」
「なんでもいいんですが、何を折ったか、絶対に口に出さないでくださいね」
 彼は二枚、駅弁の横に折り紙を置いた。
「二枚? なるほど。エミールの分か」
「私もですか?」
「はい、お願いします。それでは失礼しました」

 アンへの説教を終えて席に戻っていた氷樹と炎樹。氷樹は眠っていたが、すぐ近くで話し声が聞こえて眼を覚ました。炎樹が誰かと話しているのが見えて、その誰かというのが先ほど事件解決を手伝っていた英雄だと気づくのにさほど時間は要さなかった。
「どうしたの? 炎ちゃん」
「起きたのね。折り紙を折ってほしいって頼まれて、別に興味がないから断ったんだけど、彼とても熱心だから。――悪いんだけれど、もしかしたら出来が悪すぎて嫌がられちゃうかもしれないし」
「出来合いなんて関係ないんです。大切なのは送ってあげた、という事なんです」
「炎ちゃん、やってあげてもいいんじゃないかな?」
 状況がよく掴めていない氷樹だったが、セラフィナの一生懸命さが事情の有無を関係なくさせた。
「折り紙を折るくらいだったら簡単だよ。わたしも手伝うよ」
 しばらく考えた後、炎樹は二枚の折り紙をセラフィナから受け取った。
「ありがとうございますっ。後で回収しにきますね、それではまた。……あ、この事は愛さんには秘密でお願いしますね」
「はいはい」炎樹が頷くのを見て、セラフィナは離れていった。
 
「もう降りなくちゃ」
 窓から駅が見えて新幹線が減速していく。人が多いと迷惑になるため最後に迎えにいくのは北里の一人だけだった。
「芽衣ちゃん、また会えるよね」
「うん。また会おうね。愛ちゃんといろいろお喋りできて楽しかった。お別れは寂しいけど、我が儘いっちゃだめだよ?」
「分かってるよう」
 新幹線は止まり、扉が開いた。
「バイバイ」
「またね、愛ちゃん」
「うん」
 涙を浮かべる。
「また会おうね、芽衣ちゃん」
「うん。いつでも、待ってるからね」
「ありがとう。……その、また――」
「くすくす、早くお母さんの所にいかないと、扉しまっちゃうよ?」
 慌てて愛は扉から外に出た。
 扉と、新幹線の境界線に挟まれながらお互いに手を振り合った。扉がしまり、その向こうに愛は去っていった。

●愛の色

 家に帰った愛は、日記帳を開いた。今日、色んな人たちから色んな事を教わって強くなった。愛は一人一人の言葉をしっかりと忘れないように記しておきたかった。
「あれ?」
 鞄の中に、小物入れがあった。いつの間にこんな物が入っていたのだろう? 中身はなんだろう? 愛は小物入れの中身を机の上に広げた。
 出てきたのは、様々な形をした、様々な色をした、中には無愛想な物もあり、本当に様々な十二個の作品が入っていた。
 小物入れの中にはまだ続きがあった。最後に出てきたのは紙だ。そこには、「皆から、愛ちゃんへ」と書かれていた。
「これ、皆からの」
 愛の笑顔の瞳に、涙が浮かべられている。しかし、涙を浮かべながら愛が言った言葉は、新幹線を止めて、悲しみに暮れている時とはまるで違う。
 愛から、皆へ。
 ――ありがとう。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • エージェント
    古川瑛理奈aa0042
    人間|13才|女性|攻撃
  • エージェント
    エミール・エネクスaa0042hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 黒白月陽
    咲山 沙和aa0196
    人間|19才|女性|攻撃
  • 黒白月陽
    シュビレイ・ノイナーaa0196hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • エージェント
    炎樹aa0759
    機械|16才|女性|防御
  • エージェント
    氷樹aa0759hero001
    英雄|16才|女性|バト
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
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