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鬼!・・・・・ごっこ?
最終発言2016/02/24 14:22:14 -
プランA:愚神強襲制圧 概要
最終発言 -
プランB:愚神誘導 概要
最終発言 -
しっつもーん♪
最終発言2016/02/22 22:11:22 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/24 10:04:19
オープニング
私はこの狭い世界にたった一人で生まれたの。
小さな泉と大きな樹。
見渡す限り草原の、この世界に。
この世界は冷たいわ。この世界には私以外誰もいないもの。
一人はとてもさみしい、さみしいのよ…………
―――― リトルアリスより
小さな、小さなドロップゾーンがまるで口をあけるように、突如街中に現れた。
休日の人でごった返す繁華街.
その中心に場違いな、金糸の髪を持ち、蒼いエプロンドレスの少女が現れたのだ。
当然人々は注目する、何かの撮影かとあたりを見渡す人間もいる。
しかし違う、それは愚神。人類の天敵だ。
「お兄さん、お姉さん、一緒に遊びましょう」
そう微笑む笑顔は輝くようで、一点の曇りすら、見つけられなかった。
ここはどこ、あなた達は誰?
嬉しい、ここは温かい、私以外の何かがたくさんいる。
けど。
あなた達は私とあまりに違いすぎるわ。
それではだめよ、私と一緒にいられない。
そうだ、作りかえてしまいましょう。
あなた達もそんな形じゃ不便でしょ?
私が、私がもっと動きやすくしてあげる。
そして町中に悲鳴がこだました。
「はい、これで動きやすくなった。ね? こっちの方がいいでしょ?」
青年は姿を変えた。血が滴る球状の頭に、骨がむきだしの肩、無意味に突き刺された複数の足。
女は姿を変えた。生前忙しく動いていた口は耳元まで裂け、胸部に大きなあながあいている、そこに肉片が詰め込まれていた。
リトルアリスは問いかける。原型をとどめなくなってしまった人間たちに、彼女は問いかける。
もう何も語らない彼らに、リトルアリスは懸命に語りかける。
「ねぇ、せっかく私の言葉を沢山聞けるように耳を増やしたのに」
「せっかく、たくさん私とお話しできるように口を増やしたのに」
「ねぇ、なんで? 私の言葉がきちんと伝わるように頭を沢山増やしてあげたでしょ」
代わりに口や頭がなくなってしまった人もいるけれど。
そうリトルアリスはバツが悪そうにつぶやいた。
この愚神には死が理解できなかった、それは人をものに変えてしまう行為だと言うことも、命とは繊細なものでこのように乱暴に作り変えることもできないのだと。気が付けなかった。
リトルアリスは涙する。また、原因不明の寒さをあじわっていた。
視界がリトルアリスから遠ざかっていく。そうするとだんだん町の様相が明らかになっていく。
血と肉片がなすりつけられた道路。ベンチに座らされた人間であったもの。可憐な少女が抱きかかえるのは人の頭。
その光景がブリーフィングルームのモニターいっぱいに映し出された。
「すでに彼女は十六人の人間を殺している……」
そう司令官アンドレイは語っる。
「愚神だ、まぎれもなくその存在は邪悪、だがな一般の少女らしく振舞って少女らしい反応を返す、少女のように笑い、少女のようになく」
アンドレイは言った。それは少女のような見た目をしており、言われなければ愚神とは気が付かないだろうと、そして銃を向けられると泣いて見せたという。
「しかしそれでも彼女は愚神。人間にとって敵でしかない。現に被害者は増え続けている」
彼女は今までの愚神にない狂気と純粋さを持っている。それは他の悪意ある愚神より人間にとって脅威になりうるかもしれない。
「惑わされるなよ。少しのためらいが命取りだ」
彼女は放置しておけない。アンドレイは君たち全員に出動を命じた。
* *
モニターの向こう、つまり繁華街の中心で、リトルアリスは涙を流していた。
また一人になってしまった、なぜ皆は私を避けるのだろうか。
あのような恐怖のまなざしを向けるのだろうか。
それが彼女には分からなかった。
「私、みんなと遊びたかっただけなのに」
しゃくりあげながらそう言った。
そんな彼女の視界に突如、影が映る。
数百メートル先の交差点に、十歳程度の女の子がいる。
その少女にリトルアリスは三歩で近づいて、言った。
「あなたはなに? お友達になりましょう?」
それをみて、少女は泣いた、泣いて許しを請い、逃げようとする。しかし。
その手をリトルアリスが取った。
「なんで? なんで逃げるの?」
少女は泣きわめく、痛いと叫んで、それでも逃げようと懸命に足を動かす。
「ねぇ、逃げないで、独りにしないで!」
その瞬間だった。バツンと音がして、そして。少女がはじかれるように前に飛んだ、数メートルの距離をはねて、そして彼女の飛んだ軌跡には赤い跡が付く。
見ればリトルアリスは彼女の右手を握っている。
それをパタパタとふりながら、リトルアリスは動かなくなった少女に近寄った。
「ねぇ、遊んでくれないの?」
リトルアリスは少女だったものを見下ろす、そして。
「冷たい……」
そう言って、リトルアリスは町の中を散策する。彼女を受け入れてくれる人を探すために。
「だれか、私と遊んでよ。つまらないよう、さみしいよう」
解説
目標 愚神 リトルアリスの撃抹殺
リトルアリスについて
彼女を討伐することが目的ですが、彼女自体戦闘能力は高くありません。しかしリンカーたちを、自分と遊べる人間だと認識し、子供の遊びに付き合わせようとします。
種目はおにごっこです。リンカーが鬼でスタート。摑まえるとリトルアリスが鬼になりリンカーを追ってくるようになります。
リンカーが鬼の時は逃げながら一般人を殺していくでしょう。
特徴は下記の通り
・戦闘能力は高くないが機動力と回避能力に優れる
・空間に穴をあけて半径五百メートル以内の好きな地点に移動可能。一日に三回使用可能。
・体に不釣り合いな怪力を有する、それこそのリンカーの腕ももげるかもしれない。
・遊びをねだる少女にしか見えない、その行動に邪気はなく、リンカーたちに攻撃されてもなぜ攻撃されたかは理解できない。
自分から積極的に攻撃しようとする意識はなく、人に傷をおわせる行動をとったとしてもわざとではない。
肉塊従魔
リトルアリスが遊びやすいようにつくりかえた人々です。霊力によって半自動的にリンカーを攻撃しますが。こちらも近接格闘しかしてこないので脅威度は低いでしょう。街中に八体います。
またリトルアリスは一般人を殺害し、肉塊従魔につくりかえることができます。
PL情報。
ドロップゾーンが大きくなるとリトルアリスの活動圏は広がります。そうなるとこれだけの移動力を持つ愚神を捉えるのは難しく被害が広がるばかり。
街中には逃げ遅れた人間が30人ほどいます、うかつに外に出ると肉塊従魔の餌食になるので隠れています。
街
ちなみにリンカーが到着したのは夜です、そしてドロップゾーンの影響で町の明りがつきません、外部から持ち込んだライトや火で照らしながら戦闘するしかありません。
建物が多く密集していて、少女が入れるくらいの路地はたくさんある。またビルなどはなく、二階建て、三階建ての建物がひしめく。
リプレイ
人気のないくらい道路を大型トラックが走行する。もう少し先まで行けば大きな町に行きあたる。そのはずなのに車は一台も通らなかった。
それもそのはずだ。
この先には愚神がいる、ひどく無垢で、それ故に残虐な。
それに対処するために『Arcard Flawless(aa1024)』はトラックを最高速度で飛ばしているのだ。
Arcardの運転するトラックの中で『Iria Hunter(aa1024hero001)』は地図をくるくる回しながら指示をしてるんだかしてないんだか、うなうなと何やらつぶやいている。その後部席にすべてのリンカーが集結していた。
「無邪気が故の暴虐だな……」
『御神 恭也(aa0127)』は普段の調子を崩さずにそう言った、しかし普段と毛色の違う任務だけに戸惑ってはいた。
『伊邪那美(aa0127hero001)』は別の意味で重たい表情をみせ恭也に答えの出ないと意を投げかける。
「悪い子じゃ無いのに、なんでこんな事になっちゃったんだろうね」
「説明は聞いたでしょう。すでに多数の犠牲者が出ているのよ」
『天川 結(aa0953)』はそんな二人に、どこか恨めしそうな視線を向ける。
「愚神は愚神なのよ。愚神にいい子なんていないわ。全て悪よ」
「そうとは言い切れないよ」
Arcardが車道の先を見つめながら言った。
「少なくとも、彼女には人間を害しようという意志はないみたいだ。こんな愚神めったにいない、稀有な例だよ、他の愚神に一切影響されてないし」
あくまで彼女を利用するための捕獲、そうArcardは言った。
「愚神同士の敵対自体は少ないワケじゃない。育てれば切り札の一枚くらいにはなる"彼女"は心身の安寧 ボクらは愚神の生体調査。win-winでしょ?」
そのための護送車両、そのための作戦、もう今更引き返すことはできない。
「利用価値? そんなもの、ないわ」
むしろリスクの方があると結は考えていた。
だがチームメンバーの意志は回収で固まってしまっている。その結果を覆すことは結にはできなかった
「何より可愛いし。アレでSAN値削れる見た目だったら回収しなかったかも。ま、奴も愚神さ。利用価値があるだけのね」
やがてトラックは現地に到着する。
そこには闇に浮かぶ町があった。リトルアリスの影響で町の明りは一切つかない。
この中から彼女を探さなくてはいけないのだ。
その町並みをみて『柳生 楓(aa3403)』はため息をついた。『氷室 詩乃(aa3403hero001)』が心配そうに楓を見る。
「彼女も誓約の対象に含まれてるよ。楓はどんな選択をするのかな」
「救いますよ……市民も、彼女も、両方」
その様子を見つめていた『シェリル(aa2532hero001)』に『藤丘 沙耶(aa2532)』が問いかける。
「さて、今回は対象の撃滅もしくは回収が目的で、私たちは裏方に回る訳だけど。変な気起こさないでよね? 私達がきちんとやればそれだけ損傷を少なく回収できるんだから」
「ええ……わかっていますわ。相手は愚神。それでも救えるものは救いたいですから」
「ん、わかっていれば結構。さて、行きましょうか」
釈然としない空気を纏い、リンカーたちはそれぞれ共鳴していく。
* *
「リトルアリスよ、お姉さんが遊んでやるのじゃ」
そう夜の闇を恐れない『カグヤ・アトラクア(aa0535)』が先陣を切ってアリス探索が始まる。
――相変わらず悪趣味だよね
『クー・ナンナ(aa0535hero001)』がそう言った。輝夜はランタン片手に夜の闇の向こうに何か見えないか警戒を続けている。
「リトルアリスか……童話は好きだけどね……」
『パウリーナ・ビャウィ(aa3401)』が二人のあとにつづく
――当ては?
「血の匂いのする方じゃ」
――犬か
「鮫というツッコミの方が知的でよいぞ。アレの臭覚は血を……
――早く帰って寝たい
つれないのぅ。そう悲しそうにしながらも一行は探索を続ける。手がかりは血の香り。
先導する輝夜についていくと。
やがてランタンの光が見慣れない物を照らし出した。
「初めての依頼だし頑張って行きたいのですが……これは酷いですね」
アスファルト一面に塗りたくられた血。そしてベンチにおかれた顔のない死体。
肉片が夜の寒さで冷えてまるで石ころのように見える、それぐらい細かい大量の肉片があたりに散っており。
パウリーナは言葉を失った。
「例え純粋に遊ぶ相手が欲しくて起こった悲劇だとしても、これは許されることじゃないです」
パウリーナより広範囲が見えるようにあたりを照らすと。
ここが広場のような空間だったことが分かった、遊具とベンチ、そんな平和の象徴達が今や血と肉片と骨で装飾されつくしていた。
シェリルはその光景に息をのむ、結は拳を握りしめた。
このような光景を邪心なく作り出せるとするなら、それはもうくるっている人物だけなのではないか、そう思わせる光景だった。
その時。
突如、ベンチに座っていた人間たちが動き出す。
アリスの遊びたいという願いが歪んだ形でくみ取られた結果、痛みも感じず死ぬこともない、この従魔たちが生まれたのだろう。
「邪魔じゃ。失せよ」
その従魔たちをカグヤはたんたんと処理していく。
――悲鳴や憤りは?
「死者の寄せ集めなどに今は興味はない。面白造型の記録映像は後でHOPEから貰うしの」
――悪趣味め
その光景がめに焼き付いて離れないパウリーナ。愚神への恐怖、怒り、名状しがたい感情があふれた。しかし彼女は愚神にチャンスを与えるつもりでいる。
「けど罪を償う方法は一つじゃないし、やっぱり殺さずに済むならそっちの方が良いな……」
その言葉に沙耶と楓は振り返る。
「生い立ちを聞く限り同情出来る事もあるし自分で良ければ友達になってあげたいけど…………司令官の言う通り甘い考えなんですよね、これはきっと。
哀れには思うけど本分は忘れない様にしないと」
まるで自分にそう言い聞かせるようにつぶやいたパウリーナ直後、その耳が町に響く悲鳴を感知した。
「こっちです」
周囲の警戒に当たっていた『石井 菊次郎(aa0866)』から通信が入る。
手分けをしていた『テミス(aa0866hero001)』がそれをみつけたのだ。
子どもと遊びたがるあまり、それを壊してしまったアリスを。
そしてアリスは泣いた。孤独が押し寄せてきて、さみしくて涙を流した。
「なるほど、針鼠の矛盾と言うものですね。しかし何とも……」
温もりが欲しくて近づけば他者を傷つける、しかし離れることもまたできない。そんな表現が彼女には似つかわしい。
そう菊次郎は頭を悩ませる。
「おにいちゃんだれ?」
突然だった、物思いにふけっていた菊次郎の目の前に、足音もなくリトルアリスが歩み寄り、その顔を覗き込んでいた。
「私と遊んでくれる?」
驚き、言葉を失っている菊次郎のかわりに、駆けつけた恭也が言った。
「いいだろう、ただし互いに身体能力が高いんだ、一つ条件を付けないか?」
「条件?」
リトルアリスはきょとんと首をかしげた。
可愛らしいしぐさだ、一見すると人間にしか見えない。
一瞬恭也はわからなくなった、自分が何と戦っているのかを。
「難しい事じゃない 俺達以外の人に当たったりしては駄目なだけだ」
「人? 人ってなに?」
「…………そうか、だったら言い方は悪いが障害物であっても壊してはいけないってことだな。動くものでもだめだ」
「ふーん。えー嫌だよ。だって、壊れちゃうんだもん。私はどうしようもないのよ?」
少しすねたように恭也にアリスは言った。恭也はどう説得した物かと言葉を選んでいる。その時。
「あ! うさぎさんだ!」
アリスは叫んだ。直後駆けつけてきたパウリーナにアリスの興味は移る。アリスは興味の赴くままにパウリーナの耳に手を伸ばした。
「だめですよ、友達になってから」
しかし、そのアリスの手をパウリーナはゆっくり下ろす。
「友達ってなに? どうやったらなれるの?」
「楽しく遊べばいいのです」
「遊ぶって鬼ごっこ? お姉ちゃんたち壊れない?」
その言葉に息をのむ一同。予想していた通りこの子は、命というものが何なのか分かっていないのだ。それを再認識する。
「そうだよ、ボク達と今日は遊ぶんだ。けどその前に渡したいものがある」
遅れてやってきたArcard。
Arcardは沙耶を見て頷きアリスに小さな巾着袋を手渡す。
「でも、どうやらこの町は遊ぶには少し危ないようです」
沙耶が言葉を継ぐ。
「死んだ人が鬼になって襲う事件があるらしいよ、だからこれは、お守り、アリスちゃんが楽しく遊ぶために」
「ほんと? くれるの? ありがとう。うれしいな」
感情を抑えきれないのか、その場でしきりに足踏みしながら、頬を赤らめて二人にお礼を言った。
「ありがとうお姉さんたち」
「じゃあ、鬼は百秒数えてからさがしに行くから、まずはアリスが逃げて」
「ひゃく?」
「ああ、数の数え方がわからないのか」
Arcardがアリスに数という概念を教えている間に沙耶、パウリーナ、楓はひっそりとその場をあとにした。
先ほど渡したのは通信機と発信機、彼女たち三人はこれによってアリスを補足する算段だった。
三人はアリスから近い位置に一般人がいないか、もしくは従魔がいないかを探し、個別で対処していく予定だ。
「ふむ、鬼ごっこか。童心に帰って楽しむとするかの」
そうカグヤはアリスが走り去った方向を見つめながらつぶやいた。
菊次郎がカウント60を数える。
――……がんばれー
クーがいった、その態度にカグヤはいぶかしむ。
「止めはせんのか?」
「必要なことなんでしょ、彼女を救う為に」
その言葉を聞いて結は不機嫌そうに鼻をならした。
そして結は霊力で編んだ鷹を空に放つ。本物の生物ではないため、夜に性能が落ちるというわけではないが、見えやすくなるわけではない。
ただ、第二の目があるのとないのとでは大きく違う、それは有用な手と言える。
「銃声と鷹の声のする所に愚神がいるから」
そうそっけなくつぶやいて結は前傾姿勢をとった、菊次郎のカウント100で弾丸のように結はアリスを追っていく。
「一般人が固まって集団でいるのですが、車を回せませんか?」
突如沙耶から通信、意外と簡単に見つかった一般人を避難誘導するためにArcardはトラックまで戻った。。
「ごめんなさい、倒し切れなかった従魔がいるわ」
「気にするな、あの程度の従魔一発じゃ」
そう腕に雷神の書を巻きつけた輝夜、その複雑な笑みを、黄色い閃光が照らし出す。
鬼ごっこが始まった。
* *
「あははは、つかまえてごらん」
そう楽しそうに街中を疾走するのはアリス。彼女の機動力はもはや韋駄天と表現するにふさわしく。壁や天井はもちろん水上も走っていた。
それを追う恭也は翻弄されっぱなしだった。
しかし、直進するだけだったアリスの目の前に結が躍り出て通せんぼする。背後を恭也がふさいだ。
追い詰めた。
「捕まえた」
そう恭也がにじり寄る、しかし、アリスの足元に穴が開き、その中にアリスが吸い込まれていった。
「あはははは、おにさんこちら!」
遠ざかっていくその声をききながら伊邪那美は言った。
――……無邪気に喜んでいるね
「まともに遊べる相手だからだろうな」
――ねえ、倒さずに済むと思う?
「難しいな 恐らくは此方の言い分を聞き分ける事は無いと思う」
「おお、町の東側でアリスをみつけたぞ、おお、走っとる走っとる。走力だけならトリブヌス級を超えるんじゃなかろうか」
そう輝夜は感心した様子で。ライブスラスターをふかせる。その加速力にまかせてカグヤは夜に舞う。
「お嬢ちゃん、遊びに最後まで付き合ってあげるのじゃ」
「うれしい、優しいお姉ちゃん、だいすき! すぐに壊れちゃいやだよ!」
輝夜は徐々に接近していき、その手がすんでのところで届く瞬間。
かわされる。
「く!」
「ヤーだよ!」
その瞬間、アリスは突如方向を変えた。それは精肉店、その壁を破壊しながらも。カグヤの手から逃れようと。飛び回る
「ルール違反じゃぞ!」
「えー、ごめんなさい。もうやらなーい。あはははは」
そう笑い転げるアリスに対して、カグヤは言った。
「隙あり!」
アリスの逃げるという動作は人が走るときと同じように、地面を踏み締めるという工程が必要だ。
しかしカグヤの装備しているスラスターは全くの予備動作なしでの起動を可能にする、つまり完全なる不意打ちにて、その右手をアリスに届けることができるのだ。
「きゃ!」
直後、アリスに降れた右手から青い稲妻がほとばしる、雷神の書の力だ。
「痛いよ! お姉ちゃん、ひどい!」
「ああ、すまぬな。わらわは遊びたいのに、お嬢ちゃんは脆いのではないか?」
「そんなことない!」
「悪かった悪かった。では、タッチしたから今度はお嬢ちゃんが鬼だのう」
「うん、わかった、じゃあ百数えればいいの?」
その時、菊次郎がアリスの脇に降り立ち言った。
「このルールではおもしろく無いとおもいませんか?」
「え? なんで?」
アリスは首をひねる。
「鬼ごっこでは鬼は子に触れなくてはならないんですよ、あなたはそれで良いんですか?」
「……ん?」
「ではもっとわかりやすく、あなた、今迄何かに触れて楽しかったり幸せになった事は有りますか?」
触れることで、幸せになることが、今までありましたか?
そう菊次郎は同じ言葉をゆっくり繰り返した。
「無い筈です……それはあなたがまだ子供だからです。子供は……そう、ルールを変えましょう。そうすればあなたも楽しい鬼ごっこが出来ます。俺が保証します」
「楽しくなるの? いいよ私好きだよ! そう言うの」
「それはこの鬼ごっこに参加する子供は鬼で有る無しに関わらず触って貰う事によって役割が変わる、という事です。だからあなたが鬼になった時は大変ですよ。子に触って貰える様にお願いしなきゃなら無いですから」
「私が触ってもらえばいいの? でもなんで私だけ触ってもらわないといけないの? 不公平じゃない?」
「それはですね。あなたがここでただ一人の子供で他は全て大人だからです」
「うん、私大人じゃないよ!」
「子供は大人に触れられ抱締められて幸せになるのです。逆では無い……もう寂しくは無くなりますよ」
アリスは、おそらくこの話の半分もわかっていなかったはずだ、しかし。もう寂しくなくなる、その言葉に強く引かれた。
「寂しくなくなるならやるよ! じゃあ私鬼になるね、みんながいないところからスタートするね」
そうアリスは異空間を作り出し、その中に入っていく。
しかし、それが一つの悲劇の始まりとなることを誰も予測できなかった。
* *
楓は町の西側を探索していた。彼女はこのあたりの路地裏に駆け込む少女を見たのだ。だから探しに来たのだが。
次の瞬間響いた笑い声に、楓は足を止める。
「あなた、こども? じゃあ、触って、私を、ねぇねぇ」
その瞬間だった。突如轟音が轟き。べきべきと電柱が倒れた。
電線がむやみに引っ張られ火花を散らしながら堕ちる。次いで悲鳴。
アリスではない、少女の悲鳴。
楓は走った、しかしたどり着くよりアリスが姿を見せる方が早く。そんな路地裏から出てきたアリスの頬には、返り血が。
「どけてください!」
はじかれたように路地に駆け込む楓、そこには胸を踏みつけられて血を吹き出す少女がいた。
アリスが異空間から抜けてきたときに、うっかり。そううっかりと、殺してしまったのだろう。
アリスにとって、人間とはそう言う存在なのだ。
「ごめんなさい。あははは、でもね、いますっごく楽しいよ」
「なにがですか!」
思わず、語気を荒げてしまう楓。
その声にびくりと跳ね上がるアリス。
「なんで怒るの? だって私、何も悪いことしてないのに」
「これが悪いことじゃない? だったら……」
「悪いことじゃないよ、だって壊れやすいのが悪いんだもん。私を置き去りにする奴らなんて、みんな、壊れちゃえばいいんだ」
そう言った瞬間、アリスはその能力で穴を作りどこかへときえさった。
「アリスは三度目の能力を使いました。これでアリスはもう逃げられない」
そう楓は茫然と仲間たちにその事実を告げる。
もう動くことのない少女の亡骸を見つめしばし呆然とその場に立っていた。
* *
ここから作戦は第二段階へと進む。
「……伊邪那美、意識を遮断しろ。ここから先は、お前が傷付くだけの汚い世界だ」
――見続けるよ……ボクは恭也の相棒だし、きっとこれからも似た様な事は起きるから
恭也はアリスがこの先にいることを知っていた、仲間からの報告、鷹の目、通信機。
空間を自在に飛ぶ能力が使えなくなった今や、それらの機器で捕捉されているアリスは逃げることすらままならない。
「……分かった。無理はするなよ」
そう十字路の角から躍り出ると、恭也はアリスを見据える、その頬にはべっとりと血が付いていた。
「約束を破ったな?」
「え? お兄ちゃん」
その時アリスは敏感に恭也の表情の変化を読み取った。そこから殺意を読み取ったのだ。
「こわい! こっちに来ないで」
それは無理な相談だった、電光石火のごとく肉薄し、そしてアリスに一太刀浴びせた。
「いたあああああいっ!」
肩口から切り裂かれあたりにアリスの血が飛びちる。
「……恨んでくれて構わない、憎む事は当然だろな」
「ひどい、ひどいよ! 私が何をしたっていうの。ただ単に壊しただけじゃない」
「だが、お前が悪意無く他人に行った事にも同じような感情をぶつけられる」
「間違っただけじゃない。なのに、なのに許してくれないの?」
恭也は思い出してた。この少女は笑いながら、おもちゃを壊す子供の用に人を殺す。だからこの少女には救いはない。
そうわかっていても、その動きは一瞬鈍る。
直後アリスは駆けだそうとした。しかし。
上空から、鷹がおそってきた。それに彼女は驚き、逃げ惑う。
「いやあああああっ!」
結の鷹だった、彼女はビルの屋上から、アリスを見下ろしている。
「あの世が本当にあるか判らんが、先に……」
恭也がその刃を振り上げた時、突如アリスのお守りから声が響いた。
「とまって!」
沙耶の声だった。
驚き全員が動きを止める。
「アーアー、えーっと、聞こえてるかな?」
アリスだけがその声に反応した、か弱い声で、聞こえてるよと。
「しゃべってる? お守りさんなの?」
「そうだ、私はお守りさん。君のことを助けてあげよう。助かりたかったら此方に逃げ込んでくださいな」
その時ちょうどArcardが運転するトラックが到着した。中からパウリーナと楓が現れる。
そのタイミングで、カグヤや結をはじめとした全員がその場にそろった。
「うさぎさん?」
アリスはよたよたと二人に近寄った。
「うさぎさん、いたい、いたいの、私だけ何でこんなに痛いの?」
アリスは楓を見た
「ねぇ、お姉ちゃん怒らないで、仕方なかったの。あの子があそこにいたのがいけないのよ。私は悪くないの」
アリスは語る。
「だって。私は遊びたかっただけで、おもしろくて、ね、ぎゅってするとみんなはじけるんだよ。面白いのに、何で」
「ねぇ、アリスちゃん」
パウリーナが言う。
「私たちの世界にはルールがあるんだよ。それを守ってほしいの、ね。友達からのおねがい」
「ルールってなに? それはあそべなくなるような、るーるなの?」
その時、その場にいる全員が理解した。
アリスに感じている違和感の正体を。その目の奥にある加虐に染まった色を。
アリスは。人が苦しむことを見て楽しんでいる。
それはアリスの邪気無邪気にかかわらず。
もはや彼女の価値観として。人間は壊れるもの、壊れれば動かなくなるもの。
ただそれだけの話だった。
それをアリス自身が、そしてリンカーたちが気付けなかっただけ。
疲れ切ったアリスはその場にへたり込む。傷口から血があふれ出すとともに、アリスの肌は青く変わっていった。
それでもなおアリスは楽しそうに笑う。
「あはは、もっと遊びたかったな。もっと、みんなで。遊びたかったな。みんなで」
その目を見た瞬間結は腰の拳銃を引き抜くそして。
弾倉が空になるまで打ち続けた。
その後。もはや頭部などなくなったアリスの体から光の粒が舞いあがっていく。
カグヤはその透明になっていく手を取った。
冷たい手だった。
「これが、最良なのよ……」
結は怒りで拳を震わせながら言う。
「あの世が本当にあるか判らんが、先に行って待っていろ」
恭也は言った。
「俺も時期にお前と同じ地獄に落ちる。その時に文句は聞こう」
その霊力で編まれた体が空に解けるように消えていく、光の粒となり急速に質量を失っていく、その腕を腕を、Iriaは握った。
完全にその姿が消え去り、むなしさだけが残ったころ詩乃が楓に問いかける。
「それが楓の選択なんだね、後悔とかはないのかな」
「ありませんよ……これは私が選択した道だから……」
これが今回の物語の結末だ。
おとぎ話のような幸せな結末は望めなかった。
事実愚神とは人類の敵であり、その敵を救済するような物語はこの世界にはないのだ。