本部

お茶会へご招待

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/29 17:22

掲示板

オープニング

●赤の支配者からの手紙
ご機嫌麗しゅう。我々の駒である皆々様には、益々盛況なことと存じておりますわ。
本日は、皆様に皆様が生まれてきた意味を、私が直々にお教えして差し上げようと思って、一筆したためた次第でございますわ。

アリスはウサギを追いかける。
アリスはウサギについて行く。
アリスは穴に落ちる。
アリスは不思議の国へと導かれた。

お好きなウサギを、選ばせて差し上げますわ。
ハズレのウサギの先には悪夢が、当たりのウサギには試練と次の謎々を用意して差し上げましてよ。

期限を設けましょう。私、とっても気が短いの。ウサギが街に放たれたら、その日の内に解決してくださいな。
正しいと思ったウサギの耳元で「チクタク」と囁いてくだされば、あながたを試練へと導いてくれますわ。勿論、間違えていらしたなら、悪夢へと導いてくれますわ。

期限が過ぎれば……
皆まで言う必要はなくてよね。

それでは、皆々様。ごめんあそばせ。

●警察より
「去年の暮れから、活発化し出した『赤の世界』代表の赤の支配者からの手紙と思われます。現在、警察では手紙の差出人を追っています」
続けて、警察は険しい声をより険しくして報告を続ける。
「本日の正午頃、北関東A市にてウサギ型の従魔が12匹目撃されました。ウサギ達はA市中央公園にて、十二匹とも集まってじっとしています。恐らくは、赤の支配者によるものと思われます。エージェントの皆さんは、至急A市にて事態の悪化を防いでください」
連絡が切れる間際に、慌てた口調で追加の情報を加える。
「今、入った情報によるとA市の十二方位に一体ずつ従魔が現れたようです。レベルは全てデクリオ級と思われます。姿は干支に準えているのか、ネズミ、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪がそれぞれ凶暴化している様です。今の所、暴れる様子はありません。恐らく、赤の支配者の謎々が解けなかった場合、A市へ総攻撃を仕掛けてくるものと思われます」

●追加の置手紙(メモ)
私、淑女の嗜みとしては『優しさ』を忘れてはいけないと思いますの。
ですから、特別にヒントを差し上げますわ。
ウサギの尻尾は、偶に見えるものよ。そうね、例えば4年に一度……かしらね。

それから、12匹の私のペット達を配置させていただきましたわ。どの子も私のお気に入りですから、平等に遊んでくださるのは私としても嬉しい限りですわ。
ですけど、あまりお勧めはしませんわね。正しい一匹以外にお痛されると、自動的に皆が怒り出してしまいますから。

それでは、皆様のご検討を祈りますわ。

解説

●成功条件
正しい兎を選び、その先にいるデクリオ級の従魔の討伐

●敵情報
12匹のウサギ
ミーレス級の従魔。
1,2,3,5,7,11,13,17,19,23,27,29の数字が背中に大きく示されている。
A市の中心地にあたる公園にいる。十二匹とも、集まってあまり動かない。仕草は普通のウサギ。

干支の動物
攻撃は物理攻撃のみ。
例外として、龍は火を吹く。
魔法防御<物理防御
正しい動物が討伐された場合、他の動物は消える。
誤った動物が攻撃された場合、全ての従魔が暴れ出す。
今の所、HOPEに取り囲まれているが十二匹とも全く動かない。
●状況
A市の十二方位にそれぞれ従魔が配置されている。数字の書かれたウサギは中央公園にて待機。
A市の住民の避難が進められている。

リプレイ

●A市警察署前
 冬とはいえ昼時の気温は温かく、思わず眠気を誘われそうな天気のA市は、かつてないピンチに陥っていた。どこからともなく現れた12匹の従魔に街を囲まれたのだ。住人避難や被害縮小への対策に、A市警察署内は心慌意乱、暗中模索、蛙鳴蝉噪、要するに大混乱に陥っていた。
 警察署の自動ドアが開き、署内の喧騒を後目に皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)、弥刀 一二三(aa1048)が現れる。皆月とラドシアスは、「赤の世界」や「赤の支配者」に関する情報を得るため、弥刀はインカムを借り受けるため警察署を訪れたのだった。
「……とりあえず、インカムは借りれて良かったどす」
 既に少々疲れた声で、弥刀が呟く。
「こんなに騒ぎ立てて、見苦しい……」
「まあまあ、二人とも。とりあえず、インカムも情報も貰えました」
 忌々し気に呟くラドシアスと、気疲れした様子の弥刀を宥めるように皆月が心持大き目に声をかける。
「情報と言っても、去年の冬辺りから台頭してきた謎のヴィラン集団ということしか分らなかったけどな」
「そやなー、ますます赤の支配者が何をしたいのかが、分からんなってしもたなあ」
 ラドシアスの淡々とした事実確認や、弥刀の困った様子と対照的に、謎解き好きの皆月はどこか楽しそうだった。
「……めんどくさい。俺は先に公園にいるらしい従魔を確認してくる」
 特に現時点での危険がないと判断したラドシアスは、目的地の公園へと足早に向かった。
「オッケー。住人の避難誘導終わったら向かうね!」
 皆月は遠ざかるラドシアスの背中に声をかけ、弥刀と共に避難誘導の手伝いに向かった。

●A市大通り
 避難誘導の方は粗方済んだのか、既に街の外へと向かう人数は疎らだった。
「ほれほれ、急ぐのだ。ご婦人」
 ピョコピョコと跳ねるようにして、老婆の荷物を持ちながら酉島 野乃(aa1163hero001)が老婆に声をかける。それに気がついた三ッ也 槻右(aa1163)も、老婆に駆け寄る。
「野乃。あんまり急かすなよ。お婆さん、慌てて転ばない様に……でも急いで」
「どっちなのだ!」
 三ッ也の理不尽な要求に、野乃が声をあげる。
 最後の住人誘導を終えると、三ッ也は公園へと向かった。

●中央公園
 中央公園のまさに中央部の広場に12匹のウサギがいた。一見するとただのウサギのようにも見えたが、背中に大きく浮かび上がった数字が、普通のウサギではないことを示していた。
「可愛いわね……触れたいな。でも怒らせちゃうと不味いのよね?」
 白髪の少女メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、葛藤と戦うようにウサギからそっと距離を置く。
「なんや、拓海やないか」
「やあ、ヒフミ。ん? キリルさんはどうしたんだ?」
 弥刀に声をかけられ、荒木 拓海(aa1049)はにこやかに返事を返す。一方の弥刀は、どこかぎこちない。
「……やぁ、あれやわ。興味ないみたいで……」
 弥刀の返事に、荒木とメリッサは示し合わせたように互いに見つめあい、頷きあう。
「ごめん。遅れた。あ、皆月さん。お久しぶりです。えっと、そちらは?」
 最後に広場へと入ってきた三ッ也は、皆月の後ろにいた二人の少女に気がついた。
「これで、皆さん揃いましたね。俺たちは顔見知りですが、始めましての方もいますし、自己紹介から始めましょうか」
 皆月の言葉に、白髪の龍角を生やした少女、姚 哭凰(aa3136)と青髪の女性、十七夜(aa3136hero001)が輪に近づく。
「そこの、お嬢ちゃんもこっち来ぃや」
 真剣な様子でウサギを凝視するセーラー服の少女、奈義 小菊(aa3350)に、弥刀が声をかける。奈義は慌てて顔を上げ、姚の隣に並ぶ。
「初めまして。荒木拓海と言います。こちらは」
「メリッサインガルズよ!」
「みんなで倒して無事帰りましょう」
 荒木の言葉を皮切りに、他のメンバーもそれぞれに自己紹介を始めた。
「それじゃあ、自己紹介も終わったし。謎々について考えましょう」
 どこか楽しそうな皆月の隣で、ラドシアスは辺りを警戒していた。急襲されないこともないからだ。
「まず、俺は3か17か29だと考えたよ。”ウサギの尻尾は『偶』に”って言葉から『偶数』と関連させて考えると、この数字の中で偶数は2だけでしょ? それから”ウサギを追いかけて”ということは、ウサギは自分達の『先』にいる……つまり「2」の先にある「3」かなって。あとは、ヒントの4年に一度って表現から、うるう年の2月が関係するのかなって思って調べたんだ。そしたら、月日にも干支が振り分けられてるってことが分かったんだ。それで、ウサギの卯が入る日はこの日と、ウサギの数字を合わせて考えたら2月3日以外ないみたいだし、3かなって」
 奈義は考え込むように腕を組み、何度か頷くと顔を上げて皆月に尋ねる。
「ふむ、なるほど。29日もヒントから考えたのだな?」
「うん、そうだよ」
「私も、同じ意見だ。さらに加えるなら、恐らく正解の動物は猿で、赤の支配者の言っていた”優しさ”は、正解以外の従魔は去る”優しさ”ではないかと考えた」
「うちも、考え方は大体同じようなもんやわ。ただ、4年に一度29日があるって意味で、答えは2やないかっちゅうんが、うちの考えどす」
「うん、2月なら4年に一度うるう年で尻尾が生える……」
 奈義とは考え方が異なるものの、弥刀も29ではないかと考えていた。弥刀の答えに荒木も同意を示す。
「あらあら、同じ答えを導くにしても色々な導き方があるものですわねぇ」
 姚の背後で話に耳を傾けていた十七夜は、口に手を当て驚いた様子を見せる。
「ふむ、考え方が似ていても今度は答えが違ったりもするとは、難儀だな」
 三ッ也の隣で何となくという様子で聞いていた酉島も、胸の前で腕を組み呟く。
「うん、十人十色とはよく言ったものですね」
 十七夜と酉島の言葉に姚もコクコクと、頷き同意を示す。
「うふふ、導き方が多種多様ってなぞなぞとしてどうなのでしょうね?」
 十七夜の言葉に、一同最悪の展開が頭を過る。
「まあまあ、悩んだって仕方ないですよ! お次はどなたですか?」
 メリッサの励ましに、続いて姚が手を挙げる。
「わたしは二人とは違って、赤の支配者が言っていた”我々の駒である”って発言に注目しました。この謎々は、不思議の国のアリスがモデルになっているように思われます。ところで、不思議の国のアリスには続編の鏡の国のアリスというお話があります。このお話では、アリスが白の歩兵として登場します。チェスのルールでは、歩兵は最初の一手で2マス進むことが出来ます。つまり、正しいウサギは2のウサギだと思います」
「へぇ……面白い」
「おい」
 姚の回答に、目を輝かせる皆月をラドシアスが諫める。
「本当に、色々と答えが出せそうで困りますね……僕も、答えは2じゃないかと思ってます。姚さんとは、考え方が違うのですが」
 そう言って、三ッ也は落ちていた木の棒を使い、地面に円を描き数字を書き込む。皆の囲む円の中に大きな時計の文字盤が現れる。
「まず、12の数字を時間に直して、時計の文字盤に当てはめます。例えば13は13時のような感じです」
「ちょっと待って。ウサギの番号が24までなら時間と思うけど……27・29時は無いよね?」
 三ッ也の答えを聞いていた荒木が疑問を口にする。
「ああ、それは……赤の支配者の”その日の内に解決してください”って言葉があっただろう? それで、24までの数字で考えるってことだと思ったんだ」
 とすると、と三ッ也は文字盤の横にウサギを描いていく。文字盤のウサギは1に2羽、2に3羽、3に1羽、5に2羽、7に2羽、11に1羽。
「随分数字が偏るの……でも決め手が分からぬ」
 酉島は文字盤を眉根を寄せて睨む。
「うん。ここでヒントの言葉を考えてみよう。手紙の優しさが、8343だとすると、現存するウサギで且1羽で居るのって……」
「あ! 2時のウサギだけ1羽になるのか……これなら他は2羽以上、もしくは居ないね」
「そう。だから、僕は2だと思う……って感じです。あ、あとは、4年に1度の文言は、一二三が言ったとおり、答えに対する別ルートでのヒントではないかと思います。2月なら確かに4年に一度しっぽが生えますし」
 荒木の言葉に、三ッ也は再び周りを意識して敬語に戻す。なぜか、荒木の他は誰も口を開かない。
「兎(2月)の尻尾(29日)は4年に1度だから2が兎……なるほど!」
「……仕事だからな?」
 三ッ也たちの解説に、皆月は楽しそうに手を打つ。ラドシアスの何度目かになる諫めの声は、皆月にはあまり届いていないのかもしれない。弥刀は、地面に描かれたウサギと数字を指さしながら再度三ッ也の説明を頭の中で反芻させていた。
「……ふぅむ。なるほどな」
 奈義も三人の意見に同調したのか、どこか晴れやかにも見える無表情で同意を示す。
「むー……頭が溶けそうや……でも、拓海と槻右の言いたいことは分かったで」
「それじゃあ、2ってことでいいですか?」
 姚の方も納得出来たのか、各メンバー同意を示す。

●答え合わせ
「ウサギが……もふっとしておったの……追いかけたかったの……」
「野乃、ダメ」
 三ッ也に諫められ、酉島の尻尾が分かりやすく垂れる。三ッ也と酉島は警戒として猿の所へと向かう。
「また、後でな」
 すっかり覚悟を決めた様子で、弥刀は共鳴する。次の瞬間、その場にいたはずの青年の姿は、ピンクの長いツインテールの美少女へと置き換わっていた。
「あたしがいれば大丈夫よ! ! 魔法少女フミリル、愛と勇気を携えて、あなたを折檻しちゃうわよ☆」
 少女は右足を左足の前に出し、左手は上空を、右手は眼前を指差し、日曜の朝辺りに活躍する少女さながらにビシッとポーズを決めると、完全に弥刀のものではない可愛らしい声で高らかに決まり文句を宣言する。気合い十分のフミリルは、呆気にとられた仲間達を残し、龍の元へと猛然と駆けて行った。
 残された仲間達は互いに目配せし、頷きあう。
「それでは、荒木さん。頼みました」
 皆月の言葉に、荒木はそっと2のウサギに近づく。見た目はただのウサギでも従魔であることに変わりはないのだ。
「頼む暴れないでくれ。戦いたくない…………チクタク」
 ギリギリまで2のウサギに近づき、小声で囁く。突然、2のウサギだけが天敵の気配でも察知したかのように、後ろ足で立ち上がり両耳を立てる。荒木は後ずさり、ウサギから距離をとる。荒木が離れると同時に、ウサギは走りだす。
 唐突に走り出したウサギに、皆月、姚、奈義が後を追う。ちなみに野ウサギの最高時速は70Kmともいわれている。一般人ならば、見失ってしまう速さだ。
 しかし、エージェントである三人はウサギを見失うことはなかった。ウサギに導かれ、たどり着いた従魔は牛だった。流石に、一般的な牛と比べると凶悪なまでに筋肉が発達しているようで、マタドールが操る猛牛のような体つきだ。
「二人とも下がって!」
 皆月の言葉に、姚と奈義は牛と皆月の直線上から飛び退く。
「皆さん、準備はいいですか?」
 イヤホンから聞こえる仲間の声に、皆月は照準を牛に合わせる。牛は全く動く気配がない。
(本当に、合っているのかな?)
 皆月の頭に一抹の不安が過る。
「皆月さん! 任せてください」
「大丈夫だ。皆、いる」
(覚悟は決まったか?)
 皆月は緊張で強張っていた顔を、破顔させ深く息を吸い込むと、しっかりと牛の眉間に照準を合わせる。発射された弾丸は、空を割いて牛の眉間で綺麗に弾ける。静まり返った街に響いた発砲音は、離れた場所にいた仲間たちにも十分に聞こえた。
「猿が、消えました……」
「龍も、消えはりましたわ」
「至急、そちらへ向かいます。三人とも、耐えてください」
「待ってください!」
 牛の方へと向かおうとする弥刀、三ッ也、荒木に皆月がストップをかける。
「A市中央通りで落ちあいましょう。そちらで牛を迎え撃ちます」
「「「「「了解!」」」」」
 皆月は先に中央通りへと向かう。その姿を視界の端に捉え、姚が牛を引き付けるため、前線へと躍り出る。
「こっちよ」
 共鳴し大人の女性へと変貌した姚は、威嚇射撃を牛に浴びせる。牛の標的は、姚一人となる。再び、アスファルトを高らかに鳴らし、牛は姚に突進を繰り出す。一度目の突進はマタドールのそれのように、躱す。第二陣に備えて、姚は体勢を整える。
(何、あれ……)
 姚の身体は宙を舞う。従魔である牛は、あまりに規格外であった。向きを変えることなく、後ろ向きに突進してきたのだ。
 姚は空中で体勢を整え着地するが、牛は既に姚に突進する構えを見せている。
 唐突に響いた発砲音に、牛は僅かに体勢を崩す。
「させない……!」
 先程から牛に狙いを定めていた奈義の、一瞬の虚を突いた一撃だった。しかし、その一撃により牛は新しい標的に、狙いを定め飛びかかる。牛の意図に気がついた姚が駆け出すが、その距離は離れすぎていた。
 突如吹き荒れた風とともに現れた黒い影。奈義と牛の間に現れたのは、三ッ也だった。
 迫りくる牛に、やや好戦的な笑みを浮かべ、三ッ也は烈風波で牛の巨体を後ろへと押し戻す。
「奈義。牛を中央通りまで連れてきて」
 インカムを通して聞こえる皆月の声に、奈義は頷き、牛に何発か発砲を繰り返し注意を引きながら走り出す。奈義を追って走り出す牛の両サイドを挟むように、姚と三ッ也が並走しながら奈義のサポートへと回る。
 インカムのイヤホンから聞こえる皆月の声もそこそこに、奈義は無我夢中で走る。最後の曲がり角を曲がれば、大通りは午後の日差しを浴びて、輝いて見えた。
「お疲れさまです」
「後は、任せて♪」
 大通りに既に待機していた二人の少女達(荒木、フミリル)は奈義とバトンタッチするように、突進してくる牛の前に立ちはだかる。
「悪い牛は、折檻だぞ☆」
 フミリルは守るべき誓を展開させ、牛の注意を完全に自分へと引き付ける。フミリルに向かって突進を繰り出す牛に、皆月、姚の威嚇射撃が浴びせられる。第一撃の突進がフミリルを襲う。フミリルは、軽く横へ飛び退り躱す。
「追撃来ます!」
 間を置くことなく皆月の注意が飛ぶ。ほとんど反射的に、フミリルは牛の第二撃を躱すのを諦め、真正面からライブスブローを叩きつける。両者、力が互角だったのか。牛の動きが僅かに止まる。
「ここまでです」
 三ッ也は、牛が追撃を繰り出すよりも速くハングドマンで牛の動きを拘束する。
「今だ!」
 皆月の合図に、それまで慎重に照準を定めていた奈義の銃弾が襲い掛かる。それに続くように、皆月のトリオが正確に牛の両目を潰す。
「さっきは、どうも」
 銃弾の嵐が止めば、いつの間にか牛の背後をとっていた姚が零距離から牛の背骨に、ストライクを撃ちこむ。
「終わりにしましょう」
 牛の真正面に長剣を構えていた荒木は、浅く息を吸い込むと素早く間合いに詰め寄り、牛の頭目がけて長剣を振り下ろす。牛はそれ以上動くことはなかった。

●不思議の国へようこそ
 牛が倒れたのを確認した後、すぐにエージェント達は他の従魔を確認して回った。しかし、どこの従魔も跡形もなく消え去っていた。結局、被害はまるでなく、最後に中央公園のウサギを確認しにエージェント達が集まりだす頃には、ちらほらとA市の住民達も普段の生活へと戻りつつあった。
「しかし、赤の支配者って何者でしょうね?」
「デクリオ級の従魔12匹がペット扱いだし、ケントゥリオ級の愚神だったりするのかもね。愚神が作ってるヴィランズもいくつかあるみたいだし……」
 共鳴を解いた十七夜と姚は、首を傾け僅かに深刻そうな表情を浮かべる。
「そういえば、ヒフミと皆月さんは警察に寄られていたんですよね。その辺り、何か聞きましたか?」
 荒木の言葉に皆月は残念そうに、首を振る。
「警察の方も、あまり赤の世界に関して分かっていないみたいでした」
「それに、あの時は混乱しすぎていたからな。情報収集どころではなかったんだろう」
 皆月の言葉を補うように、ラドシアスも頷く。
「そうでしたか……ヒフミは「拓海……」」
 弥刀へと質問の矛先を向ける荒木に、メリッサが荒木の袖を軽く引っ張り、引き留める。
「……やっぱケーキで買収するんやった……」
 荒木の視線につられるように、弥刀を除いた仲間達の視線が公園の隅で小さくなった弥刀の背中へと注がれる。あまりに、不憫だった。
「一二三」
 弥刀の背中を優しく叩いたのは、意外なことに奈義だった。
「……かっこよかった。と、私は思う」
 やや口下手な奈義の、精一杯の励ましだったのかもしれない。
「そうですよ。フミリルさんはフミリルさんで、とてもかっこよかったですよ」
 奈義のフォローをするように、皆月も同意を示す。他の仲間達も、それぞれに同意の様子を示す。それが本心かどうかはともかく、弥刀は照れくさそうに立ち上がる。
「そうだ! 今度謎解きカフェ行こうよ」
「謎を解けたお前の姿が全く想像できないが……」
「今なら解ける……気がする、たぶん!」
 皆月とラドシアスの会話に、その場の空気が緩む。
「おや? ウサギではないか」
 酉島の言葉に、その場が凍り付く。酉島の視線の先には、先ほどのウサギとよく似たウサギがこちらに向かって跳ねてきていた。エージェント達の鋭い視線が突き刺さる中、ウサギは真っ直ぐに十七夜へと向かってくる。
「あら?あらあら……ふふふ。皆さん、大丈夫ですよ。この子」
 ほら、と皆に見せるように十七夜は足元のウサギを抱え上げ、仲間達にその背中を見せる。
「数字がありません」
「……人騒がせな、ウサギどす……」
 脱力したように弥刀が呟く。
「それにしても、どこから?」
 メリッサが首を傾げる。
「待ってー」
 幼い少女が公園へと走りこんでくる。その視線から、ウサギの飼い主のようであった。
「……あ、ありがとう。お姉ちゃん♪」
 少女は、十七夜からウサギを預かると満面の笑みで去って行った。
「ウサギ、可愛いわね……ねぇ~うさぎ飼いたいな♪」
「イエ……当分ウサギは許してください」
 ウサギを大事そうに抱え、去って行く少女を見つめ、メリッサは荒木に提案するが気弱な返事ながら却下される。
「あれ? さっきの子が何か落としたみたいです」
 先ほどまではなかった、真っ赤な封筒を三ッ也が拾い上げる。
 ”赤”
 その色から、その場にいた者たちは凍り付く。
「……さっきの子、もしや」
「何が書いてある?」
 奈義が呟き、ラドシアスが三ッ也を急かす。三ッ也は慎重に封筒を開け、カードを一枚取り出す。

 アリスはケーキを食べる。
 大きくなった。
 小さくなった。
 小さなアリスは涙の川の中。
    ペットを返してくださって感謝いたしますわ。また、お会いしましょうアリスの皆さま。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃



  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 『成人女性』
    姚 哭凰aa3136
    獣人|10才|女性|攻撃
  • コードブレイカー
    十七夜aa3136hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 心頭滅却、人生平穏無事
    奈義 小菊aa3350
    人間|13才|女性|命中



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