本部

大根とライオン

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/15 19:45

掲示板

オープニング

●親父の哀しき独り動物園
 行楽シーズン。町の中心部からバスで20分ほどのこの小さな動物園にも多くの客がやってくる。親子連れやカップルの多い中、人気のあるライオンの檻の近くのベンチで浮かない顔をしているひとりの男がいた。
「はあ?私のこと何歳だと思ってんの?つか、今から友達と遊びに行くから」
「お父さん、暇なら大根買ってきてちょうだい」
 せっかくの休日に家族サービスでもしようと動物園のチケットを三人分買った。だが、もう娘の年齢は家族で動物園を満喫するような可愛らしいものではなくなっていたらしい。
「まだ中学2年なのに……」
 自分が中学生だった時代との激しいギャップを痛感しながら、仕方がないので一枚だけでもと男はチケットを消費しに訪れたのだ。けれどもやさぐれた親父ひとりでは1時間も経たずに動物園を1周してしまい、こうしてベンチで時間を潰している。ライオンの檻の前には人の石垣が形成されており、低い唸り声しか聞こえない。
「さて、そろそろ大根買いに行くか」
 夕暮れどき、男が重い腰をやっと上げたときだった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「きゃああああああああああああ」
 凶悪な雄叫びとともに多くの悲鳴がまさに、男の目の前から上がった。あっという間に逃げ惑う人々と、阿鼻叫喚の原因であるそれが男の視界を飲み込む。
「あ、ああ、あ」
 震える男を凶悪な目で捉えるのは、ライオンのようだがそうではない。ライオンより何倍も大きな身体と、毒々しい紫色のたてがみ、そして鋭い爪と牙、尻尾は蠍のように鋭く尖っている化物だった。
 怯えながらも、死を直感した男は思った。
「今日の夕飯は大根抜きだな。すまん」

●ひとつの動物園の終幕
『再度任務の確認を行う』
 能力者たちのつけた通信機器からHOPE職員の声が響く。
『任務内容はミーレス級従魔の駆逐。客や動物園の職員たちは一般人対応班が全員避難させたので存分に暴れてこい。残りの従魔の数や位置はこちらから指示する』
 HOPE職員は通信機器へ向かい、溜息を吐く。動物園内に付けられたカメラには檻の中の動物たちが次々と姿を凶悪なものへと変貌させる様子が映っていた。
『幸いというか最悪というか……。動物の心配はしなくていい、全て従魔だ。駆逐しろ』
「お父さん!!お父さん!!」
「お嬢さん!!危険ですから!!」
「放して!!お父さん!!」
 やれやれとHOPE職員が肩を下ろした時、今回の事件で司令室となった防犯カメラの監視室の外で激しいやり取りが聞こえた。HOPE職員が何事かと外へ出ると、一人の少女と一般人対応班の男が言い合っていた。
「おい、どうした」
 HOPE職員が男に尋ねると、彼は困り果てた様子で答える。
「それが……このお嬢さんが動物園の中にまだ自分の父親がいると」
「なに!?全員避難したんじゃないのか」
 嫌な汗がHOPE職員の背中を流れる。
「お父さんが動物園にいるのは確実なんですか?」
「避難者のなかにお父さんがいないの!!チケットがもったいないからって一人で動物園に行くって家を出たきり……私が家に帰って来てもまだお父さん戻ってなくて……ケータイも繋がらないし、きっとまだ中にいるの」
「おいおいおい……」
 HOPE職員は急いで司令室に戻ると、通信機へ叫ぶ。
『至急任務を追加する!!』
 現実は非情だ。
 その日、ひとつの動物園が幕を下ろした。

解説

●目標
 ミーレス級従魔の駆逐と逃げ遅れた男の救出

●登場
ミーレス級従魔『スクライディオン』多数
 身体はライオンの3倍ほどの大きさ。毒々しい紫色のたてがみを持つ。鋭い爪と牙、蠍のような尻尾で攻撃してくる。知能は無く、本能のままに襲ってくる。
 尻尾の針に当たるとバッドステータス減退(2)が付与される。

一般人多数
 動物園の客及び飼育員

一般人対応班
 HOPEの味方。一般人の避難誘導を行う。

HOPE職員
 防犯カメラをチェックし、能力者たちに状況の伝達や指示を通信機器を通して行う。

男一名
 ひとりで動物園を訪れていた男。大根を買いに行こうと動物園を出ようとしたとき、従魔が現れた。

●状況
 動物園敷地内は一般人の避難経路以外、既に封鎖されている。小規模の動物園であるが戦闘には十分の広さである。出入り口から最も遠い位置にライオンの檻がある。
HOPE職員が、敷地内の防犯カメラを通して残りの従魔の数等を指示してくれる。
ライオンの檻近くに男がひとり取り残されている。植え込みの中に隠れてはいるが、従魔に見つかるのも時間の問題である。

リプレイ

●動物園の出入り口の前
「大変だよカトリ兄ちゃん……よしっ、宇宙警備隊出動だっ!」
「了解だみらい、俺達の使命は人々の平和を護る事だ……この勇気の証しのブレスにかけて!」
 そんなやり取りをしながらブレスレットを掲げているのは宇宙 みらい(aa0900)とその英雄であるカトリ・S・ゴルデンバード(aa0900hero001)だ。
 一般人の避難も終了し、残るは逃げ遅れたという一人の男性の救助と従魔『スクライディオン』の駆逐であるという状況である。任務を遂行するため、能力者とその英雄たちは動物園の中を見遣った。園内は異様な空気に包まれており、スクライディオンのものと思われる唸り声や咆哮が断続的に響いている。
「こりゃ酷いな……」
「せっかくのお出かけだったのにあんまりです」
 園内の様子を想像し、五郎丸 孤五郎(aa1397)とその英雄である黒鉄・霊(aa1397hero001)が呟いた。
 そのとき、HOPE職員に連れられたひとりの少女がやってくる。
「お願いです……。どうかお父さんを、私のお父さんを助けてください!!」
 先程まで泣きながら職員の制止を振りほどこうと暴れ続けていた少女の目は充血し、泣き腫れてしまっていた。そんな少女に宇宙は声をかける。
「お姉さん。お父さんの特徴と、好きな動物とか動物園の思い出はない……あ、ありませんか? そう言う場所の近くで隠れてるかもって思って……」
「……お父さんの特徴……。眼鏡をかけてて丸顔で……あと、今日は緑のセーターを着てたと思う。好きな動物は……ライオン!そう、小さい時に私が動物園で一番かっこよかったから」
 必死に父親との思い出を呼び起こしながら質問に答える少女に、宇宙は優しく笑う。
「ありがとうございます。良いお父さんだね。あっ、僕の両親仕事が忙しくて、なかなか一緒に動物園とか行けないから。大丈夫、僕達が絶対お父さん助けてくるよ!」
「ありがとう」
 宇宙の笑顔に少女は幾分か顔色を良くした。
 その様子を見た虎噛 千颯(aa0123)は未だ少女の目に溜まった涙を腰を屈めてぬぐい去る。
「可愛い子ちゃんに涙は似合わないぜ……俺ちゃん達に任せておきな! ちゃんと親父さん助けてくるぜ!」
「ありがとうございます」
「それじゃひとっ走り、助けに行こうか」
 赤城 龍哉(aa0090)が腕を回しながら声を発した。
「お嬢さん、お父さんが戻ったらちゃんと伝えるべき事は言葉にするのよ」
 赤城の英雄であるヴァルトラウテ(aa0090hero001)は少女へと凛とした声で言った。少女はしっかりと頷く。
「その前に、作戦の再確認をすべきでござるな」
 虎噛の英雄である白虎丸(aa0123hero001)があらかじめ用意された超小型無線機を被り物のなかの耳へと準備しながら提案した。この無線機により、監視室からのHOPE職員による指示と能力者及び英雄同士の情報共有が可能となる。
「二手に分かれて園内を移動する手筈だ。ひとつは逃げ遅れた男性が取り残されているという、ライオンの檻を目指す組。もうひとつは徘徊するスクライディオンを引きつけ、対処する組となる。ぼくは後者を受け持とう」
 鶏冠井 玉子(aa0798)とオーロックス(aa0798hero001)が答える。
「私たちも敵の掃討にあたろう」
「私も五郎丸さん達と鶏冠井さん達と一緒に道中の敵を倒す班に行く。父親を捜し出して避難させるにしても従魔をあらかた討伐した後の方が安全ですよね」
 五郎丸、染井 義乃(aa0053)が続いた。
 これで組み分けは決した。
 動物園の最奥を目指し、少女の父親の捜索と救出を主として動くのは赤城・ヴァルトラウテ、虎噛・白虎丸、宇宙・カトリの六名。スクライディオンの討伐と救出のサポートにあたるのは染井・シュヴェルト(aa0053hero001)、鶏冠井・オーロックス、そして五郎丸・黒鉄である。
「スクライディオン……なるほど巨大な獅子か。肉食獣をベースとした従魔は、味の面では今一つだろうな。だが着目すべきは本体ではなく、尻尾の部位にあるとぼくは見ている。蠍は素揚げにしても中々に美味いが、いかんせん体が小さい故に食べ応えがない。その点、この巨大な獅子の尾であれば、通常のサソリの数倍の大きさとなるだろう。この鶏冠井玉子の、至高の食材群のひとつに加えるに相応しいと判断する。さあ、華麗に、そして大胆に捌きに行こうではないか」
 鶏冠井らしい明朗快活な語りは、なぜかその場の面々を景気づける。
 作戦は開始した。

●従魔の巣窟へ、突入
 予想だにしなかった形での初仕事は動物園での従魔退治、だけではないようで、相方にこの世界を色々と見せて回る一環で出かけた先で巻き込まれたことに五郎丸は深くため息を吐いた。
「こうなってしまった以上は仕方がない、やれるだけの事はやってみるさ。アイ、やれるね?」
「ご心配なく、記憶がなくともこの体が覚えています。ナイトフォーゲルの戦いをお見せしましょう」
 黒鉄は自信に満ちた面持ちで走り出す。それを見て、五郎丸はグランツサーベルとシルフィードを構える。その隣で染井がグリムリーパーをひと振りする。
「娘さんが一生の後悔を背負う前に助けにいきましょう」
「私は戦闘ができればそれでいい」
「ちゃんと、人命救助も手伝ってもらうからね」
「何で奥に向かうんだ?」
「いや、一人だけ逃げ遅れたって事は避難場所から遠くにいたからじゃないかと思って。ライオンの檻も動物園の最奥にあるでしょ? なら決まりだよ。娘さんのお父さんはそこにいる」
「なるほどな」
 まず、道を切り開くために五郎丸、染井、鶏冠井たちが先行する。動物園の出入り口ゲートをくぐり抜ける瞬間、鶏冠井はゲートの脇に置いてある園内マップを一枚くりゃりと引っつかんで行った。一瞬目を通しておおよその地形を把握する。そしてすぐにグレートソードを握り直した。
『十時の方向、来るぞ!』
「来る!!」
 無線機から監視室にいるHOPE職員の指示が飛んできたのと鶏冠井が叫んだ。同時に目だけに頼るのではなく、鶏冠井は耳をもフルに使う。多数のスクライディオンの咆哮もその大きさなどから距離感を掴む。目と鼻の先にはすでにスクライディオンがわらわらと群がっていた。
「はぁッ!!!」
 先行部隊が群れに突っ込む。五郎丸は一番手近なスクライディオンにシルフィードを振るった。
「ぐおおおおお」
 胴を斬りつけられたスクライディオンは唸り声を上げるが、体が大きいこともあり傷は浅い。
「っく」
「ゴローさん尻尾がきます!!」
「わかってる!!」
 自分に向かってくる鋭い毒針。五郎丸はグランツサーベルを巧みに操るとそれをギリギリのところで跳ね飛ばした。すかさず黒鉄が巨体の足元を攻撃するとスクライディオンは見事に地へ伏した。
「お前の図体はただでさえ目立つんだ、孤立して囲まれるなよ!」
「心得ています、敵が数と野性で来るならこちらは手数と連携で勝負です!」
 背を預けながらふたりはにやりと笑う。
「玉子!!」
「ふっふ、任せろ。獅子肉に用はない以上、変に気を遣わないでいい」
 オーロックスは五郎丸たちの位置を確認しながらスクライディオンをうまく鶏冠井のほうへと誘導する。鶏冠井はそれを正面からグレートソードで次々とぶった切る。一撃では倒せずともそのひと振りは確実にスクライディオンに傷を負わせており、さながら料理をしているかのようだ。敵が多いだけに囲まれることのないよう、ふたりはうまく連携を保っている。
 次々と敵を相手取る中、素早くディフェンスブーストを使用した染井が後に続く六名へと叫んだ。
「ここは私達に任せてっ……て、この台詞は危ないね」
「すべて倒してしまっても構わんのだろうというのは?」
「もっとダメ! どこで覚えてきたの?!」
 戦闘が始まり、目の色を怪しく変えるシュヴェルトの発言に染井は慌てた。
「しかし、普段自分じゃ狩りをしない雄ライオンでも、取り憑かれるとここまで凶暴化するか」
 前衛の脇を走り抜けながら赤城は苦笑する。
「毒は厄介ですわね。でも滅する事に変わりはありませんわ。参りましょう」
 ヴァルトラウテがそう言った瞬間、ふたりは共鳴する。救助対象の父親の居場所が定かでない以上、最も厳しい状況を想定し、可能な限り迅速に動物園の最奥を目指そうと考えたからだ。共鳴した赤城の前髪が一房銀色に染まり、左目の瞳の色が蒼に変わる。そして、ヴァルトラウテの纏う鎧が赤城の体格に合うように変形し装着された。
 彼らとほぼ同じタイミングで宇宙とカトリも共鳴する。
「急がなくちゃ、僕、お姉さんと約束したんだ、絶対お父さんを助けてくるって」
「ああ、人命救助が最優先だ……やるぞみらい」
「うん、カトリ兄ちゃん……共鳴合体ブレイブリンク!」
 その掛け声を合図に、宇宙の髪が赤く染まり、瞳の色も緑に変化する。それだけでなく、外見も高校生のような風体に成長し、宇宙服風の衣装に変わったのだ。
「俺たちも負けてらんないぜ!」
「ああ」
 虎噛と白虎丸も共鳴すると、虎噛に虎耳とホワイトタイガーのような尻尾が生え、瞳が金色に変わった。服装は武芸者のようだ。
『千颯……』
 ライオンの檻を目指して走るなか、白虎丸がふと呟いた。
「白虎ちゃん、その先は言わなくてもわかってるぜ。俺ちゃんだって可愛い子ちゃんが悲しむのは嫌だしな!」
 意気込みながら虎噛はグリムリーパーを握り直す。
『いや……この世界のライオンはこんな形してるのだな…』
「えー!? そっちっていうか違うぜ? 白虎ちゃんあれは従魔だろ! こんな時にまでボケなくいいからな!?」
 思わず突っ込みを入れながら、虎噛はこちらに気付いたスクライディオンを一体薙ぎ払った。
 共鳴した父親捜索・救出班が猛スピードでライオンの檻を目指し進むのを見届け、従魔殲滅・救出サポート班も遅れを取らぬように数と連携でスクライディオンを着実に仕留めていく。
 しかし、巨体の群れはまだ半分も殲滅しきれていない。

●ライオンの檻
「さぁて、従魔ども。俺たちが相手をしてやるぜ、掛かって来い!」
父親を捜索するにも、まずは檻周辺にいるスクライディオンを殲滅することが先決であると判断し、赤城がコンユンクシオを構える。そして大声で叫んだ。
「とりあえず騒ぎが収まるまで隠れててくれよ!」
 父親が近くにいるならば聞こえるはずだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお」
 父親の代わりに雄叫びを上げたスクライディオンが五頭、赤城たちに向かって突進してくる。
「うおっと」
 敵の強靭な爪による一撃を交わしながら、赤城はコンユンクシオを振るった。毒のある尻尾を優先的に狙い、大剣で切り落とす。
「叩き斬り甲斐のある図体だな」
 口角を上げる赤城の背後に迫る爪を、虎噛がグリムリーパーで切り落とす。そのままふと、虎噛が一頭のスクライディオンを目に止めた。
「ん?」
『どうした? 千颯』
「あれは……」
 そのスクライディオンは檻の近くの茂みにゆっくりと近づいている。まるで狩りをするライオンのようだ。そいつに最も近い位置にいる宇宙へと虎噛は叫ぶ。
「みらい君! 救助者だ!」
 瞬時に宇宙はそのスクライディオンへと接近するが、その凶悪な牙がまさに茂みへと突き立てられようとしていた。
「間に合えッ!!」
 宇宙は盾を構えて突撃した。
 間一髪のところでスクライディオンの体を茂みから離す。
「お前達の好きにはさせない、僕はあのお姉さんもお父さんも笑顔で迎える、そんな未来を諦めない!」
「ぐおおおおおおおおお」
 狩りを邪魔された怒りの咆哮を上げながら、爪を振り下ろすスクライディオンの一撃をシルバーシールドで受け止める。
「ブレイブソードチャージアップ……アストロフィニッシュ!」
 リンクコントロールして放たれた一撃はスクライディオンに絶命の叫びを許すことなく真っ二つに切り裂いた。
「みらい君、ナイス!!」
 虎噛は茂みへと駆け寄る。
 案の定、そこには気を失っている男の姿があった。眼鏡で緑のセーターを着ていることからも、少女の父親で間違いない。
「やるな、おまえ」
 赤城は宇宙を一瞥し、声をかけると目の前の敵を切り伏せ、無線機へと手を当てる。
「父親が見つかった。生きている。これから脱出に移行する」
『了解です』
 染井の声が無線機から返ってくる。
「途中で別れた別班の仲間と合流するまでは、2人で警戒を分担、残る1人が父親をカバーしつつ移動する」
 そう言いながらも、赤城はコンユンクシオを振るう。この場に残るスクライディオンはあと三頭だ。
「じゃあ、このままの流れで移動だな」
「はい!」
 父親の体は虎噛が抱え、宇宙が敵前へと躍り出た。しかし、敵は三頭である。赤城と宇宙が善戦を尽くしても、父親と虎噛へとスクライディオンの脅威は迫った。
「くっ!! 俺ちゃん庇うなら可愛い女の子が……」
 そう言いつつもしっかりと虎噛のグリムリーパーは敵の爪を防ぐ。
『千颯……』
「嘘! うーそ! うそです! 助けを求める人なら誰でも俺ちゃん手を差し伸べるぜ!  白虎ちゃんだからちょっと威圧するのやめない? 俺ちゃん泣いちゃうよ? 俺ちゃんと飴ちゃんって似てね?」
『そうだな』
「白虎ちゃん冷たくね? 冷たくね白虎ちゃん?」
『今は戦いに集中しろ』
 戦闘中でもこのような会話が飛び交うのはこのふたりの強さの証明でもあるのだろう。しかし、爪の後ろからは毒針が容赦なく襲ってきた。
「おらッ!!!」
 尻尾を切り落としたのはシュヴェルトだった。
「無事に合流できたみたいだな」
 ほっとする虎噛に抱えられた男を見て五郎丸が呟く。
「逃げ遅れた父親ね、なんで一人でこんな所に……とは考えるまでもないか」
「当たり前の大切さやありがたさって忘れてしまいがちですからね、取り返しがつく内に何とかしましょう」
 黒鉄、染井、鶏冠井、オーロックスも合流する。それを確認すると、赤城が再び無線機へと声を投げる。
「先に父親を引き渡す。敵の少ないルートを教えてくれ」
『わかりました……。しかし、敵が徐々にそちらへ向かっているようです!!』
「遠足じゃないが、帰り着くまでは油断禁物だな」
 改めて、赤城が言った。
「俺が抑える。その間に抜けてくれ」
 その言葉に、合流した六名が答える。
「じゃあ僕らも共鳴といくか!」
「そうだね」
「ああ」
 鶏冠井とオーロックス、染井とシュヴェルト、五郎丸と黒鉄が一気に共鳴した。
「じゃあおっさんは俺たちが無事に送り届けてくるぜ」
「任せてください!!」
 監視室からの指示に従って、虎噛と宇宙は父親を抱えて出入り口へと走り出す。
「それじゃま、後片付けと行こうぜ!」
 赤城の一言で、全員が敵の殲滅へと再始動した。
 比較的軽量な武器を携える五郎丸が着実に敵の体力を削ぐと、染井、鶏冠井、赤城の大鎌と大剣、そして直刀が猛威を奮う。次々と敵は殲滅され、十分も経たないうちに無線機から『全敵、撃破です』との連絡が伝えられた。

●動物園の終幕
 取り逃がしがいないか周囲を確認しつつ、染井や五郎丸、赤城、鶏冠井が動物園のゲートをくぐると、虎噛がケアレイを父親に使用していた。
「俺ちゃんってば癒し系じゃん?」
『千颯……気持ち悪い事言ってないで早く回復だ』
「ん……うう」
 小さく唸ってから、父親がゆっくりと目を開ける。
「よかった……」
 染井が嬉しそうに胸を撫で下ろすと、皆もほっとしたように共鳴を解いた。
「親父さん、夕飯に大根が必要だというのであれば、必ず入手して帰らねばなりません。生で良し、煮て良し、蒸して良し、炒めて良し。考えただけで夢が広がる良食材、大根。
一度それを食べると決めたのなら、従魔に襲われた程度でそれを諦めてはなりませんよ」
 未だ呆然とする父親に語る鶏冠井にオーロックスが頭を掻いた。そこに宇宙が駆け寄る。
「お姉さん、凄く心配してたよ、早く安心させてあげよ。あっ……、後これ大根」
 にっこりと笑いながら父親に大根を渡す宇宙に五郎丸が目を見張る。
「そんなもの……いつも間に」
「生きてさえいれば、大根も買えるし、普通のライオンも見る機会があるよ。まぁ、大根はみらい君が持ってたけど……。今度は、のんびりと過ごせるといいですね」
「はい、ありがとうございました」
 染井が微笑むと、父親はようやく状況を理解したように深く頭を下げた。
「お父さん!!!!」
「みき!!」
 少女が父親へと駆け寄る。無事に再開できたことに涙を流すふたりを見ながら、五郎丸が「よかったな」と呟いた。
「ゴローさん、尻尾と耳が嬉しそうに揺れてますよ」
「う……」
 黒鉄に笑いながら指摘され、五郎丸は少しだけ頬を赤くした。
「お嬢ちゃん」
 虎噛は少女を呼ぶと、その小さな手にに駄菓子を渡す。
「年頃かもしれないけど、偶にはデレてあげないとデレたい時に親は無しなんて事あるかもしれないからな。後悔だけはしないようにな」
「……はい」
 少女は強く頷いた。
 こうして、無事に親子は家へと帰ることができたのだ。大根を持って。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090

重体一覧

参加者

  • エージェント
    染井 義乃aa0053
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    シュヴェルトaa0053hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • エージェント
    宇宙 みらいaa0900
    人間|12才|男性|攻撃
  • エージェント
    カトリ・S・ゴルデンバードaa0900hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
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