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我は最強愚神也。
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歯を食いしばれよ最強(以下略
最終発言2016/01/27 21:59:14 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/24 19:32:12
オープニング
「この我に刃向うとは良い度胸だ。その度胸に免じて貴様のライヴスは我が頂く」
1人の侍みたいな格好をした愚神が静かにそう呟く。片手には刀を携え、その刃先がギラリと光沢を放つ。
「チッ! クソ! 俺も……ここまでか」
「……!」
その愚神。侍の最後の一撃で相手をしていたエージェントはなす術もなく倒れた。そしてそこから放出されるエネルギーの供給源。ライヴスを捕食する。
また1人。この世から能力者であるエージェントが消え去った。少し由々しき事態。しかし我と名乗る侍。愚神はそんな事には目もくれない。そして一言呟いた。
「我は最強愚神也」
――場所はH.O.P.E.東京海上支部。既にプリセンサーが反応し、敵のドロップゾーン形成を確認した。事態はこれまでにない緊張で張りつめていた。
「良いですか? 皆さん。今回の敵は愚神です。しかもゾーンルーラーとして非常に強力な輩となっております。ただ、相手は倒したエージェントをライヴスの供給源としているのでこちらとしても慎重に事を運ばなければいけません」
H.O.P.E.の職員は実に淡々とした口調でそう言った。しかしそこに集まったエージェント達は沈黙でそれを跳ね返す。そんな複雑な錯綜の中、話は進む。
「そこで今回の任務は既にご存知の通り、少数精鋭で相手の愚神の殲滅に対応して貰います。出来るだけ迅速に、かつ被害を最小限に抑えて」
その時、職員である説明していた男の携帯電話が鳴った。そこにいる誰もが嫌な予感がしたのは言うまでもない。
幾らかの経緯を聞いていた男は深い溜め息を吐くと手にしていた携帯電話を切った。そして言う。
「――遂にもう最後のエージェントも敵の手中に落ちました」
つまり、それはそのエージェントの死を意味していた。その場の沈黙が少し焦りを帯び始める。どうやら敵は予想以上に手強い様だ。
「もう躊躇している暇はありません。ここに集まっている皆さんの覚悟は承知の上で申し上げます。どうにかして相手を倒して下さい。やり方はお任せします」
「――ただ……」
職員の男はそこで一度言葉を切った。そして躊躇いがちに続ける。
「命の保証はないものと思っていて下さい。相手は自らを最強の愚神と名乗っているほどです。場所は埼玉県に位置する秩父の山岳地帯。情報によりますと相手は己の強さを求めている好戦的な輩です。今ここに集ったあなた方がやられれば相手はまたそのライヴスを奪い一段と強くなります。その場合、また新たな援軍を呼ばなければなりません。なので……」
職員の男は最後にこう言いきった。
「今ここにいるあなた方が頼りです」
解説
今回もバトル的展開です。しかし至ってシンプルな筋道です。相手の愚神を倒せばいい。ただそれだけです。しかしその代わりそれぞれの思考や思惑が錯綜していく。そんな所を楽しんでいただければなと思います。因みに相手の愚神の目的は以下の通りです。
・ドロップゾーンの形成はしているが、より強い者を求める為に生まれてきた。その欲求は戦闘のみ。
・ゾーンルーラーとは言え、そこにある地形を変えたり相手を惑わす事は一切しない。従魔や愚神を呼び寄せる事も無い。
・相手が何人いようが構わない。逆にその分ライヴスを補食、あるいは吸収し強くなれると思い込んでいる。
・汚い手は使わない。侍の如き思念で己の愛刀一本で勝負する。
H.O.P.E.職員の鼻を明かすド派手な戦いを展開してみせましょう!
リプレイ
エージェント達6名は既に現場に到着していた。
自らを最強などと名乗る厨ニ病的思考を持つ愚神打倒の為にわざわざやって来たのである。
今回の任務は至ってシンプル。相手を全力で倒すのみ。
そこで彼等6名が少数精鋭として作戦を練った結果――次の様な役割分担になった。
・前衛:赤城 龍哉(aa0090)・ヴァルトラウテ(aa0090hero001)、ヴィント・ロストハート(aa0473)・ナハト・ロストハート(aa0473hero001)、宇津木 明珠(aa0086)・金獅(aa0086hero001)
・中衛:晴海 嘉久也(aa0780)・エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)
・後衛:餅 望月(aa0843)・百薬(aa0843hero001)、新星 魅流沙(aa2842)・『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)
「最強の愚神か、言ってくれるねぇ」
「それが真実かどうかはさておくとしても、強敵には違いありませんわ」
「それこそ望むところって奴だぜ」
赤城とヴァルトラウテはいつもの通り。その強敵を相手にしても怯む気配はない。
「最強……ですか。何を以って最強とするかは分からないけど、私からすれば何でそんなものを求めるのか理解出来ません。奪う事で得る強さなんて……結局は孤独と虚しさしか生み出さないというのに……」
そう言うナハトの頭に手を置きながらヴィントは言葉を綴る。無論、奪うだけの強さ云々に対し。
「なら、その奪う相手を違えなければ良い……。それに……今のお前は独りじゃない」
ヴィントの返しにナハトは感激しさらに言葉を綴る。
「っ!!……ありがとう」
「さて……それじゃあ、最強を謳う愚味な愚神と一つ殺し合いと洒落込もうか……。尤も、殺す側は俺達で奴は殺される側だがな……」
「最強……くだらない」
「久々に思いっきり壊せるな」
ボソッと呟いたのは能力者の宇津木。対照的に豪胆な言葉を吐いたのは英雄の金獅だった。
目的はもちろん例の愚神の討伐及び破壊だったが、英雄の金獅は破壊欲求を満たす為。そして能力者の宇津木はと言うと実は興味2割付き添い8割だった。
特に宇津木に関しては『最強』とか厨ニ病っぽいこと言ってる人は嫌いだが、愚神の持つ侍の如き思念には興味がある。
「汝愚かしき故に愚神かや。って、とこですかね?」
「あら、難しい言葉を知ってるのですね」
「いや、これはあくまで造語です。エスティア」
晴海とエスティアは今回の件に関して、純粋に力勝負をお望みかと最初は思っていたが、相手の愚神がゾーンルーラーで策を弄さない分、こちら側も取れる手段が減るのでそれだけは事前に注意して挑むつもりだ。
「最強か、ま、トリブヌス級やましてやレガトゥス級って事はないでしょ。本当にアンゼルム達より強いってのならやりがいもあるし、みんなも先日の作戦から見かけてる面々だね。頼もしい限り」
『最強はワタシ』
「うん、百薬のその自身も良く分からないけどね? 当然やられる気はないよ、ここでこの事件は終わりにする」
元気な少女。餅は、最初から勝つ気満々。
英雄の百薬はと言うとその飛べない天使の容姿に似合わず自分こそ最強だと自負していた。
「勝手に埼玉を無法地帯にしないでください。単なる普通の都心のベッドタウンです!」
「『あのサイタマ』の刀使いか……油断はできねえな。日本じゃ有名な魔境だ……え、違うの? オレの知っているサイタマはもっと世紀末マッポー的アトモスフィアだった……似てるようで世界って違うのな……」
「……愚神の考えは理解できませんが強敵という事はわかります。でも、その強さを私は認めたくありません。だから、戦います」
魅流沙もその名を貰った英雄のシリウスも意思や目的は同じだ。
――今回の目的は戦う事。ここにいる全てのエージェント達の想いをそれぞれ胸に刻んで戦いの幕は切って落とされた――
「……援軍か」
山岳地帯にあった洞穴の奥深く。そこに愚神はいた。周囲にはライヴスを捕食した屍が転がっていた。
名も無き愚神は呟く。侍の様な格好をして正座。目の前には愛刀が一本。
背には唐傘が据えられ腰は帯で締め括られていた。和装の着物の施しに頭上にはすげ傘を被っていて素顔は見えない。
本物の武士道精神を己に宿した愚神だった。
共鳴状態の宇津木と金獅は銀髪、金眼の妖艶な美女となっていた。
背には幻の白い蝶の羽が見え、高いヒールに踊り子の様な露出高めの服装、上半身の左側に金属めいた刺青が入っている。
彼女は言う。
「我は死を呼ぶ蝶。故あってその命頂戴する。さあ汝も侍なれば名乗りをあげよ」
戦闘前に侍の如き思念に礼を尽くす意味、名乗り合う事で愚神の最期を侍として終わらせる意味、攻撃を自分に集中させる意味。それが彼女の思惑だ。
「我は最強愚神也」
「……フン。そうか、ならば仕方ない。汝の命。我が滅する」
共鳴状態の宇津木と金獅がそう言うと、セカンドに控えていた共鳴中の赤城とヴァルトラウテが静寂を破る。
「さぁて、それじゃ始めようか!」
相手がゾーンルーラーである以上、今の状況を全て信用する訳にはいかないが、さりとてそれを覆す手段がある訳ではない。
正々堂々やるって事ならそれで良し。
戦闘は始まった。
ゆらりと立ち上がった侍の如き愚神はやはり刀一本で攻めてきた。
幾人もの人々を死に追いやった血の臭いのするその刀には呪われし死者達の怨念。
つまりライヴスが幽鬼の如く宿っていた。
前衛である赤城とヴァルトラウテ、ヴィントとナハト、宇津木と金獅は素早く対象を囲む様に陣を組み、その基本的な立ち回りは愚神を三方から取り囲み、多角的に同時または時間差も交えて攻め立てる。
ライヴスを得る事で強大にはなっているだろうが、それで剣技が革新的に進化する訳でもないはず。
それを踏まえた上で愚神の動きの癖等を読み取りたいところ。
そんな思考を模索している中、相手の愚神は容赦なく間合いに詰めてきた能力者と英雄6名を薙ぎ払う。
その所作は掴みどころがなく、素早い。あの長い刀が有益に働いてる事は明白だ。
「なるほど。刀一本でやって来ただけの事はあるか。だが、まだまだこれからだぜ」
共鳴中の赤城とヴァルトラウテは真剣勝負で自分の立ち位置を確かめる。
ジリジリとした間合いを保つ間、時は流れる。
敵の攻撃を出来るだけ無力化する為に作戦上援護へと回っていたリンク中の宇津木と金獅は立ち止まらない。
負傷者は未だ出ていないが、それを庇う為にディフェンスブーストを発動。活性化中、味方全員の物理防御と魔法防御が上昇。
前衛で敵を取り囲んでいる間、相手から最も狙われやすい位置。
つまり中衛の晴海とエスティアは主に前衛の支援だが、そのまま足を止めずに包囲の周りを回る様に移動しつつ、味方の攻撃の戻りを利用して味方を射線に入れない様に注意しつつ愚神の踏み込んだ先や手元を狙って牽制。相手の強打を封じる。
最初はちょっと引き気味に様子を見ていた後衛の餅と百薬はいきなり前に出て攻撃を受けやすい味方から順にリジェネーションを一気に2回発動。
最もダメージを受けやすい中衛の晴海とそして好戦的な赤城に治癒の光が纏い始め、一定時間治癒し続ける。
魅流沙とシリウスも既に共鳴。シリウスは助言と激励役。魅流沙は前に出る宇津木と赤城と連携し遠距離攻撃で支援。スキルは数が少ないので温存。
1対多数のこの状況下で同士討ちだけは避けたい。
相手は単調な攻撃の割にその分隙が無い。
敵の懐へと忍び込もうとしても即座にあの長い刀が横薙ぎに飛んでくる。
刀での一撃は致命傷になりかねない。今まで喰らってきたライヴスの影響かより強靭にして凶悪な一撃が待っていそうだ。
そこを何とかするのが今回の任務。相手の殲滅。油断は出来ない。
一挙手一投足が問われる中で、愚神とエージェント達、英雄はまた動き出した。
一定の間合いを取っていたかと思っていたら、愚神は急に動き出した。飛び跳ねる様な勢いで敵味方陣営の中心部。
前衛を振り切り、晴海の方へと突っ込んできた。戦闘も中盤に差し掛かった頃、遂に相手も焦れてきたのか勝負に出た。
しかし、晴海は冷静だった。
彼はその斬撃をクリスタルファンで受け、さらに真後ろに下がらない様にしつつも牽制を振り、そして飛び退きながら前衛と入れ替わって再包囲する。
ヴィントとナハトが共鳴。
「貴様の命は貰った」
左肩から左腕全体にかけて鮮血に染まった様に紅い悪魔を思わせる異形の腕へと変化した共鳴時のヴィントとナハトは攻撃のタイミングを僅かにずらしフェイントを入れながら攻撃のパターンを読まれない様に意識。
相手に防御の隙が出来たその瞬間、トップギアで溜めていたライヴスを高めた疾風怒濤を叩き込んだ。まるで修羅の如き狂笑を浮かべながら。
愚神がよろめいたそのタイミングを見逃さなかったのは共鳴中の赤城とヴァルトラウテだ。
「俺はヴィントと同じくらい強いぜ」
愚神に絶望的な精神的ダメージを誘発させる為、敢えてそう言った共鳴中の赤城とヴァルトラウテはこの機を勝負所と見なした。仲間への信頼を糧として全力戦闘。
「功を急ぐな。それとも汝は名乗りの意味も知らぬ様な雑魚か?」
敵の眼前に常にいたリンク中の宇津木と金獅も挑発し派手に攻撃。敵の意識を自分に集中させる。次の瞬間、愚神の反撃が始まった。
今まで愚神の前に倒れたエージェント達の溜め込んでいたライヴスの量を発散させるかの如き斬撃を五月雨の様な速さで発動。
その動きは誰の目にも止まらず、容赦なく切り刻む。
トップギアでライヴスを溜めていたのは敵も同じだった様だ。
「我は最強愚神也」
前衛の中でも最も近い位置にいた共鳴時の宇津木と金獅が負傷した模様。だが――
「そうこなくては。やればできるではないか。さあもっと楽しませろ?」
負傷しても挑発的な笑み、その口調は変わらない。まるで痛みを感じていない様だ。
しかし事態はそこで思いもよらぬ展開へと発展。
追いつめられた愚神は遂に己の本領を発揮した。
「我は最強愚神也」
愚神は懐の帯に仕舞い込まれた本来使うつもりがなかった小刀を使うはめになった。3つ取り出すと、周囲に取り囲まれる形となっていたエージェント達の中心部で高く跳躍した。そしてその小刀を四方に投げる。
その3つの小刀が地面に突き刺さりエージェント達を取り囲むと、不意に謎の紋様を刻んだ魔法陣なるものが出現した。
「――な!?」
その3つの小刀にはライヴスのエネルギーが纏っていたのは言うまでもない。そこからは死者達の怨念なる異様なオーラが封じ込められていた。
「我は最強愚神也」
跳躍したまま、愚神は己の長刀を振り翳し、天空へと掲げた。そのままの体勢でトップギアを発動。
そして先程の異様なオーラを纏っていた魔法陣の結界がそこへと誘発され弾かれた様に破砕。周囲を愚弄するかの如く解かれ、そこに封じ込められていたライヴスがまるで生き物の様に刀へと集束していく。
それはこれまで自ら殺めた死者達と共鳴、リンクするかの如き凄まじい勢いで爆発を起こし、雷光の様なスピードで異様に歪んだライヴスが愚神である侍の配下になったが如く、その本体へと注がれる。
「我は最強愚神也」
そのままの体勢で愚神は己の長刀の刃先を地面に突き立てるが如く振り下ろすとあまりにも強烈なライヴスのオーラが一瞬にしてエージェント達が創り上げた陣形の中心で閃光を放った。
激しく衝突して巨大な爆発音が辺りを包み込み全てを破砕する。洞穴内で轟音が鳴り響いた。
それは彼等が何とかして保っていた陣形が破壊された、脆くも崩れた瞬間であった。
だが、恐怖と戦慄は終わらない。圧倒的強さを自負している愚神の反撃。及びカウンターは最悪の結果となってその死神の鎌を振り下ろす。
「い、一体何が!?」
後衛にいた餅が何とかその場に広がった土煙をゲホゲホ咽ながら振り払い、一番最初に声を上げ立ち上がると、更なる異様な雰囲気に慄いた。
先程、出現した謎の紋様。曼荼羅を模した魔法陣はそのままに、破れたはずの結界が再構築されていたのだ。つまり彼等はその異常なライヴスの結界に2度も閉じ込められたのである。
不意に襲ってきた不覚――! とは言え、あの一瞬の出来事の中、相手の動きも予測出来ない状態で誰が自らの役割、及び陣形を崩してまで奴を止められただろうか?
しかしなぜ壊れたはずの愚神が自ら破壊した形となった結界がまた再構築されたのか? 理由は至って単純。だが、現実は時に残酷なのだ。
愚神は己のライヴスを利用した。それも自らを糧としたつまり今まで喰らってきたエージェント達のライヴスを捕食し、彼等に私怨が宿っている事に気付いた。
それは戦慄、恐怖、憎悪、懺悔、殺意。その塊をライヴスとして己が境地。つまり強さに変換したのだ。
それこそ最強の愚神として。そして編み出された必殺の陣形。エージェント達にとって最凶最悪の布陣。その中心に今、侍の如き愚神は立っている。
これが絶体絶命のピンチだとは誰も思わないだろう。寧ろチャンスのはずだ。何せ自分達の陣形の中心に直立不動で目の前に敵は隙だらけでいるのだから。
だが、今エージェント達は驚愕で身動き一つ出来ないでいる。金縛りと言う生温いものではない。不動明王を前にした時の絶対的なイニシアチブの差。
それもそのはず。先程の3つの小刀は未だ周囲の地面に突き刺さったまま。つまり死者達の怨念はまだ消え去ってはいないのだ。
そして愚神は降り立った。自らの布陣。その最強と自負する陣形のそれも相手であるエージェント達の陣形に割り込む形で。その間合いは既に愚神の刀一つ分。
そこで先程の曼荼羅。怨霊達が蔓延る魔法陣がほぼ強制的に誘発され連続して結界が構築される。
怨念を利用した殺陣。愚神独自のリンク、共鳴――
その過去に戦ってきたエージェント達の鬼気迫るライヴスをただ強さと言う信念のみで耐え、確実に相手を死へと誘う魔境の域の陣形として変換、そして自らに課したライヴスのパワーは絶大だ。
正に侍の如き忍耐力。エージェント達の策を逆手に取った。つまり自らの身体を囮とし相手の油断と隙を誘った。
そしてその張本人である愚神。侍の格好をしたこの呪縛の結界の長を倒さなければこの結界は何度でも愚神の思う通りに再構築されるのだ。
――無限故に無敵。このサイクルとカラクリは身体的苦痛もさることながらその精神的ダメージは大きい。思わず発狂しそうになる中で戦うしかない。
無論、この限られた空間の中で。
「み、皆さん! 大丈夫ですか!?」
崩れた陣形の中衛にいた晴海は無事だった。声には出してないがエスティアも傍らに寄り添う様にして立っていた。
しかしそこで奇妙な声が自らの耳朶を打つのに気付いた。
――や、やめてくれ! ……い、命だけは……! グアアアア! キャアアアア! 俺も……ここまでか……――
「な、何だ!? これは」
次にそれに気付いたのは共鳴中の赤城とヴァルトラウテ。
これは愚神が打ち取った捕食したライヴスの最期の時がある種の呪怨となって曼荼羅の如き魔法陣から解き放たれた数々の魂の思念体。
それは今、ここにいるエージェント達に矛先として向けられた。死者達の叫び声が木霊する。奇妙な嘲笑と共に。
――フフフフ。フフフフ。フフフフ――
「ク、貴様……!」
「まんまとしてやられたな……これは結界か?」
リンクしたヴィントとナハト。そして宇津木と金獅は最前線にいたにも拘らず、無事だった。戦いの序盤。念の為に放ったディフェンスブーストが功を奏した。
「私達はどうやら大丈夫……の様です!」
シリウスと魅流沙も共鳴していた為、なんとか持ちこたえていた様だ。
餅と百薬はチョコレートを噛み砕きながら、己のライフ回復に専念。先程の攻撃で負傷した宇津木と金獅にケアレイを発動。
仲間達は全員無事だった。しかし最悪な状況に変わりはない。
そして愚神が立つ結界の中心部。その周囲を自我を失った怨霊達が次々とその姿を変えて出現する。
自らを最強の由縁とした侍はその怨霊達の姿を全て自分の影武者へと変えていった。幻へと。
そして愚神本体とその影武者達はまたも身構える。トップギアでライヴスを極限まで高める。
情けありし容赦ない。残ったのは屈辱の二文字。
「我は最強愚神也」
死闘。この絶望的な状況下で最初に言葉を放ったのは激励を買って出た共鳴中のシリウスだった。
「強敵だが……まぁ勝てない相手じゃねえな。慢心もすぎる。本当に一匹狼の強者なら引きこもりなんてせずに、堂々と出歩いて喧嘩うってきてるさ」
「で、でも……今、私達は敵の手中にまんまと踊らされたのですよ! このままじゃ……」
「……あと、心が折れそうな時もな。ビビるな。アレで最強愚神を名乗るなら、お前の使ってる刀は最強の破壊神だってんだ。……自分と仲間を信じろ!」
「甘いもので集中力を高めるのはエージェントの間で流行ってるのよね」
『気合いが乗ります』
餅と百薬もチョコレートを完食。既に覚悟は決めた様だ。
そして晴海とエスティアも絶体絶命の中リンク。その体格は2メートルを超えた鋼の肉体。髪は燃える様な真紅。魂を突き刺す鋭い紅蓮の瞳。
「最強は我だ。汝こそ覚悟は良いか?」
「これは余裕所の騒ぎじゃねえな。敵さんはマジだ」
共鳴中の赤城とヴァルトラウテも完全本気モード。最終決戦へ向けて。
愚神への興味が未だ沸き立つ共鳴中の宇津木と金獅は寧ろこの状況下を喜んでいた。
「最強が聞いて呆れるな。我の様な女ひとり折れぬとは。興ざめだ」
挑発的態度はそのままにAGWのライオンハートを身構える。
「フハ、フハハハ――!」
所謂『興が乗った』状態。アドレナリン過剰分泌。リンク中ついに、ヴィントの意思は狂人化した。つまりこの愚神に興味を抱いた様だ。
「ヴィント――冷静に……ね?」
しかしナハトの意思とは無関係にヴィントは彼の意思だけでその『最強』の愚神へとAGWの矛先を向け、起動する。
疾風怒濤。間合いを取っていた愚神の影武者達が次々と斬られ、その姿を消していく。
「ハハ、ハハハハ! 楽しい! 楽しいぞ! 『最強』! 一体、お前はどこにいる!?」
その連撃は凄まじく、他の仲間達も一気に加勢する。
「我が――『最強』!」
「俺が――『最強』!」
「我こそが――『最強』!」
「魅流沙が――『最強』!」
リンクした仲間達全員の強烈な怒涛のしっぺ返しに自らの間合いを逆手に取られた愚神。影武者達。
そして愚神と影武者達が攻撃に入ろうと刃の鞘を引き抜かんとした刹那――
その隙を縫う様にヒット&アウェイ。槍の一撃が相手の手元を狂わせる。
「皆、気合入りまくりだよね。まさかの狂人? お蔭でこっちは冷静でいられる分、援護で手一杯だ。あたしが回復しかしないと思った? 百薬も早く加勢しなよ」
『ワタシはあくまで天使なのよ』
「『最強』どこ行った!?」
この無我夢中の戦いでもエージェント達は気付いた。
愚神の動きが異様に遅いと言う事に。
――そう。侍である愚神は大量のライヴスを使用する為か、次のライヴスを補給するまでにかなりの時間を要するのだ。僅かな過信が命取り。そこが唯一の弱点だった。
そして遂に最後の1人。本体の愚神がトップギアで次の攻撃態勢へと入ったその瞬間――
「させるか!」
リンク中の赤城とヴァルトラウテが一気呵成からの小手斬り、そして武器落とし。止めのオーガドライブ。
完全に懐を抉られた愚神は片膝をついて怯んだ。そして猛攻は続く。
「受け取れ『最強』……、これが『真紅の剣姫』より受け継ぎし剣だ……!」
共鳴中のヴィントとナハトは身体を捻りながら、相手の得物を砕く勢いで横薙ぎの一撃を叩き込む。最後は回転の勢いと得物の質量を乗せた大上段からの降り下ろしを頭目目掛けて叩き込んだ。
「……我、は……最強、愚神……也……」
そう呟き愚神は遂に倒れた。
「何を持って『最強』とするかは分かりませんが、我々を含め1対1で倒せるものがいなかったという意味では今までで最も強い愚神だったのかもしれませんね」
共鳴を解き、宇津木は静かにそう呟く。
「名も無き最強の愚神か……確かに今の戦いで従魔や愚神を呼び寄せられたら、勝ち名乗りを上げるのは今頃こいつで俺達は屍だったのかもな」
金獅が珍しく本気モードで真面目な事を言う。物騒だが、本来愚神として属するはずだった英雄にとってどこか相通じるものがあったのかもしれない。
その為か――勝ち名乗りを上げる事は終ぞ無かった。
「『最強』を名乗った時点でお前の実力はそこで終わりだ……名も無き愚神よ」
自身の得物を地面に突き立てつつ未だ共鳴を解いていないヴィントとナハトは告げる。
「みんなのおかげで、あたし達は帰る事が出来るよ。あしたからも生き抜くぞー」
『おー』
最初から最後までマイペースな餅と百薬は犠牲になったエージェント達の遺品をシッカリ回収。
何事も無かったかの様に帰宅する。
「赤城龍哉。お前を倒した男の名だ」
冥土の土産。愚神とは言え最強を目指していた侍に敬意を表する。同じ志を持った武闘家としての礼儀だ。
共鳴を解いた英雄のヴァルトラウテはただそれを見守っていた。
「『最強』の愚神。何とか倒せましたね」
「一時はどうなる事かと……」
「『最強』か……。あまり深く考えるとロクな事にならないかも知れないですね」
「――ええ。目の前の愚神がそれを証明しています」
屍として消えた愚神。最強を求めたその結末をシッカリと見届けて晴海とエスティアは自身の探偵事務所へと姿を消した。
「だから言ったろ? 自分と仲間を信じろって」
あの時のシリウスの助言が無かったら今頃心が折れていたのかもしれない。そんな思いを胸に――魅流沙は自身の未熟さを噛み締める。
「私は『最強』を目指してる訳じゃない……だけど、仲間達を信頼出来る本当の強さ。それが今、ここに無いのならば私はもっと強くなる」
「『あのサイタマ』の刀使い。信念を曲げやがって。だが、それを倒したのは他でもない魅流沙だ」
「そうですよね」
――(了)
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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