本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】チョコトラック防衛戦線

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/21 12:53

掲示板

オープニング


 雪解けの季節。世界的、というより主に極東の島国でのみ、需要が激増する菓子がある。
 平和だった頃に比べ、輸送には危険が伴うようになったが、子供達、恋人達の笑顔の為に様々な人々が尽力していた。
 今も、カカオを山積みした小さなトラックが山道をゆく。それを岩場から見下ろす、怪しい影があった。
「……連中が最近、やったらこそこそ運んでるアレは、いったい何なのかしらね? 秘密兵器か何だか存じ上げませんですけど」
 愚かな神、と書いて愚神と読む。一敗地に塗れたことで人間を警戒するようになっていたグリムローゼは、何やら激しく誤解をしていた。
「善はハリー、必死こいて守ろうとする連中を蹴散らして蹂躙して踏み潰して憂さ晴らしでもしないとやってらんねー気分ですし、ちょうど良い生贄ですわね」
 パーリーは盛大な方が楽しいですし、殺し合いならなおのこと、という彼女の意向で、その「情報」は一部の愚神達の間に広まっていった。不幸な事に、そんな残念過ぎる発想に至った彼女を誰も止めてはあげなかったらしい。
 本部に並ぶ依頼に、輸送中のカカオやチョコレート工場、果ては街角の手作り教室までを襲う従魔や愚神の対策願いが並ぶようになったのは、その数日後だった。


「お願いよん、あたしの大切なチョコちゃん達を護衛してはくれないかしら~ん」
 人は、突然目の前にアンティークドレスを着た金髪ゴリラが現れ両手を合わせてバチコーンとウインクをした時、一体どういう反応をするものだろうか。説明を求めて視線を彷徨わせたあなた方に、オペレーターは戸惑い気味に口を開く。
「えー……っと、こちらの……ご婦人……がだな、先日トラック一台分のチョコレートを発注したのだそうだ。ところが」
「最近チョコレートが従魔ちゃんや愚神ちゃんに襲われる事件がいっぱい起こっているでしょう~? あたしのチョコレートちゃんも襲われるんじゃないかって思ったらあたしもう怖くってぇ~」
「それで、個別に護衛の依頼を……だな。我々H.O.P.E.としても昨今のチョコレート襲撃事件は気になっているのだ。そこで、H.O.P.E.の方からこのご婦人のチョコレートの護衛任務を依頼する」
「オネェさん殿おまかせあれ! ミー達が必ずチョコを守ってみせるでござる!」
「ん~、ガイルちゃんも他のリンカーちゃん達もよろしくね~ん」
 そう言って金髪ゴリ……もといキャシーという名のオネェさん殿はガイル・アードレッド(az0011)とあなた方に投げキッスをお見舞いした。オペレーターの言う通り、確かにここ数日のチョコレート襲撃事件は少々不審なものがある。だが、今のあなた方にはそれと同等以上に気にかかる事がある。
 トラック一台分のチョコレートなんて一体何に使うんだろう……。

解説

●任務
 従魔の討伐及びチョコレート・トラック・キャシーの護衛

●敵情報(PL情報)
 ファイアーハーピー×4
 マネキンの胴体に鳥の羽と足が生えたような外見の従魔。回避が高く、地上から4~8スクエアの高さを飛行している。連携を取る程度の知能はある。トラックを優先的に攻撃する。
・ファイアーショット
 炎の塊を発射する。トラックに複数回命中するとトラックや中のチョコレートに被害が及ぶ可能性がある。
・爪ひっかき
 降下して足に生えている鉤爪で攻撃する。トラックに命中するとトラックや中のチョコレートに被害が及ぶ可能性がある。
・フラッシュバン
 閃光弾を5スクエアに発射する。稀に【衝撃】付与。
 
●状況
 チョコレートを運送するトラック、もしくは後続のバスに乗っての移動となる。トラックの荷台には人の乗れるスペースもあるが、乗れて最大6人程度。残りのスペースはチョコレートに占められている。トラックの助手席にも乗車可。時刻は日中。天候による視界の制限なし。
(PL情報)
 山中のカーブ字道路に差し掛かった辺りで従魔が現れ、職員がトラックを止める。カーブの下は崖になっている。転落注意。

●NPC情報
 ガイル・アードレッド/デランジェ・シンドラー
 お騒がせNINJYAと忍ばぬASSASSIN。回避適性/シャドウルーカ―。
・縫止
 ライヴスの針を発射し、対象の行動を阻害する。
・潜伏
 全身をライヴスで覆い、見つかり難くする。
武器:ニ丁拳銃「パルファン」

 キャシー
 赤いアンティークドレスと金髪ウェーブが特徴的なオネェさん殿。チョコレートが心配なため同行を希望した。一応人類。一応一般人。 

 H.O.P.E.職員×2
 トラックとバスの運転担当。戦闘能力はない。
 
●持ち物情報
 無線機、各自携行品、コンビニのおしるこ(おやつ)。必要物品があればH.O.P.E.に申請可(マスタリング対象)。
 【追記】こちらのおしるこはコンビニのおしるこなので回復効果はありません。急遽変更して申し訳ありません。引き続きリンクブレイブをお楽しみ下さい。

リプレイ


 真壁 久朗(aa0032)は眼の前の光景に衝撃を隠す事が出来なかった。淑女感溢れるアンティークドレス、風にたなびく金髪のウェーブ、そしてそれらに包まれるはちきれんばかりの大胸筋……そんな久朗に対し、未知の生物、もとい一応人類属キャシーはバチコーンとウインクをした。
「あら~、あなた初めての方ね。あたしはキャシー。よろしくねん、ん~」
 さらに飛ばされてきた投げキッスに、久朗は全力で鳥肌を立てた。その光景を少し離れた所で眺めていた今宮 真琴(aa0573)は、傍らに立つ奈良 ハル(aa0573hero001)にひそひそと口を近付ける。
「キャシーさん? なにあれ? 人?」
「しーっ。世の中には知らんでいいもんもあるのじゃ……」
「なんでくろうさんとか麻生さんとか微妙な顔してるんだろう?」
「お主、腐好きな割にはそっち方面からきしじゃな?」
 一方、名前の挙がった麻生 遊夜(aa0452)は、確かに微妙な顔をしてその場に立っていた。だが、遊夜が微妙な顔をしているのはキャシーに対してという訳ではない。確かにキャシー個人の見た目は強烈だが、依頼でこの手のご婦人にもよく会うため、今更言うこともない。慣れは良くも悪くも偉大である。そう、一番の懸念事項はそれではない。
「しかしもうそんな時期か……こんなに何に使うんだ?」
 今遊夜の目の前には、ただ見上げる事しか出来ない程の大量のチョコがそびえていた。そこはかとなく嫌な予感がする……と目を逸らした遊夜の先には、ある意味対局に位置するような平和な光景が広がっていた。
「……ん、ござる、頑張ろうね」
「ユフォアリーヤ殿……えと、その、えっと……」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)(以下リーヤ)はガイル・アードレッド(az0011)の頭を抱きかかえ、母親のごとき慈愛の微笑みを浮かべながらなでなでしていた。他人に触れられる事を極端に嫌い、認めた者以外を拒絶する超絶人見知りのリーヤだが、どうもガイルに関してはお気に入りに認定されているらしい。ガイルの方は顔を真っ赤にしてしどろもどろになっているが。
「あっちは平和……こっちは強烈だなぁ」
「あら、あなたもご新規ちゃんねん。よろしく頼むわん遊夜ちゃん」
「宜しく頼む……まぁ任せときな、身体張ってでも守ってやるさ」
「よお、お前がガイルか。大学の後輩からたまに話は聞いてるよ。噂通りの伊達男じゃないか」
 遊夜が手を軽く振ってキャシーに応じていたその頃、咲魔 慧(aa1932)はガイルがリーヤから解放された所で歩み寄った。「本部で噂のNINJYAと一緒に仕事をしてみたい」という裏目的を持つ迫間 央(aa1445)もガイルの方を眺めていたが、
「外国人さんの忍者と言うと……セイギノミカタのような感じなんでしょうか……?」
「ゲームでよく出てくるアメリカ忍者ね。現実にそんな……」
 「現実にそんなのいる訳ない」と言おうとしたマイヤ サーア(aa1445hero001)はそこでガイルを視界に映し、純白のウエディングドレスを纏いながら何とも言えない表情をした。真琴とハルも、今度はガイルの格好にひそひそと互いに顔を寄せる。
「ガイルさんも忍者? 同じ忍者でもだいぶ違うんだね?」
「レイブンの忍もちょっと違うからな?」
 真琴とハルの脳裏を、以前模擬戦で出会った忍びの姿が過ぎっていった。忍ばない忍び……それは忍びと言えるのか……忍びの意味について脳内辞書を漁っている二人の端で、ようやく鳥肌の治まった久朗が首元の冷や汗を拭う。
「な、なんなんだあれ。人間なのか?」
「キャシーさんって快活で素敵な方ですね!」
 人生初の生オネェに衝撃を拭いきれない久朗に、セラフィナ(aa0032hero001)は少女と見紛うような顔だちにあどけない笑みを浮かべてみせた。その発想はなかったと表情を変えた久朗の右目に、さらに常識を覆すような衝撃的な光景が映る。
「ミス・キャシー。アナタの願いを護るために馳せ参じました」
「あらジェントルちゃん、また来てくれて嬉しいわ~ん」
「……なんか、最近あの人絡みの依頼ばっかり受けている気がするぞ……」
 キャシーの右手を優雅に取るウェルラス(aa1538hero001)のその後ろで、水落 葵(aa1538)は額に片手を当て深いため息を吐いた。ちなみに葵は従妹と仲良し……らしい久朗にこの機会に歩み寄りたいと思っているのだが、
(今回はミス・キャシーがいる……この間の源氏名の件がばれたら非常にヤバイ……でも気になる)
とチラッチラッと視線を送り続けていた。
「おい、あんぱん!」
 一方、ガイルが名前を呼ばれた気がして振り返ると、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)がいきなりあんぱん(小)をガイルの口へと突っ込んできた。ガイルが目を白黒させているとさらにあんぱん(小)二つが追加される。
「なんでお前の持ってくるおやつはいつもあんこ絡みなんだよ! お前裏であんこ業者と結託して利益得てんじゃないだろうな!? ぐほっ!?」
「すみません、今回もよろしくお願いします!」
 御童 紗希(aa0339)はカイの口にやきそばパンをねじ込み、何事もなかったようにガイルにぺこりと頭を下げた。カイは目を白黒させたながらやきそばパンを咀嚼し、そして紗希に視線を向ける。
「え? ナニコレ? 超美味いんだけど。マリ、これ何パン?」


「閃き轟け! 電撃戦士ジュピター! 期待に応えてただいま参上ッ!」
 座席節約のために共鳴した慧、もとい電撃戦士ジュピターは、特撮系のヒーローよろしくビシリとポーズを決めてみせた。スーツアクターとして特撮ヒーローもの連続ドラマにも出演していた慧の動作は実に堂に入っていたが、そのヘルメットの中には静電気のようになったライヴスで髪が逆立つのを隠すため、という悲しみも詰まっている。
『……』
「何も言うなファンブル。依頼で、しかも人前での共鳴は初めてなんだ、せっかくだし派手に演出させてくれ」
「あらん、これ電気?」
 脳内に響くファンブル・ダイスロール(aa1932hero001)の無言の訴えに拳を握り締める慧に、金髪ゴリ、もといキャシーがドレスを揺らしながら近付いてきた。それに気付いた慧が、スマートな特撮系ヒーローよろしく人差し指を振ってみせる。
「おっと、触るとシビれますよ。静電気体質なものですから」
「麗しきミス・キャシー。よろしければお隣よろしいですか」
 そこにすっとウェルラスが近寄り、キャシーへにこりと笑みを浮かべた。外見年齢12歳、しかし中身は問わずのウェルラスに、キャシーが「ボン」と手を叩いた。何故か風が巻き起こった。
「もちろんよん。よろしくお願いねジェントルちゃん」
「では、俺はトラックの助手席に乗るとしようかな」
 慧はキャシーとウェルラスに片手を上げると、特撮ヒーローの背中を置き土産に助手席へと歩いていった。そしてその途中で、改めて護衛対象のチョコの山を眺め上げる。
「しかしすごい量だな。俺が一年に貰うチョコレートの倍くらいある。店やってるって聞いたし、客に配るのか? 罪作りなオネェさんだ」
『なっ……ちょこ……ちょこ最中、だと……!? これは入手経路を確認しておかねば……』
「わたしもトラックの方に乗るね。バス乗車の人は連絡取れるようにスマホの番号交換しよう~」
 ファンブルがちょこ最中の想像に心奪われていたその横で、早瀬 鈴音(aa0885)がスマホを振りながら仲間達へと声を掛けた。根は真面目だが周囲に真剣な姿を見せる事に気恥ずかしさを感じ、楽観主義な面を表にしている鈴音が、自ら積極的に行動するのは珍しい。ふわふわ系若干過保護気味お姉さん、N・K(aa0885hero001)はそう思い、少し不思議そうに鈴音の顔を覗き込む。
「今日はやる気いっぱいなのね?」
「まあねー、この時期にチョコとか目的は一つじゃん? 使い方とかは予想出来ないけど、キャシーさんが愛を込める前に奪われるとかさせないよ。N.Kも気合いれていこー」
「俺もトラックの方に乗らせてもらう。しかしチョコレートショップでも開くのか? ってぐらいの量だな」
 キャシーに苦手意識を覚えあまり近寄りたくない久朗も、こっそりとさりげなくトラック乗車を希望した。その上では遊夜が、リーヤと共にザイルを窓に通して屋根で結び、安全帯で固定しながら口を開く。
「俺達は屋根に陣取らせてもらう。中からじゃ死角が多いし初動が遅れるからな」
「……ん、大丈夫」
「よし、そろそろ出発するぞ。みんな乗り込め」
 リーヤがランヤードをくいくいと引っ張り強度を確認し終わった所で、H.O.P.E.職員がリンカー達とキャシーへと声を掛けた。バスに乗った真琴は、ミントの髪飾りにミントチョコ風味のワンピースにと、格好からしてチョコ好きそうなショコラ・ミントリーフ(aa0911)に相棒のハルと共に早速話し掛けてみる。
「チョコ防衛……! これは報酬もチョコだよねショコラさん!」
「いや違うと思うのじゃが?」
「チョコを護る事がショコラの使命なんだみょん! 何があってもいいように、耐熱シートと保冷材の二重構造をお願いしたぉ! カメラとパソコンの取り付け連動索敵作戦もやってみるにゃん。敵が近付く前に叩く! だね☆」
「あー……いい天気ダナー」
 一方、葵は遠い目で窓の外を眺めていた。その近くではウェルラスが、金髪ゴリ、もといキャシーの隣に座って「今日もお麗しいですね」などと言いつつにこにこしている。どうして俺こんな所にいるんだっけ……などと考えては負けである。
「おしるこあったかいですね〜」
 葵が遠い目でここではない何処かを眺めていた同時刻、セラフィナはコロコロと缶を転がし白い手を温めながら、トラックの中、久朗の隣で平和なおしるこタイムを過ごしていた。
「缶に小豆が残っちゃいました。きれいに飲むのって難しいんですね。みなさんもバレンタインはどなたかにチョコを作るんですか?」
「もって事は、セラフィナさんもバレンタインにチョコを作るの?」
「あ、聞きた~い。甘いチョコも好きだけど、甘いお話聞きたいな~」
「え! いや、もっていうのはキャシーさんの事で、僕はその……」
「……ん、視界は良好」
「狙いはチョコらしいからな、ここからなら俺らの的だろう」
「……ん、チョコは守る」
 トラック内でセラフィナ、紗希、鈴音がガールズトーク(?)に華を咲かせていたその屋根の上では、リーヤが遊夜の膝に乗り、遊夜がリーヤの頭を撫でながら周囲の警戒に当たっていた。同じくトラックの屋根の上に乗っていた央は、こちらはすでに共鳴し、鷹の目で生成したライヴスの鷹を哨戒行動に放っている。
「車上ではカメラと俺達、上空からは鷹の目……これで襲撃が来たとしても……?」
 その時、ライヴスの鷹の視覚が何かの姿を感知した。鷹と感覚を共有する央は、即座に通信機で仲間達に情報を送る。
「何か妙なものが来る……総員、警戒しろ!」
「敵襲だ、車を出来るだけ安定した場所に止めてくれ!」
 央から連絡を受けた慧は、助手席から隣に座るH.O.P.E.職員へと指示を飛ばした。運転手がトラックを止めた、それに合わせるかのように、道路に隣接する山の向こうから4体の異形が姿を現す。
「嫌な所でお出ましか」
『……ん、4体』
 遊夜はこくりと頷いたリーヤと共鳴すると、運転席から飛び出したH.O.P.E.職員へと視線を向けた。慧と紗希が職員へと駆け寄るのを確認した後、スナイパーライフルを出現させ銃口を従魔へ向ける。
「こっちに来んとも限らん、油断禁物だ」
『……ん、逃げる可能性も考慮』
 そして遊夜は引き金を引き、神速の早撃ちで襲撃犯の内3体を狙った。牽制の意味を込め、放たれた弾は見事従魔の翼を射抜き、マネキンと鳥を繋ぎ合わせたような従魔……ファイアーハーピーが雄叫びを上げる。
「来た! あいつらか!? これはボクのチョコだ! 1個たりとも渡さない!」
「真琴のチョコでもないよな?」
「いくよハルちゃん!」
「ぬかるでないぞ」 
 通信機からの要請にバスから飛び出した真琴はハルと共鳴するや、チョコバーを口にパクリとくわえた。紫紺の和装をたなびかせる狙撃手にとって甘いものはラッキーアイテムであり、正義である。的確に射抜くためバスの上に飛び乗った真琴はファストショットを得物に込める。
「先制こーげき! あたれっ!」
 16式60mm携行型速射砲。全長2000mmにも及ぶ対愚神用支援火器から放たれた高速射撃は、遊夜が撃った内1体のもう片方の翼も貫いた。フラフラと体勢を崩す従魔に真琴は指を突き付ける。
「ボクのチョコは渡さない!」
『だからお主のじゃないって!』
「(ちょこれーと、従魔さんも食べたいの、かな)」
『あんなに大量のチョコレートどうすんだよ。胃もたれすんだろ』
 一方、レティシア ブランシェ(aa0626hero001)と共鳴し、はじめからバス上に待機していたゼノビア オルコット(aa0626)は、落ちないようロープで自分の体を支えつつ狙撃の時を狙っていた。遊夜と真琴の狙撃から逃れていた1匹が、トラックに近付こうとした所で青の瞳をきりりと細める。
「見つけた。……狙撃、します」
 絞り出すような、風に掻き消されそうな程に小さく掠れた声で呟きながら、ゼノビアは威嚇射撃で従魔の進行を阻害した。狙撃に気を逸らされた従魔は、まずは敵の動きを止めるべく口から閃光弾を発射する。
 だが、リンカー達の誰も、目くらましには掛からなかった。鈴音が掛けたサングラスを外し、赤い髪をなびかせ笑う。
「真琴達が防衛用にフラッシュバン使うらしいし、自滅はしたくないし? って用意したサングラスが役に立ったね」
「ギギギ……ギャアアッ!」
 ハーピーは喉の潰れた鳥のような声でいななくと、今度は口から炎の塊を発射した。炎の塊がトラックに迫る事に気が付いた鈴音は、トラックコンテナから飛び降りつつアロンダイトを振りかざし炎の弾を霧散させる。
「子供が悪戯で作ったみたいな従魔だな」
『クロさん、上です!』
 同じくフラッシュバン対策にサングラスを掛けた久朗に、共鳴しているセラフィナが爪を振り下ろす従魔を知らせた。フラメアを出現させた久朗は槍で従魔の攻撃を受け止め、押し返しつつ槍先で従魔の鳥型の脚を斬る。
『キャシーさん達は大丈夫でしょうか?』
「どっちであっても確認したくないな」
 久朗が僅かとはいえ珍しく感情を表に出していたその頃、ウェルラスと共鳴した葵はやはりサングラスを掛けたまま、トラックやバスからやや離れた所に移動し、敵の注意を引くべくアサルトライフルを撃ち放った。足を撃ち抜かれたハーピーが、不快を感じているかのように耳障りな声を上げる。
 リンカー達が従魔の迎撃を行っていたより遡る事少し前、トラック運転手を担う職員を護衛していた慧と紗希は、無事にバスへと職員を送り届けた。
「じゃあ、私はみんなのサポートに向かいますので、後はよろしく頼みますね」
 紗季は慧とガイルに、主にキャシーの護衛を頼むと、トラック炎上に備え消火器を持って仲間達の元へと走り出した。慧は衝撃に少しでも備えるべく、キャシーを座席の陰に収めながら、特撮ヒーローよろしく自分の胸を拳で叩く。
「チョコは俺達に任せて、キャシーさんはここで待っていて下さい。危険なのでくれぐれもバスの外には出ないように」
「ええ、分かったわん。でも、リンカーちゃん達は大丈夫なのん?」
「大丈夫でござるよ。ミナサマ強くて優秀なエージェントでござるゆえ」
「俺達はここで万一に備えるぞ。と言っても、仲間が優秀だから、念のためではあるがな」
「じゃあ、あたしはリンカーちゃん達の応援をするわん。みんな~、怪我しないように頑張るのよ~ん」
 そう言ってキャシーは窓の外に投げキッスをした。それを直視した慧はやや顔を引きつらせたが、ヘルメットに隠されてその様子は見えなかった。


 緑色の光の粒子がショコラの体を包み込んだ。緑の光はそのままショコラのチョコレート色の髪をミント色へと染めていき、ストレートのツインテールはクルンクルンと螺旋を描く。ミント、チョコレート、ホワイトチョコレート色の超フリフリドレスを身に纏った魔法少女は、ピースを頭上にビシリとかざす。
「チョコレートを愛する者に全ての境目はないのにょんっ! おねぇさん(?)はショコラの同志だみょっ! チョコレートを愛する人はみんなジャスティス! なんだぉ。おねぇさんのラヴァーにもちゃんとチョコ好きを広めて欲しいしっ! 
 スキッと目覚めて命中ばっちり! チョコレートフェアリー&プリティ☆ショコラ参上! チョコに仇なす悪はゆるさないっ!」
 本名水戸千代子、もといプリティ☆ショコラは死者の書をその手に広げると、ウィザードセンスで強化した銀の魔弾を撃ち放った。魔力の弾丸をかわし、反撃をしようとする従魔を遊夜が威嚇射撃で妨害し、そこに央がハングドマンを投げ付ける。二対の投擲短剣とその間に張られた鋼線により敵を拘束する事を目的とした武器、ハングドマンはハーピーの脚を絡め取り、真琴がスナイパーライフルにブルズアイを乗せ引き金を引く。
「参……弐……壱……零! いけっ!」
 命中力を上げた狙撃は、ファイアーハーピーの1体にトドメを刺し、空中で塵へと変えた。仲間を1体失った事に従魔は雄叫びを上げ、トラックへと突進してくる。
「……ちょこ、溶かしちゃだめ、です」
 その出鼻を挫くようにゼノビアの威嚇射撃が炸裂し、その隙に葵が、敵の注意を引くべくライヴスを自身の周囲に展開させた。それと同時に鈴音がリジェネを、久朗がパワードーピングをそれぞれ葵へと掛ける。
「こっちだエセチキン共! こっちにゃ曰く”一番頼りになる仲間“が居るもんでね。ちっとの怪我なんざ怖かねぇんだよ」
「ケエェェッ!」
 チョコよりも旨そうな『エサ』に、従魔達が矛先を変えた。鉤爪が葵に飛び掛かる、そこにショコラと、遊夜から主導を渡されたリーヤがそれぞれグリムリーパーを携えて躍り出る。
「マホウショウジョの使う武器じゃないって? マホウショウジョが使えばみんなマジックアイテムなのっ!」
『……ん、させない、よ?』
 死神を意味する名を持つ2つの鎌は、その名のごとく1体の従魔の命を刈り取った。鷹の目で上空から敵の動きを見ていた央が声を上げる。
「まとまってるぞ、今だ!」
「衣替、陰陽型……! 響け……! 鈴鳴!」
 紙吹雪を舞わせながら濡羽色の和服に換装した真琴は、敵の目を眩ますべくフラッシュバンを迸らせた。ふらついた1体の翼をゼノビアのスナイパーライフルと鈴音の速射砲が撃ち抜き、落ちてきた所を久朗の投擲したフラメアが霧散させる。
「悪いが、守るか突っ込むしか能が無いんでな」
『みんないるから大丈夫ですよ。ほら、キャシーさんからも激励のキスが』
「ギギギ、ケキャアアア!」
 投げキッスを全力で見なかったフリをした久朗の上空で、最後の1体が鉤爪を剥き出し獲物に降下しようとした。そこに葵がライヴスショットを叩きつけ、ショコラが死者の書からゴーストウィンドを解き放つ。
「どこ向いてんだ? ほれ、こっちだこっちだ」
『……ん、鳥さんこちら、手の鳴る方へ』
 不浄の風に巻かれたハーピーの後頭部を、遊夜の放ったテレポートショットが撃ち抜いた。頭部を半壊させつつぐらりと傾ぐ従魔に、喪服色のスーツをはためかせ央が弧月を叩きつける。
「通りすがりの公務員だ……覚えておけ」
「『さようなら、良い旅を』ってな」
 崩れゆく最後の1体に、央と遊夜はそれぞれ手向けの言葉を贈った。


「ちょっとー、鈴音ちゃん大丈夫なの~?」
 ナヨナヨと鈴音に近付いてくる未確認生物に、久朗は警戒心も露わに右の瞳を見開いた。一応人類、もといキャシーだと認識した久朗は、鈴音の回復が終わった事を確認してから気付かれないようその場を離れる。
「大丈夫だよ。私が食らう分には回復できるし、多少無茶はしても平気」
「んも~、そんな事言って~、万が一顔に火傷でもしたらどうするのよん。かわいい女の子が無茶しちゃダメよん。もちろん男の子も、オネェもねん。でもチョコレートを守ってくれてありがとねん」
「キャシーさーん! ハイタッチお願いします!」
 キャシーには出来るだけ近寄りたくない久朗とは裏腹に、セラフィナはキャシーにハイタッチをするべく駆け寄った。金髪ゴリ、もといキャシーと無邪気にハイタッチをするセラフィナを視界に映し、久朗は何とも言い難い表情をする。
「キャシーさん、僕ともハイタッチしてもらっていいですか?」
「いいわよん、いつきちゃんもやる?」
「いつき?」
「……!」
 訝し気に振り向いた久朗から、葵はバッと顔を背けた。金髪・ピアス・青ネイル姿の一見派手なその首筋を、冷や汗がダラダラと流れていく。
「……」
「だからやめときゃよかったのに」
「あの、怪我とかされてませんよね?」
 憧れのミス・キャシーとのハイタッチに上機嫌のウェルラスと、ヤバさの集中豪雨に見舞われている葵の後ろで、紗希がカイを引き連れ慧へと近付き声を掛けた。慧は密かに髪のセットを気にしつつ、紗希とカイに答えを返す。
「ああ、もちろん。仲間が優秀だったから、バスもキャシーさんも無事だったし」
「なら良かったです」
「何もねえならもういいな。ま、次もあったらよろしく頼むぜ、一応」
「もう、カイ、どうしてそういう言い方するの」
 先に歩いていったカイを咎めつつ、紗希は慧にぺこりと頭を下げ、そしてカイを追い掛けた。残された慧の耳にウェルラスの声が聞こえてくる。
「みなさーん、おしるこタイムにしましょう。仕事終わりのおしるこおいしーですよー」
「行きましょうかねご主人様」
「そうだな」
「あー、仕事終わりの一杯は美味いな……」
「……ん、ござる頑張った、えらいえらい」
 ファンブルと共に慧がおしるこタイムに向かっていた頃、遊夜はいち早くおしるこタイムに突入し、リーヤはガイルの頭を抱えてなでなでしていた。再び真っ赤な顔でしどろもどろになっているガイルから少し離れた所では真琴とゼノビアが、心なしか悲し気な顔で座っていた。
「ダメになったチョコがあったら買いたかったな……」
「(チョコレート、一人で食べるん、ですか?)」
「ゼノビア、チョコレート食いたいんだったら買ってやるから。寂しそうな顔するのやめろって」
「あら、そう言えば業者さんからサンプルとしてチョコをいくつか貰ったのよん。ちょっとだけど、良かったらどうぞん」
 ハルに肩を叩かれる真琴と、レティシアに宥められるゼノビアの前に、キャシーは一口サイズのチョコレートの入った箱を差し出した。なお、一体何処から取り出したかはここでは述べない事とする。
「(そう言えば、キャシーさん、って女の人なんです……か?)」
「それは、聞かない方がいいぞ。多分」
「そういや俺の近くにもいたな、性別迷子なヤツ……性って一体何だっけ……」
「人員被害は……まあ大丈夫かの」
「何人か精神被害を受けた顔してる」
「どんな顔じゃ!?」
「だって眼がおかしいもん。カワイソ」
「そうだマリ、さっきバレンタインとか言っていたが、やめておけそんなもん。どうせつまみ食いしてブクブク太るのが関の山……おい、何だその消火器は。もうトラックが炎上する危険はないだろう待」
「ねえねえ、キャシーさんはこのいっぱいのチョコどうするの? やっぱバレンタイン用なのー?」
 ゼノビアとレティシア、慧、真琴とハル、何やら修羅場っぽい紗希とカイを視界の端に映しつつ、鈴音がキャシーを覗き込んだ。チョコレートフェアリー・ショコラもミント色のハートが入った瞳を煌めかせて輪に加わる。
「愛されちゃった幸運な誰かに想いを伝えるため? それともたくさんの人に愛を与えるため?」
「これだけ多いとおねえさんの等身大チョコレートつくれちゃうかもね。好きなダーリンにアピールばっちりだねっ!!」
「あら、それ素敵ねん。そのアイディア頂いたわん」

 この何気ない一言が、あの事件に繋がる事を、この時は誰も知る由などなかったのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
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