本部

広告塔の少女~魔晶の歌姫~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/08 01:24

掲示板

オープニング

 市内某所、半径数キロの小さなドロップゾーンが展開されている。
 そこからは従魔が大量に湧き出ていた。
 その従魔は小さな虫のような従魔が、群れをなし、一塊になって押し寄せてくる。
 単体の性能はそこまででもないが、なにぶん捉えずらく、一匹でも逃せば新たな従魔を生成するため、一匹残らずこの従魔を倒す必要性があった。
 しかし、一口に一匹残らずと言っても、それはとても困難だ。相手は普通の蠅程度の大きさと変わらない。そんな相手を一匹残らず倒すというのは困難を極める。
 そのため対処のしようがなかった従魔に対抗する新たな作戦が立案された。
 『三船 春香』そして彼女と契約した英雄の名前は『ルネ・クオリア』2人の協力のおかげである。
 彼女は戦闘能力は一切持たないかわりにその歌は愚神や従魔を引き寄せる特性がある。
 そんな彼女が一つの提案をH.O.P.E.に持ち出してきたのがことの発端だった。


 それが「滅びの歌」作戦である。


「本当にいいの?」
 遙華はガラス越しに少女達に問いかけた。
「ええ、ありがとう遙華」
 ルネが凛とした声を響かせ答える。
 ルネは全身が水晶質の少女型の英雄だった。その少女を抱きしめるように春香が座っていた。
 この英雄の歌が従魔や愚神を引きつける。おびき寄せられた従魔、および愚神を掃討するのが今回の作戦なのだが。
 この作戦の性質上、他の地域の従魔や愚神が作戦地域めがけて迫ってくる可能性がある。
 その場合周囲の町を従魔が横断することになるだろう。
 そのため住民の避難計画は大規模になり。その為グロリア社が協力を要請されたという経緯がある。
「貴方、歌を歌うの、つらいんでしょ」
 グロリア社が見返りに求めたのは、この一件の撮影許可。それを編集し番組として全国放映する権利を望んだ。
 すべてはグロリア社の宣伝活動のため。番組を面白くする要素として遙華はルネや春香の日常風景を撮影した。
 沢山遊んだ。料理をし、将来を語り合ったり、この世界をどうしていきたいかそんな真剣な話もした。
 ゲームをしたり、買い物に行ったり、打ち合わせと称してかけた電話が長引いたこともあった。
 三人はすっかり仲が良くなっていた。
「貴方にはもっと別の幸せがあると思うの、まだこの世界にはあなたが見たことがない楽しいことがたくさんあるのよ、それに春香とだって仲良くなれた。もっとたくさんの人と仲良くなれるわ」
「たのしそう……」
 ルネはそう鈴が鳴るような硬質な声で言った。
「でも遙華、私たちは、私たちができることをしないと」
 苦しそうにルネは言った、重たく閉ざされたルネの唇のかわりに、春香が言葉を継ぐ。
「戦えない私が、戦えないこの子と結ばれたのはきっと、何か意味があると思うの、その意味をみつけたのよ。お願い、やらせて」
「けど……」
 そう春香が静かに遙華を見つめる、それをみたルネはさみしそうに微笑むと。遙華は彼女に背を向けた。
「分かったわ、作戦開始は追って通達するから、それまで待機、必要なものがあれば遠慮なく言って。私が用意させる」
 遙華はそう口にしてその場を後にした。
 その一室の外にはロクトが立っていた。
「大丈夫? 遙華」
「ええ、大丈夫。このくらいなんてことないわ」
「強がらなくてもいいのよ。だって遙華はあの子を友達だと…………もう思っているんでしょ」 
 その瞬間、遙華はロクトにしがみついた。ふらつく足元に、うるんだ視界。目の前が真っ暗になって立っていることすらできなかった。
 遙華は今まで知らなかったのだ、大切な人が消えるというのが、こんなにもつらいことだったなんて。
「言わないで、決意が鈍る」
 そう言って震えるそのか弱い少女をロクトは抱きしめた。


 そうして君たちリンカーが収集されることになる。
 遙華は語った。
「今回は大規模な作戦よ、特に戦闘力の高いあなた達にはルネの護衛を任せたいの」
 彼女は町の中心で音を奏で続けなければならない、それを増幅しスピーカーから流すことで周囲の従魔を呼び寄せ撃滅する。
 そのため彼女たちは敵の攻撃に対して防御行動も回避行動もとれない。
「歌を妨害させないために、あなた達には梅雨払いをお願いするわ」
 ルネと春香は共鳴中であれば歌を歌っていても、水晶質の体全体が振動する上に、複数の振動を両立できるため会話ができる貯め、連携も取れる。
「あなたたちにはこれから、町の中心にある公園で待機してもらわ。見晴らしがいいので戦闘には最適よ」
 事前に知らせるべき情報を資料にまとめ、それを
「それじゃ、よろしく」
 そう遙華はそっけなく言い捨てると、すぐさま会議室を飛び出した。
 明らかに様子がおかしい。そう感じたあなたは遙華の後を追った。
 遙華を追うと屋上にたどり着いた、燃えるような夕陽を眺め遙華が佇んでいた。
 その背に向けて、何かあったのか尋ねると。遙華は振り返って寂しそうに笑った。
「気を使わせたわね、ごめんなさい。でもせっかくだから聞いてくれる? 理由」
 消え入りそうな声でそうつぶやくと遙華は意を決したように貴方に言いました。
「理由、理由はね。そうね、この作戦があの子の命と交換だからかしらね」
 遙華は拳を握りしめる。
「彼女の歌は、命を削るのよ」

「分からない? 彼女はこの作戦が終わったら死んで……、死んでしまうのよ!」

 遙華は悲痛な声を上げた。
「あの子、唄えば歌うほど体がぼろぼろと削れ始めるのよ。そして最終的にはひび割れて砕けてしまう」
「でもね、厄介なことに。あの子、死ぬことをどうとも思ってないのよ!」
「私が何を言ってもね、『この世界の人々は救うに値する』って言って、きかないのよ! どれだけこの世界が好きなのよ。ほんと、バカみたい!!」
 遙華は矢継ぎ早にまくしたてる。
「消えゆく命をみんなのために使いたい…………。そう言って、もう私の言葉を聞いてくれない」
 彼女は力が弱く、英雄としてこの世界に現れたものの戦力にならなかった。
 そんな経緯があった。
 春香と契約してもほとんど戦う力は無く。
 さらに、この世界に現れた際のトラブルなのか、徐々に力が弱くなっていった。
 このままであれば近いうちに消えてしまう。
「命を使い切っちゃわなくていいじゃない。そう私たちは、言ったのよ?」 
 ルネに対して、春香と遙華で。千の言葉と万の思いを伝え説得したが。
 ルネの決意は固く。結局は2人が折れることになる。
「あの子。あの子ね、自分の命だけど、自分のためだけに使うなんてもったいないって……言うの。とってもいい顔で言うのよ。あんな顔で言われたら、もうかける言葉もなくて」
 遙華はそう、とめどなくあふれる涙をぬぐいもせず、ただただ立ち尽くしました。
 自分では彼女を救えない無力さを感じながら。

「私、あの子に死んでほしくないのに……」

 これは、死を決定づけられたものの、命の使い道をたどるお話です。

解説

目標 ルネの護衛、および群体従魔八体と愚神ゼブルスの撃破。


 群体従魔とは、小型の虫従魔が寄り集まったものだ。今は歌の影響でひとまとまりになっている、なので一塊を一体とカウントする。
 行動特徴は以下の通り
・最初のターンに三体登場し、それ以降は一体撃破されるたびに一体追加されていく。合計八体確認されている
・群体のため物理攻撃はあまり効果がない
・群体で襲いかかりで翻弄の効果を与える近距離攻撃を行う。

 また群体が一体でも倒されれば愚神ゼブルスが合流します。
 ゼブルスは巨大なハエに腕や足が生えた、気持ち悪い見た目をしてます。
 戦闘能力が高く。春香とルネの力を吸収しようと積極的に狙います。
 ゼブルスの特徴は以下の通り。
・双拳による単体物理攻撃
・ライブスを纏ったキック、これは魔法攻撃
・少しの間飛行し、回避力を上げる。


 公園は一辺三キロ程度の大型で、北にはミニサッカーコート、バスケットコート等公共施設。南には売店立ち並び木々が生い茂る遊歩道。中央に噴水広場があり、半径50メートル程度の円系に開けた土地になっています。
 この噴水広場で敵を向かい撃ってもらうことになる。

 敵一体一体の力はそこまで強くはありませんがルネ自身も強くはないので、少し攻撃を受けると死んでしまいます。
 彼女が攻撃されないように気を使ってください。


 ちなみに彼女は外界の情報に対してすごく興味を持ちます。あなたが休日どう過ごしているかとか、周りにどんな人間がいるかですとか。話してあげると喜ぶでしょう。
 なぜなら、彼女があなた達の日常を知ることによって、あなた達と仲良くなればなるほど、彼女の力はまし。より強く愚神や従魔を引きつけることになるからです。
 理由としては彼女の守りたいという思いが、愚神や従魔はとてもうっとおしく感じるからです。
 そんな愚神たちの間の手から彼女たちを守りきり、周囲の従魔、そして愚神を全て倒しましょう。
 

リプレイ

  作戦前、戦闘地域に選ばれた公園のすぐそばのホテルの一室。そこがリンカーの控室であり、作戦開始時刻までの自由時間はここでの待機を命じられていた。
 それは遙華 も例外ではなく。
 ただ、その一室には春香とルネがいた。
 何気ない雑談を繰り広げている。
 その傍らでロクトは資料に目を通していた。
 言ってしまえばありふれた風景、しかしこの風景があと数時間後には戻ってこない日常であることを、その場にいる全員が知っていた。
 そんな二人の部屋の戸を叩いたのは『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』
 ロクトがドアを開き確認すると。傍らには『蔵李・澄香(aa0010)』『小詩 いのり(aa1420)』『セバス=チャン(aa1420hero001)』『イリス・レイバルド(aa0124)』『アイリス(aa0124hero001)』の五人が控えていた。
 以前番組作成に協力してくれたメンバーの訪問に、ロクトは柔らかな笑みでそれを歓迎した。
「あらうれしい訪問者さんね、どうぞ入って。」
 そう部屋に通すと。春香は少し緊張した面持ちを見せ、逆にルネは興味の視線を向ける。
「こんにちはー。蔵李澄香です」
「お初にお目にかかります。クラリス・ミカと申します」
「アイリスという、君の歌がきけるなんて楽しみだ。異世界の歌に触れられる機会もそう多くない」
「イリス・レイバルド……です」
 イリスは小さな体をさらにちいさくしてアイリスの背に隠れてしまった。
 しかし何を思ったかそれをルネは追い。屈みこんで、その視線に合わせる。
「イリスちゃん、よろしくね、ルネです」
「小詩いのりだよ、こっちはセバス=チャン」
 そう紹介されたセバスはうやうやしく頭を下げた。
「三船 春香です。お二人のことはテレビやラジオで知ってます。今日はよろしくお願いします」
「春香様、ルネ様。わたくしこういう者でして」
芸能プロデューサーのクラリスが名刺を手渡した。
「澄香ちゃん、いのり、イリスちゃんもアイドルにございまして。いえ、澄香ちゃんはコメディアンですしたっけ」
「誰のせいだ!? もう、この英雄、本当に酷いんだよ!?」
 二人のやり取りにルネがクスリと微笑む、春香の緊張も解けたようで二人の話にききいっている。
 その後は何気ない雑談が続いた、音楽の話、テレビの話。
 やがて時間が来て、皆準備のために引き上げることになった。
 いのりが部屋の戸を閉めると。澄香がぼんやりとつぶやく。
「私、最後まで笑っていられるかな」
 その瞳をまっすぐ見つめ、いのりは澄香の手をにぎる。
「ボクたちに出来ることをしよ?
最後まであがこうよ
たとえムダだったとしても……」

* *

『化野 燈花(aa0041)』は煌く水の向こうに、少年少女たちがはしゃぐその声を聴き、穏やかに遠くを見つめていた。
「誰かの犠牲で、というのはあの日を思い出しますね……」
「燈花……」
『七水 憂(aa0041hero001)』は燈花にかける言葉を失い、目を伏せる。
 場所は公園、作戦開始時刻三十分前。町からは人が姿をけし、そのため普段人でにぎわう公園にはリンカー以外に誰もいなかった。
 そしてルネを囲うように全員がそこに集まっている。
 中心には『水瀬 雨月(aa0801)』と春香がいた、二人は会話に花を咲かせている。
「意外と普通なんだね、リンカーって何かしら普通じゃないところもあるかと思ったけど」
「そうね、そう言う身の上の人も多いけど。両親がいて、兄がいる。実家は兄が継いでくれから特に心配はいらないわ。ただ人と少し違うと言えば、学校を休みがちなくらいかしら」
「わかります!」
 それに対してルネは獣耳に夢中になっていた。
「動いた、かわいい。ねぇねぇ、お話ししない?」
『五郎丸 孤五郎(aa1397)』はお茶を一口含むと横目でルネを流し見る。『黒鉄・霊(aa1397hero001)』は傍らで大人しくどこか遠くを眺めていた。
「いいだろう、どんな話がいい?」
「普段はどんなお仕事を?」
 ふと孤五郎は考え込むしぐさを見せ、黒鉄を見やる、その視線に気づいた黒鉄は首を傾げた。
「難しいな。初仕事はうちの相方に世間を見せようと出かけた動物園で、事件発生、それがエージェントとしての初任務だった。
 大規模作戦でドロップゾーン破壊の為に完全アウェーの戦場で巨人と戦ったこともあった」
「巨人! すごいすごい、私も見たかったな」
 ルネははしゃぎ両手を打ち合わせる、凛とした音その場に響いた。
「そして、その大規模の最終局面で名のあるトリブヌス級愚神に挑んだこと。
 雪山で退治した熊の肉で作った熊鍋が美味かったこと」
 それから……。そう言いよどみ視線が泳ぐ、その先には遙華がいた。
「最近の思い出部会ことと言えば、新兵器開発研究所での私の提案を採用してくれてありがとうってところかな。思い通りとはいかなかったが、お礼を言っておきたくてね」
 遙華は苦笑いを浮かべる。
「喜んでもらえてよかったわ」
「どうした、さっきから、調子が悪いのか?」
「ごめんなさい、そう言うわけではないの」
 そう遙華と孤五郎が言葉を交わす、その隣で『アリューテュス(aa0783hero001)』が春香に銃の撃ち方を教えていた『斉加 理夢琉(aa0783)』がルネに魔砲銃を渡す。
「これにありったけの霊力を込めておきました」
「ありがとう! 理夢琉さんいい人ね」
「皆で守ります。これはその先を生きるためのお守り……闘ってください」
 銃を使わない春香へのレクチャーを続けるアリューテュス。
 そんな二人をよそに、いのりに話しかけるルネ。
「ボクはアイドルを目指してるんだ」
「私はもう、すごいアイドルだと思ってますよ」
 春香が言う。
「まだまだだよ、まだまだ上があるし、やりたいこともいっぱいあるんだ」
「どんなこと? 私聞きたい」
「TV番組に出たりステージに立ったりもしたけど。歌やダンスでいろんな人に元気をあげたいんだ」
「私、いのりさんが出てる番組何回か見たよ! 綺麗だったし、いのりさんから元気をもらったの。できるよ! いのりさんならその夢絶対叶えられるよ」
「ありがとう」
「うん、歌で人を幸せに。できるよね。私の歌でも。いのりさんみたいにできるよね」
 澄香がルネの手を握る。
「できるよ! 大丈夫、自身を持って」
 そう、微笑みを浮かべて。
「…………お二人の出会いとよかったら交わした誓約を教えてもらえますか?」
 理夢琉が問いかける。その場にいる全員の視線が春香とルネに集まった。
「私、住んでいた町を従魔にめちゃくちゃにされたことがあって」
 春香がその言葉を継いで話し始める。
「そこでね、私を守って大切な人が死んでしまって、それで恩を返すために、同じように悲しむ人を出さないためにH.O.P.E.に入ったんだけど」
 そこでルネに出会ったのだと。春香は言った。
「最初、このこ他の人とうまくコミュニケーションが取れなかったの。この子体全体から音が出るし、しかも音痴だしで、言葉は話せるけど、すごく耳障りだっただから嫌われてたのよ」
「あははは、面目ない」
 ルネが笑う。
「そんな私に、しゃべり方と謳い方を教えてくれたのが春香だよ、だから契約したんだ。その時たくさん話をした、それで私春香の夢に協力したいと思ったんだ」
 そうルネは春香の肩に額を摺り寄せる。
「おかげで私は陸上部もバンドもほとんど顔が出せなかったわ。あの時は。感謝してよね」
「うん!」
 そうルネが元気に返事をすると『桜木 黒絵(aa0722)』が勢いよく手を挙げた。
「陸上部なの?」
「そうなんです」
「私も陸上部だよ! 競技は?」
「競歩なんです。でも昔は長距離やってました。そして部活終わりにバンド仲間と演奏したり、ゲーセン行ったり」
「私も忍とよくいくよ。すごい偶然だ。バンドやってるなら。今度ライブするんだけど。あの……アドバイスとかもらえないかな」
「ライブ? 面白そうだね、ぼくも話がききたいな」
「どれどれ、ボクにも見せてよ」
 そう譜面や歌詞を取り出した黒江の周囲に少女たちが集まる。
「そうだ、ライブ来てよ。絶対楽しいよ」
「私行きたい」
 ルネがそう笑って答えた
「来てくれるって、やった。ねぇ忍も来るよね」
 そう黒絵が振り返り視線を向けると『三坂 忍(aa0320)』は考え込むようにうつむいている。
「忍?」
 その隣では『玉依姫(aa0320hero001)』がやれやれと言った調子で首を振った。
「ねぇ、ルネさん」
 そう忍が口を開こうとしたとき。
「……自己矛盾、だ。」
 声がした、鋭く。温まったこの空気を切り裂くような、鋭利な声。
「お前の理屈に沿う。ならお前こそ……愚神と同じだ。『人殺し』が。」
 『ネイ=カースド(aa2271hero001)』だった、その目には怒りでも悲しみでもない、複雑な色が逆巻いていた。
「ネーさん、まって」
 『煤原 燃衣(aa2271)』が止めに入るも、遅かったネイはどこかに去っていく。
「お前もだ、遙華。『喉を潰してでも生かす』ぐらい、言ったらどうだ?」
「私は」
 去り際の一瞥、そしてその言葉に遙華が戸惑いの表情を見せる。
「ネーさん! ご、ごめんでもこう言いたい……んだと。思う。未来には……その力でもっと救える命がある。今死ぬのはその命も見捨てる事だよ……って」
 その瞬間、公園の大時計が作戦開始の鐘の音を鳴らす。
「さぁ覚悟を…き、決めましょ! 迷ってたら負けます……!」
「お前は何も言わないんだな」
 そんな中『アムブロシア(aa0801hero001)』が幻想蝶の中から雨月に問いを投げた。
 雨月は答える。
「彼女の生き方だもの、決めた以上は特に何も。既に近しい二人が心も言葉も尽くしたのだし、決心は固いのでしょう?」
 雨月は遙華を見やる、彼女には見えていた。その背に乗った迷い。そして瞳の中の不安と悲しみ。
 こんな彼女を見るのは二度目だった、そしてその時よりひどい。
「その気持ちに報いるなら、今回の作戦の成功を手向けとするわ。
薄情と思われるならそれでもいい。だけど、失敗すればそんな彼女の意思も覚悟も無駄になる。
 それに……最後くらいは安心させてあげたいじゃない」
 その雨月はその場から歩き去る。雑談は終わり、そんな空気が場を満たしていた。
「ルネさん、ちょっと……」
 そんな中、忍がルネに声をかける。
「春香はわらわと相談じゃ」
 玉依姫は春香に。
 聞きたいことがある、そう言ってその目を見据え二人はルネと春香の前に立つ。何か伝わったのかルネは今までのおどけた表情を収めた。

   *   *

「遙華君……」
 撮影機材の整理をするふりをして、いつの間にか雑談の輪から逃れていた遙華に『シウ ベルアート(aa0722hero001)』が問いかける。
「どうかした?」
「彼女は残された命を燃焼しようとしている。自分の生に意味を持たせる為にね。
 それを邪魔することは僕らには出来ないんじゃないかな。」
「…………何が言いたいの」
「歌わせない、その選択肢をとってはいけない、そう言いに来たんだ」
「なんで私がそんなことを」
「バレバレだからね、西大寺さん」
「忍……」
 シウの隣には忍がいた。呆れ顔で遙華を見据えている。
「それはあなたの勝手な憶測じゃないの?」
「西大寺さん、あたしは貴方が好きよ。
 でも貴方のために誰かの人生を変える事はしたくない。だって、生き方なんて自分で決めなきゃ結局後悔するんだから。
 あたしにできるのは助言や手助けだけ。それでも彼女の願いが此処で命を使う事なら、あたしはそれを全力で応援する。例え貴方に恨まれてもね」
「命を使う、それを応援する? あの子が消えるそれをあなたは容認するっていうの?」
 そう投げた言葉には敵意が滲んでいる。
「容認するわけじゃない、僕らも全力を尽くす」
 そうシウが言葉をかける。
「きいたわ。命を使う選択に迷いが無いか」
「なんて言ってた?」
「迷いはない。この歌で、誰もが幸せになる未来を。届けたい。そう言ったわ」
 忍の言葉に遙華は明らかな動揺を見せた。
「嘘よ……」
「本当よ、だから私は、あの子たちの意志を尊重したい。どうか彼女たちの思いをわかってあげて……」
 遙華は拳を握りしめ、うつむき、口を閉じた。
「彼女を絶対に生かす約束は出来ないけど、彼女を全力でサポートし、
 この作戦を成功させる事を約束するよ」
 その時だった。鈴と響くガラスの音。
 ルネの音が増幅され、町中に設置されたスピーカーから曲が流れ始めたのだ。
 作戦開始の合図だった。

   *   *

「始まった」
 理夢琉がつぶやき、その音に浸る。
「ねぇ理夢琉さん。さっき、私たちの誓約について尋ねたよね」
 ルネが言う。
「教えてあげる。私たちの誓約は。世界を守ること」
 春香が言う。
「「この命に代えても」」
 共鳴し、大人びた姿にルネが変わっていく、全身がガラス質になり、半透明に翼のような薄ガラスの、輝くような細工が広がり振動を始めた。
「止めないと、ルネ!」
 遙華が忍やシウを押しのけ駆け出す。しかしそれを憂が遮り、止めた。
「遙華、ごめんね、酷い事言う」
 反射的に遙華は憂をにらむ。
「この戦いでは、助けたいとか余計なこと、考えちゃ駄目だよ。全力でルネを守って。悔いが残らないように」
「なんで、なんでそんな悲しいことを言うのよ!」
「守れなかったら、燈花みたいに夜中、時々魘されちゃうよ」
 はじかれたように遙華は燈花を見つめる。一瞬で理解した。彼女も守れなかったのだ。
「ルネにとってこの世界はきっと、遙華達が生きる大事な世界。だから守りたいんだよ」
「だから、言ったらだめよ。私も七水と同意見だわ」
 忍が遙華の手を引く。シウが目を閉じ頷く。それを遙華は振り払うことができない。

 そして歌が始まった 
「これが、水晶の歌姫の歌か。妖精のものとはまた違う深みがあるな」
 そうアイリスは目を閉じ、歌に聞き入る。
 民族調の琴や笛、ガラスがひびくような澄んだ音を織り交ぜながら、凛とすんだ高音が響く。
「それは、わたしの思いはどうなるの? あの子たちの命で掬われた命を私はどうすればいいのよ」
「わかるよ。解ってても悔しいんだよね、救えないのが。遙華もルネが大切だから」
 歌詞は神話を謳ったものだった、かつて世界の滅びを目の当たりにした水の女神が、その身を以て炎を消していく話、やがて彼女は火を消し切るが、その体はほとんど蒸発していた。最後の一滴すら消え去るも。その身は雨となって今度は傷ついた大地を癒した。そんな歌だった。


二章 ほろびのうた

「手はず通りに、みなさん、いいですね」
 全員がインカムを装備し、燈花の号令に合わせ陣を展開するリンカーたち。
「魔法少女クラリスミカ!」
 澄香が共鳴し南へかける。ルネへぱちんとウィンクをすると。ハートが飛び。思わずルネは微笑んだ。
 振り返り真っ直ぐ前を向く、澄香は苦悶の表情を噛み殺し、笑顔を浮かべ。幻影の光を振り、敵を見据えた
 曲が流れている間に敵がおびき寄せられてきていた。南北東方面から従魔の塊がルネめがけて飛来するのが見える。
 それへ南方を守護する澄香は射撃を見舞った。
「そうだよ! 私を狙って、ルネちゃんには手を出すな!」
「支援、行きますよ!」
 周囲に散った従魔を死者の書で燈花が残らず消し去る
 同時に迫る従魔を東方を守護する黒絵、燃衣。北方守護する忍、いのりがそれぞれ、迫る従魔を迎撃する。
「憎いッッ! あんな……素敵な心を、笑顔を、尚も奪おうとする敵が世界が!」
 燃衣がその霊力で再現した熱量で細かな従魔たちを蒸発させていく。
「ルネさんには指一本触れさせない!」
「いのりさん、屈んで!」
 反射的に伏せたいのりの上空をクリスタルファンの波動が通過する。
「増援だ。まだまだくるよ」
 今度は西から従魔の群が接近しているのが見えた。雨月、理夢琉は撃劇体制をとる。
 それめがけ雨月はあえて距離を詰める
「至近距離なら避けようも無いでしょう? その意識刈り取ってあげる」
 そんな中いのりが言う
「ねぇ、ルネ。ハモっていい?」
 歌に新たな旋律が混じり、深みが増す中、戦闘も激化していた。
 従魔もルネにたどり着こうともがき逃げるものだから。攻撃を当てることに苦労するリンカーたち。
「ルネさんの歌はとっても素敵だね」
 そんな中、いのりが、額の汗をぬぐいながら言う。
「いのりさんにそう言ってもらえるとうれしい」
「でもちょっと悲しい。こんなことにだけ使うのは勿体無いよ。ボクはもっともっとルネさんと一緒に歌いたいな」
「ええ、私も、そうしたかった」
 中央、愚神からの攻撃や、防衛ラインを破られた際の防衛を担当しているのはイリス、孤五郎、遙華の三人だった。
 だから遙華はずっとルネのそばにいる。その姿を心配そうに見つめながら、けれど彼女は何をすることもできない、忍やシウの言葉が耳にこびりついて離れない。
 それを見かねて、孤五郎が言う。
「ルネちゃんだったか、あの子を少しでも長らえるよう説得するなら
彼女の歌を真っ向から否定する方法はもう試したかい?」
「どういうこと?」
「彼女の決意は狂気や陶酔、己惚れや自己暗示を孕んだ呪いに見えるからな
それを解こうと思ったらまずは当人の自分には歌しかないって思い込みから壊してやらなきゃね」
「呪い……」
「ただしあの子が歌を否定されてなお生きる気力を振り絞れるかは分からない
見届けるのか挑むのか、よく考えて決めることだ」
 その言葉がインカム越しに聞こえていたのかアリューティスが釘をさす。
「ルネは英雄になった意味を自分で見つけた
春香は心の強さを認めている
彼女達の決意の絆をわかってやれ」
 シウがその言葉を継ぐ。
「そうだね、僕も彼に賛成だ、彼女には生きていて欲しいと思う。
 でも、彼女は命を懸ける事に自分の生きる意味を見つけたんだ。
 彼女の決死の想いを僕は受け入れたいと思う」
「でも、本当にそれが正しいの? ハッピーエンドを目指して努力するのは悪いことかな」
 いのりが問いかける。
「私は……」
 正解はなんだ、遙華にはそれが全く分からなかった。
 だが一つだけわかるのは、急速にルネの命が燃えていっていること。
「ルネ、やめて、もう謳わないで」
 そう遙華はルネに、手にしたナイフを向ける。
「やめろ!」
 アリューティスが鋭く叫んだ。
「契約者が認めた英雄が誇りを持って成し遂げようとしている
邪魔するならこの戦場から去れ!」
「なんで、なんでそんなことを言うの?」
 遙華の手から力が抜けた、黒刃のナイフが地面に落ちる。
「私は、納得できない。なんで、あの子たちが幸せに、なれないのよ!」
 遙華は叫んだ。だれに。
 おそらくは神にだろう。世界をこんなにめちゃくちゃにして。悲しい二人を出会わせてしまった神様。
 死んでまで救わなければならない世界を、誰かが死ななければ守れないような世界を、作り出した神様が遙華には許せないのだ。
「命をかける、そういうときがあるのは分かるよ……でもね」
 その傷ついた遙華の手を取ったのはイリスだった。幼いその手は小さく、しかしとても暖かった。
「ボクね。死ぬのが怖くないだとか、自分の命が軽いだとか、そういうのは、嫌いだな」
 そう言い、イリスはルネを見据える。
「ごめんね。イリスさん」
 ルネが言った。イリスはそれに言葉を返す。
「命とか、絆とかって、綺麗に無駄なく使って、はいおしまい……じゃないと思う。残された人も悲しいし、残していく人だって、繋がりがあるほど怖いはずだから」
 そして遙華を見た。その視線を追って、今度はルネの顔が曇る。
「泣いてもいいと思うし、足掻いてもいいと思う……。命を使う事と、生きる事をあきらめるのは、違うと思うから」
 その瞬間だった。
「よけろイリス!」
 孤五郎が叫び駆け出す。しかし間に合わない。
 上空から急降下してきた何かに弾き飛ばされ、イリスは地面を転がった。
「まさか、上からくるとはな。予想外だ」
 イリスをかばうように孤五郎と遙華が愚神ゼブルスの前に立つ。
「ルネさん!」
 一番近くにいた燃衣がその姿に気が付き。ゼブルスへ向けかけようとする、しかし。従魔が邪魔で突貫できない。
――こいつらを倒すしかなさそうだな。
「殺ろう、ネーさん。
来いよクソ虫が……殺す、殺してやるッ
まるで光にタカる虫だな。
なら、お似合いのがあるぞ。燃え落ちろクソ虫ッ!」
 突然懐に潜り込んできた愚神、対応するには目の前の従魔が邪魔だった。
「この! 上からなんて卑怯だぞ!」
 イリスが武器を構えなおす。
――熱くなるだけ熱くなりたまえ、その分は私が戦場を見ておくさ』
「うん、お姉ちゃんの声なら……どんな時だって聞こえるから!」
 ゼブルスは臆することなくリンカーの前に立つ。
 その両手を握り、透明な羽をぶんぶん振って威嚇する。
「食わせるものか」
 駆動音を響かせ孤五郎が剣を構えた。
――私は守護者だ、救い手ではない。
 アイリスが言う。
――だから運命に愛されたような者たちと違って強引にハッピーエンドを掴み取れるわけではない。
 誰にでもなくつぶやいた言葉だが、それは不思議と遙華の胸に響いた。
――この手が届く範囲を、この武力で、護る事しかできない。
「守ることしかできない」
 それと同じ言葉をルネと春香が言っていた。自分たちにできることは限られていると。
 その時、ゼブルスがはじかれたように動いた。
 その巨体が信じられない速度で動き、目の前のリンカーを打ち滅ぼさんと振るわれる。
 ターゲットはイリス。
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 盾を攻撃に利用しろ!」
 イリスは真正面からその手に握られた盾で受ける、そう見えた。
――盾をただの護る為の壁と思っていると火傷をするよ、気をつけたまえ。
 しかし違った、角度を操り、力のベクトルを操作。相手の攻撃をそらし、体制が崩れたところで盾に力を乗せて、わずかに体制を崩す。
 続く二発目、それをしたから受け、上に弾き。体制を大きくそらす。
「小さいからって侮るなら……ひき潰すッ!」
 その剣が、深々とゼブルスの腹部をえぐった。しかし。
 ゼブルスには羽がある。
 盾によって崩された体感もバランスも瞬く間に修正し。
 大木さえ両断する蹴りを放つ。
 しかしそれをイリスは屈んで回避した。
「交代だ、イリス」
 その声に反応し、イリスは一気に後ろに飛んだ。
 孤五郎がその体を鋼鉄の武装で纏い、突貫。ブースターの加速度にまかせて剣を叩きつける。
 大地が割れてもおかしくないその一撃をゼブルスは真っ向から受け、弾き、そして隙あらばその漆黒の装甲をはがそうと躍起になる。しかし。
 孤五郎の体制が崩れたとしてもイリスが邪魔に入り。思うようにダメージを与えることができないでいた。
 しかしそれは二人とて同じこと。相手は愚神。その攻撃力を警戒するあまり強い攻勢に出られないでいる。
 明らかにダメージは相手の方が蓄積している、しかし抑々の力が違いすぎるのだヒットポイントの差は埋まらない。
 そして徐々に限界が近づいていた。イリスは初撃のダメージが残っており反応速度が下がりつつある。
「このままじゃ、まずい」
 その時だった。 
――言っただろ、全力でサポートするって。
 突如声が聞こえた。次いで眩い閃光。遙華の眼前を覆いつくし、愚神の悲鳴が聞こえた。
「みんな……」
「やっと来たか、襲いぞ」
 孤五郎が二本の剣で愚神の攻撃を防ぎ、周囲を見渡した。そこには東西南北に沸く従魔すべてを倒し切った、リンカーたちの姿があった。
「今なら、ロクト!」
――影縫い!
 そう遙華の手から放たれた大振りのナイフがゼブルスの影を縫いとめる。
 これで移動ができなくなった。
「お願い!」
 そして遠距離兵装を持つすべてのリンカーが遠距離武器に持ち替えた。愚神の動きが止まっている数秒の間。集中砲火が続き、そしてゼブルスは跡形もなく消え去った。
 

三章 戦闘終了
 戦闘終了、その直後、唐突に音楽がやんだ、そして倒れ込むルネ。
「春香……。ルネ!」
 遙華が駆け寄る、その最中にルネ春香が分離した、強制共鳴解除、霊力が枯渇した証拠だった。春香がルネを抱え、そして叫ぶ。
「どうしよう、ルネ、息してないよ。ルネ! ルネ!」
 燃衣がライブスゴーグルでライブスの流れを見る。
「霊力がほとんどなくなってる……」
 燃衣は膝を折り、ルネの体に手を当て霊力を流し込む、しかしその損失を補いきれない。
「ぐぅうッ! い……逝くな。まだ逝くなァアアッ!」
「英雄は死ぬ事は無い。ライヴスで出来た身体はどれだけ傷つこうと、いずれ復活する。おぬしに打ち込まれた楔、世界とのリンクが切れぬ限りはな。もし、原因がおぬしとのリンクにあるのなら。一度途切れた瞬間が最大の好機かもしれぬ」
 そう玉依姫が春香の手に手を重ね言った。
「誓約は果たされたよね、今なら新しい契約も結べるんじゃ」
 そう理夢琉が秘薬を手渡す
「春香、どこ、どこにいるの」
 ルネの透明感が増していく、まるで空気に溶けていくように
「お願い、ルネ、私と生きて。私と誓って。一緒に生きるって」
「うん、生きたい。私も、みんなが大好きなこの世界に行きたいよ」
 ルネは言った。そして一口、秘薬を口に含む。 
 その時、春香の手の幻想蝶が光を増した。金色の輝きと共に半透明だったルネの姿が、はっきりと蘇る。
「やった、やったの?」
 遙華が理夢琉の手を取る。
「ありがとう! 理夢琉。このお礼は必ず…………」
 全員が安堵した、命を救うことができたと。しかし。

「ごめんね、春香、遙華、やっぱりダメみたい」

 ビシッ。そう激しい音がして、ルネの体にひびが入った。口元からその美しい肌が駆けていく。
「イヤ! そんなルネ……」
 再契約それ自体は成功したのだろう。でも、だめだった。
「遙華!」
 雨月が駆け寄る、同時に遙華の膝から力が抜けた。その体を雨月は抱き留めた。
「見てはダメ。今は……」
「春香、ありがとう。私春香と一緒にいられてよかったよ。お礼を言いたいことはいっぱいありすぎて、こんなことしか言えなくてごめんね」
 そしてありがとうを伝えたい、そうルネは言った。
「みんな、ありがとう、私を守ってくれただけじゃなくて、たくさん、私のこと考えてくれて
 みんなの思い確かに受け取ったよ、おかげで最後まで歌うことができた」
 ルネは日常を、守りたい思いを力に変える。十全に力を発揮できたのは紛れもないリンカーたち全員の思いの力だった。
「でもごめんね。もっといのりさんたちの、歌や踊りや、見たかったなぁ。動物園にも私行きたかったし。みんなと友達に、なれそうだったから、残念だなぁ」
 気が付けば、その場を啜り泣きと、無力さを悔いる声であふれていた。
 消えゆく命を救えない、どうすることもできない、そんな無力感がその場を支配していた。
「理夢琉さん、私のことたくさん思ってくれてありがとうね。おかげで少しだけ、時間がもらえた」
 もう、何も見えていないのか、ルネは遠く空に向けて指を伸ばす。
「忍さん、お願いがあるの。遙華と仲良くしてあげてね。あの子。無表情で不機嫌そうでしょ? でも本当は違うのよ、優しいの」
「言ったでしょ、遙華は任されたって。大丈夫。これからも私が面倒見るから」
 忍が、ルネの手を取り、言った。 
 するとルネは安心した表情を浮かべる。
「黒絵さんのライブ、行きたかったな。機会があったら、春香と仲良くしてあげてね」
「みんな、ありがとうね。みんなこんなに私のこと考えてくれた、優しい人たち、最後にあえてよかった。本当にありがとう」
 そう微笑みを浮かべたルネは。ひび割れ、砕け、バラバラになった。
 その体は、やがて光の粒となり、天へと上る。
 今日一つの勝利と引き換えに一つの命を失った。
「ルネ! あああああああああああああ!」
 遙華の慟哭がこだました。泣きじゃくる遙華を優しく雨月が抱き留める。
「西大寺さん。……悲しいね。悔しいね」
 涙を流す澄香をいのりが支える。
「春香さん、遙華さん、いっぱい泣こう!
 今はルネさんのことを思って心の底から泣こうよ
 でも、泣いたら今度は笑わなきゃ
 ルネさんの分まで生きるっていうのは、チープで使い古された言い回しだけど、 ホントにそうだと思うから」
 ネイはその光の筋が上る先を見つめながらつぶやいた
「最期、だ……
 前の遺志は……俺、達が継ぐ
 先に、逝っててくれ」

 エピローグ

「此度の件、グロリア社様のお預かりとなるのは重々承知なのですが、ルネ様の歌をアイドル達が歌う許可を頂きたく思います」
 後日、ロクトの元に澄香とクラリスが尋ねた。
「あの歌を?」
 驚きを隠せない様子でロクトは答える。
「私、ルネさんの歌をもっと皆に聞いて貰いたいんです、だから。どうかお願いします!」
 そう澄香が頭を下げた。
「ありがとう、そのほうが彼女も喜ぶと思うわ。この歌自体には何の力もないというところだけ理解してもらえれば、問題ないわ」
「いいえ、歌はそれ自体が力なんですよ。人の心を動かせる。素晴らしいものです」
「わかりました、そんなあなたになら安心して預けられる。この歌をどうするかは、クラリスさん、あなたに一任します。お願いできるかしら」
「ええ、任せてください、ありがとう」
「だとしたら、題名が必要ね、私たちは滅びの歌とよんでいたけど」
「あれは滅びの歌ではありません。明日を繋いだ希望の歌です……だから」
 そうクラリスは考え込むしぐさを見せ、そして言った。
「曲名はルネで如何でしょうか?」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
    人間|17才|女性|攻撃
  • エージェント
    七水 憂aa0041hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • エージェント
    三坂 忍aa0320
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    玉依姫aa0320hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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