本部

仁義なき白雪の戦い

水藍

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/12/18 13:33

掲示板

オープニング

●一面の雪
「おー……、見事に積もったなぁ……」
 サッカーコートに1人の男性がやってきて、白い息を吐きながら言った。
 彼はこのサッカーコートの管理者であり、HOPE所属の職員でもある。
「……雪かき、するだけだったらもったいない、ような気もするな」
 手に持って居た雪かき用の器具を足元に投げ置き、彼は懐から携帯端末を取り出した。
 取り出した携帯端末でどこかにダイヤルをする。
 2、3コールの後、携帯端末の向こう側で誰かが応答した。
「おはようございます。ちょっと相談したいことがありまして」
『はい。何でしょうか』
 電話の向こう側では、女性のオペレーターが返事をした。
「個人所有のサッカーコートに雪が良い感じに積もってまして。……そこで、エージェント達に日頃のお礼として雪合戦にでも使ってもらいたいな、と思いまして」
『……嗚呼、なるほど。それは良い考えですね!』
「なので、フィールドを整える為に何人か手の空いた職員を寄越してほしいのですが」
『かしこまりました! すぐに手配しますね!』
 ピッ、と電子音を上げて通話が切れた。
 彼は携帯端末を懐にしまうと、一度足元に投げ置いた雪かき用の器具を拾い上げた。

●整った舞台
「英雄と能力者で戦うのはどうだ?」
 作業が終わり、HOPE本部の喫茶スペースで温かい飲み物を飲みながら雪かきを手伝っていた職員が言った。
 その隣で温かいココアを飲んでいた彼がその職員を振り返り、いい笑顔で職員に向かって親指を上げる。
「その案、採用!」
 こうして、仁義なき白雪の戦いの火蓋は静かに切って落とされたのであった。

解説

能力者VS英雄で雪合戦をしてください。(能力者のみの参加の場合、英雄もその場にいますが描写はありません。名前のみの登場です)

●場所
 ・雪が降り積もったサッカー場です(広さ:縦105m×横68m)

●ルール
 ・開始時1人につき雪玉を3つ支給します。
 ・15分一本勝負です。
 ・相手が全滅するor相手の陣後方にあるサッカーゴールに無傷で駆け込んだら勝ちです。
 ・相手の投げた雪玉に当たるとアウトです。
 ・最初に支給された雪玉を試合終了まで持っていたらアウトになります。
 ・雪壁に隠れる時間に制限はありません。
 ・1つの雪壁に2人まで入れます。
 ・最初に支給された雪玉を投げきったら自分で自陣後方にある雪玉置き場に行って補給して下さい。(数は問いません)
 ・時間内に全滅出来ない場合陣に残っている人数が多い方が勝ちです。
 ・相手が女性、若しくは15歳以下の場合は2回雪玉を当てなければアウトになりません。

●陣地
 ・能力者、英雄各陣地に平等な形で雪壁が配置されています。
 ・雪壁の数は全部で5つ、陣地後方から見て重ならない様に配置しています。
 ・各陣地の後方にはサッカーゴールが設置されています。

●補足&禁止事項
 ・雪玉はHOPEが試合中も量産しますので数を気にせず戦いに集中してください。
 ・相手に雪玉以外で攻撃を加える、けがをさせる等の行為をした時点で失格です。
 ・雪玉に細工する、スコップ等の道具で防御をする、新たに雪壁を作成する事は禁止です。
 ・自陣に落ちている雪玉を拾って投げる事はOKですが、敵陣に落ちている雪玉を拾って投げるのは禁止です。
 ・雪玉の補給は必ず自分で行ってください。(敵・味方に限らず他人からの譲渡は禁止です)
 ・相手陣、自陣の雪壁を壊すことはOKです。

●試合終了後
 ・勝った方はこたつと温かいお汁粉(餅入り)が振る舞われます。
 ・負けた方は一台のストーブ前で温まってもらいます。

リプレイ

●試合前の握手はマナーです
 白銀に覆われたサッカーフィールドに、10人の英雄と10人の能力者が終結した。
「さて、メリアに連れられてですが……、こういうひと時も悪くないかもしれませんね」
 トウカ カミナギ(aa0140)が白い息を吐きながら呟いた。
「偶にはこういう息抜きもしなくっちゃね! でも、やるからには全力。手加減無しで勝負だよ」
 トウカの声に反応して、メリア アルティス(aa0140hero001)が早くも宣戦布告を下す。
 意気込むメリアを見たアヤネ・カミナギ(aa0100)が何処か納得したように頷いた。
「やれやれ……、同行させられて来たと思えばこういう事か」
 まぁ、折角だし付き合ってやろうか、と言葉とは裏腹に楽しそうなアヤネを見て、クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)もアヤネ同様に頷く。
「メリアが元気に引っ張って来るから何かと思ったら……。まぁ……、偶にはこういうのも悪くないかしら」
 白銀のフィールドを前にそんな風に言い合っている4人の背後で、何処か違う方向を向いている影が1つ。Le..(aa0203hero001)である。
 ルゥの視線の先には、もくもくと温かそうな湯気を上げる寸胴があった。中身は言わずもがな、今回の勝負の勝者に振る舞われる予定の汁粉である。
「……勝つ。お汁粉食べる。つぶ餡派。ヒジリーには負けない……」
 汁粉の為に頑張っている事を隠そうともしていないのが、いっそ清々しい。
 そんなルゥの動向に全く気付いていない東海林聖(aa0203)は、整えられたフィールドを見てテンションが上がっている。
「雪合戦で勝つ! やるからには絶対勝ってやるぜッ! 後、ルゥには絶対負けたくねェ!」
 うぉぉー! と早くも勝つ気満々である。
 その隣で、御代 つくし(aa0657)が微笑ましく聖を見つめている。メグル(aa0657hero001)はそんなつくしの風よけを買って出ていた。
 雄たけびを上げる聖の背後で、さくさくと雪を踏む音が響く。
 カトレヤ シェーン(aa0218)が試合前に軽く場当たりのジョギングをしているのだ。
「紅花には絶対負けたくないぜ」
 テンション高く叫ぶ聖に感化されたのか、カトレヤがぽつりと今回の戦いへの意気込みを人知れず漏らした。
 走り込むカトレヤの背中をじっと眺めている王 紅花(aa0218hero001)も、皆と同じく静かに闘志を燃やしている。
(英雄のありがたみを教えてやるのじゃ)
 普段から能力者は英雄に世話になっているのを身をもって教えてやるのだ、と紅花は心の内で呟く。
 そんな中、ストイックに己の英雄と向き合う能力者が居た。
「お汁粉がかかっている……、ハルちゃん悪いけどこの勝負もらった……よ?」
「ふむ……、真琴、このワタシに勝とうと言うのか? くくっ、百年早いわ!」
 今宮 真琴(aa0573)と奈良 ハル(aa0573hero001)である。
 2本のふさふさの尻尾を妖しく揺らしながら、ハルは真琴を見下ろした。
 普段は真琴を守る事を優先させているハルだったが、今回に限ってはそうは行かないようだった。
 くくく、うふふ……、と不敵な笑みが交わされる女同士の間に火花が走る。――否、火花を散らしているのは真琴とハルだけではなかった。
「良い機会だよね、コレ。……はっ、コロス……!」
 ぎりぎり、と親指の爪をかみしめながら、高天原 凱(aa0990)はただ一点を見つめる。
 凱の視線の先にいるのは、奇しくも凱と名前が同じであり凱の英雄でもある真龍寺 凱(aa0990hero001)だ。
 集まった英雄と能力者から少し離れた木の陰から真龍寺を見つめる凱の視線に、真龍寺もまた気付いていた。
「あのガキに何か出来るとも思えないが……、身の程くらいは教えてやる」
 物陰からひしひしと感じる恨みがましい視線に、真龍寺は不敵な笑みを浮かべる。
 もはや邪気しか感じられない英雄と能力者がいる様に、またその逆の関係を築いている英雄と能力者もいる。
「雪合戦だって、勝ったらお汁粉食べれるんだって! これは勝つしかないのよ! 恋詠、お汁粉の為なら頑張るのよ!」
「勝ったらお汁粉……なるほど? 恋詠はそれに食いついた訳だな。……ふぅ。仕方ない、少しつきあってやる」
 凱と真龍寺とは対照的に、壽染司 恋詠(aa1470)と巳謌月(aa1470hero001)の間に流れているムードは和やかである。
「雪合戦したら汁粉が食えるのか! なんとすばらしい!」
「主様そんな薄着では風邪を引きます……」
「汁粉にはプリンをいれてもいいのか!?」
 こちらも、一風変わった空気を漂わせている。
 甲斐甲斐しくエス(aa1517)の世話を焼いている縁(aa1517hero001)の言葉など一切聞いていないエスは、もはや自分の世界に入っている。
 しきりにプリンプリンと騒ぐエスの首にマフラーを巻いてやっている縁には、これが通常運転、とでも言うようにまったく気にしている様子は見られない。
 各々自由に過ごして時間を潰している英雄と能力者達の下へと、汁粉に付きっきりになっていたHOPE職員が近寄る。どうやら汁粉はひと段落付いたようだ。
「……さて、皆さん。お待たせいたしました。それでは皆さま、陣地を分ける境界線に立ってください」
 それまで騒めいていた一行は、HOPE職員の言葉に素直に従って各自の陣地に入る。
 そして、敵陣地との境界線に綺麗に並んで立った。
「さあ、試合開始は握手から、が世界共通のマナーです。……それでは皆様、各自のパートナーと握手を」
 そう促され、素直に自身の英雄や能力者へと手を差し出す。
 和やかに握手をするものが居れば、中には積年の恨みを込めた様に無駄に力を込めて相手の手を握り込む者もいた。
 いつまでもぎりぎりと相手の手を握る者の手を強引に引きはがし、HOPE職員はごほん、と咳払いをした。
「……まあ、私怨はともかく。今回は楽しく行きましょうね。……では、雪合戦を開始します。各自、持ち場についてください」
 こうして、仁義なき白雪の戦いは開始された。

●白雪の戦い:前半戦
「速攻! だよー!」
 開始の合図とともに突っ込んできたつくしに、目の前に居たルゥは先程メグルが言っていた言葉を思い出す。
『つくしはどうせ突っ込んでくるでしょうから、僕は動きませんよ。出来る限りつくしを狙い、早めに撃破しておきたいところです。……彼女は僕が倒します』
 頭の中でメグルの言葉を反芻した後、ルゥはつくしの突進をひょい、と避けた。
「あれっ!? 私、ここにいるよー?」
「……つくしは、メグルが、倒す」
 通り過ぎざま、ルゥはつくしに聞こえない様に呟く。ルゥに避けられたつくしは訳が分からず疑問符を浮かべながら立ち止まった。
「つくしっ! 止まるとあぶねぇぞ!」
「あ、しょーじくんっ!」
 つくしの背後から、聖の鋭い声が飛んでくる。ルゥはつくしの背後に注目した。
「……ヒジリーには、負けないっ」
 両手に持っていた雪玉を、ルゥは聖めがけて投げつける。
「ぅおっ!? ルゥか!?」
 ルゥの投げた雪玉を器用に避け、聖はルゥを見遣る。ルゥの投げた3つの雪玉をすべて器用によけた聖を見て、ルゥはすぐさま雪壁に隠れた。
「あれっ、おい、ルゥ?」
「……」
 てっきりこちらに向かってくると思っていたルゥが雪壁に隠れたため、聖は意表を突かれて一瞬足を止めた。
 その隙を見計らったのか、ルゥがどこに隠し持っていたのか、大量の雪玉を雪壁の向こうから聖に向かって投げつける。
「ぶべっ!?」
 完全に油断していた聖は、顔と膝に雪玉を食らってアウトになってしまった。
「……戦いは、物量……」
 聖の悲鳴を聞いて、雪壁の向こうでルゥが呟いた。
 その頃、正面突破を試みたつくしはと言うと。
 始めに支給された3個の雪玉はとうの昔に投げつくし、今はフードに隠し持っていたストックを消費しながら敵の攻撃を相殺していた。
「んー……? どうして私、ここにいるのにあんまり狙われないの?」
 そう。正面突破をしている割にはあまり敵からの攻撃を受けていないのだ。つくしは敵陣の中心部分までやってきてからその事に気が付いた。
「それは、僕が事前につくしを倒す、と言っておいたからですよ」
「っ!?」
 誰もいないと思っていた雪壁の向こうに、いつの間にかメグルが立っていた。
「さぁ、つくし。僕と一騎打ちです」
「メグ、ル……?」
 雪玉を握って構えるメグルに、つくしは呆気にとられる。まさか、メグルが自分と一騎打ちに出るとは思わなかったからだ。
 呆然とするつくしの腕に、ぺそっ、と雪玉が当たる。これで、つくしはあと1発当たったらアウトだ。
「!」
「つくし、これで僕と状況は同じになりましたね」
「……メグル……」
 雪玉に込められた力は軽いものの、メグルの本気を感じ取ってつくしもストックしていた雪玉を取り出す。
 どうやら、メグルも足元に何個かストックを持っているようで、3個以上を一気に投げてくる。
 つくしは飛んでくる雪玉を器用に避けつつ、メグルへと反撃を与える。
 リズムよく投げていた為か、フードに入れたストックももう残り少ない。つくしは雪玉を握った。
 ふと、予期せぬ方向から雪玉が飛んで来る。どうやら他の英雄が投げた流れ弾のようだ。
 流れ弾に呆気にとられたつくしの隙を、メグルは見逃さなかった。
 つくしの足目掛けて雪玉を投げ、つくしに無事当たった事を見届けた瞬間、メグルは肩に衝撃を受ける。どうやら、つくしの投げた雪玉に当たってしまったようだ。
「えへへ……、メグル、ゆだんたいてき、だよ!」
「つくし……」
 こうして、メグルとつくしの戦いは互いをアウトにさせる結果に終わったのだった。
 メグルとつくしが一騎打ちを繰り広げている頃、フィールドの反対側では正面突破が決行されていた。
「ひゃあああっ、冷たい……っ! ていやあああっ」
 強行突破をさせまいと、ひたすら防衛する英雄側に向かって、恋詠は渾身の一撃をお見舞いした。
 しかし、恋詠の雪玉は残念ながら誰に当たることもなく地面に転がってしまう。
「難しいよー! っえい!」
 下手な鉄砲数撃てば当たる、ではないが、恋詠は只管自陣に転がった雪玉を投げる。
 手に持っていた雪玉がなくなり、恋詠は仕方なく後ろに下がって雪玉を補給しに行こうとした時だった。
「ふわっ!?」
 ぺしゃっ、と恋詠の背中に冷たい塊がぶつかる。恋詠はびっくりして足を止め、そして振り返った。
 しかし、それがいけなかった。
 恋詠は死角飛んできた雪玉が、今度は二の腕に着弾した。
「冷たっ!? えっ、恋詠、負け?」
 恋詠は、本人の気付かぬうちにアウトになってしまった。雪玉が飛んできた方向は、ルゥの潜んでいる雪壁の方向だったと目撃証言だけが残った。

●餡子の戦い
「今こそ決着をつけましょう!」
 炊き出し担当のHOPE職員に混ざって、1人の能力者が高らかに叫んだ。
 葛井 千桂(aa1076)と転変の魔女(aa1076hero001)は、雪合戦のチーム編成に加わってはいたが本人達の希望で最初から棄権扱いにして貰い、炊き出しという戦場を手伝っているのだ。
 自前の調理器具と自分で用意した材料を前に、千桂は腕まくりをしていた所だった。
 小豆と砂糖と塩と水、そして餅。
 汁粉を美味しく頂く為に、用意したトッピング用の栗の甘露煮と白玉の数を数えている時に、事件は起こった。
 事前に渋を抜いてあった小豆を煮込み、砂糖を加えた所で餡子担当だった魔女は鍋の火を止めた。
 そして、鍋を持ち上げてフードプロセッサーに鍋の中身を入れようとした所で、千桂に待ったを掛けられたのだった。
「えっ、お汁粉の餡は粒餡でしょ? だったらフードプロセッサーに掛けなくていいじゃないの」
「えっ」
 思わず持っていた鍋をコンロに戻した魔女が、驚いた顔で千桂を見た。
「粒餡……、ですか……?」
「え? うん。だって、お汁粉でしょう?」
 まるで未知の生物に遭遇したような顔で己を振り返った魔女の顔を見て、千桂は呆然とした。
「お汁粉にはこし餡と決まっているでしょう!?」
「えっ!?」
 何処か雲行きが怪しくなってきた2人を心配して、周りに居たHOPE職員達が作業の手を止めて2人の顔色を心配そうに窺う。
「そもそもつぶ餡だったらお汁粉と言いません。ぜんざいです!」
「それは西日本での話しでしょ! 関東だとどっちもお汁粉なのよ!」
「でも……っ」
 徐々に怪しくなる雲行きに、1人のHOPE職員が持っていた泡だて器を振り上げた。
「はいはいっ! そこまでー! せっかくおいしいお汁粉を作るのに喧嘩なんかしちゃだめですよ! 時間はまだありますし、いっそのこと両方作っちゃいましょうよ!」
 ぶんぶんと振られる泡だて器から潰された小豆が降ってこようが、HOPE職員は気にしなかった。とりあえず、この喧嘩を止める事が最優先だと判断したからだ。
 必死な様子のHOPE職員を見て、千桂と魔女ははたと互いの顔を見合わせた。
 甘くておいしくて、人を幸せにする筈のお汁粉を作っている筈の自分たちが喧嘩をしていていいのだろうか。いや、良い訳がない。
「……ごめん、私、ちょっと言い過ぎた……」
 しおらしく魔女に謝った千桂に、魔女は慌てて頭を下げた千桂の肩を掴む。
「そんな! そもそも相談もなしに勝手にこし餡にしようとした私が悪いんです! 千桂さん、顔を上げてください!」
 わたわたと焦る魔女を見て、千桂はゆっくりと顔を上げた。
 すまなさそうに眉を下げる魔女の顔を直視すると、なんだか笑いが込み上げてきたのだ。
「ふふっ……。そうね、この際両方作っちゃいましょう。……嗚呼、そうだ! 負けた方には、お餅に汁気のない粒餡をかけたぜんざいを提供しましょう」
「亀山、ですね! 職員さん、良いですか?」
 さっきまで喧嘩していたのが嘘のようにきらきらとした顔でHOPE職員を見る2人に、職員は考えを巡らせる。
「そうですね……。汁気がないなら、普通のお汁粉と違って暖もあんまり取れませんし……。うん、いい考えですね!」
 にっこり笑って見せたHOPE職員の顔には、喧嘩仲裁の勲章である小豆の粒が輝いていた。

●白雪の戦い:後半戦
 フィールドに残っているのは、英雄が8人、能力者が6人だった。
「残り6分ですよー! 頑張ってくださいね!」
 タイムキーパーを務めるHOPE職員の声が響き、戦いは更に白熱するものとなった。
 両者がじりじりと距離を詰めていく中、唐突に声が響いた。
「真琴ぉっ! 寒くはないのかっ! また温めてやろうかのっ?」
 ハルのよく通る声が、フィールドの緊張感を一気に奪ってしまった。
(温……、める!?)
(? どう言う事だ?)
(は、破廉恥なのじゃっ!)
(どういう意味だろ? 後でお姉ちゃんに聞いてみよ!)
 赤面するものが居れば、疑問符を浮かべるものが居る。
「ハルちゃんっ!? な、なんてところで言うのっ!?」
 堪らず真琴が雪壁から顔を出して立ち上がる。
 突如現れた標的に、ハルが反応しない筈もなく。
「見つけたのじゃよ?」
「……あ」
「覚悟!」
 ひゅん、と真琴に向かって雪玉が一斉に飛んでいく。どうやら英雄側の巧みな作戦だったようだ。
 一気に狙われる羽目になった真琴は、焦って別の雪壁に向かって逃げていく。
「ハ、ハルちゃんのバカーーッ!!」
「ふははっ、これも作戦のうちじゃ!」
「うわーーんっ!」
 自身に向かって飛んでくる雪玉をぎりぎりで避けながら、真琴は何とか英雄の陣地に設置された雪壁へと避難する。
 だが、それもどうやらハルの作戦の内だったようで。
「まーこーとぉー、みぃつけた、じゃっ!」
「きゃぁぁぁぁ!?」
 雪壁を越えて頭上から降ってくる雪玉に、真琴は呆気なく大敗したのだった。
 とぼとぼと陣地から抜ける真琴の背中を、凱は雪壁に隠れながら見ていた。
(やっぱり、俺が囮になるしかないのか……?)
 開始直後から凱は雪玉で何とか応戦しようとするが、致命的にセンスが欠けているのか狙いはことごとく外れてしまい、現在は雪壁に隠れる簡単な仕事に従事する羽目になっている。
(……ここでずっと縮こまってても何も始まらない、よな……)
 そして、凱は決断した。
 敵陣から様子伺いの様に飛んでくる雪玉を見極め、雪玉がちょうど途切れたタイミングを見計らって凱は隠れていた雪壁から立ち上がった。
 そして、素早く敵の陣地へと駆けこむ。
 自陣を抜ける際、きちんと己の意志だけは残そうと凱は口を開いた。
「み、みみみ皆さん! な、なんとかヤツだけは……! ヤツだけは地獄に送ってやってください!!」
 そうして散っていった若い魂に、能力者達は敬意の籠った視線で凱の背中を見送った。
 凱の言う『ヤツ』とは、真龍寺の事だと容易に想像できた能力者一行は、雪壁の中から凱を狙うために立ち上がった真龍寺目掛けて雪玉をかまえる。
「高天原の仇だ……、真龍寺、ここで散ってもらう!」
 カトレヤが先頭に立って雪玉を投げる。
「そうはさせんぞ、カトレヤ!」
「なにっ!?」
 真龍寺に向かって投げた雪玉は、いきなり2人の間を割って入った紅花によって地面に落とされた。
「我ら英雄あっての能力者なのじゃ! 仇討ちとは、何という事じゃ!?」
「なんっ……!? いや、今はお前の相手をしている時ではないのだが……、致し方ない、立ちはだかるなら倒すまで、だ!」
「ふん、やってみよ!」
 凱の仇討ちの筈が、いつの間にか宿命のライバル対決になってしまったカトレヤと紅花の背後で、真龍寺は一気においていかれた様な気分になった。
「まぁいい……。オレは、真正面からなんて素直な性格でも無くてな?」
 そう不敵な笑みを浮かべながら言ったと思えば、雪壁に隠れていたエスに向かって雪玉を投げつける。
「つべたっ!? な、なんで俺が此処に居る事が……!?」
「簡単だ。こちらに飛んできていた雪玉の軌道を計算し、そして雪壁の向こうから独り言が聞こえていた」
「な、なんだって……!?」
(主様……、雪壁の向こうでプリンプリンと言っていたら、ばれますと縁はあれ程申しましたのに……)
 こうして、エスはあっけなく散っていったのだった。
 と、タイミングよく試合終了のブザーが鳴る。
 フィールドに残っているのは、英雄が残り8人、能力者が残り3人。
 今回の雪合戦の勝者の栄冠は、英雄の上に輝いたのだった。

●お汁粉の時間
「おかわり、沢山ありますからね! あ、そうそう。物足りないなー、って方はこちらのトッピングの栗と白玉を試してみてくださいね」
 寸胴に入った汁粉をかき混ぜながら、HOPE職員がのほほんと笑った。
 ご機嫌な様子で手に持ったお玉で寸胴の中身をかき混ぜるHOPE職員の目の前に、唐突にずい、と黒塗りの椀が差し出される。
「……おかわり」
「早っ!?」
 さっ、と差し出された椀に思わず突っ込みを入れてしまう。
 言わずもがな、早くも空になった椀を差し出したのはルゥである。その小さな体のどこにそんなに汁粉が入るのか、彼女は驚異のスピードで汁粉を平らげている。因みに、聖は負けた悔しさからか、何か叫びながらどこかへと走り去っていってしまった。
「ふむ、美味じゃのー……」
 ぴこぴこ、と狐耳と尻尾の先を振りながらご機嫌に汁粉を堪能するハルの背後で、真琴がぶるぶると体を震わせて微かに小豆の粒がかかった小さな餅を食している。
「……しょうがない、持ってってやるか」
 ぶるぶる震える真琴を見ていられなくて、ハルはおかわりを注いで貰った汁粉の入った椀と温かい甘酒を手に真琴の下へと足を向ける。
 一向に温まらない体に辟易していた真琴の目の前にハルが現れ、真琴は驚いてハルを見上げる。
「まぁ及第点じゃ、もっと周りが見れれば尚良い」
 そう言いながら頭を撫で、ハルは真琴の目の前に汁粉と甘酒を差し出した。
 差し出された汁粉と甘酒に、一瞬呆気にとられた後真琴は笑みを浮かべた。
「うん……ありがとね……」
「風邪ひかれても困るからのぅ」
「……ありがと」
 頬を赤く染めながら受け取った汁粉の椀は、真琴の指先をじんわりと温めた。
 ハルと真琴のやり取りを目にしながら、メリアはクリッサと共に汁粉を堪能していた。
 もぐもぐと只管汁粉を平らげるメリアとは対照的に、クリッサは自身の甘酒をアヤネとトウカに分け与えている。
 紅花は汁粉しか眼中にないようで、カトレヤが紅花の分の甘酒を堪能している。紅花はいろいろとトッピングを変えてみたり、餅を白玉に変えてみたり、とどうやら彼女なりに汁粉を堪能しているようだった。
「動いたからあったかいねー!」
 呑気にそんな声を上げたのはつくしである。
 メグルの汁粉を少しずつ貰いながら、つくしは勝負に負けた事等忘れた、とでも言うように上機嫌だ。
 甘酒を飲みながら、メグルはつくしの為に汁粉に入った餅を一口サイズに器用に割りばしで切り分けている。
 そんなメグルをぼーっと見ていた縁は、すっかり空になった椀を持ちながらため息を吐いた。
 一口だけ、とエスに差し出した汁粉は、エスの大きな一口で殆どなくなってしまったし、甘酒はエスが持っていってしまった。
(うーん……、メグルさんとは同じ匂いがしますね……)
 苦労人の気配を察知して、縁は1人寂しく汁粉のお代わりの列に加わる事にしたのだった。
「さむい……。恋詠も、お汁粉食べたい……」
 周り居た縁や少し離れた所に居るメグル達の様に、恋詠は巳謌月に向かってさりげなく汁粉の要求をする。
「あー……。まあ、一口位ならいいんじゃないか?」
「ほんと!? やった! 巳謌月、巳謌月、あーんっ」
「ほいほい、あーん、と……」
 ぴぃぴぃと雛鳥の様に鳴いて口を開ける恋詠に、巳謌月の気分はすっかり幼い娘を持つ父親の気分だった。
「あ、あの……コレ、使って……」
 そんな恋詠の様子を知ってか知らずか、どこからともなく凱が現れて恋詠の肩に凱の上着を掛けた。
 いきなり現れた凱に、恋詠は初めは驚いていたのだがすぐに笑顔になり、凱の上着をもそもそと着込んだ。
「ありがとっ! お汁粉もおいしいし、上着もあったかいし……! 恋詠、もう寒くないよ!」
 にぱっ、と笑って見せた恋詠に、凱も自然と笑顔になる。
 そんな凱を、木の陰から見つめる影が1つ。
「やれやれ……。あのガキに先を越されるとは……、俺もまだまだだな」
 そう言った真龍寺の顔はどこか満足そうだった。
 勝者に振る舞われた汁粉は、いつの間にか英雄と能力者の絆を深める物へと変化していたのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • エージェント
    クリッサ・フィルスフィアaa0100hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    トウカ カミナギaa0140
    機械|18才|女性|回避
  • エージェント
    メリア アルティスaa0140hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • ブケパロスを識るもの
    高天原 凱aa0990
    機械|19才|男性|攻撃
  • エージェント
    真龍寺 凱aa0990hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • 非リアを滅す策謀料理人
    葛井 千桂aa1076
    人間|24才|女性|生命
  • 非リアを滅す策謀料理人
    転変の魔女aa1076hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • エージェント
    壽染司 恋詠aa1470
    機械|16才|女性|生命
  • 白雪の勝者
    巳謌月aa1470hero001
    英雄|21才|男性|バト
  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 空色が映す唯一の翠緑
    aa1517hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
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