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鬼帰葬~おにきそう~
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最終発言2015/12/14 13:37:21 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/12 21:44:30
オープニング
八つの足の、おとめが歌う。
ここはくさくて、汚いところ。
平たい顔した俗世を笑う。
八つのおてての。おとめが謳う
ここはにがくて、貧しいところ
天より鎖を垂らして微笑む。
はよはよ、繰(く)れ繰(く)れ。
ここからだしちゃる。
おとめがわらう。
おとめがわらう。
乙女じゃないよ、それは間違い。糸玉つむぐ、おおきなおとめ。
人ではないよ。それは間違い、手足が多い、優しいおとめ
早くおいでよこちらの世界、おとめが待ってる優しい世界。
いとのゆりかごゆらゆらと。ゆらゆらと。
* *
日本国内某所、入り口が無い家があるという怪談話を聞いたことはないだろうか。
この家は白塗り壁の紺色屋根で二階建て、何の変哲もない家に見えるが、実は違う。
この家の周囲を見渡したところで、扉が全く、どこにもないから。普通の家ともまるで違う。
そのこと気が付き、それが異様だとわかったなら。
ひき返した者は懸命だ。
しかし愚かなることに、その家が異様だと気が付けず。窓や壁を壊して中に入ってしまったが最後、呪いを受けることになる。
いや、違うか。その時点で呪いを受けるわけではない。
その家に隠された秘密を解き明かし、三面鏡の開かずの戸棚を開けた時。
その呪いに取り殺される。
それがこの都市伝説の概要だ。
ちなみに、この都市伝説の中身にはいくつかパターンがある。
戸棚の中身の違いだ。
たとえば、戸棚の中には字の書かれた紙が入っている、この紙に書かれたのは誰かの名前だ。その場にいる誰かの名前。
当然一人で行けば君の名前が、三人で行けば、その三人の誰かの名前が書かれている。
そして名前が書かれた者を生贄として家に残さなければ他の人間が死ぬ、しかしだ、生贄として差し出されたものがどうなるかはわからない。
さらにパターン2。
そこには写真が数枚入っている、一枚目は家族写真、普通に仲睦まじい四人家族が映っている、二枚目には、父と娘と息子の写真、なぜか母はそこにはいなかった。
そして三枚目には、その母が、たった一人で映っている。カメラを睨むようにすごい形相で。
これを見たものは彼女の子供にされてしまい、この家から出られなくなるらしい。
さて、なぜこんなことを急に私が話し始めたかなんだが。
どうやら都内某所のこの家は実在するらしい。
そしてここに入っていた小学生何人かが行方不明になったそうだ。
捜索依頼が出されている。
そしてここからが本題なのだが。
この家で微弱な霊力が観測されている、おそらくは従魔、もしかすると力は弱くとも愚神が居座っている可能性がある。
これはお化けや妖怪と言った類の物ではない、それを利用した敵の巧妙な罠だ。直ちにこれを撃滅していただきたい。
恐れる必要はない、相手はいつも戦っている愚神となんら違いはないのだから。
* *
そう依頼を受けてさっそく君たちは現地に向かった。
例の家は本当にあった。
この扉のない家は、町はずれの小高い丘の上にぽつんと立っていて、白塗りの四角い、噂通りの家だった。
荒れ果てた庭。ベランダなどはなく、割れた窓ガラスが見えるが、本当に、いくら探しても扉はなかった。
君たちはとりあえず、すでに割れている窓から中に入ることにする。
床には畳が敷いてあり埃とカビの匂いが充満していた。
この家は二階建てで、一回にはリビング、キッチン。トイレ、バスルーム。そして違和感に気が付くだろう。
この家、構造からしてもともと扉を創るスペースを作っていないだろうことに。
君たちは二階へ上がる。
二階には部屋が四つあった、両親の寝室、女の子の部屋、男の子の部屋。
そして、化粧品などしまえるように棚が備え付けられた三面鏡が部屋の真ん中にぽつんとある部屋。
そしてその棚には黄色いテープで封印が施されていた。
全員が一瞬で理解する。これが噂の開かずの棚か。
その棚に手をかけようとした瞬間だった。
突如、ぴしゃりと背後の戸がしまる。あわてて別のリンカーがその戸を開けたとき。さらなる異変に気が付くことになるだろう。
今まで、そこにあったはずの階段がないことに。
一階を調査していたエージェントと分断されてしまった。
戸惑いを隠せないあなた達の耳元でおとめの笑い声がケタケタと聞こえた。
* *
リンカーたちはしばらくここの家を調べてみて、ドロップポイントであることがすぐにわかった。
そこまで広くはないが、このドロップポイントはループしているので外に出られないようだ。
壁を破壊しようが、窓を破壊しようが、その先に続いているのはこの家と同じような作りの壁や廊下だけが続いている。
なにか条件を満たさないと脱出できないように思われた。
さらに、階段が消えたことで一階にいるメンバーと二階にいるメンバーは分断されてしまい、連絡手段もない。
この状況で、この家に住むおとめとやらの謎を解かねばならない。
解説
目標 愚神 堕女(おとめ)の撃破
*二階にて*
戸棚の鍵は二階の部屋のどこかにあります。
戸棚を開けると、そこには遺書が入っていて、この家の前の持ち主が一家心中したことがわかります。
母が銃で家族を打ち殺したそうです、歌が聞こえ、それに導かれるまま殺したと書かれています。
この遺書を読み終えると、三面鏡のある部屋が急に巨大化します。
一キロ八方の空間になり、床は畳で壁は白塗りの木製。
そして部屋の中心には十六本の手足を持つ蜘蛛のような愚神『堕女』が出てきます。
*一階にて*
一階はとても危険です、廊下の壁がいきなり迫って来たり、床が抜けたりします。しかし一階の部屋のどこかには子供たちが糸で簀巻きにされていますので助けてあげてください。
二階組が遺書を読み終えると、子供たちを殺そうと子蜘蛛従魔が五匹程度出てきます。
ちなみに一階にリンカーがいないと、霊力回復のために子供たちは食べられます。
愚神 堕女
無数の手による同時攻撃が可能。そのため下記の攻撃を一ターンに三回ランダムで行う
・ かぎづめによる、近接攻撃
・ 糸による拘束攻撃 BSの封印と拘束を付与
・ 歌による魔法全体攻撃 威力低め、低確率で洗脳
従魔 子蜘蛛
基本的に単体近接攻撃しかしない、ステータスも耐久力がきわめて低いが、その分数が多く、堕女を倒さない限りターンの終わりに一体追加される
外で待つことを選択する場合、蚊帳の外です。
途中でこの家に入ろうものなら、一階を探索していた人たちと一緒に閉じ込められることになります。
リプレイ
今回の舞台となるのは、『扉のない家』という都市伝説、その家。
一見何の変哲もない一軒家だが。ぐるりと周囲を回っても、噂通り扉がなかった。
「こっちに、例の子供たちが壊した窓があるよ」
そう子供たちの侵入の痕跡を見つけた『九字原 昂(aa0919)』は全員を呼び寄せた。
リンカーたちはここに車数台でやってきた、スタッフたちは車で待機し、リンカーたちのバックアップを行う予定だった。
「あれは何をしているんですか?」
昴は家の中をうかがい、特に危険がないことを確認すると振り返った。
そこにはカメラ片手に佇む黒髪の女性がいた。
「記録用に撮影しているんだよ」
昴の問いかけには本人ではなく、その女性の相方である『クー・ナンナ(aa0535hero001)』が答えた。
「記録じゃ、おもしろいものがとれるかもしれんぞ」
『カグヤ・アトラクア(aa0535)』はカメラ係を買ってでたのだった。
そんな彼女に映されながら一行は続々と『扉のない家』に侵入していく。
まず第一に乗り込んだのは『ヴィント・ロストハート(aa0473)』彼は埃が巻き上がる室内を見渡し苦い表情でつぶやいた。
「都市伝説を模して利用し、やってきた人間のライヴスを喰らう愚神か……、何とも悪趣味な事をやってくれる。奴にしてみれば、俺達は新たにやってきた獲物、餌だと思っているのだろうな」
畳についた小さな足跡に目を奪われ、それが向かった先であろう二階、その階段を、廊下にでて探す。
「なら、どちらが獲物で捕食者か……きっちりと教えてやるとしようか」
『ナハト・ロストハート(aa0473hero001)』もそれに続いた。
「都市伝説を利用して人々を誘き寄せライヴスを奪う……。何とも悪趣味極まりないですね……」
そしてナハトは言いよどむ。感じるのだ。この場に満たされてる何かよくないものの気配を。
「それに……行方知れずになった子供達の事も気がかりです。もし彼等が生きているのなら、元凶を倒して助けてあげないと。これ以上、犠牲者を出す訳にはいきませんから」
そう周囲を警戒しながらヴィントに続いた。
一方、外ではまだ侵入を拒んでいるエージェントが何人かいた『片桐・良咲(aa1000)』もその一人だ
「よくないって、家宅侵入なんかさぁ」
そうカグヤの袖を引いて、止めようとする
「大丈夫じゃよ。何もおこらんて。たぶん」
「だぶんじゃ、やだよ~」
そんな相方を見かねて、良咲の英雄『尾形・花道(aa1000hero001)』がその首根っこをつかまえた。
「グズグズするな!子供か!」
そう屋敷の中に放り込む。
そんな騒ぎを尻目に、探索は続いていく。一階にはリビング、キッチン。トイレ、バスルーム。
二階へ上るとすぐに例の畳のある部屋が見える、それを確認した何人かは子供を探すために一階へ戻った。
その畳のある部屋を調べているのは『石井 菊次郎(aa0866)』と『テミス(aa0866hero001)』
二人の目の前には例の三面鏡。
「別に罠なぞ張らぬとも来てくれと言えば我等は向かうのだがな」
テミスがつまらなさそうに言う。その言葉に菊次郎が答えた。
「それでは我々の様な者しか引っかからないです」
「だが家に入り口を無くして誰を引っ掛けると言うのだ?」
「入り口の無い家……あまり聞きませんが、墓所を連想させますし、封印された場所でも有るのでしょう。禁忌は人を惹きつけます。それも恐怖への期待に満ちた極上のライブズです」
そう部屋を一通り探索してみても戸棚を開ける鍵がない。探そうと重い腰を上げたその瞬間
悲鳴が聞こえた。女の金切り声が。
何事か、そう思い二人がふすまを開けてみると。ついさっきまで正面にあったはずの階段がなかった。
<サイド;一階>
「おい……さっきまであった階段が無くなったぞ」
一番最初に入った部屋を探索していた『マリオン(aa1168hero001)』が、情報を共有するため二階へ上ろうと部屋を出た、その直後に異変に気が付く。
階段がなくなっていることに
「奇妙な作りだからな。失見当を起こしたんだろ。……無えな」
階段なんてものが消えるはずがない、そうせせら笑おうと廊下に出てきた『雁間 恭一(aa1168)』は本当に階段がないことを確認し唖然とする。
「これは貴様が不味い飯を作り続けた事に対する呪いだな」
「それならお前の女扱いが酷くて家に呪いの手紙が大量に届いた件の方がもっともらしいぞ」
「あれらは呪いの手紙では無い。別れて尚、断ち切れぬ想いを切実と記した恋文なのだぞ…………」
二人の間に何とも言えない沈黙が流れる。分断されてしまった。そんな考えが頭によぎる。
「……おい、この階段何とかしろ」
「どうしたのじゃ?」
『輝夜(aa0175hero001)』がリビングのドアを開き顔を出す、リビングの方では『御門 鈴音(aa0175)』と良咲が手を取り合って縮こまっていた。
「…………そんな、二階の人たちと分断されちゃった」
鈴音が目をギュッとつむり言う
「おまけに出口もないよ」
良咲が突かれ果てたようにぽつりとつぶやいた。
「出口がないのは元からだろ」
花道が呆れた様子でそう声をかける。
「……やれやれ。……この程度にビビっておるようでは鬼としての真のわらわを力を見たら鈴音はショック死するであろうな」
そう輝夜は鈴音の頭を柔らかく撫でる、すると二人を霊力の光が包んだ、気が付けばそこには黒い長髪優雅に揺らす、赤い瞳の女性が立っていた。深紅の十二単姿があざやかに映え、妖艶な微笑みで周囲を見渡す。
「良かろう。鈴音は指示を。後はわらわがやろう」
そう輝夜がつぶやいた、これが二人の共鳴状態の姿、その一側面だった。
「だめだ、石井さんたち全然でない。連絡はとれないみたいですね」
昴がそう電話を耳に当てながらリビングに入ってきた。
「こちらもだめじゃ、ちなみに窓もいつの間にかふさがれておった、完全に閉じ込められたわけじゃな」
カグヤが言う。
「家の構造が変わる? おかしいな。まさか家自体が従魔なのか」
『御神 恭也(aa0127)』も合流した。その後ろに少女『伊邪那美(aa0127hero001)』が佇んでいる。
「まるで、悪意のある迷い家みたいだね」
伊邪那美が言った。
「どうする? このままリビングで固まって助けをまつか?」
「冗談じゃろ。行動あるのみじゃ」
そうカメラをぶらつかせながらカグヤが言った。
「手分けをする?」
クーがカグヤの袖を引く、気になることがあるらしい。別の部屋を調べるために二人はリビングを出た。
「ちょ、やめようよ、何があるか分からないよ」
良咲が止めるが。
「往生際が悪い奴だ、行くぞ、おれたちだけさぼってるわけにはいかねぇ」
「往生したくないからいかないんじゃん」
そう花道に連行される良咲。
たいして恭也はバスルームに来ていた。一軒家にしては広めの湯船と生活感が残る洗面所。を見渡す。
「どうして、バスルーム、トイレを先に調べるの? 普通は後回しにしない?」
伊邪那美が問いかけた。
「連中の歌にここはくさくて、汚いところ。平たい顔した俗世を笑うとあっただろ」
恭也が答えた。
「そうなれば、くさくて、汚いところでトイレが浮かんだが、広さ的にバスルームの方が可能性がありそうなんでな」
今回のミッションに参加するにあたってエージェント全員が都市伝説をきかされていた、例の歌についても当然把握しており、恭也はそこにヒントが無いかと考えていたのだ。
「平たい顔した俗世……これって鏡じゃないかな?鏡は幽世と現世を繋ぐ窓でもあるから……」
「何かしらの変化はあるかもな」
そう鏡に触れる伊邪那美、しかしなんの変哲もない鏡だった。あきらめた二人はバスルームを出ようとした瞬間。
「止まって!」
鋭い声が二人の足を止めた
「足元を見て、罠だ。もう何人か引っかかってる」
声の主は昴だった。彼は持ち前の知識と観察眼で罠を見破った。
恭也は半歩引いて足元を見る、床が煌いていた。
いつの間にか床一面に蜘蛛の糸が張り巡らされていて、それが光を反射していたのだった。
「助かった感謝する」
そう恭也が礼を述べたその時だった。
「おい雁間?」
「ん? おわ!! なんだこれ、糸?」
うかつだった、突然リビングの扉が開き、中から恭一が現れる。
「ハマったか……やはり呪いの対象は貴様では無いか?」
恭一は糸を引きちぎろうと奮闘するが、一向に剥がれない、まるで床板に足が接着されてしまったかのようにどうしようもなかった。
マリオンがその姿を笑うが。そうも言っていられない状況に二人は追い込まれる。
突如天井が大きな音を立てて恭一とに迫り始めたのだ。
「なんだこれ!」
「だから気を付けてって言ったのに」
「雁間! 早く脱出しろ」
「わかってるよ!」
しかしもがけばもがくほど糸はからみつき離れない。それを救出しようと助けようと恭也が武器を構える。
その瞬間だった。
「おら!」
恭一は素早く共鳴し、天井ごとあたり一帯を吹き飛ばした。濛々と煙が立ち込める。
「やりすぎだ! 雁間!」
「しゃあねぇだろ」
そんな二人の痴話げんかもそこそこに、煙が晴れてくると、状況が変わったことをその場にいる全員が理解した。
「うそだろ……」
先ほどの攻撃の余波で壁が破壊されたが、その壁の裂け目の向こうは、本来外の風景が広がっているはずだった。しかしそこに広がる光景は想定していたものとまるで違う。
恭也が反射的に武器を振るう、そうすると壁が粉砕され大穴があいた。
そしてそこには延々と廊下が続いていたのだ、廊下の端が暗くなって見えなくなっているのにもかかわらず、ずっと続く廊下が。
<サイド;二階>
『月鏡 由利菜(aa0873)』はメイド服で部屋の掃除をしていた。不浄な霊は汚れた場所を好むという話から、除霊と鍵の探索を兼ねて『リーヴスラシル(aa0873hero001)』と二人で各部屋の掃除をしていた。
「なぜ、メイド服なんだ」
リーヴスラシルが埃を叩き落としながら問いかける。
「ひ、人の家のお掃除をするならメイド服かなと」
その発言にいまいち納得できないままリーヴスラシルは掃除を進める。
まずは子供部屋から手を付けていく、子供部屋は二つあり、一つはゲーム機や衣服が散乱した部屋、そして現在掃除しているこの部屋は人形が多いことから少女の部屋であるとうかがい知れた。
「それにしてもよくこのミッションを受ける気になったな」
「それはあの子たちにこそ言うべきだと思うわよ」
由利菜は思い返す。
「鈴音さん、大丈夫かしら。あんなに怖がっていて可哀そう。それに良咲さんも……」
「あとで声をかけたほうがいいかもしれないな」
そんな掃除の真っ最中に由利菜はベッドの下にノートがあるのを見つけた。
まっさらなノートだった。しかし織り目が付いているページがあり、そこには
『お母さんをあの女が隠した、お母さんがよんでる、あの女をよんでる』
そう書かれていた。
これはなんだろう、そう各部屋を探索しているエージェントにノートを店に行こうと扉をあけ放つと、そこにはすでに二階を探索していたリンカーたち全員がそろっていた。
「どうしたんですか?」
「見事に分断されたな」
「一階の人たちだいじょうぶかな?」
『イリス・レイバルド(aa0124)』がもともと階段の逢った場所の床をガシガシ蹴りつつ『アイリス(aa0124hero001)』にしきりに話しかけている。
そんな風景をみても状況を理解できるはずもない。
「いったい何があったんですか」
そう由利菜が問いかけると菊次郎が答える。
「階段がなくなった、分断されたようだ」
「そんな、どうすれば」
その騒ぎを聞きつけたリーヴスラシルがあわてて駆け付ける。
「一階を捜索していた連中とは連絡が取れない、もうためした」
ヴィントとナハトが携帯電話を振る、圏外と表示されており役に立たないことを示していた。
「とりあえず鍵を探しましょう、都市伝説の謎を解きあかす、もしくは都市伝説を次のステージに進めないとどうにもならないでしょから」
菊次郎が言った。
「次のステージとはなんですか?」
ナハトが問いかける。
「都市伝説では戸棚をあけると写真や名札がはいっているのだろ? そしてそれを見たものがおとめに襲われる、そういうことだだ」
テミスはそう言うと、寝室の扉を開ける。
「何か気になる物があればすぐに共有することにしましょう」
その時振動、建物全体が揺れる。
「なにこれ」
「さがってイリス」
そうアイリスがイリスを下がらせる。その瞬間だった。
風景が変わった、壁や床が歪み。そして今までついていた電球が割れていく。部屋が真っ暗になった。
「きゃっ」
由利菜が驚き、反射的にスマートフォンで明りをつける。
そこに照らし出されたのは、大量の乾いてこびりついた血痕だった。
「なんだ、これは」
さすがのテミスも驚愕した。
床はもちろん、天井まで。まるで血の噴水がここにあったと思えるくらいに、周囲のが血で塗られていた。
由利菜はあわてて掃除をしていた部屋に戻る。それをリーヴスラシルがあわてて追った。
そして知る、変わったのは廊下だけではなく、この家全体だと。
少女の部屋は血では濡れていなかった、しかし、置かれていた人形が、棚が、机が、ズタズタに破壊されていた。
荒らされたのは少女の部屋だけではない、三面鏡のある部屋も血まみれ。夫婦の寝室には血で濡れた枕、それは銃で撃ち抜かれたのか、焦げた穴が開いていた。
「これはいよいよ、本気ということですかね」
菊次郎が一人ごちにつぶやいた瞬間。
まるで館全体からしみだすように。
歌が聞こえた。
~八つの足の、おとめが歌う……
~八つのおてての。おとめが謳う……
「成る程、偽りの浄土に導く蜘蛛の糸と言うわけですか……」
菊次郎がつぶやいた。
「力が弱いという報告のわりにはここのドロップゾーンは強力なルールで縛られているね」
そんな中冷静にアイリスが言う。
「何事も例外というものはあるのだしドロップゾーンの操作に特化した固体という可能性もあるが」
「なにがいいたい?」
ヴィントが問いかける。
「……私たちはすでに獲物の腹の中という可能性もある」
「どういうこと?」
イリスが続きを促した。
「この家自体が愚神という可能性だ」
「だとしたら、我々は敵の策にまんまとはまってしまったわけですね……」
菊次郎が手に真鍮の鍵をちらつかせながら言った。
「どこにあったのだ?」
テミスが言う。
「枕のなかに」
そう血で濡れた指をハンカチで拭きながら菊次郎は答えた。
そして全員が問題の三面鏡の前に集まる。
「この国には鏡に霊的な力が宿ると伝えられているんだろう?」
「ええ、そう言う言い伝えもあります」
菊次郎が答え、カギを差し込む、その鍵をひねる前にアイリスがやんわりと菊次郎を退かせた。
「何をするんですか?」
ナハトが問いかける。
「いやな、少し気になったことがあってだな」
アイリスはそう言いながら、戸棚を空けと同時に眠り猫のぬいぐるみをずいっと前へ押し出した。
「写真のパターンだと見ては駄目らしいからね、それに名前の件もある、ここはにゃん太郎に犠牲になってもらおうと思ってな」
「どこから持ってきたんだ、その人形」
ヴィントがつぶやく。
「お姉ちゃん、それボクのだよ……それに名前違うよ」
イリスが抗議の声を上げる。
「今適当につけたからな」
「む、この手触りは写真ではないな……誰かペンを持っていないか? この子の名前に上書きする準備は万全だぞ」
「お姉ちゃん名前違うってば」
「では名札を作ろう、誰か紙を持っていないか?」
「紙ならここにあるぞ」
そうヴィントが戸棚から一枚の紙を差し出す。それは二つ折りにされた、ぼろぼろの紙で、何かが書かれているようだった。
「これが例の……」
それは遺書だったこの遺書の書き手は女性のようだ、名前は滲んでいて判別できなかったが、文章の書き方と文字の形から察した結果だった。
内容は至ってまじめ、遺産分配位、家の権利書を始めとした書面のありか。
しかしその紙の一番下に、明らかに別人が書いたと思われる殴り書きがあった。
『全てを私の物にするための力を、私はもらった』
より一層歌が大きくなった。
そして三面鏡の向こうに何かが見える。
髪をふりみだした女の姿だ。女が手招きをしている。
「やっとお出ましですか、ちょうどいいあなたにききたいことがあるんです」
菊次郎はそう言葉を続ける。
直後笑い声、その瞬間、鏡から無数の手が伸びて、リンカーたち全員をその鏡の中に引きずりこんだ。
<サイド;一階>
全員がこの館の異常な状態を目の当たりにして放心している中、輝夜は鈴音の指示に従って探索道具を整えていた。
調査を行う上でコンパスを使って方位を確認。香水で匂いを、メイクセットの口紅で目印をつけていき、家の中のドロップポイントの内部がどんな形になっているかをマッピングしながら子供たちを探すという提案を、その場にいる全員が受け入れた。
全員が探索を開始する。廊下はまるで学校や公共施設のように左右に扉があり全てが同じリビングの内装をしている。
その中を探索する良咲にたいしてカグヤが。
「おい良咲! あそこに影が!」
「ひっ!」
「変な音がするのう、足音だけがこちらに近づいてくるぞ!」
「えええええ! どうするの? どうするの?」
そんな風に脅かしていく。
「……変なことして、皆が怖がってるけど何がしたいの?」
カグヤを手近なバスルームへ誘導しクーが尋ねる。
「これは自論じゃが。ルールは制限を与えるだけのものではなく、結果に繋げる為に何より大事なものじゃ」
カグヤは至ってまじめに言う。
「このドロップゾーンのルールを守り、罠に嵌めたいというあちらの望みに沿えばルール違反によるペナルティで囮兼餌が先に殺される可能性は低いのじゃろう」
「つまり、あいての思惑に乗ってるふりをしてるってこと?」
「そうじゃな、それに要救助者を発見した際、ゴール到着と生存者確認という安堵で気を緩んだ際を狙っての奇襲を警戒じゃ。ホラーのセオリー通りこれまで引っかかってやったのじゃから、ルール上あちらもそういった待ち構えタイプの奇襲で来るしかないじゃろーからのー」
クーは一つため息をつく
「はぁ、味方に何も伝えずやるのが最悪だね」
「おい、しかしどうも何かがおかしいのう」
そうカグヤは思案にふける。
一方、仲間とはぐれてしまった良咲は花道と探索を続けていた。
その時、静寂が包む廊下にうめき声が聞こえてきた。
「今度はなに?」
「これ、人の声じゃねぇか?」
花道の誘導に従い良咲は駆ける。するとほこりまみれのリビングに到着し、その床下の食糧庫に少年三人が荷物のように詰め込まれていた。
「なんでこんなところに」
「おい、良咲!」
反射的に顔を上げる良咲、気が付けば音もなく周囲を五体の従魔が囲っていた。蜘蛛型のおぞましい従魔だった。
それを見て反射的に共鳴する良咲。
「俺たちがいれば、もう安心だ!」
そう拘束を解こうとするが、敵が眼前まで迫っている。戦うしかないそう武器を抜いた瞬間。
従魔の前に男が立ちはだかる。恭也だった、そのへヴィアタックが従魔を弾き飛ばす。
「さて……真の鬼の力を見せてやる。かかってくるがよい。」
そして到着した輝夜も怒涛乱舞で蜘蛛たちを巻き上げる。先ほど攻撃を受けた従魔が塵になった。
「ありがとう!」
良咲が言うと同時に少年たちの拘束が解かれた、よく眠っている少年を担いで、恭也が走る。
「逃げるぞ」
見ればリビングの鏡の中から蜘蛛が一匹湧き出してくる瞬間だった。
「こっちだ」
昴が別のリビングへ誘導する、彼のおかげで道中のほとんどのトラップは解除されていたため安全に全員がリビングへ到達できた。
「ここからどうする?」
そう恭一が問い詰めた瞬間、鏡の中から現れた蜘蛛が少年を担ぎ反撃できない恭一に襲いかかる。
しかしその攻撃はカグヤのフラメアによって阻まれる。
「なんじゃこれ! かわゆいのう、かわゆい」
そして壁に叩きつけられた蜘蛛ににたりと笑みを浮かべ。カグヤはブラッドオペレートを開始する。
「愛しいが標本に出来ぬ以上、解剖してその身すべてを知りたいのぅ」
その光景をその場にいる人間は誰も直視できなかった。
カグヤがお楽しみの間に、作戦会議をしようと恭也が全員を集めた。
「少数だが敵に増援があるか……何か光明を見出さないとジリ貧になる」
「二階に残った皆を頼りにするしかないのかな?」
「そう言えば気になることがあるのじゃが」
そうお楽しみを終えたカグヤが、鏡の中を指さす。よく見るとその向うに何かが見える。暗いコンクリートの地下室のような場所で、無数の卵が胎動していた。
「鏡のある場所にいるのはまずくないかのう?」
<サイド;二階>
鏡の向こうに広がる世界に突入したリンカーたちは。その中央で佇む女の姿を目の当たりにする。
「あなたは?」
由利菜が声をかけると、その女が振り返る。
その黒髪はつややかで、後ろ姿は美人に見えた。しかしその顔は、目がある部分が空洞で、口が耳まで裂けた恐ろしいものだった。
加えて腕が八本、そして足が八本体から生えていた。おまけに蜘蛛の腹のような部位までくっついている。
そのおぞましい姿を見て、思わず全員が共鳴を開始した。
「でたな!」
イリスが剣と盾を構え。ヴィントと共に突貫する。
愚神『堕女』を排除するために行動を開始した。
その駆け抜ける二人の背後から、浄化の光が迫り二人を包んだ
「これで、戦いやすくなるはずです」
由利菜のリンクバリア。その場にいる四人を覆った
「あの美しい歌声はあなたの歌だったのですか。これでは此方に来たくなるのも分かります。救いを求める衆上を救い上げる慈悲の糸と言うわけですね。でも…」
菊次郎はラジエルの書を構え、霊力を打ち出す。
「御身の美しい世界は終わりを告げようとしています。それはお分かりでしょう?もし、私の質問に答えて頂ければ如何すれば良いか教えて差し上げます」
その声に苛立ったのか堕女が口を大きく開き叫んだ、しかしその顔面に霊力の塊がぶつかる。
その攻撃をものともせずに堕女は接近する二人に蜘蛛の糸を吐きかけた。
合計二発
――意識と五感を集中させて相手の動作を注視して、そこから取られるであろう行動と攻撃ならその種類を予測するの
そう飛んだナハトの指示に従い、ヴィントは攻撃を紙一重で回避。
イリスも糸を盾で弾いて回避した。
二人に気をとられている間に菊次郎の銀の魔弾が再び堕女に命中する。
「この瞳を持つ者を知って居ますか?」
菊次郎は堕女を見据え。問いかける。
しかし、問いに答えは帰ってこない。
そうこうしている間にヴィントとイリスは射程圏に敵を捕らえた。
例のごとくイリスがその盾でおとめの糸を掻い潜り。盾の死角から躍り出たヴィントが腕を二本きり飛ばす。
堕女の悲鳴がその空間に反響した。反射的に堕女は距離をとり、そして悲鳴めいた例の歌を歌う。
しかし浄化の光に阻まれて歌はほとんど効果を失っていた。
驚愕に苦悶の表情を浮かべる堕女、その隙だらけの腹部をイリスのアロンダイトがえぐる。
「ぬけない」
腹部に力をいれ、剣をがっちり挟み込み、動きを封じられたイリスへ六対のかぎづめの三次元的な攻撃が襲う。直前で剣を抜くことに成功したが傷を負った。
追撃と言わんばかりに、その鋭いかぎづめがイリスを狙う。しかしその手を菊次郎が狙い澄ましたように撃ち落とした。
忌々しげに菊次郎を見る堕女、その反撃の糸がはなたれ、それに菊次郎は拘束されてしまった。
「く…………」
嬉々として乙女が菊次郎めがけ接近してくる。
「グロリア社の新たな退魔刀の使い勝手、貴様の身で確かめさせて貰う!」
それを阻止しようと由利菜の渾身のチャージ攻撃が命中。
それで動きが止まった
この機を逃すまいとヴィントがとイリスが切りかかるが。
むちゃくちゃに振り回した腕によって振り払われる。たまらず三人は距離をとるが。ヴィントの額から血が流れていた。
「大丈夫ですか?」
由利菜が問いかける。
「問題ない……。だが」
言いよどむヴィントの表情が変わる。その異変に気が付いた由利菜は反射的にしゃがんだ。
その頭上を堕女のかぎづめが通過した。
「光が消える」
リンクバリアの効果が切れた瞬間だった。
「まずいな」
ヴィントがそうつぶやいた瞬間。
「離れてください!」
菊次郎が叫び、ラジエルの書で魔法攻撃を放つ、それも直撃、しかし威力が足りない、堕ちる女を仕留めるに至らない。
堕女はにやりと笑う。リンカーたちの焦りを感じ取ったのだ。そして歌を歌うためにその大きな口を開く。
「やらせないです。歪め! ライヴスの奔流!」
そう由利菜の放ったライブスリッパーが頭部にさく裂。
鋭い悲鳴、歌が発動することはなく、堕女は頭を押さえもがき苦しむ。
「いまだ!」
―― ありったけの力をくれてやる。
イリスの渾身のライブスブローがさく裂する。そして
「次で決める」
ヴィントのトップギア。急激に霊力が高まっていく。
そして由利菜と菊次郎の集中砲火。直後愚神は我に返った。目を見開く堕女。その表情は怒りによって塗りつぶされていた。
そして瞬間的にヴィントと由利菜を切り付け。はじかれたように菊次郎へ突進。その腹部をすれ違いざまに切り裂いた。
しかし、着地の勢いを殺し切れず体制を崩して倒れ込む。
「みんなを守って」
その隙を逃すまいとイリスがリンクバリアで四人を覆う。
「これで倒れて!」
由利菜が再びライブスリッパーを放つ、しかし今度は意識を持っていくまでに至らない。
「渾身の一撃、受けて見ろ!」
ヴィントが高めた霊力のいっさいを刃にまとわせ。オーガドライブを袈裟懸けに叩き込む。
力ない堕女の声が響く。
続けざまにイリスのライブスリッパ。
菊次郎の書による攻撃。
「まだ、倒れてくれませんか……」
お互いに息も絶え絶え。エネルギーは枯渇寸前だった。
それを察してか、堕女は千切れた足や腕を引きずりながら逃げようと、鏡の元へ近づく、しかし由利菜はその行動を予測していた。
倒れ込むように体重を乗せるように、堕女の頭に刃を突き刺すと。愚神の体とそして空間そのものが崩壊を始めた。
エピローグ
二階での戦いが終わったその直後。今にも目覚めようとしていた卵が鏡の向こうで全て破裂したのを、その場にいる全員が見た。そして空間がもとに戻っていく。
あたりに霊力は感じられない。そう安心し全員が共鳴を解いた。
「……いつも思うけど。なんで私って気が付いたら怪奇現象に巻き込まれてるのかしら」
鈴音が一人ごちにつぶやく。その姿を輝夜はにやにやしながら見守っている。
恭一と恭也は子供たちを保護するために外に出た。
「好奇心は人を殺すってな……扉の無い家の癖にどんだけ人を誘い込んでたんだ」
恭一がつぶやく。
「入口が無いように見えるものほど人を引き付けるという点では女と同じだな」
マリオンがそう答え、子供たちを車に乗せた。
「おーい、いきておるか?」
対して、カグヤと昴が二階へ上がると、畳のある部屋で、ぼろぼろになったリンカーたち四人が転がっていた。
「真相はわかりましたか?」
菊次郎が二人に問いかけた。それに対し昴は首を振る。
「愚神が先か、本当は惨劇が先だったか……今となっては分かりませんでした」
菊次郎は天井をぼんやり見上げたままつぶやく。
「都市伝説が愚神を呼ぶのか、愚神の所業が都市伝説を作るのか?」
「知あるものの考える事は同じ、という事であろう」
テミスがそう答えた。
そしてドロップポイントでなくなった家に警察の捜査のメスが入った。
ここで何が起きたのかはわからずじまいだったが。それはこれから明らかになることだろう。
ここからは警察の仕事であり、リンカーはお役御免、早々に解放された良咲は恐怖で疲れ切った精神を、放心状態でいることで癒す。
屋敷から帰る車に乗り込んだ二人は無言だった。そんな中ふと花道は良咲に問いかけた。
「どうだ、オカルトなんて大したことはないだろう」
「もう二度とゴメンだよ!」
そう、先ほどの子供たちを助けた時の勇ましい姿はどこへやら。もとに戻ってしまっていた。